(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材を、その一方の表面がダイヘッドに対向した状態で搬送し、前記基材の前記表面上に、前記ダイヘッドを用いて、少なくとも1種の溶媒を含む塗布液を塗布する塗布工程を含む、光学部材の製造方法であって、
前記塗布液は、その25℃における粘度が3mPa・s以下であり、
前記塗布工程は、前記ダイヘッドの吐出口から前記塗布液を押出して前記塗布液のビードを形成し、前記ビードを前記基材の前記表面上に展開することを含み、
前記塗布工程において、前記塗布液の溶存酸素量が7.0mg/L以下であり、
前記塗布工程は、前記吐出口の上流側圧力P0(Pa)と下流側圧力P1(Pa)とが、下記式(1):
|P0−P1|≦5 ・・・式(1)
を満たす条件で行なわれる、光学部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示物及び実施形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に挙げる例示物及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
本願において、部材における面又は線が平行とは、±5°の範囲内の誤差を有する場合をも包含する。
【0013】
〔1.製造方法:概要〕
本発明の製造方法では、基材を、その一方の表面がダイヘッドに対向した状態で搬送し、基材の前記表面上に、ダイヘッドを用いて、塗布液を塗布する塗布工程を含む。
【0014】
本発明の製造方法の一例を、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の製造方法に用いる製造装置及びそれを用いた本発明の製造方法の操作の一例を示す概略図である。
【0015】
図1に示す製造装置10は、基材121の一方の表面上に、ダイヘッド190を用いて、塗布液を塗布する工程を含む、光学部材の製造方法を行なう装置である。装置10は、製造方法を実施する製造ラインの上流から順に、繰り出し装置111、ラビングロール131、ダイヘッド190、ドライヤー141、選択紫外線照射装置151、加熱ゾーン161、硬化紫外線照射装置152、及び巻き取り装置113を備える。ダイヘッド190は、コーター室101内に設置されている。装置10は、通常、室内空気の圧力等の条件を適宜設定しうる、クリーンルーム等の室の内部に設置して使用しうる。
【0016】
装置10を用いた光学部材の製造方法の例においては、バックアップロール112により誘導されコーター室101内に搬送された長尺状の基材121に対して、ダイヘッド190を用いて塗布液を塗布し、塗布工程を行ない、基材及び塗布液の層からなる複層物122を形成する。
【0017】
図1に示す例においては、本発明の必須の工程である塗布工程に加えて、塗布工程に先立ち、ラビングロール131によるラビング工程を行いうる。また、塗布工程の後には、ドライヤー141による乾燥工程、選択紫外線照射装置151による選択紫外線照射工程、加熱ゾーン161による加熱工程、及び硬化紫外線照射装置152による硬化紫外線照射工程を行いうる。
これらの工程を行い、且つ、塗布液として、コレステリック液晶相などの液晶状態に配向しうる単量体を含む組成物(液晶組成物)を用いることにより、広い波長帯域において円偏光分離機能を発現しうる光学部材を製造することができる。
【0018】
より具体的には、ラビング工程を行なってから液晶組成物を塗布することにより、塗布液の層において液晶組成物を所望の方向に配向させることができる。さらに、塗布液の層を乾燥させた後に、選択紫外線照射工程において、微弱な紫外線を照射することにより、液晶組成物の層の厚み方向の深さに応じて重合度が変化する態様で、単量体を部分的に重合させることができる。その後、加熱工程を行うことにより、重合していない単量体の配向状態を変化させることができ、その結果、配向状態の要素、例えばコレステリック液晶相のらせんピッチ等において、厚み方向に勾配を設けることができる。その後、硬化紫外線照射工程を行うことにより、かかる勾配を有した状態で残った単量体を完全に重合させ、その結果、かかる勾配が固定された樹脂層を有する複層物126を形成することができる。例えば、コレステリック液晶相のらせんピッチについて、厚み方向に勾配が設けられている状態で単量体を重合してなる樹脂層を形成し、これにより、選択反射帯域の広い円偏光分離フィルム等の光学部材を製造することができる。
【0019】
〔2.塗布工程〕
図2は、
図1に示す製造装置の、塗布工程を行う部分を拡大して示す概略図である。
図2に示す通り、コーター室101の内部には、ダイヘッド190及びバックアップロール112が設けられる。コーター室101内にはさらに、ダイヘッド上流側の圧力測定装置107U、及びダイヘッド下流側の圧力測定装置107Dが設けられる。ダイヘッド190は、上流側バー190U及び下流側バー190Dを備え、その間にスリット190Sが形成される。ダイヘッド190は通常、架台(不図示)に固定されている。また架台は除振台等(不図示)に固定されていてもよい。ダイヘッド190には、導管104が接続され、導管104は、ダイヘッド190内のスリット190Sと流体流連通する。導管104には、塗布液124を貯留するストックタンク103が接続される。ストックタンク103内には、塗布液124を攪拌するスターラー102が設けられる。さらに、コーター室101内には、室外から空気を供給する給気装置、及び室外へ空気を排出する排気装置(不図示)が設けられる。
【0020】
基材121は、通常長尺状であり、バックアップロール112により誘導され、コーター室101の外部からコーター室101内に、矢印A3の方向に搬送される。この搬送は、基材121の一方の表面121Fが、ダイヘッド190に対向した状態で行なわれる。一方、ストックタンク103内の塗布液124は、導管104に導かれ、さらにダイヘッド190に導かれる。
【0021】
導管104内の塗布液124の流通量及び圧力は、ギヤポンプ105により制御しうる。また、導管104内の塗布液124の温度は、ジャケット106により加温又は保温の度合いを調節することにより制御しうる。加えて、本発明者らが見出したところによれば、ストックタンク103内における、スターラー102による塗布液124の攪拌の度合いを高めると、ストックタンク103内の塗布液124の温度が高まり、また、これにより塗布液124内の溶存酸素量を減少させることができる。したがって、これらの装置を適宜操作することにより、ダイヘッド190から塗布される塗布液の、吐出量、温度及び溶存酸素量を所望の値に制御することができる。
【0022】
溶存酸素量の低減は、上に述べた方法に加えて又は上に述べた方法に代えて、塗布液を超音波で脱気する方法等の任意の方法により行いうる。
【0023】
本発明の製造方法において、塗布工程は、ダイヘッドの吐出口から塗布液を押出して塗布液のビードを形成し、ビードを基材の表面上に展開することを含む。
図1及び
図2に示す例においては、ダイヘッド190の吐出口190Tから塗布液124を連続的に押し出して、塗布液のビード125を形成する。ビードは基材121の表面121Fに接して形成される。基材121が矢印方向に搬送されることにより、ビード125は基材121の表面121F上に展開され、これにより、基材121及び塗布液の層123とを有する複層物122が形成され、コーター室101から搬出される。
【0024】
本発明の製造方法において、塗布工程における塗布液の溶存酸素量は、7.0mg/L以下に制御される。本発明者らが見出したところによれば、溶存酸素量を、前記上限以下とすることにより、スジ状の不良の発生を低減しうる。溶存酸素量は、ビードにおける溶存酸素量を反映する値を採用しうる。例えば、
図2に示す例において、ストックタンク103から流出した塗布液124が、ダイヘッド190の吐出口190Tから吐出されるまで外気に接触しない条件で搬送される場合、ストックタンク103中で測定した溶存酸素量の値を、塗布液の溶存酸素量として採用しうる。塗布工程における塗布液の溶存酸素量は、好ましくは6.8mg/L以下、より好ましくは6.6mg/L以下としうる。溶存酸素量の下限は、理想的にはゼロmg/Lである。
【0025】
本発明の製造方法において、塗布工程は、ダイヘッドの吐出口の上流側圧力P0(Pa)と下流側圧力P1(Pa)とが、下記式(1)を満たす条件で行なわれる。以下においては、P0とP1との圧力差をΔP01=P0−P1で規定される値ΔP01で表すことがある。
|P0−P1|≦5 ・・・式(1)
【0026】
圧力差の絶対値|ΔP01|は、好ましくは3Pa以下、より好ましくは1Pa以下である。
【0027】
図2に示す例では、上流側圧力P0及び下流側圧力P1は、それぞれ、ダイヘッド上流側の圧力測定装置107U、及びダイヘッド下流側の圧力測定装置107Dにより行なわれる。
【0028】
上流側圧力P0及び下流側圧力P1の測定値としては、TD方向中央における値を採用しうる。TD方向とは、搬送される基材の幅方向であり、MD方向即ち基材の搬送方向に直交する方向である。TD方向の中央とは、TD方向における、搬送される基材の幅方向両端の中間点に対応する位置である。通常、光学部材の製造において、基材は一定の幅を持つ帯状の構造であり、ダイヘッドはその全幅若しくは中央の大部分に対して塗布を行う。TD方向中央において圧力を測定することにより、工程を実施する環境の圧力を反映した値を得ることができる。
より具体的には、上流側圧力P0及び下流側圧力P1の測定値としては、TD方向中央の位置であって、且つダイヘッドの吐出口のTD方向中央の位置から、好ましくは50cm以内、より好ましくは30cm以内の位置における値を採用しうる。このような、ダイヘッドの吐出口から近い値を採用することにより工程を実施する環境の圧力をさらに良好に反映した値を得ることができる。
【0029】
上流側圧力P0と下流側圧力P1とを所望の値に調整する具体的手段は特に限定されないが、例えば、コーター室101の室外から室内へ空気を強制的に供給する給気装置、及び室内から室外へ強制的に空気を排出する排気装置を設け、これらの給気口及び排気口の位置及び数、並びに給気量及び排気量を適宜調節することにより、圧力の調整を行いうる。給気装置による空気の供給に際しては、塗布液の層への異物の混入を防ぐ観点から、フィルターを通して異物の含有割合を低減した空気を供給することが好ましい。
【0030】
従来技術においては、ビードが十分に広い面積において基材の表面に接することを意図して、ダイヘッドの上流側の圧力を、下流側の圧力に比べて相対的に低く保ち、それによりダイヘッドの上流側にビードを拡張させることが行なわれていた。しかしながら、本発明者らが見出したところによれば、塗布液を、溶存酸素量が低く、且つ粘度が所定以下となるよう調製した場合において、ΔP01の絶対値を所定の小さい値の範囲内とすることにより、意外にも、塗布厚みの均一性を保ちながら、スジ状の不良の発生をも抑制しうる。
【0031】
また、コーター室内で塗布工程を行う場合、塗布液の層への異物の混入を防ぐ観点からコーター室内に異物の含有割合を低減した空気を供給し、コーター室内を室外に対して陽圧にすることが行なわれうる。本発明者らが見出したところによれば、このような空気の供給を行なった場合、空気の供給位置によって、ダイヘッドの周辺に圧力差が生じ、これがスジ状の不良の発生につながりうる。本発明の製造方法では、上流側圧力P0と下流側圧力P1との差を所定の小さい値にすることにより、このようなスジ状の不良の発生が低減される。
【0032】
塗布工程における、塗布液の温度は、好ましくは23.0℃以上、より好ましくは25℃以上であり、一方好ましくは30℃以下であり、より好ましくは28℃以下である。塗布液の温度は、ビードにおける温度の値を採用しうるが、通常はジャケットにおける塗布液の温度はほぼそのまま維持されたまま速やかに吐出口まで搬送されるので、ジャケットにおいて測定された温度の値を、塗布液の温度の値として採用しうる。かかる温度範囲において塗布工程を行うことにより、スジ状の不良の発生をさらに有効に抑制しうる。
【0033】
塗布工程における、基材の搬送速度は、好ましくは5m/分以上、より好ましくは10m/分以上であり、一方好ましくは40m/分以下、より好ましくは35m/分以下である。また、塗布工程における、形成される塗布液の層の厚さは好ましくは10μm以下、より好ましくは8.0μm以下であり、一方好ましくは2μm以上である。特に、基材の搬送速度が5m/分〜40m/分であり、且つ塗布液の塗布厚さが10μm以下である場合において、塗布厚みの均一性の高さと、スジ状の不良の発生の低減とを、さらに良好に達成しうる。
【0034】
塗布工程においては、ダイヘッドの上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面とが面一であることが好ましい。面一とは、上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面とのずれが3μm以内であることをいう。上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面とのずれ(前記表面に垂直な方向の位置ずれ(段差))は、好ましくは2μm以内であり、より好ましくは1μm以内である。これらのリップ表面が面一であることにより、塗布厚みの均一性の高さと、スジ状の不良の発生の低減とを、さらに良好に達成しうる。
【0035】
ダイヘッドの上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面との関係を、
図3を参照して説明する。
図3は、
図2に示す製造装置の、ダイヘッドの吐出口付近を拡大して示す概略図である。
図3に示す例において、ダイヘッドの上流側バー190Uのリップ表面191Uと、ダイヘッドの下流側バー190Dのリップ表面191Dは、いずれも、基材121の表面121Fと平行である。このような場合においては、ダイヘッドの上流側バー190Uのリップ表面191Uから基材121の表面121Fまでの距離(矢印A19Uで示される距離)と、ダイヘッドの下流側バー190Dのリップ表面191Dから基材121の表面121Fまでの距離(矢印A19Dで示される距離)との差の絶対値が、3μm以内である場合、ダイヘッドの上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面とは面一である。
【0036】
塗布工程においては、ダイヘッドのリップ表面と基材の表面とのギャップは、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上であり、一方好ましくは150μm以下、より好ましくは130μm以下である。ダイヘッドのリップ表面と基材の表面との間隔が不均一である場合、上流側若しくは下流側のリップ表面の吐出口に最も近い位置であって基材の表面に近い方におけるギャップの値を上記値として採用しうる。また、ダイヘッドの上流側バーと下流側バーとの間のスリットの幅は、好ましくは100μm以上、より好ましくは130μm以上であり、一方好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下である。
図3に示す例においては、矢印A19Uで示される距離及び矢印A19Dで示される距離のうち短いほうをギャップの値としうる。また、スリットの幅は、矢印Sで示される距離である。
ダイヘッドの上流側バーのリップ表面と下流側バーのリップ表面とが面一であり、且つギャップ及びスリットの幅が上記範囲内であることにより、塗布厚みの均一性の高さと、スジ状の不良の発生の低減とを、さらに良好に達成しうる。
【0037】
塗布工程は、
図1及び
図2に示すように、ダイヘッドを囲繞するコーター室内で行うことが、塗布液の層への異物の混入を防ぐ観点から好ましい。さらに、塗布工程は、コーター室内の圧力P2(Pa)と、コーター室外圧力P3(Pa)とが、下記式(2)を満たす条件で行なわれることが、コーター室への異物の侵入を防ぐ観点から、より好ましい。以下においては、P2とP3との圧力差をΔP23=P2−P3で規定される値ΔP23で表すことがある。
P2>P3 ・・・式(2)
【0038】
圧力差ΔP23は、好ましくは10Pa以上、より好ましくは20Pa以上であり、一方好ましくは50Pa以下、より好ましくは40Pa以下である。
【0039】
コーター室内の圧力P2は、コーター室内における、コーター室の複数の開口のそれぞれから5cmの位置における圧力を測定し、それらの測定点のうちの最も低い値を採用しうる。例えば、
図2に示す例のように、開口として基材の搬入口及び搬出口を有するコーター室101においては、コーター室101内における、これらの開口のそれぞれから5cmの位置における圧力を測定し、それらの測定点のうちの最も低い値を、圧力P2として採用しうる。
【0040】
圧力P2及びP3の関係を所望の範囲とする手段は、特に限定されないが、例えば、上に述べた給気装置及び排気装置の給気口及び排気口の位置及び数、並びに給気量及び排気量を適宜調節することにより調整を行いうる。また、コーター室外の、製造装置の全体又は一部を収納するクリーンルーム等の室の内部の圧力を適宜調節することを併せて行なうこともできる。
【0041】
〔3.その他の工程〕
本発明の製造方法は、上で説明した特定の塗布工程を含むが、その前又はその後に、任意の工程を追加的に行いうる。具体的には例えば、
図1に示す例におけるラビング工程のように、塗布工程に先立ち基材の表面に任意の前処理を施しうる。また例えば、
図1に示す例における乾燥工程、選択紫外線照射工程、熱工程、及び硬化紫外線照射工程のように、塗布液の層に対してさらに処理を行う1以上の工程を行ないうる。
【0042】
〔4.基材〕
本発明において用いる基材は、長尺の基材としうる。本願において「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムの形状をいう。
基材は、可撓性を有しない剛直なものであってもよいが、通常は、可撓性を要するフィルム状のものである。基材は、延伸されていない等方性の基材であってもよく、延伸されており異方性を有する基材であってもよい。例えば、延伸された脂環式構造含有重合体の樹脂からなるフィルムに、本発明の製造方法により溶媒を塗布し、溶媒を乾燥させることにより、表面が改質された延伸樹脂フィルムを得ることができる。通常、脂環式構造含有重合体の樹脂からなるフィルムを延伸すると、良好に位相差を発現できる一方他の材料との親和性が乏しいものとなるが、このような表面改質を行なうことにより、良好な位相差発現などの性質と、他の材料との親和性とを兼ね備えた延伸樹脂フィルムとしうる。
【0043】
基材は、高い透明性を有するものに必ずしも限られないが、本発明の製造方法により得られる光学部材を表示装置や光源装置において光を透過することが求められる部分に用いる場合は、高い透明性を有するものが好ましい。例えば、基材の材料を厚み1mmの試験片として測定した全光線透過率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である透明性を有するものが好ましい。
【0044】
基材の材質は、特に限定されず、種々の樹脂を用いうる。樹脂の例としては、各種の重合体を含む樹脂が挙げられる。当該重合体としては、脂環式構造含有重合体、セルロースエステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、UV透過アクリル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ重合体、ポリスチレン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性等の観点から、脂環式構造含有重合体及びセルロースエステルが好ましく、脂環式構造含有重合体がより好ましい。
【0045】
脂環式構造含有重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造を有する非晶性の重合体であり、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体及び側鎖に脂環式構造を含有する重合体のいずれも用いることができる。
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
1つの脂環式構造の繰り返し単位を構成する炭素数に特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは6〜15個である。
【0046】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は使用目的に応じて適宜選択されるが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
脂環式構造を有する繰り返し単位が過度に少ないと、フィルムの耐熱性が低下するおそれがある。
【0047】
脂環式構造含有重合体は、具体的には、(1)ノルボルネン重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。
これらの中でも、透明性や成形性の観点から、ノルボルネン重合体及びこれらの水素添加物がより好ましい。
【0048】
ノルボルネン重合体としては、例えば、ノルボルネンモノマーの開環重合体、ノルボルネンモノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物;ノルボルネンモノマーの付加重合体、ノルボルネンモノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。
これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネンモノマーの開環重合体水素添加物が最も好ましい。
上記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002−321302号公報等に開示されている公知の重合体から選ばれる。
【0049】
脂環式構造含有重合体は、そのガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。
ガラス転移温度がこのような範囲にある脂環式構造含有重合体は、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0050】
脂環式構造含有重合体の分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合にはトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)で測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは25,000〜80,000、より好ましくは25,000〜50,000である。
重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされ好適である。
【0051】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1〜10、好ましくは1〜4、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0052】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、その分子量2,000以下の樹脂成分(すなわち、オリゴマー成分)の含有量が、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下である。
オリゴマ一成分の量が前記範囲内にあると、表面における微細な凸部の発生が減少し、厚みむらが小さくなり面精度が向上する。
オリゴマー成分の量を低減するためには、重合触媒や水素化触媒の選択、重合、水素化等の反応条件、樹脂を成形用材料としてペレット化する工程における温度条件、等を最適化すればよい。
オリゴマーの成分量は、前述のGPCによって測定することができる。
【0053】
基材の材質として脂環式構造含有重合体を含む樹脂を用いた場合の、基材の厚みは特に制限されないが、生産性の向上、薄型化及び軽量化を容易にする観点から、その厚みは、通常1〜1000μm、好ましくは5〜300μm、より好ましくは30〜100μmである。
【0054】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、脂環式構造含有重合体のみからなってもよいが、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含んでもよい。脂環式構造含有重合体を含む樹脂中の、脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
脂環式構造含有重合体を含む樹脂の好適な具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げうる。
【0055】
セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステル(例:セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネート)が代表的である。低級脂肪酸は、1分子あたりの炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。セルロースアセテートには、トリアセチルセルロース(TAC)やセルロースジアセテート(DAC)が含まれる。
【0056】
セルロースアセテートの酢化度は、50〜70%が好ましく、特に55〜65%が好ましい。重量平均分子量70000〜120000が好ましく、特に80000〜100000が好ましい。また、上記セルロースアセテートは、酢酸だけでなく上記酢化度を満足する限り、一部プロピオン酸、酪酸等の脂肪酸でエステル化されていても良い。また、基材を構成する樹脂は、セルロースアセテートと、セルロースアセテート以外のセルロースエステル(セルロースプロピオネート及びセルロースブチレート等)とを組み合わせて含んでも良い。その場合、これらのセルロースエステルの全体が、上記酢化度を満足することが好ましい。
【0057】
基材として、トリアセチルセルロースのフィルムを用いる場合、かかるフィルムとしては、トリアセチルセルロースを低温溶解法あるいは高温溶解法によってジクロロメタンを実質的に含まない溶媒に溶解することで調製されたトリアセチルセルロースドープを用いて作成されたトリアセチルセルロースフィルムが、環境保全の観点から特に好ましい。トリアセチルセルロースのフィルムは、共流延法により作製しうる。共流延法は、トリアセチルセルロースの原料フレークを溶媒に溶解し、これに必要に応じて任意の添加剤を添加し溶液(ドープ)を調製し、当該ドープをドープ供給手段(ダイ)から支持体の上に流延し、流延物をある程度乾燥して剛性が付与された時点でフィルムとして支持体から剥離し、当該フィルムをさらに乾燥して溶媒を除去することにより行いうる。原料フレークを溶解する溶媒の例としては、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、エステル類(蟻酸メチル、酢酸メチル等)、エーテル類(ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル等)等が挙げられる。ドープに添加する添加剤の例としては、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等が挙げられる。ドープを流延する支持体の例としては、水平式のエンドレスの金属ベルト、及び回転するドラムが挙げられる。流延に際しては、単一のドープを単層流延することもできるが、複数の層を共流延することもできる。複数の層を共流延する場合、例えば、低濃度のセルロースエステルドープの層と、そのおもて面及び裏面に接して設けられた高濃度のセルロースエステルドープの層が形成されるよう、複数のドープを順次流延しうる。フィルムを乾燥して溶媒を除去する手段の例としては、フィルムを搬送して、内部を乾燥に適した条件に設定した乾燥部を通過させる手段が挙げられる。
【0058】
トリアセチルセルロースのフィルムの好ましい例としては、TAC−TD80U(富士写真フィルム(株)製)等の公知のもの、及び発明協会公開技報公技番号2001−1745号にて公開されたものが挙げられる。トリアセチルセルロースのフィルムの厚みは特に限定されないが、30〜150μmが好ましく、40〜130μmがより好ましく、70〜120μmが更に好ましい。
【0059】
〔5.塗布液〕
本発明に用いる塗布液は、少なくとも1種の溶媒を含む。塗布液は、溶媒に加えて、塗布液の層を乾燥した後に残留する固形分を含みうる。具体的には例えば、
図1において示す例において述べた通り、塗布液は、重合性液晶化合物を含有する液晶組成物としうる。
【0060】
本発明に用いる塗布液は、その25℃における粘度が3mPa・s以下である。25℃における粘度は、好ましくは2.5mPa・s以下、より好ましくは2.0mPa・s以下であり、一方好ましくは0.5mPa・s以上である。このような範囲内の粘度を有する塗布液を用い、上で説明した条件で塗布工程を行うことにより、塗布厚みの均一性の高さと、スジ状の不良の発生の低減とを達成しうる。
【0061】
塗布液が含む溶媒としては、各種の有機溶媒を用いうる。かかる有機溶媒の例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系の溶媒;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル系の溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系の溶媒;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系の溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系の溶媒;並びにこれらの混合物が挙げられる。特に、基材として脂環式構造含有重合体樹脂のフィルムを用い、溶媒としてケトン系の溶媒、エーテル系の溶媒、又はこれらの混合物を用いることにより、脂環式構造含有重合体樹脂の改質などの処理を容易に行うことができる等の観点から好ましい。溶媒の沸点は、取り扱い性に優れる観点から、60〜250℃であることが好ましく、60〜150℃であることがより好ましい。
【0062】
〔5.1.液晶組成物〕
本発明において塗布液として用いうる、重合性液晶化合物を含有する液晶組成物(以下において、当該組成物を、「組成物(A)」と略称する場合がある。)について説明する。
【0063】
本願において、組成物(A)の成分としての液晶化合物とは、組成物(A)に配合し配向させた際に、液晶相を呈しうる化合物である。重合性液晶化合物とは、かかる液晶相を呈した状態で組成物(A)中で重合し、液晶相における分子の配向を維持したまま重合体となりうる液晶化合物である。
また、本願において、組成物(A)の成分であって、重合性を有する化合物(重合性液晶化合物及びその他の重合性を有する化合物等)を総称して単に「重合性化合物」ということがある。
【0064】
〔5.1.1.重合性液晶化合物〕
重合性液晶化合物としては、重合性基を有する液晶化合物、側鎖型液晶ポリマーを形成しうる化合物などが挙げられる。重合性基を有する液晶化合物としては、例えば、特開平11−513360号公報、特開2002−030042号公報、特開2004−204190号公報、特開2005−263789号公報、特開2007−119415号公報、特開2007−186430号公報などに記載された重合性基を有する棒状液晶化合物などが挙げられる。また、側鎖型液晶ポリマー化合物としては、例えば、特開2003−177242号公報などに記載の側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。また、好ましい液晶化合物の例を製品名で挙げると、BASF社製「LC242」等が挙げられる。これらの液晶化合物及び以下に説明する逆波長分散重合性液晶化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
〔5.1.2.逆波長分散重合性液晶化合物〕
重合性液晶化合物の一部又は全部として、逆波長分散重合性液晶化合物を用いうる。逆波長分散重合性液晶化合物とは、組成物(A)に配合し配向させて重合体とした場合、得られた重合体が逆波長分散を示す重合性液晶化合物である。逆波長分散重合性液晶化合物を用いることにより、逆波長分散性を有する液晶樹脂フィルムを容易に得ることができる。
【0066】
逆波長分散重合性液晶化合物の例としては、その分子中に主鎖メソゲンと、主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを有する化合物が挙げられる。このような逆波長分散重合性液晶化合物が配向した状態において、側鎖メソゲンは、主鎖メソゲンと異なる方向に配向しうる。したがって、液晶樹脂フィルムにおいて、主鎖メソゲン及び側鎖メソゲンは異なる方向に配向しうる。そのような配向により、液晶樹脂フィルムが逆波長分散特性を呈しうる。
【0067】
〔5.1.2.1.化合物(I)〕
逆波長分散重合性液晶化合物の例としては、下記式(I)で示される化合物(以下において「化合物(I)」という場合がある。)を挙げることができる。
【0069】
逆波長分散重合性液晶化合物が化合物(I)である場合、基−Y
3−A
2−Y
1−A
1−Y
2−A
3−Y
4−が主鎖メソゲンとなり、一方基>A
1−C(Q
1)=N−N(A
x)A
yが側鎖メソゲンとなり、基A
1は、主鎖メソゲン及び側鎖メソゲンの両方の性質に影響する。
【0070】
式中、Y
1〜Y
6はそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR
1−C(=O)−、−C(=O)−NR
1−、−O−C(=O)−NR
1−、−NR
1−C(=O)−O−、−NR
1−C(=O)−NR
1−、−O−NR
1−、又は、−NR
1−O−を表す。
【0071】
ここで、R
1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
R
1の炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。
R
1としては、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0072】
これらの中でも、Y
1〜Y
6は、それぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、又は、−O−C(=O)−O−であるのが好ましい。
【0073】
G
1、G
2はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基を表す。
炭素数1〜20の2価の脂肪族基としては、鎖状構造を有する脂肪族基;飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造等の脂環式構造を有する脂肪族基;等が挙げられる。
【0074】
その置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられ、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0075】
また、該脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR
2−C(=O)−、−C(=O)−NR
2−、−NR
2−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−又は−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。
これらの中でも、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、又は、−C(=O)−が好ましい。
【0076】
ここで、R
2は、前記R
1と同様の、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0077】
これらの基が介在する脂肪族基の具体例としては、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−S−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−C(=O)−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−O−CH
2−、−CH
2−O−C(=O)−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−NR
2−C(=O)−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−NR
2−CH
2−、−CH
2−NR
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−C(=O)−CH
2−等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、G
1、G
2は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基等の鎖状構造を有する脂肪族基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の、炭素数1〜12のアルキレン基がより好ましく、テトラメチレン基〔−(CH
2)
4−〕、及び、ヘキサメチレン基〔−(CH
2)
6−〕が特に好ましい。
【0079】
Z
1、Z
2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
該アルケニル基の炭素数としては、2〜6が好ましい。Z
1及びZ
2のアルケニル基の置換基であるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0080】
Z
1及びZ
2の炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、CH
2=CH−、CH
2=C(CH
3)−、CH
2=CH−CH
2−、CH
3−CH=CH−、CH
2=CH−CH
2−CH
2−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−CH
2−、(CH
3)
2C=CH−CH
2−、(CH
3)
2C=CH−CH
2−CH
2−、CH
2=C(Cl)−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−、CH
3−CH=CH−CH
2−等が挙げられる。
【0081】
なかでも、Z
1及びZ
2としては、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、それぞれ独立して、CH
2=CH
2−、CH
2=C(CH
3)−、CH
2=C(Cl)−、CH
2=CH−CH
2−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−、又は、CH
2=C(CH
3)−CH
2−CH
2−であるのが好ましく、CH
2=CH
2−、CH
2=C(CH
3)−、又は、CH
2=C(Cl)−であるのがより好ましく、CH
2=CH
2−であるのが更に好ましい。
【0082】
A
xは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。
本発明において、「芳香環」は、Huckel則に従う広義の芳香族性を有する環状構造、すなわち、π電子を(4n+2)個有する環状共役構造(nは0又は正の整数)及びチオフェン、フラン、ベンゾチアゾール等に代表される、硫黄、酸素、窒素等のヘテロ原子の孤立電子対がπ電子系に関与して芳香族性を示すものを意味する。
【0083】
A
xの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基は、芳香環を複数個有するものであってもよく、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を有するものであってもよい。
【0084】
前記芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。前記芳香族複素環としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環等の単環の芳香族複素環;ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、フタラジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾピラゾール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環等の縮合環の芳香族複素環;等が挙げられる。
【0085】
A
xが有する芳香環は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;−C(=O)−R
4;−C(=O)−OR
4;−SO
2R
4;等が挙げられる。ここでR
4は、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基を表す。
【0086】
また、A
xが有する芳香環は、同一又は相異なる置換基を複数有していてもよく、隣り合った二つの置換基が一緒になって結合して環を形成していてもよい。形成される環は単環であっても、縮合多環であってもよい。
なお、A
xの炭素数2〜30の有機基の「炭素数」は、置換基の炭素原子を含まない有機基全体の総炭素数を意味する(後述するA
yにて同じである。)。
【0087】
A
xの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、芳香族炭化水素環基;芳香族複素環基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数3〜30のアルキル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルケニル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルキニル基;等が挙げられる。
【0088】
A
yは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、−C(=O)−R
3、−SO
2−R
6、又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。
【0089】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基の炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0090】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;−C(=O)−R
4;−C(=O)−OR
4;−SO
2R
4;等が挙げられる。ここでR
4は前記と同じ意味を表す。
【0091】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基の炭素数2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。
【0092】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0093】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、及び置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;−C(=O)−R
4;−C(=O)−OR
4;−SO
2R
4;等が挙げられる。ここでR
4は前記と同じ意味を表す。
【0094】
A
yの、−C(=O)−R
3で表される基において、R
3は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表す。これらの具体例は、前記A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0095】
A
yの、−SO
2−R
6で表される基において、R
6は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、フェニル基、又は、4メチルフェニル基を表す。
R
6の、炭素数1〜12のアルキル基、及び炭素数2〜12のアルケニル基の具体例は、前記A
yの、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基の例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0096】
前記A
x及びA
yが有する芳香環は置換基を有していてもよい。また、前記A
xとA
yは一緒になって、環を形成していてもよい。
【0097】
A
yの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、前記A
xで例示したのと同様のものが挙げられる。
また、A
yが有する芳香環は、任意の位置に置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、前記A
xが有する芳香環の置換基として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0098】
また、A
xとA
yは一緒になって、環を形成していてもよい。その中でも、置換基を有していてもよい炭素数4〜30の不飽和複素環、又は、炭素数6〜30の不飽和炭素環を形成していることが好ましい。
炭素数4〜30の不飽和複素環、炭素数6〜30の不飽和炭素環としては、特に制約はなく、芳香族性を有していても有していなくてもよい。また、これらの環は置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、−C(=O)−R
4、−C(=O)−OR
4、−SO
2R
4等が挙げられる。ここで、R
4は前記と同じ意味を表す。
【0099】
A
xとA
yに含まれるπ電子の総数は、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、4以上24以下であるのが好ましく、6以上18以下であるのがより好ましい。
【0100】
A
x、A
yの好ましい組合わせとしては、A
xが炭素数4〜30の芳香族基で、A
yが水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基である組合わせ、及び、A
xとA
yが一緒になって不飽和複素環又は不飽和炭素環を形成しているものが挙げられる。置換基を有していてもよいアルキル基の置換基として好ましいものは、シクロアルキル基、シアノ基、フッ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。
【0101】
A
1は置換基を有していてもよい三価の芳香族基を表す。三価の芳香族基としては、三価の炭素環式芳香族基であっても、三価の複素環式芳香族基であってもよい。本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、三価の炭素環式芳香族基が好ましく、三価のベンゼン環基又は三価のナフタレン環基がより好ましい。
【0102】
A
2、A
3はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数6〜30の二価の芳香族基を表す。A
2、A
3の芳香族基は単環のものであっても、多環のものであってもよい。A
2、A
3は、任意の位置に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、−C(=O)−OR基;等が挙げられる。ここでRは、炭素数1〜6のアルキル基である。これらの中でも、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基が好ましく、ハロゲン原子としてはフッ素原子が、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0103】
Q
1は、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、前記A
Xで例示したのと同様のものが挙げられる。これらの中でも、Q
1は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子及びメチル基がより好ましい。
【0104】
化合物(I)のより具体的な例としては、下記式(I)−1〜(I)−3で表される化合物を挙げることができる。
【0106】
式(I)で示される化合物は、その全てが液晶相を呈しうる化合物であるとは限らない。しかしながら、例えば組成物(A)を調製して実際に配向させてみることにより、液晶相を呈しうるか否かを容易に識別することができる。
【0107】
〔5.1.3.重合性モノマー〕
組成物(A)は、任意の成分として、重合性モノマーを含有しうる。本願において、「重合性モノマー」とは、重合能を有しモノマーとして働きうる化合物のうち、特に、逆波長分散重合性液晶化合物以外の化合物をいう。
重合性モノマーとしては、例えば、1分子当たり1以上の重合性基を有するものを用いうる。そのような重合性基を有することにより、液晶樹脂フィルムの形成に際し重合を達成することができる。重合性モノマーが1分子当たり2以上の重合性基を有する架橋性モノマーである場合、架橋的な重合を達成することができる。かかる重合性基の例としては、化合物(I)中の基Z
1−Y
5−及びZ
2−Y
6−と同様の基を挙げることができ、より具体的には例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びエポキシ基を挙げることができる。
【0108】
重合性モノマーは、それ自体が液晶性のものであってもよく、非液晶性のものであってもよい。ここで、それ自体が「非液晶性」であるとは、当該重合性モノマーそのものを、室温から200℃のいずれの温度に置いた場合にも、配向処理をした基材上で配向を示さないものをいう。配向を示すかどうかは、偏光顕微鏡のクロスニコル透過観察にてラビング方向を面相で回転させた場合に、明暗のコントラストがあるかどうかで判断する。
【0109】
組成物(A)において、重合性モノマーの配合割合は、重合性液晶化合物100重量部、もしくは逆波長分散重合性液晶化合物100重量部に対し、通常、1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部である。組成物(A)が逆波長分散液晶化合物を含む場合、当該範囲内で、重合性モノマーの配合割合を、所望の逆波長分散特性を示すように適宜調整することにより、逆波長分散特性の精密な制御が容易となる。
【0110】
〔5.1.4.組成物(A)のその他の成分〕
組成物(A)は、重合性液晶化合物、もしくは逆波長分散重合性液晶化合物及び重合性モノマーに加えて、必要に応じて、以下に例示するもの等の任意の成分を含みうる。
【0111】
組成物(A)は、重合開始剤を含みうる。重合開始剤としては、組成物(A)中の、重合性液晶化合物、重合性モノマー及びその他の重合性化合物が有する重合性基の種類に応じて適宜選択しうる。例えば、重合性基がラジカル重合性であればラジカル重合開始剤を、アニオン重合性の基であればアニオン重合開始剤を、カチオン重合性の基であればカチオン重合開始剤を、それぞれ使用しうる。
【0112】
ラジカル重合開始剤としては、加熱することにより、重合性化合物の重合を開始しえる活性種が発生する化合物である熱ラジカル発生剤;及び可視光線、紫外線(i線など)、遠紫外線、電子線、X線等の露光光の露光により、重合性化合物の重合を開始しえる活性種が発生する化合物である光ラジカル発生剤;のいずれも使用可能であるが、光ラジカル発生剤を使用するのが好適である。
【0113】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、O−アシルオキシム系化合物、オニウム塩系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α−ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、キサントン系化合物、ジアゾ系化合物、イミドスルホナート系化合物等を挙げることができる。これらの化合物は、露光によって活性ラジカルまたは活性酸、あるいは活性ラジカルと活性酸の両方を発生する成分である。光ラジカル発生剤は、一種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
アセトフェノン系化合物の具体例としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル・フェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1,2−オクタンジオン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−4’−モルフォリノブチロフェノン等を挙げることができる。
【0115】
ビイミダゾール系化合物の具体例としては、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0116】
光重合開始剤としてビイミダゾール系化合物を用いる場合、水素供与体を併用することが、感度をさらに改良することができる点で好ましい。
「水素供与体」とは、露光によりビイミダゾール系化合物から発生したラジカルに対して、水素原子を供与することができる化合物を意味する。水素供与体としては、下記で定義するメルカプタン系化合物、アミン系化合物等が好ましい。
【0117】
メルカプタン系化合物としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−2,5−ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。アミン系化合物としては、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ジエチルアミノアセトフェノン、4−ジメチルアミノプロピオフェノン、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノベンゾニトリル等を挙げることができる。
【0118】
トリアジン系化合物としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(5−メチルフラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(フラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−n−ブトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基を有するトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0119】
O−アシルオキシム系化合物の具体例としては、1−〔4−(フェニルチオ)フェニル〕−ヘプタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−〔4−(フェニルチオ)フェニル〕−オクタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−〔4−(ベンゾイル)フェニル〕−オクタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、1−[9−エチル−6−(3−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、1−(9−エチル−6−ベンゾイル−9H−カルバゾール−3−イル)−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロピラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)ベンゾイル}−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)等を挙げることができる。
【0120】
光ラジカル発生剤としては、市販品をそのまま用いることもできる。具体例としては、BASF社製の、商品名:Irgacure907、商品名:Irgacure184、商品名:Irgacure369、商品名:Irgacure379、品名:Irgacure651、品名:Irgacure819、品名:Irgacure907、及び商品名:Irgacure OXE02、ADEKA社製の、商品名:アデカオプトマーN1919等が挙げられる。
【0121】
前記アニオン重合開始剤としては、例えば、アルキルリチウム化合物;ビフェニル、ナフタレン、ピレン等の、モノリチウム塩又はモノナトリウム塩;ジリチウム塩やトリリチウム塩等の多官能性開始剤;等が挙げられる。
【0122】
また、前記カチオン重合開始剤としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸;三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズのようなルイス酸;芳香族オニウム塩又は芳香族オニウム塩と、還元剤との併用系;が挙げられる。
これらの重合開始剤は一種単独で、又は二種以上を組合わせて用いることができる。
組成物(A)において、重合開始剤の配合割合は、重合性化合物100重量部に対し、通常、0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜10重量部である。
【0123】
組成物(A)は、表面張力を調整するための、界面活性剤を含みうる。当該界面活性剤としては、特に限定はないが、通常、ノニオン系界面活性剤が好ましい。当該ノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いうる。例えば、分子量が数千程度のオリゴマーであるノニオン系界面活性剤、例えば、セイミケミカル(株)製KH−40等が挙げられる。組成物(A)において、界面活性剤の配合割合は、重合性化合物100重量部に対し、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0124】
組成物(A)における溶媒の使用量は、重合性化合物100重量部に対し、通常、100〜1000重量部である。
【0125】
組成物(A)は、さらに、金属、金属錯体、染料、顔料、蛍光材料、燐光材料、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖類、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物、架橋剤等の任意の添加剤を含みうる。本発明の重合性組成物において、かかる任意の添加剤の配合割合は、重合性化合物100重量部に対し、通常、各々0.1〜20重量部である。
【0126】
組成物(A)は、通常、上に述べた成分を混合することにより、調製することができる。
【0127】
〔6.光学部材〕
本発明の製造方法を実施することにより、光学部材を得ることができる。
本発明の製造方法により得られる光学部材は、通常、基材と、塗布液の固形分の層とを含む。ただし本発明の製造方法により得られる光学部材はこれに限られず、例えば、表面が改質された基材のみからなってもよい。塗布液の固形分の層は、塗布液中に存在していた固形分からなる層であってもよく、それが変性(単量体の重合等)して得られた層であってもよい。
【0128】
本発明の製造方法により得られる光学部材の例としては、λ/4板、λ/2板等の波長板として用いうる位相差板、及び円偏光分離素子が挙げられる。
【実施例】
【0129】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0130】
<測定方法>
<塗布液の粘度>
粘度計(東機産業社製:商品名「VISCOMETER RE‐85L」)にて測定した。
【0131】
<塗布液の温度・溶存酸素>
温度測定機能付き溶存酸素計(ハックウルトラ社製:本体510、センサー31130)にて測定した。
【0132】
〔製造例1〜5〕
表1に示す配合割合で各成分を混合し、塗布液(1)〜(5)を調製した。塗布液(1)〜(5)の、25℃における粘度は、表2に示す通りであった。
【0133】
【表1】
【0134】
表1において、各成分の量比を表す数値は全て重量部である。表1における略語の意味は、下記の通りである。
化合物1:重合性液晶化合物(商品名「LC242」BASF社製、下記式(E1)で示される化合物)
化合物2:重合性モノマー、下記式(E2)で示される化合物
化合物3:下記式(E3)で示される化合物
【0135】
【化3】
【0136】
【化4】
【0137】
【化5】
【0138】
ウレタンオリゴマー:商品名「UV−1700B」、日本合成化学工業社製
シリカ粒子:数平均粒径30nmのシリカ粒子(アルコールゾル、CIKナノテック日揮触媒化成工業社製)
レベリング剤:商品名「GRANDIC PC11−6204L」、DIC社製
架橋剤:商品名「ATMPT」、新中村化学工業社製
界面活性剤:商品名「フタージェント209F」0.1%溶液、ネオス社製
重合開始剤:商品名「イルガキュア379」、チバ・ジャパン社製
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0139】
〔実施例1〕
透明な、脂環式構造含有重合体樹脂のフィルム(株式会社オプテス製、商品名「ゼオノアフィルムZF14−100」)のロールを、基材として用意した。以下において、この基材を「基材(1)」という。
【0140】
クリーンルーム内において、塗布液(1)、基材(1)、並びに
図1〜
図3に概略的に示す装置を用いて、光学部材の製造を行なった。
即ち、
図1に示す装置において、繰り出し装置111において基材1のロールから基材121を矢印A1方向に繰り出し、ラビングロール131でラビング処理を行ない、コーター室101内で塗布液1を塗布する塗布工程を行い、基材(1)と塗布液(1)の層123とを有する複層物122を得た。複層物122をさらに搬送し、ドライヤー141で乾燥処理を行い、選択紫外線照射装置151による紫外線照射(積算光量10mW/cm
2)を行い、加熱ゾーン161で加熱を行い、硬化紫外線照射装置152においてさらに紫外線照射(積算光量600mW/cm
2)を行い、これにより基材(1)と、塗布液(1)が硬化してなる硬化層とを有する複層物126を得て、巻き取り装置113にて巻き取った。
【0141】
図2及び
図3に示す通り、塗布工程においては、ストックタンク103内の塗布液(1)124を、導管104を通して、ギヤポンプ105を用いて圧送した。塗布液(1)を、ジャケット106で温度調整し、コーター室101内のダイヘッド190に導いた。一方基材(1)を、矢印A3方向に、コーター室101内に導き、バックアップロール112に沿って搬送した。基材(1)121の一方の表面121Fに向けて、ダイヘッド190の吐出口190Tから、塗布液(1)を吐出し、塗布液(1)のビード125を形成した。ビード125は、基材(1)121が搬送されることにより連続的に表面121F上に展開され、これにより塗布液(1)の層123を形成した。ダイヘッド190の上流側バー190Uのリップ表面191U、及びダイヘッド190の下流側バー190Dのリップ表面191Dは、いずれも、搬送される基材の121の表面121Fと平行とした。ダイヘッド190の上流側バー190Uのリップ表面191Uから基材121の表面121Fまでの距離(矢印A19Uで示される距離)、及びダイヘッド190の下流側バー190Dのリップ表面191Dから基材121の表面121Fまでの距離(矢印A19Dで示される距離)は、いずれも80μmであり、したがって、これらのリップ表面は面一で、ギャップは80μmであった。また、上流側バー180Uと下流側バー180Dとの間のスリット190Sの幅Sは、150μmであった。
【0142】
塗布工程において、ストックタンク103内での塗布液(1)の攪拌の状態、及びジャケット106における温度調整の状態を適宜調整することにより、塗布液(1)は、温度23℃、溶存酸素量6.8mg/Lの状態で吐出されるよう操作を行なった。基材(1)の搬送速度は20m/分とした。ギヤポンプ105による加圧量を適宜調整することにより、塗布工程で得られる塗布液(1)の層123の厚さは7.5μmとした。また、コーター室101内に、導管(不図示)により空気を導入することにより、コーター室内の気圧を、コーター室外に比べて陽圧とした。ダイヘッド190の上流側及び下流側のTD方向中央の位置であって、ダイヘッド190の吐出口190TのTD方向中央の位置から20cmの位置のそれぞれに、圧力計107U及び107Dを設置し、圧力をモニターした。コーター室101の室外から室内へ空気を強制的に供給する給気装置、及び室内から室外へ強制的に空気を排出する排気装置を設け、これらの給気口及び排気口の位置及び数、並びに給気量及び排気量を適宜調節することにより、上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)が、1Paとなるよう操作した。また、コーター室101内における、コーター室101の複数の開口のそれぞれから5cmの位置における圧力を測定し、それらの測定点のうちの最も低い値P2と、コーター室外の圧力P3との差ΔP23(P2−P3)が、20Paとなるよう操作した。
【0143】
得られた複層物126を目視にて観察し、塗布ムラ及びスジの有無を、下記の評価基準に従い評価した。評価結果を表2に示す。
・塗布ムラ:
良:塗布ムラが観察されなかった。
不良:塗布ムラが観察された。
・スジ:
良:白スジも、透明スジも観察されなかった。
不良:白スジ及び/又は透明スジが観察された。
【0144】
〔実施例2〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物126を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(2)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(2)の溶存酸素量を6.85mg/Lとし、上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)を0.5Paとした。
結果を表2に示す。
【0145】
〔実施例3〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物126を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(3)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(3)の温度を25℃、溶存酸素量を6.7mg/Lとし、基材(1)の搬送速度を25m/分とし、塗布工程で得られる塗布液(3)の層123の厚さは10μmとした。ダイヘッド190の上流側バー190Uのリップ表面191Uから基材121の表面121Fまでの距離、及びダイヘッド190の下流側バー190Dのリップ表面191Dから基材121の表面121Fまでの距離は、いずれも130μmであり、したがって、これらのリップ表面は面一で、ギャップは130μmであった。
結果を表2に示す。
【0146】
〔実施例4〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物126を得て評価した。
トリアセチルセルロースからなる透明基材フィルム(富士フィルム(株)製、商品名「TD80UL」、厚さ:80μm、屈折率:1.48)を、基材として用意した。以下において、この基材を「基材(2)」という。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(4)を用い、基材として、基材(1)に代えて、基材(2)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(4)の温度を25℃、溶存酸素量を6.65mg/Lとし、塗布工程で得られる塗布液(4)の層123の厚さは10μmとした。ダイヘッド190の上流側バー190Uのリップ表面191Uから基材121の表面121Fまでの距離、及びダイヘッド190の下流側バー190Dのリップ表面191Dから基材121の表面121Fまでの距離は、いずれも100μmであり、したがって、これらのリップ表面は面一で、ギャップは100μmであった。上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)は−0.5Paとした。また、選択紫外線照射装置151による紫外線照射、及び加熱ゾーン161による加熱は行なわなかったが、硬化紫外線照射装置152において紫外線照射積算光量(600mW/cm
2)を行い、これにより基材(2)と、塗布液(4)が硬化してなる硬化層とを有する複層物126を得て、巻き取り装置113にて巻き取った。
結果を表2に示す。
【0147】
〔実施例5〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(5)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(5)の溶存酸素量を6.6mg/Lとし、塗布工程で得られる塗布液(5)の層123の厚さは4.5μmとした。上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)は0.5Paとした。また、選択紫外線照射装置151による紫外線照射、加熱ゾーン161による加熱、及び硬化紫外線照射装置152による紫外線照射は行なわなかった。塗布ムラの有無の評価は、塗布工程の直後の複層物122について行った。またスジの有無の評価は、乾燥後の複層物122について行った。
結果を表2に示す。
【0148】
〔比較例1〕
装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(1)の温度を22.5℃、溶存酸素量を7.1mg/Lとした以外は、実施例1と同様に操作し、複層物126を得て評価した。
結果を表2に示す。
【0149】
〔比較例2〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(5)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(5)の溶存酸素量を6.6mg/Lとし、塗布工程で得られる塗布液(5)の層123の厚さは4.5μmとした。上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)は−100Paとした。また、選択紫外線照射装置151による紫外線照射、加熱ゾーン161による加熱、及び硬化紫外線照射装置152による紫外線照射は行なわなかった。塗布ムラの有無の評価は、塗布工程の直後の複層物122について行った。またスジの有無の評価は、乾燥後の複層物122について行った。
結果を表2に示す。
【0150】
〔比較例3〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(5)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(5)の温度を22℃、溶存酸素量を7.5mg/Lとし、塗布工程で得られる塗布液(5)の層123の厚さは4.5μmとした。上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)は0.5Paとした。また、選択紫外線照射装置151による紫外線照射、加熱ゾーン161による加熱、及び硬化紫外線照射装置152による紫外線照射は行なわなかった。塗布ムラの有無の評価は、塗布工程の直後の複層物122について行った。またスジの有無の評価は、乾燥後の複層物122について行った。
結果を表2に示す。
【0151】
〔比較例4〕
以下の変更点以外は、実施例1と同様に操作し、複層物126を得て評価した。
塗布液として、塗布液(1)に代えて、塗布液(3)を用いた。また、装置の操作条件を変更し、吐出される塗布液(3)の温度を25℃、溶存酸素量を6.7mg/Lとし、塗布工程で得られる塗布液(3)の層123の厚さは10μmとした。上流側圧力P0と下流側圧力P1との差ΔP01(=P0−P1)は−100Paとした。
結果を表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
表2に示す結果から明らかな通り、実施例1〜4における塗布では、塗布ムラ及びスジの発生の無い良好な塗布が達成できた。