特許第6292839号(P6292839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292839
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】樹脂の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20180305BHJP
   B01J 31/20 20060101ALI20180305BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   G01N25/20 F
   B01J31/20 Z
   C08F2/44 B
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-241927(P2013-241927)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-102377(P2015-102377A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】游 志雄
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆一
(72)【発明者】
【氏名】梅原 洋一
(72)【発明者】
【氏名】皆見 武志
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−344262(JP,A)
【文献】 特開平06−315637(JP,A)
【文献】 特開2012−132690(JP,A)
【文献】 特開昭62−163954(JP,A)
【文献】 特開平03−037557(JP,A)
【文献】 特開2005−265492(JP,A)
【文献】 特開2012−081440(JP,A)
【文献】 Measurement of polymer degradation by CL, TGA, DSC, Py-GCMS and SPME-GCMS,Scientific assessment of plastics degradation, [online],2012年 1月31日,p.177-199,[平成29年10月13日検索],インターネット,URL,<URL: http://popart-highlights.mnhn.fr/wp-content/uploads/4_Degradation/4_Measurement_of_polymer_degradation/4_3_MeasurementOfPolymerDegradation.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 − 25/72
B01J 21/00 − 38/74
C08F 2/44
G01N 27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールのカルボニル化反応による酢酸の製造においてロジウム錯体を担持する触媒担体として使用された架橋ビニルピリジン樹脂の劣化度を評価する方法であって、該樹脂に対して熱分析を行い、その際の190℃から500℃までの昇温過程で観察される二大ピークのピークトップ位置間の温度差に基づいて該樹脂の劣化度を評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記二大ピークのうち、低温側のピークは320℃から420℃までの昇温過程で観察され、高温側のピークは405℃から445℃までの昇温過程で観察される請求項1に記載方法。
【請求項3】
前記二大ピークのうち、低温側のピークは330℃〜410℃の範囲にピークトップを有し、高温側のピークは415℃〜435℃の範囲にピークトップを有する請求項1又は2に記載方法。
【請求項4】
前記二大ピークのうち、低温側のピークは樹脂の劣化の進行に伴って低温側にシフトする傾向を示し、高温側のピークは樹脂の劣化の進行に伴ってシフトする傾向を示さない請求項1〜3のいずれか一項に記載方法。
【請求項5】
前記二大ピークは、いずれも前記樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合に伴うものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分析がTGであり、前記二大ピークがDTGピークである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱分析がTG−MSであり、前記二大ピークがm/z=105又はm/z=132のピークである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の劣化の程度を評価する樹脂の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、ポリ酢酸ビニル、アセチルセルロース及び酢酸エステル類の原料、並びにテレフタル酸製造プラントの溶媒等、幅広い用途を持つ基礎化学品である。酢酸の製造方法として、触媒の存在下にメタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を製造するメタノールのカルボニル化法が知られている。
【0003】
メタノールのカルボニル化法には、触媒として、例えばピリジン基等の含窒素芳香族環基を有する側鎖と架橋部とを有する樹脂にロジウム錯体を担持させた触媒等、貴金属錯体を担体である樹脂上に担持させた固体触媒を使用する方法がある。(特許文献1及び特許文献2参照)
【0004】
このメタノールのカルボニル化反応は、加熱や加圧下(例えば130〜190℃、3〜5MPaの条件)で行われるため、担体である樹脂が分解して劣化する。分解が進むと、粒子状の担体樹脂の平均サイズが減少することによってカルボニル化反応の反応器の出口に設置されるスクリーン等を閉塞するという問題や、架橋度が低下することによって担体樹脂が粉化しやすくなるという問題、また、担体樹脂上のピリジン基等の含窒素芳香族環基が減少することによってロジウム等の貴金属錯体に対する固定化能力が低減してしまい触媒能力が低下するという問題が生じる。
【0005】
したがって、これらの問題が発生する前に、劣化した担体樹脂を交換する必要がある。担体樹脂を交換する時期を決定するために、担体樹脂の劣化の程度を定量的に高精度で簡便に評価する方法が望まれる。
【0006】
なお、このような樹脂の劣化の程度の評価は、メタノールのカルボニル化反応に使用される触媒に限らず、その他の樹脂においても同様に望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−315637号公報
【特許文献2】特開2012−81440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの課題に鑑み、本発明は、樹脂の劣化度を定量的に高精度で簡便に評価することができる樹脂の評価方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の樹脂の評価方法は、樹脂の昇温での熱分析において観察される前記樹脂の劣化度を表す特徴的ピークの低温側へのシフトに基づいて、前記樹脂を評価することを特徴とする。
そして、前記特徴的ピークと、該特徴的ピーク以外のピークとの温度差に基づいて樹脂を評価することが好ましい。
また、樹脂が、含窒素芳香族環基を有する側鎖と架橋部とを有する樹脂であってもよい。
前記樹脂が、メタノールのカルボニル化反応による酢酸の製造方法で触媒として使用される架橋ビニルピリジン樹脂にロジウム錯体を担持させた触媒であってもよい。
また、本発明の樹脂の評価方法は、前記樹脂を加熱して樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合を起こさせ、この解重合が起き始めたときの前記樹脂の温度を測定し、測定された温度に基づいて、前記樹脂の劣化度を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
昇温での熱分析において観察される樹脂の劣化度を現す特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報を用いることにより、高精度で簡便に樹脂の劣化度を評価することができる。さらには、樹脂を加熱して樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合を起こさせ、この解重合が起き始めたときの樹脂の温度に基づいて、高精度で簡便に樹脂の劣化度を評価することができる。この評価は、定量的に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱分析において観察されるピークの概略を示す図である。
図2】所定の二つのピークのピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を示す図である
図3】酢酸製造装置の一例を示す模式図である。
図4】サンプル0〜5のm/Z=105プロファイルを示す図である。
図5】サンプル0〜5のm/Z=132プロファイルを示す図である。
図6】m/Z=105プロファイルにおけるピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を示す図である。
図7】m/Z=132プロファイルにおけるピークのピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を示す図である。
図8】サンプル0〜5のDTGプロファイルを示す図である。
図9】サンプル0〜5のDTGプロファイルにおけるピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂の評価方法は、樹脂の昇温での熱分析において観察される樹脂の劣化度を表す特徴的ピークの低温側へのシフトに基づいて、樹脂を評価するものである。
【0013】
評価対象となる樹脂としては、側鎖に含窒素芳香族環基と架橋部とを有する樹脂が挙げられる。側鎖に含窒素芳香族環基と架橋部とを有する樹脂は、主鎖開裂型の熱分解が起こる樹脂である。含窒素芳香族環基としては、ピリジン等の含窒素六員環からなる基、ピロール等の含窒素五員環からなる基、ピロリジン等の含窒素縮合環からなる基等が挙げられる。また、架橋部としては、エチレン性不飽和結合を含む基を2以上有する各種架橋性モノマーに由来する構造等が挙げられる。そして、主鎖の構造は特に限定されないが、例えば、ポリビニルが挙げられる。
【0014】
側鎖に含窒素芳香族環基と架橋部とを有する樹脂の具体例としては、架橋したピリジン樹脂の重合体、例えば窒素原子が四級化されうるピリジン環を構造中に含む4−ビニルピリジンとジビニルベンゼンとの共重合体が挙げられる。また、上記4−ビニルピリジンに代えて、ビニル基の位置が異なる2−ビニルピリジンや、ビニルメチルピリジンなどの置換ビニルピリジン類、もしくはビニルキノリン類などの各種塩基性窒素含有モノマーを含むもの、あるいはジビニルベンゼンに代えて、エチレン性不飽和結合を含む基を2以上有する各種架橋性モノマーを含むものを用いることもできる。さらに、上記塩基性窒素含有モノマーおよび架橋性モノマーに加えて、スチレンやアクリル酸メチルなどの他の重合性コモノマーを含むものを用いることもできる。
【0015】
なお、評価対象の樹脂として架橋部を有する樹脂を例示したが、架橋部を有さない樹脂でもよい。
【0016】
熱分析としては、TG(熱重量分析,Thermogravimetry)、TG−MS(熱重量分析−質量分析,Thermogravimetry-Mass Spectrometry)、DTG(微分熱重量分析,Derivative thermogravimetry)等が挙げられる。本発明の評価方法で行う熱分析は、昇温しながら挙動を観察することが必須である。このような熱分析をすることにより、例えば含窒素芳香族環基に由来する構造や架橋部に由来する構造等、樹脂の熱分解生成物量の変化を求めることができる。
【0017】
樹脂の劣化度を表す特徴的ピーク(以下単に「特徴的ピーク」とも言う)とは、熱分析において、詳しくは後述するが昇温過程で観察される主鎖のランダム開裂に起因する解重合を表すピークのうち、最後に観察されるピーク以外のピークをいう。したがって、昇温過程で主鎖のランダム開裂に起因する解重合を表すピークよりも低温側で観察される主鎖末端の解重合を表すピークは、特徴的ピークではない。この特徴的ピークは、樹脂の分解(劣化)が進むにつれて、そのピークトップ温度が低温側に移る、すなわちシフトするという特徴を有し、この低温側へのシフトは樹脂の分解率と相関があることを知見した。
【0018】
また、ある特徴的ピークのピークトップ温度と、この特徴的ピークよりも低温側へのシフトの程度が小さい又はほとんどシフトしないピークのピークトップ温度との差と、樹脂の分解率は相関があることを知見した。特に、上記特徴的ピークとは異なり、分解によってほとんどピークトップ温度が変化しないピーク(以下「レファレンスピーク」ともいう)のピークトップ温度と、特徴的ピークのピークトップ温度との差は、非常に分解率と相関が高い。
【0019】
したがって、評価対象と同じ樹脂(例えば、同じ製品)を用いて、さまざまな分解率の樹脂を作成し昇温による熱分析を行って、あらかじめ、特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報(例えば、特徴的ピークのピークトップ温度や、特徴的ピークとその他のピークとのピークトップの温度差等)と分解率との関係を求めておき、評価対象の樹脂を昇温による熱分析をして特徴的ピークの情報を得て、あらかじめ求めておいた特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報と分解率との関係を用いることにより、容易に且つ高精度で、しかも定量的に樹脂の分解率を求めることができる。
【0020】
また、反応触媒等、劣化した樹脂の交換や再生等が必要な用途で用いられる樹脂であれば、あらかじめ求めておいた特徴的ピークに基づく情報と分解率との関係から判断して、評価対象樹脂の特徴的ピークに基づく情報が所定値を超えた又は下回ったときに樹脂を交換または再生する、閾値制御を行うこともできる。
【0021】
評価対象樹脂の熱分析をしたときに生じる挙動及び評価について、評価対象の樹脂を、メタノールのカルボニル化による酢酸の製造方法で触媒として用いるジビニルベンゼンで架橋したポリビニルピリジン樹脂をヨウ化メチルで四級化しロジウムを担持させたものを例として、図1及び図2を参照して以下に説明する。図1は熱分析において観察されるピークの概略を示す図である。図1の横軸は樹脂の温度を示し、図1の縦軸に示される強度は、放出されたビニルピリジン及びエチルベンゼンの量に相当する。図2は、特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報である所定の二つのピークのピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を示す図である。
【0022】
熱分析において劣化分解が生じていない未使用の樹脂0を加熱すると、まず190〜320℃で側鎖のピリジン基と結合したCHI(m/z=142)が脱離する(図示無し)。
【0023】
次に、300℃を越えると、主鎖末端からモノマーであるビニルピリジン(m/z=105)が放出される。この主鎖末端の解重合は、ピークA0として観察される。この主鎖末端の解重合は、熱分解による劣化との関連性がなく、主鎖のランダム開裂は関与していない。
【0024】
さらなる高温に加熱されると、樹脂の主鎖がランダムに開裂しその開裂により生じた端部それぞれから、モノマーであるビニルピリジン(m/z=105)やエチルビニルベンゼン(m/z=132)が放出される。エチルビニルベンゼンは架橋部に由来する構造である。この主鎖のランダム開裂に起因する解重合は、樹脂の分子量分布や架橋度分布により温度範囲が比較的広範囲(320〜500℃)になり、開始付近に現れるピークB0及び終了付近に現れるピークC0として観察される。すなわち、この主鎖のランダム開裂に起因する解重合でビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンが脱離し始めるピーク(B0)と終わるピーク(C0)が観察される。なお、解重合とは、重合の逆の反応であり、重合している物質が熱などの作用によって分解し、単量体になることを言う。
【0025】
一方、触媒として使用した樹脂、すなわち、分解が生じた樹脂1を、熱分析において加熱すると、まず190〜320℃で側鎖のピリジン基と結合したCHIが脱離する(図示無し)。
【0026】
次に、300℃を越えると、樹脂0と同様に、主鎖末端からモノマーであるビニルピリジンが放出される。この主鎖末端の解重合はピークA1として観察される。
【0027】
さらに加熱されると、樹脂0と同様に、樹脂の主鎖がランダムに開裂しその開裂により生じた端部それぞれから、モノマーであるビニルピリジンやエチルビニルベンゼンが放出される。エチルビニルベンゼンは架橋部に由来する構造である。この主鎖のランダム開裂に起因する解重合は、樹脂の分子量分布や架橋度分布により比較的広範囲になり、開始付近に現れるピークB1及び終了付近に現れるピークC1として観察される。
【0028】
ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し始めるピークB1は、未使用の樹脂0のピークB0と比較して、ピークトップの温度が低温側にシフトしている。一方、ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し終わるピークC1は、ピークトップの温度が、未使用の樹脂0のピークC0とほとんど変わらない。
【0029】
そして、樹脂1よりもさらに分解が進んだ樹脂2を熱分析において加熱すると、まず190〜320℃で側鎖のピリジン基と結合したCHIが脱離する(図示無し)。
【0030】
次に、300℃を越えると、樹脂0や樹脂1と同様に、主鎖末端からモノマーであるビニルピリジンが放出される。この主鎖末端の解重合は、ピークA2として観察される。
【0031】
さらなる高温に加熱されると、樹脂0や樹脂1と同様に、樹脂の主鎖がランダムに開裂しその開裂により生じた端部それぞれから、モノマーであるビニルピリジンやエチルビニルベンゼンが放出される。エチルビニルベンゼンは架橋部に由来する構造である。この主鎖のランダム開裂に起因する解重合は、樹脂の分子量分布や架橋度分布により温度範囲が比較的広範囲になり、開始付近に現れるピークB2及び終了付近に現れるピークC2として観察される。
【0032】
ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し始めるピークB2は、樹脂1のピークB1と比較して、ピークトップの温度がさらに低温側にシフトしている。そして、ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し終わるピークC2は、ピークトップの温度が、樹脂1のピークC1とほとんど変わらない。
【0033】
換言すると、ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し始めるピークと、ビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンがこの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し終わるピークとの差は、劣化分解が進むにしたがって、広がっている。
【0034】
このように、主鎖のランダム開裂に起因する解重合を表し、樹脂が分解するにしたがって低温側にシフトするピークB0、B1、B2が、樹脂の劣化度を表す特徴的ピークである。主鎖のランダム開裂に起因せず主鎖末端の解重合を表すピークA0、A1、A2や、主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し終わるピークC0、C1、C2は、特徴的ピークではない。
【0035】
なお、上述した主鎖末端の解重合は主鎖末端のみから生じるため、主鎖末端の解重合を表すピークA0、A1、A2の強さは、主鎖のランダム開裂に起因する解重合を表すピークB0、B1、B2と比べて非常に弱いものであり、明確に区別できる。
【0036】
主鎖のランダム開裂に起因する解重合を表すピーク(B0、B1、B2、C0、C1、C3)が複数現れ、低温側のピーク(B0、B1、B2)が樹脂が分解が進むにつれて低温側にシフトする理由は以下のように推測される。解重合を表すピークが複数現れる原因は、樹脂自体に分子量分布や架橋度分布があることに加え、樹脂には結合が比較的強い部分と比較的弱い部分が存在するので、結合が比較的弱い部分が低温で脱離し、結合が比較的強い部分が高温で脱離するためである。
【0037】
そして、樹脂の分解が進んでいくと、架橋部が切断等されることにより樹脂の架橋構造が緩んでいき構造の不均一性が増加し、熱的に不安定な末端不飽和結合や枝分かれの数も増えて、脱離が生じやすくなる。そのため結合が比較的弱い部分の構造はより緩みやすくなって脱離が非常に生じやすくなる。したがって、比較的弱い部分の脱離がより低温側にシフトするものと推測される。
【0038】
樹脂の分解が進むにしたがって生じる特徴的ピークの低温側へのシフトは、樹脂の分解率と相関がある。例えば、図2に示すように分解率の異なる樹脂において、それぞれの主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し始めるピークである特徴的ピーク(B0、B1、B2等)と、ピークトップ温度がほとんど変化しない主鎖のランダム開裂に起因する解重合で脱離し終わるピーク(C0、C1、C2等)との温度差を、樹脂の分解率に対してプロットすると、非常に相関があるグラフを得ることができる。
【0039】
したがって、評価対象と同じ樹脂(例えば同じ製品樹脂)を用いて、異なる分解率の樹脂サンプルを作成し昇温による熱分析を行って、あらかじめ、特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報(例えば、特徴的ピークのピークトップ温度や、特徴的ピークとその他のピークとの差等)と分解率との関係を求めておき、評価対象の樹脂を熱分析して特徴的ピークの情報を得て、あらかじめ求めておいた特徴的ピークの低温側へのシフトに基づく情報と分解率との関係を用いて定量的に、容易に且つ高精度で評価対象の樹脂の劣化度を求めることができる。樹脂の劣化度を評価する方法として、IR(赤外吸収スペクトル)、NMR(核磁気共鳴法)や、Raman等によって樹脂の化学構造の変化により評価する方法や、引っ張り試験等の物理的特性の変化により評価する方法が考えられるが、本発明の評価方法は、これらの評価方法より、精度が高く容易である。
【0040】
上記では、昇温での熱分析で観察される特徴的ピークに基づいて樹脂を評価する方法を記載したが、例えば、樹脂を加熱して樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合を起こさせ、この解重合が起き始めたときの樹脂の温度を測定し、測定された温度に基づいて樹脂を評価することもできる。前述したように、樹脂の劣化度と、加熱により生じる樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合が起き始めたときの樹脂の温度との間には相関関係がある、すなわち、樹脂の劣化が進むほど、樹脂の主鎖の結合が弱くなり、より低温で樹脂の主鎖がランダムに開裂して解重合が起き始める。したがって、評価対象と同じ樹脂を用いて異なる劣化度の樹脂を作成し、樹脂を加熱して樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合を生じさせ、あらかじめ、この樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合が起き始めたときの樹脂の温度と分解率との関係を求めておき、評価対象の樹脂を加熱して主鎖のランダム開裂に起因する解重合が起き始めたときの樹脂の温度を測定し、あらかじめ求めた樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合が生じ始めたときの樹脂の温度と分解率との関係を用いることによって、容易に且つ高精度でしかも定量的に樹脂の分解率を求めることができる。例えば、樹脂の外観を顕微鏡等で観察し、樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合を判断して樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合が起き始めたときの樹脂の温度を求めることにより、樹脂の劣化度を容易に且つ高精度で評価することができる。
【0041】
測定する主鎖のランダム開裂に起因する解重合が起き始めたときの温度は、例えば主鎖のランダム開裂に起因する解重合によって樹脂の色が変化する場合は、外観観察によって所定の色になったときの樹脂の温度を求める等、樹脂の主鎖のランダム開裂に起因する解重合によって樹脂に生じる変化、及び、測定方法や観察方法によって、適宜規定すればよい。例えば、上記熱分析においては、特徴的ピークの開始温度や、特徴的ピークのピークトップ温度等を解重合が起き始めた温度としてもよい。熱分析において観察される特徴的ピークのピークトップ温度では、強度が高い、すなわち、多くのモノマーが放出されていることから、外観観察においても変化が大きく色や形状等の変化が観察されやすいと言える。
【0042】
なお、イオン交換樹脂等は、スルホ基(−SOH)等の交換基が樹脂から脱離してしまうことにより、イオン交換樹脂としての性能が劣化して、交換や再生が必要になる。したがって、この交換基の脱離より高温で生じる樹脂の分解現象に基づく評価方法である本発明の評価方法は、イオン交換樹脂には適用する意味が小さい。
【0043】
また、ポリ塩化ビニル(PVC)のように、側鎖に陰性基が存在する場合には、主鎖が開裂するよりも低い温度で、それらと隣接する主鎖中の水素原子などと反応して安定な化合物(RX)が脱離して劣化する。したがって、本発明の評価方法は、側鎖に陰性基が存在する樹脂にも適用する意味が小さい。
【0044】
すなわち、本発明の評価方法は、基本的には、主鎖や架橋部の切断・開裂が生じてくるまで使用する樹脂に対して適用することが好ましい。
【0045】
本発明の樹脂の評価方法によって、好適に評価することができる樹脂の用途として、上述したように、メタノールのカルボニル化による酢酸の製造方法の触媒が挙げられる。触媒の存在下でメタノールのカルボニル化を行う方法は、例えば、四級化窒素を含有する樹脂担体上に貴金属錯体を担持した固体触媒を含む液相中で、メタノール(カルボニル化原料)を一酸化炭素と反応させて酢酸(カルボニル化合物)を生成させる反応工程と、反応工程からの反応生成液を蒸留して酢酸(カルボニル化合物)を含む気相留分を回収する蒸留工程と、蒸留工程からの缶出液を反応工程に循環する循環工程とを有する。
【0046】
図3は、メタノールのカルボニル化による酢酸の製造を行うことができる酢酸製造装置の模式図である。図3に示すように、酢酸製造装置は、主に、反応工程としてのカルボニル化反応器1、蒸留工程としてのフラッシュ蒸発工程を行うフラッシャー2とライトエンド分離工程を行うライトエンド蒸留塔4、静置工程としてのデカンタ5を備える。
【0047】
カルボニル化反応器1にはカルボニル化原料であるメタノールと一酸化炭素が導入される。カルボニル化反応器1とフラッシャー2との間には、反応溶媒としての酢酸が循環している。主に酢酸からなるフラッシャー2の缶出液はカルボニル化反応器1に戻るようになっている。ライトエンド蒸留塔4にはフラッシャー2からの気相画分が流入し、ライトエンド蒸留塔4の内部で分離が行なわれる。ライトエンド蒸留塔4の下部からは酢酸が分離回収され、その頂部からは酢酸以外の成分と酢酸のうち回収されなかった部分とが留出する。
【0048】
カルボニル化反応器1内には、四級化窒素を含有する樹脂担体とこれにイオン交換担持された貴金属錯体とからなる固体触媒が液相中に分散して存在する。この固体触媒を構成する樹脂担体が、本発明の樹脂の評価方法の評価対象の樹脂である。
【0049】
四級化窒素を含有する樹脂担体とは、典型的にはピリジン樹脂、すなわち窒素原子が四級化されうるピリジン環を構造中に含む樹脂であり、たとえば4−ビニルピリジンとジビニルベンゼンの共重合体が代表的なものである。ただし、この特定の樹脂に限られるわけではなく、四級化されて貴金属錯体を吸着担持しうる塩基性窒素を含有する樹脂を包括的に含む趣旨である。したがって、上記4−ビニルピリジンに代えて、ビニル基の位置が異なる2−ビニルピリジンや、ビニルメチルピリジンなどの置換ビニルピリジン類、もしくはビニルキノリン類などの各種塩基性窒素含有モノマーを含むもの、あるいはジビニルベンゼンに代えて、エチレン性不飽和結合を含む基を2以上有する各種架橋性モノマーを含むものを用いることができる。さらに、上記塩基性窒素含有モノマーおよび架橋性モノマーに加えて、スチレンやアクリル酸メチルなどの他の重合性コモノマーを含むものを用いることもできる。
【0050】
上記樹脂担体の架橋度(架橋性モノマーの含有率を重量%で表したもの)は、10%以上であることが好ましく、15〜40%であればなお好ましい。架橋度が10%より低いと液相の組成による膨潤や収縮が著しくなり、架橋度が高すぎると貴金属錯体を担持するための塩基性窒素の含有量が小さくなりすぎる。樹脂に含まれる塩基性窒素の含有量は、塩基性当量にして2〜10ミリ当量/g程度であればよく、より好ましくは3.5〜6.5ミリ当量/gである。一般に塩基性窒素は、遊離塩基形、酸付加塩形、N−酸化物形などの形態で存在しうるが、それらが四級化された状態で貴金属錯体をイオン交換的に吸着担持する。樹脂担体は、通常、球状粒子の形態で用いられ、その粒径は一般に0.01〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.25〜0.7mmである。
【0051】
樹脂担体に担持される貴金属錯体とは、カルボニル化反応に対する触媒作用を示す貴金属の錯体であって、上記樹脂担体の四級化窒素にイオン交換吸着されるものをいう。そのような貴金属としては、ロジウムやイリジウムが知られているが、一般にはロジウムが好適に用いられる。樹脂担体とロジウムのハロゲン化物、または酢酸ロジウムなどのロジウム塩とをヨウ化メチルを含む溶液中において、一酸化炭素加圧下(0.7〜3MPa)で接触させると、その樹脂担体にロジウムを担持させることができる。このとき、樹脂担体中の窒素原子は四級化され、これにハロゲン化ロジウムとヨウ化メチルと一酸化炭素との反応によって生成したロジウム錯イオン、すなわちロジウムカルボニル錯体[Rh(CO)がイオン交換的に吸着し、用いる固体触媒が得られる。
【0052】
メタノールは一酸化炭素と反応して酢酸を生成する。この際、好適には、ヨウ化メチルなどの反応促進剤が加えられる。この反応は、通常、酢酸を反応溶媒として行なわれるが、この場合、酢酸は反応生成物であるとともに反応溶媒としても働くことになる。例えば、固体触媒が分散したカルボニル化反応器1内の反応液中に一酸化炭素ガスが吹き込まれ、ロジウム錯体担持固体触媒の存在下、反応温度100〜200℃、反応圧力1〜5MPa程度の条件において、メタノールは一酸化炭素と反応して、酢酸が生成される。この反応では、反応副生成物として酢酸メチル、ジメチルエーテル、水などが生成し、これらは溶媒、反応促進剤および未反応原料とともに、酢酸を製品として分離回収した残液として反応工程に戻されるので、反応工程における液相はこれら成分すべての混合物からなる。
【0053】
反応工程で生成された反応生成液は、次の蒸留工程において分離操作を受け、生成した酢酸は製品として分離回収され、それ以外の残液は、一部が反応工程に戻され、残りは静置工程に移る。例えば反応工程としてのカルボニル化反応器1からスクリーンなどを通して反応液が取り出され、フラッシャー2に流入する。蒸留工程では、まずフラッシャー2で反応液の一部を気化させて気相と液相とに分離(フラッシュ蒸発工程)した後、その気相画分をフラッシャー2上部からライトエンド蒸留塔4に導いてその下部から酢酸を分離回収(ライトエンド分離工程)するという手法をとる。このような手法を採用するのは、反応生成液が上記に述べたように各種成分の混合物であり、酢酸はそれらの中で揮発度が小さい成分であるが、実際にはさらに揮発度の小さい(あるいは不揮発性の)不純物が混入するため、缶出液から酢酸を製品として回収するわけにはいかないからである。フラッシャー2とライトエンド蒸留塔4とは、図3のように分けて別塔として構成することもできるし、単一の塔の底部とその上部に一体的に設けることも可能である。なお、カルボニル化反応は一般に発熱反応なので、フラッシャー2で一部を気化させることにより、反応工程に戻される液相画分を冷却するという効果が得られるとともに、加熱された反応生成液をフラッシャー2に導入することにより、これをライトエンド蒸留塔4のための蒸発缶として機能させることができる。
【0054】
ライトエンド蒸留塔4では気相画分の分離が行なわれる。気相画分を構成する成分のうち最も揮発度が小さい酢酸の一部がライトエンド蒸留塔4の下部に溜まるようにすることで、他の気相成分がすべて塔頂留分に含まれるようにすることができる。酢酸は、ライトエンド蒸留塔4の下部より取り出され、必要な精製処理を受けた後、製品として分離回収される。他方、塔頂からの流出液はデカンタ5に導入される。
【0055】
蒸留工程で酢酸を分離した後に、デカンタ5へ導入されるライトエンド蒸留塔4の塔頂流出液は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水が主成分である。デカンタ5で流出液を静置することにより、流出液に含まれるヨウ化メチルが重い油相として分離され、水相が得られる。分離されたヨウ化メチルはカルボニル化反応器1に戻るようになっている。
【0056】
また、フラッシャー2で気化しなかった部分は液相画分としてフラッシャー2の底部に溜まり、蒸留工程からの缶出液(すなわちフラッシャー2からの液相画分)として、反応工程を行うカルボニル化反応器1に戻される
【0057】
上記酢酸の製造方法において用いられる触媒樹脂について、本発明の樹脂の評価方法を用いて評価すると、劣化度が定量的に高精度で容易に評価でき、交換や再生時期を特定することができる。したがって、効率良く酢酸を製造することができる。なお、上記では酢酸の製造について説明したが、メタノールをその他のカルボニル化原料に変えることで、酢酸以外のカルボニル化合物を製造することもできる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の更なる理解のために実施例を用いて説明するが、実施例はなんら本発明を限定するものではない。
【0059】
<ロジウム担持触媒の製造>
架橋ビニルピリジン樹脂担体を懸濁重合法で製造した。具体的には、まず、水相として、NaCl(比重調整剤)625g、NaNO(ラジカル消去剤)18.8g、ゼラチン(油滴安定化剤)4.2g及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.5gをイオン交換水5241gに溶解させた液を調製した。
【0060】
また、4−ビニルピリジン(ビニルピリジン系モノマー)1364g、ジビニルベンゼン(純度56〜57wt%、残エチルビニルベンゼン)(架橋剤)1636g(架橋度が30%になる量)を混合し、これに、トルエン(細孔形成剤)562g、オクタン(細孔形成剤)188g、過酸化ベンゾイル(重合開始剤)25.2g及び、2,2’−アゾビス(2,4−dimethylvaleronitrile)(補助重合開始剤)10.2gを溶解して、油相を調製した。なお、架橋度は下記式で求められる。
架橋度(%)=A/B×100
A:樹脂中に含まれる架橋剤の質量
B:ビニルピリジン系モノマーの質量
【0061】
調製した油相をジャケット付き10L懸濁重合反応器に入れた。そこに反応器下部から調製した水相を供給し、緩やかに撹拌を行った。油滴が均一に分散するまで撹拌した後に、反応器のジャケットに65℃の温水を流すことにより反応器内液を昇温し、反応器内でモノマーを重合させた。反応器内液の温度は60℃まで上昇した後、上昇速度が増加し、80℃まで上昇した後、徐々に低下した。反応器内液が60℃まで下降したことを確認した後、さらに反応器内液を90℃まで昇温し、そのまま4時間保持した。その後、反応器内液を常温まで冷却し、ろ過により固液分離を行い、球状樹脂を得た。得られた球状樹脂から細孔形成剤(トルエン及びオクタン)を除去し、さらに篩により0.2〜0.8mmΦに分級して、多孔質ビニルピリジン樹脂(架橋ビニルピリジン樹脂担体)を得た。得られた架橋ビニルピリジン樹脂は、架橋度が30%である。
【0062】
このビニルピリジン樹脂51g(dry−resin基準)を反応器に入れ、水を十分に切った後、ヨウ化メチル102gと酢酸378gを加えることにより室温で四級化を行った。
【0063】
この反応器に所定量の酢酸ロジウムを加えて一酸化炭素を吹き込みながら130〜180℃まで加熱してロジウムを錯体[Rh(CO)とし、イオン交換反応により四級化されたピリジン基に固定化して、ロジウム担持触媒を得た。ロジウムの担持量は四級化前の担体(架橋ビニルピリジン樹脂担体)に対して0.85wt%であった。
【0064】
<加速熱分解試験による異なる分解率を持つ触媒サンプルの作成>
(サンプル1の調製)
上記<ロジウム担持触媒の製造>で得られたロジウム担持触媒を8.5g(dry−resin 基準)測りとり、モデル液(組成:5.5wt%HO、8.0wt%CHI、86.5wt%CHCOOH)100mLと一緒に200mLの金属製オートクレーブ(Autoclave)に入れて、窒素雰囲気で攪拌しながら220℃で27時間加熱することによって、ロジウム担持触媒を分解させた。その後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応液と分解したロジウム担持触媒を分離し、反応液中に含まれる含窒素化合物の濃度を測定し、下記式によりロジウム担持触媒の担体である樹脂の分解率を求めたところ、分解率は0.7%であった。また、反応液から分離した上記分解したロジウム担持触媒をメタノールで洗浄し、メタノールから分取した後、一晩放置することによりロジウム担持触媒の樹脂の細孔に取り込まれたメタノールを揮発させ、その後、105℃で48時間乾燥させることにより、TG分析用の試料(サンプル1)を得た。
分解率(%)=分解によって生成された含窒素化合物の量(g)/原料ピリジン基の量(g)×100
【0065】
(サンプル2〜5の調製)
220℃での27時間の加熱を、220℃でそれぞれ46時間(サンプル2)、48時間(サンプル3)、96時間(サンプル4)、144時間(サンプル5)とした以外は、サンプル1と同様の操作を行った。なお、サンプル2の分解率は9.2%、サンプル3の分解率は10.3%、サンプル4の分解率は23.0%、サンプル5の分解率は28.0%であった。
【0066】
<TG−MS分析>
得られたサンプル1〜5及び上記<ロジウム担持触媒の製造>で得られたロジウム担持触媒(サンプル0)について、TG−MS装置(TG装置にMS装置を直結)を用いて、それぞれTG−MS分析を行った。具体的には、各サンプルを約3.5mg測りとり、TGセールに乗せ、Heガスを100mL/minで流しながら、25℃から600℃まで20℃/minの速度で昇温した。昇温過程で生成した分解物(分解生成物)をHeガスと共に、TG−MSのインタフェイス部よりMSのイオン化室に導いた。分解生成物はイオン化室でイオン化され、四重極電極で質量分析された。得られたm/z=105のTG−MSプロフィルを図4に示す。また、得られたm/z=132のTG−MSプロフィルを図5に示す。図4及び図5の横軸の温度は、樹脂の温度である。図4及び図5は、強度(Mass intensity)を揃えるためにある倍率を乗じて記載しており、乗じた倍率を「×数値」と記載する。なお、m/z=105はビニルピリジン分子イオンのピークであり、m/z=132は、エチルビニルベンゼン分子イオンのピークである。
【0067】
<TG−MSプロファイルの解析>
図4及び図5に示すように、各サンプル0〜5において、それぞれ主に2つのピークが観察された。そして、2つのピークのうち低温側のピークは、分解率が高くなるにしたがって、低温側にシフトしていた。また、この2つのピークよりも低温側に、この2つのピークよりもきわめて小さいピークが観察された。
【0068】
詳述すると、分解していない担体樹脂であるサンプル0が加熱されると、180〜300℃で四級化ピリジン環からCHI(m/z=142)が脱離した(図示なし)。そして、300℃を超えると、CHIと共にビニルピリジン(m/z=105)及びエチルビニルベンゼン(m/z=132)が生成し始まり、322℃でピークになった。これは担体樹脂中のポリマー主鎖末端に解重合が起こり、放出したものと推定される。なお、この温度での解重合は劣化過程で起こり得るポリマー主鎖のランダム開裂は関与していないと推測される。さらに330℃以上に加熱されると、ポリマー主鎖がランダム的に開裂しそのランダム開裂により生じた端部それぞれからモノマーが放出される解重合が開始し500℃まで続いた。分解していない担体樹脂であるサンプル0には分子量と架橋度の分布を持つポリマー分子が含まれるため、モノマーの放出を伴う分解が広い温度範囲になったと推測される。この主鎖のランダム開裂及び該ランダム開裂に起因する解重合に由来するピークにおいて、低温側のピークトップ温度は396.6℃であり、高温側のピークトップ温度は419.0℃であった。396.6℃で観察されたピークはビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンが脱離し始めるピークであり、419.0℃で観察されたピークはビニルピリジン及びエチルビニルベンゼンが脱離し終わるピークである。
【0069】
そして、サンプル1〜5では、サンプル0と同様のピークが観察された。しかしながら、未使用のサンプル0の396.6℃で観察されたピーク(特徴的ピーク)は、分解率が高くなるにしたがって低温側にシフトした。なお、未使用のサンプル0の419.0℃で観察されたピーク(レファレンスピーク)は、分解率が高くなっても、ほとんど変わらなかった。
【0070】
異なる分解率を持つサンプル0〜5のビニルピリジン(m/z=105)プロファイル及びエチルビニルベンゼン(m/z=132)プロファイルにおいて、それぞれ脱離し始めるピーク(特徴的ピーク)と脱離し終わるピーク(レファレンスピーク)の温度差を求め、樹脂の分解率に対してプロットした。m/Z=105プロファイルにおけるピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を図6に示す。また、m/Z=132プロファイルにおけるピークのピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を図7に示す。図6及び図7に示すように、ビニルピリジン(m/z=105)と、エチルビニルベンゼン(m/z=132)のいずれも、特徴的ピークとレファレンスピークとの上記温度差は、樹脂の分解率と非常に相関があることが分かる。
【0071】
したがって、評価対象の樹脂と同じ樹脂の分解率と、TG−MS分析の特徴的ピークとレファレンスピークとの上記温度差との関係をあらかじめ求めておくことにより、評価対象樹脂について昇温でのTG−MS分析を行い、特徴的ピークとレファレンスピークとの上記温度差を求めることによって、該樹脂の劣化度を求めることができる。すなわち、このピークトップ温度差が樹脂の劣化度を評価する指標になりうる。
【0072】
<DTGプロファイルの解析>
上記TG−MS分析において得られるDTGプロファイルを、図8に示す。図8の横軸の温度は、樹脂の温度である。図8に示すように、414〜428℃付近に観察され、分解率によってほとんど変化しないピーク(レファレンスピーク)と、このレファレンスピークよりも低温側で観察され分解率が高くなるにしたがって392℃から328℃付近までピークトップが低温側へシフトするピーク(特徴的ピーク)が観察された。
【0073】
異なる分解率を持つサンプル0〜5のDTGプロファイルにおいて、それぞれ脱離し始めるピーク(特徴的ピーク)と脱離し終わるピーク(レファレンスピーク)の温度差を求め、樹脂の分解率に対してプロットした。サンプル0〜5のDTGプロファイルにおけるピークトップの温度差と樹脂の分解率との関係を図9に示す。図9に示すように、特徴的ピークとレファレンスピークとの上記温度差は、樹脂の分解率と非常に相関があることが分かる。
【0074】
以上述べたように、TG−MSやDTG等の熱分析において観察される分解率(劣化度)によって低温側にシフトする特徴的ピークを用いることで、樹脂の劣化度を容易に精度良く評価することができる。特に、ピークトップ位置が樹脂の分解によってほとんど変わらないピーク(レファレンスピーク)との差を求めることにより、より高精度で樹脂の劣化を評価することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 カルボニル化反応器
2 フラッシャー
4 ライトエンド蒸留塔
5 デカンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9