特許第6292976号(P6292976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292976
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/22 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   C08G73/22
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-105584(P2014-105584)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-218333(P2015-218333A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】野田 国宏
(72)【発明者】
【氏名】千坂 博樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
(72)【発明者】
【氏名】信太 勝
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−525183(JP,A)
【文献】 特開2007−031511(JP,A)
【文献】 特開2000−284480(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/027866(WO,A1)
【文献】 特開2014−040503(JP,A)
【文献】 特開平01−261423(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137840(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/046332(WO,A1)
【文献】 特開2015−151515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される芳香族ジアミンジオールと、下式(2)で表されるジカルボニル化合物とを、下式(5)で表される化合物(A)を少なくとも含有する溶剤中で反応させてポリベンゾオキサゾール前駆体を生成し当該前駆体を120〜350℃で加熱する、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは1以上の芳香環を含む4価の有機基であり、式(1)で表される芳香族ジアミンジオールに含まれる2組のアミノ基と水酸基との組み合わせに関して、それぞれの組み合わせでは、アミノ基と水酸基とは、Rに含まれる芳香環上の隣接する2つの炭素原子に結合している。)
【化2】
(式(2)中、Rは2価の有機基を表し、Aは水素原子又はハロゲン原子を表す。)
【化3】
(式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(5−1)又は下式(5−2):
【化4】
で表される基である。式(5−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(5−2)中、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【請求項2】
前記化合物(A)が、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、又はN,N,N’,N’−テトラメチルウレアである、請求項1に記載のポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾール樹脂は、耐熱性、機械的強度、絶縁性、及び寸法安定等に優れるため、繊維やフィルムのみならず、種々の素子や多層配線基板等の電子基板のような電気・電子部品における絶縁材や保護材として広く使用されている。
【0003】
一般に、ポリベンゾオキサゾール樹脂は、芳香環中の隣接する炭素原子上にアミノ基と水酸基とを有する芳香族ジアミンジオールと、ジアルデヒド化合物や、ジカルボン酸ジハライドのようなジカルボニル化合物とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びジメチルホルムアミド(DMF)のような有機溶媒中で重合させて得られる前駆体ポリマーを、300℃程度の高温で熱処理して形成される。
【0004】
このような方法により製造されるポリベンゾオキサゾール樹脂の具体例としては、芳香環中の隣接する炭素原子上にアミノ基と水酸基とを有する芳香族ジアミンジオールと、ジ(4−ホルミルフェニル)アルカン又はジ(4−ハロカルボニルフェニル)アルカンとを、ジメチルホルムアミド中で反応させて得られた前駆体ポリマーの溶液を、200℃から温度を上げ、最終的に300℃で熱処理して形成されるポリベンゾオキサゾール樹脂が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/137840号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されるように、ジメチルホルムアミドのような溶媒を用いて得られた前駆体ポリマーの溶液を熱処理する場合、引張伸度のような機械的特性や、耐薬品性に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂を得にくかったり、得られるポリベンゾオキサゾール樹脂の透明性が着色により損なわれやすかったりする問題がある。特に、特許文献1に記載される方法では前駆体ポリマーの加熱を高温で行う必要があり、200℃を下回るような低温で前駆体ポリマーを加熱する場合には、ポリベンゾオキサゾール樹脂の機械的特性、耐薬品性、透明性等の低下が顕著である。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ポリベンゾオキサゾール前駆体を低温で熱処理する場合でも、引張伸度のような機械的特性や耐薬品性に優れ、着色が抑制され透明性の高いポリベンゾオキサゾール樹脂を製造できる、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、芳香族ジアミンジオールと、ジホルミル化合物又はジカルボン酸ジハライドとを、特定の構造のアミド化合物又は尿素化合物を含む溶剤中で反応させて得られるポリベンゾオキサゾール前駆体を、120〜350℃で加熱してポリベンゾオキサゾール樹脂を形成させることによって、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、下式(1)で表される芳香族ジアミンジオール化合物と、下式(2)で表されるジカルボニル化合物とを、下式(5)で表される化合物(A)を少なくとも含有する溶剤中で反応させて得られるポリベンゾオキサゾール前駆体を、120〜350℃で加熱する、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法に関する。
【0010】
【化1】
(式(1)中、Rは1以上の芳香環を含む4価の有機基であり、式(1)で表される芳香族ジアミンジオールに含まれる2組のアミノ基と水酸基との組み合わせに関して、それぞれの組み合わせでは、アミノ基と水酸基とは、Rに含まれる芳香環上の隣接する2つの炭素原子に結合している。)
【0011】
【化2】
(式(2)中、Rは2価の有機基を表し、Aは水素原子又はハロゲン原子を表す。)
【0012】
【化3】
(式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(5−1)又は下式(5−2):
【化4】
で表される基である。式(5−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(5−2)中、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリベンゾオキサゾール前駆体を低温で熱処理する場合でも、引張伸度のような機械的特性や耐薬品性に優れ、着色が抑制され透明性の高いポリベンゾオキサゾール樹脂を製造できる、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、ポリベンゾオキサゾール樹脂を製造するために用いるポリベンゾオキサゾール前駆体を、芳香族ジアミンジオールと、特定の構造のジホルミル化合物又はジカルボン酸ジハライドであるジカルボニル化合物とを、特定の構造の化合物(A)を少なくとも含有する溶剤中で反応させて調製する。このようにして調製された、ポリベンゾオキサゾール前駆体を120〜350℃で加熱し、ポリベンゾオキサゾール樹脂が得られる。以下、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造に用いられる原料化合物及び溶剤、ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法、並びにポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法について順に説明する。
【0015】
≪原料化合物≫
ポリベンゾオキサゾール前駆体の合成原料としては、芳香族ジアミンジオールと、特定の構造のジカルボニル化合物とを用いる。以下、芳香族ジアミンジオールと、ジカルボニル化合物とについて説明する。
【0016】
[芳香族ジアミンジオール]
本発明では、芳香族ジアミンジオールとして下式(1)で表される化合物を用いる。芳香族ジアミンジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化5】
(式(1)中、Rは1以上の芳香環を含む4価の有機基であり、式(1)で表される芳香族ジアミンジオールに含まれる2組のアミノ基と水酸基との組み合わせに関して、それぞれの組み合わせでは、アミノ基と水酸基とは、Rに含まれる芳香環上の隣接する2つの炭素原子に結合している。)
【0017】
式(1)中、Rは、1以上の芳香環を含む4価の有機基であり、その炭素原子数は6〜50が好ましく、6〜30がより好ましい。Rは、芳香族基であってもよく、2以上の芳香族基が、脂肪族炭化水素基及びハロゲン化脂肪族炭化水素基や、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子等のヘテロ原子を含む結合を介して結合された基であってもよい。Rに含まれる、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子等のヘテロ原子を含む結合としては、−CONH−、−NH−、−N=N−、−CH=N−、−COO−、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−等が挙げられ、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−が好ましい。
【0018】
に含まれる芳香環は、芳香族複素環であってもよい。R中のアミノ基及び水酸基と結合する芳香環はベンゼン環であるのが好ましい。R中のアミノ基及び水酸基と結合する環が2以上の環を含む縮合環である場合、当該縮合環中のアミノ基及び水酸基と結合する環はベンゼン環であるのが好ましい。
【0019】
の好適な例としては、下記式(1−1)〜(1−9)で表される基が挙げられる。
【化6】
(式(1−1)中、Xは、炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数1〜10のフッ素化アルキレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−COO−、−CONH−、及び単結合からなる群より選択される1種である。式(1−2)〜(1−5)中、Yは、それぞれ、同一でも異なっていてもよく、−CH−、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、及び単結合からなる群より選択される1種である。)
【0020】
上記式(1−1)〜(1−9)で表される基は、芳香環上に1又は複数の置換基を有していてもよい。置換基の好適な例としては、フッ素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数1〜6のフッ素化アルキル基、炭素原子数1〜6のフッ素化アルコキシ基が好ましい。置換基がフッ素化アルキル基又はフッ素化アルコキシ基である場合、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であるのが好ましい。
【0021】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、2,4−ジアミノ−1,5−ベンゼンジオール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジオール、2,5−ジアミノ−3−フルオロ−1,4−ベンゼンジオール、2,5−ジアミノ−3,6−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジオール、2,6−ジアミノ−1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジアミノ−2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジアミノ−3,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジアミノ−2,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,3’−ジアミノ−3,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル、2,3’−ジアミノ−3,2’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−5,5’−ジトリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシ−5,5’−ジトリフルオロメチルビフェニル、2,3’−ジアミノ−3,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジトリフルオロメチルビフェニル、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−5,5’−ジトリフルオロメチルビフェニル、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)メタン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)メタン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルジフルオロメタン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)ジフルオロメタン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)ジフルオロメタン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルジフルオロメタン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)エーテル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)エーテル、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルエーテル、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ケトン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルケトン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)ケトン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)ケトン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルケトン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−アミノ−3’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)プロパン、2−(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)−2−(4’−アミノ−3’−ヒドロキシ−6’−トリフルオロメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−5−トリフルオロメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−アミノ−3’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルフェニル)−2−(4’−アミノ−3’−ヒドロキシ−6’−トリフルオロメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−5−トリフルオロメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)スルホン、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルスルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)スルフィド、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチル)スルフィド、3,4’−ジアミノ−4,3’−ジヒドロキシ−6,6’−ジトリフルオロメチルジフェニルスルフィド、(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)4−アミノ−3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)3−アミノ4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)4−アミノ−3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)3−アミノ−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、N−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)4−アミノ−3−ヒドロキシベンズアミド、N−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)3−アミノ4−ヒドロキシフェニルベンズアミド、N−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)4−アミノ−3−ヒドロキシフェニルベンズアミド、N−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)3−アミノ−4−ヒドロキシフェニルベンズアミド、2,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ビフェニル、2,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)ビフェニル、ジ[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]エーテル、ジ[4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]エーテル、2,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン、2,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン、2,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、2,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、2,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロベンゾフェノン、2,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)オクタフルオロベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,8−ジアミノ−3,7−ジヒドロキシジベンゾフラン、2,8−ジアミノ−3,7−ジヒドロキシフルオレン、2,6−ジアミノ−3,7−ジヒドロキシキサンテン、9,9−ビス−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0022】
これらの中では、透明性が優れるポリベンゾオキサゾール樹脂を形成できる点から、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0023】
[ジカルボニル化合物]
ポリベンゾオキサゾール前駆体の合成原料としては、以上説明した芳香族ジアミンジオールとともに、下式(2)で表されるジカルボニル化合物を用いる。前述の芳香族ジアミンジオールと、下式(2)で表されるジカルボニル化合物とを縮合させることにより、ポリベンゾオキサゾール前駆体が得られる。
【0024】
【化7】
(式(2)中、Rは2価の有機基であり、Aは水素原子又はハロゲン原子を表す。)
【0025】
式(2)中のRは、芳香族基であってもよく、脂肪族基であってもよく、芳香族基と脂肪族基とを組み合わせた基であってもよい。得られるポリベンゾオキサゾール樹脂の耐熱性、機械的特性、耐薬品性等が良好である点から、Rは、芳香族基及び/又は脂環式基を含む基であるのが好ましい。Rに含まれる芳香族基は、芳香族炭化水素基であってもよく、芳香族複素環基であってもよい。
【0026】
は、炭素原子、及び水素原子の他に、ハロゲン原子、酸素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい。Rが酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む場合、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子は、含窒素複素環基、−CONH−、−NH−、−N=N−、−CH=N−、−COO−、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、Rに含まれてもよく、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、Rに含まれるのがより好ましい。
【0027】
式(2)中、2つのAの一方が水素原子であり、他方がハロゲン原子であってもよいが、2つのAがともに水素原子であるか、2つのAがともにハロゲン原子であるのが好ましい。Aがハロゲン原子である場合、Aとして塩素、臭素、及びヨウ素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0028】
式(2)で表されるジカルボニル化合物として、2つのAがともに水素原子であるジアルデヒド化合物を用いる場合、下式(3)で表されるポリベンゾオキサゾール中間体が製造される。
【化8】
(式(3)中、R及びRは、式(1)及び式(2)と同様であり、nは式(3)で表される単位の繰り返し数である。)
【0029】
式(2)で表されるジカルボニル化合物として、2つのAがともにハロゲン原子であるジカルボン酸ジハライドを用いる場合、下式(4)で表されるポリベンゾオキサゾール中間体が製造される。
【化9】
(式(4)中、R及びRは、式(1)及び式(2)と同様であり、nは式(4)で表される単位の繰り返し数である。)
【0030】
以下、ジカルボニル化合物として好適な化合物である、ジアルデヒド化合物と、ジカルボン酸ジハライドとについて説明する。
【0031】
(ジアルデヒド化合物)
ポリベンゾオキサゾール前駆体の原料として用いるジアルデヒド化合物は、下式(2−1)で表される化合物である。ジアルデヒド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化10】
(式(2−1)中、Rは、式(2)と同様である。)
【0032】
式(2−1)中のRとして好適な芳香族基又は芳香環含有基としては、以下の基が挙げられる。
【化11】
(上記式中、Xは、炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数1〜10のフッ素化アルキレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−COO−、−CONH−、及び単結合からなる群より選択される1種である。Xが複数である場合、複数のXは同一でも異なっていてもよい。Yは、それぞれ、同一でも異なっていてもよく、−CH−、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、及び単結合からなる群より選択される1種である。p及びqは、それぞれ0〜3の整数である。)
【0033】
式(2−1)中のRとして好適な脂環式基又は脂環含有基としては、以下の基が挙げられる。
【化12】
(上記式中、Xは、炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数1〜10のフッ素化アルキレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−COO−、−CONH−、及び単結合からなる群より選択される1種である。Xが複数である場合、複数のXは同一でも異なっていてもよい。Yは、それぞれ、同一でも異なっていてもよく、−CH−、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、及び単結合からなる群より選択される1種である。Zは、−CH−、−CHCH−、及び−CH=CH−からなる群より選択される1種である。pは、それぞれ0〜3の整数である。)
【0034】
上記のRとして好適な基に含まれる芳香環又は脂環は、その環上に1又は複数の置換基を有していてもよい。置換基の好適な例としては、フッ素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数1〜6のフッ素化アルキル基、炭素原子数1〜6のフッ素化アルコキシ基が好ましい。置換基がフッ素化アルキル基又はフッ素化アルコキシ基である場合、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であるのが好ましい。
【0035】
式(2−1)で表されるジアルデヒド化合物が芳香族ジアルデヒドである場合、その好適な例としては、ベンゼンジアルデヒド類、ピリジンジアルデヒド類、ピラジンジアルデヒド類、ピリミジンジアルデヒド類、ナフタレンジアルデヒド類、ビフェニルジアルデヒド類、ジフェニルエーテルジアルデヒド類、ジフェニルスルホンジアルデヒド類、ジフェニルスルフィドジアルデヒド類、ビス(ホルミルフェノキシ)ベンゼン類、[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスベンズアルデヒド類、2,2−ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]プロパン類、ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]スルフィド類、ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]スルホン類、及び含フルオレンジアルデヒドが挙げられる。
【0036】
ベンゼンジアルデヒド類の具体例としては、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、3−フルオロフタルアルデヒド、4−フルオロフタルアルデヒド、2−フルオロイソフタルアルデヒド、4−フルオロイソフタルアルデヒド、5−フルオロイソフタルアルデヒド、2−フルオロテレフタルアルデヒド、3−トリフルオロメチルフタルアルデヒド、4−トリフルオロメチルフタルアルデヒド、2−トリフルオロメチルイソフタルアルデヒド、4−トリフルオロメチルイソフタルアルデヒド、5−トリフルオロメチルイソフタルアルデヒド、2−トリフルオロメチルテレフタルアルデヒド、3,4,5,6−テトラフルオロフタルアルデヒド、2,4,5,6−テトラフルオロイソフタルアルデヒド、及び2,3,5,6−テトラフルオロテレフタルアルデヒド等が挙げられる。
【0037】
ピリジンジアルデヒド類の具体例としては、ピリジン−2,3−ジアルデヒド、ピリジン−3,4−ジアルデヒド、及びピリジン−3,5−ジアルデヒド等が挙げられる。
ピラジンジアルデヒド類の具体例としては、ピラジン−2,3−ジアルデヒド、ピラジン−2,5−ジアルデヒド、及びピラジン−2,6−ジアルデヒド等が挙げられる。
ピリミジンジアルデヒド類の具体例としては、ピリミジン−2,4−ジアルデヒド、ピリミジン−4,5−ジアルデヒド、及びピリミジン−4,6−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0038】
ナフタレンジアルデヒド類の具体例としては、ナフタレン−1,5−ジアルデヒド、ナフタレン−1,6−ジアルデヒド、ナフタレン−2,6−ジアルデヒド、ナフタレン−3,7−ジアルデヒド、2,3,4,6,7,8−ヘキサフルオロナフタレン−1,5−ジアルデヒド、2,3,4,5,6,8−ヘキサフルオロナフタレン−1,6−ジアルデヒド、1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフタレン−2,6−ジアルデヒド、1−トリフルオロメチルナフタレン−2,6−ジアルデヒド、1,5−ビス(トリフルオロメチル)ナフタレン−2,6−ジアルデヒド、1−トリフルオロメチルナフタレン−3,7−ジアルデヒド、1,5−ビス(トリフルオロメチル)ナフタレン−3,7−ジアルデヒド、1−トリフルオロメチル−2,4,5,6,8−ペンタフルオロナフタレン−3,7−ジアルデヒド、1−ビス(トリフルオロメチル)メトキシ−2,4,5,6,8−ペンタフルオロナフタレン−3,7−ジアルデヒド、1,5−ビス(トリフルオロメチル)−2,4,6,8−テトラフルオロナフタレン−3,7−ジアルデヒド、及び1,5−ビス[ビス(トリフルオロメチル)メトキシ]−2,4,6,8−テトラフルオロナフタレン−3,7−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0039】
ビフェニルジアルデヒド類の具体例としては、ビフェニル−2,2’−ジアルデヒド、ビフェニル−2,4’−ジアルデヒド、ビフェニル−3,3’−ジアルデヒド、ビフェニル−4,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジフルオロビフェニル−3,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジフルオロビフェニル−2,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジフルオロビフェニル−3,3’−ジアルデヒド、6,6’−ジフルオロビフェニル−3,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジフルオロビフェニル−4,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル−2,2’−ジアルデヒド、6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル−2,4’−ジアルデヒド、6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル−3,3’−ジアルデヒド、6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル−3,4’−ジアルデヒド、及び6,6’−ジトリフルオロメチルビフェニル−4,4’−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0040】
ジフェニルエーテルジアルデヒド類の具体例としては、ジフェニルエーテル−2,4’−ジアルデヒド、ジフェニルエーテル−3,3’−ジアルデヒド、ジフェニルエーテル−3,4’−ジアルデヒド、及びジフェニルエーテル−4,4’−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0041】
ジフェニルスルホンジアルデヒド類の具体例としては、ジフェニルスルホン−3,3’−ジアルデヒド、ジフェニルスルホン−3,4’−ジアルデヒド、及びジフェニルスルホン−4,4’−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0042】
ジフェニルスルフィドジアルデヒド類の具体例としては、ジフェニルスルフィド−3,3’−ジアルデヒド、ジフェニルスルフィド−3,4’−ジアルデヒド、及びジフェニルスルフィド−4,4’−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0043】
ジフェニルケトンジアルデヒド類の具体例としては、ジフェニルケトン−3,3’−ジアルデヒド、ジフェニルケトン−3,4’−ジアルデヒド、及びジフェニルケトン−4,4’−ジアルデヒド等が挙げられる。
【0044】
ビス(ホルミルフェノキシ)ベンゼン類の具体例としては、ベンゼン1,3−ビス(3−ホルミルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ホルミルフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−ホルミルフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0045】
[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスベンズアルデヒド類の具体例としては、3,3’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスベンズアルデヒド、3,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスベンズアルデヒド、及び4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0046】
2,2−ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]プロパン類の具体例としては、2,2−ビス[4−(2−ホルミルフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−ホルミルフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−ホルミルフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−ホルミルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、及び2,2−ビス[4−(4−ホルミルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0047】
ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]スルフィド類の具体例としては、ビス[4−(3−ホルミルフェノキシ)フェニル]スルフィド、及びビス[4−(4−ホルミルフェノキシ)フェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0048】
ビス[4−(ホルミルフェノキシ)フェニル]スルホン類の具体例としては、ビス[4−(3−ホルミルフェノキシ)フェニル]スルホン、及びビス[4−(4−ホルミルフェノキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。
【0049】
含フルオレンジアルデヒドの具体例としては、フルオレン−2,6−ジアルデヒド、フルオレン−2,7−ジアルデヒド、ジベンゾフラン−3,7−ジアルデヒド、9,9−ビス(4−ホルミルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ホルミルフェニル)フルオレン、及び9−(3−ホルミルフェニル)−9−(4’−ホルミルフェニル)フルオレン等が挙げられる
【0050】
また、下式で表される、ジフェニルアルカンジアルデヒド又はジフェニルフルオロアルカンジアルデヒドも、芳香族ジアルデヒド化合物として好適に使用できる。
【化13】
【0051】
さらに、下記式で表されるイミド結合を有する化合物も、芳香族ジアルデヒド化合物として好適に使用することができる。
【化14】
【0052】
式(2−1)で表されるジカルボニル化合物が脂環式基を含む脂環式ジアルデヒドである場合、その好適な例としては、シクロヘキサン−1,4−ジアルデヒド、シクロヘキサン−1,3−ジアルデヒド、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,5−ジアルデヒド、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,5−ジアルデヒド、ビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,5−ジアルデヒド、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジアルデヒド、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジアルデヒド、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,4−ジアルデヒド、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−エン−8,9−ジアルデヒド、ペルヒドロナフタレン−2,3−ジアルデヒド、ペルヒドロナフタレン−1,4−ジアルデヒド、ペルヒドロナフタレン−1,6−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4−メタノナフタレン−2,3−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4−メタノナフタレン−2,7−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4−メタノナフタレン−7,8−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,7−ジアルデヒド、ペルヒドロ−1,4:5,8:9,10−トリメタノアントラセン−2,3−ジアルデヒド、ビシクロヘキシル−4,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルエーテル−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルメタン−3,3’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルメタン−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルジフルオロメタン−3,3’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルジフルオロメタン−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルジフルオロメタン−4,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルホン−3,3’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルホン−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルホン−4,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルフィド−3,3’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルフィド−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルスルフィド−4,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルケトン−3,3’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルケトン−3,4’−ジアルデヒド、ジシクロヘキシルケトン−4,4’−ジアルデヒド、2,2−ビス(3−ホルミルシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ホルミルシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(3−ホルミルシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ホルミルシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−ホルミルシクロヘキシル)ベンゼン、1,4−ビス(3−ホルミルシクロヘキシル)ベンゼン、1,4−ビス(4−ホルミルシクロヘキシル)ベンゼン、3,3’−[1,4−シクロヘキシレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスシクロヘキサンカルバルデヒド、3,4’−[1,4−シクロヘキシレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスシクロヘキサンカルバルデヒド、4,4’−[1,4−シクロヘキシレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスシクロヘキサンカルバルデヒド、2,2−ビス[4−(3−ホルミルシクロヘキシル)シクロヘキシル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−ホルミルシクロヘキシル)シクロヘキシル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−ホルミルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−ホルミルフェノキシ)シクロヘキシル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−ホルミルシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルフィド、ビス[4−(4−ホルミルシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルフィド、ビス[4−(3−ホルミルシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、ビス[4−(4−ホルミルシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、2,2’−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−5,6’−ジアルデヒド、2,2’−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−6,6’−ジアルデヒド、及び1,3−ジホルミルアダマンタン等が挙げられる。
【0053】
以上説明したジアルデヒド化合物の中では、合成や入手が容易であることや、耐熱性及び機械的性質に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂を得やすいことから、イソフタルアルデヒドが好ましい。
【0054】
(ジカルボン酸ジハライド)
ポリベンゾオキサゾール前駆体の原料として用いるジカルボン酸ジハライドは、下式(2−2)で表される化合物である。ジカルボン酸ジハライドは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化15】
(式(2−2)中、Rは、式(2)と同様であり、Halはハロゲン原子である。)
【0055】
式(2−2)中、Halとしては、塩素、臭素、及びヨウ素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0056】
式(2−2)で表される化合物として好適な化合物としては、ジアルデヒド化合物の好適な例として前述した化合物が有する2つのアルデヒド基を、ハロカルボニル基、好ましくはクロロカルボニル基に置換した化合物が挙げられる。
【0057】
以上説明したジカルボン酸ジハライドの中では、合成や入手が容易であることや、耐熱性及び機械的性質に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂を得やすいことから、テレフタル酸二クロライドが好ましい。
【0058】
≪溶剤≫
本発明においては、ポリベンゾオキサゾール前駆体の調製に用いる溶剤として、下式(5)で表される化合物(A)を含む溶剤を用いる。
【化16】
(式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(5−1)又は下式(5−2):
【化17】
で表される基である。式(5−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(5−2)中、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【0059】
上記の化合物(A)を含む溶剤を用いてポリベンゾオキサゾール前駆体を合成することにより、ポリベンゾオキサゾール前駆体を低温で熱処理する場合でも、ポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱する際の樹脂の着色による透明性の低下を抑制しつつ、引張伸度のような機械的特性や耐薬品性に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂を製造できる。
【0060】
また、上記の化合物(A)を含む溶剤を用いて合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱してポリベンゾオキサゾール樹脂を製造する場合、ポリベンゾオキサゾール樹脂の表面での、膨れ、割れ、発泡等の欠陥の発生を抑制できる。このため、上記の化合物(A)を含む溶剤を用いて合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体を含む膜を加熱してポリベンゾオキサゾール樹脂のフィルムを製造する場合、割れ、ブリスター、ピンホール等の欠陥がなく外観に優れるフィルムを製造しやすい。
【0061】
式(5)で表される化合物(A)のうち、Rが式(5−1)で表される基である場合の具体例としては、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、N−エチル,N,2−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジエチル−2−メチルプロピオンアミド、N,N,2−トリメチル−2−ヒドロキシプロピオンアミド、N−エチル−N,2−ジメチル−2−ヒドロキシプロピオンアミド、及びN,N−ジエチル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0062】
式(5)で表される化合物(A)のうち、Rが式(5−2)で表される基である場合の具体例としては、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア、N,N,N’,N’−テトラエチルウレア等が挙げられる。
【0063】
上記の化合物(A)の例のうち、特に好ましいものとしては、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレアが好ましい。N,N,2−トリメチルプロピオンアミドの大気圧下での沸点は175℃であって、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの大気圧下での沸点は177℃である。このように、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、芳香族ジアミンジオール、ジカルボニル化合物、及び生成するポリベンゾオキサゾール前駆体を溶解可能な溶媒の中では比較的沸点が低い。このため、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレアから選択される少なくとも1種を含む溶剤を用いて合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体を用いてポリベンゾオキサゾール樹脂を形成すると、ポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱する際に、生成するポリベンゾオキサゾール樹脂中に溶剤が残存しにくく、得られるポリベンゾオキサゾール樹脂の引張伸度の低下等を招きにくい。
【0064】
さらに、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、EU(欧州連合)でのREACH規則において、有害性が懸念される物質であるSVHC(Substance of Very High Concern、高懸念物質)に指定されていないように、有害性が低い物質である点でも有用である。
【0065】
ポリベンゾオキサゾール前駆体の調製に用いる溶剤中の、前述の化合物(A)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。溶剤の質量に対する化合物(A)の比率は、典型的には、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%であるのが最も好ましい。
【0066】
化合物(A)とともに使用することができる有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素極性溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びイソホロン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、及び酢酸−n−ブチル等のエステル類;ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート等の環状エステル類;トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられる。
【0067】
≪ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法≫
本発明において、ポリベンゾオキサゾール前駆体は、前述の芳香族ジアミンジオールと、ジカルボニル化合物とを、前述の式(5)で表される化合物(A)を含む溶剤中で、周知の方法に従って反応させることによって製造される。以下ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法の代表的な例として、ジカルボニル化合物がジアルデヒド化合物である場合の製造方法と、ジカルボニル化合物がジカルボン酸ハライドである場合の製造方法とについて説明する。
【0068】
[芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応]
芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応は、前述の式(5)で表される化合物(A)を含む溶剤中で行われる。芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応はシッフ塩基の形成反応であり、周知の方法に従って行うことができる。反応温度は特に限定されないが、通常、20〜200℃が好ましく、20〜160℃がより好ましく、100〜160℃が特に好ましい。
【0069】
芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応は、溶剤にエントレーナーを添加し、還流脱水しながら行われてもよい。エントレーナーとしては、特に限定されず、水と共沸混合物を形成し、室温にて水と二相系を形成する有機溶剤から適宜選択される。エントレーナーの好適な例としては、酢酸イソブチル、酢酸アリル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、及びプロピオン酸イソブチル等のエステル;ジクロロメチルエーテル、及びエチルイソアミルエーテル等のエーテル類;エチルプロピルケトン等のケトン類;トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0070】
芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応時間は特に限定されないが、典型的には2〜72時間程度が好ましい。
【0071】
ポリベンゾオキサゾール前駆体を製造する際の、ジアルデヒド化合物の使用量は、芳香族ジアミンジオール1モルに対して、0.5〜1.5モルであるのが好ましく、0.7〜1.3モルであるのがより好ましい。
【0072】
溶剤の使用量は、芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、芳香族ジアミンジオールの質量と、ジアルデヒド化合物の質量との合計に対して、1〜40倍、好ましくは1.5〜20倍の質量の溶剤が使用される。
【0073】
芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物との反応は、生成するポリベンゾオキサゾール前駆体の数平均分子量が、1000〜20000、好ましくは1200〜5000となるまで行われるのが好ましい。
【0074】
[芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応]
芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応は、前述の式(5)で表される化合物(A)を含む溶剤中で行われる。反応温度は特に限定されないが、通常、−20〜150℃が好ましく、−10〜150℃がより好ましく、−5〜70℃が特に好ましい。芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応ではハロゲン化水素が副生する。かかるハロゲン化水素を中和するために、トリエチルアミン、ピリジン、及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン等の有機塩基や、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を、反応液中に少量加えてもよい。
【0075】
芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応時間は特に限定されないが、典型的には2〜72時間程度が好ましい。
【0076】
ポリベンゾオキサゾール前駆体を製造する際の、ジカルボン酸ジハライドの使用量は、芳香族ジアミンジオール1モルに対して、0.5〜1.5モルであるのが好ましく、0.7〜1.3モルであるのがより好ましい。
【0077】
溶剤の使用量は、芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、芳香族ジアミンジオールの質量と、ジカルボン酸ジハライドの質量との合計に対して、1〜40倍、好ましくは1.5〜20倍の質量の溶剤が使用される。
【0078】
芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライドとの反応は、生成するポリベンゾオキサゾール前駆体の数平均分子量が、1000〜20000、好ましくは1200〜5000となるまで行われるのが好ましい。
【0079】
以上説明した方法により、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液が得られる。ポリベンゾオキサゾール樹脂を生成させる場合には、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液をそのまま用いることができる。また、減圧下に、ポリベンゾオキサゾール前駆体のポリベンゾオキサゾール樹脂への変換が生じない程度の低温で、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液から溶剤の少なくとも一部を除去して得られる、ポリベンゾオキサゾール前駆体のペースト又は固体を用いることもできる。また、上記の反応により得られるポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液に対して、前述の式(5)で表される化合物(A)等を適量加えて、固形分濃度が調整されたポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液をポリベンゾオキサゾール樹脂の調製に用いることもできる。
【0080】
≪ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法≫
上記のようにして得られるポリベンゾオキサゾール前駆体を、加熱してポリベンゾオキサゾール樹脂を生成させる。その際、ポリベンゾオキサゾール前駆体は、120〜350℃、好ましくは150〜350℃に加熱される。このような範囲の温度でポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱することにより、生成するポリベンゾオキサゾール樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、ポリベンゾオキサゾール樹脂を生成させることができる。
【0081】
また、ポリベンゾオキサゾール前駆体の加熱を高温で行う場合、多量のエネルギーの消費や、高温での処理設備の経時劣化が促進される場合があるため、ポリベンゾオキサゾール前駆体の加熱を低めの温度で行うことも好ましい。具体的には、ポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱する温度の上限を、250℃以下とするのが好ましく、220℃以下とするのがより好ましく、200℃以下とするのが特に好ましい。
【0082】
ポリベンゾオキサゾール前駆体を加熱する際の、ポリベンゾオキサゾール前駆体の形態は特に限定されない。ポリベンゾオキサゾール前駆体の形態の例としては、膜、繊維や、直方体、球、半球、及び円柱等が挙げられる。
以下、ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法の代表例として、ポリベンゾオキサゾール樹脂膜の製造方法について説明する。
【0083】
ポリベンゾオキサゾール樹脂膜を製造する際、ポリベンゾオキサゾール前駆体膜は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を基体上に塗布して形成されるのが好ましい。基体の材質は、ポリベンゾオキサゾール前駆体膜を加熱する際に、熱劣化や変形が生じないものであれば特に限定されない。また、基体の形状も、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を塗布可能であれば特に限定されない。基体の例としては、絶縁されるべき電極や配線が形成された、半導体素子等の電子素子や多層配線基板等の中間製品や、種々の基板が挙げられる。基体が基板である場合の、好適な基板の材質としては、ガラス;シリコン;アルミニウム(Al);アルミニウム−ケイ素(Al−Si)、アルミニウム−銅(Al−Cu)、アルミニウム−ケイ素−銅(Al−Si−Cu)等のアルミニウム合金;チタン(Ti);チタン−タングステン(Ti−W)等のチタン合金;窒化チタン(TiN);タンタル(Ta);窒化タンタル(TaN);タングステン(W);窒化タングステン(WN);銅が挙げられる。
【0084】
半導体素子等の電子素子や多層配線基板等を基体として用いて、基体上にポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成することによって、電子素子や多層配線基板にポリベンゾオキサゾール樹脂からなる絶縁膜を形成することができる。また、板上の基板を基体として用いて、ポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成することによって、ポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得ることができる。基板上に形成されるポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムは、基板上で、そのまま使用されてもよいし、基板から剥離させた状態で使用されてもよい。
【0085】
基体上にポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を塗布する方法は、特に限定されない。基体上にポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を塗布する方法の例としては、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、及び浸漬法等が挙げられる。基体上に形成されるポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液の塗布膜の膜厚は特に限定されないが、0.8〜350μmが好ましく、1.3〜85μmがより好ましい。このような膜厚でポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を塗布すると、短時間の加熱で、所望の性質のポリベンゾオキサゾール樹脂膜を得やすい。
【0086】
形成されるポリベンゾオキサゾール樹脂膜の膜厚は特に限定されないが、0.5〜200μmが好ましく、0.8〜50μmがより好ましい。ポリベンゾオキサゾール樹脂膜の膜厚は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液の固形分濃度や、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液からなる塗布膜の膜厚を調整することにより調整することができる。
【0087】
上記の方法によれば、ポリベンゾオキサゾール前駆体を低温で熱処理する場合でも、引張伸度のような機械的特性や耐薬品性に優れ、着色が抑制され透明性の高いポリベンゾオキサゾール樹脂を製造できる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1〜14、及び比較例1〜3]
実施例及び比較例において、芳香族ジアミンジオールとして以下のDA1及びDA2を用い、ジカルボニル化合物として以下のDC1及びDC2を用いた。
DA1:2,2'−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン
DA2:4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル
DC1:イソフタルアルデヒド
DC2:テレフタル酸二クロライド
【0090】
各実施例及び比較例において、ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する際に、下記の溶剤S1〜S6を用いた
S1:N,N,N’,N’−テトラメチルウレア(TMU)
S2:N,N,2−トリメチルプロパンアミド(DMIB)
S3:N,N,N’,N’−テトラメチルウレア(TMU)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)との等モル混合物(質量比:TMU/NMP=54.0/46.0)
S4;N,N,2−トリメチルプロパンアミド(DMIB)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)との等モル混合物(質量比:TMU/NMP=53.9/46.1)
S5:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)
S6:N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)
【0091】
ポリベンゾオキサゾール前駆体を以下の方法に従って調製した。ポリベンゾオキサゾール前駆体の調製方法について、芳香族ジアミンジオールとジアルデヒド化合物(DC1)との反応、及び芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸ジハライド(DC2)との反応を以下に記す。
【0092】
(芳香族ジアミンジオールと、ジアルデヒド化合物との反応)
回転子を入れた三角フラスコに、表1に記載の種類の芳香族ジアミンジオール2mmolと、表1に記載の種類の溶剤1mLを加えた後、マグネッチックスターラーを用いてフラスコの内容物5分間撹拌した。その後、DC1(イソフタルアルデヒド)2mmolをフラスコ内に入れ、窒素雰囲気下でフラスコの内容物を3時間還流させて反応を行った。次いで、減圧蒸留にて、反応液を脱水し、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を得た。一例として、実施例1では、ポリベンゾオキサゾール前駆体の数平均分子量は約1500であった。
【0093】
(芳香族ジアミンジオールと、ジカルボン酸ジハライドとの反応)
回転子を入れた三角フラスコに、表1に記載の種類の芳香族ジアミンジオール4mmolと、トリエチルアミン8mmolと、表1に記載の種類の溶剤1mLを加えた。次いで、DC2(テレフタル酸ジクロライド)4mmolを表1に記載の種類の溶剤1mLに溶解させた溶液を、窒素雰囲気下において、三角フラスコ内に0℃で30分かけて滴下した。滴下終了後、室温にて三角フラスコ内の反応液をさらに5時間撹拌して、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を得た。
【0094】
各実施例及び比較例で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を用いて下記の方法に従ってポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成し、ポリベンゾオキサゾール樹脂膜の引張伸度と、製膜性と、耐薬品性(NMP)と、着色とを評価した。これらの評価結果を表1に記す。
【0095】
(引張伸度評価)
得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液をウエハ基板上に、アプリケーター(YOSHIMITSU SEIKI製、TBA−7型)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1に記載の温度で20分間加熱して、膜厚約10μmのポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成した。得られたポリベンゾオキサゾール樹脂膜から、IEC450規格に従った形状のダンベル型試験片を打ち抜いて、引張伸度測定用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、チャック間距離20mm、引張速度2mm/分の条件で、万能材料試験機(TENSILON、株式会社オリエンテック製)によって、ポリベンゾオキサゾール樹脂の破断伸度を測定した。破断伸度が25%以上である場合を○と判定し、25%未満である場合を×と判定した。引張伸度の評価結果を表1に記す。
【0096】
(製膜性評価)
引張伸度評価と同様にして膜厚約10μmのポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成した。得られたポリベンゾオキサゾール樹脂膜を目視観察し、ポリイミド膜上の、膨れ、割れ、発泡等の不具合を確認した。これらの不具合がポリイミド膜の全面積の10〜30%程度の範囲に観察されたものを○と判定し、これらの不具合がポリイミド膜の全面積の約30%の範囲を超えて観察されたものを×と判定した。
【0097】
(耐薬品性評価)
引張伸度評価と同様にして膜厚約10μmのポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成した。形成された膜上にNMPを1cc滴下し、1分間放置した後にNMPを除去した。NMP除去後の膜の表面状態を目視で観察し、膜表面に変化がなかったものを○とし、膜表面に窪み等の痕が残ったものを×とした。
【0098】
(着色評価)
引張伸度評価と同様にして膜厚約10μmのポリベンゾオキサゾール樹脂膜を形成した。得られたポリベンゾオキサゾール樹脂膜を目視観察し、着色が認められず透明だったものを○と判定し、着色が認められたものを×と判定した。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例1〜14によれば、前述の式(5)の構造を有する化合物(A)を含む溶剤を用いて合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を所定の温度で加熱することにより、200℃未満の低温での焼成であっても、300℃超の高温での焼成であっても、樹脂の着色による透明性の低下を抑制しつつ、引張伸度及び耐薬品性に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂が得られることが分かる。また、実施例1〜14に関する製膜性の試験の結果によれば、前述の式(5)の構造を有する溶剤を用いて合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液からなる薄膜を熱処理することにより、ブリスター、割れ、ピンホール等の欠陥の無いポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られることが分かる。
【0101】
比較例1〜3によれば、前述の式(5)の構造を有する溶剤を用いない場合、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶液を加熱してポリベンゾオキサゾール樹脂を製造する際に、ポリベンゾオキサゾール樹脂が着色しやすいことが分かる。また、比較例1〜3によれば、前述の式(5)の構造を有する化合物(A)を含む溶剤を用いない場合、溶剤の種類や焼成温度によっては、引張伸度や耐薬品性に優れるポリベンゾオキサゾール樹脂が得られなかったり、ブリスター、割れ、ピンホール等の欠陥の無いポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られなかったりすることが分かる。