【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0082】
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR4100)を用い、KBrプレート法にてBO基含有ジアミンの赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にてBO基含有ポリイミド前駆体およびBO基含有ポリイミド薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
<
1H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でBO基含有ジアミンの
1H−NMRスペクトルを測定した。
【0083】
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
BO基含有ジアミンの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5重量%のBO基含有ポリイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0084】
<ガラス転移温度(T
g)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、室温〜500℃の温度範囲で周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からBO基含有ポリイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。尚、明瞭なガラス転移が観測されない場合は未検出(ND)と表記する。T
gが高い程、より高温まで急激な軟化が抑制されていることを表し、本測定によりT
gが未検出の場合、フィルム試料の軟化は測定温度範囲内では全く起こらないことを表す。
【0085】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm当たり、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてBO基含有ポリイミドフィルム(膜厚約20μm)のCTEを求めた。CTE値が0に近いほど熱工程に対する寸法安定性にすぐれていることを表す。
【0086】
<5%重量減少温度(T
d5)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、BO基含有ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど熱安定性が高く、より高温までVOCの発生が抑制されていることを表す。
【0087】
<弾性率、破断伸び、破断強度>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、BO基含有ポリイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
【0088】
[合成例1]
3つ口フラスコ中、DAR二塩酸塩(東京化成社製、2.14g、10mmol)をよく脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP、40mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン(3.2mL、40mmol)を添加し、セプタムキャップでシールしてA液とした。次に別のナス型フラスコ中、4−ニトロ安息香酸クロリド(4.57g、30mmol)をNMP(10mL)に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とした。A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、ジアミド体を合成した。
【0089】
次に氷浴を外し、室温で12時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液にp−トルエンスルホン酸一水和物(3.42g、18mmol)を加え、200℃のオイルバスにて6時間還流を行った。室温で静置し生成した沈殿物を濾別して水で洗浄した。この際、洗液に1%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、120℃で12時間真空乾燥して収率74%で緑色針状晶を得た。この生成物はDMSO−d
6やCDCl
3に殆ど不溶であったため、
1H−NMR測定は実施できなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルは、3095cm
−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、1602cm
−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1516/1350cm
−1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O−H伸縮振動バンドは見られなかった。これらの結果から生成物は目的とする下記式(17)で表されるBO基含有ジニトロ体であると考えられる。
【0090】
【化17】
【0091】
次に3つ口フラスコ中、上記のジニトロ体(1.00g、2.48mmol)をNMP(50mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.10g)を加え、水素雰囲気中120℃で7時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、熱濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を室温まで冷却し、大量の水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾別し、水で繰り返し洗浄した後、120℃で12時間真空乾燥して収率66%で融点414℃の紺色粉末を得た。
この生成物の赤外線吸収スペクトルは3469/3316/3197cm
−1にアミノ基N−H伸縮振動バンド、1620cm
−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1503cm
−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドを示し、ニトロ基伸縮振動バンドやアミドC=O伸縮振動バンドは見られなかった、
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):8.07(s,1H)、7.88−7.86(m,5H)、6.70(d,4H,J=8.64Hz)、6.00(s,4H,NH
2)および元素分析:推定値C;70.17%、H;4.12%、N;16.37%、分析値C;69.68%、H;4.29%、N;16.15%より、この生成物は目的とする上記式(13)で表されるBO基含有ジアミンであることが確認された。
【0092】
[合成例2]
3つ口フラスコ中、p−HAB(和歌山精化社製、2.61g、12mmol)をよく脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP、81mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン(2.9mL、36mmol)を添加し、セプタムキャップでシールしてA液とした。次に別のナス型フラスコ中、4−ニトロ安息香酸クロリド(4.49g、24mmol)をNMP(17mL)に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とした。A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、ジアミド体を合成した。
次に氷浴を外し、室温で数時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液に適当量のp−トルエンスルホン酸(1.90g、11mmol)を加え、200℃のオイルバスにて3時間還流を行った。生成した沈殿物を濾過により回収して水で洗浄した。この際、洗液に1%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、100℃で12時間真空乾燥して収率81%で融点401℃の黄色針状晶を得た。
この生成物はDMSO−d
6やCDCl
3に殆ど不溶であったため、
1H−NMR測定は実施しなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルは1605cm
−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1518/1348cm
−1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O−H伸縮振動バンドは見られなかった。これらの結果から生成物は目的とする下記式(18)で表されるBO基含有ジニトロ体であると考えられる。
【0093】
【化18】
【0094】
次に3つ口フラスコ中、上記ジニトロ体(6.13g、11.9mmol)をNMP(250mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.63g)を加え、水素雰囲気中100℃で15時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を大量の水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾過により回収し、水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥して粗生成物収率82%で茶色粉末を得た。更に純度を高めるため、γ−ブチロラクトンから再結晶を行い、最後に100℃で12時間真空乾燥して融点354℃の茶色板状晶を得た。この生成物の赤外線吸収スペクトルは3454/3380/3210cm
−1にアミノ基N−H伸縮振動バンド、1621/1607cm
−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1499cm
−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドを示し、ニトロ基伸縮振動バンドやアミドC=O伸縮振動バンドは見られなかった、
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):8.06(s,2H)、7.90−7.88(d,4H)、7.75−7.71(m,4H)、6.72−6.70(d,4H)、6.04(s,4H)および元素分析:推定値C;74.63%、H;4.34%、N;13.39%、分析値C;74.41%、H;4.47%、N;13.26%より、この生成物は目的とする下記式(19)で表されるBO基含有ジアミンであることが確認された。
【0095】
【化19】
【0096】
<ポリイミド前駆体の重合、イミド化およびポリイミドフィルムの特性評価>
[実施例1]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン1mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMP2.5mLを加えて撹拌した。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、(和光純薬社製、以下BPDAと称する)粉末1mmolを加えた。溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には13重量%まで希釈し、室温で11日攪拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中におけるポリイミド前駆体の固有粘度は0.77dL/gであった。
図1に得られたポリイミド前駆体の薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。3325cm
−1にアミド基N−H伸縮振動バンド、3100/3044cm
−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、2624/2539cm
−1にブロードな吸収帯(水素結合性COOH基O−H伸縮振動バンド)、1702cm
−1に水素結合性COOH基C=O伸縮振動バンド、1672cm
−1/1533cm
−1にアミド基C=O伸縮振動バンド、1503cm
−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドが観測されることから、目的とするポリイミド前駆体の生成が確認された。
【0097】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で3時間乾燥してポリイミド前駆体フィルムを作製した。これをガラス基板ごと250℃で1時間、更に350℃で1時間真空中で熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に真空中、最終熱処理温度:400℃で1時間熱処理を行い、膜厚20μmの柔軟なBO基含有ポリイミドフィルムを得た。
図2に同一条件で別途作製されたポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。3098/3068cm
−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、1775/1719cm
−1にイミド基C=O伸縮振動バンド、1618cm
−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1504cm
−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンド、1358cm
−1にイミド基N−C(芳香族)伸縮振動バンドが観測され、COOH基やアミド基に由来する吸収帯が見られないことから、イミド化反応は完結しており、目的とするポリイミドの生成が確認された。
【0098】
BO基含有ポリイミドフィルム(膜厚20μm)について動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、明瞭なガラス転移点は観測されなかった。また、線熱膨張係数は12.4ppm/Kと非常に低い値を示した。これは本発明のBO基含有ポリイミドの主鎖構造が極めて剛直で直線性が高いことに由来して、熱イミド化工程においてポリイミド主鎖がフィルム面に対して平行な方向に著しく配向したことによるものと考えられる。
また、5%重量減少温度は窒素中で594℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
更に、破断伸び15%であり、フィルムをハゼ折りしても破断せず。十分な膜靱性も保持していた。
【0099】
[実施例2]
ジアミン成分として上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン(0.5mmol)と下記式(20)で表されるジアミン(0.5mmol)を併用し、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDAの代わりに2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(1mmol、JFEケミカル社製、以下NTDAと称する)を用い、溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には15重量%まで希釈し、室温で72時間撹拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中におけるポリイミド前駆体の固有粘度は1.29dL/gであった。
得られたポリイミド前駆体ワニスを実施例1に記載した方法に従って製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。
動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、極めて高いT
g(407℃)が観測された。
線熱膨張係数(CTE)は、3.3ppm/Kとシリコンウエハに匹敵する極めて低い値を示した。
5%重量減少温度は、窒素中609℃、空気中で543℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
さらに機械的特性を評価した結果、引張弾性率(ヤング率)6.80GPa、破断伸び15%であり、フィルムをハゼ折りしても破断せず。十分な膜靱性も保持していた。
【0100】
【化20】
【0101】
[実施例3]
ジアミン成分として上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン(1.5mmol)と上記式(19)で表されるジアミン(1.5mmol)を併用し、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDAの代わりにNTDA(3mmol)を用い、溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には14重量%まで希釈し、室温で72時間撹拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の還元粘度は0.94dL/gであった。
得られたポリイミド前駆体ワニスを実施例1に記載した方法に従って製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、極めて高いT
g(412℃)が観測された。線熱膨張係数(CTE)は、5.4ppm/Kと極めて低い値を示した。5%重量減少温度は窒素中600℃、空気中で542℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
【0102】
[比較例1]
テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)、ジアミン成分としてp−フェニレンジアミン(PDA)を用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムは極めて低いCTE(2.8ppm/K)を示したが、非常に脆弱であり破断伸びは0%であった。また、このフィルムはハゼ折りすると容易に破断した。これは、このポリイミド系の棒状主鎖構造に由来するもので、ポリマー鎖間の絡み合いが殆どないためである。
【0103】
[比較例2]
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDA、ジアミン成分として4,4’−オキシジアニリンを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。このポリイミドフィルムは極めて高いガラス転移温度(408℃)を示し、破断伸び85%と優れた靱性を有していたが、CTEは42.8ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。
【0104】
[比較例3]
テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA、ジアミン成分として上記式(20)で表されるジアミンを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムのCTEは23.0ppm/Kとなり、CTEの増加が見られた。
【0105】
[比較例4]
テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA、ジアミン成分としてPDAを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムのCTEは12.0ppm/K、5%重量減少温度は窒素中で588℃であった。