特許第6293457号(P6293457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293457
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ポリイミドおよび耐熱性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20180305BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08J5/18CFG
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-233646(P2013-233646)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93915(P2015-93915A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集62巻1号[2013](平成25年5月14日 公益社団法人高分子学会発行)1382頁 1Pa079 「ベンゾアゾール環を含むポリイミド(9).超耐熱性と低熱膨張特性を発現するための方策」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年5月29日京都国際会館において開催された第62回高分子学会年次大会(公益社団法人高分子学会)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−251584(JP,A)
【文献】 特表平10−508059(JP,A)
【文献】 特表平11−505184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10−73/16
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)(式中、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【化1】
【請求項2】
下記式(1)(式中、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位、及び下記式(5)(式中、Xは下記式(6)〜(10)(式(9)中、ZはO又はNHを表す)より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基を表し、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体。
【化2】
【請求項3】
式(1)で表される繰り返し単位と式(5)で表される繰り返し単位のmol比率(式(1):式(5))が40:60〜99.9:0.01である請求項2記載のポリイミド共重合体。
【請求項4】
請求項1記載のポリイミド又は請求項2又は3記載のポリイミド共重合体を有して成る耐熱性フィルム。
【請求項5】
厚さが1〜200μmである請求項4記載の耐熱性フィルム。
【請求項6】
i)線熱膨張係数が15ppm/K以下であり、
ii)ガラス転移温度が370℃以上であるか、又は動的粘弾性測定によりガラス転移が不検出であり、
iii)窒素雰囲気下での加熱における5%重量減少温度が570℃以上であり、且つ
iv)破断伸びが10%以上である、
請求項4又は5記載の耐熱性フィルム。
【請求項7】
光電変換素子、発光素子又は電子回路の電気絶縁基板材料用である請求項4〜6のいずれか1項記載の耐熱性フィルム。
【請求項8】
下記式(11)(式中、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【化3】
【請求項9】
下記式(11)(式中、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位、及び下記式(12)(式中、Xは下記式(6)〜(10)(式(9)中、ZはO又はNHを表す)より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基を表し、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体の共重合体。
【化4】
【請求項10】
式(11)で表される繰り返し単位と式(12)で表される繰り返し単位のmol比率(式(11):式(12))が40:60〜99.9:0.01である請求項9記載のポリイミド前駆体の共重合体。
【請求項11】
固有粘度が0.3dL/g以上である請求項8記載のポリイミド前駆体、もしくは請求項9又は10記載のポリイミド前駆体の共重合体。
【請求項12】
請求項8又は請求項11記載のポリイミド前駆体、もしくは請求項9〜11のいずれか1項記載のポリイミド前駆体の共重合体を有する耐熱性フィルム形成用ワニス。
【請求項13】
請求項12記載の耐熱性フィルム形成用ワニスを基板上に塗布し、これを375〜450℃の最終熱処理温度で加熱脱水環化反応する、耐熱性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドに関し、更に詳述すると、例えば有機EL素子といったデバイスの基板材料に適した、低い線熱膨張係数、高いガラス転移温度、高い耐熱性及び高い膜靱性を有するポリイミド、当該ポリイミドからなる耐熱性フィルム、当該耐熱性フィルムを与える耐熱性フィルム形成用ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種画像表示装置や太陽電池の軽量化や脆弱性改善を主な目的として、無機ガラス基板をプラスチック基板に置き換えようとする検討が行われている。しかしながら、ガラス並みの特性即ち無色透明性、高度な低熱膨張特性および超耐熱性を有し且つガラスの欠点である脆弱性を大幅に改善した、理想的なプラスチック基板材料を得ることは、現行の技術では極めて困難である。
【0003】
全芳香族ポリイミドは現存する樹脂の中では最高の耐熱性(ハンダ耐熱性)を有するため、エレクトロニクス分野を中心に様々な用途の部材に適用されている。しかしながら、従来のポリイミドフィルムは、分子構造由来の電荷移動相互作用により強く着色しており、例えば非特許文献1参照)、また、各種プロセス適合性のために求められる高度な低熱膨張特性は必ずしも十分ではない。
そのため、現行のポリイミドフィルムをなんら特性改善することなくそのままプラスチック基板等の光学部材に適用することは困難である。
【0004】
これに対して、ポリイミドのモノマーであるジアミンかテトラカルボン酸二無水物のどちらか一方、あるいは両方に脂環式モノマーを使用することで電荷移動相互作用を著しく妨害してポリイミドを完全に無色透明化する技術が開示されている(例えば非特許文献2〜4参照)。
しかしながら、この場合、ポリイミド骨格中に耐熱性に劣る脂環構造単位が導入されるため、従来の全芳香族ポリイミドに比べると、熱安定性の大幅な低下は避けられない。また、脂環構造の導入はポリイミド主鎖の直線性の低下も招くため、無色透明ポリイミドはしばしば低熱膨張特性を示さない。
このように、プラスチック基板として全ての要求特性を完璧に満たすことは材料設計上容易なことではない。
【0005】
一方、用途によっては、上記特性の内のいくつかの限られた要求特性に特化したプラスチック基板材料が求められる場合がある。1つの例として、トップ・エミッション方式の有機発光ダイオード(OLED)ディスプレーで用いられるプラスチック基板が挙げられる。
【0006】
現行のボトム・エミッション方式OLEDディスプレー用途では、プラスチック基板上に発光素子を形成していく過程で300℃以上場合によっては400℃以上の高温プロセスがあり、その工程中に基板材料自身から揮発性有機化合物(VOC)が発生すると素子に深刻な悪影響を及ぼすおそれがある。
そのため、ボトム・エミッション方式OLED用プラスチック基板材料には、できるだけ高温域までVOCの発生を抑制するための極めて高い熱安定性、高度な熱寸法安定性即ち低熱膨張特性、ガラス並みの無色透明性および優れた膜形成能(膜靱性)を併せ持つ、従来にないプラスチック基板材料が求められているが、これをターゲットとする樹脂材料開発のハードルは極めて高い。
【0007】
一方、高精細化等の有利性から、最近、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレーが検討されている。この方式では発光層から放出された光がプラスチック基板とは反対方向に取り出されるので放出光がプラスチック基板を通過しないため、プラスチック基板自身の着色は重大な問題ではない。
そのため、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板では、極めて高いVOC抑制能(基板材料自身からVOCが発生しない性質のことである。以下同じ。)、極めて低い線熱膨張係数(以下CTEと称する)および優れた膜形成能(膜靱性)が求められる。
【0008】
しかしながら、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板に求められる上記の要求特性でさえも、全てを同時に達成する実用的な材料は知られていないのが現状である。
【0009】
VOC抑制能を極限まで高めるためには、脂肪族炭化水素基、チオエーテル基、スルホン基、アミン基、カーボネート基、ウレア基、ウレタン基、アミド基、エステル基、アルキレン基、イソプロピリデン基、シクロヘキシレン基等といった耐熱性に劣る置換基や連結基を完全に排除することが望ましい。
【0010】
一方、高度な低熱膨張特性発現の観点からは、極めて剛直で直線的な主鎖構造とすることが望ましい。
【0011】
よって、VOC抑制と低熱膨張特性の観点から、理想的な分子構造として式(X1)で示されるパラフェニレン基からなるポリパラフェニレンが挙げられる。しかし、ポリパラフェニレンは有機溶媒溶解性を全く有していないため、これを重合して得ようとすると分子量が増加する前に沈殿が生じ、重合反応そのものが極めて困難である。
【0012】
【化1】
【0013】
これに対し、剛直で直線的な主鎖構造を有する下記式(X2)で表されるポリイミドは、それ自身は一般の有機溶媒に全く不溶であるが、下記式(X3)で表されるアミド系溶媒可溶性の前駆体(ポリアミド酸)の段階で溶液キャスト法によりフィルム状に成形しておき、これを高温で加熱脱水環化反応(イミド化反応)処理することで容易にポリイミドフィルムを得ることができ、そのフィルムが極めて低いCTEを示すことが報告されている(例えば非特許文献5参照)。
【0014】
【化2】
【0015】
ポリアミド酸の優れたアミド系溶媒溶解性は、上記式(X3)における置換基であるCOOH基の強い溶媒和能によるものである(例えば非特許文献6参照)。
【0016】
しかしながら、下記式(X2)で表される系では、高分子鎖同士の絡み合いが殆どないために、ポリイミドフィルムがしばしば著しく脆弱化して膜形成能を完全に失うという重大な問題があった(例えば非特許文献5参照)。
【0017】
一方、耐熱性の観点から、ポリイミドに匹敵する超耐熱性を有するポリベンゾオキサゾールも上記トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板材料の候補となり得る。
例えば、下記式(X4)で表されるポリベンゾオキサゾールは、上記用途に適用するのに理想的な分子構造即ち置換基や連結基を一切含まず、剛直で直線状の主鎖構造を有している。
【0018】
【化3】
【0019】
ポリイミドと同様にポリベンゾオキサゾールそれ自身は一般の有機溶媒に通常全く不溶であるので、ポリベンゾオキサゾール前駆体が溶媒に可溶であるならばこれを経由してポリベンゾオキサゾールフィルムを製造することが原理的には可能である。
【0020】
しかしながら、ポリベンゾオキサゾール前駆体を得るためには、モノマーを活性誘導体にあらかじめ変換しておく工程が必要であり、そのような工程を一切必要としないポリイミド前駆体の重合工程に比べると、ポリベンゾオキサゾール前駆体の重合工程は相当煩雑である。
この点に加え、VOC抑制能と低熱膨張特性の発現を目指して、上記式(X4)に例示したように、ポリベンゾオキサゾールから連結基を完全に排除した上で、剛直で直線性の高い主鎖構造となるように分子設計すると、ポリベンゾオキサゾールの前駆体であるポリヒドロキシアミドの段階でさえも有機溶媒溶解性が乏しいという重大な問題があった(例えば非特許文献7参照)。
【0021】
これは、例えば、下記式(X5)で表されるポリヒドロキシアミドの置換基であるフェノール性OH基の溶媒和能が弱いためである。
【0022】
【化4】
【0023】
このような事情により、ポリイミドフィルムを製造する際に通常用いられる簡便な2段階製膜工程、即ち、前駆体ワニスの塗布・乾燥後、加熱脱水環化反応を行う工程をそのまま適用して、ポリベンゾオキサゾールフィルムを製造することは困難である。
【0024】
ポリイミド系のように簡便な製造工程(容易な前駆体重合工程と引き続く2段階製膜工程)に適合し、且つ耐熱性に乏しい置換基や連結基を含まず剛直で直線性の高い主鎖構造を有する新規なポリベンゾオキサゾール系を得ることができれば、該技術分野において特に上記プラスチック基板材料として従来にない極めて有益な材料を提供しうるが、そのような材料は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001).
【非特許文献2】React. Funct. Polym., 30, 61-69 (1996).
【非特許文献3】Macromolecules, 32, 4933-4939 (1999).
【非特許文献4】Macromol. Res., 15, 114-128 (2007).
【非特許文献5】High Perform. Polym., 21, 709-728 (2009).
【非特許文献6】J. Polym. Sci., Part A, 25, 2479-2491 (1987).
【非特許文献7】J. Photopolym. Sci. Technol., 17, 253-258 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低い線熱膨張係数、高いガラス転移温度、高い耐熱性及び高い膜靱性を有し、特に、OLEDの基板材料に適用することで、デバイスの軽量化や脆弱性改善に寄与し得る、ポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ベンゾオキサゾール基(以下、ベンゾオキサゾール基を「BO基」と略記する)を含むジアミン化合物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とから誘導され、分子内に耐熱性に劣る置換基や連結基を有しない下記式(1)で示されるポリイミドが、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板材料に要求される特性、即ち、極めて高いVOC抑制能、高度な低熱膨張特性および優れた膜形成能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
即ち、本発明は以下に示すものである。
<1> 下記式(1)(式中、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【0029】
【化5】
【0030】
<2> 下記式(1)(式中、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位、及び下記式(5)(式中、Xは下記式(6)〜(10)(式(9)中、ZはO又はNHを表す)より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリイミド共重合体。
【0031】
【化6】
【0032】
<3> 式(1)で表される繰り返し単位と式(5)で表される繰り返し単位のmol比率(式(1):式(5))が40:60〜99.9:0.01である<2>記載のポリイミド共重合体。
<4> <1>記載のポリイミド、もしくは<2>又は<3>記載のポリイミド共重合体を有して成る耐熱性フィルム。
<5> 厚さが1〜200μmである<4>記載の耐熱性フィルム。
【0033】
<6> i)線熱膨張係数が15ppm/K以下であり、
ii)ガラス転移温度が370℃以上であるか、又は動的粘弾性測定によりガラス転移が不検出であり、
iii)窒素雰囲気下での加熱における5%重量減少温度が570℃以上であり、且つ
iv)破断伸びが10%以上である、<4>又は<5>記載の耐熱性フィルム。
<7> 光電変換素子、発光素子又は電子回路の電気絶縁基板材料用である<4>〜<6>のいずれかに記載の耐熱性フィルム。
【0034】
<8> 下記式(11)(式中、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【0035】
【化7】
【0036】
<9> 下記式(11)(式中、Xは下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基である)で表される繰り返し単位、及び下記式(12)(式中、Xは下記式(6)〜(10)(式(9)中、ZはO又はNHを表す)より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体の共重合体。
【0037】
【化8】
【0038】
<10> 式(11)で表される繰り返し単位と式(12)で表される繰り返し単位のmol比率(式(11):式(12))が40:60〜99.9:0.01である<9>記載のポリイミド前駆体の共重合体。
<11> 固有粘度が0.3dL/g以上である<8>記載のポリイミド前駆体、もしくは<9>又は<10>記載のポリイミド前駆体の共重合体。
<12> <8>又は<11>記載のポリイミド前駆体、もしくは<9>〜<11>のいずれかに記載のポリイミド前駆体の共重合体を有する耐熱性フィルム形成用ワニス。
【0039】
<13> <12>記載の耐熱性フィルム形成用ワニスを用いる耐熱性フィルムの製造方法。
<14> <12>記載の耐熱性フィルム形成用ワニスを基板上に塗布し、これを375〜450℃の最終熱処理温度で加熱脱水環化反応する、耐熱性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、低い線熱膨張係数、高いガラス転移温度、高い耐熱性及び高い膜靱性を有するポリイミドを提供することができる。特に、OLEDの基板材料に適用することで、デバイスの軽量化や脆弱性改善に寄与し得る、ポリイミドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例1に記載のポリイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
図2】実施例1に記載のポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ポリイミド>
本発明は、式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを提供する。式(1)中、Xが下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の4価の芳香族基、好ましくは下記式(3)又は(4)で表される芳香族基、より好ましくは下記式(3)で表される芳香族基である。
【0043】
【化9】
【0044】
本発明のポリイミドは、上記式(1)で表される繰り返し単位のみからなる単独重合体であっても、その他の繰り返し単位を有する重合体であってもよい。耐熱性、低線膨張特性、膜靱性の観点から、下記式(5)で表される繰り返し単位をさらに有する重合体であるのがよい。式(5)中、Xは下記式(6)〜(10)(式(9)中、ZはO又はNHを表す)より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基、好ましくは下記式(6)、(8)、(9)又は(10)で表される2価の芳香族基、より好ましくは下記式(9)又は(10)で表される2価の芳香族基を表す。
【0045】
【化10】
【0046】
本発明のポリイミドが、上記式(5)で表される繰り返し単位を有する場合、上記式(1)で表される繰り返し単位と上記式(5)で表される繰り返し単位のmol比率(式(1):式(5))が50:50〜99.9:0.01、好ましくは50:50〜90:10、より好ましくは50:50〜70:30であるのがよい。
本発明のポリイミドの繰り返し単位は、上記式(1)で表される繰り返し単位のみからなるか、又は上記式(1)及び式(5)で表される繰り返し単位のみからなるのがより好ましい。なお、本願において「Xのみからなる」とは、Xだけから構成され、その他の構成を含まないことを意味する。
【0047】
<ポリイミド前駆体>
本発明のポリイミド(以下、BO基含有ポリイミドともいう。)は、下記式(11)で表されるポリイミド前駆体、又は下記式(11)及び(12)で表されるポリイミド前駆体の共重合体(以下、BO基含有ポリイミド前駆体ともいう。)から製造することができる。なお、XおよびXは、上記と同じ定義である。
【0048】
【化11】
【0049】
上記式(11)又は(12)で表されるBO基含有ポリイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、例えば、以下の方法により得られる。
まず、下記式(13)で表されるジアミンを合成する。
【0050】
<BO基含有ジアミンの合成>
本発明のポリイミド前駆体およびポリイミドはそのモノマーであるテトラカルボン酸二無水物とBO基を含むジアミン(以下、BO基含有ジアミンという。)より得られる。
本発明で用いるBO基含有ジアミンは、下記式(13)で表される。
【0051】
【化12】
【0052】
上記式(13)で表されるBO基含有ジアミンは、例えば、出発原料として下記式(16)で表されるビス(o−アミノフェノール)またはその二塩酸塩を用いて合成される。以下、出発原料として式(16)で表される化合物の二塩酸塩を用いる方法について述べる。
【0053】
【化13】
【0054】
以下、ビス(o−アミノフェノール)として4,6−ジアミノレソルシノール二塩酸塩(以下、DARという。)を用いた場合のBO基含有ジアミンの合成方法について例示するが、合成方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0055】
まず、3つ口フラスコ中、DARをよく脱水したアミド系溶媒に溶解し、これに脱酸剤としてピリジンを添加し、セプタムキャップでシールしてA液とする。
次に、ナス型フラスコ中、DARの2〜5倍モル量の4−ニトロ安息香酸クロリドをA液と同様の溶媒に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とする。
そして、A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後撹拌を続け、ジアミド体を合成する。
【0056】
次に、氷浴を外し、室温で12時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液に適当量のp−トルエンスルホン酸一水和物を加え、数時間還流を行う。
生成した沈殿物を濾別して水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥して下記式(17)で表されるBO基含有ジニトロ体を得る。
【0057】
【化14】
【0058】
次に3つ口フラスコ中、上記ジニトロ体をアミド系溶媒に溶解し、触媒として適当量のPd/Cを加え、水素雰囲気中還元反応を行う。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡することができる。
反応終了後、濾過によりPd/Cを分離・除去した後、濾液を大量に水にゆっくりと滴下して生成物を析出させる。沈殿物を濾別して水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥する。必要に応じて適当な溶媒から再結晶して高純度化することもできる。
このようにして本発明のBO基含有ポリイミド前駆体の重合に供することのできる上記式(13)で表されるBO基含有ジアミンを得ることができる。
【0059】
次に、このBO基含有ジアミンを溶媒に溶解し、これに式(14)で表されるテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間、好ましくは1〜72時間攪拌する。
【0060】
【化15】
【0061】
この際、式(13)で示されるジアミンと式(14)で示されるテトラカルボン酸二無水物との物質量(mol)比は、ジアミン1に対して、0.8〜1.1とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1であり、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0062】
また、モノマー濃度は、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、モノマー及びポリマーの溶解性を十分確保することができ、均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
本発明のBO基含有ポリイミドフィルムの靭性の観点から、BO基含有ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましく、それゆえ、モノマー濃度を5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%に調整してポリイミド前駆体を重合することが好ましい。
【0063】
なお、BO基含有ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、重合溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜同一溶媒で希釈することもできる。
【0064】
また、BO基含有ポリイミドフィルムの靭性およびその前駆体ワニスのハンドリングの観点から、BO基含有ポリイミド前駆体の固有粘度は、0.3dL/g以上、好ましくは0.3〜5.0dL/g、より好ましくは0.5〜5.0dL/gであるのがよい。
【0065】
本発明のBO基含有ポリイミドの要求特性、即ち、極めて高い熱安定性の発現という観点から、BO基含有ポリイミドを重合する際に、フェニル基以外の置換基やエーテル基以外の連結基を一切含まない芳香族テトラカルボン酸二無水物が用いられる。また、脂環式テトラカルボン酸の使用は例え少量であっても熱安定性を著しく損なうおそれがあり好ましくない。
【0066】
本発明のBO基含有ポリイミド前駆体を重合する際、テトラカルボン酸二無水物成分として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が用いられる。またこれらを2種類以上用いてもよい。
【0067】
本発明のBO基含有ポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、上記以外のテトラカルボン酸二無水物を部分的に使用することができる。その際併用可能なテトラカルボン酸二無水物として、4,4’−オキシジフタリックアンハイドライド、ハイドロキノン−ジフタリックアンハイドライド、4,4’−ビフェノール−ジフタリックアンハイドライド、3,3’ ,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上用いてもよい。この際、これらのテトラカルボン酸二無水物の使用量は、全テトラカルボン酸二無水物量に対して0〜30mol%、好ましくは0〜10mol%である。
【0068】
本発明のBO基含有ポリイミド前駆体を重合する際、ジアミン成分として、上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン以外に、p−フェニレンジアミン、ベンジジン、4,4”−p−ターフェニレンジアミンおよび下記式(15)で表されるジアミンを併用することができる。この際、式(13)で表されるBO基含有ジアミン以外の上記ジアミンの使用量は全ジアミン成分量に対して0〜50mol%である。
【0069】
【化16】
【0070】
また、本発明のBO基含有ポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、上記以外のジアミンを部分的に使用することができる。その際使用可能なジアミンとして、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。これらの使用量は全ジアミン量に対して0〜30mol%、好ましくは0〜10mol%である。
【0071】
本発明のBO基含有ポリイミド前駆体を重合する際に使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド、3−メトキシN,N−ジメチルプロパンアミド、3−n-ブトキシN,N−ジメチルプロパンアミド、3−sec-ブトキシN,N−ジメチルプロパンアミド、3−t-ブトキシN,N−ジメチルプロパンアミド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく特にその構造には限定されない。例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−プチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが使用可能である。更にフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプチル、プロピレングリコールメチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン等の一般的な溶媒も部分的に使用してもよい。
【0072】
本発明の耐熱性フィルムを製造するために、本発明のBO基含有ポリイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をそのまま用いてもよく、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離し、これを再度溶媒に溶解させたものを用いてもよい。
【0073】
<耐熱性フィルム(BO基含有ポリイミドフィルム)>
本発明のBO基含有ポリイミドフィルムは、上記の方法で得られたBO基含有ポリイミド前駆体をフィルム化し、該フィルムを加熱脱水環化反応(イミド化反応)することで製造することができる。
【0074】
すなわち、BO基含有ポリイミドフィルムは以下のようにして製造する。
BO基含有ポリイミド前駆体のワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。
得られたBO基含有ポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、360℃未満で一度イミド化を行い、最終熱処理温度を360〜450℃、好ましくは375〜450℃、より好ましくは380〜450℃で加熱することで本発明のBO基含有ポリイミドフィルムが得られる。
この際、イミド化温度はイミド化反応を完結するという観点から300℃以上、最終熱処理温度は生成したBO基含有ポリイミドフィルムの熱分解を抑制するという観点から450℃以下が好ましい。また、イミド化および熱処理は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行ってもよい。
【0075】
イミド化反応は、加熱工程に代えて、BO基含有ポリイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を用いること;及びその後の加熱工程;によって行うことも可能である。
なお、脱水環化試薬を用いる場合、該試薬を含有する溶液に浸漬する手法、又は該試薬をあらかじめBO基含有ポリイミド前駆体ワニス中に室温で投入・攪拌し、それを上記基板上に流延・乾燥する手法を用いることができる。これらの手法を用いて部分的にイミド化したBO基含有ポリイミド前駆体フィルムを作製することもできる。この場合、これを更に上記のように加熱処理することでBO基含有ポリイミドフィルムが得られる。
【0076】
本発明のBO基含有ポリイミド前駆体ワニスを金属箔例えば銅箔上に塗付・乾燥後、上記の条件によりイミド化することで、金属層とBO基含有ポリイミド樹脂層の積層体を得ることができる。更に塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて金属層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型フレキシブルプリント配線基板を製造することができる。
【0077】
本発明のBO基含有ポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜厚さを決定すればよいが、有機太陽電池やシリコン太陽電池といった光電変換素子、有機EL素子といった発光素子、回路基板として用いる場合であれば、1〜200μm程度、好ましくは5〜150μm、より好ましくは5〜100μmが好適である。
【0078】
上記で得られた本発明のBO基含有ポリイミドフィルムは、次の特性i)〜iv)を有する:
i)線熱膨張係数が15ppm/K以下、好ましくは14ppm/K以下、より好ましくは13ppm/K以下であり、
ii)ガラス転移温度が370℃以上であるか、又は動的粘弾性測定によりガラス転移が不検出であり、
iii)窒素雰囲気中の5%重量減少温度が570℃以上、好ましくは590℃以上であり、且つ
iv)破断伸びが10%以上である。
【0079】
上記特性i)〜iv)は、以下により測定した。
i)線熱膨張係数は、熱機械分析により測定することができる。
ii)ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により得られる。
iii)5%重量減少温度は熱重量分析により得られる。
iv)破断伸びは、引張試験により得られる。
【0080】
本発明のBO基含有ポリイミドフィルムは、上記特性i)〜iv)を有する、即ち高度な低熱膨張特性および優れた膜形成能を有する。また、特に上記特性ii)及びiii)を有するため、極めて高いVOC抑制能も兼備している。したがって、本発明のBO基含有ポリイミドフィルムは、光電変換素子、発光素子、画像表示装置などといった電子デバイスの基板材料、有機EL素子、液晶表示素子や有機太陽電池等の基板として好適に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0082】
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR4100)を用い、KBrプレート法にてBO基含有ジアミンの赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にてBO基含有ポリイミド前駆体およびBO基含有ポリイミド薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でBO基含有ジアミンのH−NMRスペクトルを測定した。
【0083】
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
BO基含有ジアミンの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5重量%のBO基含有ポリイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0084】
<ガラス転移温度(T)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、室温〜500℃の温度範囲で周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からBO基含有ポリイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。尚、明瞭なガラス転移が観測されない場合は未検出(ND)と表記する。Tが高い程、より高温まで急激な軟化が抑制されていることを表し、本測定によりTが未検出の場合、フィルム試料の軟化は測定温度範囲内では全く起こらないことを表す。
【0085】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm当たり、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてBO基含有ポリイミドフィルム(膜厚約20μm)のCTEを求めた。CTE値が0に近いほど熱工程に対する寸法安定性にすぐれていることを表す。
【0086】
<5%重量減少温度(T)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、BO基含有ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど熱安定性が高く、より高温までVOCの発生が抑制されていることを表す。
【0087】
<弾性率、破断伸び、破断強度>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、BO基含有ポリイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
【0088】
[合成例1]
3つ口フラスコ中、DAR二塩酸塩(東京化成社製、2.14g、10mmol)をよく脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP、40mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン(3.2mL、40mmol)を添加し、セプタムキャップでシールしてA液とした。次に別のナス型フラスコ中、4−ニトロ安息香酸クロリド(4.57g、30mmol)をNMP(10mL)に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とした。A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、ジアミド体を合成した。
【0089】
次に氷浴を外し、室温で12時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液にp−トルエンスルホン酸一水和物(3.42g、18mmol)を加え、200℃のオイルバスにて6時間還流を行った。室温で静置し生成した沈殿物を濾別して水で洗浄した。この際、洗液に1%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、120℃で12時間真空乾燥して収率74%で緑色針状晶を得た。この生成物はDMSO−dやCDClに殆ど不溶であったため、H−NMR測定は実施できなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルは、3095cm−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、1602cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1516/1350cm−1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O−H伸縮振動バンドは見られなかった。これらの結果から生成物は目的とする下記式(17)で表されるBO基含有ジニトロ体であると考えられる。
【0090】
【化17】
【0091】
次に3つ口フラスコ中、上記のジニトロ体(1.00g、2.48mmol)をNMP(50mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.10g)を加え、水素雰囲気中120℃で7時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、熱濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を室温まで冷却し、大量の水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾別し、水で繰り返し洗浄した後、120℃で12時間真空乾燥して収率66%で融点414℃の紺色粉末を得た。
この生成物の赤外線吸収スペクトルは3469/3316/3197cm−1にアミノ基N−H伸縮振動バンド、1620cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1503cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドを示し、ニトロ基伸縮振動バンドやアミドC=O伸縮振動バンドは見られなかった、H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d,δ,ppm):8.07(s,1H)、7.88−7.86(m,5H)、6.70(d,4H,J=8.64Hz)、6.00(s,4H,NH)および元素分析:推定値C;70.17%、H;4.12%、N;16.37%、分析値C;69.68%、H;4.29%、N;16.15%より、この生成物は目的とする上記式(13)で表されるBO基含有ジアミンであることが確認された。
【0092】
[合成例2]
3つ口フラスコ中、p−HAB(和歌山精化社製、2.61g、12mmol)をよく脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP、81mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン(2.9mL、36mmol)を添加し、セプタムキャップでシールしてA液とした。次に別のナス型フラスコ中、4−ニトロ安息香酸クロリド(4.49g、24mmol)をNMP(17mL)に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とした。A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、ジアミド体を合成した。
次に氷浴を外し、室温で数時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液に適当量のp−トルエンスルホン酸(1.90g、11mmol)を加え、200℃のオイルバスにて3時間還流を行った。生成した沈殿物を濾過により回収して水で洗浄した。この際、洗液に1%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、100℃で12時間真空乾燥して収率81%で融点401℃の黄色針状晶を得た。
この生成物はDMSO−dやCDClに殆ど不溶であったため、H−NMR測定は実施しなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルは1605cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1518/1348cm−1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O−H伸縮振動バンドは見られなかった。これらの結果から生成物は目的とする下記式(18)で表されるBO基含有ジニトロ体であると考えられる。
【0093】
【化18】
【0094】
次に3つ口フラスコ中、上記ジニトロ体(6.13g、11.9mmol)をNMP(250mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.63g)を加え、水素雰囲気中100℃で15時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を大量の水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾過により回収し、水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥して粗生成物収率82%で茶色粉末を得た。更に純度を高めるため、γ−ブチロラクトンから再結晶を行い、最後に100℃で12時間真空乾燥して融点354℃の茶色板状晶を得た。この生成物の赤外線吸収スペクトルは3454/3380/3210cm−1にアミノ基N−H伸縮振動バンド、1621/1607cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1499cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドを示し、ニトロ基伸縮振動バンドやアミドC=O伸縮振動バンドは見られなかった、H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d,δ,ppm):8.06(s,2H)、7.90−7.88(d,4H)、7.75−7.71(m,4H)、6.72−6.70(d,4H)、6.04(s,4H)および元素分析:推定値C;74.63%、H;4.34%、N;13.39%、分析値C;74.41%、H;4.47%、N;13.26%より、この生成物は目的とする下記式(19)で表されるBO基含有ジアミンであることが確認された。
【0095】
【化19】
【0096】
<ポリイミド前駆体の重合、イミド化およびポリイミドフィルムの特性評価>
[実施例1]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン1mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMP2.5mLを加えて撹拌した。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、(和光純薬社製、以下BPDAと称する)粉末1mmolを加えた。溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には13重量%まで希釈し、室温で11日攪拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中におけるポリイミド前駆体の固有粘度は0.77dL/gであった。
図1に得られたポリイミド前駆体の薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。3325cm−1にアミド基N−H伸縮振動バンド、3100/3044cm−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、2624/2539cm−1にブロードな吸収帯(水素結合性COOH基O−H伸縮振動バンド)、1702cm−1に水素結合性COOH基C=O伸縮振動バンド、1672cm−1/1533cm−1にアミド基C=O伸縮振動バンド、1503cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドが観測されることから、目的とするポリイミド前駆体の生成が確認された。
【0097】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で3時間乾燥してポリイミド前駆体フィルムを作製した。これをガラス基板ごと250℃で1時間、更に350℃で1時間真空中で熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に真空中、最終熱処理温度:400℃で1時間熱処理を行い、膜厚20μmの柔軟なBO基含有ポリイミドフィルムを得た。
図2に同一条件で別途作製されたポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。3098/3068cm−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、1775/1719cm−1にイミド基C=O伸縮振動バンド、1618cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1504cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンド、1358cm−1にイミド基N−C(芳香族)伸縮振動バンドが観測され、COOH基やアミド基に由来する吸収帯が見られないことから、イミド化反応は完結しており、目的とするポリイミドの生成が確認された。
【0098】
BO基含有ポリイミドフィルム(膜厚20μm)について動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、明瞭なガラス転移点は観測されなかった。また、線熱膨張係数は12.4ppm/Kと非常に低い値を示した。これは本発明のBO基含有ポリイミドの主鎖構造が極めて剛直で直線性が高いことに由来して、熱イミド化工程においてポリイミド主鎖がフィルム面に対して平行な方向に著しく配向したことによるものと考えられる。
また、5%重量減少温度は窒素中で594℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
更に、破断伸び15%であり、フィルムをハゼ折りしても破断せず。十分な膜靱性も保持していた。
【0099】
[実施例2]
ジアミン成分として上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン(0.5mmol)と下記式(20)で表されるジアミン(0.5mmol)を併用し、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDAの代わりに2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(1mmol、JFEケミカル社製、以下NTDAと称する)を用い、溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には15重量%まで希釈し、室温で72時間撹拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中におけるポリイミド前駆体の固有粘度は1.29dL/gであった。
得られたポリイミド前駆体ワニスを実施例1に記載した方法に従って製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。
動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、極めて高いT(407℃)が観測された。
線熱膨張係数(CTE)は、3.3ppm/Kとシリコンウエハに匹敵する極めて低い値を示した。
5%重量減少温度は、窒素中609℃、空気中で543℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
さらに機械的特性を評価した結果、引張弾性率(ヤング率)6.80GPa、破断伸び15%であり、フィルムをハゼ折りしても破断せず。十分な膜靱性も保持していた。
【0100】
【化20】
【0101】
[実施例3]
ジアミン成分として上記式(13)で表されるBO基含有ジアミン(1.5mmol)と上記式(19)で表されるジアミン(1.5mmol)を併用し、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDAの代わりにNTDA(3mmol)を用い、溶質濃度20重量%から重合を開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には14重量%まで希釈し、室温で72時間撹拌して均一で粘稠なBO基含有ポリイミド前駆体溶液を得た。NMP中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の還元粘度は0.94dL/gであった。
得られたポリイミド前駆体ワニスを実施例1に記載した方法に従って製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。動的粘弾性測定(室温〜500℃)を行った結果、極めて高いT(412℃)が観測された。線熱膨張係数(CTE)は、5.4ppm/Kと極めて低い値を示した。5%重量減少温度は窒素中600℃、空気中で542℃であり、極めて高い熱安定性を有していることがわかった。
【0102】
[比較例1]
テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)、ジアミン成分としてp−フェニレンジアミン(PDA)を用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムは極めて低いCTE(2.8ppm/K)を示したが、非常に脆弱であり破断伸びは0%であった。また、このフィルムはハゼ折りすると容易に破断した。これは、このポリイミド系の棒状主鎖構造に由来するもので、ポリマー鎖間の絡み合いが殆どないためである。
【0103】
[比較例2]
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDA、ジアミン成分として4,4’−オキシジアニリンを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。このポリイミドフィルムは極めて高いガラス転移温度(408℃)を示し、破断伸び85%と優れた靱性を有していたが、CTEは42.8ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。
【0104】
[比較例3]
テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA、ジアミン成分として上記式(20)で表されるジアミンを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムのCTEは23.0ppm/Kとなり、CTEの増加が見られた。
【0105】
[比較例4]
テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA、ジアミン成分としてPDAを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムのCTEは12.0ppm/K、5%重量減少温度は窒素中で588℃であった。
図1
図2