(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293487
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ネットワーク設計方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H04L 12/701 20130101AFI20180305BHJP
H04L 12/751 20130101ALI20180305BHJP
H04L 12/24 20060101ALI20180305BHJP
H04L 12/70 20130101ALI20180305BHJP
H04L 12/917 20130101ALI20180305BHJP
【FI】
H04L12/701
H04L12/751
H04L12/24
H04L12/70 100Z
H04L12/917
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-227(P2014-227)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-130551(P2015-130551A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小頭 秀行
(72)【発明者】
【氏名】荻野 長生
(72)【発明者】
【氏名】横田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】荒川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】村田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】シン ルー
【審査官】
速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−206581(JP,A)
【文献】
特開平10−070571(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0085445(US,A1)
【文献】
CHEN, L.ほか,残存次数の相互情報量にもとづくトポロジー構造の多様性が設備増設量に与える影響の評価,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.112 No.392 NS2012−157,一般社団法人電子情報通信学会,2013年 1月17日,第93−98頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/701
H04L 12/24
H04L 12/70
H04L 12/751
H04L 12/917
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークトポロジをノードおよび/またはリンクの追加により変更するネットワーク設計システムにおいて、
ネットワークトポロジを取得する手段と、
ネットワークのトラヒック変動を監視する手段と、
前記監視する手段により検知された障害箇所を通過するフローが、ノードおよび/またはリンクの追加により当該障害箇所よりも前ホップにおいて他の経路に迂回できる追加候補箇所を選択する手段と、
前記ノードおよび/またはリンクの追加候補箇所ごとにネットワークトポロジの多様性を評価する手段と、
複数の追加候補箇所の中からネットワークトポロジの多様性に基づいて追加箇所を決定する手段とを具備したことを特徴とするネットワーク設計システム。
【請求項2】
前記追加箇所を決定する手段は、ネットワークトポロジの多様性がより高くなる追加候補箇所を追加箇所に決定することを特徴とする請求項1に記載のネットワーク設計システム。
【請求項3】
前記追加箇所を決定する手段は、ネットワークトポロジの多様性を当該ネットワークトポロジの相互情報量で代表することを特徴とする請求項1または2に記載のネットワーク設計システム。
【請求項4】
前記追加箇所を決定する手段は、ノードおよび/またはリンクの追加によりネットワークトポロジの相互情報量が最小となる追加候補箇所を追加箇所に決定することを特徴とする請求項3に記載のネットワーク設計システム。
【請求項5】
前記追加箇所を決定する手段は、各追加候補箇所にノードおよび/またはリンクを追加した時の接続先ノードの次数の相互情報量に基づいて追加箇所を決定することを特徴とする請求項4に記載のネットワーク設計システム。
【請求項6】
ネットワークトポロジをノードおよび/またはリンクの追加により変更するネットワーク設計方法において、
ネットワークトポロジを取得する手順と、
ネットワークのトラヒック変動を監視する手順と、
前記トラヒック変動を監視して検知された障害箇所を通過するフローが、ノードおよび/またはリンクの追加により当該障害箇所よりも前ホップにおいて他の経路に迂回できる追加候補箇所を選択する手順と、
前記ノードおよび/またはリンクの追加候補箇所ごとにネットワークトポロジの多様性を評価する手順と、
複数の追加候補箇所の中からネットワークトポロジの多様性に基づいてノード追加箇所を決定する手順とを含むことを特徴とするネットワーク設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク設計方法及びシステムに係り、特に、トラヒック需要の変動に対するネットワークの耐性を、ネットワークトポロジの多様性を指標として評価するネットワーク設計方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、相互情報量が相対的に高いネットワーク(AT&T 0.3)と低いネットワーク(AT&T original)とを用意して各ネットワークにトラヒック需要を模擬し、トラヒック量を増やした際の設備の増設量を比較した結果から、トラヒック需要の変動に対するネットワークの耐性は、残存次数のエントロピーを確率変数とする相互情報量で代表できることが研究報告されている。
【0003】
特許文献1には、高効率な障害復旧方式を実現する通信網の設計方法が開示されている。特許文献2には、ノード間の通信路を多重化しながら、経済的な通信網を設計する方法が開示されている。特許文献3には、既存のトポロジから、接続要件を満たす、かつ、リンクコスト最小のトポロジを生成し、逐次的に適切なトポロジ、すなわち通信網を設計する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-244201号公報
【特許文献2】特開2003-16121号公報
【特許文献3】特開2010-206581号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】信学技報, vol. 112, no. 392, NS2012-157, pp. 93-98, 2013年1月「残存次数の相互情報量にもとづくトポロジー構造の多様性が設備増設量に与える影響の評価」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示されたネットワーク設計方法は、比較的小規模、例えば数十〜百ノード程度のネットワークを対象とした設計方法である。加えて、単一ノードの障害や予め想定したトラヒックの需要増など、想定した変化に対して適用するネットワーク設計方法である。
【0007】
特許文献3では、所望のトポロジを生成するにいたるまでに、複数回の異なるトポロジを計算したり、また設計のために予め複数のパラメータを設定したりする必要がある。これらパラメータの最適設定は事前の計算や主観的な設定が必要となる。さらに、一般的に現状において通信事業者等で従来利用されているネットワーク設計方式は、必ずしも大規模ネットワークに適しているものではない。
【0008】
例えば、ノード間のトラヒック量などの通信状況に関する情報(制御情報)を集約し、最適化問題を解いてルータ配置やルータ間の通信容量を設計する方法では、ノード規模が大きくなると計算時間が爆発する。また、大規模ネットワークでは通信状況に関する情報を集めること自体が困難、高負荷である。
【0009】
そもそも最適性は、通信状況が固定ないしは想定される範囲内の変化を前提とした時にのみ確保されるものであり、ネットワーク状況が時々刻々と変化し、将来のトラヒック需要の変動が予期できない中で、最適性を目指した設計方式には限界ある。このため、現在ではヒューリスティック+over-provisioningといった場当たり的な設備増強手法が採用され、急伸的なサービスによるトラヒック増加や、想定しない故障などへの対処が困難であった。また、性能指標の最適化に基づく設計では、設計時の環境下では良くても、環境が変化すると適正が低下してしまうという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、ノード規模の大きなネットワークへの対応が容易であり、ネットワーク環境の変化にかかわらず最適なネットワーク設計を可能にするネットワーク設計方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、ネットワークトポロジをノードおよび/またはリンクの追加により変更するネットワーク設計システムにおいて、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0012】
(1) ネットワークトポロジを取得する手段と、ノードおよび/またはリンクの追加候補箇所ごとにネットワークトポロジの多様性を評価する手段と、追加候補箇所の中からネットワークトポロジの多様性に基づいて追加箇所を決定する手段とを具備した。
【0013】
(2) 追加箇所を決定する手段は、ネットワークトポロジの多様性を相互情報量で代表し、相互情報量が最小となる追加候補箇所を追加箇所に決定するようにした。
【0014】
(3) 追加箇所を決定する手段は、各追加候補箇所にノードおよび/またはリンクを追加した時の接続先ノードの次数の相互情報量に基づいて追加箇所を決定するようにした。
【0015】
(4) ネットワークのトラヒック変動を監視する手段と、トラヒック変動の監視結果に基づいて、ノードおよび/またはリンクの追加候補箇所を選択する手段とを具備した。
【0016】
(5) 追加候補箇所を選択する手段は、トラヒック変動を監視する手段により検知された障害箇所を通過するフローが、ノードおよび/またはリンクの追加により当該障害箇所よりも前ホップにおいて他の経路に迂回できる追加候補箇所を選択するようにした。
【発明の効果】
【0017】
発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1) ネットワークへノードやリンクを追加してトポロジを変更する際に、ネットワークトポロジの多様性に基づいて追加箇所が決定されるので、ノード追加やリンク追加の影響を広く波及させてトラヒックを広範囲に分散させることができ、その結果、トラヒック変動に対する耐性が高いネットワークトポロジを獲得できるようになる。
【0018】
(2) ネットワークトポロジの多様性が相互情報量に基づいて定量的に評価されるので、ネットワークトポロジの多様性が高くなる追加箇所を正確に決定できるようになる。
【0019】
(3) トラヒックの監視結果に基づいて、トラヒック変動後の需要トラヒックを収容できる追加候補箇所が選択されるようにしたので、トラヒック変動に対する耐性の獲得のみならず、トラヒック変動後の需要トラヒックも収容できるようになる。
【0020】
(4) ネットワークのトポロジさえ取得できれば追加箇所を決定できるので、大規模ネットワークへも容易に適用できる。また、ネットワークトポロジは短時間で変動するものではないので、追加箇所をオンラインかつリアルタイムで決定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るネットワーク設計システムの構成を示した図である。
【
図2】ノードやリンクの追加候補箇所の選択例を示した図(その1)である。
【
図3】ノードやリンクの追加候補箇所の選択例を示した図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るネットワーク設計システムの主要部の構成を示したブロック図であり、汎用のコンピュータやサーバに各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装して構成しても良いし、あるいはアプリケーションの一部がハードウェア化またはROM化された専用機や単能機として構成しても良い。
【0023】
ネットワーク管理部10は、監視対象のネットワークのトポロジを管理する。ネットワーク監視部20は、監視対象ネットワークについてリンク毎のトラヒック流量、ノード毎のトラヒック流量およびノード毎の回線負荷等を測定し、輻輳や障害の有無、箇所をノード単位、リンク単位で検知する。
【0024】
なお、前記ネットワークのトポロジ、リンク毎およびノード毎のトラヒック流量などは、通常のネットワーク運用に必要不可欠な情報であり、別途に監視されている場合には、その監視データを取得して利用するようにしても良い。
【0025】
追加候補箇所選択部30は、ノードやリンクの輻輳、切断といった障害またはその可能性、あるいは将来のトラヒック需要予測などが前記ネットワーク監視部2から報告されると、当該障害箇所に対する迂回経路を新規構築または増強できるノード追加および/またはリンク追加の候補箇所を複数選択する。
【0026】
このとき、ノードやリンクに障害が発生してフローが途切れた場合には、フロー確保を条件にノード追加やリンク追加の候補箇所が選択される。また、輻輳やトラヒック需要増への対応であれば、追加されるノードやリンクの能力に基づいて、需要トラヒックが満たされることを条件に複数の追加候補箇所が選択される。
【0027】
図2は、前記追加候補箇所選択部30によるノード追加の候補箇所の選択例を示した図であり、同図(a)のネットワークトポロジにおいて、ノードN2,N3間のリンクL23に輻輳や障害が発生し、これが前記ネットワーク監視部20により検知されると、当該リンクを迂回する経路、補強する経路を確保するために、ノードN2,N3を中継するノードN6[同図(b)]が候補箇所として選択される。
【0028】
また、監視対象がフロー管理の可能なネットワークであって、エンド/エンドのトラヒックフローを管理できるならば、ノードN1,N3を中継するノードN7[同図(c)]のように、障害箇所を含む複数のノードや経路を迂回する箇所が候補箇所として選択されるようにしても良い。
【0029】
さらに、フロー管理の可能なネットワークであれば、障害箇所を通過するフローがその数ホップ前に通過するリンクやノードを判別できる。したがって、このような環境下では上記のように障害箇所やその周辺にノードを追加してトポロジを変更するのではなく、
図3(a)に示した追加ノードN8のように、障害箇所の数ホップ前のトポロジを変更することでフローを障害箇所から予め遠ざけられる箇所が選択されるようにしても良い。
【0030】
図3(b),(c)は、前記
図2(b),(c)に示したノード追加に代えてリンク追加する場合の候補箇所の選択例を示している。また、図示は省略するが、ノードおよびリンクの双方が追加されるようにしても良い。
【0031】
追加箇所決定部40は、前記選択された各候補箇所にノードやリンクを追加した際のネットワークの多様性を相互情報量に基づいて判断し、相互情報量が最小となる1ないし複数の候補箇所をノードやリンクの追加箇所に決定する。
【0032】
図4は、前記追加箇所決定部40の機能ブロック図であり、本実施形態では、トラヒック需要の変動に対するネットワークの耐性がネットワークトポロジの多様性で代表される。ネットワークの耐性とは、トラヒック需要が増えた時に、これが一部のノードやリンクに集中せず、より広範なノードやリンクに分散できる性質を意味する。
【0033】
そして、ネットワークトポロジの多様性を、ノード追加やリンク追加によるエントロピーを変数とする相互情報量を指標として評価することにより、トラヒック需要の変動に対する耐性の高いネットワークを獲得できる追加箇所を前記候補箇所の中から決定する。
【0034】
ここでは初めに、ネットワークトポロジの多様性と相互情報量との関係について説明し、その後、追加箇所決定部40の機能について説明する。
【0035】
相互情報量とは、2つの確率変数x,yがあったときに、yの値を知った時のxの「不確かさの減少分」、すなわち「情報量の増加分」と定義される。したがって、これをネットワークトポロジの変更に当てはめれば、「相互情報量Iが大きい」とは、yの値を知ることでxの不確かさが大きく減少すること、換言すればトポロジの構造に多様性がないことを意味する。また、「相互情報量Iが小さい」とは、yの値を知ることでxの不確かさが少しだけ減少すること、換言すればトポロジの構造に多様性があることを意味する。
【0036】
そこで、本発明では相互情報量を、トポロジの構造の一部(yに相当)を知ることで得られる残りのトポロジの構造(xに相当)の情報量と見立てることで、トポロジが有する構造の多様性を定量的に測るようにした。
【0037】
追加次数分布計算部41は、ノードやリンクの追加候補箇所ごとに、当該箇所にノードやリンクを接続したときの次数分布、すなわち追加次数分布q(k)を算出する。本実施形態では、各ノードに接続されたリンク数が「次数」であり、
図5に示したように、ネットワーク上の各候補箇所にノード(あるいはリンク)を追加したときに当該追加ノード(あるいはリンク)と接続される隣接ノードの次数が「追加次数」となる。
【0038】
追加次数分布q(k)は、次数分布P(P1,P2…,PK)を用いて次式(1)で表される。ただし、符号P1はリンク数が「1」のノード総数、符号P2はリンク数が「2」のノード総数…、符号Kは最大次数であり、いずれもネットワークトポロジから求められる。
【0040】
相互情報量算出部42は、追加次数の相互情報量I(q)を算出する。相互情報量I(q)は、追加数分布q=(q(1),…,q(i),…q(K))を用いて次式(2)で表される。
【0042】
上式(2)における右辺第1項のH(q)は追加次数のエントロピーを表しており、追加次数分布q(k)を用いて次式(3)で表される。このエントロピーH(q)は、リンクの接続先のノード次数の多様性を計っており、ノード次数が多様になればなるほどH(q)は大きくなる。
【0044】
上式(2)における右辺第2項のHcは、追加次数の条件付きエントロピーであり、次式(4)で表される。ただし、π(k|k')は、追加次数k'を持つノードと接続されている追加次数がkである条件付き確率である。
【0046】
追加箇所選択部43は、ノードやリンクの追加候補箇所ごとに求められた相互情報量Iを比較し、最小の相互情報量Iを与える追加候補箇所を追加箇所として選択する。
【0047】
なお、上記の実施形態では、ネットワーク監視部20により検知された障害箇所近傍または関連箇所に複数の追加候補箇所を予め設定し、当該追加候補箇所の中から追加箇所が決定されるものとして説明した。
【0048】
しかしながら、本発明はこれのみに限定されるものではなく、ネットワークのトラヒック状況とは無関係に、既存のネットワークトポロジを将来のトラヒック需要予測に合わせて拡張する際のノードやリンクの追加箇所の決定にも利用できる。この場合、全ての追加可能箇所を追加候補箇所として評価し、相互情報量の小さくなる上位N箇所が追加箇所として決定されるようにしても良い。
【符号の説明】
【0049】
10…ネットワーク管理部,20…ネットワーク監視部,30…追加候補箇所選択部,40…追加箇所決定部,41…追加次数分布計算部,42…相互情報量算出部,43…追加箇所選択部