(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一次半導体ナノ粒子が、正方晶、六方晶および斜方晶から成る群より選ばれる少なくとも一種の結晶構造を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
前記溶媒が、炭素数4〜20の炭化水素基を有するアミンおよび炭素数4〜20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも一種の溶媒である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
前記溶媒が、炭素数4〜20の炭化水素基を有するアミンと炭素数4〜20の炭化水素基を有するチオールとの混合溶媒である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す形態に限定されるものではない。また、各実施形態およびその変形例において説明した事項は、特に断りのない限り、他の実施形態および変形例にも適用することができる。
【0015】
(第1の実施形態:三元系の半導体ナノ粒子)
第1の実施形態として、三元系の半導体ナノ粒子を説明する。
第1の実施形態の半導体ナノ粒子は、M
1、M
2、およびZを含む、平均粒径が50nm以下の半導体ナノ粒子である。ここで、M
1は、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、好ましくはAgまたはCuであり、特に好ましくはAgである。M
1がAgであると、半導体ナノ粒子の合成が容易となる。M
1として二以上の元素が含まれていてよい。また、前記半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶、六方晶、または斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0016】
M
2は、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、好ましくはIn、またはGaであり、特に好ましくはInである。Inは副生成物を生じにくいことから好ましい。M
2として二以上の元素が含まれていてよい。
【0017】
Zは、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、好ましくはSである。ZがSである半導体ナノ粒子はZがSeやTeであるものと比較してバンドギャップが広くなるため、可視光領域の発光を与えやすいことから好ましい。Zとして二以上の元素が含まれていてよい。
【0018】
M
1、M
2およびZの組み合わせは特に限定されない。M
1、M
2およびZの組み合わせ(M
1/M
2/Z)は、好ましくは、Cu/In/S、Ag/In/S、Ag/In/Se、およびAg/Ga/Sである。
【0019】
上記特定の元素を含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、または斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、M
1M
2Z
2の組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。なお、M
1M
2Z
2の組成式で表される半導体であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、M
1M
2Z
2の組成で表される半導体ナノ粒子のものとして既知のXRDパターン、または結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターンおよびシミュレーションのパターンの中に、半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知またはシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造のナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0020】
本発明者らは、原料の仕込み比を化学量論比と同じようにしても、実際に得られる半導体ナノ粒子は、この組成式で表されるものではなく、非化学量論組成のものとして存在することを確認した。具体的には、例えば、M
1の塩とM
2の塩と、Zを配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とし、この錯体を加熱して熱処理物とし、熱処理物をアルキルアミン又はアルケニルアミンとともに加熱する方法で得られる半導体ナノ粒子の場合、錯体の段階では比較的化学量論組成に近いが、加熱後は化学量論組成からのずれが大きくなっていることを確認した。特に、M
1−M
2−Z系の半導体ナノ粒子においてはM
1の原子数が少なく、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)が1よりも小さく、例えば、0.500以上、0.990未満である。
【0021】
そこで、発明者等は、実際には非化学量論組成のものとして得られる半導体ナノ粒子において、その組成を化学量論組成に近づける手法を検討した結果、後述する製造方法(第4の実施形態)によれば、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)が1に近い組成の半導体ナノ粒子を得ることができ、そのような半導体ナノ粒子においてバンド端発光が得られることを見出した。
【0022】
本実施形態において、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)は0.990以上、1.089以下である。M
1/M
2が0.990未満である、あるいは1.089を越えると、半導体ナノ粒子からバンド端発光を得られにくくなる。
【0023】
半導体ナノ粒子の化学組成は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)によって同定することができる。M
1/M
2は、この方法で測定した化学組成に基づいて算出される。
【0024】
第1の実施形態のナノ粒子は、M
1、M
2およびZのみから実質的に成っている。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にM
1、M
2およびZ以外の元素が含まれることを考慮して使用している。あるいは、第1の実施形態のナノ粒子は、M
1/M
2が上記の範囲内にある限りにおいて、他の元素を含んでいてよい。
【0025】
例えば、M
2の一部は他の金属元素により置換されていてよい。他の金属元素は+3価の金属イオンになるものであってよく、具体的には、Cr、Fe、Al、Y、Sc、La、V、Mn、Co、Ni、Ga、In、Rh、Ru、Mo、Nb、W、Bi、AsおよびSbから選択される一または複数の元素であってよい。その置換量は、M
2と置換元素とを合わせた原子の数を100%としたときに、10%以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態の半導体ナノ粒子は、50nm以下の平均粒径を有する。平均粒径は、例えば、1nm〜20nmの範囲内、特に1nm〜10nmの範囲内にあってよい。平均粒径が50nmを越えると量子サイズ効果が得られにくくなり、バンド端発光が得られにくくなる。
【0027】
ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めてよい。具体的には、TEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分であって、当該粒子の中心を通過する線分のうち、最も長いものを指す。
【0028】
ただし、粒子がロッド状の形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド状の形状の粒子とは、長方形状(断面は、円、楕円、または多角形状を有する)、楕円形状、または多角形状(例えば鉛筆のような形状)等として観察されるものであって、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。また、ロッド状の形状の粒子について、ここで、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長いものを指し、長方形状または多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長いものを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分を指す。
【0029】
平均粒径は、50000倍〜150000倍のTEM像で観察される、すべての計測可能なナノ粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、「計測可能な」粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、「切れて」いるような粒子は計測可能なものではない。
一つのTEM像に含まれるナノ粒子が合計100点以上である場合には、一つのTEM像を用いて平均粒径を求める。一つのTEM像に含まれるナノ粒子の数が少ない場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに得、二つ以上のTEM像に含まれる100点以上の粒子について粒径を測定する。
【0030】
第1の実施形態の半導体ナノ粒子は、体積を等分する内殻部と外殻部とに分けたときに、外殻部に含まれるM
1またはM
2の数が、内殻部に含まれるM
1またはM
2の数よりも大きいものであってよい。後述する方法で、半導体ナノ粒子を製造する場合において、M
1またはM
2が事後的に半導体ナノ粒子に表面からドープされると、ドープされた元素の濃度は表面側でより高くなる。
【0031】
半導体ナノ粒子をその外周面に沿って切削したときに、削り取られた部分の体積と、残っている部分の体積とが等しくなったときに、削り取られた部分が体積を等分する外殻部、残っている部分が体積を等分する内殻部となり、残っている部分の外周面が外殻部と内殻部との境界となる。外殻部に含まれるM
1またはM
2の数が、内殻部に含まれるM
1またはM
2の数よりも大きいか否かは、例えば、超高分解能透過型電子顕微鏡を用い、これに付属しているEDX(エネルギー分散型X線分光器)またはEESL(電子エネルギー損失分光器)を用いて、M
1またはM
2のマッピングをすることにより知ることができる。マッピングにおいて、所定の元素をより多く含む領域はより濃い色で示され、所定の元素をより少なく含む領域はより淡い色で示される。したがって、例えば、外殻部に含まれるM
1の数が、内殻部に含まれるM
1の数よりも大きければ、M
1のマッピングにおいて、粒子の外周に近い領域がより濃い色で示され、内周側の領域がより淡い色で示されることとなる。
【0032】
本実施形態の半導体ナノ粒子は、M
1/M
2が上記範囲内にあることに起因して、バンド端発光を発光可能である。具体的には、本実施形態の半導体ナノ粒子は、350nm〜1000nmの範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有し、かつ蛍光寿命が200ns以下の蛍光を発光することができる。また、蛍光寿命が200ns以下の蛍光は、好ましくは、半導体ナノ粒子が与える発光スペクトルにおいて、半値幅が150nm以下として観察される。本実施形態の半導体ナノ粒子において、バンド端発光が得られる理由は定かではないが、M
1/M
2の比が大きく、したがってM
1が結晶中の欠陥を埋めることによって、欠陥準位が減少し、それにより欠陥発光が消失することによると推察される。
【0033】
本実施形態の半導体ナノ粒子の発光スペクトルは、350nm〜1100nmの範囲から選択される波長の光を照射したときに得られる。例えば、M
1、M
2、およびZとしてそれぞれAg、InおよびSを含む正方晶の結晶構造を有し、M
1/M
2が0.990であるナノ粒子の場合、波長365nmの光を照射すると、
図2に示すように、588nm付近にバンド端発光に由来する発光ピークが観察される発光スペクトルを得ることができる。
【0034】
本実施形態の半導体ナノ粒子が発光するバンド端発光は、半導体ナノ粒子の形状および/または粒径、特に粒径を変化させることによって、そのピークの位置を変化させることができる。例えば、半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光のピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0035】
本実施形態の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルは、所定の範囲から選択される波長の光を照射することにより得られる。例えば、M
1、M
2、およびZとしてそれぞれAg、InおよびSを含み、M
1/M
2が0.990であるナノ粒子の場合、波長250nm〜1000nmの光を照射すると、
図2に示すように、吸収スペクトルを得ることができる。
【0036】
本実施形態の半導体ナノ粒子はまた、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子であることを意味する。エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味し、したがって、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。本実施形態の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm〜1000nmの範囲内で観察される。
【0037】
本実施形態の半導体ナノ粒子は、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。ナノ粒子の表面を修飾する化合物は表面修飾剤とも呼ばれる。表面修飾剤は、例えば、ナノ粒子を安定化させてナノ粒子の凝集または成長を防止するためのものであり、ならびに/あるいはナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させるためのものである。
【0038】
本実施形態において、表面修飾剤は、例えば、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含酸素化合物等であってよい。炭素数4〜20の炭化水素基としては、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
【0039】
表面修飾剤としては、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましい。そのような含窒素化合物は、例えばn−ブチルアミン、イソブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンである。
【0040】
表面修飾剤としては、また、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。そのような含硫黄化合物は、例えば、n−ブタンチオール、イソブタンチオール、n−ペンタンチオール、n−ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等である。
【0041】
表面修飾剤は、異なる二以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
【0042】
(第2の実施形態:四元系の半導体ナノ粒子)
第2の実施形態として、四元系の半導体ナノ粒子を説明する。
第2の実施形態の半導体ナノ粒子は、
M
1、M
2、M
3、およびZを含む、平均粒径が50nm以下の半導体ナノ粒子である。また、前記半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶、六方晶、または斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造のナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
M
1、M
2およびZは、先に第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
M
3は、ZnおよびCdからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。M
3は好ましくはZnである。M
3がZnであれば、本実施形態の半導体ナノ粒子を低毒性の組成のものとして提供できる。
【0043】
M
1、M
2、M
3およびZの組み合わせ(M
1/M
2/M
3/Z)は、特に限定されない。M
1、M
2、M
3およびZの組み合わせ(M
1/M
2/M
3/Z)は好ましくは、Cu/In/Zn/S、Ag/In/Zn/Sである。
【0044】
上記特定の四種類の元素を含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、または斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、(M
1M
2)
xM
3yZ
2(式中、x+y=2)の組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。すなわち、この組成式で表される半導体ナノ粒子は、実施の形態1に関連して説明したM
1M
2Z
2の組成式で表される半導体ナノ粒子においてM
3がドープされたもの、またはM
1M
2Z
2とM
3Zとが固溶体を形成しているものであるといえる。本発明者らは、一般式(M
1M
2)
xM
3yZ
2で表される半導体ナノ粒子も、実際には化学量論組成のものではなく、特にM
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)が1よりも小さいことを確認した。そして、後述する製造方法に従ってM
1/M
2を大きくした四元系の半導体ナノ粒子もまた、バンド端発光を与えることを見出した。
なお、第2の実施形態の半導体ナノ粒子の結晶構造の同定方法は、第1の実施の形態に関連して説明したとおりである。
【0045】
本実施形態においても、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)は0.990以上、1.089以下である。M
1/M
2が0.990未満である、あるいは1.089を越えると、半導体ナノ粒子からバンド端発光を得ることが難しくなる。なお、M
1/M
2の求め方は第1の実施形態に関連して説明したとおりである。
【0046】
第2の実施形態のナノ粒子は、M
1、M
2、M
3およびZのみから実質的に成っている。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にM
1、M
2、M
3およびZ以外の元素が含まれることを考慮して使用している。あるいは、第2の実施形態のナノ粒子は、M
1/M
2が上記の範囲内にある限りにおいて、他の元素を含んでいてよい。
【0047】
例えば、M
2の一部は他の金属元素により置換されていてよい。他の金属元素の例およびその置換量は第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
【0048】
加えて/あるいは、M
3の一部が他の金属元素により置換されていてよい。他の金属元素は+2価の金属イオンになるものであってよく、具体的には、Co、Ni、Pd、Sr、Ba、Fe、Cr、Mn、Cu、Cd、Rh、W、Ru、Pb、Sn、MgおよびCaから選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。その置換量は、M
3と置換元素とを合わせた原子の数を100%としたときに、10%以下であることが好ましい。
【0049】
第1の実施形態と同様、本実施形態の半導体ナノ粒子も、50nm以下の平均粒径を有する。平均粒径は、例えば、1nm〜20nmの範囲内、特に1nm〜10nmの範囲内にあってよい。平均粒径が50nmを越えると量子サイズ効果が得られにくくなり、バンド端発光が得られにくくなる。平均粒径の求め方は第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
【0050】
第1の実施形態と同様、本実施形態のナノ粒子は、体積を等分する内殻部と外殻部とに分けたときに、外殻部に含まれるM
1またはM
2の数が、内殻部に含まれるM
1またはM
2の数よりも大きいものであってよい。「体積を等分する内殻部と外殻部」の意味等は第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
【0051】
本実施形態の半導体ナノ粒子もまた、M
1/M
2の比が上記範囲内にあることに起因して、バンド端発光を発光可能である。また、本実施形態の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルもまた、好ましくはエキシトンピークを示すものである。
第2の実施形態は、M
3をドープしたことに起因して、第1の実施形態との比較において、バンド端発光のピーク波長等が異なる。したがって、M
3の種類およびドープ量を選択することにより、バンド端発光のピーク波長を調節することが可能となる。
【0052】
第2の実施形態の半導体ナノ粒子のその他の発光特性および吸収特性は、第1の実施形態のそれらと同じであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施形態の半導体ナノ粒子も、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。表面修飾剤の例は、第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0054】
(第3の実施形態:被覆層を有する半導体ナノ粒子)
第1の実施形態および第2の実施形態の半導体ナノ粒子は、一または複数の被覆層で覆われてよい。被覆層で覆われた半導体ナノ粒子は、いわゆるコアシェル構造を有し、コアシェル構造ナノ粒子と呼ばれることもある。被覆層は、一般式M
3’Z’(式中、M
3’はZnおよびCdからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、Z’は、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である)で表されるものであってよい。コアシェル構造の粒子は凝集したとしても、コアとコアはシェルにより隔てられて、コア自体が凝集することはなく、したがって、コアをなす半導体ナノ粒子はその機能(例えば波長変換機能)を十分に発揮できる。
また、コアシェル構造のナノ粒子においては被覆層により表面欠陥サイトがなくなるため、バンド端発光がより強くあらわれる傾向にある。
【0055】
被覆層を構成する化合物は、例えば、ZnS、CdS、ZnSe、CdSe、CdTe,ZnTe、およびテルル化カドミウム亜鉛等である。被覆層を構成する半導体の組成として、バンドギャップが半導体ナノ粒子よりも大きなものを起用することによりエネルギー的な障壁を形成せしめることが一般に有効である。これらの化合物のうち、ZnSはCdを含む化合物と比較して毒性の低いものであること、およびナノ粒子の被覆層として用いられている実績があることから好ましく用いられる。また、前記被覆層は、半導体ナノ粒子の表面に複数、すなわち多層構造に形成されてもよい。その場合、特に多層構造の下部(コアに近い部分)の屈折率が、多層構造の上部(コアシェル構造粒子の表面に近い部分)の屈折率より高くなるように、各層を形成する化合物を選択することが好ましい。被覆層の最外周は更に周辺環境から半導体ナノ粒子を保護するために金属化合物で被覆されていても良い。
【0056】
半導体ナノ粒子が被覆層で覆われると、その全体の寸法は、被覆層で覆われる前のナノ粒子よりも相当に大きくなるが、コア部分により発光が確保されるので被覆層に起因する粒径の増加は発光に影響を与えない。被覆層で覆われた半導体ナノ粒子の平均粒径は、100nm以下であることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、有機溶媒への分散安定性が悪くなる。なお、粒径および平均粒径の求め方は第1の実施形態に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0057】
(第4の実施形態:半導体ナノ粒子の製造方法)
次に、第4の実施形態として、第1の実施形態および第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する方法を説明する。本実施形態の製造方法は、半導体ナノ粒子(一次半導体ナノ粒子)を用意し、あるいは任意の方法で半導体ナノ粒子(一次半導体ナノ粒子)を製造した後で引き続き、一次半導体ナノ粒子を以下で説明する処理に付することを含む方法である。この処理によって、一次半導体ナノ粒子における、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)を変化させて、一次半導体ナノ粒子とは異なるM
1/M
2を有する半導体ナノ粒子を得ることが可能となる。すなわち、本実施形態の製造方法は、一次半導体ナノ粒子におけるM
1およびM
2の割合を化学量論比と比較したときに、その割合がより少ない方の金属を事後的に半導体ナノ粒子にドーピングする点にその特徴がある。
【0058】
本実施形態は、具体的には、一次半導体ナノ粒子と、元素M
1の塩とを、溶媒中で、100℃〜300℃の範囲内に設定された温度にて加熱することを含む。この加熱により、例えば、一次半導体ナノ粒子における、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)を変化させて、一次半導体ナノ粒子とは異なるM
1/M
2を有する半導体ナノ粒子を得ることができる。一次半導体ナノ粒子を、元素M
1の塩とともに溶媒中にて加熱する場合には、M
1/M
2を増加させることができる。M
1/M
2を所望のように変化(例えば、増加)させ得る限りにおいて、加熱中、溶媒には他の金属の塩、例えば、元素M
2の塩が含まれていてよく、第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合には、例えば、元素M
3の塩が含まれていてよい。
【0059】
あるいは、本実施形態は、一次半導体ナノ粒子と、元素M
2の塩とを、溶媒中で、100℃〜300℃の範囲内に設定された温度にて加熱することを含む。この加熱により、例えば、一次半導体ナノ粒子における、M
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)を変化させて、一次半導体ナノ粒子とは異なるM
1/M
2を有する半導体ナノ粒子を得ることができる。一次半導体ナノ粒子を、元素M
2の塩とともに溶媒中にて加熱する場合には、M
1/M
2を減少させることができる。M
1/M
2を所望のように変化(例えば、減少)させ得る限りにおいて、加熱中、溶媒には他の金属の塩、例えば、元素M
1の塩が含まれていてよく、第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合には、例えば、元素M
3の塩が含まれていてよい。
【0060】
ドーピングに用いる、塩の種類は特に限定されず、有機酸塩および無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、塩は、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、およびスルホン酸塩のいずれであってよい。本実施形態において、ドーピングに用いる塩は、酢酸塩等の有機酸塩であることが好ましい。有機酸塩は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。
【0061】
一般に、一次半導体ナノ粒子(すなわち、ドーピング前の半導体ナノ粒子)においては、M
1(例えば、Ag、InおよびSを含む正方晶、六方晶または斜方晶の半導体ナノ粒子におけるAg)の割合が化学量論比と比べてより小さくなる傾向にある。したがって、本実施形態では、特に、M
1の塩を用いて、一次半導体ナノ粒子におけるM
1の原子数対M
2の原子数の比(M
1/M
2)を増加させてよい。勿論、M
2の割合が化学量論比と比べてより小さい場合には、M
2の塩を用いて、M
1/M
2を減少させてもよい。
【0062】
一次半導体ナノ粒子と、ドーピングする元素の塩とは、溶媒中で加熱される。ここで、溶媒は、表面修飾剤または表面修飾剤を含む溶液であってよい。そのような溶媒を用いれば、最終的に得られる半導体ナノ粒子が表面修飾剤で修飾されたものとなる。例えば、炭素数4〜20の炭化水素基を有するアミン、および炭素数4〜20の炭化水素基を有するチオールは、上記のとおり表面修飾剤として機能するものであるが、これらは100℃〜300℃の温度下で液体の状態で存在するから、本実施形態において表面修飾剤を兼ねる溶媒として好ましく用いられる。表面修飾剤を兼ねる溶媒は一種のみ用いてよく、あるいは複数種を組み合わせて混合して用いてよい。例えば、炭素数4〜20の炭化水素基を有するアミンと、炭素数4〜20の炭化水素基を有するチオールとを組み合わせて用いてよい。
【0063】
あるいは、表面修飾剤として機能しない溶媒に、表面修飾剤を溶解または分散させて、ドーピングを実施してもよい。具体的には、溶媒としてのオクタデセンに、表面修飾剤としてのヘキサデシルアミンを溶解してもよい。あるいは、表面修飾剤として機能しない溶媒と表面修飾剤として機能する溶媒とを混合したものを、本実施形態において用いてよい。
【0064】
加熱は、100℃〜300℃の温度にて実施する。加熱温度が100℃未満であると、ドーピングが進行しにくく、所望のようにM
1/M
2を変化させることが困難となることがある。加熱温度が300℃を越えると、粒子の粗大化により発光しにくくなり、また溶媒への分散安定性も低下する。
【0065】
加熱時間は特に限定されず、加熱温度および後述するM
1の塩の使用量等を考慮して、例えば、数秒から数時間の範囲から選択され、好ましくは1分間〜60分間の範囲内に設定され、より好ましくは3分間〜30分間の範囲内に設定される。反応時間が短くても、また長すぎても、得られる半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいてバンド端発光の強度が低下する傾向にある。反応時間が短い場合にはドーピングが十分に進行せず、反応時間が長すぎる場合には、ドーピングが進行しすぎて、結果的にドーピングした元素の割合が化学量論比からずれてしまい(例えば過剰となり)、バンド端発光が得られにくくなると推察される。
【0066】
ドーピングする元素の塩の投入量(物質量(モル))は、一次半導体ナノ粒子中に含まれる当該元素の物質量(モル)に対して、0.10倍〜2倍とすることが好ましい。ドーピングする元素の塩の投入量が少なすぎると、ドーピングが進行せず、所望のようにM
1/M
2を変化させることが困難となることがある。一方、ドーピングする元素の塩の投入量が多すぎると、ドーピングした元素の金属単体が析出することがあり、その場合には、半導体ナノ粒子からの発光が得られなくなる。
【0067】
加熱は好ましくは不活性雰囲気下、例えば窒素雰囲気下または希ガス(特にアルゴン)雰囲気下で実施する。酸素を含む雰囲気または大気雰囲気下で加熱を実施すると、不純物として酸化物が生成する、あるいは得られた粒子表面が酸化し、修飾剤で十分に保護できず、ナノ粒子の凝集が生じる等の不都合が生じることがある。また、加熱は、0.1MPa以上1.0MPa以下の圧力下で実施することが好ましい。圧力下での加熱によればドーピングが進行しやすい。
【0068】
以上において説明したドーピングを実施することにより、一次半導体ナノ粒子においてM
1/M
2を変化させることができ、化学量論組成に近い半導体ナノ粒子を得ることができる。このドーピング処理は、ドーピング処理後のM
1/M
2が0.990以上、1.089以下となるように実施することが好ましい。そのようなM
1/M
2を有する半導体ナノ粒子は、上記第1の実施形態において説明したとおり、バンド端発光を与えるからである。
【0069】
第1の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合には、一次半導体ナノ粒子は、M
1、M
2、およびZを含む、平均粒径が50nm以下の半導体ナノ粒子である。一次半導体ナノ粒子は、例えば、正方晶、六方晶および斜方晶から選ばれる少なくとも一種の結晶構造を有していてよい。一次半導体ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造のナノ粒子が混在していてよい。
M
1、M
2、およびZは第1の実施形態に関連して説明したとおりである。また、第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合には、一次半導体ナノ粒子は、M
1、M
2、M
3、およびZを含む、平均粒径が50nm以下の半導体ナノ粒子である。M
1、M
2、M
3、およびZは第2の実施形態に関連して説明したとおりである。いずれの形態の半導体ナノ粒子を製造する場合にも、一次半導体ナノ粒子の製造方法は特に限定されない。すなわち、いずれの方法で製造された一次半導体ナノ粒子であっても、上記ドーピング処理によりM
1/M
2を変化させることができる。一次半導体ナノ粒子におけるM
1/M
2は、製造方法にもよるが、一般に0.500以上、0.990未満の範囲内にある。
【0070】
例えば、第1の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合、一次半導体ナノ粒子は、元素M
1の塩と元素M
2の塩と元素Zを配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とし、この錯体を熱処理することを含む方法で製造してよい。M
1の塩、およびM
2の塩については、ドーピング処理に関連して説明したとおりである。Zが硫黄(S)である場合、Zを配位元素とする配位子としては、例えば、2,4−ペンタンジチオンなどのβ−ジチオン類;1,2−ビス(トリフルオロメチル)エチレン−1,2−ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素がある。
【0071】
Zがテルル(Te)である場合、Zを配位元素とする配位子は、例えば、ジアリルテルライド、ジメチルジテルライドである。Zがセレン(Se)である場合、Zを配位元素とする配位子としては、例えば、ジメチルジセレノカルバミド酸、2−(ジメチルアミノ)エタンセレノールである。
【0072】
錯体は、M
1の塩、M
2の塩、およびZを配位元素とする配位子とを混合することにより得られる。錯体の形成は、M
1の塩およびM
2の塩の水溶液と配位子の水溶液とを混合する方法で実施してよく、あるいは、M
1の塩、M
2の塩および配位子を、有機溶媒(特に、エタノール等の極性の高い有機溶媒)中に投入して混合する方法で実施してよい。有機溶媒は表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶液であってよい。M
1の塩、M
2の塩およびZを配位元素とする配位子の仕込み比は、M
1M
2Z
2の組成式に対応して、1:1:2(モル比)とすることが好ましい。
【0073】
次に、得られた錯体を熱処理して、一次半導体ナノ粒子を形成する。錯体の熱処理は、得られた錯体を沈殿させて分離した後、乾燥させて粉末とし、粉末を例えば100℃〜300℃の温度で加熱することにより実施してよい。この場合、熱処理して得られる一次半導体ナノ粒子は、さらに表面修飾剤である溶媒、または表面修飾剤を含む溶媒中で熱処理して、その表面が修飾されることが好ましい。あるいは、錯体の熱処理は、粉末として得た錯体を、表面修飾剤である溶媒、または表面修飾剤を含む溶媒中で、例えば100℃〜300℃の温度で加熱することにより実施してよい。あるいはまた、M
1の塩、M
2の塩および配位子を、有機溶媒中に投入して混合する方法で錯体を形成する場合には、有機溶媒を表面修飾剤または表面修飾剤を含む溶媒として、塩および配位子を投入した後、加熱処理を実施することにより、錯体の形成、熱処理および表面修飾を連続的に又は同時に実施してよい。
【0074】
さらに、一次半導体ナノ粒子は、M
1の塩、M
2の塩、およびZの供給源となる化合物を有機溶媒に投入して形成しても良い。あるいはまた、有機溶媒とM
1の塩とを反応させて錯体を形成し、次に、有機溶媒とM
2の塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体とZの供給源となる化合物とを反応させ、得られた反応物を結晶成長させる方法で製造してよい。M
1の塩、およびM
2の塩については、ドーピング処理に関連して説明したとおりである。これらの塩と反応して錯体を形成する有機溶媒は、例えば、炭素数4〜20のアルキルアミン、アルケニルアミン、アルキルチオール、アルケニルアミン、アルキルホスフィン、アルケニルホスフィンである。これらの有機溶媒は、最終的には、得られる一次半導体ナノ粒子を表面修飾するものとなる。これらの有機溶媒は他の有機溶媒と混合して用いてよい。
この製造方法においても、M
1の塩、M
2の塩およびZの供給源となる化合物の仕込み比は、M
1M
2Z
2の組成式に対応して、1:1:2(モル比)とすることが好ましい。
【0075】
Zの供給源となる化合物は、Zが硫黄(S)である場合には、例えば、硫黄、チオ尿素、チオアセトアミド、アルキルチオールである。Zがテルル(Te)である場合には、例えば、トリアルキルホスフィンにTe粉末を加えた混合液を200〜250℃で熱処理して得られるTe−ホスフィン錯体を、Zの供給源となる化合物として用いてよい。Zがセレン(Se)である場合には、例えば、トリアルキルホスフィンにSe粉末を加えた混合液を200〜250℃で熱処理して得られるSe−ホスフィン錯体を、Zの供給源となる化合物として用いてよい。
【0076】
あるいは、一次半導体ナノ粒子の製造方法は、いわゆるホットインジェクション法であってよい。ホットインジェクション法は、100℃〜300℃の範囲内にある温度に加熱した溶媒に、一次半導体ナノ粒子を構成する各元素の供給源となる化合物(例えば、M
1の塩、M
2の塩、およびZの供給源となる化合物(またはZを配位元素とする配位子))を溶解または分散させた液体(前駆体溶液とも呼ぶ)を比較的短い時間(例えばミリ秒オーダー)で投入して、反応初期に多くの結晶核を生成させる半導体ナノ粒子の製造方法である。あるいは、ホットインジェクション法においては、一部の元素の供給源となる化合物を有機溶媒中に予め溶解または分散させておき、これを加熱してから、その他の元素の前駆体溶液を投入してよい。溶媒を表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶媒とすれば、表面修飾も同時に実施できる。ホットインジェクション法によれば、粒径のより小さいナノ粒子を製造することができる。
【0077】
なお、いずれの製造方法を採用する場合でも、一次半導体ナノ粒子の製造は不活性雰囲気下、特にアルゴン雰囲気下または窒素雰囲気下で実施される。これは、酸化物の副生および一次半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止するためである。
【0078】
第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合には、上記において説明した一次半導体ナノ粒子の製造において、M
3の塩を、M
1の塩およびM
2の塩とともに用いる。M
1の塩、M
2の塩、M
3の塩、およびZを配位元素とする配位子またはZの供給源となる化合物の仕込み比は、(M
1M
2)
xM
3yTe
2(式中、x+y=2)の組成式に対応して、x:x:y:2(モル比)とすることが好ましい。M
3の塩は、有機酸塩および無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、M
3の塩は、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、およびスルホン酸塩のいずれであってよい。その他は第1の実施形態
の半導体ナノ粒子の製造方法と同様であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0079】
半導体ナノ粒子をM
2の一部が他の金属元素で置換された組成のものとする場合には、一次半導体ナノ粒子の製造の際に、当該他の金属元素の塩を用いる。その場合、金属元
素の置換量が所望のものとなるように、M
2の塩および金属元素の塩の仕込み比を調整する。同様に、第2の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する場合に、その組成をM
3の一部が他の金属元素で置換されたものとするときには、一次半導体ナノ粒子の製造の際に、当該他の金属元素の塩を用いる。
【0080】
第4の実施形態に係る製造方法において、ドーピング処理が終了した後、得られた半導体ナノ粒子を処理後の液から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してよい。分離は、例えば、ドーピング終了後、混合液を遠心分離に付して、上澄み液を取り出すことにより行う。精製は、上澄み液にアルコールを加えて、遠心分離に付して沈殿させ、その沈殿を取り出し(あるいは上澄み液を除去して)、分離した沈殿を、例えば真空脱気または自然乾燥により乾燥させる、あるいは有機溶媒に溶解させる方法で実施してよい。精製(アルコールの添加と遠心分離)は必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n−プロパノール等の低級アルコールを用いてよい。沈殿を有機溶媒に溶解させる場合、有機溶媒として、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等を用いてよい。
【0081】
上記の分離および精製は、一次半導体ナノ粒子の製造に際しても実施してよい。一次半導体ナノ粒子を精製した後、乾燥させる場合、乾燥は真空脱気により実施してよく、あるいは自然乾燥により実施してよく、あるいはまた、真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより実施してよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。
【0082】
上記の方法に従って半導体ナノ粒子を製造した後、被覆層をさらに形成してもよい。被覆層を形成する方法は、非特許文献1にも記載され、当該文献に記載された方法を用いて被覆層を形成してよい。具体的には、被覆層をZnSとする場合には、得られた半導体ナノ粒子をチオール(例えば、1−ドデカンチオール)に分散させ、亜鉛源として酢酸亜鉛を加えた後、チオアセトアミドを加え、窒素雰囲気下で例えば180℃で30分間加熱して、反応させる。反応後の生成物を室温まで冷却した後、アルコールを加えて遠心分離し、沈殿に有機溶媒を加えて溶解させ、再び遠心分離により粗大な粒子を取り除き、被覆層が形成された半導体ナノ粒子を含む溶液を得る。被覆層をZnTeとする場合は、チオアセトアミドに代えて、実施の形態1で説明したTe−ホスフィン錯体を用いる。アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール等の低級アルコールである。沈殿を溶解する有機溶媒は例えば、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等である。
【0083】
被覆層を、ZnS、ZnTe以外の化合物とする場合も、上記と同様の方法で被覆層を形成できる。例えば、CdS等のCdを含む化合物を被覆層とする場合、カドミウム源として酢酸カドミウムが用いられる。また、セレン化合物を被覆層とする場合には、工程(a)と同様にして、Se粉末を用いて、Se−ホスフィン錯体溶液を調製し、これを用いる。
【0084】
(第5の実施形態:発光デバイス)
次に、第5の実施形態として、第1ないし第3の実施形態のいずれかの半導体ナノ粒子を用いた、発光デバイスを説明する。
第5の実施形態である発光デバイスは、光変換部材および半導体発光素子を含む発光デバイスであって、光変換部材に第1ないし第3の実施形態のいずれかの半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0085】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm〜490nm程度の青紫色光または青色光を発するLEDチップを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、三種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0086】
半導体ナノ粒子は、他の半導体ナノ粒子と組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体または無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体ナノ粒子は、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体ナノ粒子である。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット系蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β−SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi
3N11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi
2O
2N
2:Eu系又はBa
3Si
6O
12N
2:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa
2S
4系、SrAl
2O
4系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl
3N
4:Eu蛍光体、SrMg
3SiN
4:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのK
2SiF
6:Mn蛍光体などを用いることができる。
【0087】
発光デバイスにおいて、半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシートまたは板状部材であってよい。あるいは、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0088】
または、光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面および側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。
あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子および前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚さで平板状に形成された樹脂部材である。
【0089】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材または棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)またはモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上の半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の半導体ナノ粒子のみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0090】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等から成る群より選択される一種又は二種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、または紫外線を発光する半導体発光素子は、好ましくは、一般式がIn
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものであることが好ましい。
【0091】
本実施形態の発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。半導体ナノ粒子によるバンド端発光は蛍光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施の形態の半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて、青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm〜490nmの範囲内にある青色光を得るようにし、半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm〜550nm、好ましくは530nm〜540nmの範囲内にある緑色光、およびピーク波長が600nm〜680nm、好ましくは630〜650nmの範囲内にある赤色光を得るようにする。または、発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、半導体ナノ粒子によりピーク波長430nm〜470nm、好ましくは440〜460nmの範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm〜550nm、好ましくは530〜540nmの緑色光、およびピーク波長が600〜680nm、好ましくは630〜650nmの範囲内にある赤色光を得るようにすれば、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。本実施形態の発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、またはエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0092】
あるいは、第1の実施形態ないし第3の実施形態の半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、またはロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例】
【0093】
(実験例1)
(1)一次半導体ナノ粒子の製造
酢酸銀(AgOAc)、酢酸インジウム(In(OAc)
3)をそれぞれ0.1mmol、チオ尿素を0.2mmol、1−ドデカンチオール0.05cm
3を試験管に入れ、さらにオレイルアミンを試験管の内容物の合計量が3.0cm
3となるように試験管に加えた。窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、250℃にて10分間加熱した。得られた懸濁液を遠心分離(半径144mm、4000rpm)に付し、上澄み液を取り出し、これを先端にメンブレンフィルターを取り付けたシリンジを用いて濾過した。濾過した上澄み液にメタノールを加えて、遠心分離(半径144mm、4000rpm)に付し、沈殿物を常温で真空脱気により乾燥させて、半導体ナノ粒子(一次半導体ナノ粒子)を得た。
【0094】
得られた一次半導体ナノ粒子についてXRDパターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInS
2、六方晶(ウルツ鉱型)のAgInS
2、および斜方晶のAgInS
2と比較した。測定したXRDパターンを
図9に示す。XRDパターンより、この一次半導体ナノ粒子の結晶構造は、斜方晶または、斜方晶と正方晶の混合物のAgInS
2であることがわかった。XRDパターンは、リガク社製の粉末X線回折装置(商品名SmartLab)を用いて測定した(以下の実験例において同じ)。
【0095】
また、得られた一次半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、日立ハイテクノロジーズ、H−7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を68000倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、市販のエラスティックカーボン支持膜付き銅グリッド(応研商事)を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。
平均粒径は、TEM像に含まれているナノ粒子のうち、計測可能なものをすべて、すなわち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除くすべての粒子について、粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。一つのTEM像に含まれるナノ粒子が100点に満たない場合には、別のTEM像を測定して、そのTEM像に含まれる粒子について粒径を測定し、算術平均を100点以上の粒子から求めるようにした。
この一次半導体ナノ粒子の平均粒径は5.7nmであった。
【0096】
さらに、得られた一次半導体ナノ粒子について、蛍光X線分析装置(リガク社製、EDXL300)を用いて、M
1に相当するAgの原子数/M
2に相当するInの原子数を求めたところ、0.895であった。
蛍光X線分析装置を用いたM
1/M
2の測定は具体的には以下の手順で実施した(以下の実験例においても同じ)。
AgおよびIn標準溶液を1mol・dm
−3の硝酸水溶液で0.0、2.0、10、50、100ppmとなるよう希釈した。蛍光X線分析装置(リガク, EDXL300)によりそれぞれの濃度における、Ag,InのX線強度を測定し、線形近似により検量線を作成した。半導体ナノ粒子は減圧乾燥により溶媒を除去したものに、濃硝酸を加えてサンプルを溶解させ、純水で硝酸イオン濃度が1mol・dm
−3となるように希釈した。これを同様に蛍光X線分析し、得られたシグナル強度を、前述した検量線を用いて濃度に変換し、Ag(M
1)およびIn(M
2)の濃度をそれぞれ求めた。これを用いて、ナノ粒子中の原子数比M
1/M
2を求めた。
【0097】
(2)M
1/M
2を変化させた半導体ナノ粒子の製造
上記(1)で得た半導体ナノ粒子(粒子数2.0×10
−5mmol、Ag含有量2.0×10
−2mmol)と、以下に示す量の酢酸銀(AgOAc)と、オレイルアミン2.95cm
3と、1−ドデカンチオール0.05cm
3とを、試験管に入れ、窒素雰囲気下で250℃にて8分間加熱撹拌した。加熱後の溶液を遠心分離(半径144mm、4000rpm)に付して上澄み液を取り出し、メタノールを加えて沈殿を析出させた。沈殿を常温で真空脱気により乾燥させて、目的とする半導体ナノ粒子を得た。
酢酸銀の使用量
サンプル1−1: 0.5×10
−2mmol(Ag含有量の0.25倍)
サンプル1−2: 1.0×10
−2mmol(Ag含有量の0.5倍)
サンプル1−3: 2.0×10
−2mmol(Ag含有量の1倍)
サンプル1−4: 10.0×10
−2mmol(Ag含有量の5倍)
【0098】
サンプル1−1〜1−4の半導体ナノ粒子について、蛍光X線分析装置を用いて、Agの原子数/Inの原子数を求めたところ、以下のとおりであった。
サンプル1−1: 0.984
サンプル1−2: 0.990
サンプル1−3: 0.995
サンプル1−4: −(測定不可)
【0099】
サンプル1−1〜1−4の半導体ナノ粒子をクロロホルムに分散させて、吸収および発光スペクトルを測定した。その結果を順に
図1〜4に示す。吸収スペクトルは、ダイオードアレイ式分光光度計(アジレントテクノロジー社製、商品名Agilent 8453A)を用いて、波長を190nm〜1100nmとして測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA11)を用いて、励起波長365nmにて測定した。サンプル1−2(
図2)および1−3(
図3)の発光スペクトルにおいて、588nm付近に半値幅がそれぞれ約30nm、約36nmである急峻な発光ピークが観察された。この発光ピークとして観察される発光の蛍光寿命を測定したところ、蛍光寿命はいずれのサンプルについても200ns以下であった。これらの結果から、サンプル1−2および1−3の発光スペクトルで観察された発光ピークはバンド端発光であることが確認された。
なお、蛍光寿命は、浜松ホトニクス社製 小型蛍光寿命測定装置 Quantaurus−Tau(C11367−01)を用いて測定した(以下の実験例において同じ)。
【0100】
また、サンプル1−2および1−3のXRDパターンを測定したところ、一次半導体ナノ粒子のそれと変わらなかった。また、サンプル1−2および1−3についてTEM像を確認したところ、形状および粒径とも、一次半導体ナノ粒子のそれらとは実質的に変わらなかった。
【0101】
一方、サンプル1−1の発光スペクトルにおいては、比較的ブロードな発光のみが観察され、バンド端発光が確認されなかった。サンプル1−4では、発光そのものが得られなかった。そこで、サンプル1−4のXRDパターンを測定したところ、
図5に示すようなパターンが得られ、これは立方晶の銀のXRDパターンに相当することが確認された。すなわち、サンプル1−4においては金属銀が生成されていた。
【0102】
(実験例2)
実験例1と同様にして一次半導体ナノ粒子を得た。この一次半導体ナノ粒子を、実験例1と同様にしてドーピング処理に付した。ドーピング処理は、酢酸銀の使用量を1.0×10
−2mmolとし、加熱時間を以下のとおりサンプルごとに変えて実施した。
加熱時間
サンプル2−1: 4分間
サンプル2−2: 8分間
サンプル2−3: 15分間
【0103】
サンプル2−1〜2−3の半導体ナノ粒子について、蛍光X線分析装置を用いて、Agの原子数/Inの原子数を求めたところ、以下のとおりであった。
サンプル2−1: 1.050
サンプル2−2: 0.990
サンプル2−3: 1.089
【0104】
サンプル2−1〜2−3の半導体ナノ粒子について、実験例1で用いた装置と同じ装置を用いて、吸収および発光スペクトルを測定した。その結果を順に
図6〜8に示す。なお、サンプル2−2は、前述のサンプル1−2と同じものである。発光スペクトルは、励起波長を365nmとして測定した。いずれのサンプルにおいても、588nm〜590nm付近に発光ピークが確認された。この発光ピークとして観察される発光の蛍光寿命を測定したところ、いずれのサンプルについても200ns以下であった。これらの結果から、いずれのサンプルにおいても588nm〜590nm付近で観察された発光ピークはバンド端発光であることが確認された。また、サンプル2−1〜2−3のXRDパターンを測定したところ、一次半導体ナノ粒子のそれと変わらなかった。サンプル2−1〜2−3のTEM像を確認したところ、形状および粒径とも、一次半導体ナノ粒子のそれらとは実質的に変わらなかった。
【0105】
(実験例3)
(1)一次半導体ナノ粒子の製造
主に1−ドデカンチオールの量と真空脱気後に常温常圧で放置すること以外は、実験例1と同様にして実施した。酢酸銀(AgOAc)、酢酸インジウム(In(OAc)
3)をそれぞれ0.1mmol、チオ尿素を0.2mmol、1−ドデカンチオール0.15cm
3を試験管に入れ、さらにオレイルアミンを試験管の内容物の合計量が3.0cm
3となるように試験管に加えた。窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、250℃にて10分間加熱した。得られた懸濁液を遠心分離(半径170mm、2400rpm)に付し、上澄み液を取り出し、これを先端にメンブレンフィルターを取り付けたシリンジを用いて濾過した。濾過した上澄み液にメタノールを加えて、遠心分離(半径170mm、2400rpm)に付し、沈殿物を乾燥させて、半導体ナノ粒子(一次半導体ナノ粒子)を得た。沈殿物の乾燥は、6時間真空脱気した後、さらに常温常圧で30時間放置することにより実施した。得られた一次半導体ナノ粒子の平均粒径は3.5nmであった。
【0106】
(2)M
1/M
2を変化させた半導体ナノ粒子の製造
上記(1)で得た半導体ナノ粒子(粒子数1.56×10
−5mmol、Ag含有量1.56×10
−2mmol)と、酢酸銀(AgOAc)0.78×10
−2mmol(Ag含有量の0.5倍)と、オレイルアミン2.95cm
3と、1−ドデカンチオール0.05cm
3とを、試験管に入れ、窒素雰囲気下で250℃にて8分間加熱撹拌した。加熱後の溶液を遠心分離(半径170mm、2400rpm)に付して上澄み液を取り出し、メタノールを加えて沈殿を析出させた。沈殿を常温で真空脱気により乾燥させて、目的とする半導体ナノ粒子を得た。
【0107】
得られた半導体ナノ粒子について、実験例1で用いた装置と同じ装置を用いて、吸収および発光スペクトルを測定した。その結果を
図10に示す。合わせて、一次半導体ナノ粒子の発光スペクトルを
図11に示す。一次半導体ナノ粒子の発光スペクトルは、一次半導体ナノ粒子をクロロホルムに分散させ、量子効率測定機(大塚電子社製、QE−2100)を用いて、励起波長を365nmにして測定した。
図11に示すように一次半導体ナノ粒子においては、バンド端発光がほとんど観察されなかったが、得られた半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては、
図10に示すように、586nm付近に半値幅が約32nmである急峻な発光ピークが観察された。この発光ピークとして観察される発光の蛍光寿命を測定したところ、蛍光寿命は55.3nsであった。これらの結果から、この実験例で得た半導体ナノ粒子はバンド端発光を発するものであることが確認された。また、得られた半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては、540nm付近に、エキシトンピークと推察されるピークが観察された。