(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窒化珪素基板の厚さ方向の任意の断面を拡大写真にて観察したとき、粒界相の最大長が50μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化珪素基板。
窒化珪素基板の任意の表面または断面を拡大写真にて観察したとき、ポアの最大径が20μm以下(0含む)であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の窒化珪素基板。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、
焼結助剤として、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムから選択される1種以上を酸化物換算で合計2〜14質量%含有し、窒化珪素結晶粒子と粒界相とを具備
し、熱伝導率が50W/m・K以上
であり、3点曲げ強度が600MPa以上である窒化珪素基板において、窒化珪素基板の任意の断面組織をSEM観察したとき、窒化珪素基板の厚さT1に対し厚さ方向の粒界相の合計長さT2の比(T2/T1)が0.01〜0.30
の範囲内であり、基板の表裏に電極を接触して4端子法で基板の対角線同士の交点とその交点からそれぞれの角部に至る中点となる4点との合計5箇所を測定したときの絶縁耐力の平均値からのばらつきが20%以下であり、上記絶縁耐力の平均値が15kv/mm以上であり、上記窒化珪素基板の室温(25℃)での1000V印加時の体積固有抵抗値ρv1と、250℃での1000V印加時の体積固有抵抗値ρv2との比(ρv2/ρv1)が0.20以上であり、上記窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径が1.5〜10μmであることを特徴とするものである。
【0013】
まず、窒化珪素基板は、窒化珪素結晶粒子と粒界相とを具備する熱伝導率が50W/m・K以上の窒化珪素焼結体から構成されている。また、熱伝導率は50W/m・K以上、さらには90W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が50W/m・K未満と低い場合には放熱性が低下する。
【0014】
図1に実施形態に係る窒化珪素基板の断面組織の一例を示す。図中、符号1は窒化珪素基板、2は窒化珪素結晶粒子、3は粒界相、T1は窒化珪素基板の厚さ、である。また、
図2は、実施形態に係る窒化珪素基板において、基板厚さT1に対する粒界相の合計の長さT2の比(T2/T1)を説明するための断面図である。図中、2は窒化珪素結晶粒子、3は粒界相、T2−1〜4は厚さ方向の粒界相の長さである。
【0015】
窒化珪素基板は、窒化珪素結晶粒子と粒界相とを具備する窒化珪素焼結体から構成されている。窒化珪素結晶粒子は β−Si
3N
4結晶粒子が個数割合で95%以上100%以下であることが好ましい。 β−Si
3N
4結晶粒子が95%以上となることにより、窒化珪素結晶粒子がランダムに存在した組織となり、強度が向上する。
【0016】
また、粒界相は、焼結助剤を主として構成されるものである。また、焼結助剤としては、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムから選択される1種以上が好ましい。また、焼結助剤はそれぞれ酸化物換算で合計2〜14質量%が含有されていることが好ましい。燒結助剤が酸化物換算で2質量%未満では、粒界相の存在比が少ない部分が生じるおそれがある。また、焼結助剤が酸化物換算で14質量%を超えて過量であると、粒界相の存在比が多くなり過ぎるおそれがある。そのため、焼結助剤は酸化物換算で4.0〜12.0質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0017】
実施形態の窒化珪素基板の断面組織は、窒化珪素基板の厚さT1に対し粒界相の合計長さT2の比(T2/T1)が0.01〜0.30であることを特徴としている。窒化珪素基板の厚さT1は、
図1に示したように基板の厚さである。基板の厚さT1はノギスにより測定するものとする。
【0018】
また、粒界相の合計長さT2の測定方法に関しては、
図2を参照して説明する。
図2は窒化珪素基板において、基板厚さT1に対する粒界相の合計の長さT2の比(T2/T1)を説明するための断面図である。図中、符号2は窒化珪素結晶粒子であり、3は粒界相である。まず、窒化珪素基板の厚さ方向の任意の断面組織を拡大写真に撮る。一視野で厚さ方向の断面組織が観察できないときは、複数回に分けて撮影してもよいものとする。
【0019】
また、拡大写真は走査型電子顕微鏡(SEM)写真であることが好ましい。SEM写真であれば、窒化珪素結晶粒子と粒界相とでコントラスト差が付くため区別し易い利点がある。
【0020】
また、倍率については2000倍以上であれば窒化珪素結晶粒子と粒界相との区別を行い易い。粒界相の合計の長さT2を求めるには、断面組織の拡大写真に対して、基板厚さ方向に直線を引き、その直線上に存在する粒界相の長さを求めていくものとする。
【0021】
図2の場合、T2−1、T2−2、T2−3、T2−4の合計がT2となる(T2=(T2−1)+(T2−2)+(T2−3)+(T2−4))。拡大写真を分けて撮影する場合は、基板厚さT1になるまで、この作業を繰り返すものする。なお、拡大写真の撮影するに際しては、任意の断面を表面粗さRaが0.05 μm以下に鏡面研磨して、エッチング処理してから撮影を実施するものとする。なお、エッチング処理としては、ケミカルエッチング、プラズマエッチングのどちらでも有効である。また、基板中に存在するポアは粒界相の長さにカウントしないものとする。
【0022】
実施形態に係る窒化珪素基板の断面組織は、窒化珪素基板の厚さT1に対し粒界相の合計長さT2の比(T2/T1)が0.01〜0.30であることを特徴としている。上記比(T2/T1)が0.01未満では、部分的に粒界相の少ない領域ができてしまうために絶縁性が低下する。一方、上記比(T2/T1)が0.30を超えて多いと部分的に粒界相が多い領域が形成されてしまうために、絶縁性のばらつきが発生する原因となる。絶縁性の確保と、そのばらつきの低減のためには、上記比(T2/T1)が0.10〜0.25の範囲であることが好ましい。
【0023】
このように上記比(T2/T1)を0.01〜0.30の範囲に規定することにより、基板の表裏に電極を接触して4端子法で測定したときの絶縁耐力の平均値からのばらつきが20%以下、さらには15%以下とすることができる。
【0024】
図3に4端子法を使用した絶縁耐力の測定方法の一例を示す。図中、符号1は窒化珪素基板であり、4は表面側測定端子であり、5は裏面側測定端子であり、6は測定器である。表面側測定端子4および裏面側測定端子5の先端形状は球体とする。測定端子の先端形状を球体とすることにより、窒化珪素基板1への面圧を一定にすることが可能になり、測定誤差を無くすことができる。
【0025】
また、表面側測定端子4と裏面側測定端子5は窒化珪素基板1を挟むように対向して配置するものとする。実施形態の窒化珪素基板1は、表面側測定端子4と裏面側測定端子5を窒化珪素基板1のどの位置に配置して測定した場合でも、平均値からのばらつきが20%以下になる。
【0026】
上記絶縁耐力の平均値は、前述の測定方法により、窒化珪素基板1において少なくとも5か所を測定し、その平均値を求めるものとする。
図4に絶縁耐力の測定箇所の一例を示す。例えば、1枚の基板について5か所を測定する場合の測定箇所は、
図4に示すようにS1、S2、S3、S4、S5の5か所を測定対象とする。すなわち、基板1の対角線同士の交点(中心)となるS1と、S1からそれぞれの角部の中点となる4点のS2〜S5とした。
【0027】
このような5か所の測定点における絶縁耐力の平均値を窒化珪素基板1の絶縁耐力の平均値とする。すなわち、S1での絶縁耐力をES1、S2での絶縁耐力をES2、S3での絶縁耐力をES3、S4での絶縁耐力をES4、S5での絶縁耐力をES5、としたときに、絶縁耐力の平均値ESAは、下記算式により求めるものとする。また、測定点は少なくとも5点であり、測定点を6か所以上にしてもよい。
【0028】
ESA=(ES1+ES2+ES3+ES4+ES5)/5
また、絶縁耐力のばらつき(%)は、(|平均値ESA−ESn|/ESA) ×100(%)、n=整数(測定点の番号)、により平均値からのずれの割合(%)を絶対値で求めるものとする。なお、上記に示した測定条件以外はJIS−C−2141に準じて測定するものとする。なお、絶縁耐力の測定はフロリナート中で行うものとする。フロリナートは、パーフルオロカーボン(PFC)系の絶縁性溶剤である。
【0029】
実施形態の窒化珪素基板は絶縁耐力のばらつきが20%以下と小さい。窒化珪素基板は、窒化珪素結晶粒子と粒界相とから成る窒化珪素焼結体である。また、基板として使用する場合、板厚が1.0mm以下、さらには0.4mm以下となるような薄型基板として使用される。これは基板を薄型化することにより基板の熱抵抗を低減して放熱性を上げるためである。
【0030】
上記基板の厚さT1が1.0mm以下である薄型基板において、部分的な絶縁耐力のばらつきが大きいと絶縁耐力の低い部分に電界集中が起き易くなる。その結果、絶縁耐力の低い部分が絶縁破壊を起こし易くなる恐れがある。実施形態の窒化珪素基板では、絶縁耐力のばらつきを低減しているので、絶縁耐力が低い部分に電界が集中することを効果的に防止することができる。そのため、基板厚さT1を0.1mmまで薄くすることも可能である。言い換えると、実施形態に係る窒化珪素基板は、厚さT1が0.1〜1.0mm、さらには0.1〜0.4mmと薄い基板に有効である。
【0031】
また、絶縁耐力の平均値ESAは15kV/mm以上であることが好ましい。平均値が15kV/mm未満では基板としての絶縁性が不足する。絶縁耐力の平均値ESAは15kV/mm以上、さらには20kV/mm以上であることが好ましい。前記の比(T2/T1)を0.15以下にすると、絶縁耐力の平均値は20kV/mm以上となり易い。
【0032】
また、室温(25 ℃)での1000V印加時の体積固有抵抗値が60 ×10
12Ωm以上であることが好ましい。また、室温(25 ℃)での1000V印加時の体積固有抵抗値ρv1と、250 ℃での1000V印加時の体積固有抵抗値 ρv2との比(ρv2/ρv1)が0.20以上であることが好ましい。
【0033】
図5に体積固有抵抗値の測定方法を示す。図中、符号1は窒化珪素基板、7は表面側カーボン電極、8は裏面側カーボン電極、9は測定装置、である。なお、体積固有抵抗値の測定にあたっては、表面側カーボン電極7と裏面側カーボン電極8で窒化珪素基板1を押圧して固定する。また、印加電圧は直流1000Vとし、60秒間印加後の体積抵抗Rvを測定する。体積固有抵抗値 ρv=Rv・ πd2/4t、により体積固有抵抗値を求めるものとする。ここで πは円周率(=3.14)、dは表面側カーボン電極の直径、tは窒化珪素基板の厚さである。このような体積固有抵抗値の測定を、室温(25℃)で行ったものを ρv1、250℃の雰囲気中で行ったものを ρv2とする。また、上記以外の測定条件はJIS−K−6911に準じて行うものとする。
【0034】
室温(25 ℃)での1000V印加時の体積固有抵抗値が60 ×10
12Ωm以上であることが好ましい。窒化珪素基板に金属回路板を設けた窒化珪素回路基板は様々な半導体素子を搭載することが可能である。
【0035】
半導体素子の中には動作電圧が500〜800Vと高いものもある。 ρv1が60×10
12Ωm以上、さらには90×10
12Ωm以上と高いことが好ましい。前述のように絶縁耐力のばらつきを低減した上で体積固有抵抗値を高くすることにより、動作電圧の高い半導体素子を実装しても絶縁破壊が起きない優れた信頼性を得ることができる。
【0036】
また、比(ρv2/ρv1)が0.20以上、さらには0.40以上と高いことにより、使用環境が200〜300℃の高温下であったとしても優れた絶縁性を維持することができる。近年、SiC素子などのように動作温度が150〜250℃になる半導体素子が開発されている。このような半導体素子を実装する絶縁基板として実施形態に係る窒化珪素基板を使うことにより、半導体装置としても優れた信頼性を得ることができる。
【0037】
また、窒化珪素基板の厚さ方向の断面を拡大写真にて観察したとき、粒界相の最大長が50μm以下であることが好ましい。また、窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径は1.5〜10μmであることが好ましい。絶縁耐力の平均値を高くし、かつ、そのばらつきを20%以下にするには、厚さ方向における窒化珪素結晶粒子と粒界相との存在比(T2/T1)を所定の範囲内にすることが有効である。
【0038】
その上で、体積固有抵抗値ρv1を所定の値以上、比(ρv2/ρv1)を所定の値以上にするには、粒界相のサイズを制御することが有効である。窒化珪素基板の厚さ方向の断面を拡大写真にて観察したとき、粒界相の最大長を50μm以下、さらには20μm以下、さらには10μm以下と小さくすることが好ましい。厚さ方向の粒界相の最大長とは、前述のT2−1、T2−2、T2−3、T2−4のいずれもが50μm以下であることを示している。
【0039】
また、粒界相の最大長を50μm以下にするには、窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径は1.5〜10μmであることが好ましい。窒化珪素結晶粒子の長径は任意の断面組織の拡大写真において、単位面積100 μm×100μm内に写る窒化珪素結晶粒子個々の最大径を測定し、その平均値により求めるものとする。最大径の測定は、拡大写真に写る窒化珪素結晶粒子の最も長い対角線を長径として求めるものとする。この作業を単位面積100μm ×100μmを異なる3か所で行い、その平均値を窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径とする。
【0040】
上記窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径が1.5μm未満と小さいと、窒化珪素結晶粒子同士の粒界が増えるために、比(T2/T1)が0.30を超える部分が形成されるおそれがある。窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径が10μmを超えて大きいと、窒化珪素結晶粒子間の粒界の数は減るものの、窒化珪素結晶粒子間の粒界の長さが大きくなってしまい粒界相の最大長を50μm以下にできない部分が形成されるおそれがある。そのため、窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径は1.5〜10μm、さらには2〜7μmの範囲であることが好ましい。なお、拡大写真は2000倍以上のものを用いるものとする。また、結晶粒子および粒界を判断し難いときは5000倍の拡大写真を使用するものとする。
【0041】
また、窒化珪素基板の気孔率が3%以下であることが好ましい。また、気孔(ポア)の最大径は20μm以下であることが好ましい。実施形態に係る窒化珪素基板は基板厚み方向の窒化珪素結晶粒子と粒界相の比(T2/T1)を制御してあるので気孔率3%まで存在したとしても絶縁耐力のばらつきは20%以下、さらには15%以下にすることができる。
【0042】
なお、気孔(ポア)はできるだけ少ないことが好ましく、気孔率は1%以下、さらには0.5%以下であることが好ましい。また、気孔の最大径は20μm以下、さらには10μm以下、さらには3μm以下(0含む)であることが好ましい。また、気孔の最大径は任意の断面における拡大写真から求めるものとする。
【0043】
また、前述のように体積固有抵抗値ρv1が60×10
12Ωm以上、比(ρv2/ρv1)が0.20以上にするには、窒化珪素基板の任意の表面または断面を拡大写真(2000倍以上)にて観察したとき、気孔率1%以下(0含む)かつ気孔の最大径が10μm以下(0含む)であることが好ましい。
【0044】
上記拡大写真とはSEM写真のことである。SEM写真において、ポアは窒化珪素結晶粒子および粒界相とは異なるコントラスト差が生じるので区別可能である。倍率を2000倍以上、さらには5000倍に拡大したSEM写真にて観察されるポアの割合またはサイズを小さくすることにより、高温環境下(250℃雰囲気下)であったとしても優れた体積固有抵抗値を得ることができる。
【0045】
また、任意の断面を拡大写真にて観察したときにポアが存在する場合、ポアの周囲長の10%以上に粒界相が存在することが好ましい。ポアとなっている部分は空気が存在することになる。窒化珪素粒子は絶縁物である。また、粒界相成分は金属酸化物からなる焼結助剤が反応して形成されるものである。このため粒界相成分は酸化物であるため絶縁性が高い。
【0046】
一方、空気は電気の通り道になり易い。特に600V以上の大きな電圧を印可したときには電気の通り道になり易い。ポアは焼結工程による緻密化過程での残存欠陥であり、その緻密化は粒界相を介して進行する。
【0047】
また、β−窒化珪素結晶粒子は細長い形状を有する。β−窒化珪素結晶粒子が複雑に絡み合ったランダム配向することにより、窒化珪素基板の強度が向上する。一方、ランダム配向すると窒化珪素結晶粒子同士の隙間が形成され易い。窒化珪素結晶粒子同士の隙間を粒界相成分で埋めることによりポアが形成され難くなる。またポアが形成されても、その周辺の緻密化阻害により生じる構造欠陥を含み難くなる。そのため、ポアの周囲が粒界相成分で覆われていることが、良好な緻密化過程を示唆することとなり好ましい。
【0048】
このため、ポアの最大径を20μm以下にしたうえで、ポアの外周長の10%以上に粒界相成分を存在させることが好ましい。ポアの外周長に粒界相成分が存在する割合は大きいほどよく50%以上100%以下であることが好ましい。ポアの外周長が50%以上と大きくすることにより、絶縁耐力を向上させると共に、そのばらつきを低減することができる。言い換えれば、ポアが存在したとしても、その外周を粒界相成分で覆うことにより絶縁耐力を向上させることができる。
【0049】
また、50Hzでの比誘電率をε
r50、1kHzでの比誘電率をε
r1000としたとき、(ε
r50−ε
r1000)
/ε
r50≦0.1であることが好ましい。比誘電率とは、電極間の媒質が充填しているときの蓄電器の電気容量が真空であるときの電気容量で割った値を示す。今回の媒質とは、窒化珪素基板である。(ε
r50−ε
r1000)
/ε
r50≦0.1であるということは、窒化珪素基板の比誘電率は周波数が高くなっても大きくならないことを示している。これは、窒化珪素基板の分極が起き難い構成になっていることを示す。分極が起き難い状態としては、ポアが小さいこと、ポアが少ないこと、などが挙げられる。また、前述のように、粒界相のサイズを制御すること、ポアの周囲に粒界相成分を存在させることも有効である。さらに、後述する偏析領域を低減することも有効である。
【0050】
また、窒化珪素基板の任意の断面を観察したとき、粒界相中の偏析領域の最大長が5μm以下(0含む)であることが好ましい。粒界相は焼結助剤を主成分とする反応相である。燒結助剤としては、前述のように、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムから選ばれる1種以上が好ましい。
【0051】
ここで偏析領域とは、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により単位面積20μm×20μmをカラーマッピングしたとき、特定元素の平均濃度に対し30%以上ずれが生じている領域を示す。特定元素とは、焼結助剤成分を示す。例えば、焼結助剤成分として酸化イットリウム(Y
2O
3)を用いた場合、Y元素のマッピングを行い平均濃度に対して30%以上濃度ずれた領域を求めるものとする。
【0052】
また、複数の焼結助剤成分を用いている場合は、それぞれの成分の金属元素をマッピングするものとする。例えば、焼結助剤成分としてY
2O
3、MgO、HfO
2の3種類用いた場合は、「Y」「Mg」「Hf」について平均濃度から30%以上ずれている領域を求めるものとする。なお、平均濃度から30%以上のずれとは多い場合も少ない場合も該当するものとする。
【0053】
上記偏析領域は小さいことが好ましく、偏析領域の最大長は5μm以下、さらには1μm以下(0含む)が好ましい。偏析領域を小さくすることにより、体積固有抵抗値 ρv1を90×10
12Ωm以上、前記比(ρv2/ρv1)を0.40以上にすることができる。また、偏析領域の最大長を5μm以下、さらには1μm以下(0含む)の状態とすることにより、絶縁耐力のばらつきを5%以下にすることもできる。板厚が薄い基板であるほど影響が大きくなる。そのため、板厚T1が0.1〜0.4mmのものである場合は、偏析領域は1μm以下と小さい状態もしくは存在しない状態であることが好ましい。
【0054】
以上のような構成とすることにより、窒化珪素基板の板厚T1を0.1〜1.0mm、さらには0.1〜0.4mmと薄型化しても絶縁耐力のばらつきを低減した上で、絶縁耐力の平均値を向上させることができる。
【0055】
また、粒界相の最大長、窒化珪素結晶粒子のサイズを制御することにより、絶縁耐力の向上のみならず、窒化珪素基板の熱伝導率を50W/m・K以上とした上で、強度を600MPa以上とすることもできる。
【0056】
また、気孔率、ポアサイズや偏析領域サイズ(焼結助剤の偏析部サイズ)を制御することにより、さらなる絶縁耐力の向上、体積固有抵抗値の向上を図ることができる。
【0057】
また、特許文献2に示したように粒界相中における結晶化合物相を面積比で20%以上とすることにより、熱伝導率を80W/m・K以上、さらには90W/m・K以上とし易くなる。
【0058】
実施形態に係る窒化珪素基板は、窒化珪素回路基板に好適である。回路基板は、回路部として金属板、金属層を設けたものである。金属板は、銅板、Al板などの導電性のよい金属板が例示できる。また、金属板の接合は活性金属接合法、直接接合法など様々な接合法が適用できる。また、必要に応じ、裏面にも金属板を設けるものとする。また、金属層は、金属ペーストを加熱して形成されるメタライズ膜や、メッキ法、スパッタリング法、溶射法など薄膜形成技術を使用した金属薄膜などが挙げられる。
【0059】
また、特許文献1に示したような圧接構造用基板としても使用できる。特に実施形態に係る窒化珪素基板は絶縁耐力を改善しているので、圧接構造用基板としても有効である。
【0060】
次に、実施形態に係る窒化珪素基板の製造方法について説明する。実施形態に係る窒化珪素基板は前述の構成を有している限り、製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく製造するための方法として次のものが挙げられる。
【0061】
まず、原料粉末として、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末を用意する。窒化珪素粉末は、 α化率が80質量%以上であり、平均粒径が0.4〜2.5μmであり、不純物酸素含有量が2質量%以下であることが好ましい。また、不純物酸素含有量は2質量%以下、さらには1.0質量%以下、さらには0.1〜0.8質量%であることが好ましい。不純物酸素含有量が2質量%を超えて多いと、不純物酸素と焼結助剤との反応が起きて、必要以上に粒界相が形成されてしまうおそれがある。
【0062】
また、焼結助剤は、平均粒径が0.5〜3.0μmの金属酸化物粉末であることが好ましい。金属酸化物粉末としては、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムなどの酸化物が挙げられる。焼結助剤を金属酸化物として添加することにより、焼結工程中に液相成分を形成し易くなる。
【0063】
また、焼結助剤は、希土類元素、マグネシウム、チタン、ハフニウムから選択される1種または2種以上を酸化物換算で合計2〜14質量%添加するものとする。この範囲をずれると焼結工程中の窒化珪素結晶粒子の粒成長や粒界相の割合がずれて、目的とする比(T2/T1)の範囲内にすることが困難となる。
【0064】
次に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を所定量混合し、さらに有機バインダを添加して原料混合体を調製する。このとき、必要に応じて、非晶質炭素、可塑剤等を添加してもよい。非晶質炭素は脱酸剤として機能する。すなわち非晶質炭素は酸素と反応してCO
2やCOとして外部に放出されるため、焼結工程の液相反応を促進し易くなる。
【0065】
次に、原料混合体を成形する成形工程を行う。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、冷間静水圧プレス(CIP)法、あるいはドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法などが適用できる。また、必要に応じ、原料混合体を、トルエン、エタノール、ブタノールなどの溶媒と混合するものとする。
【0066】
次に上記成形工程の後、成形体の脱脂工程を行う。脱脂工程は、非酸化性雰囲気中、温度500〜800 ℃で1〜4時間加熱して、予め添加していた大部分の有機バインダの脱脂を行うものとする。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中などが挙げられる。
【0067】
また、有機バインダとしては、ブチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。また、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末との合計量を100質量部としたとき、有機バインダの添加量は3〜17質量部であることが好ましい。
【0068】
有機バインダの添加量が3質量部未満ではバインダ量が少なすぎて成形体の形状を維持するのが困難となる。このような場合、多層化して量産性を向上することが困難となる。一方、バインダ量が17質量部を超えて多いと、脱脂工程後に成形体(脱脂処理後の成形体)の空隙が大きくなり窒化珪素基板のポアが大きくなってしまう。
【0069】
次に脱脂処理された成形体は、焼成容器内に収容され焼成炉内において非酸化性雰囲気中で温度1400〜1650℃に加熱され、1〜8時間保持される熱処理工程が実施される。この処理により、焼結助剤粉末の液相反応が促進される。液相反応の促進により、液相成分が窒化珪素結晶粒子の粒界への拡散が促進され、気孔が低減される。
【0070】
保持温度が1400℃未満では液相反応が起き難く、保持温度が1650℃を超えて高いと、窒化珪素結晶粒子の粒成長が進んでしまうために、液相成分の拡散による気孔低減効果が十分得られなくなる。また、非酸化性雰囲気としては、窒素ガス(N
2)やアルゴンガス(Ar)などが挙げられる。また、成形体を多段に積層して量産性を向上させることも有効である。また、多段にすることにより、炉内の温度が均一になり、液相反応が均一にすることができる。
【0071】
次に、焼結工程を行う。焼結工程は、非酸化性雰囲気中で成形体を温度1800〜1950℃に8〜18時間加熱して実施されるものとする。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、または窒素ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成炉内圧力は加圧雰囲気であることが好ましい。
【0072】
焼結温度が1800℃未満と低温状態で焼成すると、窒化珪素結晶粒子の粒成長が十分でなく、緻密な焼結体が得難い。一方、焼結温度が1950℃より高温度で焼成すると、炉内雰囲気圧力が低い場合にはSiとN
2に分解するおそれがあるため、焼結温度は上記範囲に制御することが好ましい。
【0073】
前述のように成形体を多段にした場合、炉内の圧力ばらつきが生じるおそれがあるため焼結温度は1950℃以下が好ましい。また、焼結温度が1950℃より高いと窒化珪素結晶粒子が必要以上に粒成長してしまい目的とする比(T2/T1)が得られなくなるおそれがある。
【0074】
また、焼結工程後における焼結体の冷却速度を100℃/h以下にすることが好ましい。冷却速度を100℃/h以下、さらには50℃/h以下とゆっくり冷却することにより、粒界相を結晶化することができる。粒界相中の結晶化合物の割合を大きくすることができる。前記熱処理工程により、粒界相の液相反応を促進している。
【0075】
このため、粒界相の結晶化を行ったとき、焼結体に生成した液相の凝集偏析が少なく、微細な結晶組織が均一に分散した粒界相が得られる。また結晶組織に形成される気孔も微細化すると同時に減少させることができる。
【0076】
また、焼結工程後の冷却速度を100℃/h以下とすることにより、粒界相中の結晶化合物相の割合を面積率で20%以上、さらには50%以上とすることができる。粒界相を結晶化することにより、窒化珪素基板の熱伝導率を80W/m・K以上とすることができる。
【0077】
なお、焼結工程後の冷却速度を炉冷(炉のスイッチを切った自然冷却)にすると通常は600℃/h程度になる。このような場合でも、前述の熱処理工程を行っていれば、粒界相の均一化が図れるため、熱伝導率を50W/m・K以上とした上で、前記比(T2/T1)および絶縁耐力のばらつきを所定の範囲とすることができる。
【0078】
また、焼結工程後に、再度、追加の熱処理することも有効である。追加の熱処理は、液相生成温度以上でかつ焼結工程の処理温度より低温とすることが望ましい。また、加圧条件化で行うことが望ましい。焼結工程において粒成長という表面活性状態から冷却された液相成分は、粒界において定常状態となり固定化される。しかし、活性域からの安定化は不均質に進行しやすい。よって再度液相が生成し流動する状態、一方で粒成長は進行しない状態まで熱処理することで、その後の冷却による粒界の安定化をより均質に改善することが可能となる。
【0079】
また、追加の熱処理を行う際に、押圧すること、焼結体の表裏をひっくり返して行うこと、などが有効である。追加の熱処理を行うことにより、窒化珪素基板中のポアを無くしたり、ポアを小さくしたり、ポアの周囲長に粒界相成分を存在した状態とすることができる。上記熱処理の温度は1000℃以上1700℃以下が好ましい。
【0080】
上記の1000℃以上1700℃以下で熱処理することにより、窒化珪素結晶粒子の粒成長を抑制したうえで、粒界相成分を若干移動させることができる。このとき、押圧することや表裏をひっくり返して行うことにより、ポアを無くしたり、ポアを小さくしたり、ポアの周囲長に粒界相成分を存在した状態とする効果を得易くなる。
【0081】
以上のような製造方法であれば、実施形態に係る窒化珪素基板を得ることができる。
【0082】
(実施例)
(実施例1〜20および比較例1)
窒化珪素粉末として、平均粒径が1.0 μmであり、不純物酸素含有量が1質量%であり、 α化率が98%のものを用意した。また焼結助剤粉末として表1および表2に示したものを用意した。なお、焼結助剤粉末は平均粒径が0.8〜1.6 μmのものを用意した。
【0083】
窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを混合し、原料混合体を調製した。また、原料混合体に、分散剤、有機溶媒を混合してボールミル混合を行った。次に、原料混合粉100質量部に対し、有機バインダとしてのブチルメタクリレートを10質量部と、可塑剤としてジブチルフタレートを4質量部、混合し、有機溶媒を追加添加し、さらにボールミル混合を十分に実施してスラリー状の原料混合体を調製した。スラリーの粘度を5000〜15000cpsに調整した後に、シート成形法(ドクターブレード法)によりシート成形して乾燥し、成形体(グリーンシート)を調製した。
【0084】
成形体に対し、窒素ガス雰囲気中で温度500〜800 ℃で1〜4時間加熱して脱脂工程を行った。
【0085】
次に脱脂処理した成形体に対し、表1および表2に示した熱処理工程および焼結工程を実施した。この工程を実施した後、表1および表2に示した条件で実施例および比較例の窒化珪素基板を作製した。また、熱処理工程および焼結工程は多段(10段重ね)にして実施した。
【表1】
【0087】
各実施例および比較例に係る窒化珪素基板について、熱伝導率、3点曲げ強度、基板厚さ方向の断面組織を観察し、比(T2/T1),厚さ方向の粒界相の最大径、窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径、気孔率を調査した。また、ポアサイズ、粒界相中の偏析領域についても調査した。
【0088】
なお上記熱伝導率はレーザフラッシュ法により求めた。また、3点曲げ強度はJIS−R−1601(2008)に準じて測定した。また、基板厚さT1はノギスで測定した。また、気孔率は水銀圧入法により求めた。また、基板厚さ方向に対して任意の断面組織をSEM写真(2000倍)を撮影し、厚さ方向の粒界相の最大径、窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径を調査した。
【0089】
また、基板厚さ方向の任意の断面において単位面積20μm×20μmの拡大写真(5000倍のSEM写真)を10か所分撮影し、ポアサイズ(最大径)を求めた。また、単位面積20μm×20μmをEPMAにより焼結助剤成分の金属元素に関してカラーマッピングを行った。単位面積20μm×20μmを5箇所測定し、平均濃度、さらには偏析領域(金属元素の濃度が30%以上ずれている領域)のサイズを求めた。その結果を下記表3および表4に示す。
【表3】
【0091】
(実施例11〜20)
次に、実施例1〜10の窒化珪素基板に対し、表5に示す追加熱処理を行った。
【表5】
【0092】
実施例1〜20および比較例1に係る窒化珪素基板について、ポアサイズ(最大径)とポアの周囲長に粒界相成分が存在する割合を求めた。ポアサイズ(最大径)はSEM写真(5000倍)にて求めた。また、ポアの周囲長の粒界相成分の存在割合はEPMAにより求めた。その結果を下記表6に示す。
【表6】
【0093】
上記表6に示す結果から明らかなように、各実施例に係る窒化珪素基板ではポアが小さく、ポアの周囲長に粒界相成分が10%以上存在していた。また、追加熱処理を行うことにより、ポアを小さく(ポアが存在しない場合を含む)することができた。
【0094】
以上のような実施例および比較例に係る窒化珪素基板に対して、絶縁耐力、体積固有抵抗値を測定した。なお、上記絶縁耐力はJIS−C−2141に準じて4端子法にて測定した。測定端子は先端が直径20mmの球形電極のものを使用した。また、絶縁耐力の測定はフロリナート中で行った。また、測定箇所は
図4に示した5か所(S1〜5)の平均値、ばらつきを求めた。
【0095】
また、体積固有抵抗値は、JIS−K−6911に準じて測定した。表面側カーボン電極を直径20mmの円盤状、裏面カーボン電極を直径28mmの円盤状とし、印加電圧1000Vとして、室温(25℃)における体積固有抵抗値 ρv1と250℃における体積固有抵抗値ρv2を求めた。
【0096】
また、比誘電率の周波数依存性を調べた。比誘電率の周波数依存性としては、50Hzでの比誘電率をε
r50、1kHzでの比誘電率をε
r1000としたとき、(ε
r50−ε
r1000)
/ε
r50により求めた。その結果を表7、表8に示す。
【表7】
【0098】
以上のように各実施例に係る窒化珪素基板は絶縁耐力および体積固有抵抗値に優れた特性を示した。また、比誘電率の周波数依存性に関しても優れた特性を示した。
【0099】
このような窒化珪素基板であれば、薄型化しても優れた絶縁性を有している。そのため、窒化珪素回路基板や圧接構造用基板に適用したとしても優れた信頼性を確保することができる。
【0100】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。