【課題を解決するための手段】
【0013】
上記及び他の目的は、「技術分野」で述べた方法によって実現される。当該方法は以下の段階を有する。
− 検出器を用いて前記束の少なくとも一部を捕獲することで、前記試料の少なくとも一部の画素化された画像I
jの組{I
j}を生成する段階であって、前記組{I
j}の濃度はM>1である、段階;
− 各画像I
j中の各画素p
iについて、累積信号強度S
ijを決定することで、係る信号強度の組{S
ij}を生成する段階;
− 前記組{S
ij}を用いて、画素位置iあたりの平均信号強度S及び画素位置iあたりのSにおける分散σ
2sを計算する段階;
− 位置の関数としての検出された電子のエネルギー変化を表す第1マップ及び位置の関数としての検出された電子の数の変化を表す第2マップからなる群から選ばれる前記試料の一部の少なくとも一のマップに前記S並びにσ
2sを用いる段階;
を有する。
【0014】
本願で用いられている用語については、以下のことに留意して欲しい。
− 画素化された検出器が問題となっている前記画像を生成するのに用いられる場合、画像I
jが(実像又は虚像の)構成要素である複数の部分領域にさらに分割され得る場合、画像I
jは「画素化」されているとみなされる。前記部分領域は、検出画素に対応しても良いし、又は、対応しなくても良い。
− 前記第1マップ及び前記第2マップの各々/いずれかは、Sの値とσ
2sの値の両方を用いて生成される。
【0015】
当業者はこれらのポイントを十分に理解する。
【0016】
本発明は、上述の電子放出過程の統計的性質が、やっかいなものではなくむしろ有利に利用され得るという知見を利用している。本願発明者等は、従来のノイズ軽減目的ではなく、純粋に統計解析を実行する原理として機能させるため、試料の複数の画像の記録を行うのに通常ではない段階を採用した。これは一般的に−たとえばスループットが低下し、及び、前記試料への放射線照射量が全体的に増大するという観点から−逆効果になる恐れがあると考えられる。
【0017】
しかし画素毎の原理に基づいて様々な画像を検査し、かつ、前記様々な画像を数学的に処理することによって、本願発明者等が複数の(時間的に異なる)画像を記録したことで、画素毎の統計的平均(S)及び分散(σ
2s)をデータから得ることが可能となる。これは実効的にはデコンボリューション処理となる。デコンボリューション処理では、2つの異なるパラメータが、最初自然の状態で「ごちゃ混ぜになった(muddled)」データ内で互いに分離され得る。電子生成/撮像処理をより詳細に検討することによって、本願発明者等は、得られたS及とσ
2sの値が前記検出器に到達する電子のエネルギー(E)と数(N)に比例することを理解した。それにより、前記試料の「Eマップ」と「Nマップ」をそれぞれ別個に生成することが可能となった。これはたとえば以下のように説明することができる。
− Sの大きさは次式で表すことのできる関数的挙動を示す。
【0018】
S〜EN
0η (1)
− N
0は、前記入力ビーム中の荷電粒子(たとえば電子)の平均数を表し、かつ、ポアソン過程に従った変化を示す。
− ηは、前記の使用された検出器での信号を検出する確率を表し、かつ、二項過程に従った変化を示す。
− Eは、単一の入力粒子が衝突した結果生じる前記の検出された電子の平均エネルギーを表し、かつ、未知のランダム過程に従って変化する。
【0019】
前記ポアソン過程と二項過程が組み合わせられることで、平均値N=N
0ηであるポアソン過程となる。平均値N=N
0ηは、入力粒子あたりの検出された電子数の指標となる。よって以下のように書くことができる。
【0020】
S〜EN (1a)
− Sにおける分散σ
2sは、次式で表すことのできる関数的挙動を示す。
【0021】
σ
2s〜E
2N (2)
− 式(1a)と(2)とを組み合わせることによって、次式が得られる。
【0022】
E=f(S,σ
2s) (3)
N=g(S,σ
2s) (4)
ここでfとgは関数である。たとえばfとgは以下のような関数である。
E〜σ
2s/S (3a)
N〜S
2/σ
2s (3b)
これらの値は画素毎に計算されるので、これらの値のプロットはそれぞれ以下を描画する。
− 基本的には前記試料(の撮像部分)(たとえば様々な汚染物/ドーパント、一の材料から他の材料への一般的な遷移等を含む領域)にわたる組成変化のみしか明らかにしない前記試料の第1マップ(Eマップ)
− とりわけ前記試料(の撮像部分)(たとえば端部、隆起部と中空部、溝、縁部、粒状部、クラック等)にわたる構造変化を明らかにする前記試料の第2マップ(Nマップ)
よって2つが仕方なく混合されている状態を我慢しなければならないのではなく、同一の虚像から2つの異なる種類の情報を分離することができる。前記第1マップ(Eマップ)を得ることは特に興味深い。なぜなら前記第1マップ(Eマップ)は、X線分光(EDS)に頼ることなく、基礎的な組成情報を与えるからである。
【0023】
当業者は、前記組{S
ij}の解析からSとσ
2sを定量化し−たとえば相対的に簡単なソフトウエアを用いて前記データ{S
ij}を自動的に解析する−、かつ、かかるデータの画素毎の平均振幅と広がりを決定することができる。その際、要求される平均及び分散を求めるのに、様々な推定から選択する自由度がある。Sの場合では、用いられる平均は、単純な算術平均(値の数で除された合計値)又は他の種類の推定であって良い。同様に相対的に単純なソフトウエアは、たとえば上の(3a)及び(4)式で表される計算を自動的に実行することができる。問題のソフトウエアは、データ組{I
j}を自動的に収集し、表示装置上で前記第1マップと前記第2マップの描画等をするようにもプログラムされ得る制御装置−たとえば電子マイクロプロセッサ−の助けを借りて実行されて良い。とりわけ上で与えられた開示では、一般的な情報提供を目的として非特許文献4〜6を参照して欲しい。
【0024】
言うまでもないことだが、前段落で述べた処理の精度はとりわけ、蓄積された画像I
jの数M−つまり前記組{I
j}の濃度−に依存する。これは選択の問題である。当業者は、(S及びσ
sの計算値における)より高い精度と競合するスループットの問題との間でのトレードオフをどのように管理するのかを決定することができる。他の考慮する必要があると思われる問題は、前記試料へ供給される合計の放射線照射量である。この点に関する許容可能な上限によって、Mの値に関する制限は設定され得る。しかし本発明は主として、前記画像I
j自体の内容よりも前記組{I
j}中の画像間での差異に関心があるので、取得された画像の多重度を(部分的に)補償するように画像あたりの照射量を低下させて前記画像組{I
j}全体の累積放射線照射量を減少させることが可能な状況が存在することを本願発明者等は発見した。しかも前記組{S
ij}の解析からSとσ
2sの値を計算する際、インテリジェントアルゴリズムが、−たとえば任意の所与の対象となる画素に隣接する画素の集まりからデータを外挿/補間することによって−より小さなデータ組からより精緻なSとσ
2sの値を生成するのに用いられてよい。このようにして開始するMの値を小さくすることができる。一般的な情報提供目的で与えられる非限定的例示だが、本願発明者等は、Auの島を有する試料と、たとえば50〜300の範囲のMを用いることによって本願発明において満足行く結果を実現した。
【0025】
一般的な情報提供目的として、以下では前段落において検討したこと(の一部)をさらに明らかにする。
【0026】
BS電子の検出を考慮し、かつ、EとNを式(3a)と(4)でそれぞれ特定すると、EとNに関する相対誤差に関する(ある程度単純化された)以下の表式を得ることができる。
【0027】
【数1】
ここで、σ
Eとσ
Nは標準偏差で、γ=E
2/(E
2+σ
E2)で、N=Nηである。
−前述したように、N
0は画像あたりの照射量で、ηは検出器の収量を乗じたBS電子の収量で、かつ、Mは前記組{I
j}の濃度である。
−κは問題となっている測定信号の所謂分布の尖度で、κ~1/N(たとえば炭素ではκ≒22/N、金ではκ≒2/N)である。
【0028】
係る関係に基づいて、当業者は、所与のσ
E/Eとσ
N/Nの所望/許容可能な値について、MとNを対抗させることができる。その際、簡明を期すためにたとえばγ=1と設定されてよい。とりわけ上で与えられた開示では、一般的な情報提供を目的として非特許文献7を参照して欲しい。
【0029】
本発明によると、前記組{I
j}の生成が可能な方法が複数存在することに留意して欲しい。たとえば以下のような方法がある。
(i) 一の方法では、前記組{I
j}は、n番目の画像I
n全体が、(n+1)番目の画像I
n+1全体を取り込む前に取り込まれる処理を反復することによって生成され得る。この場合、前記組{I
j}は基本的に各独立するM枚の集められる前の画像I
jのスタックである。かかる方法はたとえば、後述する検出方法(a)又は(b)を用いて実現されてよい。
(ii) 他の方法では、前記組{I
j}は、n番目の画素位置にて、M枚の異なる検出器試料が、(n+1)番目の画素位置へ進む前に収集される処理を反復することによって生成される。この場合、前記組{I
j}は基本的に、2次元の床面積−Mの床が横に並べられている小さな高層ビルのような−上に画素スタックを並べることによって集められる。所与の画像I
nは、問題となっている個々の高層ビルのn番目の床で構成される累積的な床面積である。そのためこの場合では、個々の画像I
jは、集められる前ではなく集められた後とみなすことができる。このシナリオでは、「分解されていない」組{I
j}から個々の画像を明示的に「分解する」(集める)のに実際に問題があるのか否かは特に重要ではない。主目的は、(分解されたのか否かによらず)前記組{I
j}を介してデータ組{S
ij}とそれに関連するSとσ
2sの値を発生させることである。係る方法はたとえば、後述する検出方法(a)を用いて実現されてよい。
(iii) 必要な場合には、方法(i)と(ii)の様々なハイブリッド/混合も考えられ得る。
【0030】
上述した検出方法に関して、以下の可能性が考えられ得る。
(a) 走査に基づく検出
−前記検出器はたとえば単一セグメント検出器である。
−画像は、前記試料に対して入力荷電粒子ビームを走査させることによって生成される。
【0031】
このシナリオでは、入力荷電粒子の狭ビームが、任意の所与の時間で前記試料の小さな領域に照射され、かつ、用いられた検出器は、構成要素となる画像の部分領域を生成するように、問題となっている被照射領域から放出される電子束(の一部)を捕獲する。この方法は前記試料上の(走査経路に従う)連続する領域にて繰り返される。完全な画像は、得られた構成要素となる画像の部分領域を一つにまとめるように「並べる(tiling)」ことによって集められてよい。これはたとえばSEMにおいて一般的に採用されている方法である。
(b) 「完全領域」検出。ここでは、完全試料(又はその相対的に大きな面積)が、入力荷電粒子の相対的に広いビームを用いて照射され、かつ、画素化された検出器(たとえばCCD又はCMOSアレイ)が、前記試料上の被照射領域全体から放出される電子を捕獲するのに用いられることで、2次元画像が即座に生成される。かかる処理はたとえばTEMにおいて一般的に採用されている方法である。
(c) 必要な場合には、処理(a)と(b)の様々なハイブリッド/混合も考えられ得る。
【0032】
当業者は、これらの点を理解し、かつ、前記組{I
j}を介して前記組{S
ij}を蓄積させたいと考える方法を選ぶことができる。
【0033】
本発明の特定の実施例では、出力電子束はBS電子を含む。BS電子は、本発明の統計的処理方法の用途に特に役立つ。なぜならBS電子は、相対的に大きなエネルギー広がりを有する傾向にあるからである。しかもBS電子は、たとえば2次電子よりも良好な検出コントラストを得る傾向を示す。それに加えて、BS電子のエネルギーが相対的に高くなることで、一般的に用いられている検出器の典型的な検出しきい値と比較して容易に検出できるようになる。
【0034】
本発明の他の実施例は、使用される検出器が固体検出器であることを特徴とする。固体検出器は、従来の光電子増倍管に基づくPMTと比較して利点を有する。たとえば固体検出器は、検出エネルギーにおいて良好な線形性を有し、かつ、従来の光電子増倍管に基づくPMTよりも(はるかに)小さくて安価な傾向を示す。それに加えて、固体検出器は、必要な場合には、集積された画素化された検出器として相対的に容易に実施することができる。これは従来の光電子増倍管に基づくPMTでは不可能である。固体検出については、本願発明者等は、ホウ素がドーピングされた検出セル(たとえばδドーピングホウ素p
+nフォトダイオード)を用いる検出器によって、本発明について特に良好な結果を実現した。かかるホウ素がドーピングされた検出器はとりわけ、約200eV程度の低い電子エネルギーでさえも相対的に敏感で高い線形性を示すので有利である。係る検出器の基本構造及び動作については、非特許文献8,9を参照して欲しい。