(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レドックス系をベースとする前記開始剤が、還元剤及びラジカル形成剤を含み、前記還元剤が、ナトリウムヒドロキシメタンスルフィネート(ロンガリット)、アルカリ金属亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、アスコルビン酸及びケト−エノールからなる群より選ばれ、かつ前記ラジカル形成剤が、過酸化物化合物である、請求項2に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、下記を含むポリマーPに関する:
(a)mモル%の下記の式(I)の少なくとも1種の構造単位A:
【化1】
(b)nモル%の下記の式(II)の少なくとも1種の構造単位B:
【化2】
(c)oモル%の下記の式(III)の少なくとも1種の構造単位C:
【化3】
及び随意に、(d)pモル%の少なくとも1種の追加の構造単位D、
(上式中、
R
1及びR
2は各々独立に、COO
−M又はCOOR
4を表し、
R
3は、H又はCH
3を表し、特にHであり、
R
4は、下記式を表し:
【化4】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基、又はアルキルアリール基、好ましくは7〜20個のC原子を有するアルキルアリール基を表し、
R
7は、H又はCH
3を表し、特にHであり、
R
8は、M、1〜6個のC原子を有するアルキル基、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基、又は下記式を表し:
【化5】
置換基Aは独立に、C
2〜C
4アルキレン基を表し、下付き文字qは2〜300、特に2〜50の値を表し、下付き文字rは0〜1の値を表し、そして下付き文字sは1〜5の値を表し
Mはカチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり、
m、n、o、pは独立に数値を表し、合計m+n+o+p=100であり、かつm>0、n>0、o>0及びp≧0であり、
m=10〜80であり、好ましくは30〜60、特に好ましくは40〜55であり、最も好ましくは40〜55であり、
n=10〜50であり、好ましくは20〜40であり、特に好ましくは30〜40であり、
o=10〜50であり、好ましくは15〜30であり、特に好ましくは17.5〜30であり、最も好ましくは20〜25であり、
p=0〜20であり、好ましくは0〜10であり、特に好ましくは0〜5である)。
【0009】
本文書中の用語「ポリマー」は、一方で、化学的に均一なマクロ分子の集合体であるが、重合度、分子量及び鎖長に関して異なり、重反応(重合)により製造されるものを表す。他方で、この用語は、重反応から生じるこのようなマクロ分子の集合体の誘導体をも包含し、このため、所定のマクロ分子を形成するための官能基の付加又は置換などの反応によって得られる、化学的に均一であるか又は化学的に不均一であることができる化合物をも包含する。
【0010】
本文書中、用語「櫛形ポリマー」は、直鎖状ポリマー鎖(=主鎖)に側鎖がエステル又はエーテル基を介して結合しているものからなる櫛形ポリマーを指す。側鎖は、その外観の点で「櫛」の「歯」を形成している。
【0011】
COO
−Mは、一方で、イオンMが結合するカルボキシレートであること、及び他方で、イオンMが多価である場合には、電荷は対イオンによりバランスされなければならないことが、当業者に明らかである。
【0012】
P、A、A’、B、B’、C、C’、D、D’などの太字体の表示は本文書中で、読み手にとってのより良好な理解及び識別のためにのみ提供される。
【0013】
構造単位Cは、通常、(メタ)アクリル酸又はその誘導体の重合により形成される単位、特にその塩、無水物又はエステルの重合により形成される単位である。「(メタ)アクリル酸」は本文書全体にわたって、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を示すために使用される。このようなエステルの例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(3−メトキシプロポキシ)プロピル(メタ)アクリレート、及び3−(3−(3−メトキシプロポキシ)プロポキシ)プロピル(メタ)アクリレートである。
【0014】
構造単位Dは、通常、エチレン系不飽和カルボン酸又はその誘導体の重合により形成される単位、特にその塩、無水物、エステル又はアミドの重合により形成される単位のうちの1つである。
【0015】
適切な構造単位Dの例は、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、フマル酸、マレアミド酸、イタコン酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、又は上記の酸の無水物若しくはその誘導体の重合により形成される単位、特にその塩、無水物、エステル又はアミドの重合により製造される単位である。好ましいのは、モノカルボン酸又はその誘導体の重合により形成される単位、特にその塩、無水物又はアミドの重合により形成される単位である。
【0016】
ポリマーPが5モル%未満の構造単位Dを含む場合、特にポリマーPが構造単位Dを含まない場合、さらに有利なことがある。
【0017】
ポリマーPは、好ましくは、平均分子量M
nが2000〜200,000g/モルであり、好ましくは5000〜70,000g/モルであり、特に好ましくは15,000〜50,000g/モルである。
【0018】
ポリマーPにおいて、m=40〜50であり、n=30〜40であり、o=17.5〜30、特にo=20〜25であり、かつp=0〜5、特にp=0である場合、さらに特に有利である。
【0019】
好ましくは、ポリマーPにおいてR
8はMである。このことは、水硬性組成物の長期取り扱い性を増加させることに関して特に良好な結果を得るために有利である。
【0020】
R
8が、1〜6個のC原子を有するアルキル基、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基、又は下記式、特に1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基である場合、さらに有利なことがある:
【化6】
【0021】
これは、それを水硬性組成物に添加した後で、特定の時間にわたってスランプが増加する点で有利である。このようにして、例えば、可塑化効果は他の可塑剤との組み合わせで便利に調節することができる。このように、例えば、経過時間にわたる一定の取り扱い性は、添加直後に非常に高いスランプをもたらすが、時間経過にわたりスランプを急速に低下させる可塑剤との組み合わせで達成できる。
【0022】
好ましい実施形態において、ポリマーPは下記を含む(それぞれポリマーPにおける構造単位A、B及びCの合計分子量を基準としている):
40〜50モル%の式(I)の構造単位A、
30〜40モル%の式(II)の構造単位B、
20〜25モル%の構造単位C。
【0023】
特に好ましい実施形態において、ポリマーPは、95wt%超、好ましくは98wt%超の上記の構造単位A、B及びCからなり、好ましいものは上記のモル%比である。ポリマーPは、構造単位A、B及びCに加えて、追加の構造単位を含むことができ、その追加の構造単位は、例えば分子量調節剤から得られる。
【0024】
さらなる好ましい実施形態では、ポリマーPにおいて、
R
1及びR
2は各々、COO
−Mを表し、
R
3は、Hを表し、
R
4は、下記式を表し:
【化7】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基を表し、特にR
6は、CH
3を表し、
R
7は、H又はCH
3、特にHを表し、
R
8は、Mを表し、
置換基Aは独立に、C
2〜C
4アルキレン基を表し、下付き文字qは、2〜300の値を表し、特に2〜50の値であり、
下付き文字rは、0〜1の値を表し、特に0であり、
Mは、カチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価金属イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり、最も好ましくはH
+であり、
m=40〜50であり、
n=30〜40であり、
o=20〜25であり、
p=0である。
【0025】
さらなる好ましい実施形態では、ポリマーPにおいて、
R
1及びR
2は、各々COO
−Mを表し、
R
3は、Hを表し、
R
4は、下記式を表し:
【化8】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基を表し、特にR
6はCH
3を表し、
R
7は、Hを表し、
R
8は、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基を表し、
置換基Aは独立に、C
2〜C
4−アルキレン基を表し、下付き文字qは2〜300の値を表し、特に2〜50の値であり、
下付き文字rは0〜1の値を表し、特に0であり、
Mは、カチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価金属イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり、最も好ましくはH
+であり、
m=40〜50であり、
n=30〜40であり、
o=20〜25であり、
p=0である。
【0026】
さらなる態様において、本発明は上記のポリマーPの製造方法に関する。
【0027】
好ましい実施形態において、ポリマーPの製造方法は、下記の化合物を、10℃〜50℃、好ましくは15℃〜35℃の反応温度でラジカル重合のための開始剤の存在下において、ラジカル重合させる工程を含む:
(i)m’モル%の無水マレイン酸又は下記の式(IV)の化合物である少なくとも1種の化合物A’:
【化9】
(ii)n’モル%の式(V)の少なくとも1種の化合物B’、
【化10】
(iii)o’モル%の下記の式(VI)の少なくとも1種の化合物C’:
【化11】
及び随意に、(iv)p’モル%の少なくとも1種の追加の化合物D’
(上式中、
R
1及びR
2は、各々独立にCOO
−M又はCOOR
4を表し、
R
3は、H又はCH
3を表し、特にHであり、
R
4は、下記式を表し:
【化12】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基、又はアルキルアリール基、好ましくは7〜20個のC原子を有するアルキルアリール基を表し、
R
7は、H又はCH
3を表し、特にHであり、
R
8は、M、1〜6個のC原子を有するアルキル基、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基、又は下記式を表し:
【化13】
置換基Aは独立に、C
2〜C
4アルキレン基を表し、下付き文字qは、2〜300、特に2〜50の値を表し、下付き文字rは、0〜1の値を表し、かつ下付き文字sは、1〜5の値を表し
Mは、カチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価金属イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり;
m’、n’、o’、p’は独立に数値を表し、m’+n’+o’+p’=100であり、かつm’>0、n’>0、o’>0及びp’≧0であり;
m’=10〜80であり、好ましくは30〜60、特に好ましくは40〜55であり、最も好ましくは40〜55であり、
n’=10〜50であり、好ましくは20〜40であり、特に好ましくは30〜40であり、
o’=10〜50であり、好ましくは15〜30であり、特に好ましくは17.5〜30であり、最も好ましくは20〜25であり、
p’=0〜20であり、好ましくは0〜10であり、特に好ましくは0〜5である)。
【0028】
本文書中の用語「ラジカル重合のための開始剤」又は「ラジカル開始剤」は、CD Rompp Chemie Lexikon, 9
th edition, version 1.0, Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1995において開始剤として記載される化合物として定義され、それはラジカル重合に適する。
【0029】
化合物C’は、上記で好ましい構造単位Cとして記載した構造単位へと重合により導かれる化合物である。
【0030】
また、この方法が、(iv)p’モル%の少なくとも1種の追加の化合物D’をさらに含むことも有利なことがあり得る。
【0031】
化合物D’は、好ましくは、上記で好ましい構造単位Dとして記載した構造単位等の構造単位へと重合により導かれる化合物である。
【0032】
しかしながら、5モル%未満の追加の化合物D’を用い、特に化合物D’を全く用いないことが、有利なことがある。
【0033】
好ましくは、使用される割合は、m’=40〜50モル%、n’=30〜40モル%、o’=17.5〜30モル%、特にo’=20〜25モル%、かつp’=0〜5モル%、特にp’=0モル%を用いる。
【0034】
好ましい実施形態では、下記の量の化合物A’、B’及びC’を用いる(それぞれの場合において、製造に使用される化合物A’、B’及びC’の合計モル量を基準としている):
40〜50モル%の式(IV)の化合物A’、
30〜40モル%の式(V)の化合物B’、
20〜25モル%の式(VI)の化合物C’、
【0035】
さらなる好ましい実施形態では、下記のものを方法において用いる:
R
1及びR
2は各々、COO
−Mを表し、
R
3は、Hを表し、
R
4は、下記式を表し:
【化14】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基、特にR
6はCH
3を表し、
R
7は、H又はCH
3を表し、特にHであり、
R
8は、Mを表し、
ここで、置換基Aは独立に、C
2〜C
4アルキレン基を表し、下付き文字qは、2〜300、特に2〜50の値を表し、下付き文字rは、0〜1の値を表し、特に0であり、
Mは、カチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価金属イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり、最も好ましくはH
+であり、
m’=40〜50であり、
n’=30〜40であり、
o’=20〜25であり、
p’=0である。
【0036】
この方法におけるさらなる好ましい実施形態では、
R
1及びR
2は各々、COO
−Mを表し、
R
3は、Hを表し、
R
4は、下記式を表し:
【化15】
R
5は、1〜6個のC原子を有するアルキレン基を表し、
R
6は、H、アルキル基、好ましくは1〜20個のC原子を有するアルキル基、特にR
6はCH
3を表し、
R
7は、Hを表し、
R
8は、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基を表し、
置換基Aは独立に、C
2〜C
4アルキレン基を表し、下付き文字qは、2〜300、特に2〜50の値を表し、下付き文字rは、0〜1の値を表し、特に0であり、
Mは、カチオンであり、好ましくはH
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価金属イオン、NH
4+又は有機アンモニウムであり、特に好ましくは、H
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムであり、最も好ましくはH
+であり、
m’=40〜50であり、
n’=30〜40であり、
o’=20〜25であり、
p’=0である。
【0037】
好ましくは、本発明の方法により製造されるポリマーPは、上記に好ましいものとして記載されたとおりの平均分子量M
nを有する。
【0038】
この方法は、10〜50℃、好ましくは15℃〜35℃の反応温度でラジカル重合のための開始剤の存在下において行われる。このような反応温度は、重合の間に、形成されるポリマーの酸化損傷が起こらない点で、とりわけ有利である。ここで、このような酸化損傷は、ポリマーの補助により達成できる水硬性組成物の長期取り扱い性の改良に好ましくない影響を与える。
【0039】
好ましくは、ラジカル重合のための開始剤は、レドックス系をベースとする開始剤又はUVをベースとする開始剤を含む。このことは、このような系が、10〜50℃、好ましくは15℃〜35℃の温度でのラジカルの生成に有効に寄与するという点で有利である。
【0040】
好ましくは、ラジカル重合のための開始剤は、レドックス系をベースとする開始剤である。特にレドックス系をベースとする開始剤は、還元剤及びラジカル形成剤を含む。ここで、還元剤は、ナトリウムヒドロキシメタンスルフィネート(ロンガリット)、アルカリ金属亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、アスコルビン酸及びケト−エノールからなる群より選ばれ、かつラジカル形成剤は好ましくは、ペルオキシ化合物、例えば過酸化水素又はナトリウムペルオキシドである。
【0041】
開始剤は好ましくは、化合物A’、B’、C’及び随意にD’の総計の合計質量を基準として、0.05〜20wt%、好ましくは0.01〜10wt%、特に好ましくは0.1〜2wt%の割合で使用される。
【0042】
反応が水性溶媒中、特に水中で行われる場合、水に容易可溶性である別の開始剤が好ましくは使用される。
【0043】
開始剤は、ラジカル重合の間に種々の方法で反応容器に添加されうる。開始剤は、反応容器中にすべて入っていてよく、又は重合反応の間に、開始剤が消費されるときに、連続的に又は段階的に導入されてよい。好ましくは開始剤は、ラジカル重合の進行の間に重合混合物に連続的に添加される。
【0044】
ラジカル重合は好ましくは、pH2〜4で行われる。このことは、化合物B’の加水分解が大きく防止される点で有利である。
【0045】
エマルジョン中、バルク中又は溶液中、好ましくは溶液中、特に好ましくは水溶液中、最も好ましくは水中で、ラジカル重合を行うことが有利である。水溶液は、それらを液体製品として使用する場合、水硬性組成物の取り扱い性を延長する後の使用のために有利である。
【0046】
さらに、重合反応の間にわたって反応物に化合物C’を連続的に導入するようにして重合反応を行うことが有利であり得る。
【0047】
10℃〜50℃の反応温度でのラジカル重合をベースとする上記の製造方法により製造されるポリマーPは、60℃を超える反応温度でのラジカル重合をベースとする製造方法により製造される櫛形ポリマーとは対照的に、化合物A’、化合物B’、化合物C’及び、随意に化合物D’を均一に取り込んでいるので、異なる有利な構造及び特性を有する櫛形ポリマーを得ることができる点で有利である。驚くべきことに、本発明の方法により製造されるポリマーPの使用により、特に有利な特性が達成されることが発見され、特にセメント組成物等の水硬性組成物の取り扱い性は、添加直後及び長期間にわたって改良される。異なる特性は、おそらく、ポリマーPにおける側鎖の分布が異なることにより得られている。
【0048】
本文書中において、用語「水硬性バインダー」は、CD Rompp Chemie Lexikon, 9
th edition, version 1.0, Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1995において記載されている化合物として定義され、これらの化合物は、水の存在下において、酸素が無くても、例えば水中でも、硬化する。
【0049】
用語「水硬性組成物」は、水硬性バインダーを含む組成物に適用される。適切な組成物及びバインダーは、建築化学の分野の当業者に知られている。本発明の好ましい実施形態において、水硬性バインダーは、セメント及び消石灰からなる群より選ばれる。
【0050】
通常のセメントは例えば、ポルトランドセメント又は耐火性セメント、及び通常の添加剤とそれらの混合物である。セメントは水硬性バインダーとして特に好ましい。
【0051】
水硬性組成物は、通常の添加剤を含むことができ、かかる添加剤は、フライアッシュ、シリカフューム、スラグ、スラグ砂及び石灰石フィラー等である。砂、砂利、岩、石英粉、白亜等の添加剤も可能であり、添加剤として、例えば、可塑剤などの慣用の成分、例えばリグノスルホネート、スルホン化ナフタレン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化メラミン−ホルムアルデヒド縮合物又はポリカルボキシレートエーテル、促進剤、腐食防止剤、遅延剤、収縮低減剤、脱泡剤又は気孔形成剤が挙げられる。
【0052】
追加の態様において、本発明は、上記でポリマーPとして記載した少なくとも1種のポリマーPを含む水硬性組成物に関する。
【0053】
ポリマーPは、分散剤として、又は分散剤の成分として使用されうる。このような分散剤は少なくとも1種のポリマーPを含む。分散剤は追加の成分を含むことができる。追加の成分の例は、添加剤、例えば、可塑剤、例えばリグノスルホネート、スルホン化ナフタレン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化メラミン−ホルムアルデヒド縮合物又はポリカルボキシレートエーテル(PCE)、促進剤、遅延剤、収縮低減剤、脱泡剤、空気孔形成剤又は発泡剤である。通常、ポリマーPの割合は、分散剤の合計質量を基準として、5〜100wt%、特に10〜100wt%である。
【0054】
ポリマーPは、このように形成された水硬性組成物の取り扱い性を改良するために特に使用されうる。
【0055】
したがって、本発明の追加の態様は、上記の少なくとも1種のポリマーPの、水硬性組成物の取り扱い性を改良するための使用に関する。
【0056】
本発明による使用において、水硬性組成物は、水硬性組成物に水を添加した後に、長期間、通常は180分間又は240分間にわたる取り扱い性の改良を示す。このことは、この組成物が、ポリマーPを含まない組成物と比較して、又は従来の可塑剤等の他の減水剤を含む組成物と比較して、水及びポリマーP含有分散剤の添加の後で比較的長時間にわたって取り扱い性を有することを意味する。例えば、ポリマーPを含まないか又は従来の可塑剤を含む組成物が当初は同等の初期スランプ値で同一の水/セメント値(w/z値)を有し、これらを比較可塑剤の添加率により調節するという比較を行う。ポリマーPを含む水硬性組成物のスランプは、好ましくは、特定の時間後、例えば180又は240分後に本質的に若干しか低下せず、又は全く低下せず、それによって初期スランプと、180分後又はさらに好ましくは240分後のスランプとの間の変化が、できるかぎり小さい。
【0057】
本発明による使用の場合では、長期間取り扱い性は特に改良される。長期間取り扱い性はEN1015−3によるスランプにより決定されうる。好ましくは取り扱い性は、水の添加後の180分を超える時点及び/又は240分を超える時点で改良される。好ましくは取り扱い性は、水の添加の180分後及び/又は240分後の時点で改良される。
【0058】
特に基R
8MとしてH
+、Na
+、Ca
++/2、Mg
++/2、NH
4+又は有機アンモニウムを含むポリマーPの本発明による使用において、取り扱い性は例えば、EN1015−3によるスランプで測定可能なものとして、特に水の添加直後、通常は水の添加の0〜5分後に改良される。
【0059】
基R
8として1〜6個のC原子を有するアルキル基、1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基、又は下記式、特に1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基を含む本発明によるポリマーPの使用は、水硬性組成物、特にセメント含有水硬性組成物のスランプが、EN1015−3により測定したときに、(水の添加後)180分又は240分で低下しない点で有利である:
【化16】
【0060】
本発明の好ましい実施形態において、水硬性組成物、特にセメント含有水硬性組成物のスランプは、EN1015−3により測定したときに、(水の添加後)180分で、10%未満低下し、好ましくは5%未満低下し、特に好ましくは全く低下しない。
【0061】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、水硬性組成物、特にセメント含有水硬性組成物のスランプは、EN1015−3により測定したときに、(水の添加後)240分で、20%未満低下し、好ましくは10%未満低下し、特に好ましくは全く低下しない。
【0062】
本発明の内容は、水硬性バインダー、水及びポリマーPを混合する、延長された取り扱い性を有する水硬性組成物の製造方法にも関する。ポリマーPは上記に記載されるポリマーPを含む。
【0063】
ポリマーPは好ましくは、水硬性バインダーの質量を基準として、0.01〜5wt%、特に0.05〜2wt%、又は0.1〜1wt%の量で使用される。ポリマーPは別個に添加されても、又は事前混合した分散剤として固体若しくは液体形態で添加されてもよい。分散剤は好ましくは、液体形態で、特に水溶液として使用される。
【0064】
ポリマーP又は分散剤は、固体凝集体状態、例えば、粉末、フレーク、ペレット、粒状物又はリーフレットで使用されてもよい。このような固体添加剤は容易に輸送し、そして貯蔵することができる。固体凝集体状態のポリマーPは、いわゆる乾燥混合物、例えばセメント組成物の成分であることができ、その組成物は長期間にわたって貯蔵することができ、通常は袋又はサイロ中にパッキングされ、その後で使用される。このような乾燥混合物は、長期貯蔵の後でさえ使用可能であり、そして良好な流動性を有する。
【0065】
ポリマーPは、水の添加の少し前又は少し後に、水硬性組成物に添加されてよい。ここで、ポリマーPの水溶液又は水性分散体の形態での、特にメークアップ水として又はメークアップ水の一部としての添加は、特に適切であることが判った。水溶液又は水性分散体の調製は、例えばポリマーPの製造の間の水の添加により行われ、又はポリマーPの製造の後で水と混合することにより行われる。ポリマーPのタイプにより、分散体又は溶液が形成され、均一な溶液が好ましい。
【実施例】
【0066】
1.A、B及びCからのポリマーの調製
本発明P−2、P−3及びP−5の例
例えば、攪拌子付き反応容器中に、165gの水、40gの無水マレイン酸(0.4mol)、330gの平均分子量1100g/モルのアリル−ポリエチレングリコール(PolyglycolA1100,Clariant)(0.3mol)、14.4gのアクリル酸(0.2mol)、1gのFe(II)−SO
47H
2Oの10%水溶液、及び2gの次亜リン酸ナトリウム調節剤を入れて、本発明P−5のポリマーを製造した。
【0067】
その後、50gの8.5%過酸化水素溶液及び50gの10%水性ロンガリット(Rongalit)溶液を、20℃〜35℃の温度及びpH2〜4で、攪拌下に180分間にわたって滴下した。
【0068】
滴下導入が終わった後に、透明粘性ポリマー溶液を得た。ポリマーP−2及びP−3をポリマーP−5と同様に製造した。これらは、表1に示す情報に対応する。
【0069】
2.A、B及び一定添加のCからのポリマーの調製
本発明P−1、P−4及びP−6の例
例えば、14.7gの無水マレイン酸(0.15mol)、300gの平均分子量3000g/モルのアリルポリエチレングリコール(Polyglycol A 3000, Clariant)(0.10mol)、110gの平均分子量1100g/モルのアリルポリエチレングリコール(Polyglycol A 1110,Clariant)(0.1mol)、2.5gの次亜リン酸ナトリウム、及び1gのFe(II)−SO
47H
2Oの10%水溶液、並びに300gの水を、攪拌下に攪拌子付き反応容器中に入れて、本発明P−4のポリマーを製造した。
【0070】
その後、23gのヒドロキシエチルアクリレート(0.2mol)、7.2gのアクリル酸(0.1mol)、及び50gの水の溶液、並びに攪拌下で180分間にわたって同時に50gの8.5%過酸化水素溶液及び50gのロンガリット(Rongalit)10%水溶液を、20℃〜35℃の温度及びpH2〜3で150分間にわたって滴下した。
【0071】
滴下導入が終わった後に、透明粘性ポリマー溶液を得た。
【0072】
表1に示す情報に従って、ポリマーP−1及びP−6を、ポリマーP−4と同様に製造した。
【0073】
本発明に係るポリマーP−1〜P−7は、平均分子量M
nが30,000〜40,000g/モルであった。
【0074】
3.比較例V−1の調製
攪拌子付き反応容器中に、320gの水、76.6gのマレイン酸(0.66mol)、及び330gの平均分子量1100g/モルのアリル−ポリエチレングリコール(Polyglycol A 1100,Clariant)を入れた。
【0075】
その後、75℃〜80℃の温度及びpH2〜4で、攪拌下に4時間にわたり、100gの水中に溶解した19gの過硫酸アンモニウムを滴下導入した。
【0076】
滴下導入の開始240分後に、透明な粘性溶液を得た。その後、それを50%水酸化ナトリウムで部分的に中和した。
【0077】
4.比較例V−2の調製
攪拌子付き反応容器中に、165gの水、40gの無水マレイン酸(0.4mol)、330gの平均分子量1100g/モルのアリル−ポリエチレングリコール(0.3mol)、2gの次亜リン酸ナトリウム、及び14.4gのアクリル酸(0.2mol)を入れた。
【0078】
その後、80℃〜85℃の温度及びpH2〜4で、攪拌下に180分にわたって、96gの6.3%ペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液を添加した。
【0079】
滴下導入プロセスが終わった後に、透明な粘性ポリマー溶液を得た。
【0080】
5.比較例V−3の調製
攪拌子付き反応容器中に、165gの水、40gの無水マレイン酸(0.4mol)、330gの平均分子量1100g/モルのビニル−ポリエチレングリコール(Polyglycol R1100,Clariant)(0.3mol)、14.4gのアクリル酸(0.2mol)、1gのFe(II)−SO
47H
2Oの10%水溶液、及び2gの次亜リン酸ナトリウム調節剤を入れた。
【0081】
その後、20℃〜35℃の温度及びpH2〜4で、攪拌下に180分間にわたり、50gの8.5%過酸化水素溶液及び50gの10%ロンガリット(Rongalit)水溶液を滴下導入した。
【0082】
6.比較例V−4の調製
攪拌子付き反応容器中に、200gの水、5gの無水マレイン酸(0.05mol)、330gの平均分子量1100g/モルのアリル−ポリエチレングリコール(Polyglycol A 1100,Clariant)(0.3mol)、2.5gの次亜リン酸ナトリウム、及び1gのFe(II)−SO
47H
2Oの10%水溶液を、最初に入れた。
【0083】
その後、20℃〜35℃の温度及びpH2〜4で、攪拌下に150分間にわたり、23gのヒドロキシエチルアクリレート(0.2mol)、16gのアクリル酸(0.22mol)、及び50gの水の溶液、並びに攪拌下に180分間にわたって同時に50gの8.5%過酸化水素溶液及び50gの10%ロンガリット(Rongalit)水溶液を滴下導入した。滴下導入の開始の60分後に、透明な粘性ポリマー溶液を得た。
【0084】
【表1】
【0085】
本発明のポリマーP−1〜P−6及び比較ポリマーV−1〜V−4は、式(I)の構造単位Aを含み、本発明のポリマーP−1〜P−6及び比較ポリマーV−1、V−2及びV−4は、式(II)の構造単位Bを含み、そして本発明のポリマーP−1〜P−6及び比較V−2〜V−4は追加的に、式(III)の構造単位Cを含む。ここで、R
1=COOM、R
2=COOM、R
3=H、R
4=−(CH
2−CH
2O)
q−CH
3、R
7=H、o1の場合にはR
8=H、又はo2の場合にはR
8=−CH
2−CH
2−OH、M=H
+、Na
+である。また、モル%は、最終ポリマー中の構造単位A、B及びCの合計モル量を基準とした個々の構造単位のモル%m、n、oを意味する。
【0086】
2.セメント実験
本発明のポリマーの有効性をセメント中で試験した。
【0087】
200gのセメント(Schweizer CEM I 42.5)に、30秒以内に、61gのメークアップ水を添加し、ここに、1.33gの本発明のポリマーP−1〜P−6又は比較ポリマーV−1、V−2、V−3又はV−4の30%水溶液を溶解し、そしてタンブラー中で2分間混合した。合計湿潤混合時間は2分間であった。水/セメント値(w/z値)0.3であった。
【0088】
このようにして製造したセメント組成物ZZ−P−1〜ZZ−P−6、ZZ−V−1,ZZ−V−2,ZZ−V−3及びZZ−V−4のスランプ値を、シリンダー(50mm高さ、50mm直径)をセメント組成物で充填し、そして10秒後に注意深くシリンダーを持ち上げることによって測定した。得られたセメント組成物ケークの直径を、スライディングキャリパを用いて測定し、そしてスランプとして報告した。
【0089】
この測定を180分後及び240分後に繰り返した。それぞれの場合に、セメント組成物を最初に15秒間混合した。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果は、本発明のポリマーが、従来のポリマーV−1及びV−3並びに80℃〜85℃の温度で製造されたポリマー(V−2)又は過剰量の式(III)の構造単位Cを含むポリマー(V−4)と比較して、優れた可塑化特性を有することを示す。
【0092】
これらは、とりわけ、対応するポリマーを含むセメント組成物に水を添加した180分後及び240分後のスランプ値で示される。水の添加の少し後(2分)で可塑化についての特に良好な結果は、ポリマーがH
+及び/又はNa
+をR
8基として含むセメント組成物中で達成される。また、可塑化効果は長時間にわたって安定していることも明らかである。ポリマーがR
8基として1〜6個のC原子を有するヒドロキシアルキル基であるときには、時間経過にわたる可塑化効果の増加がもたらされる(P−4)。