特許第6294254号(P6294254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294254
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】導電性材料及び基板
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/20 20060101AFI20180305BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20180305BHJP
   C08L 57/10 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180305BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   H01B1/20 A
   C08L65/00
   C08L57/10
   C08K3/22
   H01B5/14 A
【請求項の数】6
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-60040(P2015-60040)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-181355(P2016-181355A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】長澤 賢幸
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−547185(JP,A)
【文献】 特開2009−009828(JP,A)
【文献】 特表2011−529115(JP,A)
【文献】 特表2011−517468(JP,A)
【文献】 特開2008−133448(JP,A)
【文献】 特開2014−012815(JP,A)
【文献】 特開2015−143335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00〜1/24
C08F 212/04、220/38
C08L 225/18
C08K 3/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)π共役系ポリマー、
(B)下記一般式(1)で示される繰り返し単位a1〜a4から選ばれる1種以上の繰り返し単位及び下記一般式(2)で示される繰り返し単位bを含み、重量平均分子量が1,000〜500,000の範囲のものであるドーパントポリマー、及び
(C)粒子径が1〜200nmのインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子、
を含むものであることを特徴とする導電性材料。
【化1】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に単結合、エステル基、あるいはエーテル基、エステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。Z、Z、及びZは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基のいずれかであり、Zは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。mは1〜4の整数であり、a1、a2、a3、及びa4は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4≦1.0である。)
【化2】
(式中、bは0<b<1.0である。)
【請求項2】
前記(B)成分は、ブロックコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の導電性材料。
【請求項3】
前記(A)成分は、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の前駆体モノマーが重合したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性材料。
【請求項4】
前記導電性材料は、水又は有機溶剤に分散性をもつものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の導電性材料。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の導電性材料によって導電膜が形成されたものであることを特徴とする基板。
【請求項6】
前記導電膜は、透明電極層として機能するものであることを特徴とする請求項に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料及びこれによって導電膜が形成された基板に関する。
【背景技術】
【0002】
共役二重結合を有する重合体(π共役系ポリマー)は、このポリマー自体は導電性を示さないが、適切なアニオン分子をドーピングすることによって導電性が発現し、導電性高分子材料(導電性ポリマー組成物)となる。π共役系ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の(ヘテロ)芳香族ポリマー、及びこれらの混合物等が用いられており、アニオン分子(ドーパント)としては、スルホン酸系のアニオンが最もよく用いられている。これは、強酸であるスルホン酸が上記のπ共役系ポリマーと効率よく相互作用するためである。
【0003】
スルホン酸系のアニオンドーパントとしては、ポリビニルスルホン酸やポリスチレンスルホン酸(PSS)等のスルホン酸ポリマーが広く用いられている(特許文献1)。また、スルホン酸ポリマーには登録商標ナフィオンに代表されるビニルパーフルオロアルキルエーテルスルホン酸もあり、これは燃料電池用途に使用されている。
【0004】
ポリスチレンスルホン酸(PSS)は、ポリマー主鎖に対しスルホン酸がモノマー単位で連続して存在するため、π共役系ポリマーに対するドーピングが高効率であり、またドープ後のπ共役系ポリマーの水への分散性も向上させることができる。これはPSSに過剰に存在するスルホ基の存在により親水性が保持され、水への分散性が飛躍的に向上するためである。
【0005】
PSSをドーパントとしたポリチオフェンは、高導電性かつ水分散液としての扱いが可能なため、ITO(インジウム−スズ酸化物)に換わる塗布型導電膜材料として期待されている。しかし、上述のようにPSSは水溶性樹脂であり、有機溶剤には殆ど溶解しない。従って、PSSをドーパントとしたポリチオフェンも親水性は高くなるが、有機溶剤や有機基板に対する親和性は低く、有機溶剤に分散させ、有機基板に成膜するのは困難である。
【0006】
また、PSSをドーパントとしたポリチオフェンを、例えば有機EL照明用の導電膜に用いる場合、上述のようにPSSをドーパントとしたポリチオフェンの親水性が非常に高いため、導電膜中に多量の水分が残りやすく、また形成された導電膜は外部雰囲気から水分を取り込みやすい。その結果として、有機ELの発光体が化学変化して発光能力が低下し、時間経過とともに水分が凝集して欠陥となり、有機ELデバイス全体の寿命が短くなるという問題がある。さらに、PSSをドーパントとしたポリチオフェンは、水分散液中の粒子が大きく、膜形成後の膜表面の凹凸が大きいことや、有機EL照明に適用したときにダークスポットと呼ばれる未発光部分が生じる問題がある。
【0007】
また、PSSをドーパントとしたポリチオフェンは波長500nm付近の青色領域に吸収があるため、当該材料を透明電極等の透明な基板上に塗布して使用する場合、デバイスが機能するために必要な導電率を固形分濃度や膜厚で補うと、部材としての透過率に影響を及ぼすという問題もある。
【0008】
特許文献2には、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、ピロール、アニリン、多環式芳香族化合物から選択される繰り返し単位によって形成されるπ共役系ポリマーと、有機溶剤で濡らすことができ、50%以上が陽イオンで中和されているフッ素化酸ポリマーとを含む導電性高分子によって形成される導電性ポリマー組成物が提案されており、水、π共役系ポリマーの前駆体モノマー、フッ素化酸ポリマー、及び酸化剤を任意の順番で組み合わせることにより導電性ポリマーの水分散体となることが示されている。
しかし、このような従来の導電性ポリマーは、合成直後では分散液中で粒子が凝集しており、塗布材料として高導電化剤となる有機溶剤を加えると、さらに凝集が促進され、濾過性が悪化する。一方、濾過をせずにスピンコートを行うと、粒子凝集体の影響により平坦な膜が得られず、結果として塗布不良が引き起こされるという問題がある。
【0009】
また、フレキシブルデバイスの開発が進んでいる。現状のハードデバイス向けの透明導電膜としては、ITOが広く用いられているが、ITOは結晶性の膜であり、これを曲げようとするとクラックが発生する。従って、ITOに代わるフレキシブルな透明導電膜の開発が急務である。PSSをドーパントとしたポリチオフェンを用いた膜は、フレキシブルかつ高透明な膜であるが、前述のダークスポットの問題に加えて、ITOに比べて導電性が低い問題がある。
【0010】
特許文献3には、銀ナノワイヤーを用いた透明導電膜が示されている。銀ナノワイヤーを用いた透明導電膜は、導電性が高く、かつ高透明でもあるので、フレキシブルデバイス向け導電性膜の候補の一つである。しかしながら、銀ナノワイヤーはワイヤー部分しか通電しないため、これを有機EL照明に適用すると、ワイヤー部分だけが発光し、全面発光しない問題が生じる。
【0011】
特許文献4には、高フッ素化酸ポリマーとポリチオフェン等を複合化した導電性ポリマーに金属酸化物を添加した導電性ポリマーの水分散体が提案されている。ここでは、高フッ素化酸ポリマーとして、炭素に結合した置換可能な水素の95%以上がフッ素化されており、かつスルホ基やスルホンイミド基を有するポリマーが例示されている。しかしながら、上述のような導電性ポリマーの水分散体を用いて形成した膜には、十分な導電性を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−146913号公報
【特許文献2】特許第5264723号
【特許文献3】特開2009−224183号公報
【特許文献4】特開2011−529115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、汎用性の高いPEDOT−PSS等のPSSをドーパントとしたポリチオフェン系導電性ポリマーを用いた膜は、ITOと同等の透明性を有し、かつITOに比べてフレキシブルであるが、導電性が低い問題がある。また、PSSをドーパントとしたポリチオフェン系導電性ポリマーには、有機EL照明に適用したときにダークスポットが発生する問題がある。一方、銀ナノワイヤーを用いた透明導電膜は、透明性、導電性が高く、フレキシブル性に優れるという特性を有するが、有機EL照明に適用したときにワイヤー部分だけが発光し、微視的に均一発光しない問題点があった。また、高フッ素化酸ポリマーとポリチオフェン等を複合化した導電性ポリマーに金属酸化物を添加した導電性ポリマーの水分散体を用いて形成した膜には、十分な導電性を得ることができないという問題があった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、成膜性が良く、膜形成した際には、透明性、導電性が高く、フレキシブル性に優れ、平坦性が良好な導電膜を形成することができる導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)π共役系ポリマー、
(B)下記一般式(1)で示される繰り返し単位a1〜a4から選ばれる1種以上の繰り返し単位を含み、重量平均分子量が1,000〜500,000の範囲のものであるドーパントポリマー、及び
(C)粒子径が1〜200nmのインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子、
を含む導電性材料を提供する。
【化1】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に単結合、エステル基、あるいはエーテル基、エステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。Z、Z、及びZは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基のいずれかであり、Zは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。mは1〜4の整数であり、a1、a2、a3、及びa4は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4≦1.0である。)
【0016】
このような導電性材料であれば、成膜性が良く、膜形成した際には、透明性、導電性が高く、フレキシブル性に優れ、平坦性が良好な導電膜を形成することができる。
【0017】
このとき、前記(B)成分は、下記一般式(2)で示される繰り返し単位bを含むものであることが好ましい。
【化2】
(式中、bは0<b<1.0である。)
【0018】
このような繰り返し単位bを含むことで、導電性をさらに向上させることができる。
【0019】
またこのとき、前記(B)成分は、ブロックコポリマーであることが好ましい。
【0020】
(B)成分がブロックコポリマーであれば、導電性をさらに向上させることができる。
【0021】
またこのとき、前記(A)成分は、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の前駆体モノマーが重合したものであることが好ましい。
【0022】
このようなモノマーであれば、重合が容易であり、また空気中での安定性が良好であるため、(A)成分を容易に合成できる。
【0023】
またこのとき、前記導電性材料は、水又は有機溶剤に分散性をもつものであることが好ましい。
【0024】
また、本発明では、前記導電性材料によって導電膜が形成された基板を提供する。
このように、本発明の導電性材料は、基板等に塗布・成膜することで導電膜とすることができる。
【0025】
また、このようにして形成された導電膜は、導電性、透明性に優れるため、透明電極層として機能するものとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の導電性材料として、超強酸のスルホ基を含有する(B)成分のドーパントポリマーと、(A)成分のπ共役系ポリマーとが複合体を形成した導電性ポリマーに、(C)成分としてインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子を添加した溶液は、濾過性及びスピンコートでの成膜性が良好なものとなる。また、本発明の導電性材料を用いて成膜することによって形成された導電膜は、光照射によるプラズモン効果によって金属酸化物ナノ粒子同士の自由電子が共鳴励起され、これが金属酸化物ナノ粒子間の導電性高分子と共鳴することによって電子の流れが活発化するため、導電性が向上したものとなる。加えて、本発明の導電性材料から形成される導電膜は、透明性、フレキシブル性、平坦性、及び耐久性が良好であり、かつ表面ラフネスが低いものとなる。さらに、このような導電性材料であれば、有機基板、無機基板のどちらに対しても成膜性が良好なものとなる。
また、このような導電性材料によって形成された導電膜は、導電性、透明性、平坦性、フレキシブル性等に優れるため、透明電極層、特にはフレキシブル透明電極として機能するものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、成膜性が良く、膜形成した際には、導電性、透明性が高く、かつフレキシブル性に優れ、平坦性が良好な導電膜を形成することができる導電膜形成用材料の開発が求められていた。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、導電性高分子材料のドーパントとして広く用いられているポリスチレンスルホン酸(PSS)の代わりに、α位がフッ素化されたスルホ基を有する繰り返し単位を有するドーパントポリマー、あるいはフッ素化されたベンゼンスルホン酸の繰り返し単位を有するドーパントポリマーを用いることで、超強酸のドーパントポリマーがπ共役系ポリマーと強く相互作用し、π共役系ポリマーの可視光吸収域がシフトすることにより透明性が向上し、π共役系ポリマーとドーパントポリマーとが強くイオン結合することによって光や熱による安定性が向上することを見出した。また、スピンコートでの成膜性が向上し、さらに膜形成の際の平坦性も良好となることを見出した。さらに、このような導電性ポリマーにインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子を組み合わせた導電性材料は、導電性ポリマー単体の場合よりも導電性が高くなることを見出した。以上より、本発明者らは、上述の導電性材料であれば、金属酸化物ナノ粒子のみを含む材料や、導電性ポリマーのみを含む材料に比べて、導電性、透明性、膜の平坦性等に優れた導電膜を形成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
即ち、本発明は、
(A)π共役系ポリマー、
(B)下記一般式(1)で示される繰り返し単位a1〜a4から選ばれる1種以上の繰り返し単位を含み、重量平均分子量が1,000〜500,000の範囲のものであるドーパントポリマー、及び
(C)粒子径が1〜200nmのインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子、
を含む導電性材料である。
【化3】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に単結合、エステル基、あるいはエーテル基、エステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。Z、Z、及びZは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基のいずれかであり、Zは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。mは1〜4の整数であり、a1、a2、a3、及びa4は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4≦1.0である。)
【0030】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
[(A)π共役系ポリマー]
本発明の導電性材料は、(A)成分としてπ共役系ポリマーを含む。この(A)成分は、π共役系連鎖(単結合と二重結合が交互に連続した構造)を形成する前駆体モノマー(有機モノマー分子)が重合したものであればよい。
このような前駆体モノマーとしては、例えば、ピロール類、チオフェン類、チオフェンビニレン類、セレノフェン類、テルロフェン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、アニリン類等の単環式芳香族類;アセン類等の多環式芳香族類;アセチレン類等が挙げられ、これらのモノマーの単一重合体又は共重合体を(A)成分として用いることができる。
上記モノマーの中でも、重合の容易さ、空気中での安定性の点から、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物、及びこれらの誘導体が好ましく、ピロール、チオフェン、アニリン、及びこれらの誘導体が特に好ましく、特にはチオフェン類が最も導電性と可視光での透明性が高く好ましいが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の導電性材料が、(A)成分として特にポリチオフェンを含む場合は、高い導電性と可視光での高い透明性の特性を有するために、タッチパネルや有機ELディスプレイ、有機EL照明等の用途への展開が考えられる。一方、本発明の導電性材料が、(A)成分としてポリアニリンを含む場合は、ポリチオフェンを含む場合に比べて可視光での吸収が大きく導電性が低いためにディスプレイ関係での応用は難しいが、低粘度でスピンコーティングしやすいために、EBリソグラフィーにおいて電子の荷電を防止するためのレジスト上層膜のトップコートの用途が考えられる。
【0033】
また、π共役系ポリマーを構成するモノマーが無置換のままでも(A)成分は十分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるために、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換したモノマーを用いてもよい。
【0034】
ピロール類、チオフェン類、アニリン類のモノマーの具体例としては、例えば、ピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシピロール、3−メチル−4−カルボキシピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジチオチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシメチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、3,4−(2,2−ジメチルプロピレンジオキシ)チオフェン、3,4−(2,2−ジエチルプロピレンジオキシ)チオフェン、(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)メタノール;アニリン、2−メチルアニリン、3−メチルアニリン、2−エチルアニリン、3−エチルアニリン、2−プロピルアニリン、3−プロピルアニリン、2−ブチルアニリン、3−ブチルアニリン、2−イソブチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−メトキシアニリン、2−エトキシアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0035】
中でも、ピロール、チオフェン、N−メチルピロール、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンから選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ピロール、3,4−エチレンジオキシチオフェンによる単一重合体は導電性が高く、より好ましい。
【0036】
なお、実用上の理由から、(A)成分中のこれら繰り返しユニット(前駆体モノマー)の繰り返し数は、好ましくは2〜20の範囲であり、より好ましくは6〜15の範囲である。
また、(A)成分の分子量としては、130〜5,000程度が好ましい。
【0037】
[(B)ドーパントポリマー]
本発明の導電性材料は、(B)成分としてドーパントポリマーを含む。この(B)成分のドーパントポリマーは、下記一般式(1)で示される繰り返し単位a1〜a4から選ばれる1種以上の繰り返し単位を含むものである。即ち、(B)成分のドーパントポリマーは、フッ素化されたスルホン酸を含む超強酸性ポリマーである。
【化4】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に単結合、エステル基、あるいはエーテル基、エステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。Z、Z、及びZは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基のいずれかであり、Zは、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。mは1〜4の整数であり、a1、a2、a3、及びa4は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4≦1.0である。)
【0038】
繰り返し単位a1を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
(式中、Rは前記と同様であり、Xは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アミン化合物、又はスルホニウム化合物である。)
【0042】
繰り返し単位a2を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0043】
【化8】
【0044】
【化9】
【0045】
【化10】
(式中、Rは前記と同様であり、Xは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アミン化合物、又はスルホニウム化合物である。)
【0046】
繰り返し単位a3を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
【化13】
(式中、Rは前記と同様であり、Xは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アミン化合物、又はスルホニウム化合物である。)
【0049】
繰り返し単位a4を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化14】
(式中、Rは前記と同様であり、Xは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アミン化合物、又はスルホニウム化合物である。)
【0050】
このような(B)成分であれば、材料の濾過性及び成膜性、有機溶剤・基板への親和性が向上し、成膜後の透過率が向上する。
【0051】
(B)成分は、さらに下記一般式(2)で示される繰り返し単位bを含むものであることが好ましい。このような繰り返し単位bを含むことで、導電性をさらに向上させることができる。
【化15】
(式中、bは0<b<1.0である。)
【0052】
繰り返し単位bを与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化16】
(式中、Xは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、アミン化合物、又はスルホニウム化合物である。)
【0053】
前記X、Xがアミン化合物の場合、特開2013−228447号公報の段落[0048]に記載の(P1a−3)を例として挙げることができる。
【0054】
ここで、上述のように、a1、a2、a3、及びa4は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4≦1.0であり、好ましくは0.2≦a1+a2+a3+a4≦1.0である。0<a1+a2+a3+a4≦1.0であれば(即ち、繰り返し単位a1〜a4のいずれかを含めば)本発明の効果が得られるが、0.2≦a1+a2+a3+a4≦1.0であればよりよい効果が得られる。
また、繰り返し単位bを含む場合、導電性向上の観点から、0.3≦b<1.0であることが好ましく、0.3≦b≦0.8であることがより好ましい。
さらに、繰り返し単位a1+a2+a3+a4と繰り返し単位bの割合は、0.2≦a1+a2+a3+a4≦0.7かつ0.3≦b≦0.8であることが好ましく、0.3≦a1+a2+a3+a4≦0.6かつ0.4≦b≦0.7であることがより好ましい。
【0055】
また、(B)成分のドーパントポリマーは、繰り返し単位a1〜a4、繰り返し単位b以外の繰り返し単位cを有していてもよく、この繰り返し単位cとしては、例えばスチレン系、ビニルナフタレン系、ビニルシラン系、アセナフチレン、インデン、ビニルカルバゾール等を挙げることができる。
【0056】
繰り返し単位cを与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化17】
【0057】
【化18】
【0058】
【化19】
【0059】
【化20】
【0060】
(B)成分のドーパントポリマーを合成する方法としては、例えば上述の繰り返し単位a1〜a4、b、cを与えるモノマーのうち所望のモノマーを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合を行うことで、(共)重合体のドーパントポリマーを得る方法が挙げられる。
【0061】
重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン等が例示できる。
【0062】
ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。
【0063】
反応温度は、好ましくは50〜80℃であり、反応時間は好ましくは2〜100時間、より好ましくは5〜20時間である。
【0064】
(B)成分のドーパントポリマーにおいて、繰り返し単位a1〜a4を与えるモノマーは1種類でも2種類以上でもよいが、重合性を高めるにはメタクリルタイプとスチレンタイプのモノマーを組み合わせることが好ましい。
また、繰り返し単位a1〜a4を与えるモノマーを2種類以上用いる場合は、それぞれのモノマーはランダムに共重合されていてもよいし、ブロックで共重合されていてもよい。ブロック共重合ポリマー(ブロックコポリマー)とした場合は、2種類以上の繰り返し単位a1〜a4からなる繰り返し部分同士が凝集して海島構造を形成することによって、ドーパントポリマー周辺に特異な構造が発生し、導電率が向上するメリットが期待される。
【0065】
また、繰り返し単位a1〜a4、b、cを与えるモノマーはランダムに共重合されていてもよいし、それぞれがブロックで共重合されていてもよい。この場合も、上述の繰り返し単位a1〜a4の場合と同様、ブロックコポリマーとすることで導電率が向上するメリットが期待される。
【0066】
ラジカル重合でランダム共重合を行う場合は、共重合を行うモノマーやラジカル重合開始剤を混合して加熱によって重合を行う方法が一般的である。第1のモノマーとラジカル重合開始剤存在下で重合を開始し、後に第2のモノマーを添加した場合は、ポリマー分子の片側が第1のモノマーが重合した構造で、もう一方が第2のモノマーが重合した構造となる。しかしながらこの場合、中間部分には第1のモノマーと第2のモノマーの繰り返し単位が混在しており、ブロックコポリマーとは形態が異なる。ラジカル重合でブロックコポリマーを形成するには、リビングラジカル重合が好ましく用いられる。
【0067】
RAFT重合(Reversible Addition Fragmentation chain Transfer polymerization)と呼ばれるリビングラジカルの重合方法は、ポリマー末端のラジカルが常に生きているので、第1のモノマーで重合を開始し、これが消費された段階で第2のモノマーを添加することによって、第1のモノマーの繰り返し単位のブロックと第2のモノマーの繰り返し単位のブロックによるジブロックコポリマーを形成することが可能である。また、第1のモノマーで重合を開始し、これが消費された段階で第2のモノマーを添加し、次いで第3のモノマーを添加した場合はトリブロックポリマーを形成することもできる。
【0068】
RAFT重合を行った場合は分子量分布(分散度)が狭い狭分散ポリマーが形成される特徴があり、特にモノマーを一度に添加してRAFT重合を行った場合は、より分子量分布が狭いポリマーを形成することができる。
なお、(B)成分のドーパントポリマーにおいては、分子量分布(Mw/Mn)は1.0〜2.0であることが好ましく、特に1.0〜1.5と狭分散であることが好ましい。狭分散であれば、これを用いた導電性材料によって形成した導電膜の透過率が低くなるのを防ぐことができる。
【0069】
RAFT重合を行うには連鎖移動剤が必要であり、具体的には、2−シアノ−2−プロピルベンゾチオエート、4−シアノ−4−フェニルカルボノチオイルチオペンタン酸、2−シアノ−2−プロピルドデシルトリチオカルボネート、4−シアノ−4−[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)−2−メチルプロパン酸、シアノメチルドデシルチオカルボネート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモチオエート、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィドを挙げることができる。これらの中では、特に2−シアノ−2−プロピルベンゾチオエートが好ましい。
【0070】
繰り返し単位a1〜a4、b、cの割合としては、好ましくは0<a1+a2+a3+a4≦1.0、0<b<1.0、0≦c<1.0であり、より好ましくは0.1≦a1+a2+a3+a4≦0.9、0.1≦b≦0.9、0≦c≦0.8であり、さらに好ましくは0.2≦a1+a2+a3+a4≦0.8、0.2≦b≦0.8、0≦c≦0.5である。
なお、a1+a2+a3+a4+b+c=1であることが好ましい。
【0071】
(B)成分のドーパントポリマーは、重量平均分子量が1,000〜500,000の範囲のものであり、好ましくは2,000〜200,000の範囲のものである。重量平均分子量が1,000未満では、耐熱性に劣るものとなり、また(A)成分との複合体溶液の均一性が悪化する。一方、重量平均分子量が500,000を超えると、導電性が悪化することに加えて、粘度が上昇して作業性が悪化し、水や有機溶剤への分散性が低下する。
【0072】
なお、重量平均分子量(Mw)は、溶剤として水、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、又はポリスチレン換算測定値である。
【0073】
なお、(B)成分のドーパントポリマーを構成するモノマーとしては、スルホ基を有するモノマーを使ってもよいが、スルホ基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩をモノマーとして用いて重合反応を行い、重合後にイオン交換樹脂を用いてスルホ基に変換してもよい。
【0074】
[(C)金属酸化物ナノ粒子]
本発明の導電性材料は、(C)成分としてインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子を含む。(C)成分の金属酸化物ナノ粒子の粒子径は1〜200nmであり、好ましくは2〜100nmである。(C)成分の金属酸化物ナノ粒子は、表面の化学的安定性を増すために他の酸化膜や有機酸でコートされていてもよい。酸化膜としては、特に限定されないが、珪素酸化膜が好ましく用いられる。
【0075】
(C)成分の含有量は、好ましくは(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.001〜200質量部であり、より好ましくは0.005〜100質量部であり、さらに好ましくは1〜50質量部である。
【0076】
本発明の導電性材料において、(C)成分は、得られる導電膜の導電性の向上に寄与する。以下、(C)成分による導電性の向上について詳しく説明する。
【0077】
金属(酸化物)ナノ粒子が分散された溶液に光を当てると、金属(酸化物)ナノ粒子の自由電子同士が共鳴することによって、特定の波長に対する吸収が発現する「プラズモン共鳴」と呼ばれる現象が発生することが知られている。例えば、粒子径10nmの銀ナノ粒子は400nm付近の青色吸収を有するために赤色を呈するが、粒子径が増大することによって吸収波長が長波長化し、粒子径100nmでは520nmと420nmの2つのブロードな吸収に変化する。また、ITO粒子においてもプラズモン共鳴が確認されており、この場合、波長1,000nmより長波長の赤外領域に吸収が増大する。
【0078】
(C)成分の金属酸化物ナノ粒子のみを溶液中に分散させても、金属酸化物ナノ粒子は溶液中にまばらに存在するため、金属酸化物ナノ粒子間の通電によって導電性が向上することは期待できない。つまり、光を当てても(C)成分の金属酸化物ナノ粒子だけでは導電性は向上しない。これに対し、本発明の導電性材料のように、ポリチオフェン等のπ共役系ポリマーの溶液に(C)成分を添加すると、金属酸化物ナノ粒子間にポリチオフェン等のπ共役系ポリマーが存在するため、光を当てることによる金属酸化物ナノ粒子間の共鳴励起(プラズモン共鳴)がトリガーとなってポリチオフェン内の導電性が向上する。これを有機ELに適用したときに、発光を開始すると同時に導電性が向上し照度を向上させることが可能となる。
【0079】
スパッタリング等で作製したITOは透明電極として用いられているが、結晶性の膜であるために、これを曲げようとすると結晶が崩れるために導電性が低下し、割れる。このためITOをフレキシブルデバイスに適用することは困難である。一方、本発明のインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子を添加した導電性材料から得られる導電膜は、曲げても割れたり導電性が低下したりすることがないため、フレキシブルデバイス用の導電膜として用いることが可能である。
【0080】
[導電性材料]
本発明の導電性材料は、上述の(A)成分であるπ共役系ポリマー、(B)成分であるドーパントポリマー、及び(C)成分である金属酸化物ナノ粒子を含むものであり、(B)成分のドーパントポリマーは、(A)成分のπ共役系ポリマーに配位することで、複合体を形成する。
【0081】
本発明の導電性材料は、水又は有機溶剤に分散性をもつものであることが好ましく、このような導電性材料であれば、無機又は有機基板(無機膜あるいは有機膜を基板表面に形成した基板)に対しスピンコート成膜性や膜の平坦性を良好にすることができる。
【0082】
(導電性材料の製造方法)
本発明の導電性材料(溶液)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の(A)成分であるπ共役系ポリマーと(B)成分であるドーパントポリマーを含む導電性ポリマー複合体(溶液)に、(C)成分である金属酸化物ナノ粒子を添加することにより、製造することができる。
【0083】
(A)成分と(B)成分の複合体は、例えば、(B)成分の水溶液又は(B)成分の水・有機溶媒混合溶液中に、(A)成分の原料となるモノマー(好ましくは、ピロール、チオフェン、アニリン、又はこれらの誘導体モノマー)を加え、酸化剤及び場合により酸化触媒を添加し、酸化重合を行うことで得ることができる。
【0084】
酸化剤及び酸化触媒としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ペルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のペルオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が使用できる。
【0085】
酸化重合を行う際に用いる反応溶媒としては、水又は水と溶媒との混合溶媒を用いることができる。ここで用いられる溶媒としては、水と混和可能であり、(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散しうる溶媒が好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物、ジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。これら水と混和可能な溶媒の配合量は、反応溶媒全体の50質量%以下が好ましい。
【0086】
また、(B)成分のドーパントポリマー以外に、(A)成分のπ共役系ポリマーへのドーピングが可能なアニオンを併用してもよい。このようなアニオンとしては、π共役系ポリマーからの脱ドープ特性、導電性材料の分散性、耐熱性、及び耐環境特性を調整する等の観点からは、有機酸が好ましい。有機酸としては、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸等が挙げられる。
【0087】
有機カルボン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にカルボキシ基を一つ又は二つ以上を含むものを使用できる。例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。
【0088】
フェノール類としては、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類が挙げられる。
【0089】
有機スルホン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にスルホン酸基を一つ又は二つ以上を含むものが使用できる。スルホン酸基を一つ含むものとしては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、1−テトラデカンスルホン酸、1−ペンタデカンスルホン酸、2−ブロモエタンスルホン酸、3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、コリスチンメタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ペンチルベンゼンスルホン酸、ヘキシルベンゼンスルホン酸、ヘプチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、へキサデシルベンゼンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、ジプロピルベンゼンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸、4−アミノ−3−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−5−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アセトアミド−3−クロロベンゼンスルホン酸、4−クロロ−3−ニトロベンゼンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、ジメチルナフタレンスルホン酸、4−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、8−クロロナフタレン−1−スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物等のスルホン酸基を含むスルホン酸化合物等を例示できる。
【0090】
スルホン酸基を二つ以上含むものとしては、例えば、エタンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、o−ベンゼンジスルホン酸、p−ベンゼンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、キシレンジスルホン酸、クロロベンゼンジスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、ジブチルベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸、ドデシルナフタレンジスルホン酸、ペンタデシルナフタレンジスルホン酸、ブチルナフタレンジスルホン酸、2−アミノ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、1−アミノ−3,8−ナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、8−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、アントラセンジスルホン酸、ブチルアントラセンジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−イソチオ−シアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−マレイミジルスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、1−アセトキシピレン−3,6,8−トリスルホン酸、7−アミノ−1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、3−アミノ−1,5,7−ナフタレントリスルホン酸等が挙げられる。
【0091】
これら(B)成分以外のアニオンは、(A)成分の重合前に、(A)成分の原料モノマー、(B)成分、酸化剤及び/又は酸化重合触媒を含む溶液に添加してもよく、また重合後の(A)成分と(B)成分を含有する導電性ポリマー複合体(溶液)に添加してもよい。
【0092】
このようにして得た(A)成分と(B)成分の複合体は、必要によりホモジナイザやボールミル等で細粒化して用いることができる。
細粒化には、高い剪断力を付与できる混合分散機を用いることが好ましい。混合分散機としては、例えば、ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ、ビーズミル等が挙げられ、中でも高圧ホモジナイザが好ましい。
【0093】
高圧ホモジナイザの具体例としては、吉田機械興業社製のナノヴェイタ、パウレック社製のマイクロフルイダイザー、スギノマシン社製のアルティマイザー等が挙げられる。
高圧ホモジナイザを用いた分散処理としては、例えば、分散処理を施す前の複合体溶液を高圧で対向衝突させる処理、オリフィスやスリットに高圧で通す処理等が挙げられる。
【0094】
細粒化の前又は後に、濾過、限外濾過、透析等の手法により不純物を除去し、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、キレート樹脂等で精製してもよい。
【0095】
なお、導電性材料溶液中の(A)成分と(B)成分の合計含有量は0.05〜5.0質量%であることが好ましい。(A)成分と(B)成分の合計含有量が0.05質量%以上であれば、十分な導電性が得られ、5.0質量%以下であれば、均一な導電性塗膜が容易に得られる。
【0096】
(B)成分の含有量は、(A)成分1モルに対して、(B)成分中のスルホ基が0.1〜10モルの範囲となる量であることが好ましく、1〜7モルの範囲となる量であることがより好ましい。(B)成分中のスルホ基が0.1モル以上であれば、(A)成分へのドーピング効果が高く、十分な導電性を確保することができる。また、(B)成分中のスルホ基が10モル以下であれば、(A)成分の含有量も適度なものとなり、十分な導電性が得られる。
【0097】
[その他の成分]
(界面活性剤)
本発明では、基板等の被加工体への濡れ性を上げるため、界面活性剤を添加してもよい。このような界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の各種界面活性剤が挙げられる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル等のノニオン系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン系界面活性剤、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩、アルキル又はアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン系界面活性剤、アミノ酸型、ベタイン型等の両性イオン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ヒドロキシ基がポリエチレンオキシド又はポリプロピレンオキシド化されたアセチレンアルコール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0098】
(高導電化剤)
本発明では、導電性材料の導電率向上を目的として、主剤とは別に高導電化剤としての有機溶剤を添加してもよい。このような添加溶剤としては、極性溶剤が挙げられ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、スルホラン、エチレンカーボネート及びこれらの混合物を挙げることができる。添加量は1.0〜30.0質量%であることが好ましく、特に3.0〜10.0質量%であることが好ましい。
【0099】
(中和剤)
本発明では、導電性材料の水溶液中のpHは酸性を示す。これを中和する目的で、特開2006−96975号公報中の段落[0033]〜[0045]記載の窒素含有芳香族性環式化合物、特許第5264723号記載の段落[0127]記載の陽イオン等を添加してpHを中性にコントロールすることもできる。溶液のpHを中性近くにすることによって、印刷機に適用した場合に錆の発生を防止することができる。
【0100】
以上説明したような、本発明の導電性材料であれば、濾過性及びスピンコートでの成膜性が良好であり、透明性が高く表面ラフネスが低い導電膜を形成することができる。
【0101】
[導電膜]
上述のようにして得られた導電性材料(溶液)は、基板等の被加工体に塗布することにより導電膜を形成できる。導電性材料(溶液)の塗布方法としては、例えば、スピンコーター等による塗布、バーコーター、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。塗布後、熱風循環炉、ホットプレート等による加熱処理、IR、UV照射等を行って導電膜を形成することができる。
【0102】
このように、本発明の導電性材料は、基板等に塗布・成膜することで導電膜とすることができる。また、このようにして形成された導電膜は、導電性、透明性に優れるため、透明電極層として機能するものとすることができる。
【0103】
[基板]
また、本発明では、上述の本発明の導電性材料によって導電膜が形成された基板を提供する。
基板としては、ガラス基板、石英基板、フォトマスクブランク基板、樹脂基板、シリコンウエハー、ガリウム砒素ウエハー、インジウムリンウエハー等の化合物半導体ウエハー、フレキシブル基板等が挙げられる。また、フォトレジスト膜上に塗布して帯電防止トップコートとして使用することも可能である。
【0104】
以上のように、本発明の導電性材料は、超強酸のスルホ基を含有する(B)成分のドーパントポリマーと(A)成分のπ共役系ポリマーとの複合体に、(C)成分のインジウム・スズ酸化物、スズ酸化物、アンチモン・スズ酸化物、アンチモン・亜鉛酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物から選ばれる1種以上の金属酸化物ナノ粒子を添加したものである。本発明の導電性材料であれば、濾過性及びスピンコートでの成膜性が良く、また膜を形成する際には、透明性、フレキシブル性、平坦性、耐久性、及び導電性が良好で、表面ラフネスが低い導電膜を形成することが可能となる。また、このような導電性材料であれば、有機基板、無機基板のどちらに対しても成膜性が良好なものとなる。
また、このような導電性材料によって形成された導電膜は、導電性、透明性等に優れるため、透明電極層として機能するものとすることができる。
【実施例】
【0105】
以下、合成例、調製例、比較調製例、実施例、及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
[ドーパントポリマーの合成]
(合成例1〜8)
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノールに、各モノマーと2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを混合した溶液を8時間撹拌し、室温まで冷却した後、酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して得られた白色重合体を純水に溶解し、イオン交換樹脂を用いてモノマーのカチオンを水素原子に交換してスルホ基に変換した。
このような方法で下記に示すドーパントポリマー1〜8を合成した。
【0107】
ドーパントポリマー1
重量平均分子量(Mw)=29,900
分子量分布(Mw/Mn)=1.91
【化21】
【0108】
ドーパントポリマー2
重量平均分子量(Mw)=31,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.89
【化22】
【0109】
ドーパントポリマー3
重量平均分子量(Mw)=24,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.76
【化23】
【0110】
ドーパントポリマー4
重量平均分子量(Mw)=39,300
分子量分布(Mw/Mn)=1.91
【化24】
【0111】
ドーパントポリマー5
重量平均分子量(Mw)=41,100
分子量分布(Mw/Mn)=1.98
【化25】
【0112】
ドーパントポリマー6
重量平均分子量(Mw)=53,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.81
【化26】
【0113】
ドーパントポリマー7
重量平均分子量(Mw)=53,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.81
【化27】
【0114】
ドーパントポリマー8
重量平均分子量(Mw)=21,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.30
【化28】
【0115】
[導電性ポリマー複合体分散液の調製]
(調製例1)
3.82gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、12.5gのドーパントポリマー1を1,000mLの超純水に溶かした溶液とを30℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、100mLの超純水に溶かした8.40gの過硫酸ナトリウムと2.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、4時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に1,000mLの超純水を添加し、限外濾過法を用いて約1,000mLの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記濾過処理が行われた処理液に200mLの10質量%に希釈した硫酸と2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去し、これに2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して、1.3質量%の青色の導電性ポリマー複合体分散液1を得た。
【0116】
限外濾過条件は下記の通りとした。
限外濾過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3,000mL/分
膜分圧:0.12Pa
なお、他の調製例でも同様の条件で限外濾過を行った。
【0117】
(調製例2)
12.5gのドーパントポリマー1を10.0gのドーパントポリマー2に変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.41g、過硫酸ナトリウムの配合量を5.31g、硫酸第二鉄の配合量を1.50gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液2を得た。
【0118】
(調製例3)
12.5gのドーパントポリマー1を12.0gのドーパントポリマー3に変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.72g、過硫酸ナトリウムの配合量を6.00g、硫酸第二鉄の配合量を1.60gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液3を得た。
【0119】
(調製例4)
12.5gのドーパントポリマー1を11.8gのドーパントポリマー4に、8.40gの過硫酸ナトリウムを4.50gの過硫酸アンモニウムに変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.04g、硫酸第二鉄の配合量を1.23gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液4を得た。
【0120】
(調製例5)
12.5gのドーパントポリマー1を11.0gのドーパントポリマー5に、8.40gの過硫酸ナトリウムを5.31gの過硫酸アンモニウムに変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.41g、硫酸第二鉄の配合量を1.50gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液5を得た。
【0121】
(調製例6)
12.5gのドーパントポリマー1を13.0gのドーパントポリマー6に、8.40gの過硫酸ナトリウムを5.31gの過硫酸アンモニウムに変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.41g、硫酸第二鉄の配合量を1.50gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液6を得た。
【0122】
(調製例7)
12.5gのドーパントポリマー1を12.8gのドーパントポリマー7に、8.40gの過硫酸ナトリウムを5.31gの過硫酸アンモニウムに変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.41g、硫酸第二鉄の配合量を1.50gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液7を得た。
【0123】
(調製例8)
12.5gのドーパントポリマー1を11.0gのドーパントポリマー8に、8.40gの過硫酸ナトリウムを5.31gの過硫酸アンモニウムに変更し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの配合量を2.41g、硫酸第二鉄の配合量を1.50gに変更する以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、導電性ポリマー複合体分散液8を得た。
【0124】
(調製例9)
3.87gの3,4−ジメトキシチオフェンと、10.0gのドーパントポリマー2を1,000mLの超純水に溶かした溶液とを30℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、100mLの超純水に溶かした8.40gの過硫酸ナトリウムと2.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、4時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に1,000mLの超純水を添加し、限外濾過法を用いて約1,000mLの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記濾過処理が行われた処理液に200mLの10質量%に希釈した硫酸と2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去し、これに2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して1.3質量%の青色の導電性ポリマー複合体分散液9を得た。
【0125】
(調製例10)
4.62gの(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)メタノールと、10.0gのドーパントポリマー2を1,000mLの超純水に溶かした溶液とを30℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、100mLの超純水に溶かした8.40gの過硫酸ナトリウムと2.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、4時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に1,000mLの超純水を添加し、限外濾過法を用いて約1,000mLの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記濾過処理が行われた処理液に200mLの10質量%に希釈した硫酸と2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去し、これに2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して1.3質量%の青色の導電性ポリマー複合体分散液10を得た。
【0126】
(調製例11)
4.16gの3,4−プロピレンジオキシチオフェンと、10.0gのドーパントポリマー2を1,000mLの超純水に溶かした溶液とを30℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、100mLの超純水に溶かした8.40gの過硫酸ナトリウムと2.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、4時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に1,000mLの超純水を添加し、限外濾過法を用いて約1,000mLの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記濾過処理が行われた処理液に200mLの10質量%に希釈した硫酸と2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去し、これに2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2,000mLのイオン交換水を加え、限外濾過法を用いて約2,000mLの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して1.3質量%の青色の導電性ポリマー複合体分散液11を得た。
【0127】
(比較調製例1)
5.0gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、83.3gのポリスチレンスルホン酸水溶液(Aldrich製18.0質量%)を250mLのイオン交換水で希釈した溶液とを30℃で混合した。それ以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、1.3質量%の青色の比較導電性ポリマー複合体分散液1(PEDOT−PSS分散液)を得た。この比較導電性ポリマー複合体分散液1は、ドーパントポリマーとしてポリスチレンスルホン酸のみを含むものである。
【0128】
(比較調製例2)
5.0gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、66.5gのナフィオン(登録商標)(テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]の共重合体)の水溶液(Aldrich製20.0質量%)を250mLのイオン交換水で希釈した溶液とを30℃で混合した。それ以外は調製例1と同様の方法で調製を行い、1.3質量%の青色の比較導電性ポリマー複合体分散液2を得た。この比較導電性ポリマー複合体分散液2は、ドーパントポリマーとしてナフィオン(登録商標)のみを含むものである。
【0129】
[実施例及び比較例]
下記表1における、金属酸化物ナノ粒子1、金属酸化物ナノ粒子2、金属酸化物ナノ粒子3、及び金属酸化物ナノ粒子4の詳細は以下の通りである。
金属酸化物ナノ粒子1としては、粒子径1nm以上50nm以下のインジウム・スズ酸化物(Inが90%、SnOが10%)を用い、金属酸化物ナノ粒子2としては、粒子径1nm以上50nm以下のアンチモン・スズ酸化物(Sbが7−11%、SnOが89−93%)を用いた。また、金属酸化物ナノ粒子3としては、粒子径100nmのモリブデン酸化物(MoO)を用い、金属酸化物ナノ粒子4としては、粒子径1nm以上100nm以下のスズ酸化物(SnO)を用いた。
実施例及び比較例においては、これらを金属酸化物ナノ粒子として用いた。
【0130】
(実施例1〜14)
調製例1〜11で得た1.3質量%の導電性ポリマー複合体分散液1〜11、水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31、金属酸化物ナノ粒子を、それぞれ表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、それぞれ実施例1〜14とした。なお、表1中、DMSOはジメチルスルホキシドを示す。
【0131】
(比較例1)
比較調製例1で得た1.3質量%の比較導電性ポリマー複合体分散液1、水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31を、表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、比較例1とした。
【0132】
(比較例2)
比較調製例2で得た1.3質量%の比較導電性ポリマー複合体分散液2、水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31、金属酸化物ナノ粒子1を、表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、比較例2とした。
【0133】
(比較例3)
比較調製例1で得た1.3質量%の比較導電性ポリマー複合体分散液1、水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31、金属酸化物ナノ粒子1を、表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、比較例3とした。
【0134】
(比較例4)
調製例1で得た1.3質量%の導電性ポリマー複合体分散液1、水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31を、表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、比較例4とした。
【0135】
(比較例5)
水、有機溶剤、デュポン社製の界面活性剤FS−31、金属酸化物ナノ粒子1を、表1に記載の組成の通りに混合し、その後、孔径0.45μmの再生セルロースフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過して導電性材料を調製し、比較例5とした。
【0136】
上述のようにして調製した実施例及び比較例の導電性材料を、以下のように評価した。
【0137】
(導電膜の形成)
まず、直径4インチ(100mm)のSiOウエハー上に、導電性材料1.0mLを滴下後、10秒後にスピンナーを用いて全体に回転塗布した。実施例1〜14、比較例1〜4における回転塗布条件は、膜厚が100±5nmとなるよう調節した。比較例5における回転塗布条件は、金属酸化物ナノ粒子の粒子径を考慮し、膜厚が50nmとなるよう調節した。塗布後、精密恒温器にて120℃、5分間ベークを行い、溶媒を除去することにより導電膜を得た。得られた導電膜を目視で観察し、平坦な膜が得られているかを調べた。
【0138】
(導電率)
上記のようにして得られた導電膜の導電率(S/cm)は、SiOウエハーの下側から100Wの白色蛍光灯を照射しながらHiresta−UP MCP−HT450、Loresta−GP MCP−T610(いずれも三菱化学社製)を用いて測定した表面抵抗率(Ω/□)と膜厚の実測値から求めた。その結果を表1に示す。
【0139】
(透過率)
上記のようにして得られた導電膜において、入射角度可変の分光エリプソメーター(VASE)によって測定された屈折率(n,k)より、FT=100nmにおける波長550nmの光線に対する透過率を算出した。その結果を表1に示す。
【0140】
[π共役系ポリマーとしてポリチオフェンを含む導電性材料の評価]
【表1】
【0141】
表1に示すように、π共役系ポリマーとしてポリチオフェンと、繰り返し単位a1〜a4から選ばれる1種以上の繰り返し単位を含むドーパントポリマーと、金属酸化物ナノ粒子を含む実施例1〜14の導電性材料では、スピンコーターによる塗布で、平坦で均一な膜を得ることができた。また、実施例1〜14の導電性材料では、金属酸化物ナノ粒子を添加していないもの(比較例4)に比べて導電性の高い膜が得られた。また、実施例1〜14の導電性材料では、フレキシブル性や、λ=550nmの可視光に対する透過率も良好な膜が得られた。
【0142】
一方、比較例1及び比較例3の導電性材料では、得られる膜の導電性は高かったものの、膜上にストリエーションが発生した。また、比較例2及び比較例4の導電性材料では、平坦で均一な膜は得られたものの、この膜は導電性に劣るものであった。また、比較例5の導電性材料では、得られた膜上にストリエーションが発生し、この膜は導電性も劣るものであった。
【0143】
以上のように、本発明の導電性材料であれば、スピンコートでの成膜性が良く、透明性、導電性が高く、フレキシブル性に優れ、平坦性が良好な導電膜を形成できることが明らかとなった。
【0144】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。