(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294257
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板用銅合金箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20180305BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20180305BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20180305BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20180305BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20180305BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20180305BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20180305BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20180305BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20180305BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/01
C22C9/02
C22C9/10
C22C9/06
C22C9/04
C22F1/08 A
C22F1/08 B
B32B15/08 J
B32B15/18
!C22F1/00 622
!C22F1/00 604
!C22F1/00 630G
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 661Z
!C22F1/00 686Z
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 627
!C22F1/00 682
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-69339(P2015-69339)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188415(P2016-188415A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2016年9月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂東 慎介
(72)【発明者】
【氏名】冠 和樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊之
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−038170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
B32B 15/08
B32B 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
96.30質量%以上のCu、並びに添加元素としてP、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を、Pを0.0066〜0.0837質量%、Siを0.0102〜0.1289質量%、Alを0.0308〜0.3925質量%、Geを0.0274〜0.3466質量%、Gaを0.0701〜0.888質量%、Znを0.2920〜3.6940質量%、Niを0.0670〜0.8500質量%、Sbを0.0322〜0.4070質量%の範囲で含有し、残部不可避的不純物からなる銅合金箔であって、
表面を100μm×100μmの視野で観察した際、及びその圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察した際、いずれの場合も再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜3.0μmかつ最大結晶粒径が6μm以下であるフレキシブルプリント基板用銅合金箔。
【請求項2】
96.30質量%以上のCu、並びに添加元素としてP、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を、Pを0.0066〜0.0837質量%、Siを0.0102〜0.1289質量%、Alを0.0308〜0.3925質量%、Geを0.0274〜0.3466質量%、Gaを0.0701〜0.888質量%、Znを0.2920〜3.6940質量%、Niを0.0670〜0.8500質量%、Sbを0.0322〜0.4070質量%の範囲で含有し、残部不可避的不純物からなる銅合金箔であって、
320℃以上、かつ10分以下の高温短時間、又は240℃以下、かつ20分以上の低温長時間の熱処理後の表面を100μm×100μmの視野で観察した際、及びその圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察した際、いずれの場合も再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜3.0μmかつ最大結晶粒径が6μm以下であるフレキシブルプリント基板用銅合金箔。
【請求項3】
前記平均結晶粒径が0.1〜2.5μmかつ最大結晶粒径が5μm以下である請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板用銅合金箔。
【請求項4】
さらに、Snを0.01〜0.1質量%含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅合金箔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅合金箔と、樹脂層とを積層してなる銅張積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の銅張積層体を用い、前記銅合金箔に回路を形成してなるフレキシブルプリント基板。
【請求項7】
請求項6に記載のフレキシブルプリント基板を用いた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルプリント基板等の配線部材に用いて好適な銅合金箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブル配線板、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(フレキシブル配線板、以下、「FPC」と称する)はフレキシブル性を有するため、電子回路の折り曲げ部や可動部に広く使用されている。例えば、HDDやDVD及びCD−ROM等のディスク関連機器の可動部や、折りたたみ式携帯電話機の折り曲げ部等にFPCが用いられている。
FPCは銅箔と樹脂とを積層したCopper Clad Laminate(銅張積層体、以下CCLと称する)をエッチングすることで配線を形成し、その上をカバーレイと呼ばれる樹脂層によって被覆したものである。カバーレイを積層する前段階で、銅箔とカバーレイとの密着性を向上するための表面改質工程の一環として、銅箔表面のエッチングが行われる。また、銅箔の厚みを低減して屈曲性を向上させるため、減肉エッチングを行う場合もある。
いずれの場合においても、エッチング液には硫酸-過酸化水素系や、過硫酸アンモニウム系のものが一般に使用されている。
【0003】
一方、屈曲用銅箔において、銅箔表面に凹凸があると凹部への応力集中によって破断が発生し、屈曲性が低下するため、表面平滑性が求められている。また銅箔の表面粗さが大きいと、回路形成性が低下し、微細な回路を形成することができない。特に、近年では、高周波数帯域の信号が用いられるようになったことから、伝送損失を抑えるためにも銅箔表面の平滑化が求められるようになっている。
【0004】
高周波用途での導体損を低減する高周波回路用銅箔として、表面から4μmの深さの平均粒径が0.3μm以上の粒状の結晶組織からなり、その表面を電解エッチングで粗化処理する技術が開示されている(特許文献1参照)。
又、極ファインピッチ加工が施される銅張積層板に最適な圧延銅箔として、無酸素銅に、質量割合にて0.07〜0.5%のAgを含有し、Oが10 ppm以下、Sが10 ppm以下であり、Bi、Pb、Sb、Se、As、Fe、TeおよびSnの合計濃度が10 ppm以下であるものが開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
又、圧延銅箔において減肉エッチング等を行うと、エッチング後の表面粗さがエッチング前に比べて粗くなるという問題がある。また、屈曲性を向上するために結晶粒を粗大化させた銅箔では、結晶方位に起因するエッチング速度の差によって、エッチング後に盆地状のくぼみができる。
そこで、本出願人は、銅箔にSn,Mg,In及びAgの1種以上を添加することで、FPC製造工程における熱処理後に平均結晶粒径5μm以下に細粒化させ、エッチング後の銅箔表面粗さを低減できる技術を開発した(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-351677号公報
【特許文献2】特開2003-96526号公報
【特許文献3】特許5356714号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献3記載の技術は、FPC(CCL)製造工程における熱処理として、300℃で15分の高温長時間処理を想定しており、この条件下で結晶が細粒化するよう、添加元素を規定している。
しかしながら、近年のFPC(CCL)製造工程では、より低温(200℃程度)や、より短時間(5分以下)での熱処理が求められており、かかる条件下では、特許文献3に記載された添加元素(Sn,Mg,In及びAg)では結晶の細粒化が困難であることが判明した。又、エッチング性に加え、優れた屈曲性も要求されている。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、200℃程度の低温や5分以下の短時間での熱処理においても、導電性及び屈曲性に優れたフレキシブルプリント基板用銅合金箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは種々検討した結果、P、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni、及びSbの群から選ばれる添加元素を用いることで、FPC製造工程における熱処理がより低温(200℃程度)や、より短時間(5分以下)であっても、結晶粒を細粒化することができ、屈曲性を向上できることを見出した。即ち、上記添加元素を結晶粒の細粒化に寄与する元素として用い、かつ、冷間圧延の加工度を調整することで、FPC製造工程における低温又は短時間の熱処理後であっても結晶粒が細粒化する。
【0009】
すなわち、本発明のフレキシブルプリント基板用銅合金箔は、96.30質量%以上のCu、並びに添加元素としてP、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を
、Pを0.0066〜0.0837質量%、Siを0.0102〜0.1289質量%、Alを0.0308〜0.3925質量%、Geを0.0274〜0.3466質量%、Gaを0.0701〜0.888質量%、Znを0.2920〜3.6940質量%、Niを0.0670〜0.8500質量%、Sbを0.0322〜0.4070質量%の範囲で含有し、残部不可避的不純物からなる銅合金箔であって、表面を100μm×100μmの視野で観察した際、及びその圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察した際、いずれの場合も再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜3.0μmかつ最大結晶粒径が6μm以下である。
【0010】
又、本発明のフレキシブルプリント基板用銅合金箔は、96.30質量%以上のCu、並びに添加元素としてP、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を
、Pを0.0066〜0.0837質量%、Siを0.0102〜0.1289質量%、Alを0.0308〜0.3925質量%、Geを0.0274〜0.3466質量%、Gaを0.0701〜0.888質量%、Znを0.2920〜3.6940質量%、Niを0.0670〜0.8500質量%、Sbを0.0322〜0.4070質量%の範囲で含有し、残部不可避的不純物からなる銅合金箔であって、320℃以上、かつ10分以下の高温短時間、又は240℃以下、かつ20分以上の低温長時間の熱処理後の表面を100μm×100μmの視野で観察した際、及びその圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察した際、いずれの場合も再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜3.0μmかつ最大結晶粒径が6μm以下である。
【0011】
前記平均結晶粒径が0.1〜2.5μmかつ最大結晶粒径が5μm以下であることが好ましい。
さらに、Snを0.01〜0.1質量%含有することが好ましい。
【0012】
本発明の銅張積層体は、前記フレキシブルプリント基板用銅合金箔と、樹脂層とを積層してなる。
【0013】
本発明のフレキシブルプリント基板は、前記銅張積層体を用い、前記銅合金箔に回路を形成してなる。
【0014】
本発明の電子機器は、前記フレキシブルプリント基板を用いてなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FPC(CCL)製造工程における低温や短時間での熱処理後であっても、導電性及び屈曲性に優れたフレキシブルプリント基板用銅合金箔が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る銅合金箔の実施の形態について説明する。なお、本発明において%は特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0018】
<組成>
本発明に係る銅合金箔は、96.30質量%以上のCu、並びに添加元素としてP、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni、及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を含有し、残部不可避的不純物からなる。
上述の特許文献3記載の技術では、銅合金の半軟化温度が高いほど結晶粒を微細化させる点に着目し、Sn,Mg,In及びAgを添加元素に選んだ。ところが、銅合金の半軟化温度が高くなると、再結晶温度も高くなるため、200℃程度の低温や5分以下の短時間での熱処理を行う場合に再結晶が不十分となるおそれがある。そこで、本発明者らは、低温や短時間での熱処理でも再結晶する元素として、上記の添加元素を見出した。又、上記の添加元素を用いて再結晶化した銅合金箔は、屈曲性が向上することを見出した。
【0019】
添加元素の添加量を多くするほど結晶粒は微細化するが、導電性は低下する傾向にある。このようなことから、各添加元素の含有量の好ましい範囲を規定した。
つまり、Pを0.0066〜0.0837質量%、Siを0.0102〜0.1289質量%、Alを0.0308〜0.3925質量%、Geを0.0274〜0.3466質量%、Gaを0.0701〜0.8880質量%、Znを0.2920〜3.6940質量%、Niを0.0670〜0.8500質量%、Sbを0.0322〜0.4070質量%の範囲で含有することが好ましい。
各添加元素の含有量が上記各下限値未満であると結晶粒の微細化の効果が十分に得られず、各上限値を超えると結晶粒は微細化するが、導電性が60%未満に低下する場合がある。又、Pの場合、上限値を超えると再結晶温度が上昇し、上述の熱処理では再結晶しなくなる。
【0020】
<再結晶粒>
銅張積層体になった後の樹脂の硬化熱処理を受けた状態の銅合金箔の表面;又は320℃以上、かつ10分以下の高温短時間、又は240℃以下、かつ20分以上の低温長時間の熱処理後の表面を100μm×100μmの視野で観察した際、及びその圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察した際、いずれの場合も再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜3.0μmかつ最大結晶粒径が6μm以下である。
上記したように、本発明に係る銅合金箔はフレキシブルプリント基板に用いられ、その際、銅合金箔と樹脂とを積層したCCLは、200〜400℃で樹脂を硬化させるための熱処理を行うため、再結晶によって結晶粒が粗大化する可能性がある。そして、再結晶部の平均結晶粒径が3.0μmを超えると、屈曲時に転位セルを形成するため、屈曲性が低下する。
なお、再結晶部の平均結晶粒径は小さいほど良いが、平均結晶粒径を0.1μm未満とすることは製造上困難である。再結晶部の平均結晶粒径が0.1〜2.5μmであることが好ましい。
【0021】
従って、再結晶部の平均結晶粒径を0.1〜3.0μmに規定する。なお、銅合金箔を上述の熱処理後の表面について平均結晶粒径を規定した理由は、上述のようにCCLを200℃程度の低温で、又は5分以下の短時間の条件で樹脂を硬化熱処理させるため、この温度条件を再現したものである。なお、この熱処理条件の規定は、樹脂と積層する前の銅合金箔についてのものである。高温短時間の熱処理条件の例としては、350℃で5分が挙げられる。低温長時間の熱処理条件の例としては、200℃で30分が挙げられる。又、高温短時間の熱処理の温度上限は例えば400℃、時間下限は例えば1分である。低温長時間の熱処理の温度下限は例えば160℃、時間上限は例えば60分である。
そして、本願の請求項1に係るフレキシブルプリント基板用銅合金箔は、樹脂と積層後の銅張積層体になった後の、樹脂の硬化熱処理を受けた状態の銅合金箔を規定している。又、本願の請求項2に係るフレキシブルプリント基板用銅合金箔は、樹脂と積層する前の銅合金箔に上記熱処理を行ったときの状態を規定している。
平均結晶粒径の測定は、誤差を避けるため、箔表面を100μm×100μmの視野で3視野以上を観察して行う。箔表面の観察は、SIM(Scanning Ion Microscope)またはSEM(Scanning Electron Microscope)を用い、JIS H 0501に基づいて平均結晶粒径を求めることができる。
【0022】
又、再結晶部の最大結晶粒径が6μm以下である。
再結晶部の最大結晶粒径を6μm以下とした理由は、再結晶部の平均結晶粒径が3.0μm以下であっても、最大結晶粒径が6μmを超える非常に大きい粒が存在すると、屈曲時に転位セルを形成して屈曲性が低下するからである。再結晶部の最大結晶粒径が5μm以下であることが好ましい。
【0023】
平均結晶粒径の測定はJIS H0501に定める切断法を用いて行う。また、最大結晶粒径の測定は、画像解析ソフト(例えば、ニラコ社製LUZEX-F)を用いてSIM像を解析することで求める。このとき用いる画像解析ソフトは一般的なものであるので、どのソフトウェアを用いても問題ない。
又、圧延平行断面を幅100μmの範囲で観察するとは、圧延方向に沿って100μmの長さで、厚み方向の断面を観察することを意味する。
【0024】
なお、上記添加元素を添加しても、冷間圧延時の加工度を制御しないと微細化しないことがある。特に、最終冷間圧延(焼鈍と圧延を繰り返す工程全体の中で、最後の焼鈍後に行う仕上げ圧延)での加工度として、η=ln(最終冷間圧延
前の板厚/最終冷間圧延
後の板厚)=3.5〜7.5とすると好ましい。
ηが3.5未満の場合、加工時のひずみの蓄積が小さく、再結晶粒の核が少なくなるため、再結晶粒が粗大になる傾向にある。ηが7.5より大きい場合、ひずみが過剰に蓄積されて結晶粒成長の駆動力となり、結晶粒が粗大になる傾向にある。η=5.5〜7.5とするとさらに好ましい。
【0025】
本発明の銅合金箔は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、銅インゴットに上記添加物を添加して溶解、鋳造した後、熱間圧延し、冷間圧延と焼鈍を行い、上述の最終冷間圧延を行うことにより箔を製造することができる。
【0026】
<銅張積層体及びフレキシブルプリント基板>
又、本発明の銅合金箔に(1)樹脂前駆体(例えばワニスと呼ばれるポリイミド前駆体)をキャスティングして熱をかけて重合させること、(2)ベースフィルムと同種の熱可塑性接着剤を用いてベースフィルムを本発明の銅合金箔にラミネートすること、により、銅合金箔と樹脂基材の2層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。又、本発明の銅合金箔に接着剤を塗着したベースフィルムをラミネートすることにより、銅合金箔と樹脂基材とその間の接着層の3層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。これらのCCL製造時に銅合金箔が熱処理されて再結晶化する。
これらにフォトリソグラフィー技術を用いて回路を形成し、必要に応じて回路にめっきを施し、カバーレイフィルムをラミネートすることでフレキシブルプリント基板(フレキシブル配線板)が得られる。
【0027】
従って、本発明の銅張積層体は、銅箔と樹脂層とを積層してなる。又、本発明のフレキシブルプリント基板は、銅張積層体の銅箔に回路を形成してなる。
樹脂層としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられるがこれに限定されない。また、樹脂層として、これらの樹脂フィルムを用いてもよい。
樹脂層と銅箔との積層方法としては、銅箔の表面に樹脂層となる材料を塗布して加熱成膜してもよい。又、樹脂層として樹脂フィルムを用い、樹脂フィルムと銅箔との間に以下の接着剤を用いてもよく、接着剤を用いずに樹脂フィルムを銅箔に熱圧着してもよい。但し、樹脂フィルムに余分な熱を加えないという点からは、接着剤を用いることが好ましい。
樹脂層としてフィルムを用いた場合、このフィルムを、接着剤層を介して銅箔に積層するとよい。この場合、フィルムと同成分の接着剤を用いることが好ましい。例えば、樹脂層としてポリイミドフィルムを用いる場合は、接着剤層もポリイミド系接着剤を用いることが好ましい。尚、ここでいうポリイミド接着剤とはイミド結合を含む接着剤を指し、ポリエーテルイミド等も含む。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。又、本発明の作用効果を奏する限り、上記実施形態における銅合金がその他の成分を含有してもよい。
例えば、銅箔の表面に、粗化処理、防錆処理、耐熱処理、またはこれらの組み合わせによる表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
純度99.96%以上の電気銅に、表1に示す元素をそれぞれ添加し、Ar雰囲気で鋳造して鋳塊を得た。鋳塊中の酸素含有量は15ppm未満であった。この鋳塊を900℃で均質化焼鈍後、熱間圧延して厚さ60mmとした後、表面を面削し、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、さらに表1に示す加工度ηで最終冷間圧延をして最終厚さ33μmの箔を得た。得られた箔に200℃×30分、又は300℃×5分の熱処理を加え、銅箔サンプルを得た。
【0030】
<評価>
1.導電率
各銅箔サンプルについて、JIS H 0505に基づいて4端子法により、25℃の導電率(%IACS)を測定した。
2.粒径
各銅箔サンプル表面をSIM(Scanning Ion Microscope)を用いて観察し、JIS H 0501に基づいて平均粒径を求めた。又、表面の最大粒径及び面積率は、SIM像を画像解析ソフト(ニラコ社製LUZEX-F)で解析して算出した。測定領域は、表面の100μm ×100μmとした
またFIB(focused ion beam)を用い、銅箔サンプルを圧延平行に切断加工し、断面をSIM(Scanning Ion Microscope)を用いて観察し、JIS H 0501に基づいて平均粒径を求めた。又、断面の最大粒径及び面積率は、SIM像を画像解析ソフト(ニラコ社製LUZEX-F)で解析して算出した。測定領域は、圧延方向に沿って100μmの長さとした。
3.再結晶の有無
上記銅箔サンプル(熱処理後の銅箔)の引張強さが最終冷間圧延後の銅箔(熱処理前の銅箔)の50%以下かつ、銅箔サンプルの伸び率が最終冷間圧延後の銅箔の1.7倍以上の場合を、上記熱処理後に再結晶していると判断した。それ以外の場合を、「未再結晶」とみなした。引張強さおよび伸び率はJIS C 6515に基づいて25℃で測定した。
【0031】
4.屈曲性
最終冷間圧延後の厚さ33μmの銅箔(熱処理前の銅箔)の片面に銅粗化めっきを行い、ポリイミドフィルム(厚み27μm)と箔を積層し、加熱プレス(4MPa)で貼り合せてCCLサンプルを得た。なお、フィルムの積層時に200℃×30分、又は300℃×5分の熱処理を加えた。従って、表2の「300℃×5分」は、各銅箔サンプルにおける銅箔単体での熱処理、又はCCL積層時の熱処理である。CCLサンプルの銅箔部分に線幅300μmの所定の回路を形成し、FPCを得た。
図1に示すIPC(アメリカプリント回路工業会)屈曲試験装置により、屈曲疲労寿命の測定を行った。この装置は、発振駆動体4に振動伝達部材3を結合した構造になっており、FPC1は、矢印で示したねじ2の部分と振動伝達部材3の先端部の計4点で装置に固定される。振動伝達部材3が上下に駆動すると、FPC1の中間部は、所定の曲率半径rでヘアピン状に屈曲される。本試験では、以下の条件下で屈曲を繰り返した時の破断までの回数を求めた。
なお、試験条件は次の通りである:試験片幅:12.7mm、試験片長さ:200mm、試験片採取方向:試験片の長さ方向が圧延方向と平行になるように採取、曲率半径r:2mm、振動ストローク:20mm、振動速度:1500回/分、屈曲疲労寿命:初期の電気抵抗値から10%を超えて高くなった時点。
なお、屈曲疲労寿命が10万回以上の場合に優れた屈曲性を有しているとし、屈曲疲労寿命が10万回未満を屈曲性が劣るとして評価した。
【0032】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表1、表2から明らかなように、P、Si、Al、Ge、Ga、Zn、Ni、及びSbの群から選ばれる1種以上の元素を含有し、かつ350℃で5分又は200℃で30分の熱処理後の表面の再結晶部の平均結晶粒径が3μm以下かつ最大結晶粒径が6μm以下である各実施例の場合、導電率が60%以上であると共に、屈曲性に優れていた。
【0036】
一方、添加元素としてMg又はSnをそれぞれ添加した比較例1、2の場合、350℃で5分又は200℃で30分の熱処理では再結晶せず、屈曲性に劣った。これは、再結晶しないために圧延前の粗大な結晶粒が残留し、屈曲時に転位セルを形成したためと考えられる。
添加元素を含まない純銅からなる比較例3の場合、及び、添加元素であるPの含有量が下限値未満である比較例6の場合、添加元素による再結晶時の粗大化抑制が十分でなく、表面の再結晶部の平均結晶粒径が3.0μmを超え、最大結晶粒径が6μmを超えた。その結果、屈曲性に劣った。
最終冷間圧延での加工度ηが7.5を超えた比較例4の場合、表面の再結晶部の平均結晶粒径が3.0μmを超え、最大結晶粒径が6μmを超えた。その結果、屈曲性に劣った。これは、強加工によって結晶粒が粗大となり、屈曲時に転位セルを形成したためと考えられる。
最終冷間圧延での加工度ηが3.5未満である比較例5,8の場合も、表面の再結晶部の最大結晶粒径が6μmを超え、屈曲性に劣った。これは、低加工度なために圧延前の粗大な結晶粒が残留し、屈曲時に転位セルを形成したためと考えられる。
【0037】
Geの含有量が好ましい上限値(0.3466質量%)を超えた比較例7の場合、屈曲性は優れていたが導電率が60%未満に低下した。
Pの含有量が好ましい上限値(0.0837質量%)を超えた比較例9の場合、350℃で5分又は200℃で30分の熱処理では再結晶しなかったと共に、導電率が60%未満に低下した。なお、比較例9は再結晶しなかったために屈曲性は評価しなかった。