(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1では、キャリアとして炭酸セシウムや炭酸ルビジウム等の特定のアルカリ金属塩を用いることで、100℃以上の高温条件下で実用可能なCO
2パーミアンスとCO
2/H
2選択性を備えたCO
2促進輸送膜が提案されている。
【0012】
CO
2促進輸送膜は溶解・拡散機構に基づく膜と比較して、CO
2透過速度が速いが、CO
2の分圧が高いほど、CO
2分子と反応するキャリア分子数が充分でなくなる状態に近づくため、斯かる高CO
2分圧下においてもキャリア飽和に適応するための改善が必要である。
【0013】
本発明は、上述の問題点に鑑み、CO
2パーミアンスとCO
2選択透過性の改善されたCO
2促進輸送膜を安定して供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、親水性ポリマーのゲル膜中にCO
2キャリアとCO
2水和反応触媒を含んで構成される分離機能膜を備え、前記親水性ポリマーが、アクリル酸セシウム塩またはアクリル酸ルビジウム塩に由来する第1の構造単位とビニルアルコールに由来する第2の構造単位とを含む共重合体であることを特徴とするCO
2促進輸送膜を提供する。但し、CO
2水和反応触媒は、下記の(化1)に示すCO
2水和反応の反応速度を増加させる触媒である。尚、本明細書で示す反応式中の記号「⇔」は、可逆反応であることを示している。
【0015】
(化1)
CO
2 + H
2O ⇔ HCO
3− + H
+
【0016】
CO
2とCO
2キャリアの反応は、総括反応式としては、下記の(化2)のように示される。但し、(化2)ではCO
2キャリアが炭酸塩である場合を想定している。当該反応の素反応の1つである上記CO
2水和反応が無触媒条件下では極めて遅い反応であるので、触媒の添加により当該素反応が促進されることで、CO
2とCO
2キャリアの反応が促進され、結果として、CO
2の透過速度の向上が期待される。
【0017】
(化2)
CO
2 + H
2O + CO
32− ⇔ 2HCO
3−
【0018】
従って、上記特徴のCO
2促進輸送膜によれば、分離機能膜に、CO
2キャリアとCO
2水和反応触媒が含まれるため、CO
2とCO
2キャリアの反応が促進され、CO
2パーミアンスとCO
2選択透過性が夫々改善されたCO
2促進輸送膜を提供することができる。また、高CO
2分圧下においてもCO
2水和反応触媒が有効に機能するため、高CO
2分圧下におけるCO
2パーミアンスとCO
2選択透過性が夫々改善される。更に、分離機能膜が、液膜等ではなくゲル膜で構成されているため、加圧下でも安定して高いCO
2選択透過性を発揮することができる。
【0019】
更に、本願発明者の鋭意研究により、ゲル膜を構成する親水性ポリマーとして、アクリル酸セシウム塩またはアクリル酸ルビジウム塩に由来する第1の構造単位とビニルアルコールに由来する第2の構造単位を含む共重合体を使用することで、例えば、上記特許文献1で使用されているアクリル酸塩がナトリウム塩である一般的なポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(PVA/PAAナトリウム塩共重合体)と比較して、CO
2パーミアンスが更に向上することが確認されており、高CO
2分圧下におけるCO
2パーミアンスとCO
2選択透過性が夫々更に改善される。
【0020】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、ゲル膜は、親水性ポリマーが架橋することで三次元網目構造物が形成されるハイドロゲルであり、水を吸収することで膨潤する性質を有している。従って、ゲル膜が保水性の高いハイドロゲルで構成されるため、分離機能膜内の水分が少なくなる高温下においても、可能な限り膜内に水分を保持することが可能となり、高いCO
2選択透過性能を実現できる。
【0021】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記CO
2水和反応触媒が100℃以上の温度下で触媒活性を有することが好ましい。これにより、100℃以上の温度下でも、CO
2とCO
2キャリアの反応が促進され、CO
2パーミアンスとCO
2選択透過性が夫々改善されたCO
2促進輸送膜を提供することができる。
【0022】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記CO
2水和反応触媒の融点が200℃以上であることが好ましく、更に、前記CO
2水和反応触媒が水溶性であることが好ましい。
【0023】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記CO
2水和反応触媒が、オキソ酸化合物を含むことが好ましく、特に、14族元素、15族元素、及び、16族元素の中から選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物を含んで構成されることが好ましく、更に、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及び、オルトケイ酸化合物の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されることが好ましい。
【0024】
特に、前記CO
2水和反応触媒の融点が200℃以上であると、触媒が熱的に安定して分離機能膜内に存在し得るため、CO
2促進輸送膜の性能を長期に亘って維持できる。また、前記CO
2水和反応触媒が水溶性であれば、CO
2水和反応触媒を含む親水性ポリマーのゲル膜の作製が容易且つ安定的に行える。前記CO
2水和反応触媒として、亜テルル酸化合物、亜ヒ酸化合物、或いは、亜セレン酸化合物を使用した場合、何れも水溶性で融点が200℃以上であり、安定した膜性能改善が期待できる。
【0025】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記親水性ポリマー中の前記第2の構造単位の含有量が、前記第1及び第2の構造単位の合計含有量に対して1mol%〜90mol%であることが好ましい。
【0026】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記CO
2キャリアが、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の重炭酸塩、及び、アルカリ金属の水酸化物の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されることが好ましく、更に、前記アルカリ金属が、セシウムまたはルビジウムであることが好ましい。これらにより、高いCO
2選択透過性をより確実に実現できる。
【0027】
ここで、CO
2キャリアがアルカリ金属の炭酸塩の場合には、上記(化2)に示す反応が生じるが、CO
2キャリアがアルカリ金属の水酸化物の場合は、下記の(化3)に示すような反応が生じる。尚、(化3)では、一例としてアルカリ金属がセシウムの場合を示す。
【0028】
(化3)
CO
2 + CsOH → CsHCO
3
CsHCO
3 + CsOH → Cs
2CO
3 + H
2O
【0029】
尚、上記(化3)を纏めると、下記(化4)のように表すことができる。即ち、これにより、添加された水酸化セシウムが炭酸セシウムに転化することが示される。更に、上記(化3)より、CO
2キャリアとして、アルカリ金属の炭酸塩の代わりに重炭酸塩を添加した場合においても同様の効果を得ることができることが分かる。
【0030】
(化4)
CO
2 + 2CsOH → Cs
2CO
3 + H
2O
【0031】
更に、上記特徴のCO
2促進輸送膜において、前記分離機能膜が、親水性の多孔膜に担持されていることが好ましい。
【0032】
先ず、分離機能膜が多孔膜に支持されることにより、CO
2促進輸送膜の使用時の強度が向上する。この結果、CO
2促進輸送膜の両側(反応器内外)での圧力差が大きく(例えば、2気圧以上)なっても十分な膜強度を確保できる。
【0033】
更に、ゲル膜である分離機能膜を担持する多孔膜が親水性であると、欠陥の少ないゲル膜を安定して作製することができる。尚、親水性の多孔膜には、疎水性の多孔膜を親水化処理した膜も含まれる。
【0034】
親水性の多孔膜上に、水を含有する媒質と親水性ポリマーである前記第1及び第2構造単位を含む共重合体とCO
2キャリアとCO
2水和反応触媒とを含む樹脂組成物である塗工液を塗布すると多孔膜の細孔内が液で満たされ、更に、多孔膜の表面に塗工液が塗布される。得られた塗布物から当該媒質を除去してゲル状の分離機能膜を作製すると、多孔膜の表面のみならず細孔内にもゲル膜が充填されるので欠陥が生じ難くなり、ゲル膜の製膜成功率が高くなる。上記媒質は、水以外に水溶性の有機溶媒を含有していてもよい。媒質の量は、得られる塗工液が均一に存在し得る量であることが好ましい。塗布物から媒質を除去する方法は特に限定されず、加熱又は減圧によるものであっても、自然乾燥によるものであってもよいが、媒質の一部が塗布物に残存するように除去することが好ましい。
【0035】
尚、分離機能膜を担持する多孔膜は、上述のように、親水性であることが好ましいが、必ずしも、親水性である必要はない。例えば、疎水性多孔膜であっても、塗布厚を厚くする等により、多孔膜上に欠陥のないゲル膜を形成させることは可能である。
【0036】
更に、前記親水性の多孔膜に担持されている前記分離機能膜が、疎水性の多孔膜によって被覆されていることが好ましい。これにより、分離機能膜が疎水性の多孔膜によって保護され、使用時におけるCO
2促進輸送膜の強度が更に増す。また、分離機能膜が疎水性の多孔膜によって被覆されるため、水蒸気が疎水性の多孔膜の膜表面に凝縮しても当該多孔膜が疎水性のために水がはじかれて分離機能膜内にしみ込むのを防止している。よって、疎水性の多孔膜によって、分離機能膜中のCO
2キャリアが水で薄められ、薄められたCO
2キャリアが分離機能膜から流出することを防止できる。
【0037】
更に、本発明は、上記特徴のCO
2促進輸送膜の製造方法であって、水を含有する媒質、前記親水性ポリマー、前記CO
2キャリア、及び、前記CO
2水和反応触媒を含む塗工液を多孔膜に塗布する工程と、得られた塗布物から前記媒質を除去してゲル状の前記分離機能膜を作製する工程と、を有することを特徴とするCO
2促進輸送膜の製造方法を提供する。
【0038】
上記特徴のCO
2促進輸送膜の製造方法によれば、親水性ポリマーに対するCO
2キャリア及び水溶性のCO
2水和反応触媒の配分を適正に調整した塗工液が予め準備されるため、最終的なゲル膜内のCO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒の配合比率の適正化が簡易に実現でき、膜性能の高性能化が実現できる。
【0039】
更に、本発明は、上記特徴のCO
2促進輸送膜に、CO
2を含む混合気体を前記CO
2促進輸送膜に供給する工程と、前記混合気体から前記CO
2促進輸送膜を透過した前記CO
2を分離する工程とを有することを特徴とするCO
2分離方法を提供する。
【0040】
更に、本発明は、上記特徴のCO
2促進輸送膜を備えることを特徴とするCO
2分離膜モジュールを提供する。
【0041】
更に、本発明は、上記特徴のCO
2促進輸送膜と、CO
2を含む混合気体を前記CO
2促進輸送膜に供給するガス供給部と、前記混合気体から前記CO
2促進輸送膜を透過した前記CO
2を分離するガス分離部とを備えることを特徴とするCO
2分離装置を提供する。
【0042】
更に、本発明は、上記特徴のCO
2促進輸送膜の製造に用いられるCO
2キャリア、CO
2水和反応触媒、及び、アクリル酸セシウム塩またはアクリル酸ルビジウム塩に由来する第1の構造単位とビニルアルコールに由来する第2の構造単位とを含む共重合体を含んでなることを特徴とする樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0043】
上記特徴のCO
2促進輸送膜及びその製造方法によれば、CO
2パーミアンスとCO
2選択透過性の改善されたCO
2促進輸送膜を安定して供給することができる。
【0044】
更に、上記特徴のCO
2分離方法及び装置によれば、高いCO
2選択透過性を有するCO
2促進輸送膜を使用することで、CO
2を含む混合気体からCO
2を選択的に高効率に分離することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本願発明者は、鋭意研究により、CO
2促進輸送膜のCO
2キャリアを含む上記(化2)に示したCO
2とCO
2キャリアの反応の生じるゲル膜中に、当該反応の素反応の1つである上記(化1)に示したCO
2水和反応の触媒であって、100℃以上の高温下で失活せず触媒活性を維持可能な触媒を含ませることで、当該高温下にあっても、H
2パーミアンスに対してCO
2パーミアンスが飛躍的に向上し、CO
2選択透過性が従来の当該触媒を含まないCO
2促進輸送膜と比較して大幅に向上することを見出した(第1の新知見)。
【0047】
更に、上記CO
2促進輸送膜のゲル膜として、アクリル酸セシウム塩またはアクリル酸ルビジウム塩に由来する第1の構造単位とビニルアルコールに由来する第2の構造単位を含む共重合体のゲル膜を使用することで、従来のPVA/PAAナトリウム塩共重合体を使用したCO
2促進輸送膜と比較して、CO
2パーミアンスが更に向上し、CO
2選択透過性が更に向上することを見出した(第2の新知見)。
【0048】
更に、上記2つの新知見による効果は、互いに阻害し合うことなく協働して発揮して、夫々単独で実施する場合に比べて、CO
2パーミアンス及びCO
2選択透過性が向上することが確認された。そして、本願発明者は、上記2つの新知見に基づいて、以下に示すCO
2促進輸送膜、その製造方法及び当該製造方法に用いられる樹脂組成物、並びに、CO
2分離モジュール、CO
2分離方法及び装置の発明に至った。
【0049】
[第1実施形態]
先ず、本発明に係るCO
2促進輸送膜、その製造方法及び当該製造方法に用いられる樹脂組成物(以下、適宜「本促進輸送膜」、「本製造方法」及び「本樹脂組成物」という。)の一実施形態につき、図面に基づいて説明する。
【0050】
本促進輸送膜は、水分を含む親水性ポリマーのゲル膜内にCO
2キャリアと100℃以上の温度下で触媒活性を有するCO
2水和反応触媒を含有した分離機能膜を備えたCO
2促進輸送膜であって、高いCO
2パーミアンスとCO
2選択透過性を有するCO
2促進輸送膜である。更に、本促進輸送膜は、高いCO
2選択透過性を安定して実現するために、CO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒を含有したゲル膜を担持する支持膜として、親水性の多孔膜を採用している。
【0051】
具体的には、本促進輸送膜は、分離機能膜の膜材料として、アクリル酸セシウム塩またはアクリル酸ルビジウム塩に由来する第1の構造単位とビニルアルコールに由来する第2の構造単位を含む共重合体(以下、単に「本共重合体」と略称する。)を使用し、CO
2キャリアとして、例えば、炭酸セシウム(Cs
2CO
3)、炭酸ルビジウム(Rb
2CO
3)等のアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸セシウム(CsHCO
3)、重炭酸ルビジウム(RbHCO
3)等のアルカリ金属の重炭酸塩、及び、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)等のアルカリ金属の水酸化物の内の少なくとも何れか1つを使用し、好ましくは、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ金属の重炭酸塩を使用し、より好ましくは、炭酸セシウムを使用する。CO
2水和反応触媒は、オキソ酸化合物を含んで構成されることが好ましく、特に、14族元素、15族元素、及び、16族元素の中から選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物を含んで構成されることが好ましい。CO
2水和反応触媒として、例えば、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及び、オルトケイ酸化合物の内の少なくとも何れか1つを使用する。CO
2水和反応触媒として、より具体的には、亜テルル酸カリウム(K
2TeO
3、融点:465℃)、亜テルル酸リチウム(Li
2O
3Te、融点:約750℃)、亜セレン酸カリウム(K
2O
3Se、融点:875℃)、亜ヒ酸ナトリウム(NaO
2As、融点:615℃)、オルトケイ酸ナトリウム(Na
4O
4Si、融点:1018℃)等が使用できる。好ましくは亜テルル酸化合物を使用し、より好ましくは亜テルル酸カリウムを使用する。
【0052】
本実施形態で使用するCO
2水和反応触媒は、何れも水溶性で、融点が400℃以上の熱的に極めて安定で、100℃以上の高温下で触媒活性を有する。尚、CO
2水和反応触媒の融点は、後述する本促進輸送膜の製造方法の工程中の温度変化の上限(例えば、媒質除去工程中の温度、或いは、熱架橋温度等)より高ければ良く、例えば、200℃程度以上であれば、CO
2水和反応触媒が製造工程途中に昇華して分離機能膜中のCO
2水和反応触媒の濃度が低下することは回避される。
【0053】
また、本共重合体の第1の構造単位は、下記の(化5)の構造式で表される。但し、(化5)中のMはセシウムまたはルビジウムを表す。また、本共重合体の第2の構造単位は、下記の(化6)の構造式で表される。以下、本共重合体は、第1の構造単位のポリマー(ポリアクリル酸セシウム塩またはポリアクリル酸ルビジウム塩)と第2の構造単位のポリマー(ポリビニルアルコール)の共重合体(PVA/PAAセシウム塩共重合体またはPVA/PAAルビジウム塩共重合体)を想定する。
【0056】
尚、本共重合体は、第1及び第2の構造単位以外の他の構造単位(以下、適宜「第3の構造単位」と称する。)を更に有していてもよく、第1及び第2の構造単位の合計含有量は、本共重合体を構成する全構造単位の合計含有量に対して、好ましくは40mol%以上100mol%以下、より好ましくは50mol%以上100mol%以下、更に好ましくは60mol%以上100mol%以下である。更に、本共重合体における第2の構造単位の含有量は、第1及び第2の構造単位の合計含有量に対して1mol%以上90mol%以下であることが好ましく、5mol%以上85mol%以下であることがより好ましく、10mol%以上80mol%以下であることが更に好ましい。本共重合体における第2の構造単位の含有量としては、例えば、第1及び第2の構造単位の合計含有量に対して1mol%以上90mol%以下、5mol%以上85mol%以下、10mol%以上80mol%以下、20mol%以上80mol%以下、30mol%以上80mol%以下、又は40mol%以上80mol%以下を挙げることができる。
【0057】
また、第3の構造単位としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、バーサチツク酸ビニル等の炭素数2〜16の脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するマレイン酸ジアルキルエステルに由来する構造単位;フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、フマル酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するフマル酸ジアルキルエステルに由来する構造単位;イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジヘキシル、イタコン酸ジオクチル、イタコン酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するイタコン酸ジアルキルエステルに由来する構造単位;アクリル酸に由来する構造単位;等が挙げられる。更に、第3の構造単位としては、炭素数2〜16の脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位または炭素数1〜16のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位が好ましく、炭素数2〜4の脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位または炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位がより好ましく、酢酸ビニルに由来する構造単位またはアクリル酸メチルに由来する構造単位が更に好ましい。
【0058】
本樹脂組成物は、本共重合体、CO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒を含む。CO
2キャリアの含有量は、CO
2キャリアと本共重合体との合計重量に対して、20重量%〜90重量%の範囲であることが好ましく、45重量%〜85重量%の範囲であることがより好ましい。CO
2水和反応触媒は、CO
2キャリアに対して、通常0.01倍以上1倍以下のモル数で含有され、好ましくは0.02倍以上0.5倍以下のモル数で含有され、より好ましくは0.025倍以上0.5倍以下のモル数で含有される。
【0059】
本樹脂組成物は、本共重合体、CO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒を混合する工程を含む方法により製造することができる。斯かる混合において、媒質として更に水を混合することが好ましい。水を混合する場合、その使用量は、得られる樹脂組成物を後述する塗工液として供する際に当該樹脂組成物が均一溶液として存在し得る量であることが好ましい。混合順序は特に限定されず、混合温度は5℃〜90℃の範囲が好ましい。
【0060】
また、本促進輸送膜は、一例として、
図1に模式的に示すように、分離機能膜1を担持した親水性多孔膜2が、2枚の疎水性多孔膜3,4に挟持される3層構造で構成される。尚、ゲル膜である分離機能膜1は、親水性多孔膜2によって支持されており、一定の機械的強度を有しているため、必ずしも2枚の疎水性多孔膜3,4に挟持される構造である必要はない。例えば、親水性多孔膜2を円筒状に形成することでも機械的強度は増強できる。従って、本促進輸送膜は、必ずしも平板状のものに限定されない。
【0061】
また、分離機能膜中の本共重合体とCO
2キャリアの全重量を基準として、分離機能膜中において、本共重合体は約10重量%〜約80重量%の範囲で存在し、CO
2キャリアは約20重量%〜約90重量%の範囲で存在する。
【0062】
更に、分離機能膜中において、CO
2キャリアに対して、例えば、0.01倍以上1倍以下、好ましくは、0.02倍以上0.5倍以下、更に好ましくは、0.025倍以上0.5倍以下のモル数のCO
2水和反応触媒が存在する。
【0063】
親水性多孔膜は、親水性に加えて、100℃以上の耐熱性、機械的強度、分離機能膜(ゲル膜)との密着性を有するのが好ましく、更に、多孔度(空隙率)が55%以上で、細孔径は0.1μm〜1μmの範囲にあるのが好ましい。本実施形態では、これらの条件を備えた親水性多孔膜として、親水性化した四フッ化エチレン重合体(PTFE)多孔膜を使用する。
【0064】
疎水性多孔膜は、疎水性に加えて、100℃以上の耐熱性、機械的強度、分離機能膜(ゲル膜)との密着性を有するのが好ましく、更に、多孔度(空隙率)が55%以上で、細孔径は0.1μm〜1μmの範囲にあるのが好ましい。本実施形態では、これらの条件を備えた疎水性多孔膜として、親水性化していない四フッ化エチレン重合体(PTFE)多孔膜を使用する。
【0065】
次に、本促進輸送膜の製造方法(本製造方法)の一実施形態について、
図2を参照して説明する。以下の説明では、本共重合体としてPVA/PAAセシウム塩共重合体、CO
2キャリアとして炭酸セシウム(Cs
2CO
3)、CO
2水和反応触媒として亜テルル酸塩(例えば、亜テルル酸カリウム(K
2TeO
3))の使用を想定する。尚、親水性ポリマー、CO
2キャリア、及び、CO
2水和反応触媒の各分量は、一例であり、下記の実施例のサンプル作製で使用する分量を例示している。
【0066】
先ず、本共重合体とCO
2キャリアとCO
2水和反応触媒を含む本樹脂組成物である塗工液を作製する(工程1)。より詳細には、後述する本共重合体の製造方法で作製されたPVA/PAAセシウム塩共重合体を2g、炭酸セシウムを4.67g、炭酸セシウムに対して0.025倍のモル数の亜テルル酸塩を、水80gに添加し、攪拌混合して塗工液を得る。
【0067】
次に、工程1で得た塗工液を、親水性PTFE多孔膜(例えば、住友電工ファインポリマー製、WPW−020−80、膜厚80μm、細孔径0.2μm、空隙率約75%)と疎水性PTFE多孔膜(例えば、住友電工ファインポリマー製、フロロポアFP010、膜厚60μm、細孔径0.1μm、空隙率55%)を2枚重ね合わせた層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の面上に、アプリケータで塗布する(工程2)。尚、後述する塗布回数が1回の実施例1〜7及び比較例1,2のサンプルでの塗布厚は500μmである。ここで、塗工液は、親水性PTFE多孔膜中の細孔内に浸透するが、疎水性のPTFE多孔膜の境界面で浸透が停止し、層状多孔膜の反対面まで塗工液が滲み込まず、層状多孔膜の疎水性PTFE多孔膜側面には塗工液が存在せず取り扱いが容易となる。
【0068】
次に、塗布後の親水性PTFE多孔膜を室温で自然乾燥させ、ゲル状の分離機能層を当該親水性PTFE多孔膜に担持する(工程3)。ここで、ゲル状の分離機能層は、固体状の分離機能膜で、液膜とは明確に区別される。
【0069】
本製造方法では、工程2において、塗工液を層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の表面に塗布するため、工程3において、分離機能膜は、親水性PTFE多孔膜の表面(塗布面)に形成されるのみならず細孔内にも充填して形成されるので、欠陥(ピンホール等の微小欠陥)が生じ難くなり、分離機能膜の製膜成功率が高くなる。尚、工程3において、自然乾燥させたPTFE多孔膜を、更に、80℃〜160℃の範囲、好ましくは120℃程度の温度で、10分間〜4時間の範囲、好ましくは2時間程度の時間で、熱架橋するのが望ましい。尚、後述する実施例及び比較例のサンプルでは、何れも熱架橋を行っている。
【0070】
次に、工程3で得た親水性PTFE多孔膜表面のゲル層側に、工程2で用いた層状多孔膜の疎水性PTFE多孔膜と同じ疎水性PTFE多孔膜を重ね、
図1に模式的に示すように、疎水性PTFE多孔膜/親水性PTFE多孔膜に担持された分離機能膜/疎水性PTFE多孔膜よりなる3層構造の本促進輸送膜を得る(工程4)。尚、
図1において、分離機能膜1が親水性PTFE多孔膜2の細孔内に充填している様子を模式的に直線状に表示している。
【0071】
本製造方法では、塗工液を生成する工程1において、CO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒の配合比率の調整が行えるため、CO
2キャリアとCO
2水和反応触媒の少なくとも何れか一方の含まれないゲル膜が形成された後に、CO
2キャリアとCO
2水和反応触媒の少なくとも何れか一方を当該ゲル膜内に添加する場合と比較して、上記配合比率の適正化が正確且つ容易に行え、膜性能の高性能化に寄与する。
【0072】
以上、工程1〜工程4を経て作製された本促進輸送膜は、100℃以上の高温下においても、極めて高い対水素選択透過性、一例として、3×10
−5mol/(m
2・s・kPa)(=90GPU)程度以上のCO
2パーミアンス、及び、100程度以上のCO
2/H
2選択性が実現できる。
【0073】
次に、本共重合体の製造方法について説明する。本共重合体は、例えば、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位を含む共重合体を、水酸化セシウムまたは水酸化ルビジウムで鹸化する工程(工程A)を含む製造方法により得られる。
【0074】
更に、上記の本共重合体の製造方法は、工程Aで使用する共重合体を、少なくともアクリル酸アルキルエステルと脂肪酸のビニルエステルを重合させて製造する工程(工程a)を含んでいてもよい。
【0075】
アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜16のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、脂肪酸のビニルエステルとしては、炭素数2〜16の脂肪酸のビニルエステルが挙げられる。これらの重合は、例えば、特開昭52−107096号公報や特開昭52−27455号公報に記載されている方法に準じて実施すればよい。
【0076】
工程Aの鹸化は、水及び/または水溶性有機溶媒(例えば、炭素数1〜3のアルコール溶媒)の存在下で行うことが好ましい。鹸化温度は、20℃〜80℃の範囲が好ましく、25℃〜75℃の範囲がより好ましい。
【0077】
工程Aで、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位が鹸化されて第1の構造単位となり、脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位が鹸化されて第2の構造単位となる。したがって、鹸化度を調整したり、鹸化後に中和したりすることにより、脂肪酸のビニルエステルに由来する構造単位やアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位やアクリル酸に由来する構造単位を、上記第3の構造単位として本共重合体に含有させることができる。
【0078】
勿論、工程aにおける第3の構造単位の由来となる化合物(脂肪酸のビニルエステル及びアクリル酸アルキルエステルを除く)の使用量や重合度等を調整することによっても、第3の構造単位を本共重合体に含有させることができる。
【0079】
以上のように、工程Aや工程aの条件を適宜選択することにより、第1の構造単位及び第2の構造単位の含有量を、上述の範囲内に調整することができる。
【0080】
以下、本促進輸送膜の具体的な膜性能について、分離機能膜を構成する親水性ポリマーとして本共重合体(PVA/PAAセシウム塩共重合体)を使用し、分離機能膜中にCO
2水和反応触媒を含む実施例1〜7と、親水性ポリマーとして本共重合体とはアクリル酸塩を構成するアルカリ金属が異なるPVA/PAAナトリウム塩共重合体を使用し、分離機能膜中にCO
2水和反応触媒を含まない比較例1及び2との各膜性能を対比して評価する。
【0081】
実施例1〜7に用いた本重合体であるPVA/PAAセシウム塩共重合体の製造方法は以下の合成例1と製造例1に示す通りである。
【0082】
(合成例1)酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体の合成
撹拌機、温度計、N
2ガス導入管、還流冷却機及び滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、水768g及び無水硫酸ナトリウム12gを仕込み、N
2ガスで系内を置換した。続いて、部分鹸化ポリビニルアルコール(鹸化度88%)1g及びラウリルパーオキシド1gを仕込み、内温60℃まで昇温した後、アクリル酸メチル104g(1.209mol)及び酢酸ビニル155g(1.802mol)の単量体を滴下ロートにより、夫々同時に4時間かけて適下した。適下中は、撹拌回転数600rpmにて内温を60℃に保持した。滴下終了後、更に内温65℃で2時間攪拌した後、得られた混合物を遠心分離により脱水し、酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体288g(10.4%含水)を得た。
【0083】
(製造例1)PVA/PAAセシウム塩共重合体の製造
撹拌機、温度計、N
2ガス導入管、還流冷却機及び滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、メタノール500g、水410g、水酸化セシウム一水和物554.2g(3.3mol)及び合成例1で得られた酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体288g(10.4%含水)を仕込み、400rpmの撹拌下で30℃、3時間鹸化反応を行った。鹸化反応終了後、得られた反応混合物を600gのメタノールで3回洗浄、濾過し、70℃で6時間乾燥させることにより、ビニルアルコール−アクリル酸セシウム共重合体308gを得た。そして、該ビニルアルコール−アクリル酸セシウム共重合体308gを、ジェットミル(日本ニューマチック工業社製LJ)により粉砕し、微粉末状のビニルアルコール−アクリル酸セシウム共重合体280gを得た。
【0084】
以下の実施例1〜7及び比較例1,2の各サンプルは、上述の本製造方法に従って作製した。尚、工程1で作製される塗工液中の水、親水性ポリマー、及び、CO
2キャリアの各重量は、実施例1〜3,7及び比較例1,2では、水80gに対して、親水性ポリマーとCO
2キャリアの各重量は2gと4.67gであり、実施例4〜6では、水80gに対して、親水性ポリマーとCO
2キャリアの各重量は3gと7gである。親水性ポリマーとCO
2キャリアの重量比は、実施例1〜7及び比較例1,2の全てにおいて、3:7と共通である。
【0085】
実施例1〜7では、親水性ポリマーとして、第3の構造単位を含まないPVA/PAAセシウム塩共重合体を使用した。また、比較例1,2では、親水性ポリマーとして、アクリル酸塩とビニルアルコール以外の構造単位を含まないPVA/PAAナトリウム塩共重合体を使用した。実施例1〜7及び比較例1,2の各親水性ポリマーにおける共重合体全体に対するアクリル酸塩の含有率は40mol%と共通である。CO
2キャリアは、実施例7及び比較例2を除き、炭酸セシウム(Cs
2CO
3)を使用し、実施例7及び比較例2では、炭酸ルビジウム(Rb
2CO
3)を使用した。
【0086】
CO
2水和反応触媒は、実施例1〜4及び7で、亜テルル酸カリウムを、実施例5で、亜ヒ酸ナトリウムを、実施例6で、亜セレン酸カリウムを夫々使用した。CO
2水和反応触媒のCO
2キャリアに対するモル比率は、実施例1及び4〜6では、0.025倍で、実施例2では、0.1倍、実施例3では、0.2倍、実施例7では、0.05倍である。
【0087】
比較例1のサンプルは、上述の製造方法の工程1において作製される塗工液中にCO
2水和反応触媒が含まれていない点、当該塗工液に含まれる親水性ポリマーがナトリウム塩である点以外は、実施例1と同様に作製した。また、比較例2のサンプルは、上述の製造方法の工程1において作製される塗工液中にCO
2水和反応触媒が含まれていない点、当該塗工液に含まれる親水性ポリマーがナトリウム塩である点以外は、実施例7と同様に作製した。
【0088】
次に、実施例1〜7及び比較例1,2の各サンプルの膜性能を評価するための実験方法について説明する。
【0089】
各サンプルは、ステンレス製の流通式ガス透過セルの供給側室と透過側室の間に、フッ素ゴム製ガスケットをシール材として用いて固定して使用した。実験条件は、各サンプルに対して共通であり、当該セル内の温度(以下、「処理温度」と称す)は130℃に固定されている。
【0090】
供給側室に供給される供給側ガスはCO
2、H
2、H
2O(スチーム)からなる混合ガスで、その配分比(モル%)は、CO
2:H
2:H
2O=23.6:35.4:41.0である。供給側ガス流量は、3.47×10
−2mol/minであり、供給側圧力は、600kPa(A)である。尚、(A)は絶対圧を意味している。これにより、供給側でのCO
2分圧は、142kPa(A)となる。供給側室の圧力は、排気ガスの排出路の途中の冷却トラップの下流側に背圧調整器を設けて調整される。
【0091】
一方、透過側室の圧力は大気圧で、透過側室に流すスイープガスとしてH
2O(スチーム)を使用し、その流量は7.77×10
−3mol/minである。透過側室から排出するスイープガスを、下流側のガスクロマトグラフに送出するために、Arガスを流入させ、Arガスの混入したガス中の水蒸気を冷却トラップで除去し、冷却トラップを通過した後のガス組成をガスクロマトグラフで定量し、これと当該ガス中のArの流量よりCO
2及びH
2のパーミアンス[mol/(m
2・s・kPa)]を計算し、その比より、CO
2/H
2選択性を算出する。
【0092】
尚、上記評価実験では、各サンプルの促進輸送膜の使用温度、及び、供給側ガスとスイープガスの温度を一定温度に維持するために、実験装置は、上記ガスを加熱する予熱器を有し、サンプル膜を固定した流通式ガス透過セルは恒温槽内に設置している。
【0093】
次に、実施例1〜7及び比較例1,2の実験結果で得られた膜性能の対比を行う。
図3に、実施例1〜7及び比較例1,2の各サンプルの分離機能膜の構成条件(CO
2キャリア、CO
2水和反応触媒、CO
2キャリアとCO
2水和反応触媒のモル比率、親水性ポリマー、塗工液中の親水性ポリマー及びCO
2キャリアの濃度)と、膜性能(CO
2パーミアンス、H
2パーミアンス、CO
2/H
2選択性)を一覧表示する。尚、
図3では、親水性ポリマー及びCO
2キャリアの濃度(重量%)は、塗工液中のCO
2水和反応触媒の重量を無視した概算値が表示されている。
【0094】
先ず、実施例1〜3,7及び比較例1,2の膜性能の対比を行う。ここでは、親水性ポリマーの違い、CO
2水和反応触媒の有無、及び、CO
2水和反応触媒の配合比率の違いによる膜性能が対比される。
図4に、実施例1〜3,7及び比較例1,2のCO
2パーミアンスとCO
2/H
2選択性をグラフ化して示す。
図3及び
図4より、親水性ポリマーとして本共重合体を使用し、分離機能膜内にCO
2水和反応触媒が含まれていることで、CO
2キャリアが炭酸セシウムの場合は、CO
2パーミアンスが2.34〜2.80倍になり、一方、H
2パーミアンスは1.14〜1.52倍になり、H
2パーミアンスよりCO
2パーミアンスの方が、増加率が大きいため、CO
2/H
2選択性は、比較例1の79.2に対して、128〜195の範囲(増加率に換算すると、1.62〜2.46倍)で大幅に改善されていることが分かる。また、CO
2キャリアが炭酸ルビジウムの場合も同様に、CO
2パーミアンスが2.53倍になり、一方、H
2パーミアンスは1.67倍となり、H
2パーミアンスよりCO
2パーミアンスの方が、増加率が大きいため、CO
2/H
2選択性は、比較例2の93.1に対して、141(増加率に換算すると、1.51倍)と大幅に改善されていることが分かる。
【0095】
また、
図3及び
図4より、実施例1〜3を対比すると、CO
2キャリアを基準とするCO
2水和反応触媒の配合比率(モル比率)が大きい程、CO
2パーミアンスが増加する傾向が見られるが、当該モル比率が0.025においてCO
2パーミアンスの増加及びCO
2/H
2選択性の改善が明瞭に確認される。更に、実施例1と実施例7の対比において、使用するCO
2キャリアの違いによるCO
2パーミアンスの増加及びCO
2/H
2選択性の改善に大きな差は見られない。
【0096】
次に、実施例4〜6の膜性能の対比を行う。ここでは、CO
2水和反応触媒の種類による膜性能が対比される。
図5に、実施例4〜6のCO
2パーミアンスとCO
2/H
2選択性をグラフ化して示す。
図3及び
図5より、何れのCO
2水和反応触媒でも、CO
2パーミアンスとCO
2/H
2選択性の両方の改善が確認されているが、CO
2パーミアンスの改善は、亜テルル酸塩で顕著に現れている。
【0097】
次に、実施例1〜7の膜性能の対比を行う。特に、実施例1,4の間では、上記工程1で生成される塗工液中の親水性ポリマー及びCO
2キャリアの濃度の違いによる膜性能が対比される。
図6に、実施例1〜7のCO
2パーミアンスとH
2パーミアンスをグラフ化して示す。実施例4は、実施例1と親水性ポリマー及びCO
2水和反応触媒及びその配合比率が同じであるが、塗工液中の親水性ポリマー及びCO
2キャリアの合計重量が実施例1と比較して1.5倍で異なる。尚、塗工液中の親水性ポリマー及びCO
2キャリアの濃度(重量%)は実施例1と比較して約1.44倍となっている。
【0098】
先ず、実施例1と実施例4を対比すると、
図3及び
図6より、CO
2パーミアンスは、実施例1が6.61×10
−5mol/(m
2・s・kPa)で、実施例4が6.93×10
−5mol/(m
2・s・kPa)と数%程度の差しかなく略同じであるが、H
2パーミアンスは、実施例1が5.18×10
−7mol/(m
2・s・kPa)で、実施例4が3.28×10
−7mol/(m
2・s・kPa)と、実施例4の方が実施例1より小さい。この結果、CO
2/H
2選択性が実施例4の方が実施例1より増加している。
【0099】
CO
2の透過メカニズムが促進輸送機構であるので、実施例1,4間では、親水性ポリマー、CO
2キャリアの種類及びゲル膜中の濃度、CO
2水和反応触媒の種類及びその配合比率が同じであり、CO
2パーミアンスに影響を与える主要な条件が同じであるので、CO
2パーミアンスに大きな差が現れていない。一方、H
2はCO
2キャリアとは反応しないため、H
2の透過メカニズムは促進輸送機構ではなく溶解・拡散機構である。実施例1,4間のH
2パーミアンスを比較すると、その差は、親水性ポリマーのゲル膜の膜質の個体差(製造バラツキ)による影響を受けている可能性があると考えられる。
【0100】
ここで、塗工液中の親水性ポリマーの濃度は、実施例4の方が、実施例1の1.5倍であるので、ゲル膜の膜厚は、濃度差に応じて、実施例4の方が厚くなるものと考えられ、実施例1,4間のH
2パーミアンスの差は、H
2の透過メカニズムを斟酌すれば、ゲル膜の膜厚差の影響も受けていると考えられる。しかし、塗工液中の親水性ポリマーの濃度が実施例4と同じ実施例5,6のH
2パーミアンスが、塗工液中の親水性ポリマーの濃度が実施例1と同じ実施例3のH
2パーミアンスより大きいので、H
2パーミアンスのバラツキは、主としてゲル膜の膜質の個体差によるものと考えられる。但し、塗工液中の親水性ポリマーの濃度が実施例1〜3,7の1.5倍である実施例4〜6のH
2パーミアンスの平均が、4.28×10
−7mol/(m
2・s・kPa)であるのに対して、実施例1〜3,7のH
2パーミアンスの平均が、4.94×10
−7mol/(m
2・s・kPa)と16%程度大きいので、塗工液中の親水性ポリマーの濃度を調整することで、H
2パーミアンスの増大を抑制できる余地はある。
【0101】
以上、本促進輸送膜によれば、分離機能膜中にCO
2水和反応触媒を含み、更に、親水性ポリマーとして本共重合体を使用することにより、CO
2パーミアンスを2段階で増大させることで、100以上のCO
2/H
2選択性を得ることができ、更に、塗工液中の本共重合体の重量配分を調整して、H
2パーミアンスの増加或いはバラツキを抑制することで、実施例4と同等またはそれ以上のCO
2/H
2選択性を実現できる。
【0102】
上記実施例1〜7及び比較例1,2では、上記本促進輸送膜の製造方法の工程2における塗工液の多孔膜面上への塗布回数は1回で、塗布厚は500μmであったが、塗布回数を2回にして塗布厚を増加させた実施例8,9及び比較例3についても、下記要領で膜性能の評価を行った。
【0103】
実施例8,9の分離機能膜の構成条件及び製造方法は、塗工液の塗布回数以外は実施例1と全く同じである。比較例3の分離機能膜の構成条件及び製造方法は、塗工液の塗布回数以外は比較例1と全く同じである。
【0104】
実施例8に対しては、実施例1〜7の実験条件(条件A)と異なる実験条件(条件B)で、実施例9及び比較例3に対しては、実施例1〜7と異なる別の実験条件(条件C)で、夫々膜性能の評価を行った。条件B及びCの評価実験では、供給側ガスとして、水素に代えて窒素を用いたCO
2、N
2、H
2O(スチーム)からなる混合ガスを使用した。従って、条件B及びCでは、条件Aとは異なり、膜性能として、CO
2及びN
2のパーミアンス[mol/(m
2・s・kPa)]とCO
2/N
2選択性が評価される。ここで、条件B及びCの供給側圧力は、条件Aと同様に600kPa(A)であり、更に、混合ガスに占めるCO
2の配分比(モル%)は、何れも条件Aと同様に23.6%に設定しているため、条件B及び条件Cの供給側CO
2分圧は、条件Aと同様に142kPa(A)となる。
【0105】
条件Bの実験条件は、供給側ガスの一成分が水素に代えて窒素である点を除き、条件Aと全く同じである。また、条件Bと条件Cでは処理温度が異なり、条件Bが130℃であるのに対し条件Cは110℃である。
【0106】
図7に、実施例8,9及び比較例3の各サンプルの分離機能膜の構成条件(CO
2キャリア、CO
2水和反応触媒、CO
2キャリアとCO
2水和反応触媒のモル比率、親水性ポリマーの条件、塗工液中の親水性ポリマー及びCO
2キャリアの濃度、塗布回数)と、処理温度と、膜性能(CO
2パーミアンス、N
2パーミアンス、CO
2/N
2選択性)を一覧表示する。
【0107】
図7に示す実施例8及び実施例9の評価結果を対比すると、処理温度が低下すると、CO
2パーミアンスとN
2パーミアンスが共に減少するものの、その程度がN
2パーミアンスの方が大きいため、CO
2/N
2選択性が向上することが分かる。
【0108】
実施例9と比較例3の各サンプルは、膜性能の評価条件は上述の条件Cであるが、分離機能膜の構成条件及び製造方法が異なる。つまり、比較例3のサンプルは、上述の製造方法の工程1において作製される塗工液中にCO
2水和反応触媒が含まれていない点、当該塗工液に含まれる親水性ポリマーがナトリウム塩である点以外は、実施例9と同様に作製されている。当該相違点は、実施例1と比較例2の各サンプル間の相違点と同じである。
図7に示す実施例9及び比較例3の評価結果を対比すると、実施例9は、親水性ポリマーがセシウム塩であって、且つ、CO
2水和反応触媒が含まれているため、比較例3と比較して、CO
2パーミアンスが向上し、N
2パーミアンスに有意な差がないため、CO
2/N
2選択性が向上することが分かる。
【0109】
実施例1〜9及び比較例1〜3の分離機能膜は、何れもゲル膜であるが、更なる比較例として、分離機能膜が液膜(水溶液)の比較例4を作製した。比較例4の分離機能膜の水溶液には、実施例1〜9及び比較例1〜3で使用したPVA/PAA塩共重合体は含まれていない。また、比較例4では、実施例1と同様に、CO
2キャリアとして炭酸セシウムを使用し、CO
2水和反応触媒として亜テルル酸カリウムを使用した。以下、比較例4の作製方法につき説明する。
【0110】
モル濃度2mol/Lの炭酸セシウム水溶液に、炭酸セシウムに対して0.025倍のモル数の亜テルル酸カリウムを添加して、溶解するまで撹拌して、分離機能膜(液膜)用の水溶液を得た。その後、本製造方法の工程2のアプリケータを用いた塗布法ではなく、分離機能膜(液膜)用の水溶液に、親水性PTFE多孔膜を30分間浸漬させ、その後、疎水性PTFE膜に上記水溶液を浸漬させた親水性PTFE膜を乗せ、室温で半日以上乾燥させた。膜性能の評価実験の際に親水性PTFE膜の上にも疎水性PTFE膜を乗せて、親水性PTFE多孔膜及び分離機能膜(液膜)を疎水性PTFE膜で挟持する3層構造とする点は、上記実施例1〜9及び比較例1〜3と同様である。
【0111】
しかし、比較例4の液膜サンプルは、上記実施例1〜9及び比較例1〜3と同様の実験条件の供給側圧力600kPa(A)に設定することができず、膜性能の評価ができなかった。つまり、分離機能膜(液膜)の供給側と透過側の間に斯かる圧力差に耐えられず、必要な差圧を維持できないことが明らかとなった。
【0112】
上記実施例1〜7では、本促進輸送膜の具体的な膜性能として、CO
2パーミアンス、H
2パーミアンス、CO
2/H
2選択性を評価し、CO
2パーミアンス及び水素に対するCO
2選択透過性が改善されることが確認できた。供給側室に供給される供給側ガスとして、水素に代えて水素より分子量の大きい窒素やメタン等を含む混合ガスを使用した場合にも、当該分子量の大きい窒素等の透過メカニズムが促進輸送機構ではなく溶解・拡散機構であるため、例えば、実施例9と比較例3の評価結果より明らかなように、当然に高いCO
2選択透過性が得られる。
【0113】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態で説明したCO
2促進輸送膜を応用したCO
2分離膜モジュール、CO
2分離装置及びCO
2分離方法について説明する。
【0114】
本促進輸送膜はモジュール化して、CO
2分離膜モジュールとして好適に用いることができる。また、本実施形態のCO
2分離装置は、CO
2促進輸送膜またはCO
2分離膜モジュールと、CO
2を含む混合気体をCO
2促進輸送膜に供給するガス供給部と、当該混合気体からCO
2促進輸送膜を透過したCO
2を分離するガス分離部と、を備えて構成される
【0115】
CO
2分離膜モジュールの型式の例としては、スパイラル型、円筒型、中空糸型、プリーツ型、プレート&フレーム型等が挙げられる。また、本発明のCO
2促進輸送膜は、化学吸収法、吸着法、深冷分離法等の脱炭酸技術と組み合わせたプロセスに適用しても良い。例えば、米国特許第4,466,946号明細書に記載のような膜分離法と化学吸収法を組み合わせたCO
2分離回収装置や、特開2007−297605号公報に記載のような吸収液と併用した膜・吸収ハイブリッド法としての気体分離回収装置が挙げられる。
【0116】
以下、円筒型のCO
2分離膜モジュールを含むCO
2分離装置について、
図8を参照して説明する。
【0117】
図8は、本実施形態のCO
2分離装置10の概略の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態では、一例として、上記第1実施形態で説明した平板型構造のCO
2促進輸送膜ではなく、円筒型構造に変形したCO
2促進輸送膜をCO
2分離膜モジュールとして使用する。
図8(a)は、円筒型構造のCO
2促進輸送膜(本促進輸送膜)11の軸心に垂直な断面における断面構造を示し、
図8(b)は、本促進輸送膜11の軸心を通過する断面における断面構造を示す。
【0118】
図8に示す本促進輸送膜11は、円筒形状の親水性のセラミックス製多孔膜2の外周面上に、分離機能膜1を担持させた構造である。尚、分離機能膜1は、上記第1実施形態と同様に、分離機能膜の膜材料として、本共重合体を使用し、CO
2キャリアとして、例えば、炭酸セシウム(Cs
2CO
3)、炭酸ルビジウム(Rb
2CO
3)等のアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸セシウム(CsHCO
3)、重炭酸ルビジウム(RbHCO
3)等のアルカリ金属の重炭酸塩、及び、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)等のアルカリ金属の水酸化物の内の少なくとも何れか1つを使用し、CO
2水和反応触媒として、例えば、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及び、オルトケイ酸化合物の内の少なくとも何れか1つを使用する。第1実施形態の膜構造とは、分離機能膜1及び親水性のセラミックス製多孔膜2が、2枚の疎水性多孔膜で挟持されていない点で相違する。本実施形態の分離機能膜1の製造方法及び膜性能は、上記相違点を除き、基本的には、上記第1実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0119】
図8に示すように、円筒型の本促進輸送膜11は、有底円筒型の容器12に収容され、容器12の内壁と分離機能膜1に囲まれた供給側空間13と、セラミックス製多孔膜2の内壁に囲まれた透過側空間14が形成されている。容器12の両側の底部12a,12bの一方側に、原料ガスFGを供給側空間13に送入する第1送入口15と、スイープガスSGを透過側空間14に送入する第2送入口16が設けられ、容器12の両側の底部12a,12bの他方側に、CO
2の分離された後の原料ガスEGを供給側空間13から排出する第1排出口17と、本促進輸送膜11を透過したCO
2を含む透過ガスPGとスイープガスSGの混合された排出ガスSG’を透過側空間14から排出する第2排出口18が設けられている。容器12は、例えば、ステンレス製で、図示していないが、本促進輸送膜11の両端と容器12の両側の底部12a,12bの内壁との間に、一例として、第1実施形態で説明した実験装置と同様に、フッ素ゴム製ガスケットをシール材として介装して、本促進輸送膜11を容器12内に固定している。尚、本促進輸送膜11の固定方法及びシール方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0120】
尚、
図8(b)では、第1送入口15と第1排出口17は、
図8(b)で左右に分離して図示されている供給側空間13に夫々1つずつ設けられているが、供給側空間13は、
図8(a)に示すように、環状に連通しているので、第1送入口15と第1排出口17は、左右の何れか一方の供給側空間13に設けても構わない。更に、
図8(b)では、底部12a,12bの一方側に、第1送入口15と第2送入口16を設け、底部12a,12bの他方側に、第1排出口17と第2排出口18を設ける構成を例示したが、底部12a,12bの一方側に、第1送入口15と第2排出口18を設け、底部12a,12bの他方側に、第1排出口17と第2送入口16を設ける構成としてもよい。つまり、原料ガスFG及びEGの流れる向きと、スイープガスSG及び排出ガスSG’の流れる向きを逆にしても構わない。
【0121】
本実施形態のCO
2分離方法では、CO
2を含む混合気体からなる原料ガスFGを供給側空間13に送入することで、本促進輸送膜11の供給側面に供給し、本促進輸送膜11の分離機能膜1に含まれるCO
2キャリアと原料ガスFG中のCO
2を反応させ、高い選択透過率でCO
2を選択的に透過させ、CO
2分離後のCO
2濃度の低下した原料ガスEGを供給側空間13から排出する。
【0122】
CO
2とCO
2キャリアの反応は、上記(化2)の反応式に示すように、水分(H
2O)の供給が必要であり、分離機能膜1内に含まれる水分が多いほど、化学平衡は生成物側(右側)にシフトし、CO
2の透過が促進されることが分かる。原料ガスFGの温度が100℃以上の高温の場合、当該原料ガスFGと接触する分離機能膜1も100℃以上の高温下に曝されるため、分離機能膜1内に含まれる水分は蒸発して、CO
2と同様に透過側空間14に透過するため、供給側空間13にスチーム(H
2O)を供給する必要がある。当該スチームは、原料ガスFG中に含まれていてもよく、また、原料ガスFGとは別に供給側空間13に供給されてもよい。後者の場合、透過側空間14に透過したスチーム(H
2O)を排出ガスSG’から分離して、供給側空間13内に循環させるようにしてもよい。
【0123】
図8に示すCO
2分離装置では、円筒型の本促進輸送膜11の外側に供給側空間13を形成し、内側に透過側空間14を形成する構成例を説明したが、内側に供給側空間13を形成し、外側に透過側空間14を形成してもよい。更に、本促進輸送膜11を、円筒形状の親水性のセラミックス製多孔膜2の内周面上に、分離機能膜1を担持させた構造としてもよい。更に、CO
2分離装置に使用する本促進輸送膜11は、円筒型に限定されるものではなく、円形以外の断面形状の筒型でもよく、更には、
図1に示すような平板型構造の本促進輸送膜を用いてもよい。
【0124】
次に、CO
2分離装置の一応用例として、本促進輸送膜を備えたCO変成器(CO
2透過型メンブレンリアクター)について簡単に説明する。
【0125】
例えば、
図8に示すCO
2分離装置10を用いて、CO
2透過型メンブレンリアクターを構成する場合、供給側空間13にCO変成触媒を充填し、供給側空間13をCO変成器として利用することができる。
【0126】
CO
2透過型メンブレンリアクターは、例えば、水蒸気改質器で生成されたH
2を主成分とする原料ガスFGをCO変成触媒の充填された供給側空間13に受け入れ、原料ガスFG中に含まれる一酸化炭素(CO)を、以下の(化7)に示すCO変成反応によって除去する装置である。そして、当該CO変成反応で生成されるCO
2を、本促進輸送膜11により選択的に透過側空間14に透過させて除去することで、CO変成反応の化学平衡を水素生成側にシフトさせることができ、同一反応温度において高い転化率で、CO及びCO
2を平衡の制約による限界を超えて除去することが可能となる。そして、CO及びCO
2を除去後のH
2を主成分とする原料ガスEGが供給側空間13から取り出される。
【0127】
(化7)
CO + H
2O ⇔ CO
2 + H
2
【0128】
CO変成反応に供するCO変成触媒の性能が温度とともに低下する傾向にあるため、使用温度は最低でも100℃であると考えられ、本促進輸送膜11の供給側面に供給される原料ガスFGの供給温度は100℃以上となっている。従って、原料ガスFGは、CO変成触媒の触媒活性に適した温度に調整された後、CO変成触媒の充填された供給側空間13に送入され、供給側空間13内でのCO変成反応(発熱反応)を経て、本促進輸送膜11に供給される。
【0129】
一方、スイープガスSGは、本促進輸送膜11を透過したCO
2を含む透過ガスPGの分圧を低くして、本促進輸送膜11の透過推進力を維持し、透過ガスPGを外部に排出するために使用される。但し、原料ガスFGの分圧が十分高い場合には、スイープガスSGを流さなくとも透過推進力となる分圧差が得られるため、スイープガスSGを流す必要はない。また、スイープガスSGに用いるガス種として、上記第1実施形態の膜性能の評価実験と同様に、スチーム(H
2O)を使用することもでき、更には、不活性ガスのAr等も使用することができ、スイープガスSGは特定のガス種に限定されるものではない。
【0130】
[別実施形態]
以下に、別実施形態について説明する。
【0131】
〈1〉上記各実施形態では、CO
2キャリアとして、セシウムやルビジウム等のアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、或いは、水酸化物の使用を想定したが、本発明は、分離機能膜を構成する本共重合体のゲル膜にCO
2キャリアと100℃以上の高温下で触媒活性を有するCO
2水和反応触媒を含むことを特徴としており、CO
2水和反応触媒によって、CO
2とCO
2キャリアの反応が促進され、上記第1実施形態で例示した膜性能(CO
2の対水素選択透過性能)と同等程度またはそれ以上の膜性能を発現し得るCO
2キャリアであれば、特定のCO
2キャリアに限定されるものではない。
【0132】
〈2〉上記各実施形態では、CO
2水和反応触媒は、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及び、オルトケイ酸化合物の内の少なくとも何れか1つを含んで構成される場合を想定したが、100℃以上の高温下、好ましくは、130℃以上、より好ましくは160℃以上の高温下で、上記(化1)のCO
2水和反応に対する触媒活性を有する触媒であって、使用するCO
2キャリアとの組み合わせにおいて、上記第1実施形態で例示した膜性能(CO
2の対水素選択透過性能)と同等程度またはそれ以上の膜性能を発現し得るCO
2水和反応触媒であれば、特定のCO
2水和反応触媒に限定されるものではない。尚、本促進輸送膜の分離機能膜に使用する場合、上述の化合物と同様、融点が200℃以上で水溶性のものが好ましい。尚、CO
2水和反応触媒が触媒活性を呈する温度範囲の上限値は、特に限定されるものではないが、本促進輸送膜が使用される装置での本促進輸送膜の使用温度、本促進輸送膜の供給側面に供給される原料ガスの供給温度等の温度範囲の上限温度より高ければ問題ない。尚、本促進輸送膜を構成する親水性多孔膜等についても、同様の温度範囲での耐性が求められることは言うまでもない。尚、本促進輸送膜が100℃未満の温度下で使用される場合には、CO
2水和反応触媒は必ずしも100℃以上の高温下で触媒活性を有している必要はない。斯かる場合、CO
2水和反応触媒が触媒活性を呈する温度範囲の下限値は、本促進輸送膜の使用温度範囲に応じて、100℃未満であるのが好ましい。
【0133】
〈3〉上記第1実施形態では、本促進輸送膜は、本共重合体とCO
2キャリアとCO
2水和反応触媒を含む塗工液を、親水性PTFE多孔膜に塗布して作製したが、当該作製方法以外の作製方法で作製しても構わない。例えば、CO
2キャリア及びCO
2水和反応触媒を含まない本共重合体のゲル膜を形成した後に、CO
2キャリア及びCO
2水和反応の触媒を含む水溶液を含侵させて作製しても構わない。更に、塗工液を塗布する多孔膜も、親水性の多孔膜に限定されるものではない。
【0134】
〈4〉上記第1実施形態では、本促進輸送膜は、疎水性PTFE多孔膜/親水性PTFE多孔膜に担持された分離機能膜/疎水性PTFE多孔膜よりなる3層構造としたが、本促進輸送膜の支持構造は、必ずしも当該3層構造に限定されない。例えば、疎水性PTFE多孔膜/親水性PTFE多孔膜に担持された分離機能膜よりなる2層構造でも構わない。更には、親水性PTFE多孔膜に担持された分離機能膜よりなる単層構造でも構わない。また、上記第1実施形態では、分離機能膜が親水性PTFE多孔膜に担持される場合を説明したが、分離機能膜が疎水性PTFE多孔膜に担持される構成であっても構わない。
【0135】
〈5〉上記第2実施形態では、本促進輸送膜を用いたCO
2分離装置の一応用例として、CO
2透過型メンブレンリアクターについて説明したが、本促進輸送膜を用いたCO
2分離装置は、メンブレンリアクター以外の水素製造や尿素製造等の大規模プラントの脱炭酸工程にも利用することが可能であり、更には、火力発電所や製鉄所等の排ガスからのCO
2分離、天然ガス精製時のCO
2の分離等の水素製造プロセス以外の用途にも適用可能であり、上記実施形態で例示した応用例に限定されるものではない。また、本促進輸送膜に供給される供給側ガス(原料ガス)は、上記各実施形態で例示した混合ガスに限定されるものではない。
【0136】
〈6〉上記各実施形態において例示した、本促進輸送膜の組成における各成分の混合比率、膜の各部の寸法等は、本発明の理解の容易のための例示であり、本発明はそれらの数値のCO
2促進輸送膜に限定されるものではない。