特許第6294376号(P6294376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294376フレキシブルプリント基板用銅箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器
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  • 特許6294376-フレキシブルプリント基板用銅箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294376
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板用銅箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20180305BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20180305BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20180305BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 B
   H05K1/09 A
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630Z
   !C22F1/00 660Z
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-63232(P2016-63232)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-141501(P2017-141501A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-20758(P2016-20758)
(32)【優先日】2016年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂東 慎介
(72)【発明者】
【氏名】冠 和樹
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−068484(JP,A)
【文献】 特開2013−060651(JP,A)
【文献】 特開2009−097075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
C22F 1/08
H05K 1/03, 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.0質量%以上のCu、残部不可避的不純物からなる銅箔であって、
平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ引張強度が235〜290MPa
JIS P 8115に基づくMIT耐折回数(往復折曲げ回数、ただし、折り曲げクランプのRは0.38、荷重は500g)が75〜129であるフレキシブルプリント基板用銅箔。
【請求項2】
JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅又はJIS−H3100(C1011)の無酸素銅からなる請求項1に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
【請求項3】
さらに、P、Ti、Sn、Ni、Be、Zn、In及びMgの群から選ばれる1種以上の添加元素を合計で0.003〜0.825質量%含有してなる請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
【請求項4】
300℃で30分間の熱処理したときの前記平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ前記引張強度が235〜290MPa、前記MIT耐折回数が75〜129である請求項1〜3のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
【請求項5】
前記銅箔の片面に、厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを積層してなる銅張積層体を、曲げ半径0.05mmで前記銅箔が外側になるように180度密着曲げし、その後に折り曲げ部を0度に戻す試験を3回繰り返した後、前記銅箔を200倍で観察したときに亀裂が視認されない請求項1〜4のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板用銅箔と、樹脂層とを積層してなる銅張積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の銅張積層体を用い、前記銅箔に回路を形成してなるフレキシブルプリント基板。
【請求項8】
前記回路のL/Sが40/40〜15/15(μm/μm)である請求項7に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のフレキシブルプリント基板を用いた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルプリント基板等の配線部材に用いて好適な銅箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブル配線板、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(フレキシブル配線板、以下、「FPC」と称する)はフレキシブル性を有するため、電子回路の折り曲げ部や可動部に広く使用されている。例えば、HDDやDVD及びCD−ROM等のディスク関連機器の可動部や、折りたたみ式携帯電話機の折り曲げ部等にFPCが用いられている。
FPCは銅箔と樹脂とを積層したCopper Clad Laminate(銅張積層体、以下CCLと称する)をエッチングすることで配線を形成し、その上をカバーレイと呼ばれる樹脂層によって被覆したものである。カバーレイを積層する前段階で、銅箔とカバーレイとの密着性を向上するための表面改質工程の一環として、銅箔表面のエッチングが行われる。また、銅箔の厚みを低減して屈曲性を向上させるため、減肉エッチングを行う場合もある。
【0003】
ところで、電子機器の小型、薄型、高性能化に伴い、これら機器の内部にFPCを高密度で実装することが要求されているが、高密度実装を行うためには、小型化した機器の内部にFPCを折り曲げて収容する、つまり高い折り曲げ性が必要となる。
一方、IPC屈曲性に代表される高サイクル屈曲性を改善した銅箔が開発されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-100887号公報
【特許文献2】特開2009-111203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようにFPCを高密度で実装するためには、MIT耐折性に代表される折り曲げ性の向上が必要であり、従来の銅箔では折り曲げ性の改善が十分とはいえないという問題がある。
又、電子機器の小型、薄型、高性能化に伴い、FPCの回路幅、スペース幅も20〜30μm程度に微細化しており、エッチングにより回路を形成する時にエッチングファクタや回路直線性が劣化し易くなるという問題があり、この解決も要求されている。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、折り曲げ性及びエッチング性に優れたフレキシブルプリント基板用銅箔、それを用いた銅張積層体、フレキシブルプリント基板、及び電子機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、銅箔の再結晶後の結晶粒を微細化することにより、強度を高めて折り曲げ性を向上できることを見出した。これは、ホールペッチ則により結晶粒を微細化するほど強度が高くなり、折り曲げ性も高くなるからである。但し、結晶粒を微細化し過ぎると強度が高くなり過ぎて曲げ剛性が大きくなり、スプリングバックが大きくなってフレキシブルプリント基板用途に適さない。従って、結晶粒径の範囲をも規定した。
又、結晶粒径を、近年のFPCの20〜30μm程度の回路幅のおよそ1/10程度に微細化することにより、エッチングにより回路を形成する時のエッチングファクタや回路直線性をも改善することができる。
【0007】
すなわち、本発明のフレキシブルプリント基板用銅箔は、99.0質量%以上のCu、残部不可避的不純物からなる銅箔であって、平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ引張強度が235〜290MPa、JIS P 8115に基づくMIT耐折回数(往復折曲げ回数、ただし、折り曲げクランプのRは0.38、荷重は500g)が75〜129である。
【0008】
本発明のフレキシブルプリント基板用銅箔において、JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅又はJIS−H3100(C1011)の無酸素銅からなることが好ましい。
さらに、P、Ti、Sn、Ni、Be、Zn、In及びMgの群から選ばれる1種以上の添加元素を合計で0.003〜0.825質量%含有してなることが好ましい。
300℃で30分間の熱処理したときの前記平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ前記引張強度が235〜290MPa、前記MIT耐折回数が75〜129であることが好ましい。
前記銅箔の片面に、厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを積層してなる銅張積層体を、曲げ半径0.05mmで前記銅箔が外側になるように180度密着曲げし、その後に折り曲げ部を0度に戻す試験を3回繰り返した後、前記銅箔を200倍で観察したときに亀裂が視認されないことが好ましい。


【0009】
本発明の銅張積層体は、前記フレキシブルプリント基板用銅箔と、樹脂層とを積層してなる。
【0010】
本発明のフレキシブルプリント基板は、前記銅張積層体を用い、前記銅箔に回路を形成してなる。
前記回路のL/Sが40/40〜15/15(μm/μm)であることが好ましい。なお、回路のL/S(ラインアンドスペース)とは、回路を構成する配線の幅(L:ライン)と、隣り合う配線の間隔(S:スペース)の比である。Lは回路中のLの最小値を採用し、Sは回路中のSの最小値を採用する。
なお、L及びSは15〜40μmであればよく、両者が同一の値である必要はない。例えば、L/S=20.5/35、35/17などの値をとることもできる。
【0011】
本発明の電子機器は、前記フレキシブルプリント基板を用いてなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、折り曲げ性及びエッチング性に優れたフレキシブルプリント基板用銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】CCLの折り曲げ性試験方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る銅箔の実施の形態について説明する。なお、本発明において%は特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0015】
<組成>
本発明に係る銅箔は、99.0質量%以上のCu、残部不可避的不純物からなる。
上述のように、本発明においては銅箔の再結晶後の結晶粒を微細化することにより、強度を高めて折り曲げ性を向上させている。
但し、上記した純銅系の組成の場合、結晶粒の微細化が困難であるため、冷間圧延時の初期に一回のみ再結晶焼鈍を行い、以後は再結晶焼鈍を行わないことで、冷間圧延により加工ひずみを大量に導入して動的再結晶を生じさせて結晶粒の微細化を実現できる。
【0016】
又、冷間圧延における加工ひずみを大きくするには、最終冷間圧延(焼鈍と圧延を繰り返す工程全体の中で、最後の焼鈍後に行う仕上げ圧延)での加工度として、η=ln(最終冷間圧延前の板厚/最終冷間圧延後の板厚)=3.5〜7.5とすると好ましい。
ηが3.5未満の場合、加工時のひずみの蓄積が小さく、再結晶粒の核が少なくなるため、再結晶粒が粗大になる傾向にある。ηが7.5より大きい場合、ひずみが過剰に蓄積されて結晶粒成長の駆動力となり、結晶粒が粗大になる傾向にある。η=5.5〜7.5とするとさらに好ましい。
【0017】
又、結晶粒を微細化させる添加元素として、上記組成に対し、P、Ti、Sn、Ni、Be、Zn、In及びMgの群から選ばれる1種以上の添加元素を合計で0.003〜0.825質量%含有すると、結晶粒の微細化をより容易に実現できる。これらの添加元素は、冷間圧延時に転位密度を増加させるので、結晶粒の微細化をより容易に実現できる。又、冷間圧延時の初期に一回のみ再結晶焼鈍を行い、以後は再結晶焼鈍を行わないようにすれば、冷間圧延により加工ひずみを大量に導入して動的再結晶を生じさせて結晶粒の微細化をさらに確実に実現できる。
上記添加元素の合計含有量が0.003質量%未満であると結晶粒の微細化が困難になり、0.825質量%を超えると導電率が低下することがある。又、再結晶温度が上昇して樹脂と積層した際に再結晶せず、強度が高くなり過ぎて銅箔及びCCLの折り曲げ性が劣化する場合がある。
【0018】
なお、銅箔の再結晶後の結晶粒を微細化する方法としては、添加元素を加える方法のほかに、重合圧延をする方法、電解銅箔にて電析をする際にパルス電流を用いる方法、または電解銅箔にて電解液にチオ尿素やニカワなどを適量添加する方法が挙げられる。
【0019】
本発明に係る銅箔を、JIS−H3100(C1100)に規格するタフピッチ銅(TPC)又はJIS−H3100(C1011)の無酸素銅(OFC)からなる組成としてもよい。
又、上記TPC又はOFCに対し、上記した添加元素を含有させてなる組成としてもよい。
【0020】
<平均結晶粒径>
銅箔の平均結晶粒径が0.5〜4.0μmである。平均結晶粒径が0.5μm未満であると、強度が高くなり過ぎて曲げ剛性が大きくなり、スプリングバックが大きくなってフレキシブルプリント基板用途に適さない。平均結晶粒径が4.0μmを超えると、結晶粒の微細化が実現されず、強度を高めて折り曲げ性を向上させることが困難になると共に、エッチングファクタや回路直線性が劣化してエッチング性が低下する。
平均結晶粒径の測定は、誤差を避けるため、箔表面を100μm×100μmの視野で3視野以上を観察して行う。箔表面の観察は、SIM(Scanning Ion Microscope)またはSEM(Scanning Electron Microscope)を用い、JIS H 0501に基づいて平均結晶粒径を求めることができる。
ただし、双晶は、別々の結晶粒とみなして測定する。
【0021】
<引張強度(TS)>
銅箔の引張強度が235〜290MPaである。上述のように、結晶粒を微細化することにより引張強度が向上する。引張強度が235MPa未満であると、強度を高めて折り曲げ性を向上させることが困難になる。引張強度が290MPaを超えると、強度が高くなり過ぎて曲げ剛性が大きくなり、スプリングバックが大きくなってフレキシブルプリント基板用途に適さない。
引張強度は、IPC-TM650に準拠した引張試験により、試験片幅12.7mm、室温(15〜35℃)、引張速度50.8mm/min、ゲージ長さ50mmで、銅箔の圧延方向(又はMD方向)と平行な方向に引張試験した。
【0022】
<300℃で30分間の熱処理>
銅箔を300℃で30分間の熱処理後の平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ引張強度が235〜290MPaであってもよい。
本発明に係る銅箔はフレキシブルプリント基板に用いられ、その際、銅箔と樹脂とを積層したCCLは、200〜400℃で樹脂を硬化させるための熱処理を行うため、再結晶によって結晶粒が粗大化する可能性がある。
従って、樹脂と積層する前後で、銅箔の平均結晶粒径及び引張強度が変わる。そこで、本願の請求項1に係るフレキシブルプリント基板用銅箔は、樹脂と積層後の銅張積層体になった後の、樹脂の硬化熱処理を受けた状態の銅箔を規定している。
一方、本願の請求項4に係るフレキシブルプリント基板用銅箔は、樹脂と積層する前の銅箔に上記熱処理を行ったときの状態を規定している。この300℃で30分間の熱処理は、CCLの積層時に樹脂を硬化熱処理させる温度条件を模したものである。
【0023】
本発明の銅箔は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、銅インゴットに上記添加物を添加して溶解、鋳造した後、熱間圧延し、冷間圧延と焼鈍を行い、上述の最終冷間圧延を行うことにより箔を製造することができる。
【0024】
<銅張積層体及びフレキシブルプリント基板>
又、本発明の銅箔に(1)樹脂前駆体(例えばワニスと呼ばれるポリイミド前駆体)をキャスティングして熱をかけて重合させること、(2)ベースフィルムと同種の熱可塑性接着剤を用いてベースフィルムを本発明の銅箔にラミネートすること、により、銅箔と樹脂基材の2層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。又、本発明の銅箔に接着剤を塗着したベースフィルムをラミネートすることにより、銅箔と樹脂基材とその間の接着層の3層からなる銅張積層体(CCL)が得られる。これらのCCL製造時に銅箔が熱処理されて再結晶化する。
これらにフォトリソグラフィー技術を用いて回路を形成し、必要に応じて回路にめっきを施し、カバーレイフィルムをラミネートすることでフレキシブルプリント基板(フレキシブル配線板)が得られる。
【0025】
従って、本発明の銅張積層体は、銅箔と樹脂層とを積層してなる。又、本発明のフレキシブルプリント基板は、銅張積層体の銅箔に回路を形成してなる。
樹脂層としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられるがこれに限定されない。また、樹脂層として、これらの樹脂フィルムを用いてもよい。
樹脂層と銅箔との積層方法としては、銅箔の表面に樹脂層となる材料を塗布して加熱成膜してもよい。又、樹脂層として樹脂フィルムを用い、樹脂フィルムと銅箔との間に以下の接着剤を用いてもよく、接着剤を用いずに樹脂フィルムを銅箔に熱圧着してもよい。但し、樹脂フィルムに余分な熱を加えないという点からは、接着剤を用いることが好ましい。
樹脂層としてフィルムを用いた場合、このフィルムを、接着剤層を介して銅箔に積層するとよい。この場合、フィルムと同成分の接着剤を用いることが好ましい。例えば、樹脂層としてポリイミドフィルムを用いる場合は、接着剤層もポリイミド系接着剤を用いることが好ましい。尚、ここでいうポリイミド接着剤とはイミド結合を含む接着剤を指し、ポリエーテルイミド等も含む。
【0026】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。又、本発明の作用効果を奏する限り、上記実施形態における銅合金がその他の成分を含有してもよい。
例えば、銅箔の表面に、粗化処理、防錆処理、耐熱処理、またはこれらの組み合わせによる表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。純度99.9%以上の電気銅に、表1に示す元素をそれぞれ添加し、Ar雰囲気で鋳造して鋳塊を得た。鋳塊中の酸素含有量は15ppm未満であった。この鋳塊を900℃で均質化焼鈍後、熱間圧延して厚さ30mmとした後、14mmまで冷間圧延を行った後、1回の焼鈍を行った後に表面を面削して、表1に示す加工度ηで最終冷間圧延をして最終厚さ17μmの箔を得た。得られた箔に300℃×30分の熱処理を加え、銅箔サンプルを得た。
【0028】
<A.銅箔サンプルの評価>
1.導電率
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、JIS H 0505に基づいて4端子法により、25℃の導電率(%IACS)を測定した。
導電率が75%IACS以上であれば導電性が良好である。
2.粒径
上記熱処理後の各銅箔サンプル表面をSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて観察し、JIS H 0501に基づいて平均粒径を求めた。ただし、双晶は、別々の結晶粒とみなして測定を行った。測定領域は、表面の100μm ×100μmとした。
【0029】
3.銅箔の折り曲げ性(MIT耐折性)
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、JIS P 8115に基づいてMIT耐折回数(往復折曲げ回数)を測定した。ただし、折り曲げクランプのRは0.38、荷重は500gとした。
MIT耐折回数が75回以上であれば銅箔の折り曲げ性が良好である。
4.銅箔の引張強度
上記熱処理後の各銅箔サンプルについて、IPC-TM650に準拠した引張試験により上記条件で引張強度を測定した。
【0030】
<B.CCLの評価>
5.CCLの折り曲げ性
最終冷間圧延後で上記熱処理を行わない銅箔サンプル(熱処理前の銅箔)の片面に銅粗化めっきを行った。銅粗化めっき浴としてCu:10-25g/L,硫酸:20-100g/Lの組成を用い、浴温20-40℃、電流密度30-70A/dm2で1-5秒電気めっきし、銅付着量を20g/dm2とした。
銅箔サンプルの粗化めっき面にポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製の製品名「ユーピレックスVT」、厚み25μm)を積層し、加熱プレス(4MPa)で300℃×30分の熱処理を加えて貼り合せ、CCLサンプルを得た。折り曲げ試験に使用したCCLサンプルの寸法は圧延方向(長手方向)が50mm、幅方向が12.7mmである。
【0031】
図1に示すように、このCCLサンプル30を銅箔面が外側になるようにして0.1mm厚の板20(JIS−H3130(C1990)に規格するチタン銅板)を挟み込み、長手方向の中央で2つ折りし、圧縮試験機10(島津製作所社製の製品名「オートグラフAGS」)の下型10aと上型10bの間に配置した。
この状態で上型10bを下げてCCLサンプル30を2つ折り部分で板20に密着するように折り曲げた(図1(a))。直ちにCCLサンプル30を圧縮試験機10から取り出し、2つ折り部分の「横向きVの字」状の折り曲げ先端部30sを、マイクロスコープ(キーエンス製社製の製品名「ワンショット3D測定マイクロスコープVR-3000」を用いて、倍率200倍で銅箔面の割れの有無を目視で確認した。なお、折り曲げ先端部30sは曲げ半径0.05mmの180度密着曲げに相当する。
割れが確認された場合は試験を終了し、図1(a)の圧縮を行った回数をCCLの折り曲げ回数とした。
【0032】
割れが確認されなかった場合は、図1(b)に示すように、折り曲げ先端部30sが上向きになるようにして、CCLサンプル30を圧縮試験機10の下型10aと上型10bの間に配置し、この状態で上型10bを下げて折り曲げ先端部30sを開いた。
そして、図1(a)の折り曲げを再度行い、同様に折り曲げ先端部30sの割れの有無を目視で確認した。以下、同様に図1(a)〜(b)の工程を繰り返し、折り曲げ回数を決定した。
CCLの折り曲げ回数が3回以上であればCCLの折り曲げ性が良好である。
【0033】
6.エッチング性
上記CCLサンプルの銅箔部分にL/S(ライン/スペース)=40/40μm、35/35μm、25/25μm、 20/20μm、および15/15μmの短冊状の回路を形成した。比較として、市販の圧延銅箔(タフピッチ銅箔)と同様に回路を形成した。そして、エッチングファクタ(回路の(エッチング深さ/上下の平均エッチング幅)で表される比)、及び回路の直線性をマイクロスコープで目視判定し、以下の基準で評価した。評価が○であれば良い。
○:市販の圧延銅箔に比べてエッチングファクタ及び回路の直線性が良好
△:市販の圧延銅箔に比べてエッチングファクタ及び回路の直線性が同等
×:市販の圧延銅箔に比べてエッチングファクタ及び回路の直線性が劣る
【0034】
得られた結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、銅箔の平均結晶粒径が0.5〜4.0μm、かつ引張強度が235〜290MPaである各実施例の場合、折り曲げ性及びエッチング性に優れていた。なお、実施例1は最終冷間圧延の最後の1パスで重合圧延を行った。
【0037】
一方、最終冷間圧延での加工度ηが3.5未満である比較例1、4の場合、銅箔の平均結晶粒径が4.0μmを超え、引張強度が235MPa未満となり、銅箔及びCCLの折り曲げ性に劣った。なお、比較例4の場合、銅箔の平均結晶粒径が4.0μmよりやや大きい4.5μmのため、エッチング性は良好であった。
【0038】
添加元素の合計含有量が下限値未満である比較例3の場合、添加元素による再結晶粒の微細化が十分でなく、銅箔の平均結晶粒径が4.0μmを大幅に超えて粗大化し、引張強度が235MPa未満となり、銅箔及びCCLの折り曲げ性及びエッチング性に劣った。添加元素の合計含有量が上限値を超えた比較例2の場合、導電率が劣った。
添加元素の合計含有量が上限値を超えた比較例5の場合、再結晶温度が高くなって300℃の熱処理では再結晶せず、導電率が低下すると共に、引張強度が290MPaを超えて高くなった。そのため、銅箔及びCCLの折り曲げ性が大幅に劣化した。
図1