特許第6294766号(P6294766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294766
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】銅合金材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20180305BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20180305BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22F1/08 C
   C22F1/08 P
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684A
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 692Z
   !C22F1/00 691Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-113171(P2014-113171)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-227481(P2015-227481A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】金子 秀雄
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−250134(JP,A)
【文献】 特開2004−353069(JP,A)
【文献】 特開2010−106363(JP,A)
【文献】 特開平07−054079(JP,A)
【文献】 特開2015−183263(JP,A)
【文献】 特開2011−219860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
C22F 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを4.50〜7.00質量%、Siを0.90〜1.90質量%、Crを0.05〜0.30質量%およびMgを0.05〜0.20質量%含有し、さらにSnを0.00〜1.50質量%、Agを0.00〜0.30質量%、Mnを0.00〜0.50質量%、Feを0.00〜0.20質量%およびCoを0.00〜2.00質量%のうち1種または2種以上を総量で0.00〜2.00質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、
粒径0.5μm以上の金属間化合物が32000個/mm以下の密度で前記銅合金材の母相中に存在し、
引張強さが1200MPa以上で、且つ導電率が20%IACS以上であることを特徴とする銅合金材。
【請求項2】
Snを0.05〜1.50質量%、Agを0.01〜0.30質量%、Mnを0.01〜0.50質量%、Feを0.01〜0.20質量%およびCoを0.05〜2.00質量%のうち1種または2種以上を総量で0.01〜2.00質量%含有する、請求項1に記載の銅合金材。
【請求項3】
引張強さが1400MPa以上である、請求項1または2に記載の銅合金材。
【請求項4】
前記銅合金材が線材である、請求項1乃至3までのいずれか1項に記載の銅合金材。
【請求項5】
請求項1乃至4までのいずれか1項に記載の銅合金材の製造方法であって、
銅合金を、950℃以上の加熱温度で加熱した後、直ちに、前記加熱温度から300℃までの温度範囲にわたって30℃/秒以上の冷却速度で冷却する溶体化処理を施し、
次いで、80%以上の加工率で第1冷間加工を施し、
引き続き、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下の第1時効熱処理を行い、
その後、さらに第2冷間加工を施す場合には、前記第2冷間加工後に、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下の第2時効熱処理を施すことを特徴とする銅合金材の製造方法。
【請求項6】
前記第1時効熱処理後、70%以上の加工率の前記第2冷間加工と、200〜600℃で0.5時間以上12時間以下の前記第2時効熱処理とを1回以上繰り返して行う、請求項5に記載の銅合金材の製造方法。
【請求項7】
前記溶体化処理の加熱が、熱間押出加工にて行なわれる、請求項5または6に記載の銅合金材の製造方法。
【請求項8】
前記溶体化処理の加熱が、通電加熱にて行なわれる、請求項5または6に記載の銅合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子機器用部品などの使用に好適な銅合金線材または銅合金棒材のような銅合金材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や高性能化に伴い、様々な電子機器用部品が開発されている。このような電子機器用部品としては、例えば、リードやコネクタ、溶接用電極などの導電性材料が挙げられ、これらの材料には、高強度且つ高導電性の特性が要求される。高強度且つ高導電性の要求を満たす材料として、これまで銅にベリリウムを添加したベリリウム銅合金が多く使用されていた。また、光ピックアップ装置のサスペンションワイヤの線材でも、ベリリウム銅が使用されていた。
【0003】
しかしながら、ベリリウム銅は高価であるとともに、製造過程において発生するベリリウム蒸気や微粉末の吸引による健康被害を懸念する声が近年高まっていることから、代替材料が望まれていた。そのような代替材料として、例えば、特許文献1〜4に示されるような、銅にニッケルとシリコンを添加した析出強化型銅合金であるコルソン合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4177266号公報
【特許文献2】特開2012−46801号公報
【特許文献3】国際公開2011/125153号
【特許文献4】国際公開2009−123136号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コルソン合金からなる従来の銅合金線材としては、例えば本出願人が提案した特許文献1および2が挙げられる。特許文献1には、Niを1.0〜4.5質量%、およびSiを0.2〜1.1質量%の範囲で含有する耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材が記載されている。しかしながら、特許文献1に開示されている本発明例は、いずれもNi含有量が4.5質量%未満であり、1200MPa以上の高い引張強さが得られている銅合金線材もごく少数存在するだけであるため、特許文献1では、銅合金材中に含有するNi量を4.5質量%以上の高濃度に限定する銅合金材を対象とするものではない。
【0006】
また、特許文献2には、Siを0.6〜1.2質量%、Snを0.2〜1.5質量%、およびNiを含有し、Ni+Si+Snのトータル含有率3.7質量%以上の範囲で含有する高強度銅合金線材が記載され、特許文献2の実施例である本発明1〜68では、3.0〜4.5質量%の範囲内で変化させて作製した種々の銅合金線材について、引張強さおよび応力緩和特性について検討されている。しかしながら、特許文献2では、銅合金材中に含有するNi量を4.5質量%以上と高濃度に限定して、高強度化を図ることは意図してなく、加えて、導電率については考慮していない。
【0007】
さらに、特許文献3、4には、Niを0.4〜6.0質量%の範囲で含有し、合金中に析出するNi−Si金属間化合物からなる大粒子と小粒子の個数密度の適正化を図った電子材料用銅合金が記載されている。しかしながら、特許文献3、4に記載された発明は、いずれもNi−Si金属間化合物の分布状態の制御を、適当な熱処理を施すだけで行なうことにより、強度、導電率及び曲げ加工性の向上を図った銅合金材を開発したものであって、得られた銅合金材の引張強度は、いずれも1200MPa未満と低く、ベリリウム銅合金から製造される高強度の銅合金材に匹敵するものではなく、十分な高強度化が図れていない。
【0008】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み、4.50質量%以上の高濃度のNi、および0.90質量%以上と高濃度のSiを含有させる銅合金素材を用い、1200MPa以上の高引張強さと、20%IACS以上の高導電率との双方を兼ね備える銅合金材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を進めた結果、Ni−Si金属間化合物の析出による析出強化を利用して高強度化を図るため、4.50質量%以上の高濃度のNi、および0.90質量%以上と高濃度のSiを含有させることとし、この場合、時効熱処理の際に、粒界からNi−Si金属間化合物の析出が開始し、粒内に析出領域が拡がっていく不連続析出、いわゆる粒界反応型析出が生じやすくなる結果、高濃度のNiおよびSiを含有させても、所期したほどの引張強さが得られない場合があることが判明した。このため、本発明者らがさらに検討を進めたところ、高濃度のNiおよびSiを含有させるだけではなく、さらにCrおよびMgをも含有させた銅合金素材を用い、溶体化処理、冷間加工および時効熱処理の適正化を図ることによって、時効熱処理の際の、粒界反応型析出を抑制することができ、さらには、銅合金材の母相に存在し、強度にほとんど寄与しない一定の粒径範囲内にあるNi−Si化合物のような金属間化合物の密度(存在割合)の適正化を図ることができることを見出した。その結果、1200MPa以上の高引張強さと、20%IACS以上の高導電率の双方を兼ね備える銅合金材およびその製造方法を提供できる。本発明は、この知見に基づき完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)Niを4.50〜7.00質量%、Siを0.90〜1.90質量%、Crを0.05〜0.30質量%およびMgを0.05〜0.20質量%含有し、さらにSnを0.00〜1.50質量%、Agを0.00〜0.30質量%、Mnを0.00〜0.50質量%、Feを0.00〜0.20質量%およびCoを0.00〜2.00質量%のうち1種または2種以上を総量で0.00〜2.00質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、粒径0.5μm以上の金属間化合物が32000個/mm以下の密度で前記銅合金材の母相中に存在し、引張強さが1200MPa以上で、且つ導電率が20%IACS以上であることを特徴とする銅合金材。
【0011】
(2)Snを0.05〜1.50質量%、Agを0.01〜0.30質量%、Mnを0.01〜0.50質量%、Feを0.01〜0.20質量%およびCoを0.05〜2.00質量%のうち1種または2種以上を総量で0.01〜2.00質量%含有する上記(1)に記載の銅合金材。
【0012】
(3)引張強さが1400MPa以上である上記(1)または(2)に記載の銅合金材。
【0013】
(4)前記銅合金材が、線材である上記(1)、(2)または(3)に記載の銅合金材。
【0014】
(5)上記(1)、(2)、(3)または(4)に記載の銅合金材の製造方法であって、銅合金を、950℃以上の加熱温度で加熱した後、直ちに、前記加熱温度から300℃までの温度範囲にわたって30℃/秒以上の冷却速度で冷却する溶体化処理を施し、次いで、80%以上の加工率で第1冷間加工を施し、引き続き、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下の第1時効熱処理を行い、その後、さらに第2冷間加工を施す場合には、前記第2冷間加工後に、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下の第2時効熱処理を施すことを特徴とする銅合金材の製造方法。
【0015】
(6)前記第1時効熱処理後、70%以上の加工率の前記第2冷間加工と、200〜600℃で0.5時間以上12時間以下の前記第2時効熱処理とを1回以上繰り返して行う上記(5)に記載の銅合金材の製造方法。
【0016】
(7)前記溶体化処理の加熱が、熱間押出加工にて行なわれる上記(5)または(6)に記載の銅合金材の製造方法。
【0017】
(8)前記溶体化処理の加熱が、通電加熱にて行なわれる上記(5)または(6)に記載の銅合金材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、4.50質量%以上の高濃度のNi、および0.90質量%以上と高濃度のSiを含有させるとともに、CrおよびMgをも含有させ、さらには銅合金材の母相に存在する強度にほとんど寄与しない一定の粒径範囲内にある金属間化合物の密度の適正化を図ることによって、1200MPa以上の高引張強さと、20%IACS以上の高導電率との双方を兼ね備える銅合金材の提供が可能になった。
【0019】
また、本発明によれば、溶体化処理における加熱温度と冷却速度、冷間加工および時効熱処理の適正化を図ることで、上述した高引張強さと高導電率との双方を兼ね備えた銅合金材の製造方法の提供が可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に従う代表的な銅合金材について、以下に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体的に説明するために用いた代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0021】
(合金成分)
ニッケル(Ni)とケイ素(Si)は、NiとSiの含有比を制御することにより母相中にNi−Si析出物(NiSi)を形成させて析出強化を行い銅合金の強度を向上させるために含有する元素である。Niの含有量は、4.50〜7.00質量%であり、好ましくは4.50〜6.00質量%である。Niの含有量が4.50質量%未満であると、その析出硬化量が小さいため所望とする強度を寄与させることができず、一方、Niの含有量が7.00質量%より多いと、鋳造時や熱処理(例えば、溶体化処理、時効熱処理、焼鈍処理)時に、強度上昇に寄与しない粗大な金属間化合物(例えば、Ni−Si化合物)の析出が多量に生じてしまう。この場合、Niの添加量に見合う強度を得ることができないばかりか、伸線加工性、曲げ加工性にも悪影響を与えることになる。
【0022】
Siは、上述したNiとともに、マトリックス中にNi−Si析出物(例えばNiSi)を形成させて析出強化を行い銅合金の強度を向上させるために含有する元素である。Siの含有量は、0.90〜1.90質量%であり、好ましくは1.10〜1.70質量%である。Siの含有量が0.90質量%未満であると、Niの添加量に見合う析出硬化量が少ないため、強度が不足する。一方、Si含有量が1.90質量%より多いと、鋳造時や熱処理(例えば、溶体化処理、時効処理、焼鈍処理)時に強度上昇に寄与しない粗大な金属間化合物(例えば、Ni−Si化合物)の析出が多量に生じてしまい、Siの添加量に見合う強度を得ることができないばかりか、伸線加工性、曲げ加工性にも悪影響を与えることになる。また、銅合金材の強度寄与のために、Siの含有量は、NiとSiの質量比(Ni/Si)で3.50〜4.30となるように調整するのが好ましい。
【0023】
クロム(Cr)は、強度や加工性を向上させる効果を有するだけではなく、本発明においては、特に粒界反応型析出の抑制効果を有する重要な元素である。粒界反応型析出は、マトリックス中の結晶粒径が大きい方が析出し易く、結晶粒径が小さいほど析出し難い。Crは、Siと結合してCr−Si化合物を形成し、強度を上昇させるだけでなく、結晶粒径の粗大化を抑制する効果があり、粒界反応型析出を抑制する。また、Niとの化合物を形成せずに銅マトリックス中に残存するSiをトラップし、導電性を改善する効果もある。このような粒界反応型析出の抑制効果を有効に発揮させるため、Crは0.05質量%以上含有させることが必要である。しかしながら、Crの含有量を0.30質量%よりも多く含有させると、析出硬化能が低いCr−Si化合物を多く生成させることになり、これは、強度向上の観点から好ましくない。よって、Crの含有量は0.05〜0.30質量%とし、0.10〜0.20質量%とすることがより好ましい。
【0024】
マグネシウム(Mg)は、マトリックス中に固溶し強度を向上させ、耐クリープ特性を改善するだけではなく、本発明においては、Crと同様、特に粒界反応型析出の抑制効果を有する重要な元素で、マトリックスに固溶しているMgが粒界から進行する粒界反応型析出を抑制するものである。そのため、このような粒界反応型析出の抑制効果を有効に発揮させるため、Mgは0.05質量%以上含有させることが必要である。一方、Mgの含有量が0.20質量%より多いと、導電性が低下してしまう。よって、Mgの含有量は0.05〜0.20質量%とし、0.08〜0.15質量%とすることがより好ましい。なお、CrおよびMgの粒界反応型析出の抑制メカニズムが異なることから、2種の元素を含有させることで、粒界反応型析出の抑制に相乗効果が得られる。
【0025】
次に、任意の添加成分として、スズ(Sn)、銀(Ag)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)を含有する場合の含有量の範囲について説明する。これらの元素は、Cr、Mgと同様、強度や加工性を向上させるという点で類似の機能を有しているものであり、必要に応じて、Snを0.05〜1.50質量%、Agを0.01〜0.30質量%、Mnを0.01〜0.50質量%、Feを0.01〜0.20質量%およびCoを0.05〜2.00質量%のうち1種または2種以上を総量で0.01〜2.00質量%含有させることができる。
【0026】
Snは強度を向上させるとともに伸線等の加工性を改善する元素である。Snの含有量が0.05質量%未満であると十分な改善効果は現れず、一方、1.50質量%を超えて添加されると導電性が低下する傾向がある。したがって、Snの含有量は、0.05〜1.50質量%が好ましく、0.10〜1.00質量%であることがより好ましい。
【0027】
Agは耐熱性および強度を向上させると同時に、結晶粒の粗大化を阻止して強度を高める元素である。Agの含有量が0.01質量%未満では、高強度特性を寄与するためにはその効果が十分には得られず、一方、0.30質量%を超えて添加しても特性上に悪影響はないもののコスト高になる。これらの観点から、Agの含有量は、0.01〜0.30質量%が好ましく、0.10〜0.30質量%であることがより好ましい。
【0028】
Mnは強度を上昇させると同時に熱間加工性を改善する効果がある元素である。Mnの含有量が0.01質量%未満であるとその効果が十分には得られず、一方、0.50質量%を超えて添加しても、添加量に見合った効果が得られないばかりでなく、導電性を低下させる傾向がある。したがって、Mnの含有量は、0.01〜0.50質量%が好ましく、0.10〜0.35質量%であることがより好ましい。
【0029】
FeはCrと同様、Siと結合し、Fe−Si化合物を形成し、強度を上昇させる元素である。また、Niとの化合物を形成せずに銅マトリックス中に残存するSiをトラップし、導電性を改善する効果もある。これらの効果を発揮するため、Feの含有量は0.01質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Fe−Si化合物は、Cr−Si化合物と同様、析出硬化能が低いため、該化合物を多く生成させることは強度向上の観点から好ましくない。また、Feを0.20質量%を超えて含有すると曲げ加工性が低下する傾向がある。これらの観点から、Feの含有量は0.01〜0.20質量%とすることが好ましく、0.03〜0.15質量%とすることがより好ましい。
【0030】
CoはNiと同様にSiと化合物を形成し、強度を向上させる元素である。CoはNiに比べて高価であるため、本発明ではCu−Ni−Si系合金を利用しているが、コスト的に許容されるのであれば、Cu−Co−Si系やCu−Ni−Co−Si系を選択してもよい。Cu−Co−Si系は時効析出させた場合に、Cu−Ni−Si系より強度、導電性ともにわずかに向上するため、熱・電気の伝導性を重視する部材には有効である。また、Co−Si化合物は析出硬化能を有するため、耐クリープ特性も若干改善される傾向にある。これらの観点から、Coの含有量は、0.05〜2.00質量%とすることが好ましく、0.08〜1.50質量%であることがより好ましい。
【0031】
Sn、Ag、Mn、FeおよびCoを1種または2種以上含有させる場合には、所望とする特性に応じて適宜決定すればよいが、導電性、曲げ加工性の観点から、Sn、Ag、Mn、FeおよびCoのうち1種または2種以上を総量で0.01〜2.00質量%含有させることが好ましく、0.10〜1.60質量%含有させることがより好ましい。
【0032】
(銅合金材)
次に、本発明の銅合金材の特徴について説明する。銅にNiおよびSiが添加されたコルソン合金は、時効熱処理により、微細な析出物を合金内部に析出させて強化する時効硬化型合金である。このような微細な析出物として、例えば、NiとSiの異種金属が結合したNiSiなどの金属間化合物が挙げられる。本発明におけるコルソン合金では、NiおよびSiを高濃度で添加させることを前提としているため、溶体化処理での加熱を、これまで以上の温度で実施する必要があり、また、時効熱処理の際に粒界析出型反応が生じやすくなる。そのため、溶体化処理の加熱で必要とされる加熱温度を規定するとともに、粒界析出型反応を抑制するため、CrおよびMgを合金組成中の必須元素として添加する。さらに、溶体化処理の冷却過程においても、従来よりもNiSiなどの金属間化合物の析出が進行しやすいため、溶体化処理の冷却速度も適切に調整する必要がある。このような金属間化合物は、さまざまな大きさの粒子として析出するものの、粗大な析出物として析出する金属間化合物は、強度にほとんど寄与しないため、できる限り少なくさせることが望ましい。よって、本発明では、溶体化処理の条件の最適化を図り、かつ粒界析出型反応を抑制することで、強度にほとんど寄与しない一定の粒径の金属間化合物の析出を制御し、高強度の銅合金材を得るようにしたものである。
【0033】
(金属間化合物)
次に、本発明の銅合金の母相に残存する金属間化合物の粒径、および密度(存在割合)について説明する。本発明における金属間化合物としては、例えば、上述したような、NiとSiの異種金属が結合したNiSiなどの微細な析出物が挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明では、強度に寄与し得ない金属間化合物の粒径の下限値として、金属間化合物の粒径を0.5μm以上とする。これ以上の粒径を有する金属化合物は析出強化等の強化機構に寄与しにくいためである。つまり、強度に寄与しない0.5μm以上の粒径の金属間化合物の密度が多過ぎると、その後の時効熱処理によって強度が劣ってしまう。そのため、強度に悪影響を及ぼさない程度として、0.5μm以上の金属間化合物の密度は、32000個/mm以下とする。なお、析出物としての金属化合物の粒径は大きくとも5.0μm程度であることを考えると、それ以上の大きさの金属間化合物は、析出物ではなく未溶解物である可能性が高くなる。従って、本発明では、好ましくは粒径0.5〜5.0μmの析出物としての金属化合物の密度を32000個/mm以下とする。よって、本発明の組成を有する銅合金材において、銅合金材の母相に残存する金属間化合物の粒径、および密度の適正化を図ることにより、その後の時効熱処理による強度の低下を抑制することができる。
【0034】
次に、本発明における銅合金材の強度、導電性について述べる。本発明の銅合金材は、電子機器用部品などに好適に用いることができる。電子機器用部品として使用される材料には、高強度特性が要求される。従来用いられていたベリリウム銅合金の引張強度は、高いものでは1400MPa程度であるため、ベリリウム銅合金に匹敵する引張強度として、1200MPa以上であることが好ましく、1400MPa以上であることがより好ましい。
【0035】
本発明における銅合金材の導電性については、通電特性上、20%IACSを示せば十分ではあるが、放熱性に優れるという観点から導電性はより高い方が望ましい。特に、電子機器用部品への用途を考慮すると、導電性はより高い方が良い。そのため、本発明において、導電率は、20%IACS以上であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明における銅合金材の製造方法について説明する。本発明における銅合金材は、上述した組成のCu−Ni−Si系の銅合金を溶解鋳造して鋳塊とし、これを加熱した後、水中焼き入れによって冷却して所定の形状とする溶体化処理をし、次いで冷間加工をし、さらに時効熱処理を施すことで製造される。本発明における銅合金材は、例えば、ビレットの熱間押出、鋳塊の熱間鍛造、あるいは連続鋳造などのいずれの方法であっても製造することが可能であるが、これらに限定されるものではない。また、溶体化処理における加熱を、例えば、熱を加えながら材料を押出する熱間押出加工や、電気的に熱を加える通電加熱などの様々な加熱手段によって実施することが可能であるが、加工性の観点から、熱間押出加工が好ましい。
【0037】
本発明における銅合金材の製造において、溶体化処理における加熱温度は950℃以上である。この加熱温度を950℃以上とすることで、析出した金属間化合物を再固溶させることができる。また、これらの固溶状態を維持させるため、950℃以上の温度での加熱後、直ちに水中焼入れを行う必要があることから、本発明における加熱温度は、960℃〜980℃であることが好ましい。なお、本発明における加熱を、熱間押出加工により行う場合、熱間押出による加熱温度には、950℃以上で熱間押出ができる、押出前の加熱も前提に含むことができる。
【0038】
溶体化処理における水中焼入れでは、加熱後の銅合金を、加熱時の温度から300℃まで30℃/秒以上の冷却速度で冷却させる。加熱直後の前記冷却速度が遅いと、強度に寄与しない粗大なNi−Si化合物が多量に析出してしまい、その後の時効熱処理での析出硬化が十分に得られなくなる。また、一般的なナノオーダーの微細な析出物も生成してしまい、溶体化処理が不完全となり、望ましい強度を得られないばかりか、途中の冷間加工で断線が生じてしまう。よって、溶体化処理における冷却速度は、30℃/秒以上であり、50℃/秒以上であることがより好ましい。
【0039】
溶体化処理の後、銅合金を所望の形状とするために、適切な加工率で第1冷間加工を行う。この第1冷間加工の加工率が低すぎると、強度を高めることができないことから、第1冷間加工の加工率は、80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。また、この第1冷間加工による形状は、板状、線状、棒状など様々な形状にすることができ、特に限定されるものではなく、例えば、溶体化処理された銅合金材に、冷間加工として伸線加工を施すことで、線材の銅合金材が形成される。
【0040】
第1冷間加工の後、時効硬化のための第1時効熱処理が施される。ここで、該第1時効熱処理は、例えば、200〜600℃で0.5時間以上の範囲で適宜調整して行うことができ、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下が好ましく、300〜550℃で1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0041】
また、本発明における銅合金材の製造において、第1時効熱処理工程の後、さらに第2冷間加工を実施する場合には、当該第2冷間加工後に、さらに第2時効熱処理を施す。これにより、銅合金材を時効硬化させる回数が増えるため、より高強度な銅合金材を得ることができる。高強度特性を寄与するために、第2冷間加工の加工率は、70%以上であることが好ましい。また、第1冷間加工と同様、第2冷間加工による形状も、板状、線状、棒状など様々な形状にすることができ、特に限定されるものではない。第2時効熱処理は、例えば、200〜600℃で0.5時間以上の範囲で適宜調整して行うことができ、200〜600℃で0.5時間以上24時間以下が好ましく、300〜550℃で1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0042】
本発明における銅合金材の製造において、溶体化処理における加熱温度と、水中焼き入れにおける冷却速度の適正化を図ることで、強度に寄与しない一定の粒径の金属間化合物の生成が有効に制御され、高濃度のNi−Siが固溶し、時効硬化により高強度と高導電性の双方を備える銅合金材を得ることが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
第1表に示される実施例1のNo.1〜11で示される種々の本発明の範囲内にある組成のCu−Ni−Si系銅合金を、高周波溶解炉にて溶解し、各ビレットを鋳造した。次に、これらの各ビレットを加熱後、960℃で熱間押出した後、直ちに水中焼入れを行うことで、熱間押出による溶体化処理を施し、直径25mmの丸棒を得た。その際、熱間押出加工時の加熱温度(960℃)から300℃までの冷却速度は、110℃/秒で実施した。次いで、得られた丸棒を冷間加工により直径0.6mmの線材まで加工した後、400℃で2時間の時効熱処理を行った。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を下記の方法により調べた。その結果を第2表に示す。
【0045】
[1]断面観察
断面観察は、走査型電子顕微鏡で5000倍の観察倍率で、縦20.4μm、横15.3μm(約312μm)の矩形の視野で、0.5μm以上の化合物が1個以上観察される部位について、任意の3箇所の横断面を観察し、1mmあたりの個数に換算して3視野の平均値を求めた。また、1つの観察視野中に0.5μm以上の化合物が31個以上あったものについては、金属間化合物の密度が100000個/mm以上であるとした。
【0046】
[2]引張強さ
引張試験を、JIS Z 2241に準じて3本測定しその平均値(MPa)を示した。試験片は得られた線材から9A号の試験片で実施した。
【0047】
[3]導電率
四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各試料について2本ずつ測定し、その平均値(%IACS)を示した。
【0048】
(比較例1)
第1表に示される比較例1のNo.12〜17で示される種々の本発明の範囲外にある組成のCu−Ni−Si系銅合金を高周波溶解炉にて溶解し、各ビレットを鋳造した。次に、これらの各ビレットを加熱後、960℃で熱間押出した後、直ちに水中焼入れを行うことで、熱間押出による溶体化処理を施し、直径25mmの丸棒を得た。その際、熱間押出加工時の加熱温度(960℃)から300℃までの冷却速度は、110℃/秒で実施した。次いで、得られた丸棒を冷間加工により直径0.6mmの線材まで加工した後、400℃で2時間の時効熱処理を行った。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第2表に示す。
【0049】
(比較例2)
第1表のNo.1、5、7、10の組成の銅合金から作成したCu−Ni−Si系銅合金をそれぞれ1A、5A、7A、10Aとし、これらを高周波溶解炉にて溶解し、各ビレットを鋳造した。次に、これらの各ビレットを加熱後、900℃で熱間押出した後、直ちに水中焼入れを行うことで、熱間押出による溶体化処理を施し、直径25mmの丸棒を得た。その際、熱間押出加工時の加熱温度(900℃)から300℃までの冷却速度は、110℃/秒で実施した。次いで、得られた丸棒を冷間加工により直径0.6mmの線材まで加工した後、400℃で2時間の時効熱処理を行った。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第2表に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
第2表の結果から、実施例1における全ての銅合金材は、金属間化合物の密度が32000個/mm以下であり、引張強さが1280〜1415MPaの範囲であり、且つ導電率が29〜33%IACSの範囲である。したがって、本発明における銅合金材の組成およびその製造条件を満たすことで、高強度と高導電性の双方を備える銅合金材が得られることがわかる。
【0053】
一方、比較例1のNo.12における銅合金材は、Niの含有量が本発明の適正範囲よりも少なく、CrおよびMgを含有しない。そのため、析出硬化量が小さく、引張強度が1108MPaと低かった。また、比較例1のNo.13、15、16、17における銅合金材は、NiおよびSiの含有量は本発明の適正範囲内であるが、CrおよびMgの少なくとも1方を含有しないか、あるいは、CrおよびMgの少なくとも1方の含有量が、本発明の適正範囲外である。そのため、CrおよびMgの粒界反応型析出を抑制する効果が乏しく、時効熱処理を行なった際に粒界反応型析出が生じてしまい、0.5μm以上の金属間化合物が、1mm当り100000個以上存在し、また、時効熱処理を行なった際、NiおよびSiの含有量に見合った析出硬化が得られず、その結果、引張強度が1058〜1159MPaと低かった。また、比較例1のNo.14における銅合金材は、NiおよびSiの含有量がいずれも本発明の適正範囲よりも多く、そのため、強度上昇に寄与しない粗大なNi−Si化合物と強度上昇に寄与する微細なNi−Si化合物が多く生成し、その結果、冷間加工の際に断線が生じた。
【0054】
また、比較例2のNo.1A、5A、7A、10Aにおける銅合金材は、合金組成は本発明の適正範囲内であるが、熱間押出温度が900℃と本発明の適正範囲よりも低い。そのため、粗大なNi−Si析出物が生成し、0.5μm以上の金属間化合物が、1mm当り100000個以上存在した。このような粗大な析出物である金属間化合物が、銅合金材の母相中に非常に多く残存している状態で時効熱処理を行なっても、高強度特性を寄与させることができず、その結果、引張強度が1073〜1142MPaと低かった。
【0055】
(実施例2)
第1表に示されるNo.1、5、7、10の組成を有するCu−Ni−Si系銅合金を、実施例1に記載の製造条件にしたがって冷間加工まで実施し、直径0.9mmの線材を得た。このようにして得られた直径0.9mmの線材から出発して、通電加熱により960℃で加熱後、直ちに水中焼入れを行うことで、溶体化処理を施した。この溶体化処理時の加熱温度(960℃)から300℃までの冷却において、冷却速度を300℃/秒で実施したNo.1、5、7、10の組成を有するCu−Ni−Si系銅合金を、それぞれ1B、5B、7B、10Bとし、当該冷却速度を、50℃/秒で実施したCu−Ni−Si系銅合金を、それぞれ1C、5C、7C、10Cとした。次いで、これらの線材を伸線加工により直径0.3mmの線材まで加工した後、350℃で2時間の時効熱処理を行った。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第3表に示す。
【0056】
(比較例3)
第1表のNo.1、5、7、10の組成の銅合金から作成したCu−Ni−Si系銅合金をそれぞれ1D、5D、7D、10Dとして、溶体化処理時の加熱温度(960℃)から300℃までの冷却速度を、10℃/秒で実施した以外は、上記実施例2と同様に実施した。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第3表に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
第3表の結果から、実施例2における全ての銅合金材は、溶体化処理の冷却速度を50℃/秒以上で実施しており、金属間化合物の密度が3200〜22000個/mmの範囲と少なく、引張強さが1314〜1429MPaと高く、且つ導電率が25〜27%IACSと高かった。したがって、本発明における銅合金材の製造条件を満たすことで、高強度と高導電性の双方を備える銅合金材が得られることがわかる。
【0059】
一方、比較例3における銅合金材は、溶体化処理の冷却速度を10℃/sで実施したため、0.5μm以上の金属間化合物が、1mm当り100000個以上存在した。このような金属間化合物が、銅合金材の母相中に非常に多く残存している状態で時効熱処理を行なっても、高強度特性を寄与させることができないため、引張強さが1062〜1130MPaと低かった。
【0060】
(実施例3)
第1表のNo.1、5、7、10の組成の銅合金から作成したCu−Ni−Si系銅合金を、それぞれ1E、5E、7E、10Eとし、高周波溶解炉にて溶解し、各ビレットを鋳造した。次に、これらの各ビレットを加熱後、960℃で熱間押出した後、直ちに水中焼入れを行うことで溶体化処理を施し、直径25mmの丸棒を得た。その際、熱間押出加工時の加熱温度(960℃)から300℃までの冷却速度は、110℃/秒で実施した。次いで、得られた丸棒を冷間加工(第1冷間加工)により直径0.6mmの線材まで加工した後、300℃で6時間の時効熱処理(第1時効熱処理)を行った。その後、さらに直径0.3mmの線材になるまで冷間加工(第2冷間加工)し、再度、300℃で12時間の時効熱処理(第2時効熱処理)を行った。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第4表に示す。
【0061】
(比較例4)
第1表のNo.1、5、7、10の組成の銅合金から作成したCu−Ni−Si系銅合金をそれぞれ1F、5F、7F、10Fとして、第2冷間加工後に第2時効熱処理溶体化処理を行わないこと以外は、上記実施例3と同様に実施した。このようにして得られた線材について、[1]断面観察、[2]引張強さ、[3]導電率を上記の方法と同様に調べた。その結果を第4表に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
第4表の結果から、実施例3のように、第1時効熱処理工程の後、さらに第2冷間加工と、第2時効熱処理を行うことで、より高強度な銅合金材が得られ、特に、1450〜1560MPaの非常に高い引張強さを示す銅合金材が得られることがわかる。一方、比較例4は、第2冷間加工を行った後に第2時効熱処理を行わなかったため、導電性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、高濃度のNiおよびSiを含有させるとともに、CrおよびMgも含有させ、銅合金材の母相に残存する一定の粒径範囲内にある金属間化合物の密度の適正化を図ることによって、高強度と高導電性の双方を兼ね備えた銅合金材の提供が可能になった。
【0065】
また、本発明によれば、溶体化処理の際、加熱温度と水中焼入れにおける特定の温度範囲での冷却速度の適正化を図ることで、上述した高強度と高導電性の双方を兼ね備えた銅合金材の製造方法の提供が可能になった。
【0066】
本発明の銅合金材は、特に電子機器用部品に好適に用いられるものであり、例えば、リードやコネクタ、溶接用電極などの導電性材料に適用することができる。また、光ピックアップ装置のサスペンションワイヤの線材や、導電性を有する、コイルばね用線材等にも好適に用いることができる。