特許第6294829号(P6294829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294829耐コロナ性部材、耐コロナ性樹脂組成物及び樹脂成形品の耐コロナ性発現方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294829
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】耐コロナ性部材、耐コロナ性樹脂組成物及び樹脂成形品の耐コロナ性発現方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20180305BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20180305BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20180305BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08J5/00CEZ
   H01B3/00 A
   C08K3/34
   C08L81/02
   H01B3/30 J
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-543349(P2014-543349)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2013078852
(87)【国際公開番号】WO2014065377
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-236807(P2012-236807)
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】荒井 博樹
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0054763(US,A1)
【文献】 特開平08−302189(JP,A)
【文献】 特開2008−075049(JP,A)
【文献】 特開2007−254716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02,5/12− 5/22
C08K 3/34
C08L 1/00−101/16
H01B 3/00
H01B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、樹脂成分とマイカとを溶融混練して得られる耐コロナ性樹脂組成物を成形してなる耐コロナ性部材であって、
前記樹脂成分が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が1〜200μmであり、
前記マイカが、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するように配向している、耐コロナ性部材。
【請求項2】
前記マイカを、前記樹脂成分100質量部に対して25〜101質量部含む、請求項1に記載の耐コロナ性部材。
【請求項3】
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が40〜200μmである、請求項1又は2に記載の耐コロナ性部材。
【請求項4】
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が100〜200μmである、請求項1又は2に記載の耐コロナ性部材。
【請求項5】
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が109〜200μmである、請求項1又は2に記載の耐コロナ性部材。
【請求項6】
形状が、シート状、板状、筒状、又は被膜状であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の耐コロナ性部材。
【請求項7】
樹脂成分を含む樹脂組成物にマイカを添加することにより、該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の耐コロナ性を発現させる方法であって、
前記樹脂成分が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
成形後におけるマイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が40〜200μmとなるように前記マイカを添加し、かつ、
前記マイカを、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するように配向させる、
樹脂成形品の耐コロナ性発現方法。
【請求項8】
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が100〜200μmである、請求項に記載の耐コロナ性発現方法。
【請求項9】
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が109〜200μmである、請求項に記載の耐コロナ性発現方法。
【請求項10】
前記マイカの添加量が、前記樹脂成分100質量部に対して25〜101質量部である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の耐コロナ性発現方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナ放電に対する耐久性を有する耐コロナ性部材、当該耐コロナ性部材の成形に用いる耐コロナ性樹脂組成物、及び樹脂成形品の耐コロナ性発現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器類においては、筐体や内部の電気系統部品に種々の樹脂成形品が用いられている。電気機器類としては、一般的な家庭用電化製品や産業用電気製品のみならず、例えば、自動車、自動二輪車、又はトラックなどの車両内の電気系統を司る機器類も挙げられ、そのような機器類にも樹脂成形品が広く用いられている。車両内の電気機器類として、特にエンジンルーム内に配される機器に使用される樹脂成形品としては、イグニションコイル等に起因するコロナ放電に耐えることができるものが要求される。つまり、樹脂成形品がコロナ放電に晒されると、電気トリーと呼ばれる樹枝状の局部破壊が進行し樹脂成形品の寿命を縮めることになるがこれを未然に防ぐためである。
【0003】
一方、車両内の電気機器類に使用される樹脂としては、耐熱性、難燃性等が要求されるため、その要求性能を具備するポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)が好適に使用される。しかし、PAS樹脂のみでは耐コロナ性が不十分であり、樹脂成形品(組成物)に耐コロナ性を付与するための提案が種々なされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
特許文献1には、塩化ナトリウムの含有量を0.5重量%以下とすることで耐コロナ性を向上させたポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS樹脂」とも呼ぶ。)からなる材料(2軸延伸フィルム)が開示されている。
また、特許文献2及び3には、PAS樹脂と、導電性カーボンブラック、黒鉛、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を含有する樹脂組成物からなる成形品(ケーブル用部品、難着雪リング)が開示されている。これは、樹脂組成物の体積抵抗率を適度な値にすることで耐コロナ性等とともに、耐熱性、耐候性、難燃性、防水性、気密性、靱性などの諸性能を追求したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−79903号公報
【特許文献2】特開平11−53943号公報
【特許文献3】特開平11−150848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載の樹脂組成物(成形品)により、一定以上の耐コロナ性の効果が得られるが十分のものではなく改善の余地が残されていた。また、上記特許文献に記載された樹脂組成物(成形品)の樹脂成分はいずれもPAS樹脂(PPS樹脂)であるが、コロナ放電に晒される環境では樹脂の種類を問わず耐コロナ性が要求される。
【0007】
本発明は上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、コロナ放電に対する十分な耐久性を有する耐コロナ性部材、当該耐コロナ性部材の成形に用いる耐コロナ性樹脂組成物、及び樹脂成形品の耐コロナ性発現方法及び耐コロナ性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)少なくとも、樹脂成分とマイカとを溶融混練して得られる耐コロナ性樹脂組成物を成形してなる耐コロナ性部材であって、
成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が1〜200μmである耐コロナ性部材。
【0009】
(2)前記樹脂成分が、ポリアリーレンスルフィド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂である前記(1)に記載の耐コロナ性部材。
【0010】
(3)前記マイカを、前記樹脂成分100質量部に対して25〜101質量部含む前記(1)又は(2)に記載の耐コロナ性部材。
【0011】
(4)前記マイカが、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するように配向している前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐コロナ性部材。
【0012】
(5)形状が、シート状、板状、筒状、又は被膜状であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐コロナ性部材。
【0013】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐コロナ性部材の成形に用いる耐コロナ性樹脂組成物。
【0014】
(7)樹脂組成物にマイカを添加することにより、該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の耐コロナ性を発現させる方法であって、
成形後におけるマイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が1〜200μmとなるように前記マイカを添加する樹脂成形品の耐コロナ性発現方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コロナ放電に対する十分な耐久性を有する耐コロナ性部材、当該耐コロナ性部材の成形に用いる耐コロナ性樹脂組成物、及び樹脂成形品の耐コロナ性発現方法及び耐コロナ性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】耐コロナ性試験における、試験片と各電極の配置について概念的に示す図である。
図2】耐コロナ性の効果が最も大きく発現するようにマイカを配向させた耐コロナ性部材に電圧印加する様子を模式的に示す図である。
図3】マイカの配向方向を図2とは異ならせた耐コロナ性部材に高電圧を印加する様子を模式的に示す図である。
図4】金マイカと白マイカを用いた場合における、成形品中の各マイカのモード径とコロナ破壊寿命との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐コロナ性部材は、少なくとも、樹脂成分とマイカとを溶融混練して得られる耐コロナ性樹脂組成物を成形してなる耐コロナ性部材であって、成形後における前記マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が1〜200μmであることを特徴としている。
本発明の耐コロナ性部材は、マイカを含む耐コロナ性樹脂組成物を成形してなるものであり、当該耐コロナ性部材がコロナ放電に晒されるときに生じる、電気トリーと呼ばれる樹枝状の局部破壊の進行を、マイカの板状形状が効率よく妨害し、遅延させると推察される。
以下に先ず、本発明の耐コロナ性部材の成形に用いる耐コロナ性樹脂組成物について説明する。
【0018】
<耐コロナ性樹脂組成物>
本発明の耐コロナ性樹脂組成物は、本発明の耐コロナ性部材の成形に用いられるものであって、樹脂成分と、マイカとを溶融混練して得られる。
以下に、本発明の耐コロナ性樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0019】
[樹脂成分]
樹脂成分としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂、弗素樹脂、熱可塑性エラストマー、各種の生分解性樹脂等が挙げられる。また、2種類以上の樹脂成分を併用してもよい。その中でも、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも言う。)、ポリアセタール樹脂、液晶樹脂等は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックと総称され自動車、電気・電子部品等の広範な用途に使用されている。
以下、PAS樹脂、PBT樹脂について順次説明する。
【0020】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0021】
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0022】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS樹脂」とも言う。)が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0023】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0024】
本発明に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec−1)は、上記混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも8〜300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0025】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(低級アルコールエステルなど)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系樹脂である。PBT樹脂は、ホモPBT樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体(共重合PBT樹脂)であってもよい。
【0026】
共重合PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の、C〜C12アリールジカルボン酸等)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC〜C16アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のC〜C10シクロアルキルジカルボン酸等)、またはそれらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸などのC〜C10アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC〜C12アルキルジカルボン酸) が含まれる。
【0028】
PBT樹脂において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオールなどのC〜C10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC〜Cアルキレングリコールなど)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオールなど〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAのC〜Cアルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)など〕、またはそれらのエステル形成誘導体などが挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特に、C〜Cアルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC〜Cアルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が含まれる。
【0030】
前記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するホモPBT樹脂又は共重合PBT樹脂は、いずれも本発明の樹脂成分として使用できる。ホモPBT樹脂及び共重合PBT樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して使用できる。
【0031】
[マイカ]
マイカは、鱗片状のケイ酸アルミニウム系鉱物であり、例えば、白マイカ(KAl2(AlSi3O10)(OH)2)、金マイカ(KMg3(AlSi3O10)(OH)2)、黒マイカ(K(Mg,Fe)3(AlSi3O10)(OH)2)、鱗マイカ(KLi2Al(Si4O10)(OH)2)等が挙げられる。
中でも、耐コロナ性の効果を最も発揮し得る点で金マイカを用いることが好ましい。
【0032】
本発明において使用可能なマイカ(上市品)として、金マイカとしては、西日本貿易(株)製、150−S(平均粒子径(50%d):163μm)、同325−S(平均粒子径(50%d):30μm)、同60−S(平均粒子径(50%d):278μm)などが挙げられる、また、白マイカとしては、(株)ヤマグチマイカ製、AB−25S(平均粒子径(50%d):24μm)などが挙げられる。
尚、平均粒径(50%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を意味する。
【0033】
マイカの含有量は、十分な耐コロナ性を得る観点から、PAS樹脂100質量部に対して25〜101質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明においては、機械物性(引張り強度、曲げ強度)向上のためにガラス繊維を添加してもよい。当該ガラス繊維としては特に制限はなく、市販のものを用いることができる。上市しているものとしては、例えば、オーウェンスコーニング製造(株)製、チョップドガラス繊維(CS03DE 416A、平均繊維径:6μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−747H、平均繊維径:10μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−747、平均繊維径:13μm)等が挙げられる。
【0035】
[他の成分]
本発明に係る耐コロナ性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、滑剤、カーボンブラック、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、及びUV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、その他の樹脂等の高分子や、添加剤を含有していてもよい。
【0036】
<樹脂成形品の耐コロナ性発現方法>
本発明の樹脂成形品の耐コロナ性発現方法は、樹脂組成物にマイカを添加することにより、該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の耐コロナ性を発現させる方法であって、成形後におけるマイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径が1〜200μmとなるように前記マイカを添加することを特徴としている。
既述の通り、本発明の耐コロナ性部材は、マイカを添加することで耐コロナ性を発現させている。換言すると、成形後の部材におけるマイカのモード径等が上記規定の範囲内となるように、樹脂組成物に所定のマイカを添加して成形することにより、その成形品たる部材に耐コロナ性を発現させることができる。
本発明の樹脂成形品の耐コロナ性発現方法における樹脂成分及びマイカは、既述の本発明の耐コロナ性樹脂組成物における樹脂成分及びマイカと同じであり、耐コロナ性を発現させるための各成分の好ましい例や添加量、添加し得る他の成分も同様である。
【0037】
<耐コロナ性部材>
本発明の耐コロナ性部材は、既述の本発明の耐コロナ性樹脂組成物を成形してなるが、作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、後述する本発明の耐コロナ性樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0038】
本発明の耐コロナ性部材は、耐コロナ性部材中の、マイカの、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径は1〜200μmであり、15〜150μmであることが好ましく、40〜130μmであることがより好ましい。耐コロナ性部材中における当該マイカのモード径が1〜200μmの範囲を外れると、耐コロナ性の効果が低下する傾向がある。
尚、耐コロナ性部材中におけるマイカのモード径は、(株)堀場製作所製、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定することができる。
【0039】
本発明の耐コロナ性部材は、マイカは、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するように配向していることが好ましい。具体的には、耐コロナ性部材に電圧が印加された場合において、マイカが電圧の印加方向と直交するように配向させる、換言するとコロナ放電に起因する電圧方向と直交するように、耐コロナ性部材中のマイカが互いに平行となるように一方向に配向させることが好ましい。ここで、マイカの配向方向が、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するとは、マイカの法線方向とコロナ放電に起因する電圧方向とが一致する状態を意味するが、当該法線方向と電圧方向とが完全に一致する必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲においてずれていても構わない。
以下に、上記マイカの配向状態について図2及び図3を参照して説明する。
【0040】
図2図3は、耐コロナ性部材に高電圧を印加する様子を模式的に示している。図2図3において、平板状の耐コロナ性部材10A、10Bの上方に高圧電極12、下方にアース側電極14が配置されており、両電極により高周波・高電圧を印加した場合に高圧電極12の先端近傍にコロナ放電が発生し、耐コロナ性部材10A、10Bの表面がコロナ放電に晒される。そして、図2においては、耐コロナ性部材10Aの内部には電圧の印加方向と直交するようにマイカ16が配向しており、図3においては、耐コロナ性部材10Bの内部には電圧方向と平行になるようにマイカ16が配向している。このような構成において、高周波・高電圧を印加してコロナ放電を発生させた場合、図2の構成では、電気トリーが発生してもその進行を妨害するようにマイカ16が配向しているため、その進行を遅らせることができる。ひいては、耐コロナ性部材10Aの長寿命化を達成することができると考えられる。一方、図3の構成では、電気トリーの進行方向には隙間が多く存在し、電気トリーの進行の妨害効果は小さい。
以上より、図2に示すようにマイカを配向した耐コロナ性部材を、その内部のマイカがコロナ放電に起因する電圧の印加方向と直交するように配置することで、耐コロナ性の効果をより効果的に発揮することができる。
【0041】
上記のように、耐コロナ性部材中のマイカを上記のような方向に配向させるには、例えば、射出成形時において、マイカを配向させる所望の方向が樹脂の流動方向となるように金型のゲート位置を設定することで実現することができる。
【0042】
耐コロナ性部材中のマイカを上記のように配向させる場合において、当該耐コロナ性部材の形状としては、例えば、シート状、板状、筒状、または被膜状とすることができる。この場合、各形状の部材において、その肉厚方向と直交するようにマイカを配向させると、部材の肉厚方向に印加される電圧に起因して発生するコロナ放電に対して優れた耐久性を発現させることができる。
例えば、シート状の耐コロナ性部材においては、そのシートの肉厚方向、すなわちシート面と直交する方向に高周波・高電圧が印加された場合、コロナ放電によりシートの肉厚方向に電気トリーが進行するが、マイカが上記のように配向していると電気トリーの進行を最も効果的に阻止することができ、シート状の耐コロナ性部材の寿命を長くすることが可能となる。他の形状においても同様である。
【0043】
本発明の耐コロナ性部材は、耐コロナ性が要求される部材として用いることができる。このような部材としては、例えば、イグニションコイルの筐体、絶縁電線、電気絶縁シートが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
各実施例・比較例において、表1及び表2に示す各原料成分をドライブレンドして得た混合物を、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し(マイカ、ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。表1及び表2に示す各原料成分の詳細を以下に記す。
【0046】
(1)PAS樹脂成分
PPS樹脂:(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A (溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))
尚、上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。
【0047】
(2)充填剤
金マイカ1: 西日本貿易(株)製 150−S、平均粒子径(50%d):163μm
金マイカ2:西日本貿易(株)製、325−S(平均粒子径(50%d):30μm)
金マイカ3:西日本貿易(株)製、60−S(平均粒子径(50%d):278μm)
金マイカ4:西日本貿易(株)製、40−S(平均粒子径(50%d):351μm)
白マイカ1:(株)ヤマグチマイカ製、AB−25S)、平均粒子径(50%d):24μm
白マイカ2:(株)ヤマグチマイカ製、B−82)、平均粒子径(50%d):137μm
ガラス繊維1:チョップドガラス繊維(日本電気硝子(株)製、ECS03T747)、平均繊維径:13μm
【0048】
尚、上記充填剤の平均粒径(50%d)は以下のようにして測定した。
(充填剤の平均粒径(50%d)の測定)
(株)堀場製作所製、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて、以下の測定条件の下、各充填剤の粒度分布、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を測定した。
〜測定条件〜
・循環速度:10
・レーザー光源:632.8nm He‐Neレーザ 1mW、タングステンランプ50W
・検出器:リング状75分割シリコンフォトダイオード×1、シリコンフォトダイオード×12
・分散媒:超純水
・超音波:有り
・透過率:80%
・水との相対屈折率:1.18(白マイカ、金マイカ)
【0049】
上述のようにして作製したペレットから、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100D)により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で縦80mm、横80mm、厚み1mmの試験片(平板)を作製し、以下の評価を行った。
尚、金マイカ1〜4、白マイカ1〜2を用いた試験片の作製においては、試験片の肉厚方向と直交する方向に各マイカを配向させるため、その配向方向が樹脂の流動方向となるように金型のゲート位置を設定した。
【0050】
(耐コロナ性試験)
各実施例・比較例において作製した試験片10を、図1に示すように、高圧側電極12(φ9.5mm)とアース側電極14(φ25mm)の間に固定し、耐電圧試験機(ヤマヨ試験機有限会社製 YST−243WS−28)を用いて、空気中で、130℃、周波数200Hz、印加電圧18kVを加え、絶縁破壊が生じるまでの時間を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0051】
(成形品中での充填剤のモード径の測定)
各実施例・比較例において作製した80mm×1mmの平板試験片を空気中600℃で5時間放置し、樹脂成分を完全に除去した。得られた灰分から、(株)堀場製作所製、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて、以下の測定条件の下、各充填剤の粒度分布、モード径を測定した。
〜測定条件〜
・循環速度:10
・レーザー光源:632.8nm He‐Neレーザ 1mW、タングステンランプ50W
・検出器:リング状75分割シリコンフォトダイオード×1、シリコンフォトダイオード×12
・分散媒:超純水
・超音波:有り
・透過率:80%
・水との相対屈折率:1.18(白マイカ、金マイカ)
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
充填剤として金マイカを用いた実施例1〜3及び比較例2、並びに白マイカを用いた実施例4〜5について、成形品中の各マイカのモード径とコロナ破壊寿命との関係を図4に示す。図4より、成形品中のマイカのモード径によりコロナ破壊特性が変化することが分かり、特に、金マイカについてはモード径124μmにおいてコロナ破壊特性が特に優れている。
【0055】
表1及び表2より、マイカを用い、成形品(耐コロナ性部材)中のマイカのモード径が本発明において規定する範囲内の実施例1〜5は耐コロナ性試験において50時間超という長時間の耐久性が得られたのに対し、比較例1〜3においては当該試験の結果は50時間未満であり、満足できる結果が得られなかったことが分かる。
【符号の説明】
【0056】
10 試験片
10A 耐コロナ性部材
10B 耐コロナ性部材
12 高圧側電極
14 アース側電極
16 マイカ
図1
図2
図3
図4