(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295468
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】天ぷら粉
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20180312BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20180312BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-81468(P2013-81468)
(22)【出願日】2013年4月9日
(65)【公開番号】特開2014-200225(P2014-200225A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】照屋 望美
(72)【発明者】
【氏名】風早 浩行
【審査官】
田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−022245(JP,A)
【文献】
特開2000−201639(JP,A)
【文献】
特開2013−034440(JP,A)
【文献】
特開平10−327788(JP,A)
【文献】
特開平04−011858(JP,A)
【文献】
特開昭60−234555(JP,A)
【文献】
特開平03−224453(JP,A)
【文献】
特開平09−220049(JP,A)
【文献】
特開平11−000125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−A23L 7/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波処理した小麦粉を含有する天ぷら粉であって、
マイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり100W・秒〜775W・秒であり、
マイクロ波処理した小麦粉の量が天ぷら粉中の小麦粉の全質量に対して、2〜87質量%である、
前記天ぷら粉。
【請求項2】
マイクロ波処理する前の小麦粉のアミロ粘度が400B.U.以上である請求項1に記載の天ぷら粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の天ぷら粉を用いて製造されたことを特徴とする天ぷら。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波処理した小麦粉を含む天ぷら粉に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷらとは、魚介類・野菜・山菜等の食材に小麦粉を含む衣をつけて油で揚げる事によって調理した食品であり、一般的にモチモチよりもサクサク、カリッといった様な歯切れの良い食感が良いとされている。
しかしながら、小麦粉(薄力粉)を主配合とした天ぷら粉は、サクサク感に乏しく揚げた後は、時間の経過とともにモチモチとしたヒキのある食感で天ぷらとしての良さに欠けていた。
天ぷらの食感を改良するため、従来膨化穀類を含む天ぷら用衣ミックス(特許文献1)、植物ステロールを含む揚げ物用組成物(特許文献2)、ネイティブジェランガムを含むフライ食品用ミックス(特許文献3)、糖アルコール、卵白、レシチン、糊科の1種もしくは2種以上を用いた非小麦粉成分を含む天ぷら粉組成物(特許文献4)のように、天ぷら粉に小麦粉以外のものを添加する方法が提案されている。
しかしながら、近年健康志向の意識を反映して、食品添加物を使用しない製品が好まれる傾向にあるところ、天ぷらの食感を目的として小麦粉自体を改質する方法は提案されていない。また食感についてはさらなる改良が求められている。
【0003】
小麦粒の品質改良方法としては、低アミロ小麦粒をマイクロ波処理する方法が提案されている(特許文献5)。低アミロ小麦とは収穫時や収穫後の貯蔵時に水分の多い状況下に置かれ発芽状態になった小麦のことで、小麦中のアミラーゼ活性が健常粒より高いことを特徴とする。低アミロ小麦から得られた小麦粉は糊化時の粘度が低く(アミログラフ糊化最高粘度が400BU以下)、二次加工適性が著しく劣り、食品への加工には適さず商品価値が劣る。特許文献5の方法はこの低アミロ小麦についてグルテンの変性を引き起こさずに酵素を失活することで糊化粘度を改善し、小麦本来の二次加工適性を回復することを目的とするものであり、本発明のマイクロ波処理とは対象および処理条件が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−25678
【特許文献2】特開2003−235484
【特許文献3】特開2000−189090
【特許文献4】特開平6−98706
【特許文献5】特開平3−224453号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、マイクロ波処理した小麦粉を含む天ぷら粉を使用することにより、ヒキが無く、口溶けの良いサクッとした食感の天ぷらを製造することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)マイクロ波処理した小麦粉を含有する天ぷら粉であって、
マイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり100W・秒〜775W・秒であり、
マイクロ波処理した小麦粉の量が天ぷら粉中の小麦粉の全質量に対して、2〜87質量%である、
前記天ぷら粉。
(2)マイクロ波処理する前の小麦粉のアミロ粘度が400B.U.以上である前記(1)の小麦粉組成物。
(3)前記(1)又は(2)に記載の小麦粉組成物を用いて製造されたことを特徴とする天ぷら粉。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマイクロ波処理した小麦粉を含む天ぷら粉を使用することで、ヒキが無く、口溶けの良いサクッとした食感の天ぷらを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、小麦粉は1gあたり100W・秒〜775W・秒の照射量でマイクロ波処理する。小麦粉1gあたり300〜760W・秒の照射量が好ましい。
小麦粉1gあたり100W・秒未満では食感の改善効果が得られず、775W・秒を超えると食感が硬く、やや生地っぽさが感じられるようになる為不適である。
ここで「小麦粉1gあたり100W・秒〜775W・秒の照射量」(以下、小麦粉1gあたりのマイクロ波照射量をW・秒/gの単位で表す)とはマイクロ波処理時のマイクロ波処理装置の出力(W)とその処理時間(秒)の積を被処理小麦粉の重量(g)で割ったときの値(W・秒/g)が100〜775の範囲になるように小麦にマイクロ波を照射することを意味する。
例えば、100gの小麦粉を600Wの電子レンジで90秒処理した場合には、
600(W)×90(秒)÷100(g)=540W・秒/gの照射量になる。
マイクロ波処理を上記の条件下で行う限り、使用する方法および装置は特に制限されない。マイクロ波発生装置の出力についても特に限定されず、出力が異なっても照射時間を変更し同じ照射量にすれば同じ効果が得られる。
またマイクロ波の照射は、被処理小麦粉全体に対してむら無く均一に行われるようにすることが好ましい。
具体的には、例えば家庭用電子レンジ(600W)内でマイクロ波を照射する場合には、小麦粉をマイクロ波加熱用容器中で4cm程度の均一な厚みになるようにならして処理する。
【0009】
本発明において、アミログラム最高粘度(以下「アミロ粘度」という)とは小麦粉のデンプンの糊化特性を測定した値であり、小麦粒を挽砕して得られる小麦粉の糊化時の粘度変化をブラベンダー社製のアミログラフ試験機で測定したときの最高粘度の値(単位はB.U.=Brabender Unit)のことをいう。
日本では、小麦をビューラー社製のテストミルで挽砕して得た60%歩留りの粉(60%粉)について行ったアミログラフ試験の最高粘度値を標準の測定値としている。
アミロ粘度が低いと,麺パン菓子などへの加工適正が失われる。一般にアミロ粘度が400B.U.以上であれば健全な小麦であり、300B.U.以上ならほぼ正常と考えてよい。300B.U.未満のものはなんらかの問題を抱えている確率が高い。特に、100B.U.以下のものはα−アミラーゼ活性が強く、健全な小麦に少量配合する場合であっても使用することができない。
【0010】
本発明においてマイクロ波処理に付す(すなわち、マイクロ波処理前の)小麦粉の種類は、アミロ粘度が400B.U.以上であれば特に限定されない。例えば強力粉、中力粉、薄力粉を使用できる。
【0011】
本発明における天ぷら粉は、小麦粉を主成分とし、天ぷら粉中の小麦粉100質量部に対し、2〜87質量%の上述した条件のマイクロ波処理した小麦を含有する。好ましくは小麦粉組成物中の小麦粉の全量に対し、10〜70質量%のマイクロ波処理小麦を含有する。小麦粉組成物中の小麦粉の全量に対し、マイクロ波処理小麦が2質量%未満では、十分な効果が得られない。また小麦粉組成物中の小麦粉の全量に対し、マイクロ波処理小麦が87質量%を越えると、食感がやや硬くなり油切れが悪くなるため不適である。
【0012】
本発明における天ぷら粉には、さらにライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;デキストリン;植物性蛋白質;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;増粘多糖類;膨張剤;保存料;香料;調味料;香辛料;着色料;ビタミン;カルシウム等のミネラル類の通常天ぷら粉に用いられるものであれば特に限定されず配合することが出来る。
【0013】
本発明における天ぷらは、具材に小麦粉を含む衣をつけて油で揚げる事によって調理した食品を指す。具材は魚介類・野菜・山菜等の食材が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0014】
本発明の天ぷらの製造方法は、本発明の天ぷら粉を使用する以外は、常法を用いることができる。例えば天ぷら粉に冷水を加えて衣を作製し、具材に衣を付け、160〜190℃に熱した食用油の中で油調する。
【実施例】
【0015】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [小麦粉のマイクロ波処理]
実施例で使用した小麦粉のアミログラフ糊化最高粘度は500B.U.であった。
家庭用電子レンジ(600W)に小麦粉入りのマイクロ波加熱用容器を入れ、小麦粉の塊が4cm程度の均一な厚みになるように小麦粉をならし、マイクロ波を照射し、マイクロ波処理薄力粉を得た。
【0016】
試験例2 [天ぷらの製造]
各条件でマイクロ波処理した小麦粉を未処理の小麦粉と所定の混合比でヘンシェルミキサーで均一に混合したものを天ぷら粉とし天ぷらを製造した。詳細には、下記の工程で製造した。
天ぷら粉100gに対し冷水を150g加え、バッターを調整した。
伸ばし海老にバッターを付け170℃の大豆菜種油中で2分間油調して天ぷらを得た。
【0017】
得られた各天ぷらについて、表1に示す評価基準により衣の食感を10名のパネラーで評価した。評価は、フライ直後とフライ3時間後の2回行った。得られた結果を下記の表2及び表3に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
評価1:天ぷら粉組成による効果の検討
600W・秒/gのマイクロ波照射量で処理した小麦粉と未処理の小麦粉を表2に示す所定の混合比でヘンシェルミキサーで均一に混合したものを天ぷら粉として天ぷらを製造し、そのフライ直後及びフライ3時間後の食感を評価した。
【表2】
【0020】
実施例1〜7においてフライ直後、フライ3時間後試食のいずれも食感にヒキが無くサクッとした食感であるという評価が得られた。実施例7において、比較例との差は認められたものの実施例1〜7に比べ劣っているという評価であった。比較例1および比較例2の何れも未処理小麦粉100%を使用した場合と比較して食感の改善は見られなかった。さらに比較例1については、食感がやや硬く油っぽさを感じたため、また比較例2については、ヒキやモチモチした食感が感じられ、実施例1〜7に比べて劣っていた。
【0021】
評価2:マイクロ波処理条件による効果の検討
表3に示す所定のマイクロ波照射量で処理した小麦粉と未処理の小麦粉を70:30で配合しヘンシェルミキサーで均一に混合したものを天ぷら粉として天ぷらを製造し、そのフライ直後及びフライ3時間後の食感を評価した。
【0022】
【表3】
【0023】
実施例8〜13について、フライ直後、フライ3時間後の試食からヒキがなくサクサクとした食感であるという評価を得られた。比較例3および比較例4の何れも未処理小麦粉100%を使用した場合と比較して食感の改善は見られなかった。比較例3については、食感が硬くやや生地っぽさを感じられたため、また比較例4についてはサクサク感に乏しくモチッとしたヒキのある食感だったため、何れも実施例1〜6に比べて劣っていた。