(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295870
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】銅粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/20 20060101AFI20180312BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20180312BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20180312BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
B22F9/20 E
B22F1/00 L
H01B1/02 A
H01B1/00 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-149672(P2014-149672)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-23348(P2016-23348A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】両見 春樹
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】志賀 忠晃
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−330809(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/104032(WO,A1)
【文献】
特開2013−019034(JP,A)
【文献】
特開2010−144197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B22F 1/00− 8/00
H01B 1/00− 1/24
C22C 1/04− 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物またはその含水物をポリオール中に懸濁させ、160〜320℃ に加熱して銅粉末を得る工程(A)と、該銅粉末を水で洗浄した後、脱水する工程(B)と、洗浄・脱水された該銅粉末を乾燥させる工程(C)を備えた銅粉末の製造方法であって、
前記工程(A)において、前記酸化銅またはその含水物とポリオールを質量比が5:95〜60:40の範囲内で混合し、また、前記工程(C)において、真空度が90kPa以下で、温度が40〜200℃の範囲とした真空乾燥機内で銅粉末を1〜72時間乾燥させ、25℃で2000時間大気雰囲気下にて保存したとき、その酸素濃度の増加量が、保存前に対して0.5質量%以下の銅粉末を得ることを特徴とする銅粉末の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C)において、真空度が1Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅粉末の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)において、前記真空乾燥機は、被乾燥物を振動させる機構を具備していることを特徴とする請求項1または2に記載の銅粉末の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)において、前記ポリオールは、2〜6個のOH基を有する多価アルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅粉末の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)において、洗浄された銅粉末が、遠心分離機で脱水されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の銅粉末の製造方法。
【請求項6】
酸素濃度が1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅粉末の製造方法。
【請求項7】
平均粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅粉末の製造方法。
【請求項8】
連結粒子の長径が平均粒径の4倍以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉末の製造方法に関し、より詳しくは、銅化合物をポリオール中で加熱還元し、得られた銅粉末を特定の条件で乾燥し、大気中で長期保存しても酸化し難い銅粉末が低コストかつ生産性よく製造でき、積層セラミックスコンデンサやチップ抵抗器などの電子素子やタッチパネルや太陽電池などの配線材料の原料粉末として有用な銅粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックスコンデンサ(以後、MLCCという)やチップ抵抗器などの電子素子に外部電極を付与したり、それを基板に接合させたり、絶縁基板の意図する位置に導電回路を配属するのに導電ペーストが使用されている。導電ペーストの導電材料としては、銀、ニッケル、銅などの金属粉末が使用されているが、銅粉末は廉価でありながら抵抗値が低く、かつ、銀のようなマイグレーションが起き難いという長所があるので、銅ペーストが多用されている。
【0003】
近年、MLCCの外部電極として、金属粉末をフィラーとした導電性ペーストを使用する場合には、高温で焼き固めた誘電体であるセラミックスに、外部電極として金属粉末を焼き付けている。例えば、セラミックス素体を導電ペーストにディップ後熱処理すると、加熱中にペースト中のビヒクル分が蒸発または分解除去すると共に金属粉末が焼結して外部電極が形成される。この金属粉末としても銅粉末が多く使用される。
また、スルーホールやビア埋め用のペーストとしても、低価格でメッキ付きの良いペーストとして銅ペーストが利用され(特許文献1参照)、さらには太陽電池やタッチパネル向けの配線用として銅ペーストが用いられている(特許文献2参照)。
【0004】
銅ペーストに配合される銅粉末の製造方法としては、いわゆる電解法が最も一般的である。しかし、この方法で得られる銅粉は粗大な凝集体となり易い。そのため微細で分散性が良好な銅粉を得る方法として、例えば、酸化銅をカップリング剤の存在下で湿式還元する方法(特許文献3)、塩化物を気相還元する方法(特許文献4)、そして不均化反応を利用した方法が提案されている。しかし、これらの方法で得られる銅粉末はいずれも表面活性が高く、銅粉末はペーストとして使用する際に樹脂硬化のための加熱や半田づけなどにより酸化されたり、有機物の揮散を目的とする焼成時に雰囲気中にわずかに存在する酸素によって酸化されてしまう。このようにして得られた銅粉末を用いてペースト化すると、銅粉末中の酸化物により得られる厚膜の導電性が低下し、半田の濡れ性も低下する。
【0005】
これを防止すべく表面処理により銅粉末の耐酸化性を向上させる方法が提案されている。この例として、銅粉末をアミンで処理した後に、ほう素−窒素複合型分散剤を被覆する方法(特許文献5)があり、それ以外にベンゾトリアゾールやクロム酸塩をペースト中に混入するものや、有機チタネートや有機アルミネートを被覆する方法も知られている。しかし、これらの方法では、添加物により導電性が悪化し、充分な耐酸化効果が得られないという欠点がある。また、銅微粒子を単結晶とし耐酸化性を付与する方法(特許文献6)が試みられているが、この方法では耐酸化効果が得られても生産性が低い。
【0006】
これらの欠点を解消するために、酸化銅をポリオール中で還元する方法(特許文献7)が提案されている。これによれば、酸化銅を液状のポリオールに懸濁させ反応温度以上に加熱するので、確かに耐酸化性の優れた銅粉末が得られる。しかし、この方法では、生成した銅析出物を単離した後の乾燥について具体的言及がなく、使用する原料酸化銅の差により得られる銅粉末の粒径、形状、分散性、酸素濃度に著しい差異が生じ、粒状で耐酸化性に優れた銅粉を安定的に得ることは難しい。
【0007】
さらに上記の問題点を改善した方法として、特許文献8が挙げられ、原料としてニッケル品位が10ppm未満で且つ水分率が10%以下の酸化銅粉及び/又はその含水物を用いることにより、この原料の酸化銅の全量がCu
2Oの超微粒子となった後、Cu
2OからCuに還元して均一なCu微粒子とする。しかし、還元して得られた銅粉末の乾燥について具体的言及がなく、乾燥方法や条件によっては25℃で2000時間大気中に保存すると酸化が進んでしまい、所望の銅粉やそれを用いた銅ペーストが得られない場合がある。
【0008】
こうした状況の下、使用する原料酸化銅の種類によらず、粒径、形状、分散性に著しい差異を生ずることなく、粒状で単分散性に優れた銅粉末が安定的に得られ、25℃で2000時間大気中に保存しても酸化が進まないことで、MLCCやプリント基板、電磁波シールド、太陽電池やタッチパネルなどの配線材料に使用される還元後に酸化膜の形成を抑えた銅粉末およびその製造方法が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3142462号公報
【特許文献2】特開2012−28243号公報
【特許文献3】特開平2−3408号公報
【特許文献4】特開昭62−63604号公報
【特許文献5】特公平1−40069号公報
【特許文献6】特開昭63−288990号公報
【特許文献7】特開昭59−173206号公報
【特許文献8】特許第3399970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、銅化合物をポリオール中で加熱還元し、得られた銅粉末を洗浄した後乾燥し、大気中で長期保存しても酸化し難い銅粉末が低コストで生産性よく製造できる、積層セラミックスコンデンサなどの電子素子の原料粉末として有用な銅粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定量の銅化合物またはその含水物をポリオール中に懸濁させ、160〜320℃に加熱して銅化合物を還元させて、得られた銅粉末を洗浄し脱水した後、特定条件の減圧雰囲気下で乾燥させることで、大気中で長期保存しても酸化し難い銅粉末が低コストでかつ生産性良く得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銅化合物またはその含水物をポリオール中に懸濁させ、160〜320℃ に加熱して銅粉末を得る工程(A)と、該銅粉末を水で洗浄した後、脱水する工程(B)と、洗浄・脱水された該銅粉末を乾燥させる工程(C)を備えた銅粉末の製造方法であって、
前記工程(A)において、前記酸化銅またはその含水物とポリオールを質量比が5:95〜60:40の範囲内で混合し、また、前記工程(C)において、真空度が90kPa以下で、温度が40〜200℃の範囲とした真空乾燥機内で銅粉末を1〜72時間乾燥させ
、25℃で2000時間大気雰囲気下にて保存したとき、その酸素濃度の増加量が、保存前に対して0.5質量%以下の銅粉末を得ることを特徴とする銅粉末の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記工程(C)における、真空度が1Pa以下であることを特徴とする銅粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、前記工程(C)における、前記真空乾燥機は、被乾燥物を振動させる機構を具備していることを特徴とする銅粉末の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記工程(A)において、前記ポリオールは、2〜6個のOH基を有する多価アルコールであることを特徴とする銅粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記工程(B)において、洗浄された銅粉末が、遠心分離機で脱水されることを特徴とする銅粉末の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第
6の発明によれば、第
1〜5のいずれかの発明において、酸素濃度が1.0質量%以下であることを特徴とする銅粉末
の製造方法が提供される。
また、本発明の第
7の発明によれば、第
1〜6のいずれかの発明において、平均粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする銅粉末
の製造方法が提供される。
また、本発明の第
8の発明によれば、第
1〜7のいずれかの発明において、連結粒子の長径が平均粒径の4倍以下であることを特徴とする銅粉末
の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、特定量の銅化合物またはその含水物をポリオール中に懸濁させ、160℃以上に加熱して還元し、得られた銅粉末を洗浄し脱水した後、特定の条件で真空乾燥させるために、25℃で2000時間放置しても酸素濃度の増加量が小さい銅粉末が得られる。この製造方法は、比較的低コストであり、しかも生産性が高い。
また、得られた銅粉末は、25℃で2000時間放置しても酸化が進まないことから、MLCCやチップ抵抗器の外部電極、電磁波シールド、スルーホールやビア埋め用のプリント基板、太陽電池・タッチパネルなど電子素子の配線材料の原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の銅粉末の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
1.銅粉末の製造方法
本発明
により銅粉末を製造するには、特定量の銅化合物をポリオール中に懸濁させ、160〜320℃に加熱して銅粉末を得る工程(A)において、銅化合物とポリオールをある特定質量比で混合し、次に、工程(B)において、得られた銅粉末を洗浄し脱水した後、工程(C)において、特定の減圧雰囲気下で乾燥させることで、酸化し難い銅粉末が得られるようにする。
【0020】
(A)銅粉末の形成工程
本発明では、まず、下記の銅化合物(a)をポリオール(b)と混合し、160〜320℃に加熱して銅化合物を還元し銅粉末を得る。
【0021】
銅化合物(a)
本発明では、銅粉末の原料として銅化合物を使用する。銅化合物の種類は、加熱されたポリオール中で還元され、最終的に銅粉末として堆積されるものであれば特に限定されない。
例えば、酸化銅(酸化第一銅および酸化第二銅)、水酸化銅、炭酸銅、シュウ酸銅、硫酸銅などが挙げられる。好ましいのは酸化銅、水酸化銅である。また銅化合物は、水和物(含水物)でも構わない。一般に、銅化合物の含水率が多い場合、生産性が悪化してしまう場合がある。そのため、銅化合物の含水物を用いる場合は、含水率は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
ポリオール(b)
ポリオールは、銅化合物の還元機能を有する多価アルコールである。2〜6個のOH基を有するものが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、フェニルジグリコールなどが挙げられる。中でもトリエチレングリコールやテトラエチレングリコールが好ましい。これらは複数種を混合しても構わないし、本発明の目的を損なわなければ、水や他の溶剤を添加しても差し支えない。
【0023】
銅化合物は、ポリオールと混合し、160℃以上320℃以下に加熱し、熱せられたポリオール中で懸濁される。この範囲内の温度で撹拌することで、銅化合物の還元反応が促進され、銅粉末が形成される。
好ましい加熱温度は、180℃以上310℃以下であり、より好ましくは、190℃以上300℃以下で、かつポリオールの沸点以下である。加熱温度が160℃未満の場合、還元反応が十分に進まず得られる銅粉末の酸素濃度が大幅に上昇するとともに、生産性も悪化する。一方、320℃を超えるとポリオールの分解揮発による減少が著しくなり、十分に還元できなくなる恐れがある。そのため、加熱温度を選択したポリオールの沸点より高く設定した場合は、上限の加熱温度を沸点よりも低くすることが望ましい。
【0024】
還元反応に供される銅化合物とポリオールの量は、質量比で5:95〜60:40の範囲内とする。銅化合物の質量比が5未満の場合は、銅粉末の回収量が悪く、銅化合物の質量比が60を超えると還元が十分に終了しない場合があり、いずれも生産性が低下する。また、銅化合物の質量比が高くなると、還元された銅粉末同士が連結しやすく(以降、連結粒子と呼ぶことがある)なり、特に銅化合物の重量比が60を超えると、連結粒子の長径が銅粉末個々の平均粒径の4倍を超えるものも発生することがある。銅化合物とポリオールの質量比は、10:90〜55:45であることが好ましく、15:85〜50:50であることがより好ましい。
【0025】
(B)洗浄・脱水工程
工程(A)で得られた銅粉末は、次の洗浄工程(B)で洗浄し脱水する。還元工程で得られた銅粉末の表面状態や共雑物を詳細に観察すると、銅化合物またはその含水物とポリオールとを160℃以上に加熱して生起する反応で、銅が析出し、銅粉末の表面や凝集物の内部に溶媒であるポリオールなどが、共雑物として懸濁している。そのため、反応後に銅粉末を分離し、純水などで洗浄する。
【0026】
洗浄に純水を用いる場合は、導電率が1.0μS/cm以下、より好ましくは、導電率が0.1μS/cm未満である超純水を洗浄に用いるのがより好ましい。洗浄温度は特に限定されないが、5〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。純水による洗浄温度が50℃を超えると銅粉末が酸化してしまう恐れがあり、5℃未満では洗浄速度が遅く生産性が低下してしまう恐れがある。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内であれば、超純水や水道水や工業用水などを使用してもよく、あるいは、純水の代わりにメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類を洗浄に用いても差し支えない。
【0027】
洗浄方法、用いる装置、手段や条件は、銅粉末からポリオールやその他の不純物を洗い落とせれば特に限定されない。一例としては、純水で撹拌洗浄後、銅粉末を沈降させ上澄みを回収してから遠心分離機にて脱水する方法が挙げられる。遠心分離機により脱水する場合は、その回転数を装入する銅粉末の量によって調整する。銅粉末が液中に十分分散される回転数であれば特に限定されないが、50〜3000rpm程度が好ましく、より好ましくは100〜2500rpmである。また本発明の目的を損なわない限り、貫通洗浄などの別の洗浄方法を利用しても差し支えない。
【0028】
(C)乾燥工程
工程(B)で洗浄し脱水された銅粉末は、洗浄によりポリオールなどの共雑物が除去され、遠心分離機等により脱水されているが表面には、まだ水分が付着しているので、この乾燥工程(C)で、さらに水分などを乾燥させる。
【0029】
従来、銅粉末の乾燥は、オーブンやスプレードライのような熱風乾燥が主に用いられていた。しかし、熱風乾燥の場合、乾燥後の銅粉末の酸素濃度が高くなり、また、経時変化で酸素濃度がさらに高くなってしまう。
そのため、本発明では、銅粉末を真空乾燥機に装入し、真空度が90kPa以下の減圧雰囲気下とし、40〜200℃の温度範囲で1〜72時間乾燥させて水分を除去する。
【0030】
真空乾燥機は、種類によって限定されず、少なくとも減圧機能と加熱機能を有する乾燥機であれば良い。しかし、さらに被乾燥物を振動させる機構を有している真空振動乾燥機を用いれば、乾燥中に銅粉末を振動させることで水分の蒸発を早める効果があり、生産性が向上する。
【0031】
真空度が90kPaを超えると、水分の蒸発が不十分で銅粉末の酸素濃度が高くなると共に、25℃で2000時間大気放置後の酸素濃度増加量が1質量%を超えてしまう。また、十分に乾燥するまでの時間が長くなるため、生産性が悪くなる。真空度は低いほど良好であり、1Pa以下がより好ましく、1×10
−2Pa以下がさらに好ましい。
【0032】
乾燥温度は、40℃未満であると水分の蒸発が不十分で、乾燥時間も長くなるので好ましくなく、200℃を超えると水分の蒸発が早いが、銅粉末同士が焼結してしまうことが懸念され好ましくない。洗浄によりポリオールなどの共雑物を除去したうえで、真空度、乾燥温度、乾燥時間を本発明の範囲内で調整することによって酸素濃度が低く、25℃で2000時間大気放置しても酸素濃度の増加量1質量%以下の銅粉末を得ることができる。
【0033】
2.得られる銅粉末
上記により得られる銅粉末は、その酸素濃度が1.0質量%以下である。さらには、25℃で2000時間大気雰囲気下にて保存しても、保存後の酸素濃度と保存前の酸素濃度の差が1質量%以下となるのが好ましい。本発明では、上記の製造条件を最適化すれば、25℃で2000時間大気雰囲気下での保存後の酸素濃度の増加量を0.5質量%以下とすることも期待できる。
【0034】
また本発明により得られる銅粉末の平均粒径は、0.1〜20μmで、微細な略球状の粉末である。平均粒径は、0.1〜15μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。また、連結粒子の長径が平均粒径の4倍以下であるために、溶剤や樹脂等からなるビヒクルに対して分散性が高い。
【0035】
25℃で2000時間大気放置後の酸素濃度の増加量が1質量%以下である銅粉末は、積層セラミックスコンデンサまたはチップ抵抗器、スルーホールやビア埋め用のプリント基板、電磁波シールド、太陽電池、タッチパネルなどの電子素子の原料粉末として有用である。
【0036】
3.銅ペースト
本発明
により得られる銅粉末は、溶剤や樹脂等からなるビヒクルと混合、混練させて銅ペーストとする。銅粉末以外に銅ペーストに混合される成分としては、用途に応じて、エポキシ化合物やフェノール、セルロース、アクリル化合物などの有機樹脂、分散剤、硬化剤や硬化促進剤などの添加剤、有機溶剤、Ag、Au、AlやNiなどの金属粉、シリカ、アルミナなど金属酸化物粉などを適宜選択することができる。
【0037】
銅粉末の平均粒径は、上記例示した外部電極や配線材料などの用途に応じて適宜設定すればよいが、本発明
により得られる銅粉末は、平均粒径が0.1〜20μmであり、連結粒子の長径が平均粒径の4倍以下であるため分散性が高く、また、25℃で2000時間大気雰囲気下にて保存しても、酸素濃度の上昇が低いために、これを配合した銅ペーストは、MLCCやチップ抵抗器の外部電極や電磁波シールド、スルーホールやビア埋め用のプリント基板、太陽電池やタッチパネルに代表される配線材料など電子素子の製造に好ましく使用できる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、銅粉末の製造、洗浄には、下記の原材料を使用し、物性を測定・評価した。
【0039】
「原料」
・酸化銅A:酸化第二銅(含水率5質量%、住友金属鉱山株式会社製)
・酸化銅B:酸化第二銅(含水率25質量%、住友金属鉱山株式会社製)
・水酸化銅A:水酸化銅(和光純薬工業株式会社製)
・炭酸銅A:炭酸銅(和光純薬工業株式会社製)
・シュウ酸銅A:シュウ酸銅(和光純薬工業株式会社製)
【0040】
「ポリオール」
・ポリオールA:トリエチレングリコール(関東化学株式会社製、沸点:287℃)
・ポリオールB:テトラエチレングリコール(関東化学株式会社製、沸点:327℃)
【0041】
(1)平均粒径、形状
得られた銅粉末は大きさと形状を走査型電子顕微鏡(以下、SEM)で観察し、平均粒径は画像解析した粒径測定値の平均値を示す。
【0042】
(2)酸素濃度
得られた銅粉末は、作製直後の酸素濃度(質量%)を、不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で測定した。また、25℃で2000時間大気雰囲気下に放置した後にも酸素濃度を同様に測定し、増加量を計算した。
【0043】
(3)連結粒子の長さ
得られた銅粉末をSEMで10000倍の視野で撮影し画像解析した結果、連結粒子の長径が平均粒径の4倍を超えるものがある場合を不可(×)とし、すべてが4倍以下である場合を良(○)とした。
【0044】
(4)生産性
所定量の銅粉末を得るまでに要する時間を測定し、従来と比べ同等である場合を不可(×)、時間が短縮された場合を可(△)とし、時間が著しく短縮された場合を良(○)とした。
【0045】
(5)総合評価
上記の4項目において、平均粒径が0.1〜20μm、酸素濃度の上昇が1%以下、連結粒子の長径が平均粒径の4倍以下、生産性の各条件を全て満たすか、可が一つあるものを良(○)とし、1つでも満たさないものがある場合は不可(×)とした。
【0046】
(実施例1)
酸化銅A(含水率が5質量%の酸化第二銅)を原料とし、表1の条件で原料を溶媒中に供給し、所定の設定温度にして加熱し、1時間撹拌した。その後、還元後の銅粉末を沈降させ上澄みを回収した後、残留品に純水を供給し25℃で撹拌洗浄(純水洗浄)し、再び銅粉末を沈降させ上澄みを回収後に、遠心分離機(2300rpm)で遠心脱水した。得られた銅粉を真空乾燥機に装入し、表1の条件で真空乾燥した。
作製した銅粉末は、平均粒径をSEM観察後、画像解析した。形状は略球形であった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表1に併記した。
【0047】
(実施例2、3)
表1に記載したように原料の酸化銅とポリオールの比を変え、それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表1に併記した。
【0048】
(実施例4〜8)
表1に記載したように原料の銅化合物の種類を変えるか、ポリオールの種類を変えた以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表1に併記した。
【0049】
(実施例9、10)
表1に記載したように反応温度を変え、それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表1に併記した。
【0050】
(実施例11〜14)
表1に記載したように乾燥機の温度を変えるか、時間または真空度を変えるか、乾燥時に振動を加えた以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表1に併記した。
【0051】
【表1】
【0052】
(比較例1、2)
表2に記載したように酸化銅Aとポリオールの比を変え、それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であったが、比較例2の銅粉末は連結粒子の長径が大きかった。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表2に併記した。
【0053】
(比較例3)
表2に記載したように反応温度を変え、それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析した。形状は略球形であったが、平均粒径は10μmを超えていた。酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表2に併記した。
【0054】
(比較例4〜6)
表2に記載したように真空乾燥機の設定温度と時間と真空度を変え、それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析し、酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表2に併記した。
【0055】
(比較例7)
表2に記載したように真空乾燥機の真空ポンプを稼働せずに、通常の乾燥機代わりとして真空乾燥機を用いた。それ以外は実施例1と同様にして銅粉末を作製した。作製した銅粉末の平均粒径をSEMの観察後、画像解析し、酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。これらの結果は表2に併記した。
【0056】
(参考例1〜3)
前記原料、ポリオールを用いて製造していない市販の銅粉末を用意し、平均粒径をSEMの観察後、画像解析し、酸素濃度を不活性ガスインパルス加熱融解赤外吸収法(型式:TC−436AR,LECO社製)で分析した。
参考例1は三井金属工業株式会社製の電解銅粉(品名:ECY)、参考例2は三井金属工業株式会社製の湿式銅粉(品名:1100Y)、参考例3は三井金属工業株式会社製のアトマイズ銅粉(品名:MA−C025K)であり、それぞれの結果を表2に併記した。
【0057】
【表2】
【0058】
「評価」
上記結果を示す表1から明らかなように、実施例1〜14の銅粉末は、銅化合物とポリオールの比および反応温度を所定の範囲とし、適切な乾燥を行っているので、作製した銅粉末の粒径、酸素濃度の上昇が小さく、生産性、コストメリットが優れていることがわかる。なお、実施例3、10、13は酸素濃度上昇がやや高く、実施例2、11は生産性の面でやや劣るが、いずれも実用上問題のないレベルである。
【0059】
これに対し、比較例1は、銅化合物とポリオールの比で銅化合物を本発明の好ましい範囲よりも低くしたため、生産性が悪く、工業的に不利になり不可となった。比較例2は、銅化合物とポリオールの比で銅化合物を本発明の好ましい範囲よりも高くしたため、十分に還元反応が進まず生産性が悪く、連結粒子の長さ評価も悪くなった。比較例3は、反応温度が本発明の好ましい範囲より低いため、還元反応が適切に進まず生産性が悪くなった。
また、比較例4は、乾燥温度を本発明の好ましい範囲よりも低くしたため、乾燥が十分でなく酸素濃度上昇が高く、生産性も悪く不可となった。比較例5は、乾燥時間を本発明の好ましい範囲よりも短くしたため、乾燥が十分でなく酸素濃度上昇が高く不可となった。比較例6は、乾燥時の真空度が本発明よりも弱いため、乾燥が十分でなく酸素濃度上昇が高く不可となった。さらに、比較例7は、乾燥時に真空ポンプを使用しなかったため通常の温風乾燥機での乾燥となり、生産性が悪くなり酸素濃度上昇も高く不可となった。
【0060】
また、参考例1〜3は、原材料として、銅化合物とポリオールを用いず、他の製法による銅粉末を用いており、いずれも25℃で2000時間大気保存後の酸素濃度の増加量が高くなり不可となった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明
により得られる銅粉末は、平均粒径が0.1〜20μmと微細で、25℃で2000時間大気放置しても酸素濃度が上昇しないので、各種電子素子の原料として適用できる。
また、本発明
により得られる銅粉末を配合した銅ペーストは、MLCCの内部や外部電極、チップ抵抗器の外部電極、電磁波シールド、各種導電性接着剤、スルーホールやビア埋め用プリント基板、太陽電池・タッチパネルなどの配線材料として、作製後の銅粉末が酸化し難く、高い生産性を維持できるため、その工業的価値は極めて大きい。