特許第6296642号(P6296642)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星エスディアイ株式会社の特許一覧

特許6296642正極活物質、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296642
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】正極活物質、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20180312BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180312BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   C01G53/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-246227(P2013-246227)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-116303(P2014-116303A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年10月28日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0142013
(32)【優先日】2012年12月7日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(72)【発明者】
【氏名】ゾ、ユンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ゾンソク
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、イホ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ピルサン
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−038561(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0056590(US,A1)
【文献】 特開2001−222995(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165654(WO,A1)
【文献】 特開2007−048711(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0292763(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0013673(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
WPI
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造のLiMnOを含み、
およびMoからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物がドーピングされた正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質は、化学式LiNiCoMnM’2−x(ここで、M’:WおよびMoからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されるリチウム過量のリチウム金属複合化合物である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記正極活物質は、菱面体晶LiMO(ここで、MはNi、CoおよびMn)と、単斜晶LiMnOとを含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記多価の酸化数の元素は、0.1mol以下でドーピングされる、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極活物質の合剤密度は、2.5g/cc以上である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記フルオロ化合物は、LiFまたはNHFである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記フルオロ化合物は、Li当量の1〜10mol%ドーピングされる、請求項6に記載の正極活物質。
【請求項8】
層状構造のLiMnOを含む正極活物質の製造方法であって、
遷移金属化合物前駆体を合成するステップ、および
W、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物と、リチウム供給源、および前記遷移金属化合物前駆体を混合した後、600〜800℃で熱処理するステップ、
を含む正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記正極活物質は、化学式LiNiCoMnM’2−x(ここで、M’:W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されるリチウム過量のリチウム金属複合化合物である、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記多価の酸化数の元素は、0.1mol以下でドーピングされる、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記フルオロ化合物は、LiFまたはNHFである、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記フルオロ化合物は、Li当量の1〜10mol%ドーピングされる、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記正極活物質の合剤密度は、2.5g/cc以上である、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記遷移金属化合物前駆体は、pH10〜12の範囲内で合成される、請求項8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極、
負極活物質を含む負極、および
前記正極と前記負極との間に存在する電解質、
を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用の正極活物質、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池に関し、より詳しくは、リチウムを過量に含んだ層状構造のLiMnOを含むリチウム金属複合酸化物にフルオロ化合物と、酸化数を1〜6まで様々に有するW、Mo、V、Crのうちの1つ以上を共にドーピングする、高容量/長寿命のリチウム二次電池に用いられる正極活物質の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
IT技術が発達するにともなってリチウムイオン二次電池のバッテリー容量と寿命も共に発達してきたが、これは、従来の素材であるLCOに基づいたセル設計の発展といえる。
【0003】
しかし、セル設計に基づいて発展してきた高容量バッテリーも最近のスマート機器と電気自動車などに用いるには容量限界に達し、新たなリチウム二次電池素材の必要性が台頭している。二次電池の容量は正極活物質に大きく依存しており、そのため、最近、リチウムを過量に含んだ層状構造のLiMnOを含むリチウム金属複合化合物に関する研究が進められている。
【0004】
LiMnOは、Liを従来の素材に比べて2倍ほど含んでいても、1回の充電で相が変化し、酸素が発生して放電容量が顕著に下がり、Mnの酸化数が+4として全体的に非常に安定した化合物であって、従来のリチウムイオン二次電池に比べて4.4V以上の高電圧においてのみLiが脱離して負極に移動し、電気陰性度も非常に低いため、迅速な充放電時には容量発現が難しい素材であり、単独で正極活物質として用いるには解決しなければならない問題点が多いので実用化されていない。
【0005】
また、LiMnOを含む正極活物質は、初期充電時にLiが脱離すれば、下記式のような不可逆反応が進められ、そのため、初期充電で脱離して負極に移動したLiが放電時に再び正極に戻ることができず、実際の充放電時には容量が下がるという問題点と、酸素が発生して電池内部の圧力が上昇するという問題点が発生する。
【0006】
LiMnO→2Li+MnO+1/2O→LiMnO+Li+1/2O
【0007】
また、放電時に正極内部に挿入されなかったLiは負極表面から析出されるか、電解液との付加反応によって正極表面に不導体の被膜を形成してリチウム脱挿入速度を低下させるという問題点を発生させている。
【0008】
一方、特許文献1においては、安価で且つ構造的安定性に優れたLiMnOにおいて、酸素元素を−1価作用をする元素で一部置換して化学式LiMnO3−x(ここで、Aは−1価の酸化数を有する元素であって、フッ素と塩素などのハロゲン元素または遷移金属元素であり、0<x<1である)で表されるリチウムマンガン酸化物が正極活物質の全重量に対して50重量%以上で含まれている正極活物質が提案されている。
【0009】
しかし、前記特許文献1は、「本発明による化学式1のリチウムマンガン酸化物は、例えば、リチウム供給源としての「リチウム化合物」、マンガン供給源としての「マンガン化合物」、およびドーピング元素供給源としての「A含有金属化合物」を所定の含量範囲で混合して熱処理する方法で製造されることができ、前記リチウム化合物、マンガン化合物、A含有金属化合物などは当業界で公知されているため、それに関する説明は本明細書では省略する。」のように開示しているだけであって、このような正極活物質の製造方法、それによって製造された正極活物質の粒子大きさ、比表面積などの基本的な特性条件については全く開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】大韓民国公開10−2009−0006897A公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような先行技術の問題点を解決するために、4.4V以上の高電圧での充放電による正極活物質粒子の表面と電解液との副反応を防止して電池の寿命が向上し、副反応の沈殿物によって電池極板に生成される不導体の被膜形成を抑制して電池極板と電解液との間の抵抗を減少させることによってレート特性が向上する正極活物質を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、不可逆容量を減少させて高容量を発現することができ、極板の製造時に極板の密度が高いため、比容量のみならず体積当たりの容量も高めることができる正極活物質を提供することを目的とする。
【0013】
なお、上記のような正極活物質の製造方法およびそれを含む二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記のような課題を解決するために、本発明は次のような実施形態を提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、層状構造のLiMnOを含み、W、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物がドーピングされた正極活物質を提供する。
【0016】
前記実施形態において、正極活物質を構成するリチウム金属複合化合物は、層状構造のLiMnOを含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、好ましくは、化学式LiNiCoMnM'2−x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されるリチウム過量のリチウム金属複合化合物であってもよく、菱面体晶LiMO(ここで、MはNi、CoおよびMn)と、単斜晶LiMnOとを含むことができる。
【0017】
前記実施形態において、前記フルオロ化合物はLiFまたはNHFであり、Li当量の1〜10mol%ドーピングされることができる。
【0018】
前記フルオロ化合物の添加量が1mol%以下の場合は、フルオロ化合物の添加効果が明らかに示されず、10mol%以上の場合は、電池特性が減少するので好ましくない。
【0019】
前記フルオロ化合物を添加すれば、上記の化学式LiNiCoMnM'2−x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)のようにフルオロが酸素を置換する。
【0020】
酸素のみからなる場合、Liが+1価、Niの酸化数は+2、Coの酸化数は+3、Mnの酸化数は+4をなす。リチウムが脱離する放電時には、Liが負極に移動し、リチウム金属酸化物の平均電荷を合わせるためにNiは+2価から+4価に、Coは+3価から+4価に酸化数の変更がなされるが、Mnは+4価として安定化した状態であり、酸化数の変更がなされない。しかし、4.4V以上においてはMn周辺の遷移金属層内にあったLiが脱離してMn周辺の酸素が電子を失い、中性酸素となってガスとして排出される。この時、酸素の代わりにフルオロ化合物をドーピングすれば、Mnの酸化数が+4から+4以上に酸化し、4.4V以上の電圧において酸素の酸化数の変更を抑制して酸素発生量を減少させ、フルオロの原子半径が酸素に比べて小さいので、遷移金属複合酸化物の結晶格子間に間隔が増加してLiの脱挿入が容易となる。
【0021】
LiF、NHF、ZrF、AlFなどのフルオロ化合物を正極活物質の表面にコーティングする場合は、電解液と正極活物質の副反応を抑制する効果で本発明のように酸素を置換することによってMnの酸化数の変化を通じた容量増加現象および酸素発生抑制の効果は期待し難い。
【0022】
前記多価の酸化数の元素は0.1mol以下でドーピングされることができる。
【0023】
前記元素の添加量が0.1molより多い場合は、正極活物質の結晶構造内にドーピングされずに二次相として現れるようになり、電池の容量およびレート特性が低下するという問題点が発生する。
【0024】
陰イオンとしてFと共にW、Mo、V、Cr元素を添加する場合、同一温度で添加しない場合に比べて合剤密度が増加するため、これらの陰イオンを上記のように適正量で添加することによって、前記正極活物質の合剤密度を2.5g/cc以上にすることが好ましい。しかし、合剤密度を3.5g/cc以上に高めるために添加するFと共にW、Mo、V、Cr量を増加させれば、かえって電池容量およびレート特性が減少するので好ましくない。また、FあるいはW、Mo、V、Crを添加しない場合は、2.2g/cc以下としてエネルギー密度が低くなる。
【0025】
合剤密度は粒子大きさ、稠密度と高い相関性を示しており、これは、熱処理温度と比例関係にあることを実験的に把握することができた。しかし、800℃以上の高温熱処理を行う場合、1次粒子の大きさが増加し、1次粒子の凝集体である2次粒子の大きさが増加して、容量特性が減少するという点が発見され、合剤密度の改善のために800℃以上の温度で熱処理を行うことができず、容量特性の確保のために600℃以下で熱処理を行った結果、容量特性の低下はなかったものの、寿命特性が劣化するという問題点が現れた。
【0026】
そこで、本発明においては、熱処理工程中、粒子内部のガスが排出され、気孔が徐々に閉じられて、稠密度が向上できるように低温で熱処理を行い、この時、低温においても結晶性を確保して電池の寿命特性が劣化することを防止するために、フルオロ化合物と、W、Mo、V、Crのような多価の酸化数の金属イオンを同時にドーピングしたものである。
【0027】
フルオロ化合物をドーピングする場合、TG−DTAを通じてLiCOと遷移金属水酸化物からなる前駆体との固溶反応開始温度がフルオロ化合物を添加時に100℃ほど低くなることを確認することができ、フルオロ化合物だけを添加する場合にも合剤密度向上の効果はあったが、フルオロ化合物と、W、Mo、V、Crなどの金属イオンを共にドーピングする場合に粒子稠密度がより大幅に向上した。
【0028】
したがって、本発明においては、800℃以下の低温、好ましくは600℃〜800℃で粒子の稠密度が向上した正極活物質を製造することができ、このような粉末を用いて電極を作って合剤密度を測定した結果、2.5g/cc以上の高い値を得ることができ、この時、比容量も250mAh/g以上を得ることができた。
【0029】
このような結果は、リチウムが固溶している正極活物質の表面にフルオロ化合物をコーティングする場合とは区別され、正極活物質の表面を制御するコーティングを行う場合、比容量はかえって減少し、合剤密度は維持あるいは減少する傾向を示した。
【0030】
また、本発明においては、W、Mo、V、Crのように酸化数が1〜6まで様々な物質をドーピングして、1次充電時に発生する酸素量を減少させることができ、その後、正極に挿入されないリチウム量を減少させて不可逆容量も減少させ、窮極的に容量を向上させることができる。また、フルオロ成分と、多価の酸化数を有する物質をドーピングする場合、正極活物質の合剤密度を2.5g/cc以上確保することができ、体積当たりの容量であるエネルギー密度も改善することができた。
【0031】
他の実施形態において、本発明は、層状構造のLiMnOを含む正極活物質の製造方法であって、遷移金属化合物前駆体を合成するステップ、およびW、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物と、リチウム供給源、および前記遷移金属化合物前駆体を混合した後、600〜800℃で熱処理するステップを含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の前記実施形態によるリチウム金属複合化合物は、層状構造のLiMnOを含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、好ましくは、化学式LiNiCoMnM'2−x(ここで、M':W、V、Mo、Crのうちの1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されることができる。
【0033】
このような組成のリチウム金属複合化合物は、水酸化物形態の遷移金属水酸化物前駆体を合成した後、リチウム供給源としてLiCOまたはLiOHと、フルオロ化合物であるLiFまたはNHF、および酸化数1〜6を有するW、V、Mo、Crのうちの1つ以上の多価の酸化数の元素を混合した後、600〜800℃の温度範囲で熱処理して製造することができる。
【0034】
遷移金属水酸化物形態の前駆体の合成のためには、水に溶解する塩の形態として、ニッケル硫酸塩、ニッケル硝酸塩、ニッケル炭酸塩のうちの1種と、コバルト硫酸塩、コバルト硝酸塩、コバルト炭酸塩のうちの1種、およびマンガン硫酸塩、マンガン硝酸塩、マンガン炭酸塩のうちの1種を一定のモル濃度で水溶液を製造した後、NaOH、NHOH、KOHなどの塩基を用いてpH10以上において水酸化物の形態で沈殿させる。この時、pHが10より低い場合は、粒子の核生成速度より粒子の凝集速度が大きいので粒子大きさが3μm以上成長し、pHが12より高い場合は、粒子の核生成速度が粒子の凝集速度より大きいので粒子の凝集に行われず、Ni、Co、Mnの各成分が均質に含まれた遷移金属水酸化物を得ることが難しいため、前記実施形態において、前記遷移金属化合物前駆体はpH10〜12の範囲内で合成されることができる。
【0035】
前駆体の共沈工程中、pH6〜9においてNaHCO、NaCO、(NHCO、KCO、CaCOなどの炭酸塩を用いて沈殿物を得て、−CO形態の遷移金属炭酸塩前駆体を合成する場合は高い合剤密度を実現することができない。これは、前駆体とリチウム塩、フルオロ化合物と、ドーピング金属元素を熱処理する過程において、前駆体に含まれた炭酸が熱処理工程中に二酸化炭素と酸素に分解される過程で正極活物質の表面のみならず内部にも気孔を作って粉末粒子の稠密度を減少させるためである。
【0036】
このように沈殿した粉末の表面に吸着しているSO2−、NH、NO、Na、Kなどを蒸留水で数回洗浄して高純度の遷移金属水酸化物前駆体を合成する。このように合成された遷移金属水酸化物前駆体を150℃のオーブンで24時間以上乾燥し、水分含有量が0.1wt%以下になるようにする。
【0037】
このように製造された前記遷移金属化合物前駆体は、化学式NiCoMn(OH)(0.1≦a<0.5、0≦b<0.7、0.2≦c<0.9、a+b+c=1)で表される遷移金属水酸化物の形態であってもよい。
【0038】
乾燥が完了した遷移金属水酸化物前駆体と、リチウム供給源LiCOあるいはLiOHと、フルオロ化合物LiFまたはNHFなど、および酸化数1〜6を有するW、V、Mo、Crのうちの1つ以上の多価の酸化数の元素を均質に混合した後に熱処理すれば、リチウム金属複合化合物の製造が可能である。
【0039】
600℃以下の温度においては、LiCOと遷移金属化合物との間の固溶がなされず、XRDで確認した結果、二次相が生成されたことを確認することができ、800℃以上の温度においては、粒子サイズが5μm以上成長して電池特性が減少するので、熱処理は600〜800℃の範囲内で行うことが好ましい。
【0040】
また、前記フルオロ化合物はLiFまたはNHFであり、Li当量の1〜10mol%ドーピングされることができる。
【0041】
前記フルオロ化合物の添加量が1mol%以下の場合は、フルオロ化合物の添加効果が明らかに示されず、10mol%以上の場合は、電池特性が減少するので好ましくない。
【0042】
前記多価の酸化数の元素は0.1mol以下でドーピングされることができる。
【0043】
前記元素の添加量が0.1molより多い場合は、正極活物質の結晶構造内にドーピングされずに二次相として現れるようになり、電池の容量およびレート特性が低下するという問題点が発生する。
【0044】
また他の実施形態において、本発明は、前記正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極、および前記正極と前記負極との間に存在する電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0045】
本発明によって製造された正極活物質は、比容量と合剤密度が高いので電池のエネルギー密度が大きく、寿命とハイレート特性に優れる。
【0046】
すなわち、本発明によって製造された正極活物質を用いたリチウム二次電池は、4.4V以上の高電圧での充放電による正極活物質粒子の表面と電解液との副反応を減少させて電池の寿命が向上し、副反応の沈殿物によって電池極板に生成される不導体の被膜形成を抑制して電池極板と電解液との間の抵抗を減少させることによってレート特性が向上できる。また、不可逆容量を減少させて高容量を発現することができ、電池極板の製造時に電池極板の密度が高いため、比容量のみならず体積当たりの容量も高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
正極活物質>
【0048】
本発明の正極活物質は、層状構造のLiMnOを含み、W、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物がドーピングなっている。
【0049】
前記正極活物質を構成するリチウム金属複合化合物は、層状構造のLiMnOを含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、好ましくは、化学式LiNiCoMnM'2−x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されるリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、菱面体晶LiMO(ここで、MはNi、CoおよびMn)と、単斜晶LiMnOとを含むことができる。
【0050】
前記フルオロ化合物はLiFまたはNHFであり、Li当量の1〜10mol%が混合される。
【0051】
前記多価の酸化数の元素は0.1mol以下でドーピングされる。
【0052】
上記のような本発明による正極活物質は、次のような製造方法によって製造されることができる。
【0053】
正極活物質の製造方法>
【0054】
本発明による正極活物質は、層状構造のLiMnOを含む正極活物質の製造方法であって、遷移金属化合物前駆体を合成するステップ、およびW、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物と、リチウム供給源、および前記遷移金属化合物前駆体を混合した後、600〜800℃で熱処理するステップを含む正極活物質の製造方法によって製造される。
【0055】
本発明による正極活物質は、化学式LiNiCoMnM'2−x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表される。
【0056】
このような組成のリチウム金属複合化合物は、水酸化物形態の遷移金属水酸化物前駆体を合成した後、合成された前駆体と、リチウム供給源、フルオロ化合物、多価の酸化数の元素を混合した後、600〜800℃の温度範囲で熱処理して製造する。
【0057】
前記遷移金属化合物前駆体はpH10〜12の範囲内で合成され、化学式NiCoMn(OH)(0.1≦a<0.5、0≦b<0.7、0.2≦c<0.9、a+b+c=1)で表される遷移金属水酸化物の形態である。
【0058】
乾燥が完了した遷移金属水酸化物前駆体、リチウム供給源LiCOあるいはLiOH、Li当量の1〜10mol%のフルオロ化合物LiFまたはNHF、0.1mol以下の酸化数1〜6を有するW、V、Mo、Crのうちの1つ以上の多価の酸化数の元素を均質に混合した後、600〜800℃の温度範囲で熱処理してリチウム金属複合化合物を製造する。
【0059】
正極活物質を含むリチウム二次電池>
【0060】
本発明による正極活物質は、リチウム二次電池の正極素材として活用されることができ、正極活物質の組成および結晶構造などを除いては公知の二次電池と同様の構造を有し、公知の同様の製造方法によって製造されることができるので、その詳細な説明は省略する。
【0061】
以下では、添付図面を参照し、本発明による正極活物質の製造方法およびそれによって製造された正極活物質を含むリチウム二次電池について好ましい実施例および比較例を通じて詳しく説明する。但し、このような実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明がこのような実施例によって限定されると解釈してなならない。
<実施例1>
【0062】
1)遷移金属水酸化物前駆体の合成
【0063】
Ni:Co:Mnのモル比を2:2:6の組成になるように遷移金属混合溶液を製造する。このように製造された遷移金属混合溶液はpHが5であり、pH11に制御される連続反応器に一定速度で注入する。この時、NHOHとNaOHを用いてpHが11になるように維持し、連続反応器の内部で10時間ほど留まるように反応時間を制御する。この時、反応器の温度は40℃に調節し、遷移金属水酸化物の沈殿物が酸化しないようにNガスを反応器内に注入する。このように合成された遷移金属水酸化物の粉末表面に吸着している水溶性イオンを除去するために蒸留水で繰り返し洗浄し、フィルターを用いて粉末を濾過した後、150℃のオーブンで乾燥して遷移金属水酸化物前駆体を得た。遷移金属水酸化物前駆体の組成は、化学式NiCoMn(OH)(0.1≦a<0.5、0≦b<0.7、0.2≦c<0.9、a+b+c=1)で表すことができる。
【0064】
2)リチウム金属複合酸化物(正極活物質)の合成
【0065】
前記1)で合成した遷移金属水酸化物前駆体と、LiCO、LiF、およびWClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得た。
【0066】
3)電池特性の評価
【0067】
初期充電と放電容量および寿命特性を評価するために、前記2)で合成された正極活物質と、導電材としてDenka Black、バインダーとしてポリビニリデンフルオリド(PVDF)を92:4:4の比率で混合してスラリーを製造した。前記スラリーをアルミニウム(Al)箔上に均一にコーティングして正極電極の極板を製作した。
【0068】
負極としては、リチウム金属、電解質としては、1.3M LiPF6 EC/DMC/EC=5:3:2溶液を用いてコイン電池を製作し、次のような項目に対して測定した結果を次の表2に示す。
【0069】
*電池容量:0.1Cで充放電を実施、2.5V〜4.7V
【0070】
*ハイレート特性:(3Cにおける放電容量/0.33Cにおける放電容量)*100、2.5V〜4.6V
【0071】
*寿命特性:(50回の充放電後の放電容量/初期放電容量)*100、1Cで充放電を実施、2.5V〜4.6V
【0072】
*合剤密度:(電極の重さ−集電体箔の重さ)/(電極の断面積*(電極の厚さ−箔の厚さ))
【0073】
*エネルギー密度:1次放電容量*合剤密度*0.92(0.92:電極製造時の活物質+導電剤+バインダー中の活物質の比率)
<実施例2>
【0074】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiF、WClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
<実施例3>
【0075】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiF、WClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
<実施例4>
【0076】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiF、MoClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
<実施例5>
【0077】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiF、VClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
<実施例6>
【0078】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiF、CrClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
【0079】
<比較例1>
【0080】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、WClを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
【0081】
<比較例2>
【0082】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCO、LiFを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
【0083】
<比較例3>
【0084】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCOを次の表1のように混合した後、2℃/minの速度で昇温し、750℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
【0085】
<比較例4>
【0086】
実施例1と同様の遷移金属水酸化物前駆体を用い、前駆体と、LiCOを次の表1のように混合した後、700℃で10時間焼成してリチウム金属複合酸化物の粉末を得た。次に、LiF 4.0gを焼成が完了した粉末の表面に均一にコーティングし、コーティング粉末がよく付着するように400℃で熱処理を行い、同様の方式で評価した結果を次の表2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
上記の表2から分かるように、フルオロ化合物がドーピングされていない比較例1、多価の酸化数の元素がドーピングされていない比較例2、およびこれらの全てがドーピングされていない比較例3に比べ、実施例1〜実施例6の場合は、合剤密度、ハイレート特性、寿命特性が全般的に向上したことが分かる。
【0090】
また、フルオロ化合物がドーピングされず、表面にコーティングされた比較例4の場合も本発明による実施例による効果を得ることができないということを確認することができる。