【課題を解決するための手段】
【0014】
前記のような課題を解決するために、本発明は次のような実施形態を提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、層状構造のLi
2MnO
3を含み、W、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物がドーピングされた正極活物質を提供する。
【0016】
前記実施形態において、正極活物質を構成するリチウム金属複合化合物は、層状構造のLi
2MnO
3を含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、好ましくは、化学式Li
aNi
bCo
cMn
dM'
yO
2−xF
x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されるリチウム過量のリチウム金属複合化合物であってもよく、菱面体晶LiMO
2(ここで、MはNi、CoおよびMn)と、単斜晶Li
2MnO
3とを含むことができる。
【0017】
前記実施形態において、前記フルオロ化合物はLiFまたはNH
4Fであり、Li当量の1〜10mol%ドーピングされることができる。
【0018】
前記フルオロ化合物の添加量が1mol%以下の場合は、フルオロ化合物の添加効果が明らかに示されず、10mol%以上の場合は、電池特性が減少するので好ましくない。
【0019】
前記フルオロ化合物を添加すれば、上記の化学式Li
aNi
bCo
cMn
dM'
yO
2−xF
x(ここで、M':W、V、MoおよびCrからなる群から選択される1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)のようにフルオロが酸素を置換する。
【0020】
酸素のみからなる場合、Liが+1価、Niの酸化数は+2、Coの酸化数は+3、Mnの酸化数は+4をなす。リチウムが脱離する放電時には、Liが負極に移動し、リチウム金属酸化物の平均電荷を合わせるためにNiは+2価から+4価に、Coは+3価から+4価に酸化数の変更がなされるが、Mnは+4価として安定化した状態であり、酸化数の変更がなされない。しかし、4.4V以上においてはMn周辺の遷移金属層内にあったLiが脱離してMn周辺の酸素が電子を失い、中性酸素となってガスとして排出される。この時、酸素の代わりにフルオロ化合物をドーピングすれば、Mnの酸化数が+4から+4以上に酸化し、4.4V以上の電圧において酸素の酸化数の変更を抑制して酸素発生量を減少させ、フルオロの原子半径が酸素に比べて小さいので、遷移金属複合酸化物の結晶格子間に間隔が増加してLiの脱挿入が容易となる。
【0021】
LiF、NH
4F、ZrF
4、AlF
3などのフルオロ化合物を正極活物質の表面にコーティングする場合は、電解液と正極活物質の副反応を抑制する効果で本発明のように酸素を置換することによってMnの酸化数の変化を通じた容量増加現象および酸素発生抑制の効果は期待し難い。
【0022】
前記多価の酸化数の元素は0.1mol以下でドーピングされることができる。
【0023】
前記元素の添加量が0.1molより多い場合は、正極活物質の結晶構造内にドーピングされずに二次相として現れるようになり、電池の容量およびレート特性が低下するという問題点が発生する。
【0024】
陰イオンとしてFと共にW、Mo、V、Cr元素を添加する場合、同一温度で添加しない場合に比べて合剤密度が増加するため、これらの陰イオンを上記のように適正量で添加することによって、前記正極活物質の合剤密度を2.5g/cc以上にすることが好ましい。しかし、合剤密度を3.5g/cc以上に高めるために添加するFと共にW、Mo、V、Cr量を増加させれば、かえって電池容量およびレート特性が減少するので好ましくない。また、FあるいはW、Mo、V、Crを添加しない場合は、2.2g/cc以下としてエネルギー密度が低くなる。
【0025】
合剤密度は粒子大きさ、稠密度と高い相関性を示しており、これは、熱処理温度と比例関係にあることを実験的に把握することができた。しかし、800℃以上の高温熱処理を行う場合、1次粒子の大きさが増加し、1次粒子の凝集体である2次粒子の大きさが増加して、容量特性が減少するという点が発見され、合剤密度の改善のために800℃以上の温度で熱処理を行うことができず、容量特性の確保のために600℃以下で熱処理を行った結果、容量特性の低下はなかったものの、寿命特性が劣化するという問題点が現れた。
【0026】
そこで、本発明においては、熱処理工程中、粒子内部のガスが排出され、気孔が徐々に閉じられて、稠密度が向上できるように低温で熱処理を行い、この時、低温においても結晶性を確保して電池の寿命特性が劣化することを防止するために、フルオロ化合物と、W、Mo、V、Crのような多価の酸化数の金属イオンを同時にドーピングしたものである。
【0027】
フルオロ化合物をドーピングする場合、TG−DTAを通じてLi
2CO
3と遷移金属水酸化物からなる前駆体との固溶反応開始温度がフルオロ化合物を添加時に100℃ほど低くなることを確認することができ、フルオロ化合物だけを添加する場合にも合剤密度向上の効果はあったが、フルオロ化合物と、W、Mo、V、Crなどの金属イオンを共にドーピングする場合に粒子稠密度がより大幅に向上した。
【0028】
したがって、本発明においては、800℃以下の低温、好ましくは600℃〜800℃で粒子の稠密度が向上した正極活物質を製造することができ、このような粉末を用いて電極を作って合剤密度を測定した結果、2.5g/cc以上の高い値を得ることができ、この時、比容量も250mAh/g以上を得ることができた。
【0029】
このような結果は、リチウムが固溶している正極活物質の表面にフルオロ化合物をコーティングする場合とは区別され、正極活物質の表面を制御するコーティングを行う場合、比容量はかえって減少し、合剤密度は維持あるいは減少する傾向を示した。
【0030】
また、本発明においては、W、Mo、V、Crのように酸化数が1〜6まで様々な物質をドーピングして、1次充電時に発生する酸素量を減少させることができ、その後、正極に挿入されないリチウム量を減少させて不可逆容量も減少させ、窮極的に容量を向上させることができる。また、フルオロ成分と、多価の酸化数を有する物質をドーピングする場合、正極活物質の合剤密度を2.5g/cc以上確保することができ、体積当たりの容量であるエネルギー密度も改善することができた。
【0031】
他の実施形態において、本発明は、層状構造のLi
2MnO
3を含む正極活物質の製造方法であって、遷移金属化合物前駆体を合成するステップ、およびW、Mo、V、およびCrからなる群から選択される1つ以上の多価の酸化数の元素と、フルオロ化合物と、リチウム供給源、および前記遷移金属化合物前駆体を混合した後、600〜800℃で熱処理するステップを含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の前記実施形態によるリチウム金属複合化合物は、層状構造のLi
2MnO
3を含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物であり、好ましくは、化学式Li
aNi
bCo
cMn
dM'
yO
2−xF
x(ここで、M':W、V、Mo、Crのうちの1つ以上、1.1≦a<1.3、0<b≦0.5、0≦c<0.7、0.1<d<0.7、0<x<0.15、0≦y<0.1)で表されることができる。
【0033】
このような組成のリチウム金属複合化合物は、水酸化物形態の遷移金属水酸化物前駆体を合成した後、リチウム供給源としてLi
2CO
3またはLiOHと、フルオロ化合物であるLiFまたはNH
4F、および酸化数1〜6を有するW、V、Mo、Crのうちの1つ以上の多価の酸化数の元素を混合した後、600〜800℃の温度範囲で熱処理して製造することができる。
【0034】
遷移金属水酸化物形態の前駆体の合成のためには、水に溶解する塩の形態として、ニッケル硫酸塩、ニッケル硝酸塩、ニッケル炭酸塩のうちの1種と、コバルト硫酸塩、コバルト硝酸塩、コバルト炭酸塩のうちの1種、およびマンガン硫酸塩、マンガン硝酸塩、マンガン炭酸塩のうちの1種を一定のモル濃度で水溶液を製造した後、NaOH、NH
4OH、KOHなどの塩基を用いてpH10以上において水酸化物の形態で沈殿させる。この時、pHが10より低い場合は、粒子の核生成速度より粒子の凝集速度が大きいので粒子大きさが3μm以上成長し、pHが12より高い場合は、粒子の核生成速度が粒子の凝集速度より大きいので粒子の凝集に行われず、Ni、Co、Mnの各成分が均質に含まれた遷移金属水酸化物を得ることが難しいため、前記実施形態において、前記遷移金属化合物前駆体はpH10〜12の範囲内で合成されることができる。
【0035】
前駆体の共沈工程中、pH6〜9においてNaHCO
3、Na
2CO
3、(NH
4)
2CO
3、K
2CO
3、CaCO
3などの炭酸塩を用いて沈殿物を得て、−CO
3形態の遷移金属炭酸塩前駆体を合成する場合は高い合剤密度を実現することができない。これは、前駆体とリチウム塩、フルオロ化合物と、ドーピング金属元素を熱処理する過程において、前駆体に含まれた炭酸が熱処理工程中に二酸化炭素と酸素に分解される過程で正極活物質の表面のみならず内部にも気孔を作って粉末粒子の稠密度を減少させるためである。
【0036】
このように沈殿した粉末の表面に吸着しているSO
42−、NH
4+、NO
3−、Na
+、K
+などを蒸留水で数回洗浄して高純度の遷移金属水酸化物前駆体を合成する。このように合成された遷移金属水酸化物前駆体を150℃のオーブンで24時間以上乾燥し、水分含有量が0.1wt%以下になるようにする。
【0037】
このように製造された前記遷移金属化合物前駆体は、化学式Ni
aCo
bMn
c(OH)
2(0.1≦a<0.5、0≦b<0.7、0.2≦c<0.9、a+b+c=1)で表される遷移金属水酸化物の形態であってもよい。
【0038】
乾燥が完了した遷移金属水酸化物前駆体と、リチウム供給源Li
2CO
3あるいはLiOHと、フルオロ化合物LiFまたはNH
4Fなど、および酸化数1〜6を有するW、V、Mo、Crのうちの1つ以上の多価の酸化数の元素を均質に混合した後に熱処理すれば、リチウム金属複合化合物の製造が可能である。
【0039】
600℃以下の温度においては、Li
2CO
3と遷移金属化合物との間の固溶がなされず、XRDで確認した結果、二次相が生成されたことを確認することができ、800℃以上の温度においては、粒子サイズが5μm以上成長して電池特性が減少するので、熱処理は600〜800℃の範囲内で行うことが好ましい。
【0040】
また、前記フルオロ化合物はLiFまたはNH
4Fであり、Li当量の1〜10mol%ドーピングされることができる。
【0041】
前記フルオロ化合物の添加量が1mol%以下の場合は、フルオロ化合物の添加効果が明らかに示されず、10mol%以上の場合は、電池特性が減少するので好ましくない。
【0042】
前記多価の酸化数の元素は0.1mol以下でドーピングされることができる。
【0043】
前記元素の添加量が0.1molより多い場合は、正極活物質の結晶構造内にドーピングされずに二次相として現れるようになり、電池の容量およびレート特性が低下するという問題点が発生する。
【0044】
また他の実施形態において、本発明は、前記正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極、および前記正極と前記負極との間に存在する電解質を含むリチウム二次電池を提供する。