(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄の微粒子の表面に酸化アルミニウム層が形成されたコアシェル構造の原料粒子に、窒化処理を施し、コアシェル構造を維持しつつ、鉄の微粒子を窒化させる窒化処理工程を有し、
前記窒化処理工程の前に、前記原料粒子に酸化処理を施す酸化処理工程と、前記酸化処理された前記原料粒子に還元処理を施す還元処理工程とを有し、
前記窒化処理工程では、前記還元処理された前記原料粒子に前記窒化処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
前記乾燥・還元処理は、水素ガスまたは水素ガスを含む不活性ガスを供給しつつ、水素ガス雰囲気中または前記水素ガスを含む不活性ガス雰囲気中で前記原料粒子を200℃〜500℃の温度に加熱し、1〜20時間保持して行う請求項2に記載の磁性粒子の製造方法。
前記還元処理は、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを前記原料粒子に供給しつつ、200℃〜500℃の温度に加熱し、1〜20時間保持して行う請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
前記窒化処理は、窒素元素を含むガスを前記原料粒子に供給しつつ、140℃〜200℃の温度に加熱し、3〜50時間保持して行う請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の磁性粒子の製造方法、磁性粒子および磁性体を詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の磁性粒子を示す模式的断面図であり、(b)は、原料粒子を示す模式的断面図である。
図2は、磁性粒子および原料粒子の磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)の一例を示すグラフである。
図1(a)に示すように、本実施形態の磁性粒子10は、窒化鉄の微粒子12(コア)の表面に、酸化アルミニウム層(Al
2O
3層)14(シェル)が形成されたコアシェル構造を有する球状粒子である。
磁性粒子10は、球状粒子であり、その粒径が50nm程度であるが、好ましくは、5〜50nmである。なお、粒径は比表面積測定から換算し、求めた値である。
【0016】
磁性粒子10において、窒化鉄の微粒子12が、磁気特性を担うものである。窒化鉄としては、保磁力等の磁気特性の観点から、窒化鉄の中で、磁気特性に優れたFe
16N
2が最も好ましい。このため、微粒子12は、Fe
16N
2単相であることが最も好ましい。なお、微粒子12がFe
16N
2単相の場合、磁性粒子10をFe
16N
2/Al
2O
3複合微粒子とも表わす。
なお、微粒子12は、Fe
16N
2単相ではなく、他の窒化鉄が混合する組成であってもよい。
【0017】
酸化アルミニウム層14は、微粒子12を電気的に隔離し、他の磁性粒子等と微粒子12が接触することを防ぐとともに、酸化等を抑制するものである。この酸化アルミニウム層14は絶縁体である。
磁性粒子10は、窒化鉄の微粒子12を有するため、高い保磁力を有し、優れた磁気特性を有する。微粒子12がFe
16N
2単相である場合、後に詳細に説明するが、保磁力として、例えば、3070Oe(約244.3kA/m)が得られる。また、磁性粒子10は、分散性も良好である。
また、磁性粒子10は、絶縁体である酸化アルミニウム層14により、磁性粒子10間に流れる電流を抑制することができ、電流による損失を抑制することができる。
このような磁性粒子10を用いて形成した磁性体は、高い保磁力を有するとともに、優れた磁気特性を有する。磁性体としては、例えば、ボンド磁石が挙げられる。
【0018】
次に、磁性粒子10の製造方法について説明する。
磁性粒子10は、
図1(b)に示す原料粒子20を原料とし、この原料粒子20に窒化処理を施すこと(窒化処理工程)により製造することができる。原料粒子20は、鉄(Fe)の微粒子22の表面に、酸化アルミニウム層24が形成されたコアシェル構造を有するものである。原料粒子20をFe/Al
2O
3粒子とも表わす。
原料粒子20は、球状であり、その粒径が50nm程度であるが、好ましくは、5〜50nmである。なお、粒径は比表面積測定から換算し、求めた値である。
窒化処理により、鉄の微粒子22を窒化し、窒化鉄、最も好ましくはFe
16N
2の微粒子にする。このとき、酸化アルミニウム層24は、安定した物質であり、窒化処理により、他の物質に変わることがない。このため、コアシェル構造が維持された状態で、コアの鉄の微粒子22を窒化し、窒化鉄の微粒子12に変えて、
図1(a)に示す磁性粒子10が得られる。
【0019】
製造された磁性粒子10は、後に示すが各磁性粒子10が凝集することなく、高い分散性を有する。最低限、原料粒子20を窒化処理することで磁性粒子10を製造することができるため、他の工程に移送する等がなく生産効率を高くすることができる。
【0020】
窒化処理の方法としては、原料粒子20を、例えば、ガラス容器に入れ、この容器内に、窒素源として、窒素元素を含むガス、例えば、NH
3ガス(アンモニアガス)を供給する。NH
3ガス(アンモニアガス)を供給した状態で、原料粒子20を、例えば、温度140℃〜200℃に加熱し、この温度を3〜50時間保持する方法が用いられる。窒化処理の方法として、より好ましくは、温度140℃〜160℃、保持時間3〜20時間で行う。
本発明では、原料の原料粒子20のコアシェル構造を維持して、コアの鉄の微粒子22を窒化し、窒化鉄の微粒子12にすることができれば、窒化処理の方法は、上記の窒化処理方法に限定されるものではない。
【0021】
なお、
図1(b)に示す原料粒子20(Fe/Al
2O
3粒子)は、例えば、特許第4004675号公報(酸化物被覆金属微粒子の製造方法)に開示されている熱プラズマを用いた超微粒子の製造方法により製造することができる。このため、その詳細な説明は省略する。なお、原料粒子20(Fe/Al
2O
3粒子)を製造することができれば、原料粒子20の製造方法は、熱プラズマを用いたものに限定されるものではない。
【0022】
原料に用いた原料粒子20と、磁性粒子10の磁気特性を測定した。その結果を
図2に示す。
図2に示すように、原料粒子20は、符号Aに示す磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)が得られ、磁性粒子10は、符号Bに示す磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)が得られた。磁気ヒステリシス曲線Aと磁気ヒステリシス曲線Bからわかるように、磁性粒子10の方が磁気特性が優れている。磁性粒子10は、コアを窒化鉄の微粒子12とすることにより、コアが鉄の原料粒子20に比して高い保磁力、例えば、3070Oe(約244.3kA/m)が得られる。また、飽和磁束密度として、162emu/g(約2.0×10
−4Wb・m/kg)が得られる。
【0023】
窒化処理は、窒化処理温度が140℃〜200℃であることが好ましい。窒化処理温度が140℃未満では、窒化が十分ではない。また、窒化処理温度が200℃を超えると、原料粒子同士が融着するとともに窒化が飽和する。
また、窒化処理時間は、3〜50時間であることが好ましい。窒化処理時間が3時間未満では、窒化が十分ではない。一方、窒化処理時間が50時間を超えると、原料粒子同士が融着するとともに窒化が飽和する。
【0024】
本出願人は、原料として、粒径が10nmの原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)を用い、窒化処理前後で、X線回折法による結晶構造の解析を行い、窒化処理時の温度の影響について調べた。その結果を、
図3(a)〜(c)に示す。なお、粒径は、比表面積測定から換算し、求めた値である。
図3(a)は、窒化処理温度200℃での結晶構造の解析結果であり、
図3(b)は、窒化処理温度175℃での結晶構造の解析結果であり、
図3(c)は、窒化処理温度150℃での結晶構造の解析結果である。窒化処理の保持時間は、いずれも5時間である。
なお、
図3(d)は、原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)の結晶構造の解析結果である。
図3(d)と
図3(a)〜(c)を比較すると、窒化された
図3(a)〜(c)では、窒化鉄が生じている。中でも、窒化処理温度150℃では、窒化鉄(Fe
16N
2)の略単相状態である。
【0025】
また、窒化処理時間を10時間とし、そのときの窒化処理温度の影響について調べた。その結果を、
図4(a)、(b)に示す。
図4(a)は、窒化処理温度150℃での結晶構造の解析結果であり、
図4(b)は、窒化処理温度145℃での結晶構造の解析結果である。
図4(c)は、Fe
16N
2のX線回折法による結晶構造の解析結果である。
図4(d)は、原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)の結晶構造の解析結果である。
図4(c)を参照し、
図4(d)と
図4(a)、(b)とを比較すると、
図4(a)、(b)にはFe
16N
2の回折ピークが表れており、窒化処理により鉄が窒化鉄に変化していることは明らかである。
【0026】
図5(a)〜(c)に
図4(a)〜(c)の拡大図を示す。
図5(a)は、窒化処理温度150℃での結晶構造の解析結果であり、
図5(b)は、窒化処理温度145℃での結晶構造の解析結果である。
図5(c)は、Fe
16N
2のX線回折法による結晶構造の解析結果である。
図5(c)を参照し、
図5(a)と(b)を比較すると、右側の回折ピークについては、
図5(a)の回折ピークC
1よりも
図5(b)の回折ピークC
2の方が
図5(c)のFe
16N
2の右側の回折ピークC
3の高さと等しく、窒化処理温度145℃での窒化処理により鉄が完全に窒化鉄に変化している。
【0027】
また、窒化処理温度150℃で、窒化処理した
図3(c)の解析結果と
図4(a)の解析結果の比較を、
図6(a)、(b)に示し、Fe
16N
2の結晶構造の解析結果(
図6(c))もともに示す。なお、
図6(a)は窒化処理時間が5時間であり、
図6(b)は窒化処理時間が10時間である。
図6(a)、(b)を比較すると、窒化処理時間が10時間(
図6(b)参照)の方が、Fe
16N
2の回折ピークのパターンに近い回折ピークのパターンが得られている。このように、窒化処理時間は長い方が、窒化処理時間が5時間のもの(
図6(a)参照)よりも、窒化が進行してFe
16N
2に変化している。
【0028】
図4(a)(
図6(b))に示す結果が得られた磁性粒子について、窒化処理前後の粒子の状態を観察した。その結果を
図7(a)〜(c)に示す。
図7(a)は、原料粒子のTEM像であり、
図7(b)は、磁性粒子のTEM像であり、
図7(c)は、
図7(b)の磁性粒子を拡大したTEM像である。
図7(a)、(b)に示すように、窒化処理前後で、粒子構造に大きな変化はなく、窒化処理後も、
図7(c)に示すように、コアシェル構造が維持された磁性粒子が得られる。また、
図7(b)に示すように、各磁性粒子は、凝集することなく分散している。
【0029】
本出願人は、原料として、粒径が50nmの原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)を用い、窒化処理時間を変えて、X線回折法による結晶構造の解析を行った。その結果を、
図8(a)〜(c)に示す。なお、粒径は、比表面積測定から換算し、求めた値である。
図8(a)は、窒化処理温度145℃、窒化処理時間6時間での解析結果であり、
図8(b)は窒化処理温度145℃、窒化処理時間12時間での解析結果であり、
図8(c)は、窒化処理温度145℃、窒化処理時間18時間での解析結果である。
図8(d)を参照して、
図8(a)〜(c)を比較すると、窒化処理時間が長くなると、窒化が進行する。しかしながら、上述の粒径が10nmの場合に比して、窒化が十分に進行しない。なお、窒化処理温度145℃は、粒径が10nmで最も窒化が良好な結果が得られた温度である。
【0030】
また、上述のように、粒径が50nmの原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)を用いた場合における窒化処理前後の粒子の状態を観察した。その結果を
図9(a)〜(c)に示す。
図9(a)は、原料粒子のSEM像であり、
図9(b)は、磁性粒子のTEM像であり、
図9(c)は、
図9(b)の磁性粒子を拡大したTEM像である。
図9(a)、(b)に示すように、粒径が50nmであっても、窒化処理前後で、粒子構造に大きな変化はなく、窒化処理後も、
図9(c)に示すように、コアシェル構造が維持された磁性粒子が得られる。
【0031】
次に、本発明の磁性粒子の他の製造方法について説明する。
図10(a)は、本発明の磁性粒子の他の製造方法の第1例を示すフローチャートであり、(b)は、本発明の磁性粒子の他の製造方法の第2例を示すフローチャートであり、(c)は、本発明の磁性粒子の他の製造方法の第3例を示すフローチャートである。
本発明は、原料粒子に窒化処理を施して磁性粒子を得る製造方法に限定されるものではない。
図10(a)に示すように、窒化処理の前に、原料粒子20に酸化処理を施し、鉄(Fe)の微粒子22を酸化させる(ステップS10)。その後、原料粒子20に還元処理を施し、酸化された鉄(Fe)の微粒子22を還元する(ステップS12)。次に、原料粒子20に窒化処理を施し、還元された鉄(Fe)の微粒子22を窒化する(ステップS14)。これにより、窒化鉄の微粒子12を有する磁性粒子10を製造することができる。
【0032】
上述のように酸化処理工程(ステップS10)により、鉄の微粒子22を酸化し、その後、還元処理工程(ステップS12)により、酸化処理した鉄の微粒子22を還元した後、窒化処理工程(ステップS14)により、鉄の微粒子22を窒化し、窒化鉄、最も好ましくはFe
16N
2の微粒子にする。このとき、酸化アルミニウム層24は、安定した物質であり、酸化処理、還元処理および窒化処理により、他の物質に変わることがない。このため、コアシェル構造が維持された状態で、コアの鉄の微粒子22を酸化し、還元し、そして窒化し、窒化鉄の微粒子12に変えて、
図1(a)に示す磁性粒子10が得られる。
【0033】
酸化処理の方法としては、原料粒子20を、例えば、ガラス容器に入れ、この容器内に、空気を供給する。空気中で、原料粒子20を、例えば、温度100℃〜500℃に加熱し、この温度を1〜20時間保持する方法が用いられる。酸化処理の方法として、より好ましくは、温度200℃〜400℃、保持時間1〜10時間で行う。
酸化処理は、温度が100℃未満では、酸化が十分ではない。一方、温度が500℃を超えると、原料粒子同士が融着する。さらには、酸化反応が飽和し、酸化がそれ以上進行しない。
また、酸化処理は、酸化処理時間が1時間未満では、酸化が十分ではない。一方、酸化処理時間が20時間を超えると、原料粒子同士が融着する。さらには、酸化反応が飽和し、酸化がそれ以上進行しない。
【0034】
還元処理の方法としては、酸化処理後の原料粒子20を、例えば、ガラス容器に入れ、この容器内に、水素ガス(H
2ガス)または水素ガスを含む不活性ガスを供給する。水素ガス雰囲気または水素ガスを含む不活性ガス雰囲気で、原料粒子20を、例えば、温度200℃〜500℃に加熱し、この温度を1〜50時間保持する方法が用いられる。還元処理の方法として、より好ましくは、温度200℃〜400℃、保持時間1〜30時間で行う。
還元処理は、温度が200℃未満では、還元が十分ではない。一方、温度が500℃を超えると、原料粒子同士が融着するとともに、還元反応が飽和し、還元がそれ以上進行しない。
また、還元処理は、還元処理時間が1時間未満では、還元が十分ではない。一方、還元処理時間が50時間を超えると、原料粒子同士が融着するとともに、還元反応が飽和し、還元がそれ以上進行しない。
【0035】
窒化処理の方法としては、上述の窒化処理方法と同じであるため、その詳細な説明は省略する。窒化処理時間も上述の窒化処理方法と同じである。しかしながら、窒化処理時間については、上述の窒化処理だけの磁性粒子の製造方法に比して短縮することができる。窒化処理時間は、3〜50時間であることが好ましく、より好ましくは、3〜20時間である。
窒化処理時間は、窒化処理時間が3時間未満では、窒化が十分ではない。一方、窒化処理時間が50時間を超えると、窒化が飽和するとともに原料粒子同士が融着する。
【0036】
原料として、上述のように
図1(b)に示す原料粒子20を用いたが、これに限定されるものではない。原料としては、原料粒子20と他の粒子が混在したものでもよい。他の粒子とは、例えば、原料粒子20と同程度のサイズであり、鉄(Fe)の微粒子の表面に、酸化鉄層が形成されたコアシェル構造を有するものである。酸化鉄は特に限定されるものではなく、例えば、Fe
2O
3およびFe
3O
4等である。
原料粒子20と他の粒子が混在したものを原料として用いて、上述の一連の酸化処理工程、還元処理工程および窒化処理工程を施した場合、他の粒子の割合が体積%で半分程度であっても、
図1(a)に示す磁性粒子10が形成されることはもちろんのこと、窒化鉄の微粒子(コア)の表面に酸化鉄層(シェル)が形成されたコアシェル構造を有する磁性粒子が形成されることを確認している。上記酸化鉄層を有する磁性粒子は、
図1(a)に示す磁性粒子10と同程度のサイズであることも確認している。しかも、磁性粒子10と上記酸化鉄層を有する磁性粒子は固着せずに分散する。
なお、上述の原料粒子20と他の粒子が混在したものを原料として用いて、窒化処理工程を施すだけで、他の粒子の割合が体積%で半分程度であっても、上述のように同程度のサイズで、磁性粒子10と上記酸化鉄層を有する磁性粒子を形成することができ、しかも固着せずに分散することを確認している。このように、原料に原料粒子20と他の粒子が混在したものを用いても、磁性粒子10を得ることができ、加えて上述の酸化鉄層を有する磁性粒子を得ることができる。
【0037】
本発明では、原料の原料粒子20のコアシェル構造を維持して、コアの鉄の微粒子22を酸化し、還元し、窒化して、窒化鉄の微粒子12にすることができれば、酸化処理、還元処理および窒化処理のいずれの方法も、上記の酸化処理方法、還元処理方法および窒化処理方法に限定されるものではない。
【0038】
本発明の磁性粒子の製造方法としては
図10(a)に示す以外にも、
図10(b)に示すように、窒化処理の前に、原料粒子20に乾燥・還元処理を施し(ステップS20)、原料粒子20を乾燥し、かつ還元させる。ステップS20では、例えば、温度300℃、保持時間1時間の条件で乾燥・還元処理がなされる。その後、原料粒子20に窒化処理を施し、鉄(Fe)の微粒子22を窒化する(ステップS22)。これにより、窒化鉄の微粒子12を有する磁性粒子10を製造することができる。
原料粒子20に水分が吸着している場合、そのまま加熱して水分を蒸発させようとすると、水分と鉄が反応し酸化する可能性があるが、乾燥・還元処理を施すことで、水素を用いて還元雰囲気で加熱するため、酸化反応を生じずに水分を除去することができる。
【0039】
上述のように乾燥・還元処理工程(ステップS20)により原料粒子20を乾燥する。その後、窒化処理工程(ステップS22)により、鉄の微粒子22を窒化し、窒化鉄、最も好ましくはFe
16N
2の微粒子にする。このとき、酸化アルミニウム層24は、安定した物質であり、乾燥・還元処理および窒化処理により、他の物質に変わることがない。このため、コアシェル構造が維持された状態で、コアの鉄の微粒子22を乾燥・還元し、そして窒化して、窒化鉄の微粒子12に変え、
図1(a)に示す磁性粒子10が得られる。
原料粒子20を大気中に放置した場合、または水分が吸着している場合、鉄の微粒子22の表面に酸化皮膜ができている可能性があり、これにより窒化が速やかに進行しないことがある。しかしながら、窒化処理の前に乾燥・還元処理を施すことで、鉄の微粒子22の表面における表面酸化の防止および表面酸化膜を除去することができ、速やかに窒化させることができる。
【0040】
乾燥・還元処理の方法としては、原料粒子20を、例えば、ガラス容器に入れ、この容器内に、水素ガス(H
2ガス)または水素ガスを含む不活性ガスを供給する。水素ガス雰囲気または水素ガスを含む不活性ガス雰囲気で、原料粒子20を、例えば、温度200℃〜500℃に加熱し、この温度を1〜20時間保持する方法が用いられる。乾燥・還元処理の方法として、より好ましくは、温度200℃〜400℃、保持時間3時間で行う。
乾燥・還元処理は、温度が200℃未満では、還元が十分ではない。一方、温度が500℃を超えると、原料粒子同士が融着するとともに乾燥および還元が飽和し、乾燥および還元がそれ以上進行しない。
また、乾燥・還元処理は、乾燥・還元処理時間が1時間未満では、乾燥および還元が十分ではない。一方、乾燥・還元処理時間が20時間を超えると、原料粒子同士が融着するとともに乾燥および還元が飽和し、乾燥がそれ以上進行しない。
【0041】
この場合でも、窒化処理工程(ステップS22)における窒化処理の方法は、上述の窒化処理方法と同じであるため、その詳細な説明は省略する。窒化処理時間も上述の窒化処理方法と同じである。しかしながら、窒化処理時間については、上述の窒化処理だけの磁性粒子の製造方法に比して短縮することができる。窒化処理時間は、3〜50時間であることが好ましい。窒化処理時間は、窒化処理時間が3時間未満では、窒化が十分ではない。一方、窒化処理時間が50時間を超えると、窒化が飽和するとともに原料粒子同士が融着する。
【0042】
さらには、
図10(a)に示す磁性粒子の製造方法に、
図10(b)に示す乾燥・還元処理を組み合わせてもよい。この場合、
図10(c)に示すように、窒化処理の前に、原料粒子20に乾燥・還元処理を施し(ステップS30)、その後、酸化処理を施し(ステップS32)、還元処理を施す(ステップS34)。その後、原料粒子20に窒化処理を施して(ステップS36)、窒化鉄の微粒子12を有する磁性粒子10を得ることができる。この場合、上述のように窒化処理の前に乾燥・還元処理を施すことで、鉄の微粒子22の表面における表面酸化の防止および表面酸化膜を除去することができ、後の窒化処理にて速やかに窒化させることができる。さらに、酸化処理と還元処理を施すことで、酸化によりコアの鉄の微粒子22が酸化する際に膨張し、シェルの酸化アルミニウム層24にヒビなどが生じ、さらに還元することにより、鉄の微粒子22(コアの部分)に存在していた酸素が抜け、酸化・還元処理前に比べて、鉄の微粒子22(コアの部分)の鉄がより低密度になり、後の窒化処理にて速やかに窒化させることができる。
【0043】
上述の乾燥・還元処理工程(ステップS30)は、
図10(b)に示す乾燥・還元処理工程(ステップS20)と同じ工程であるため、その詳細な説明は省略する。また、上述の酸化処理工程(ステップS32)は、
図10(a)に示す酸化処理工程(ステップS10)と同じ工程であるため、その詳細な説明は省略する。上述の還元処理工程(ステップS34)も、
図10(a)に示す還元処理工程(ステップS12)と同じ工程であるため、その詳細な説明は省略する。
【0044】
本出願人は、原料として、平均粒径が62nmの原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)を用い、原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)に対して酸化処理、還元処理および窒化処理を、その順で施し磁性粒子を形成した。製造過程の原料粒子および生成された磁性粒子について、X線回折法による結晶構造の解析を行ったところ、
図11(a)〜(c)および
図12(a)、(b)に示す結果が得られた。
図11(a)は、酸化処理前のX線回折法による結晶構造の解析結果を示すグラフであり、(b)、(c)は、酸化処理後のX線回折法による結晶構造の解析結果を示すグラフである。
図12(a)、(b)は、窒化処理後のX線回折法による結晶構造の解析結果を示すグラフである。
図12(a)、(b)は、
図11(c)に示す結晶構造を有するものに対して窒化処理をして得られたものである。
【0045】
酸化処理工程では、空気中にて、温度300℃で2時間または4時間の酸化処理条件で行った。
還元処理工程では、水素存在雰囲気にて、温度300℃で15時間の還元処理条件で行った。なお、水素存在雰囲気には、H
2ガス濃度4体積%のH
2ガス(水素ガス)とN
2ガス(窒素ガス)の混合気体を用いた。
窒化処理工程では、アンモニアガス雰囲気にて、温度145℃で10時間または15時間の窒化処理条件で行った。
図11(a)に示す原料粒子の回折ピークと、酸化時間が2時間の
図11(b)に示す回折ピークとを比較すると、
図11(b)には酸化鉄の回折ピークがあり、鉄(Fe)の微粒子22が酸化されている。また、
図11(a)に示す原料粒子の回折ピークと、酸化時間が4時間の
図11(c)に示す回折ピークとを比較しても、
図11(c)には酸化鉄のピークがあり、鉄(Fe)の微粒子22が酸化されている。
還元処理後に、窒化処理することにより、
図12(a)、(b)に示すように酸化鉄の回折ピークがなくなり、Fe
16N
2の回折ピークが表れており、窒化処理により窒化鉄(Fe
16N
2)に変化していることは明らかである。
【0046】
さらに、本出願人は、上述の2つの磁性粒子の製造方法で、窒化処理時間を変えて磁性粒子を製造し、得られた窒化鉄の収量を測定した。その結果を
図13に示す。
図13は、窒化処理の前に酸化処理および還元処理して製造された磁性粒子、および窒化処理だけで製造された磁性粒子における窒化処理時間と窒化鉄の収量の関係を示すグラフである。窒化鉄の収量については、X線回折法による結晶構造の解析を行い、得られた回折ピークを基に、公知の方法を用いて窒化鉄の割合を算出し、これを窒化鉄の収量とした。
【0047】
図13において、符号Dは、窒化処理だけで、酸化処理および還元処理を施していないものである。符号Dでは、原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)に平均粒径が33nmのものを用い、窒化処理温度は145℃とした。また、符号Eは、酸化処理、還元処理および窒化処理を施したものである。符号Eは、
図12(a)、(b)に対応するものであり、上述のように原料粒子(Fe/Al
2O
3粒子)に平均粒径が62nmのものを用いた。
図13に示すように、窒化処理だけでは、窒化が収束するのに窒化処理時間として40時間要する。これに対して、窒化処理の前に、酸化処理および還元処理を施すと、15時間で窒化が収束する。このように、窒化処理工程の前工程に、酸化処理工程および還元処理工程を加えることで、窒化処理時間を短縮することができ、かつ窒化鉄の収量を多くすることができる。
【0048】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の磁性粒子の製造方法、磁性粒子および磁性体について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。