(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する鉄系触媒の含有量が、鉄換算で0.1質量%以上3質量%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素化分解方法。
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記処理済残油成分に含まれる重質反応生成物の供給量が、10質量%以上80質量%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素化分解方法。
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記解砕鉄系触媒の供給量が、1質量%以上10質量%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の水素化分解方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、触媒活性を高めて触媒を再利用することにより水素化分解の処理コストに優れる水素化分解方法、この水素化分解方法を用いた水素化分解油製造方法、水素化分解装置及びこの水素化分解装置を備える水素化分解油製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、鉄系触媒の触媒活性の低下する理由が触媒粒子同士の凝集による肥大化であること、またこの肥大化した鉄系触媒を解砕することにより触媒の実効表面積を新規触媒と同程度とすることで鉄系触媒の触媒活性を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、重金属成分を含有する石油系重質油の水素化分解方法であって、上記石油系重質油及び鉄系触媒を含む原料スラリーと水素ガスとを水素化分解反応器に供給する工程、水素化分解反応器内で上記石油系重質油を水素化分解する工程、上記水素化分解工程後の生成物から上記鉄系触媒を含む残油成分を回収する工程、回収した残油成分の鉄系触媒を解砕する工程、及び上記解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分を水素化分解反応器に再供給する工程を備えることを特徴とする。
【0009】
当該水素化分解方法は、鉄系触媒を解砕する工程を備えるので、水素化分解で使用済みの鉄系触媒が細粒化され鉄系触媒の触媒活性が高められる。従って、当該水素化分解方法は、水素化分解の処理コストを効果的に低減できる。
【0010】
上記解砕工程で上記鉄系触媒を粉砕機により粉砕するとよい。このように上記解砕工程で上記鉄系触媒を粉砕機により粉砕することで、より容易かつ確実に鉄系触媒を細粒化できる。
【0011】
上記鉄系触媒がリモナイトであるとよい。リモナイトは安価な触媒であり、かつ石油系重質油の水素化分解反応に対する触媒活性が高い。従って、鉄系触媒をリモナイトとすることで、水素化処理の処理コストがさらに効果的に低減できる。
【0012】
上記解砕工程で、上記解砕鉄系触媒の平均粒子径を0.1μm以上5μm以下とするとよい。このように上記解砕工程で上記解砕鉄系触媒の平均粒子径を上記範囲内とすることで、解砕鉄系触媒の触媒活性を高く維持しつつ、鉄系触媒を解砕する処理時間を短縮できる。
【0013】
上記解砕工程がスクリーニングにより上記解砕鉄系触媒の最大粒子径を30μm以下とする工程を有するとよい。このように上記解砕工程でスクリーニングにより上記解砕鉄系触媒の最大粒子径を30μm以下とすることで、鉄系触媒を解砕する処理時間を短く保ちつつ、解砕鉄系触媒の触媒活性を高めることができる。
【0014】
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する鉄系触媒の含有量としては、鉄換算で0.1質量%以上3質量%以下が好ましい。上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する鉄系触媒の含有量を上記範囲内とすることで、水素化分解の効率を維持しつつ、新規に供給する鉄系触媒量が抑制され、水素化分解の処理コストがさらに低減できる。
【0015】
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記処理済残油成分に含まれる重質反応生成物の供給量としては、10質量%以上80質量%以下が好ましい。上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記処理済残油成分に含まれる重質反応生成物の供給量を上記範囲内とすることで、鉄系触媒の再利用を図りつつ、水素化分解反応器内の石油系重質油の濃度が維持され、石油系重質油の処理効率をより高めることができる。
【0016】
上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記解砕鉄系触媒の供給量としては、1質量%以上10質量%以下が好ましい。上記原料スラリーにおける石油系重質油に対する上記解砕鉄系触媒の供給量を上記範囲内とすることで、石油系重質油の処理効率をより高めることができる。
【0017】
また、本発明は、重金属成分を含有する石油系重質油からの水素化分解油製造方法であって、当該水素化分解方法を用いることを特徴とする水素化分解油製造方法を含む。当該水素化分解油製造方法は、当該水素化分解方法を用いるので水素化分解油の製造コストに優れる。
【0018】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、重金属成分を含有する石油系重質油の水素化分解装置であって、上記石油系重質油及び鉄系触媒を含む原料スラリーと水素ガスとを用いて上記石油系重質油を水素化分解する水素化分解手段と、上記水素化分解手段で上記石油系重質油を水素化分解した後の上記鉄系触媒を解砕する解砕手段と、上記解砕鉄系触媒を上記水素化分解手段に再供給する再供給手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
当該水素化分解装置は、水素化分解手段で石油系重質油を水素化分解した後の鉄系触媒を解砕する解砕手段及び上記解砕鉄系触媒を水素化分解手段に再供給する再供給手段を備えるので、水素化分解で使用済みの鉄系触媒が細粒化され鉄系触媒の触媒活性が高められる。従って、当該水素化分解装置を用いることで、水素化分解の処理コストを効果的に低減できる。
【0020】
上記解砕手段が粉砕機であるとよい。このように上記解砕手段を粉砕機とすることで、より容易かつ確実に鉄系触媒を細粒化できる。
【0021】
上記水素化分解手段に再供給する前の上記解砕鉄系触媒をその最大粒子径が30μm以下となるようにスクリーニングするスクリーニング手段をさらに備えるとよい。このようにスクリーニング手段をさらに備え、上記解砕鉄系触媒の最大粒子径が30μm以下となるようにスクリーニングすることで、鉄系触媒を解砕する処理時間を短く保ちつつ、解砕鉄系触媒の触媒活性を高めることができる。
【0022】
本発明は、当該水素化分解装置を備える水素化分解油製造装置を含む。当該水素化分解油製造装置は、当該水素化分解装置を備えるので水素化分解油の製造コストが低い。
【0023】
なお、「重質反応生成物」とは、水素化分解工程後の生成物のうち沸点が525℃以上の成分を指す。ここで、「水素化分解工程後の生成物」は、水素化分解において未反応の石油系重質油成分も含む概念である。また、「粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定器で測定した体積基準の粒子径を指し、「平均粒子径」とは、粒子径の累積粒度分布曲線の50%値(メディアン値)を意味する。また、「解砕」とは、凝集した触媒粒子を分解することを意味する。解砕の方法によっては凝集する前の触媒粒子が砕かれること(粉砕)が起こり得るが、「解砕」はこの粉砕を含む概念とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の水素化分解方法及び水素化分解装置は、触媒活性を高めて触媒を再利用することにより水素化分解の処理コストに優れる。従って、この水素化分解方法を用いた水素化分解油製造方法及び当該水素化分解装置を備える水素化分解油製造装置は、水素化分解油の製造コストに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る水素化分解方法を用いた水素化分解油製造方法の実施形態について
図1の本発明に係る水素化分解装置を備える水素化分解油製造装置を用いて説明する。
【0027】
<水素化分解油製造装置>
図1に示す当該水素化分解油製造装置は、スラリー調製槽1、予熱器2、水素化分解反応器3、気液分離器4、第1中間タンク5、第1ポンプ6、粉砕機7、ふるい機8、第2中間タンク9、及び第2ポンプ10を備える。これらのうち、水素化分解反応器3、粉砕機7、ふるい機8及び第2ポンプ10が、当該水素化分解装置を構成する。
【0028】
スラリー調製槽1は石油系重質油A及び鉄系触媒Bを混合し、原料スラリーCを調製するための槽である。また、スラリー調製槽1は攪拌機1a及び攪拌機1aを駆動するモーター1bを備える。
【0029】
予熱器2は、水素化分解反応器3に供給される原料スラリーC及び水素ガスDを予熱するための加熱器である。
【0030】
水素化分解反応器3は、当該水素化分解装置の水素化分解手段であり、その中で上記石油系重質油A及び鉄系触媒Bを含む原料スラリーCと水素ガスDとを用いて上記石油系重質油Aの水素化分解を行う。この水素化分解反応器3としては、例えば気泡塔型の懸濁床反応器を用いることができる。
【0031】
気液分離器4は、水素化分解反応器3の生成物Eを軽質反応生成物、気液分離温度において気体の中質反応生成物及び未反応の水素ガスDを主に含む気相成分Fと、気液分離温度において液体の中質反応生成物、重質反応生成物、重金属成分及び鉄系触媒Bを含む残油成分Gとに分離する分離器である。気液分離器4としては公知のものを用いることができる。なお、「軽質反応生成物」とは水素化分解工程後の生成物のうち沸点が36℃以上171℃未満の成分を指し、「中質反応生成物」とは、水素化分解工程後の生成物のうち沸点が171℃以上525℃未満の成分を指す。また、「気液分離温度において気体である」とは、気液分離器4内の温度及び圧力条件において気体であることを意味し、「気液分離温度において液体である」とは、気液分離器4内の温度及び圧力条件において液体であることを意味する。
【0032】
第1中間タンク5は、残油成分Gを貯留するタンクである。また、第1中間タンク5は攪拌機5a及び攪拌機5aを駆動するモーター5bを備える。
【0033】
第1ポンプ6は、第1中間タンク5に貯留される残油成分Gを粉砕機7に供給するためのポンプである。第1ポンプ6の種類としては、特に限定されないが、例えば公知のダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、遠心ポンプ等を用いることができる。
【0034】
粉砕機7は、当該水素化分解装置の解砕手段であり、残油成分G中に含まれる鉄系触媒Bを粉砕する。粉砕機7の種類としては、特に限定されないが、ボールミル、タワーミル等を挙げることができる。このうち大型化が容易であり、水素化分解油の生産性を高め易いボールミルを好適に用いることができる。
【0035】
ふるい機8は、当該水素化分解装置のスクリーニング手段であり、粉砕機7で粉砕された解砕鉄系触媒のうち粒子径の大きいものをスクリーニングし除外するふるい機である。ふるい機8は、粒子径の大きい解砕鉄系触媒を除外するためのメッシュ8aを有する。
【0036】
第2中間タンク9は、解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分Hを貯留するタンクである。また、第2中間タンク9は攪拌機9a及び攪拌機9aを駆動するモーター9bを備える。
【0037】
第2ポンプ10は、当該水素化分解装置の再供給手段であり、上記解砕鉄系触媒を上記水素化分解手段に再供給する。具体的には、第2ポンプ10は、第2中間タンク9に貯留される処理済残油成分Hを予熱器2を介して水素化分解反応器3に供給する。第2ポンプ10としては、特に限定されないが、第1ポンプ6と同じものを用いることができる。
【0038】
<水素化分解方法>
当該水素化分解方法は、重金属成分を含有する石油系重質油Aを水素化分解する方法である。当該水素化分解方法は、上記石油系重質油A及び鉄系触媒Bを含む原料スラリーCと水素ガスDとを水素化分解反応器3に供給する工程、水素化分解反応器3内で上記石油系重質油Aを中質反応生成物と重質反応生成物とを含む生成物Eに水素化分解する工程、上記水素化分解工程後の生成物Eから上記中質反応生成物と上記重質反応生成物と上記重金属成分と上記鉄系触媒Bとを含む残油成分Gを回収する工程、回収した残油成分Gの鉄系触媒Bを解砕する工程、及び上記解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分Hを水素化分解反応器に再供給する工程を備える。
【0039】
(供給工程)
供給工程では、上述のように、石油系重質油A及び鉄系触媒Bを含む原料スラリーCと水素ガスDとを水素化分解反応器3に供給する。具体的には、スラリー調製槽1において石油系重質油A、鉄系触媒B及び助触媒として硫黄をスラリー調製槽1に供給する。上記石油系重質油A、鉄系触媒B及び助触媒をモーター1bで駆動される攪拌機1aを用いて混合することで、石油系重質油A、鉄系触媒B及び助触媒を含む原料スラリーCを得る。なお、鉄系触媒Bが例えばパイライトのように硫黄を含む化合物である場合は助触媒としての硫黄の混合を省略してもよい。この原料スラリーCと水素ガスDとを配管中で混合し、予熱器2を介して水素化分解反応器3に供給する。
【0040】
石油系重質油Aとしては、特に限定されないが、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油等の石油系重質油を用いることができる。また、天然に存在するビチューメン(タールサンド、オイルサンド等)のような超重質油を用いることもできる。
【0041】
鉄系触媒Bとしては、石油系重質油Aの水素化分解反応に対する触媒として活性が高いものであれば特に限定されないが、例えばリモナイト、パイライト、ヘマタイト、赤泥等を挙げることができる。これらの中でもリモナイトが好ましい。リモナイトは、安価で触媒活性が高いことに加え、パイライトやヘマタイトに比べて柔らかく、後述する解砕を容易に行うことができる。また、リモナイトはα−オキシ水酸化鉄及びα−酸化鉄を含むが、α−オキシ水酸化鉄の含有量が90%以上であるリモナイトがさらに好ましい。
【0042】
ここで、リモナイトの触媒活性が高い理由について説明する。鉄系触媒Bは助触媒である硫黄により硫化され、ピロータイト(Pyrrhotite、Fe
1−xS)とよばれる硫化鉄となり触媒活性が高まる。このピロータイトに転換する温度が低いほど、石油系重質油Aが熱分解を始める際、ピロータイトが多数存在することになり石油系重質油Aの軽質化がよく進行する。すなわちピロータイトに転換する温度が低いほど、触媒活性が高いと言える。
【0043】
ここでピロータイトに転換する温度は、α−オキシ水酸化鉄が約200℃であり、α−酸化鉄が約350℃である。また、パイライトは約350℃である。このようにリモナイトはα−オキシ水酸化鉄を含むため、低い温度でピロータイトに転換し易く、触媒活性が高いと言える。
【0044】
鉄系触媒Bの平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.3μmがさらに好ましい。また、鉄系触媒Bの平均粒子径の上限としては、2μmが好ましく、1μmがさらに好ましい。鉄系触媒Bの平均粒子径が上記下限未満である場合、このような平均粒子径の小さい鉄系触媒Bを得るための機械的粉砕に時間を要し、水素化分解の処理効率が低下するおそれがある。一方、鉄系触媒Bの平均粒子径が上記上限を超える場合、鉄系触媒Bの実効表面積が不足し、触媒活性が低くなるおそれがある。
【0045】
上記原料スラリーCおける石油系重質油Aに対する鉄系触媒Bの含有量の下限としては、鉄換算で0.1質量%が好ましく、0.2質量%がより好ましい。上記鉄系触媒Bの供給量の上限としては、鉄換算で3質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。上記鉄系触媒Bの供給量が上記下限未満である場合、水素化分解反応が進まず軽質化された油を十分に得られないおそれがある。一方、上記鉄系触媒Bの供給量が上記上限を超える場合、水素化分解の処理コストが大きくなるおそれがある。
【0046】
鉄系触媒Bに対する助触媒量の下限としては、鉄系触媒Bの鉄原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比で1倍が好ましく、1.1倍がより好ましい。また、鉄系触媒Bに対する助触媒量の上限としては、鉄系触媒Bの鉄原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比で3倍が好ましく、2倍がより好ましい。鉄系触媒Bに対する助触媒量が上記下限未満である場合、鉄系触媒Bの触媒活性が十分に高まらないおそれがある。一方、鉄系触媒Bに対する助触媒量が上記上限を超える場合、水素化分解の処理コストが大きくなるおそれがある。
【0047】
水素化分解反応器3に供給する水素ガスDの供給圧力としては、水素化分解反応器3の圧力が水素ガスDの供給圧力とほぼ同等となるため、後述する水素化分解の反応圧力に適した圧力とするとよく、水素ガスDの流速等を加味して、例えば水素化分解の反応圧力より0.5MPa以上3MPa以下高い圧力とできる。
【0048】
予熱器2において原料スラリーC及び水素ガスDを加熱する温度としては、水素化分解反応が開始する温度付近とするとよい。
【0049】
(水素化分解工程)
水素化分解工程では、水素化分解反応器3内で原料スラリーCの石油系重質油Aを水素ガスDにより水素化分解する。この水素化分解により、中質反応生成物と重質反応生成物とを含む生成物Eが得られる。
【0050】
水素化分解の反応圧力(水素ガス供給圧力)の下限としては、5MPaが好ましく、7MPaがより好ましい。また、水素化分解の反応圧力の上限としては、20MPaが好ましく、15MPaがより好ましい。水素化分解の反応圧力が上記下限未満である場合、水素分圧が小さくなりコーク生成量が増大するため、鉄系触媒Bの触媒活性が低下するおそれがある。一方、水素化分解の反応圧力が上記上限を超える場合、増圧による反応促進効果が得られず、水素化分解の処理コストが大きくなるおそれがある。なお、反応圧力は、供給工程において供給する水素ガスDの量によって調整することができる。
【0051】
水素化反応温度の下限としては、400℃が好ましく、430℃がより好ましい。また、水素化反応温度の上限としては、480℃が好ましく、455℃がより好ましい。水素化反応温度が上記下限未満である場合、水素化分解反応が進まず軽質化された油を十分に得られないおそれがある。一方、水素化反応温度が上記上限を超える場合、熱分解反応によりコーク生成量が増え、鉄系触媒Bの触媒活性が低下するおそれがある。
【0052】
水素化反応時間の下限としては、30分が好ましく、60分がより好ましい。また、水素化反応時間の上限としては、180分が好ましく、120分がより好ましい。水素化反応時間が上記下限未満である場合、軽質化された油を十分に得られないおそれがある。一方、水素化反応時間が上記上限を超える場合、時間の増加に対して得られる軽質化された油の増量が少なく、水素化分解油の製造効率が悪化するおそれがある。
【0053】
また水素化分解反応器3内において水素と硫黄とが反応して生じる硫化水素の濃度の下限としては、4000ppmが好ましく、5000ppmがより好ましい。上記硫化水素の濃度が上記下限未満である場合、鉄系触媒Bの硫化により生じたピロータイトがトロイライト(FeS)化しやすくなり、触媒活性が下がるおそれがある。
【0054】
(回収工程)
回収工程では、上記水素化分解工程後の生成物Eから上記中質反応生成物と上記重質反応生成物と上記重金属成分と上記鉄系触媒Bとを含む残油成分Gを回収する。具体的には、水素化分解工程後の生成物Eを気液分離器4により気相成分Fと残油成分Gとに分離する。
【0055】
この気液分離は、上記水素化分解工程における反応温度から自然冷却により20℃以上80℃以下低い温度で行う。このため、上記気相成分Fは、軽質反応生成物、気液分離温度において気体の中質反応生成物及び未反応の水素ガスDを主に含む。なお、気液分離の温度は加熱や冷却を行って調整してもよい。この気相成分Fから後述する製造方法により水素化分解油を得ることができる。
【0056】
上記残油成分Gは、気液分離温度において液体の中質反応生成物、重質反応生成物、使用済みの鉄系触媒B及び重金属由来の成分を主に含む。この残油成分Gの一部又は全てが第1中間タンク5に回収される。残油成分Gに含まれる重金属成分や鉄系触媒B等の固体成分が沈降することを防ぐため、回収された残油成分Gをモーター5bで駆動される攪拌機5aを用いて撹拌しながら、第1中間タンク5に貯留するとよい。なお、第1中間タンク5に回収されない残油成分Gは、当該水素化分解油製造装置の系外に抜き出される。
【0057】
残油成分Gに含まれる重質反応生成物の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。また、残油成分Gに含まれる重質反応生成物の含有量の上限としては、80質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。残油成分Gに含まれる重質反応生成物の含有量が上記下限未満である場合、再利用されない成分が相対的に多くなり、水素化分解反応器3の容積効率が低下するおそれがある。一方、残油成分Gに含まれる重質反応生成物の含有量が上記上限を超える場合、処理済残油成分Hを原料スラリーCに混合した際に原料スラリーCの流動性低下が生じ、取り扱いが困難となるおそれがある。なお、残油成分Gに含まれる重質反応生成物は、例えば水素化分解工程における反応条件(反応圧力、温度及び反応時間)や回収工程における気液分離の温度条件を調整することで制御できる。
【0058】
(解砕工程)
解砕工程では、回収した残油成分G中の鉄系触媒Bを解砕する。具体的には、第1中間タンク5に回収した残油成分Gを第1ポンプ6を用いて粉砕機7に供給し、残油成分G中の鉄系触媒Bを粉砕機7により粉砕する。
【0059】
ここで、鉄系触媒Bを残油成分G中で解砕する効果について考察する。水素化分解反応器3から排出される残油成分Gには、鉄系触媒B及び反応中に生成したコーク状物質等が含まれる。これらの固形物の多くはもともと微粉であった鉄系触媒Bが凝集、造粒して生成した顆粒状の粗粒子である。鉄系触媒Bは粒子径が小さくなると触媒活性が高まる。接触反応は主に鉄系触媒Bの粒子表面で起こる。従って、鉄系触媒Bの粒子径を小さくすることで実効表面積が増加するため、触媒活性が高まるものと考えられる。このことから、顆粒状の粗粒子となった鉄系触媒Bを元の粒子径程度まで細粒化することで、触媒活性が高められる。
【0060】
この鉄系触媒Bは水素化分解反応器3内で酸化による劣化を起こし易いピロータイトと化しているため、鉄系触媒Bの細粒化は湿式で行うことが好ましい。また、この湿式解砕を残油成分G中で行うことで鉄系触媒Bを分離回収する必要がなくなり、湿式解砕の処理時間及び処理コストをさらに下げられる。
【0061】
解砕後の上記解砕鉄系触媒の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.3μmがより好ましい。また、上記解砕鉄系触媒の平均粒子径の上限としては、5μmが好ましく、2μmがより好ましい。上記解砕鉄系触媒の平均粒子径が上記下限未満である場合、鉄系触媒Bの解砕に時間を要し、水素化分解の処理コストが大きくなるおそれがある。一方、上記解砕鉄系触媒の平均粒子径が上記上限を超える場合、解砕鉄系触媒の触媒活性が十分に高められないおそれがある。
【0062】
上記解砕後に、スクリーニングにより上記解砕鉄系触媒の最大粒子径を一定値以下とする。スクリーニングの方法としては特に限定されないが、例えば
図1のようにふるい機8を用いメッシュ8aによりスクリーニングすることができる。スクリーニングされる粒子径(メッシュ8aのメッシュ径)の上限としては、30μmが好ましく、15μmがより好ましい。スクリーニングされる粒子径が上記上限を超える場合、解砕鉄系触媒の触媒活性が十分に高められないおそれがある。なお、メッシュ8aの径より大きい粒子径を持ち、メッシュ8aを通過できない解砕鉄系触媒は、再度粉砕機7に供給し粉砕するとよい。
【0063】
このように解砕され、スクリーニングされた解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分Hは、第2中間タンク9に回収される。処理済残油成分Hに含まれる重金属成分や鉄系触媒B等の固体成分が沈降することを防ぐため、回収された処理済残油成分Hをモーター9bで駆動される攪拌機9aを用いて撹拌しながら、第2中間タンク9に貯留するとよい。
【0064】
(再供給工程)
再供給工程では、解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分Hを水素化分解反応器3に再供給する。具体的には、第2中間タンク9に回収された解砕鉄系触媒を含む処理済残油成分Hを第2ポンプ10を用いて、原料スラリーCと配管中で混合し、予熱器2を介して水素化分解反応器3に再供給する。
【0065】
上記原料スラリーCにおける石油系重質油Aに対する上記処理済残油成分Hに含まれる重質反応生成物の供給量の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。また、上記合計供給量の上限としては、80質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。上記合計供給量が上記下限未満である場合、水素化分解されて軽質化される処理済残油成分Hの量が少なく、水素化分解油の収率が低下するおそれがある。一方、上記合計供給量が上記上限を超える場合、処理済残油成分Hを原料スラリーCに混合した際に原料スラリーCの流動性低下が生じ、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0066】
上記原料スラリーCにおける石油系重質油Aに対する上記解砕鉄系触媒の供給量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。また、上記解砕鉄系触媒の供給量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記解砕鉄系触媒の供給量が上記下限未満である場合、再利用される解砕鉄系触媒の供給量が不十分となるおそれがある。一方、上記解砕鉄系触媒の供給量が上記上限を超える場合、再利用される解砕鉄系触媒が多くなり、水素化分解の処理効率が悪化するおそれがある。
【0067】
定常状態において、上記原料スラリーCにおける石油系重質油Aに対する水素化分解反応器3内の鉄系触媒量(新規に供給される鉄系触媒B及び再利用される解砕鉄系触媒の和)の下限としては、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。また、上記水素化分解反応器3内の鉄系触媒量の上限としては、11質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。上記水素化分解反応器3内の鉄系触媒量が上記下限未満である場合、鉄系触媒の供給量が不十分となり、水素化分解油の収率が低下するおそれがある。一方、上記水素化分解反応器3内の鉄系触媒量が上記上限を超える場合、新規に供給される鉄系触媒B又は再利用される解砕鉄系触媒の供給量を多くする必要があり、水素化分解の処理コストが増加するおそれがある。ここで「定常状態」とは、水素化分解反応器3内の鉄系触媒の総量が装置立ち上げ時等の過渡状態を脱した状態を指し、例えば時間の経過に伴い多少の増減はあるものの、水素化分解反応器3内の鉄系触媒の総量の単位時間当たりの変動率が10質量%以下に収まる状態である。
【0068】
<水素化分解油製造方法>
次に当該水素化分解油製造方法について説明する。当該水素化分解油製造方法は当該水素化分解方法を用いる。具体的には、上記回収工程において得られる気相成分Fを冷却し、ガス成分と液体成分とに分離することで、水素化分解油を製造する。分離された上記液体成分が、軽質反応生成物と中質反応生成物とが混合した水素化分解油である。また、必要に応じて上記液体成分を軽質反応生成物と中質反応生成物とに蒸留により分離してもよい。
【0069】
当該水素化分解油製造方法は、他の工程を備えてもよい。このような工程としては、例えば、気相成分Fに含まれる上記液体成分をNi−Mo系触媒又はCo−Mo系触媒を用いて水素化処理する工程及びこの水素化処理工程の後に行われる気液分離工程が挙げられる。また、上記水素化処理工程及び気液分離工程は繰り返し行ってもよい。
【0070】
また、回収工程において当該水素化分解油製造装置の系外に抜き出された残油成分Gから水素化分解油を得ることができる。具体的には、上記残油成分Gは、中質反応生成物と、その他の重質反応生成物、触媒、重金属等の成分とに蒸留等の方法により分離することで、中質反応生成物を水素化分解油として回収することができる。
【0071】
<利点>
当該水素化分解方法は、鉄系触媒Bを解砕する工程を備えるので、水素化分解で使用済みの鉄系触媒Bが細粒化され鉄系触媒Bの触媒活性が高められる。従って、当該水素化分解方法は、水素化分解の処理コストを効果的に低減できる。また、当該水素化分解油製造方法は、当該水素化分解方法を用いるので水素化分解油の製造コストに優れる。
【0072】
[その他の実施形態]
当該水素化分解方法、当該水素化分解油製造方法、当該水素化分解装置、及び当該水素化分解油製造装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態において、粉砕機を用いて鉄系触媒を粉砕する方法を説明したが、分散機により鉄系触媒を解砕してもよい。このような分散機としては、例えば超音波分散機を挙げることができる。触媒として使用された鉄系触媒は粒子径の小さい鉄系触媒が凝集したものであるため、超音波で解砕され得る。超音波分散機を用いる場合は、例えば第1中間タンクの下流側の配管に公知の超音波解砕機を取り付ける方法等が挙げられる。
【0073】
また、上記実施形態では、気液分離器から得られた残油成分を第1中間タンクに回収する場合を説明したが、第1中間タンクに回収する前にフラッシュ分離器を用いて、減圧フラッシュ分離を行い、残油成分中の中質油成分を気相側に分離してもよい。気相側に分離された中質油成分は、気液分離器で分離された気相成分に加えられ、水素化分解油として回収される。
【0074】
また、上記実施形態では、粉砕機を用いて鉄系触媒を粉砕した後、スクリーニングにより上記解砕鉄系触媒の最大粒子径を一定値以下とする方法を示したが、このスクリーニングは必須の構成要件ではない。スクリーニングを行わなくとも解砕された鉄系触媒により触媒活性を高める一定の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記実施形態では、石油系重質油及び鉄系触媒をスラリー調製槽において調製後予熱器を介して水素化分解反応器に供給したが、石油系重質油及び鉄系触媒を調製槽を使わず配管中で混合(インライン混合)して、水素化分解反応器に供給してもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、処理済残油成分を原料スラリーと配管中で混合する場合を説明したが、処理済残油成分を調製槽に供給して原料スラリーと混合してもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
[参考例1]
石油系重質油として減圧蒸留残渣油500gに対し、鉄系触媒としてリモナイトを石油系重質油に対して鉄換算で0.3質量%添加し、さらに助触媒として硫黄をリモナイトの鉄原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比で1.2倍添加した原料スラリーを調製した。
【0079】
このリモナイトの組成を表1に示す。なお、リモナイトは平均粒子径が1μm以下となるまで粉砕して使用した。粉砕には、FRITSCH社の「Planetary mill pulverisette 5」(以下、「遊星ミル」ともいう)を用いた。具体的には、まず遊星ミルのポット(容量250ml)に乾燥したリモナイト20g、軽油80g及びSUS316製の粉砕ボール(直径10mm)50個を投入した。この遊星ミルを250rpmで運転し、1時間毎に粒子径を測定し、50%平均粒子径(メディアン値)が1μm以下となるまで粉砕を継続した。粒子径の測定には島津製作所の「SALD2000」を用いた。
【0080】
上記原料スラリーを内容積5Lのガス流通式オートクレーブに入れ、このオートクレーブに水素ガスを供給し、水素ガス反応圧力5MPa、温度450℃となるまで昇圧及び昇温した。所定圧力及び所定温度に達した後、1時間の水素化分解反応を実施した。水素化分解反応終了後に冷却及び脱圧を行い、水素化分解した生成物を得た。
【0081】
[実施例1]
参考例1で得られた水素化分解した生成物を多量(質量で20倍以上)のテトラヒドロフラン(THF)を用いて抽出、濾過を行い、その濾残からTHFを留去し、使用済み鉄系触媒を含むTHF不溶成分(以下、THFI成分ともいう)を回収した。このTHFI成分の組成を表1に示す。このTHFI成分20gに軽油80gを混合し超音波解砕機(日本エマソン株式会社の「BRANSONIC ULTRASONIC CREANER 2510J−MT」)で解砕した。
【0082】
【表1】
【0083】
次に、石油系重質油として減圧蒸留残渣油500gに対し、鉄系触媒として上記超音波解砕機で解砕したTHFI成分を石油系重質油に対して鉄換算で0.3質量%添加し、さらに助触媒としての硫黄を解砕鉄系触媒の鉄原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比で1.2倍添加した第2原料スラリーを調製した。
【0084】
上記第2原料スラリーを内容積5Lのガス流通式オートクレーブに入れ、このオートクレーブに水素ガスを供給し、水素ガス反応圧力5MPa、温度450℃となるまで昇圧及び昇温した。所定圧力及び所定温度に達した後、1時間の水素化分解反応を実施し、水素化分解反応終了後に冷却及び脱圧を行い、水素化分解した生成物を再び得た。
【0085】
[比較例1]
実施例1のTHFI成分を超音波解砕機で解砕せずそのままTHFI成分を使用した以外は実施例1と同様にして水素化分解を行い、水素化分解した生成物を再び得た。
【0086】
<評価>
参考例1の水素化分解及び実施例1と比較例1との2回目の水素化分解について、使用した鉄系触媒の平均粒子径及び水素化分解により得られた生成物の成分分析の評価を以下の方法で行った。結果を表2に示す。
【0087】
(平均粒子径)
島津製作所の「SALD2000」を用い、使用した鉄系触媒について50%平均粒子径(メディアン値)を測定した。
【0088】
(成分分析)
ガス状の生成物については、ガスクロマトグラフ分析を行い、液状又は固体状の生成物については、蒸留分別又は溶剤分別により分析を行った。分析結果から、沸点が525℃未満の成分(軽質反応生成物及び中質反応生成物)の石油系重質油に対する割合を油収率、及び沸点が525℃以上の成分(重質反応生成物)の石油系重質油に対する割合をボトム収率として算出した。
【0089】
【表2】
【0090】
表2において、重質反応生成物の「HS成分」とは、重質反応生成物のうちヘキサンに可溶な成分を指す。また、「HI−TS成分」とは、重質反応生成物のうちヘキサンに不溶かつトルエンに可溶な成分を指す。「コーク」とは、重質反応生成物のうちトルエンに不溶な成分を指す。
【0091】
表2から解砕したTHFI成分に含まれる解砕鉄系触媒を再利用する実施例1は、THFI成分を解砕せずそのままTHFI成分に含まれる鉄系触媒を使用した比較例1と比べ油収率が大きく、新規触媒のみを用いた参考例1と同等の油収率となっている。従って、当該水素化分解油製造方法は、当該水素化分解方法を用いることで水素化分解油の製造コストに優れることが分かる。
【0092】
また、表2から実施例1の鉄系触媒の50%平均粒子径は、参考例1の鉄系触媒の50%平均粒子径と同程度であり、油収率もほぼ同等である。これに対し、比較例1の鉄系触媒の50%平均粒子径は実施例1及び参考例1の鉄系触媒の50%平均粒子径よりも大きく、油収率が低い。このように実施例1の触媒を元の粒子径(参考例1の粒子径)程度まで細粒化することで、触媒活性が高められることが分かる。