特許第6297891号(P6297891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297891
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】有機材料及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20180312BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20180312BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20180312BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   C07D519/00 301
   C07D519/00CSP
   H01L31/04 154B
   H01L31/04 154C
   H01L31/04 154D
   H01L31/04 112A
   C08G61/12
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-75301(P2014-75301)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-196661(P2015-196661A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】新居 遼太
(72)【発明者】
【氏名】日高 優
(72)【発明者】
【氏名】シン ウン
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】安田 琢磨
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/064937(WO,A1)
【文献】 特開2013−161828(JP,A)
【文献】 特開2013−181071(JP,A)
【文献】 特開2012−214671(JP,A)
【文献】 ACS Applied Materials & Interfaces,2013年,5(6),p.2033-2039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 519/00
C08G 61/00
H01L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機材料。
<一般式(1)>
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R及びRは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。Xは、芳香族炭化水素基を表す。Yは、チオフェン環を表し、前記芳香族炭化水素基における水素原子、及び前記チオフェン環における水素原子、アルキル基により置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。
【請求項2】
前記Yの前記チオフェン環における前記水素原子が、分岐鎖アルキル基により置換されている請求項1に記載の有機材料。
【請求項3】
前記nが、1である請求項1から2のいずれかに記載の有機材料。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される請求項1から3のいずれかに記載の有機材料。
<一般式(2)>
【化2】
ただし、前記一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の有機材料と、n型有機材料と、有機溶媒と、を少なくとも含むことを特徴とする光電変換層用溶液。
【請求項6】
前記n型有機材料が、フラーレン誘導体である請求項5に記載の光電変換層用溶液。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の有機材料と、n型有機材料とを少なくとも含むことを特徴とする有機材料薄膜。
【請求項8】
少なくとも正極と負極とを有する光電変換素子であって、
前記正極と前記負極の間に請求項7に記載の有機材料薄膜を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項9】
前記正極が、透明電極である請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記負極が、透明電極である請求項8から9のいずれかに記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料及びそれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の代替エネルギーとして、また、地球温暖化対策として太陽電池の重要性が高まっている。しかし、シリコン系太陽電池に代表される現行の太陽電池は、現状では製造コストが高く、普及を妨げる要因となっている。そのため、各種低コスト型の太陽電池の研究開発が進められており、その一つとして有機薄膜太陽電池がある。前記有機薄膜太陽電池は、軽量、安価、大面積化が容易であることから実用化の期待が高まっているものの、光電変換効率は、シリコン系太陽電池の1/2以下に留まっているのが現状である。
【0003】
前記有機薄膜太陽電池の光電変換層は、p型半導体とn型半導体からなり、光吸収により、前記p型半導体及び前記n型半導体のいずれか又は両方で発生した励起子が、pn界面まで拡散し、前記pn界面で電子と正孔に分離する。次に、分離した電子及び正孔がそれぞれの捕集電極に移動して外部回路へと取り出される。しかし、有機材料の励起子拡散長は数nm程度しかなく、分離した電荷の拡散長も、結晶状態等によって大きく左右されるため一概には言えないが、シリコン等には遠く及ばない。
【0004】
前記p型半導体材料と前記n型半導体材料の無秩序な混合系であるバルクヘテロ接合構造、更に、秩序性を持たせ電荷輸送パスを確保した規則性バルクヘテロ接合構造等は上記の励起子拡散長及び電荷輸送の問題を解決する一種の構造体であり、光電変換効率の向上には欠かせない構造体である。前記バルクヘテロ接合構造体により、励起子が発生した場所から数nmの範囲にpn界面が配置され、励起子分離効率が向上する。更に、電荷輸送パス確保により、電荷が輸送中に再結合せずにそれぞれの電極まで移動できれば、大きな電流を外部回路に取り出せるようになる。
【0005】
現在、主に用いられている有機材料としては、p型半導体材料として共役高分子が数多く報告されている。前記共役高分子は、電荷分離性及び電荷輸送性に優れたバルクヘテロ接合構造体を形成し易いが、共役が大きく発達しているため、開放端電圧と相関のある材料物性であるイオン化ポテンシャルが小さく、高い開放電圧が得られにくいという課題がある。更に、高分子であるため、分子量分布があり、製造時に安定した材料が得られにくいという欠点がある。
【0006】
前記課題を解決するため、近年、真空プロセスを必要としない、塗布法により素子化可能な有機低分子系のp型半導体材料が報告されている。
本願出願人は、先に、低分子有機材料で特定の構造を有するジケトピロロピロール誘導体を含有する光電変換素子について報告している(非特許文献1参照)。また、ベンゾジチオフェン誘導体を有するジケトピロロピロール誘導体についても報告している(非特許文献2参照)。
しかし、前者は、イオン化ポテンシャルが大きいため、開放電圧が大きいものの、吸収できる光の波長が短く、光電変換効率は不十分である。一方、後者は、比較的長い波長範囲の光を吸収できるが、電荷輸送パスや電荷分離にかかわる凝集構造が乏しく、光電変換効率については未だ不十分である。
【0007】
したがって、有機薄膜太陽電池系に適用すると、高い開放電圧を有し、広い波長範囲の光を吸収でき、電荷輸送性能に優れた新規な有機材料の提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、有機薄膜太陽電池系に適用すると、高い開放電圧を有し、広い波長範囲の光を吸収でき、電荷輸送性能に優れた新規な有機材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としての本発明の有機材料は、下記一般式(1)で表される。
【0010】
<一般式(1)>
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R及びRは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。Xは、置換又は無置換の芳香族炭化水素基を表す。Yは、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、及びアルキル基のいずれかを表し、これらは置換基により置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、有機薄膜太陽電池系に適用すると、高い開放電圧を有し、広い波長範囲の光を吸収でき、電荷輸送性能に優れた新規な有機材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の順型構成の光電変換素子の一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明の逆型構成の光電変換素子の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(有機材料)
本発明の有機材料は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
<一般式(1)>
【化2】
【0015】
前記一般式(1)において、R及びRは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。前記炭素数4〜24のアルキル基としては、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよいが、溶解性向上の点から、分岐鎖アルキル基が好ましい。前記炭素数4〜24のアルキル基としては、例えば、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘキシルデシル基、2−デシルドデシル基などが挙げられる。これらの中でも、2−エチルヘキシル基、2−ヘキシルデシル基が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)において、Xは、置換又は無置換の芳香族炭化水素基を表す。前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、チエニル基、3−チアゾリル基等の芳香族炭化水素基又は複素芳香族炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、チエニル基が好ましい。
Xにおける置換基としては、例えば、アルキル基などが挙げられる。前記アルキル基としては、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよいが、凝集構造の発達の点から、直鎖アルキル基が好ましい。前記アルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0017】
前記一般式(1)において、Yは、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、及びアルキル基のいずれかを表し、芳香族炭化水素基であることが電荷輸送に関わる凝集構造発達の点から好ましい。
Yの芳香族炭化水素基としては、置換されていても無置換でもよい。前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、チエニル基、3−チアゾリル基等の芳香族炭化水素基又は複素芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、チエニル基が好ましい。
前記Yの芳香族炭化水素基における置換基としては、例えば、アルキル基、アルコシキル基などが挙げられる。前記アルキル基としては、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよいが、溶解性向上の点から、分岐鎖アルキル基が好ましい。前記分岐鎖アルキル基としては、例えば、2−エチルヘキシル、2−ヘキシルデシル、2−デシルドデシル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。前記アルコキシ基としては、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよいが、溶解性向上の点から、分岐鎖アルコキシ基が好ましい。前記分岐鎖アルコキシ基としては、例えば、2−エチルヘキシロキシ基、2−ヘキシルデシロキシ基、2−デシルドデシロキシ基などが挙げられる。
nは、1〜3の整数を表し、イオン化ポテンシャルを深く保つ観点から、1が好ましい。
【0018】
本発明の有機材料としては、下記一般式(2)で表される化合物であることが、電荷発生のための凝集構造発達の観点、及びイオン化ポテンシャルを深く保つ観点から好ましい。
【0019】
<一般式(2)>
【化3】
【0020】
前記一般式(2)において、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。
前記炭素数4〜24のアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよいが、溶解性向上の点から、分岐アルキル基が好ましい。前記炭素数4〜24のアルキル基としては、例えば、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘキシルデシル基、2−デシルドデシル基などが挙げられる。これらの中でも、2−エチルヘキシル基、2−ヘキシルデシル基が好ましい。
【0021】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される有機材料は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する実施例の合成例1に記載の方法などにより合成することができる。
【0022】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される有機材料としては、具体的には、下記構造式で表される化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記構造式で表される化合物において、Etはエチル基、Buはブチル基をそれぞれ表す。
【0023】
<例示化合物1>
【化4】
【0024】
<例示化合物2>
【化5】
【0025】
<例示化合物3>
【化6】
【0026】
<例示化合物4>
【化7】
【0027】
<例示化合物5>
【化8】
【0028】
<例示化合物6>
【化9】
【0029】
<例示化合物7>
【化10】
【0030】
<例示化合物8>
【化11】
【0031】
<例示化合物9>
【化12】
【0032】
<例示化合物10>
【化13】
【0033】
<例示化合物11>
【化14】
【0034】
<例示化合物12>
【化15】
【0035】
<例示化合物13>
【化16】
【0036】
<例示化合物14>
【化17】
【0037】
<例示化合物15>
【化18】
【0038】
<例示化合物16>
【化19】
【0039】
これらの中でも、溶解性及び凝集性の観点から、前記例示化合物2、前記例示化合物3が特に好ましい。
【0040】
本発明の前記一般式(1)で表される有機材料は、長い波長を吸収でき、容易に電荷輸送に有利な凝集構造が得られるので、各種技術分野に用いることができるが、以下に説明する大きな開放電圧が得られる光電変換素子の作製に好適に用いられる。
【0041】
(光電変換層用溶液)
本発明の光電変換層用溶液は、本発明の前記一般式(1)で表される有機材料と、n型有機材料と、有機溶媒とを少なくとも含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記光電変換層用溶液は、例えば、後述する光電変換素子における光電変換層を形成するのに用いられる。
【0042】
<有機材料>
前記有機材料としては、前記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
前記有機材料の含有量は、前記光電変換層用溶液全量に対して、0.1質量%〜4質量%が好ましい。
【0043】
<n型有機材料>
前記n型有機材料としては、例えば、フラーレン、フラーレン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、電荷分離及び電荷輸送の点から、フラーレン誘導体が好ましい。
前記フラーレン誘導体としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、PC71BM(フェニルC71酪酸メチルエステル、フロンティアカーボン社製)、PC61BM(フェニルC61酪酸メチルエステル、Merck社製)、フラーレンインデン2付加体(アルドリッチ社製)などが挙げられる。
前記n型有機材料の含有量は、前記光電変換層用溶液全量に対して、0.1質量%〜4質量%が好ましい。
【0044】
<有機溶媒>
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、o−クロロフェノール、アセトン、酢酸エチル、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、クロロベンゼン、クロロホルム、オルトジクロロベンゼンが好ましい。
【0045】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジヨードオクタン、オクタンジチオール、クロロナフタレン等の各種添加剤などが挙げられる。
【0046】
(有機材料薄膜)
本発明の有機材料薄膜は、本発明の前記有機材料と、n型有機材料とを少なくとも含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0047】
前記有機材料薄膜は、p型有機材料とn型有機材料とを含有し、前記一般式(1)で表される有機材料をp型有機材料として使用する。なお、他のp型有機材料を含んでいても構わない。
前記他のp型有機材料としては、例えば、ポリチオフェン化合物、ポリフェニレンビニレン化合物、ポリフルオレン化合物、ポリフェニレン化合物等の高分子材料、各種ポルフィリンやフタロシアニン等の低分子材料などが挙げられる。
【0048】
<n型有機材料>
前記n型有機材料としては、前記光電変換層用溶液におけるn型有機材料と同じものを用いることができる。
【0049】
本発明においては、本発明の前記一般式(1)で表される有機材料からなるp型半導体、及び前記n型有機材料からなるn型半導体を、順次、形成して平面的な接合界面を形成させてもよいが、接合界面の面積を大きくするため、これらを三次元的に混合させたバルクへテロ接合を形成させることが好ましい。
前記バルクヘテロ接合を形成するためには、溶解性の高い有機材料を用いる場合にはこれらの材料を溶剤に溶解し、本発明の前記一般式(1)で表される有機材料及び前記n型有機材料が分子状で混合された溶液を作製し、該溶液を塗布後、乾燥させて溶剤を除去し形成することが可能である。更に加熱処理を行って、各々の半導体の凝集状態を最適化することもできる。
一方、溶解性が乏しい有機材料を用いる場合には、本発明の前記一般式(1)で表される有機材料が溶解した溶媒に前記n型有機材料を分散させた溶液を作製し、該溶液を塗布して混合層を形成することができる。更に加熱処理を行って、各々の半導体の凝集状態を最適化することもできる。
【0050】
本発明の前記一般式(1)で表される有機材料は、容易に凝集構造が得られ、剛直であるが故に、耐熱性に優れるという特徴を有する。更に、HOMO準位が深く、空気安定性に優れると共に、材料起因である開放電圧の向上が見込まれる。加えて、このような剛直な分子骨格に対して、アルキル基に代表されるような溶解性基を導入することで、一般的な有機溶媒に対する溶解性を確保しつつ、結晶性、液晶性、及び配向性といった規則的な集合状態を有する有機材料薄膜をより有利に形成できる。このような規則性の高い状態では、高い電荷輸送が期待できる。
【0051】
前記一般式(1)で表される有機材料及びn型有機材料を混合して有機材料薄膜を形成する場合は、前記一般式(1)で表される有機材料とn型有機材料とを所望の質量比率で溶媒に添加し、加熱、撹拌、超音波照射などの方法を用い溶解させて溶液を作製し、この溶液を電極上に塗布する。この場合、2種以上の溶媒を混合して用いることで光電変換素子の光電変換効率を向上させることもできる。
【0052】
前記有機材料薄膜の形成方法としては、例えば、スピンコート塗布法、ブレードコート塗布法、スリットダイコート塗布法、スクリーン印刷塗布法、バーコーター塗布法、鋳型塗布法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法などが挙げられる。これらの中から、厚み制御、配向制御、及び作製する有機材料薄膜の特性に応じて適宜選択することができる。
例えば、スピンコート塗布を行う場合には、前記一般式(1)で表される有機材料、及びn型有機材料を5mg/mL〜30mg/mLの濃度(前記一般式(1)で表される構造を有する有機材料とn型有機材料と溶媒とを含む溶液の体積に対する、前記一般式(1)で表される有機材料及びn型有機材料の質量)とすることが好ましく、この濃度にすることで均質な有機材料薄膜を容易に作製することができる。
【0053】
作製した有機材料薄膜に対して、有機溶媒を除去するために、減圧下又は不活性雰囲気下(窒素、アルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。前記アニーリング処理の温度は、40℃〜300℃が好ましく、50℃〜200℃がより好ましい。また、前記アニーリング処理を行うことで、積層した層が界面で互いに浸透して接触する実行面積が増加し、短絡電流を増大させることができる。なお、前記アニーリング処理は、電極の形成後に行ってもよい。
【0054】
前記有機材料薄膜の平均厚みは、50nm〜400nmが好ましく、60nm〜250nmがより好ましい。前記平均厚みが、50nm未満であると、有機材料薄膜による光吸収が少なくキャリア発生が不充分となることがあり、400nmを超えると、光吸収により発生したキャリアの輸送効率が一段と低下することがある。
【0055】
本発明の有機材料薄膜は、各種用途に用いることができるが、以下に説明する本発明の光電変換素子の光電変換層として好適に用いられる。
【0056】
(光電変換素子)
本発明の光電変換素子は、少なくとも正極と負極とを有してなり、前記正極と前記負極の間に本発明の前記有機材料薄膜を有し、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
【0057】
<基板>
前記基板としては、可視光を透過するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス基板、透明プラスチック基板、無機物透明結晶体からなる基板などが挙げられる。これらの中でも、軽量性、ロバスト性、及び可撓性の観点から、透明プラスチック基板、ガラス基板がより好ましい。
【0058】
<正極、負極>
正極及び負極は、少なくともいずれか一方は可視光に対して透明なものを使用し、他方は透明であっても不透明であっても構わない。
前記可視光に対して透明な電極としては、特に制限はなく、通常の光電変換素子又は液晶パネル等に用いられる公知のものを使用でき、例えば、スズドープ酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)、フッ素ドープ酸化スズ(以下、「FTO」と称する)、アンチモンドープ酸化スズ(以下、「ATO」と称する)、アルミニウムやガリウムがドープされた酸化亜鉛(以下、それぞれを「AZO」、「GZO」と称する)等の導電性金属酸化物が挙げられる。
前記可視光に対して透明な電極の平均厚みは、5nm〜10μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましい。
【0059】
前記可視光に対して透明な電極は、一定の硬度を維持するため、可視光に透明な材質からなる基板上に設けることが好ましく、電極と基板が一体となっているものを用いることもでき、例えば、FTOコートガラス、ITOコートガラス、酸化亜鉛:アルミニウムコートガラス、FTOコート透明プラスチック膜、ITOコート透明プラスチック膜などが挙げられる。
前記可視光に対して透明な電極は、メッシュ状、ストライプ状等の光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものや、カーボンナノチューブ、グラフェン等を透明性を有する程度に積層したものでもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、積層したものであっても構わない。
また、基板抵抗を下げる目的から、金属リード線を用いることができる。前記金属リード線の材質としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が挙げられる。前記金属リード線の形成方法としては、例えば、基板に蒸着法、スパッタリング法、圧着法等で金属膜を設け、該金属膜上にITOやFTOを形成する方法などが挙げられる。
【0060】
前記正極及び前記負極のいずれか一方に不透明な電極を用いる場合の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、Al等の金属;グラファイトなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記不透明な電極の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、いわゆる順型構成の光電変換素子の場合(図1参照)には負極はAl電極であることが好ましい。一方、いわゆる逆型構成の光電変換素子の場合(図2参照)にはAg電極であることが好ましい。
【0061】
<正孔輸送層>
順型構成の光電変換素子の場合(図1参照)には正極上に正孔輸送層が積層されている。一方、逆型構成の光電変換素子の場合(図2参照)には光電変換層上に正孔輸送層が積層されている。即ち、正極表面又は光電変換層表面に正孔輸送層を設けることにより、正孔の収集効率を向上させることができる。
前記正孔輸送層は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸)等の導電性ポリマーを塗布する方法;酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化ニッケル等の正孔輸送性を有する無機化合物をゾルゲル法やスパッタリング法により形成することができる。
順型構成の光電変換素子の場合には正孔輸送層は導電性ポリマーを含有することが好ましく、逆型構成の光電変換素子の場合には正孔輸送層は酸化モリブデンを含有することが好ましい。
前記正孔輸送層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、できるだけ全面を薄く覆うことが好ましく、1nm〜50nmがより好ましい。
【0062】
<電子輸送層>
順型構成の光電変換素子の場合には光電変換層上に電子輸送層が積層されており、逆型構成の光電変換素子の場合には負極上に電子輸送層が積層されている。
前記電子輸送層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子受容性有機材料(例えば、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン化合物、カーボンナノチューブ(CNT)、CN−PPV等)、酸化亜鉛、酸化チタンフッ化リチウム、カルシウム金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、順型構成の光電変換素子の場合にはフッ化リチウムが好ましく、逆型構成の光電変換素子の場合には酸化亜鉛が好ましい。
前記電子輸送層は、例えば、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などにより形成することができる。
前記電子輸送層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、できるだけ全面を薄く覆うことが好ましく、1nm〜50nmがより好ましい。
【0063】
<光電変換層>
前記光電変換層としては、本発明の前記一般式(1)で表される有機材料からなる有機材料薄膜からなる。
前記光電変換層の平均厚みは、50nm〜400nmが好ましく、60nm〜250nmがより好ましい。前記平均厚みが、50nm未満であると、光電変換層による光吸収が少なくキャリア発生が不充分となることがあり、400nmを超えると、光吸収により発生したキャリアの輸送効率が一段と低下してしまうことがある。
【0064】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガスバリア層、保護層、バッファ層などが挙げられる。
前記ガスバリア層の材料としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素等の無機物などが挙げられる。
【0065】
本発明の光電変換素子は、1つ以上の中間電極を介して2層以上の光電変換層を積層(タンデム化)して直列接合を形成してもよく、例えば、基板/正極/正孔輸送層/第1の光電変換層/中間電極/第2の光電変換層/電子輸送層/負極という積層構成などが挙げられる。このように積層することにより、開放電圧を向上させることができる。
このような積層構成の場合には、光電変換層の少なくとも1層が前記一般式(1)で表される有機材料からなる有機材料薄膜を含み、他の層には、短絡電流を低下させないために、前記一般式(1)で表される有機材料とは吸収波長の異なる他の有機材料を含むことが好ましい。
前記他の有機材料としては、例えば、ポリチオフェン化合物、ポリフェニレンビニレン化合物、ポリフルオレン化合物、ポリフェニレン化合物等の高分子材料;各種ポルフィリン、フタロシアニン等の低分子材料などが挙げられる。
【0066】
ここで、本発明の光電変換素子について図面を参照して説明する。
図1は、基板1上に正極2、正孔輸送層3、光電変換層4、電子輸送層5、及び負極6が順次設けられた、いわゆる順型構成の光電変換素子10である。前記光電変換層4が前記一般式(1)で表される有機材料からなる有機材料薄膜からなる。
図2は、基板1上に負極6、電子輸送層5、光電変換層4、正孔輸送層3、及び正極2が順次設けられた、いわゆる逆型構成の光電変換素子20である。前記光電変換層4が前記一般式(1)で表される有機材料からなる有機材料薄膜からなる。
【0067】
本発明の光電変換素子は、高開放電圧を有し、広い波長範囲の光を吸収でき、電荷輸送能に優れているので、例えば、有機薄膜太陽電池などに好適に用いられる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
(合成例1)
下記のスキームに従い、前記例示化合物2の2DPP−TBDTを合成した。なお、前記スキーム中の化合物7は、Angewandte Chemie,International Edition(2011),50,(41),9697−9702に従い、合成した。
【0070】
【化20】
【0071】
<化合物2の合成>
前記化合物1(10.0g、33.3mmol)、2−エチルヘキシルブロミド(19.3g、99.9mmol)、及びKCO(18.4g、133mmol)を乾燥DMF(300mL)中で混合し、120℃で24時間攪拌した。室温まで冷却した後、沈殿物を形成するために反応混合物を大量の氷水に注いだ。得られた沈殿物を濾過により回収し、水及びメタノールで洗浄した。
得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CHCl/ヘキサン=1:1、v/v)で精製し、CHCl/メタノールで再結晶化し、真空下で乾燥し、赤茶色の固体である化合物2を得た(8.89g、収率=51%)。
【0072】
得られた化合物2について、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
なお、H NMR、及び13C NMRは、Bruker社製AVANCE III500により分析を行った。以下同様にして分析した。
【0073】
H NMR(500MHz,CDCl):δ 8.89(dd,J=4.0Hz,1.5Hz,2H),7.63(dd,J=5.0Hz,1.5Hz,2H),7.27(dd,J=5.0Hz,4.0Hz,2H),4.07−3.98(m,4H),1.89−1.84(m,2H),1.40−1.20(m,16H),0.89−0.84(m,12H).
【0074】
13C NMR(125MHz,CDCl3):δ 161.78,140.45,135.25,130.49,129.87,128.42,107.98,45.89,39.11,30.24,28.39,23.58,23.06,14.01,10.50.
【0075】
<化合物3の合成>
乾燥CHCl(300mL)中で、前記化合物2(5.00g、9.52mmol)を攪拌した溶液に、0℃でN−ブロモスクシンイミド(NBS、1.69g、9.52mmol)をゆっくりと添加した。得られた混合物を室温まで加温し、一晩撹拌した。得られた反応混合物に水を注ぎ、次いで、CHClで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。濾過及び蒸発後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:トルエン/ヘキサン=4:1、v/v)で精製し、CHCl/メタノールで再結晶化し、真空下で乾燥することにより、赤茶色の固体である化合物3を得た(2.59g、収率=45%)。
得られた化合物3について、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
【0076】
H NMR(500MHz,CDCl):δ 8.90(dd,J=4.0Hz,1.5Hz,1H),8.63(d,J=4.0Hz,1H),7.64(dd,J=5.0Hz,1.0Hz,1H),7.28−7.26(m,2H),7.22(d,J=4.5Hz,1H),4.03−3.99(m,2H),3.98−3.92(m,2H),1.88−1.80(m,2H),1.38−1.23(m,16H),0.90−0.84(m,12H).
【0077】
13C NMR(125MHz,CDCl):δ 161.69,161.52,140.92,138.98,135.53,135.09,131.40,131.29,130.82,129.78,128.51,118.62,108.20,107.84,45.98,45.95,39.15,39.09,30.22,28.36,23.60,23.57,23.05,23.04,14.01,10.49.
【0078】
<化合物4の合成>
乾燥THF(200mL)中で、1−ブロモ−4−ヘキシルベンゼン(5.00g、20.7mmol)を攪拌した溶液に、−78℃で、n−ブチルリチウム(ヘキサン中1.62M、15.4mL、24.9mmol)を滴下して加えた。得られた混合物をその温度で1時間反応させた。次いで、2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(4.63g、24.9mmol)を加え、混合物を室温で一晩撹拌した。得られた反応混合物を水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。濾過及び蒸発後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、真空下で乾燥させて、無色の油である化合物4を得た(4.09g、収率=68%)
得られた化合物4について、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
【0079】
H NMR(500MHz,CDCl):δ 7.73(d,J=8.0Hz,2H),7.18(d,J=8.0Hz,2H),2.60(t,J=8.0Hz,2H),1.63−1.57(m,2H),1.33(s,12H),1.30−1.27(m,6H),0.87(t,J=7.0Hz,3H).
【0080】
13C NMR(125MHz,CDCl):δ 146.39,134.91,127.93,83.58,36.26,31.79,31.37,29.03,24.91,22.66,14.14.
【0081】
<化合物5の合成>
乾燥THF(40mL)中で、前記化合物3(2.50g、4.14mmol)、及び前記化合物4(1.70g、4.55mmol)を混合した混合液に、Pd(PPh(0.24g、0.21mmol)、及びKCO水溶液(2.0M、20mL;使用前に窒素でバブリングした)を添加した。得られた混合物を60℃で24時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物を水に注ぎ、次いで、CHClで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。濾過及び蒸発後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CHCl)により精製し、CHCl/メタノールで再結晶化し、真空下で乾燥させて、固体暗紫色の化合物5を得た(2.75g、収率=96%)
得られた化合物5について、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
【0082】
H NMR(500MHz,CDCl):δ8.98(d,J=4.0Hz,1H),8.87(dd,J=4.0Hz,1.0Hz,1H),7.61(dd,J=5.0Hz,1.0Hz,1H),7.59(d,J=8.5Hz,2H),7.43(d,J=4.0Hz,1H),7.28−7.26(m,1H),7.24(d,J=8.0Hz,2H),4.10−4.00(m,4H),2.64(t,J=7.5Hz,2H),1.97−1.92(m,1H),1.90−1.85(m,1H),1.67−1.60(m,2H),1.42−1.23(m,22H),0.92−0.84(m,15H).
【0083】
13C NMR(125MHz,CDCl):δ161.91,161.68,150.31,144.22,140.63,139.74,137.10,135.00,130.62,130.28,129.97,129.23,128.40,128.23,126.10,124.04,108.21,107.83,45.98,45.93,39.24,39.12,35.76,31.71,31.29,30.28,30.26,28.95,28.59,28.40,23.71,23.60,23.12,23.07,22.61,14.09,14.06,14.02,10.58,10.53.
【0084】
<化合物6の合成>
乾燥CHCl(50mL)中で、前記化合物5(2.50g、3.65mmol)を撹拌した溶液に、0℃で、N−ブロモスクシンイミド(NBS、0.71g、4.01mmol)をゆっくり添加した。得られた混合物を室温まで加温し、一晩撹拌した。得られた反応混合物を水に注ぎ、次いで、CHClで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。濾過及び蒸発後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CHCl)により精製し、CHCl/メタノールで再結晶化し、真空下で乾燥させて、暗褐色の固体である化合物6を得た(2.70g、収率=97%)。
得られた化合物6について、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
【0085】
H NMR(500MHz,CDCl):δ 8.99(d,J=4.0Hz,1H),8.61(d,J=4.0Hz,1H),7.58(d,J=8.5Hz,2H),7.43(d,J=4.5Hz,1H),7.24(d,J=8.5Hz,2H),7.21(d,J=4.0Hz,1H),4.10−4.01(m,2H),4.00−3.90(m,2H),2.64(t,J=8.0Hz,2H),1.96−1.90(m,1H),1.87−1.82(m,1H),1.66−1.60(m,2H),1.41−1.23(m,22H),0.92−0.89(m,15H).
【0086】
13C NMR(125MHz,CDCl):δ 161.80,161.39,150.65,144.31,141.04,138.19,137.41,134.81,131.42,131.36,130.55,129.24,128.13,126.10,124.09,118.28,108.43,107.67,46.02,39.23,39.15,35.77,31.71,31.28,30.36,30.24,28.95,28.57,28.37,23.70,23.62,23.11,23.05,22.97,22.61,14.08,14.06,14.02,10.57,10.52.
【0087】
<2DPP−TBDTの合成>
乾燥DMF(20mL)中で、前記化合物6(0.80g、0.88mmol)、及び化合物7(1.42g、1.86mmol)を混合した混合液に、Pd(PPh(0.05g、00.04mmol)を添加した。得られた混合物を85℃で24時間撹拌した。
室温に冷却した後、得られた反応混合物を水に注ぎ、次いで、CHClで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。濾過及び蒸発後、生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CHCl)で精製し、CHCl/メタノールで再結晶化し、真空下で乾燥させて、暗紫色の固体である2DPP−TBDTを得た。得られた化合物は、使用前に、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で更に精製した(1.39g、収率=81%)。
得られた2DPP−TBDTについて、H NMR、及び13C NMRの結果を以下に示した。
【0088】
H NMR(500MHz,CDCl):δ 9.02(d,J=4.0Hz,2H),9.00(d,J=4.0Hz,2H),7.62(s,2H),7.48(d,J=7.5Hz,4H),7.39(d,J=3.5Hz,2H),7.34(d,J=4.0Hz,2H),7.25(d,J=4.0Hz,2H),7.12(d,J=7.5Hz,4H),6.99(d,J=3.5Hz,2H),4.00−3.94(m,8H),2.96(d,J=6.5Hz,4H),2.54−2.50(m,4H),1.91−1.85(m,4H),1.82−1.77(m,2H),1.57−1.28(m,64H),1.03(t,J=7.5Hz,6H),0.97(t,J=6.8Hz,6H),0.95−0.87(m,30H).
【0089】
13C NMR(125MHz,CDCl):δ 161.41,161.36,149.97,146.26,144.03,141.79,139.77,138.96,138.52,137.36,136.75,136.65,136.52,130.42,129.07,128.99,128.18,128.08,125.74,125.54,123.74,120.56,120.29,108.41,107.89,45.88,41.43,39.45,39.34,35.72,34.50,32.67,31.69,31.15,30.40,29.03,29.01,28.61,25.78,23.66,23.20,23.16,23.13,22.62,14.24,14.14,14.09,10.93,10.68,10.58.
【0090】
得られた2DPP−TBDT(C118150)の元素分析値は下記のとおりであった。
【表A】
【0091】
(比較例1)
<光電変換素子の作製>
超音波洗浄、及びUVオゾン洗浄を施したパターニングITO付ガラス基板上に、PEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸、H.C.Stark社製、CleviosP VP AI4083)溶液をスピンコート(回転数:3000rpm)法で塗布し、130℃で10分間乾燥した。
次に、1mLのクロロベンゼン中に、P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)とPC61BM(フェニルC61酪酸メチルエステル、Merck社製)を17mg:17mgの割合で溶解させ、窒素置換されたグローブボックス中において、一晩以上攪拌し、光電変換層用溶液を調製した。
得られた光電変換層用溶液を大気中で、前記PEDOT:PSS膜上にスピンコート法で成膜し、140℃で10分間乾燥させることにより光電変換層を形成した。得られた光電変換層の平均厚みは100nmであった。
次に、真空蒸着法により、1×10−6Torr下で、前記光電変換層上に、フッ化リチウムを1nm、Al電極を80nmとなるように成膜し、光電変換素子を作製した。
【0092】
<評価>
得られた光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を分光計器株式会社製SRO−25GDにより測定したところ、開放端電圧=560mV、短絡電流密度=6.96mA/cm、曲線因子=0.60、光電変換効率=2.33%であった。
【0093】
(実施例1)
比較例1と同様にして、PEDOT:PSS溶液を超音波洗浄、及びUVオゾン洗浄を施したパターニングITO付ガラス基板上に塗布した。
次に、1mLのクロロホルム中に、前記例示化合物2で表される有機材料とPC71BM(フェニルC71酪酸メチルエステル、フロンティアカーボン社製)を7mg:7mgの割合で溶解させ、窒素置換されたグローブボックス中において、一晩以上攪拌し、光電変換層用溶液を調製した。
次に、得られた光電変換層用溶液を大気中で、前記PEDOT:PSS膜上にスピンコート法で成膜し、120℃で10分間乾燥させることにより光電変換層を形成した。得られた光電変換層の平均厚みは110nmであった。
次に、真空蒸着法により、1×10−6Torr下で、前記光電変換層上に、フッ化リチウムを1nm、Al電極を80nmとなるように成膜し、光電変換素子を作製した。
【0094】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=770mV、短絡電流密度=8.71mA/cm、曲線因子=0.58、光電変換効率=3.90%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0095】
(実施例2)
<光電変換素子の作製>
実施例1において、光電変換層用溶液中に1質量%となるようにジヨードオクタンを添加した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製した。
なお、光電変換層用溶液にジヨードオクタンを少量添加することにより、過凝集を防ぎ、電荷分離及び電荷輸送に適切な凝集構造にすることができる。
【0096】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=720mV、短絡電流密度=13.99mA/cm、曲線因子=0.53、光電変換効率=5.38%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0097】
(実施例3)
<光電変換素子の作製>
実施例1において、光電変換層の乾燥を120℃から室温(25℃)に変えた以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製した。
なお、乾燥温度を変え、乾燥時間を調節することにより、凝集度合いをコントロールすることができる。
【0098】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=760mV、短絡電流密度=10.79mA/cm、曲線因子=0.63、光電変換効率=5.12%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0099】
(実施例4)
<光電変換素子の作製>
超音波洗浄、及びUVオゾン洗浄を施したパターニングITO付ガラス基板上に、酸化亜鉛溶液をスピンコート法で塗布し、200℃で10分間乾燥して、厚み35nmの酸化亜鉛膜を形成した。
次に、1mLのクロロホルム中に、例示化合物2で表される有機材料とPC71BM(フェニルC71酪酸メチルエステル、フロンティアカーボン社製)を7mg:7mgの割合で溶解させ、窒素置換されたグローブボックス中において、一晩以上攪拌し、光電変換層用溶液を調製した。
次に、得られた光電変換層用溶液を大気中で、前記酸化亜鉛膜上にスピンコート法で成膜し、室温(25℃)で乾燥させることで光電変換層を形成した。得られた光電変換層の平均厚みは118nmであった。
次に、真空蒸着法により、1×10−6Torr下で、前記光電変換層上に、酸化モリブデンを10nm、Ag電極を80nmとなるように成膜し、光電変換素子を作製した。
【0100】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=770mV、短絡電流密度=9.03mA/cm、曲線因子=0.49、光電変換効率=3.41%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0101】
(実施例5)
<光電変換素子の作製>
実施例4において、光電変換層用溶液中に1質量%となるようにジヨードオクタンを添加した以外は、実施例4と同様にして、光電変換素子を作製した。
なお、光電変換層用溶液にジヨードオクタンを少量添加することにより、過凝集を防ぎ、電荷分離及び電荷輸送に適切な凝集構造にすることができる。
【0102】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=760mV、短絡電流密度=12.15mA/cm、曲線因子=0.63、光電変換効率=5.78%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0103】
(実施例6)
<光電変換素子の作製>
実施例5において、光電変換層の乾燥温度を室温(25℃)から100℃に変えた以外は、実施例5と同様にして、光電変換素子を作製した。
なお、乾燥温度を変え、乾燥時間を調節することにより、凝集度合いをコントロールすることができる。
【0104】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=700mV、短絡電流密度=13.11mA/cm、曲線因子=0.56、光電変換効率=5.16%であり、良好な光電変換素子特性を得ることができた。
【0105】
(比較例2)
<光電変換素子の作製>
超音波洗浄、及びUVオゾン洗浄を施したパターニングITO付ガラス基板上に、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸、H.C.Stark社製、CleviosP VP AI4083)溶液をスピンコート(回転数:3,000rpm)法で塗布し、130℃で10分間乾燥した。
次に、1mLのクロロホルム中に、下記構造式で表される比較化合物1とPC71BM(フェニルC71酪酸メチルエステル、フロンティアカーボン社製)を15mg:15mgの割合で溶解させ、窒素置換されたグローブボックス中において、一晩以上攪拌し、光電変換層用溶液を調製した。
【0106】
[比較化合物1]
【化21】
ただし、前記式中、Etはエチル基、Buはブチル基を表す。
前記比較化合物1は、ACS Applied Materials & Interfaces (2013),5(6),2033−2039に記載の方法と同様にして合成した。
【0107】
次に、得られた光電変換層用溶液を大気中で、前記PEDOT:PSS膜上にスピンコート法により成膜することで光電変換層を形成した。得られた光電変換層の平均厚みは180nmであった。
次に、真空蒸着法により、1×10−6Torr下で、前記光電変換層上にCaを3nm、Al電極を80nmとなるように成膜し、光電変換素子を作製した。
【0108】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=840mV、短絡電流密度=6.86mA/cm、曲線因子=0.43、光電変換効率=2.43%であった。
【0109】
(比較例3)
<光電変換素子の作製>
比較例2において、光電変換層用溶液中に0.3質量%となるようにジヨードオクタンを添加した以外は、比較例2と同様にして、光電変換素子を作製した。
なお、光電変換層用溶液にジヨードオクタンを少量添加することにより、過凝集を防ぎ、電荷分離及び電荷輸送に適切な凝集構造にすることができる。
【0110】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=760mV、短絡電流密度=8.49mA/cm、曲線因子=0.60、光電変換効率=3.88%であった。
【0111】
(比較例4)
比較例3において、光電変換層用溶液における溶媒をクロロホルムからo−ジクロロベンゼンに代え、ジヨードオクタンの添加量を0.3質量%から0.7質量%に変えた以外は、比較例3と同様にして、光電変換素子を作製した。
【0112】
<評価>
作製した光電変換素子について、疑似太陽光照射(AM1.5、100mW/cm)下における太陽電池特性を比較例1と同様にして測定したところ、開放端電圧=720mV、短絡電流密度=9.23mA/cm、曲線因子=0.62、光電変換効率=4.12%であった。
【0113】
以上の結果から、前記一般式(1)で表される有機材料を用いて作製した実施例1〜6の光電変換素子は、比較例1〜4の光電変換素子に比べて高い光電変換効率を示し、前記一般式(1)で表される有機材料は光電変換素子用材料として十分有用であることが分かった。
【0114】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機材料である。
<一般式(1)>
【化22】
ただし、前記一般式(1)中、R及びRは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。Xは、置換又は無置換の芳香族炭化水素基を表す。Yは、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、及びアルキル基のいずれかを表し、これらは置換基により置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。
<2> 前記Yが、芳香族炭化水素基である前記<1>に記載の有機材料である。
<3> 前記nが、1である前記<1>から<2>のいずれかに記載の有機材料である。
<4> 下記一般式(2)で表される前記<1>から<3>のいずれかに記載の有機材料である。
<一般式(2)>
【化23】
ただし、前記一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、炭素数4〜24のアルキル基を表す。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の有機材料と、n型有機材料と、有機溶媒と、を少なくとも含むことを特徴とする光電変換層用溶液である。
<6> 前記n型有機材料が、フラーレン誘導体である前記<5>に記載の光電変換層用溶液である。
<7> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の有機材料と、n型有機材料とを少なくとも含むことを特徴とする有機材料薄膜である。
<8> 少なくとも正極と負極とを有する光電変換素子であって、
前記正極と前記負極の間に前記<7>に記載の有機材料薄膜を有することを特徴とする光電変換素子である。
<9> 前記正極が、透明電極である前記<8>に記載の光電変換素子である。
<10> 前記負極が、透明電極である前記<8>から<9>のいずれかに記載の光電変換素子である。
【符号の説明】
【0115】
1 基板
2 正極
3 正孔輸送層
4 光電変換層
5 電子輸送層
6 負極
10 順型構成の光電変換素子
20 逆型構成の光電変換素子
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0116】
【非特許文献1】Chem.Mater.,2013,25(12),2549−2556
【非特許文献2】ACS Appl.Mater.Interfaces、2013,5(6),2033−2039
図1
図2