特許第6297978号(P6297978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297978ポリウレタン樹脂水分散液、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及び、その繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297978
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂水分散液、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及び、その繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20180312BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20180312BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20180312BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20180312BHJP
【FI】
   C08G18/00 C
   D06M13/292
   D06M15/564
   D06M101:32
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-536595(P2014-536595)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013005527
(87)【国際公開番号】WO2014045577
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-208386(P2012-208386)
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100087631
【弁理士】
【氏名又は名称】滝田 清暉
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(74)【代理人】
【識別番号】100144543
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 有穂
(72)【発明者】
【氏名】島村 信之
(72)【発明者】
【氏名】臼井 崇
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−072246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
D06M 13/00 − 15/715
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物と、(B)下記平均組成式(I)で表されるリン系化合物から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を、水に乳化分散させてなる分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖伸長剤を添加し、水中で鎖伸長させて得られるポリウレタン樹脂水分散液であって、前記(A)成分であるウレタンプレポリマーが、(a1)有機ポリイソシアネート及び(a2)高分子ポリオールとの反応生成物であるウレタンプレポリマーであり、前記ウレタンプレポリマー中和物が、前記(a1)成分、(a2)成分、及び、(a3)分子中にアニオン性親水基、並びに、少なくとも2個の活性水素を有する化合物との反応生成物であるアニオン性ウレタンプレポリマーを中和してなるウレタンプレポリマー中和物であって;前記(a2)成分である高分子ポリオールが、ポリカーボネート系ポリオール、ダイマージオール及びポリエーテル系ポリオール、からなる群より選択される少なくとも1種の高分子ポリオールであって、前記ポリエーテル系ポリオールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールAから選択される1種又は2種以上のポリオールを重合させて得られるポリエーテル系ポリオール、又は、前記ポリオールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンオキサイドから選択される少なくとも1種のモノマーを付加重合させて得られるポリエーテル系ポリオールであると共に、前記(B)リン系化合物の含有量が、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜30質量部であることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散液;

但し、式(I)中のnは2.6〜10の数、Aは単結合、−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−であり、Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はフェニル基である。
【請求項2】
前記(a1)成分である有機ポリイソシアネートが、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートである、請求項1に記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項3】
前記(a2)成分である高分子ポリオールの平均分子量が500〜4000である、請求項1又は2に記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項4】
前記(A)成分が、前記(a1)〜(a3)成分の他に、更に(a4)成分として多価アルコールを加えて得られたウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物である、請求項1〜3の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項5】
前記(B)成分であるリン系化合物の含有量が、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して15質量部である、請求項1〜4の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項6】
前記(A)成分がウレタンプレポリマー中和物であって、該中和物の構成要素の1つである(a3)化合物のアニオン性親水基がカルボキシル基である、請求項1〜5の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項7】
前記リン系化合物(B)が、前記平均組成式(I)におけるnが2.6〜3.5のリン系化合物である、請求項1〜6の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液をポリエステル系繊維に付与し、乾燥してなることを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維。
【請求項9】
前記リン系化合物(B)の担持量が前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部である、請求項8に記載された難燃性ポリエステル系繊維。
【請求項10】
ポリエステル系繊維の表面に、請求項1〜7の何れかに記載されたポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液を、前記リン系化合物(B)の担持量が前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部となるように付与し、乾燥する工程を有することを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水分散液、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及び、該繊維の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、ポリエステル系繊維等の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工に好適なポリウレタン樹脂水分散液、該ポリウレタン樹脂水分散液により処理された難燃性ポリエステル系繊維、及び、該繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーシート、ロールスクリーン、フィルター濾材等の繊維製品に使用されるポリエステル系繊維及びその編織物に対しては、強度を向上させたり硬い風合いを出したりする硬仕上げを目的として、各種高分子化合物を用いて樹脂加工を施すことが一般的に行われている。
更に、これらの繊維材料に難燃性を付与するために、上記樹脂加工時に、難燃剤を加工用の樹脂と併用するのが一般的であるが、要求される難燃性のレベルや、繊維材料の燃焼のしやすさに応じて、樹脂加工する前に難燃剤処理を実施する場合も多い。この場合、基材となる繊維材料が難燃化されても、樹脂加工に使用する樹脂が燃焼しやすいために、該樹脂と共に更に難燃剤を併用しなければならなくなることが殆どである。
【0003】
その場合、併用される難燃剤が、樹脂加工後の繊維の風合を損ねたり強度の向上を阻害したりするので、それらの悪影響を防止するために更に多量の樹脂が必要となる。このように多量の樹脂を使用すると難燃性も阻害されるので、難燃剤も多量に使用しなければならなくなるといった悪循環に陥ることが多い。
【0004】
また従来は、ハロゲン系の難燃剤(特許文献1)が多く用いられていたが、近年においては、環境汚染防止の観点から非ハロゲン系の難燃剤を使用することが要望されており、例えば、リン系化合物を用いた難燃剤(特許文献2、3)が使用されるようになってきた。しかしながら、これらのリン系化合物は、ハロゲン系化合物に比較すると難燃性が低いため、ハロゲン系の難燃剤を使用した場合より多量に使用することが必要となり、加工用の樹脂と同量、又は加工用樹脂より多くのリン系化合物を使用しなければならないという欠点があった。
また一般に、難燃剤は染料のブリードアウトを誘発する傾向があるので、多量に用いると染色堅牢度を低下させるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−250086号公報
【特許文献2】特開平11−269766号公報
【特許文献3】特開2000−126523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の第1の目的は、従来よりもはるかに少ない量のリン系難燃剤を使用するだけで、ポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工や、難燃コーティング加工等の、ウレタン樹脂加工を可能にすると共に、染色堅牢度の低下を充分に防止することができる、ポリウレタン樹脂水分散液を提供することにある。
本発明の第2の目的は、前記ポリウレタン樹脂水分散液を用いて得られる、高い難燃性を有すると共に、染色堅牢度の低下が充分に抑制された難燃性ポリエステル系繊維を提供することにある。
更に、本発明の第3の目的は、前記ポリウレタン樹脂水分散液を用いた、高い難燃性を有すると共に、染色堅牢度の低下が充分に抑制された難燃性ポリエステル系繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の諸目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、末端にイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物と特定のリン系化合物の混合物を水に乳化分散させてなる分散液に、特定の鎖伸長剤を用いて水中で鎖伸長反応させて得られたポリウレタン樹脂水分散液を、樹脂加工剤として使用した場合には、ポリウレタン樹脂の水分散物とリン系化合物の水分散物の単なる混合液を使用した場合よりも、はるかに少ない量のリン系化合物を使用するだけで、ポリエステル系繊維等に充分な難燃性を付与することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち本発明は、少なくとも、(A)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物と、(B)下記平均組成式(I)で表されるリン系化合物から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を、水に乳化分散させてなる分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖伸長剤を添加し、水中で鎖伸長させて得られるポリウレタン樹脂水分散液であって、前記(A)成分であるウレタンプレポリマーが、(a1)有機ポリイソシアネート及び(a2)高分子ポリオールとの反応生成物であるウレタンプレポリマーであり、前記ウレタンプレポリマー中和物が、前記(a1)成分、(a2)成分、及び、(a3)分子中にアニオン性親水基、並びに、少なくとも2個の活性水素を有する化合物との反応生成物であるアニオン性ウレタンプレポリマーを中和してなるウレタンプレポリマー中和物であって;前記(a2)成分である高分子ポリオールが、ポリカーボネート系ポリオール、ダイマージオール及びポリエーテル系ポリオールからなる群より選択される少なくとも1種の高分子ポリオールであって、前記ポリエーテル系ポリオールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールAから選択される1種又は2種以上のポリオールを重合させて得られるポリエーテル系ポリオール、又は、前記ポリオールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンオキサイドから選択される少なくとも1種のモノマーを付加重合させて得られるポリエーテル系ポリオールであると共に、前記(B)リン系化合物の含有量が、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜30質量部であることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散液;該ポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液をポリエステル系繊維に付与し、乾燥してなる難燃性ポリエステル系繊維;及び、ポリエステル系繊維の表面に、前記ポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液を、前記リン系化合物(B)の担持量が前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部となるように付与し、次いで乾燥する工程を有することを特徴とする、難燃性ポリエステル系繊維の製造方法である。
但し、式(I)中のnは2.6〜10の数、Aは単結合、−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−であり、Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はフェニル基である。
【0009】
本発明における前記(a1)成分の有機ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートであることが好ましく、前記(a2)成分の高分子ポリオールは、平均分子量が500〜4000のポリオールであることが好ましい。
また、本発明のポリウレタン樹脂水分散液における前記(B)成分のリン系化合物の含有量は、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して15質量部であることが好ましい。
本発明における前記(A)成分は、前記成分の他に、更に(a4)成分として多価アルコールを加えて得られたウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物であっても良く、この場合、(a4)成分である多価アルコールの分子量は200以下であることが好ましい。
【0010】
また、前記(A)成分がウレタンプレポリマー中和物である場合における(a3)成分の化合物が含有するアニオン性親水基は、カルボキシル基であることが特に好ましい。
更に、前記リン系化合物(B)は、前記平均組成式(I)におけるnが2.6〜3.5のリン系化合物であることが好ましい。
前記難燃性ポリエステル系繊維における前記リン系化合物(B)の担持量は、前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部で十分である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液は、従来よりもはるかに少ない量のリン系難燃剤を使用しているにも関わらず、ポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工等の樹脂加工薬剤として用いることができるだけでなく、ポリエステル系繊維に充分な難燃性を付与することができると共に、染色堅牢度の低下を充分に防止することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液は、(A)イソシアネート基を末端に有する、ウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物と、(B)前記一般式(1)で表されるリン系化合物との混合物を、水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群の中から選択される少なくとも1種の鎖伸長剤を添加して、水中で鎖伸長反応させて得られたものである。
【0013】
前記(A)成分のウレタンプレポリマーは、(a1)成分の有機ポリイソシアネート及び(a2)成分の高分子ポリオールの混合物から得られる。
上記(a1)成分の有機ポリイソシアネートは特に制限されず、公知の有機ポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0014】
上記有機ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。これらの有機ポリイソシアネートは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明においては、ポリウレタン樹脂の黄変が抑制されるという観点から、これら有機ポリイソシアネートの中でも、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートを用いることが好ましく、特に、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記(a2)成分としての高分子ポリオールとて、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ダイマージオールから選択される少なくとも1種のポリオールを使用する。
【0021】
本発明に使用するポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールと、ジフェニルカーボネート又はホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
(a2)成分として使用することができるポリカーボネート系ポリオールの具体的例としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールカーボネートジオール等が挙げられる。
【0022】
更に、本発明に使用するポリエーテル系ポリオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールAから選択される1種又は2以上のポリオールを重合させて得られるポリエーテル系ポリオール、又は、前記ポリオールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンオキサイドから選択される少なくとも1種のモノマーを付加重合させて得られるポリエーテル系ポリオールである。
【0024】
前記ポリエーテル系ポリオールは、ブロック共重合体であっても、ランダム共重体であってもよい。
具体的には、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の単独重合体、ブロック共重合体、及びランダム共重合体等が挙げられる。
【0025】
また、ダイマージオールとしては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。このような重合脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、これらの脂肪酸の低級モノアルコールエステル等を、触媒の存在下又は不存在下において、ディールスアルダー型の二分子重合反応を行わせたものを挙げることができる。
また、炭素数18のモノカルボン酸0〜5質量%、炭素数36のダイマー酸65〜98質量%、炭素数54のトリマー酸0〜30質量%からなる、種々の重合脂肪酸が市販されており、これらを使用することができる。
【0026】
また、前記(a2)成分の高分子ポリオールとしては、ポリエーテル系とポリエステル系とを組み合わせたポリエーテル・エステル系を用いることも可能である。
これらの高分子ポリオールは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明で使用する(a2)成分の高分子ポリオールの平均分子量は、500〜4000であることが好ましい。
【0027】
また、前記(A)成分としてウレタンプレポリマー中和物を使用する場合は、前記(a1)成分の有機ポリイソシアネート及び(a2)成分の高分子ポリオールに、更に、(a3)成分として、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物を加えた、混合物を使用する。
【0028】
前記(a3)成分として使用する化合物は、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する限り特に制限されることはなく、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸等のカルボキシル基を含有する低分子ジオール、2−スルホ−1,3−プロパンジオール、2−スルホ−1,4−ブタンジオール等のスルホ基を含有する低分子ジオール、及びこれらのジオールの塩が挙げられる。中和剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類、トリエタノールアミン等の3級アミン類、N−メチル-N,N−ジエタノールアミン等のN−アルキル-N,N−ジアルカノールアミン類、N,N−ジエチルエタノールアミン等のN,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N,N−ジメチル-N,N−ジエタノールアミン等のN,N−ジアルキル-N,N−ジアルカノールアミン類、等の有機アミン類、及び、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の塩基性化合物が挙げられる。
中和剤の使用量は、アニオン性基1モルに対して、0.2〜2モルであることが好ましく、特に0.5〜1.5モルであることが好ましい。
【0029】
本発明における前記(a3)成分の化合物としては、アニオン性親水基がカルボキシル基である化合物又はその塩であることが好ましく、塩としては、トリエチルアミン等のトリアルキルアミンの塩であることが好ましい。
また、これらの(a3)成分の化合物は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、カルボキシル基の含有量は、ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して、0.7〜2質量部であることが好ましい。カルボキシル基の含有量が0.7質量部未満では乳化が困難になったり、又は乳化安定性が不十分となったりする傾向があり、2質量部を超えるとポリウレタン樹脂水分散液の粘度が高くなり、取扱いにくくなる傾向がある。
【0031】
前記(a3)成分の化合物が酸である場合、前記(a1)成分の有機ポリイソシアネート化合物、(a2)成分の高分子ポリオール、及び、(a3)成分の化合物とを反応させて(A)成分のウレタンプレポリマーを得た後、アニオン性親水基を中和しても、或いは、前記(a1)成分の有機ポリイソシアネート化合物、(a2)成分の高分子ポリオール、及び、中和された(a3)成分の化合物とを反応させて、(A)成分のウレタンプレポリマーを得てもよい。更に、(a1)〜(a3)成分を反応させて得られたウレタンプレポリマーと(B)成分を混合した後に、前記ウレタンプレポリマーが有するアニオン性基を中和してもよく、この態様も本発明に含まれる。
【0032】
また、(A)成分のウレタンプレポリマー及び/又はウレタンプレポリマー中和物を合成する際には、(a4)成分の低分子量多価アルコールを鎖伸長剤として用いることができ、この場合、特に、分子量200以下の多価アルコールを使用することが好ましい。
低分子量多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの(a4)成分としての低分子量多価アルコールは、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明に使用される(A)成分のウレタンプレポリマー及びウレタンプレポリマー中和物の製造方法は特に制限されず、例えば、40〜150℃の温度下で、1段式又は多段式のイソシアネート重付加反応法によって製造することができる。
製造時には、必要に応じて、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチルチン−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒、又は、リン酸、リン酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸等の反応抑制剤を添加することができる。
【0034】
本発明においては、反応段階又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加することができる。このような有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0035】
前記(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物の製造時における、各成分の使用量は、NCO/OHのモル比が1.1/1.0〜1.7/1.0となる量であることが好ましく、特にNCO/OHのモル比が1.2/1.0〜1.5/1.0であることが好ましい。
また、反応終了時におけるウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物中の遊離イソシアネート基の含有率は、0.8〜5.0質量%であることが好ましい。
【0036】
遊離イソシアネート基の含有量が反応終了時において0.8質量%未満となる場合には、反応時の粘度が著しく上昇することを防止するために、有機溶媒を多量に使用することを余儀なくされるので、コスト的に不利になったり、乳化分散が困難になったりする傾向がある。一方、反応終了時における遊離イソシアネート基の含有量が5.0質量%を超えると、乳化分散後と鎖伸長剤による鎖伸長反応後の分散液の安定性が大きく変化することになり、製品の経時貯蔵安定性又は加工安定性に支障をきたす傾向がある。
【0037】
前記(B)成分のリン系化合物は、前記一般式(B)で表される化合物であり、具体的には、下記のリン化合物(1)〜(4)が挙げられる。




これらのリン系化合物は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、本発明のポリウレタン樹脂水分散液における前記(B)成分のリン系化合物の含有量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1〜30質量部であることが必要であり、特に3〜15質量部であることが好ましい。(B)成分のリン系化合物の含有量が1質量部未満であると、ポリウレタン樹脂への難燃性付与効果が弱くなる傾向があり、含有量が30質量部を超えると、乳化分散が困難になる傾向や、製品の経時貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0039】
前記(B)成分のリン系化合物を(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物に混合する場合は、無溶媒で(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物を得た後に、前記リン系化合物を有機溶媒と共に混合し、溶解しても、或いは、有機溶媒中で(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物を得た後に、前記リン系化合物を混合し、溶解してもよい。
【0040】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液は、前記(A)成分のウレタンプレポリマー及び(B)成分のリン系化合物の混合溶液を水に乳化分散した後に、(C)成分の鎖伸長剤を添加して、水中で鎖伸長反応させることにより得られる。
(C)成分の鎖伸長剤としては、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が使用される。
【0041】
前記水溶性ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の一級又は二級のポリアミンが挙げられ、前記水溶性ポリアミンの誘導体としては、例えば、ジ第一級アミンとモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン、ジ第一級アミンのモノケチミン等が挙げられる。
【0042】
また、前記ヒドラジン誘導体としては、例えば、1,1’−エチレンジヒドラジン;1,1’−トリメチレンジヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン等の、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジン化合物;及び、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の、炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジド化合物等が挙げられる。
これらの鎖伸長剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物と(C)成分の鎖伸長剤との反応は、通常、20〜50℃の反応温度であり、(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物と(C)成分の鎖伸長剤を混合した後、30〜120分間で完結する。この時、(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物の遊離イソシアネート基に対し、0.9〜1.1当量のアミノ基を含む量の鎖伸長剤を用いることが好ましい。
【0044】
本発明においては、前記(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物と前記(B)成分のリン系化合物との混合溶液を水に乳化分散するために、必要に応じて乳化剤を用いてもよい。
上記乳化剤としては、公知のノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を使用することができる。
【0045】
前記ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のポリオキシアルキレングリコール類;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル誘導体;及び、これらの脂肪酸エステル及び芳香族カルボン酸エステルが挙げられる。
【0046】
前記アニオン界面活性剤としては、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類又はポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物;芳香族スルホン酸類等が挙げられる。
【0047】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液における乳化分散の方法は、特に制限されることはないが、前記(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物と前記リン系化合物との混合溶液に、必要に応じて前記乳化剤を混合し、ホモミキサーやホモジナイザー等を用いて水に乳化分散した後、前記(C)成分の鎖伸長剤を添加して鎖伸長させることが好ましい。
乳化分散は、(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物中のイソシアネート基と水との反応を極力抑えるため、室温から40℃の温度範囲で行うことが好ましく、更に、前述したリン酸、リン酸水素ナトリウム等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0048】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液における(A)成分のウレタンプレポリマー又はウレタンプレポリマー中和物を製造するに際して有機溶媒を用いた場合には、末端のイソシアネート基を適宜封鎖した後、減圧蒸留等により有機溶媒を除去することが好ましい。有機溶媒を除去する際には、乳化性を保持する目的で、高級脂肪酸塩、樹脂酸塩、長鎖脂肪アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホン化ひまし油、スルホコハク酸エステル塩等のアニオン界面活性剤や、エチレンオキサイドと、長鎖脂肪アルコール又はフェノール類との反応生成物等の、ノニオン界面活性剤等を添加してもよい。
【0049】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、前述した本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液を用いてポリエステル系繊維を処理し、乾燥することによって得られる。
上記処理液としては、本発明のポリウレタン樹脂水分散液をそのまま用いてもよいが、該ポリウレタン樹脂水分散液を適宜希釈したものを用いることが好ましい。
処理液中のポリウレタン樹脂の濃度や、上記ポリウレタン樹脂水分散液以外の成分は特に制限されないが、処理液中のポリウレタン樹脂の濃度は、1〜20質量%であることが好ましい。
【0050】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液によってポリエステル系繊維を処理する場合には、従来のポリウレタン樹脂分散液とリン系化合物分散液を混合した処理液を用いて処理する場合よりも、難燃化のために必要とするリン系化合物の量がはるかに少ない。
【0051】
この理由については定かではないが、以下のように推察される。
即ち、本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液を用いた処理においては、リン系化合物がポリウレタン樹脂エマルジョンのミセル中に存在し、ポリウレタン樹脂水分散液中でポリウレタン樹脂とリン系化合物の両者が微細な状態で共存しているために、リン系化合物の難燃性が効果的に発揮される。
【0052】
また、本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液を用いて処理されるポリエステル系繊維の形態や処理の方法は特に制限されず、例えば、編織物、不織布等の各種ポリエステル系繊維素材に対し、本発明のポリウレタン樹脂水分散液をそのまま又は希釈して、パディング法、コーティング法、スプレー法等の任意の方法で付与し、乾燥することによって難燃性ポリエステル系繊維を得ることが可能である。これにより、被処理布に十分な難燃性を付与すると共に、引っ張り、引き裂き、摩耗等に対する強度を向上させることが可能となる。
【0053】
また、ポリエステル系繊維素材に本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液による処理を行った後の乾燥温度に関しては、特に制限はなく、室温で風乾してもよいし、加熱乾燥してもよい。通常は、処理効率の観点から、80〜200℃で30秒〜3分間程度の乾燥を行う。また、ポリエステル系繊維素材への処理に際しては、水系の、ポリイソシアネート系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系等の架橋剤を併用しても良く、難燃性を付与するための補助剤として任意の難燃剤を併用してもよい。
【0054】
更に、得られる難燃性ポリエステル系繊維に付与されるポリウレタン樹脂の量は、特に制限されるものではないが、ポリウレタン樹脂の担持量が、ポリエステル系繊維100質量部に対して、乾燥後において0.5〜10質量部であることが好ましい。また、得られる難燃性ポリエステル系繊維に付与されているリン系化合物の量も、特に制限されるものではないが、本発明によれば、ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部という、従来よりも著しく少ないリン系化合物の担持量で充分な難燃化を達成することができる。
【0055】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(平均分子量2000)101.3g及び(a4)成分として1,4−ブタンジオール1.3g、(a3)成分としてジメチロールブタン酸6.0gを加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン60.0gを加えて均一に混合した後、(a1)成分としてイソホロンジイソシアネート31.3gを加えた。得られた混合物を80℃で180分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.1%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0057】
この溶液に、(B)成分としてリン化合物(1)を15.0g加えて、均一に混合した後トリエチルアミン4.1gを加え、これによって前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから別容器に移した。次いで、30℃以下で水359gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。この乳化分散液に、(C)成分の鎖伸長剤として、イソホロンジアミンの30質量%水溶液20.0gを添加した後、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を、減圧下、50℃において脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(1)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0058】
市販のポリエステル製フエルトに、得られたポリウレタン樹脂水分散液を、ポリウレタン樹脂が15質量%含まれるように希釈した処理液で、絞り率60%の条件でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【実施例2】
【0059】
リン化合物(1)15.0gの代わりに、リン化合物(2)15.0gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(2)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例3】
【0060】
リン化合物(1)15.0gの代わりに、リン化合物(3)15.0gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(3)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例4】
【0061】
リン化合物(1)15.0gの代わりに、リン化合物(4)15.0gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(4)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例5】
【0062】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(平均分子量2000)52.3g及びポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)52.3g、(a3)成分としてジメチロールブタン酸5.8gを加えた。更にジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン59.7gを加えて均一に混合した後、(a1)成分としてイソホロンジイソシアネート29.0gを加えた。得られた混合物を80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.4%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0063】
得られた溶液に、(B)成分であるリン化合物(2)を15.0g加えて、均一に混合した後トリエチルアミン4.0gを加え、これによって前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから別容器に移した。次いで、30℃以下で水357gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。この乳化分散液に、(C)成分としてイソホロンジアミンの30質量%水溶液22.3gを添加した後、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(2)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0064】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例6】
【0065】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分としてポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)98.9g、(a4)成分としてネオペンチルグリコール1.5g、(a3)成分としてジメチロールブタン酸6.3gを加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン61.5gを加え、均一に混合した後、(a1)成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート37.0gを加えた。得られた混合物を80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.1%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0066】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(2)を15.0g加えて、均一に混合した後トリエチルアミン4.3gを加え、これによって前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから別容器に移した。30℃以下で水365gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。得られた乳化分散液に、(C)成分としてエチレンジアミンの20質量%水溶液10.5gを添加した後、90分間反応させた。
次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(2)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0067】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例7】
【0068】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール(平均分子量2000)56.1g及びポリテトラメチレングリコール(平均分子量2000)28.0g、(a4)成分として1,4−ブタンジオール1.6g及びトリメチロールプロパン0.9g、(a3)成分としてジメチロールブタン酸7.8gを加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン60.1gを加え、均一に混合した後、(a1)成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート45.9gを加えた。得られた混合物を、80℃で220分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が3.1%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0069】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(4)を15.0g加えて、均一に混合した後トリエチルアミン5.2gを加え、これによって前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから別容器に移した。得られた混合物に、30℃以下で水362gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させ、次いで、(C)成分としてピペラジンの30質量%水溶液15.0gを添加した後、90分間反応させた。
得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(4)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0070】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例8】
【0071】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール(平均分子量2000)106.3gを加えた。更にジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン62.6gを加え、均一に混合した後、(a1)成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート39.8gを加えた。得られた混合物を80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.6%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0072】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(2)を15.0g加えて均一に混合した後、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド20モルを付加させた化合物6.0g((a2)成分)を、乳化剤として混合してから別容器に移した。次いで、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた後、(C)成分としてピペラジンの20質量%水溶液19.5gを添加し、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(2)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0073】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例9】
【0074】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール(平均分子量1000)75.2g、及びポリテトラメチレグリコール(平均分子量2000)30.1g、(a4)成分として1,4−ブタンジオール1.4gを加えた。更にジブチルチンジラウレート0.005g及び溶媒としてメチルエチルケトン62.6gを加え、均一に混合した後、(a1)成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート39.4gを加えた。得られた混合物を80℃で190分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.6%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0075】
得られた溶液に、リン化合物(2)を15.0g加えて均一に混合した後、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド20モルを付加した化合物6.0gを、乳化剤として混合してから別容器に移した。得られた混合物に、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散し、次いで(C)成分としてピペラジンの20質量%水溶液19.5gを添加した後、90分間反応させた。得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(2)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0076】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例10】
【0077】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分として、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)107.3g及び1,4−ブタンジオール2.2g、(a3)成分としてジメチロールブタン酸2.4gを加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン59.3gを加えて均一に混合した後、(a1)成分としてイソホロンジイソシアネート29.8gを加えた。次いで、80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.4%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0078】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(3)を15.0g加えて均一に混合した後、トリエチルアミン1.6gで中和してから別容器に移した。更に、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モルを付加した後スルホン化し、次いでアンモニウム塩とした化合物4.5gを乳化剤として加えた。得られた混合物に、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散した。この乳化分散物に、(C)成分としてイソホロンジアミンの30質量%水溶液22.5gを添加した後、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を、減圧下の50℃で脱溶剤して、ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、及び、リン化合物(3)の不揮発分3質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0079】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例11】
【0080】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分としてポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)98g、(a3)成分としてジメチロールプロピオン酸19.2gを加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン64gを加えて均一に混合した後、(a1)成分としてイソホロンジイソシアネート66.4gを加えた。得られた混合物を80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が4.4%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0081】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(1)275.4gを加えて均一に混合した後、更にトリエチルアミン13.8gを加えて前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから、400gを別容器に移した。次いで、別容器に移した400gに、30℃以下で水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散した。得られた乳化分散物に、(C)成分としてエチレンジアミンの25質量%水溶液11.2gを添加した後、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下の50℃で脱溶剤して、ポリウレタン樹脂の不揮発分14質量%、及び、リン化合物(1)の不揮発分21質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【実施例12】
【0082】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、(a2)成分としてポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオール(平均分子量1000)70g、(a3)成分としてジメチロールプロピオン酸18g加えた。更に、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン65.1gを加え、均一に混合した後、(a1)成分としてイソホロンジイソシアネート84gを加えた。得られた混合物を80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が4.4%の(A)成分として、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0083】
得られた溶液に、(B)成分としてリン化合物(1)を263g加えて均一に混合した後、トリエチルアミン13gを加えて前記(A)成分が有するアニオン性基を中和してから400gを別容器に移した。次いで、別容器に移した400gに、30℃以下で水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散した。得られた乳化分散物に、(C)成分としてエチレンジアミンの25質量%水溶液14.8gを添加した後、90分間反応させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下の50℃で脱溶剤して、ポリウレタン樹脂の不揮発分14質量%、及び、リン化合物(1)の不揮発分21質量%を含有するポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0084】
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【0085】
[比較例1]
リン化合物(1)15.0gを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、不揮発分30質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いて、実施例1と同様の手法により、樹脂加工布を得た。
【0086】
<難燃性の評価>
得られた実施例1〜12、及び比較例1の樹脂加工布の難燃性を、JIS L 1091に記載されているA−1法(45度ミクロバーナー法)に準じて測定した。なお、残炎が3秒以内の場合を合格と判定した。
結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
*1難燃性は6回平均の数値
【0088】
上記の表1に記載した結果から明らかなように、本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液で加工された樹脂加工布(実施例1〜12)は、充分な難燃性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液は、難燃成分としてのリン系化合物の使用量を従来よりもはるかに少なくしても充分な難燃性を付与することができるだけでなく、染色堅牢度の低下を充分に防止することもできるので、カーシート、ロールスクリーン、フィルター濾材等の繊維製品を提供することができるので、産業上極めて有用である。