(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極は、前記負極活物質として前記ケイ素系活物質以外に炭素系活物質を含むと共に、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の割合が6質量%以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
前記炭素系活物質として、表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛の割合が10質量%以上70質量%以下のものであることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の非水電解質二次電池。
前記ケイ素系活物質は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズは7.5nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
【0013】
また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い安全性が望まれている。しかしながら、従来の非水電解質二次電池では、高温時、例えば85℃前後での保存時のガス発生が顕著である。ガス発生量が多い場合、電極間にガスが蓄積し、例えばラミネートフィルム型の場合、倦回体等の歪みが生じる。一定以上のガス発生は、倦回体への応力へと繋がり、上記のように倦回体が歪むため、電池の冷却後、例えば、25℃前後への冷却後の電池セルの厚みが、歪みによって増加する。また、歪みは特にピンニングされたタブ位置を中心に起こる。このように、ケイ素系活物質を用いた場合、特に高温時にガスの発生量が多いため、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等の安全性を示す非水電解質二次電池を提案するには至っていなかった。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高電池容量であるとともに、サイクル特性が良好で、安全性が高く、ガス発生量が少ない非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の種類の負極活物質を含む負極、及び、溶媒と塩とを含む電解液を有する非水電解質二次電池であって、前記負極は前記複数の種類の負極活物質のうちの1種としてSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質を含み、前記電解液は、前記溶媒としてのプロピレンカーボネート、前記溶媒としてのジエチルカーボネート、及び前記塩としてのLiBF
4のうち、いずれか1種以上が含まれるものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0016】
本発明の非水電解質二次電池のように、複数の種類の負極活物質を含み、そのうちの一種類がSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質である場合であっても、電解液の溶媒として、電解液の分解によるガスの発生を抑制可能なプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを含むことで、電池を高温で保存した時のガス発生量が少なく、ガス発生に伴う電極の歪みが起こり難い。また、LiBF
4は、ケイ素系活物質に影響を及ぼす佛酸を生成しないため、サイクル特性が良好となる。更に、LiBF
4は、電極にLiBF
4を源とするSEI(Solid Electrolyte Interface)膜を形成し、このLiBF
4から得られた被膜の表面では、電解液の分解が起こるものの、ガス発生には寄与しづらい電解液の分解となる。そのため、ガスの発生量が大幅に小さく抑制され、良好な安定性を有する非水電解質二次電池となる。また、ケイ素系活物質を含むことによって、高い電池容量を有する非水電解質二次電池となる。
【0017】
このとき、前記電解液は、前記塩としてLiBF
4を含むものであることが好ましい。
【0018】
特に、電解液にLiBF
4が含まれることにより、ガスの発生量をより小さく抑制することができる。
【0019】
またこのとき、前記電解液は、前記溶媒としてジエチルカーボネート、及び前記塩としてLiBF
4の両方を含むものであることが好ましい。
【0020】
特に、電解液に、溶媒としてジエチルカーボネート、塩としてLiBF
4が組み合わせて含まれていることにより、ガスの発生量をより大幅に小さく抑制することができる。
【0021】
このとき、前記電解液は、さらに、フルオロエチレンカーボネートを含むものであることが好ましい。
【0022】
このように、電解液にフルオロエチレンカーボネートを含むことにより、サイクル特性がより良好な非水電解質二次電池となる。
【0023】
またこのとき、前記ケイ素系活物質は、その内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち1種以上を含むものであることが好ましい。
【0024】
このようなものであれば、ケイ素系活物質は、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部が予め別のLi化合物に改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。その結果、高い充放電効率を得られると共に、バルク安定性が向上させることができる。またこのようなものは、例えば電気化学手法でケイ素系活物質を改質することで得ることができる。
【0025】
このとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3は、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。
【0026】
また、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
4SiO
4は、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。
【0027】
さらに、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4は非晶質であることが好ましい。
【0028】
このようにケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4の結晶性が低ければ、より電池特性を向上させることができ、特にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4が非晶質であれば、更に電池特性を向上させることができる。
【0029】
このとき、前記ケイ素系活物質の表面は、少なくとも一部を炭酸リチウムで被覆されたものであることが好ましい。
【0030】
このように、ケイ素系活物質の表面が炭酸リチウムにて被覆されたものであれば、電解液の分解反応を抑制することができるため、より一層安定した電池特性を得ることができる。
【0031】
またこのとき、前記負極は、前記負極活物質として前記ケイ素系活物質以外に炭素系活物質を含むと共に、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の割合が6質量%以上のものであることが好ましい。
【0032】
炭素系活物質に比べ電池容量が非常に大きい珪素系活物質の負極活物質中における割合が上記の範囲のものであれば、電池容量が非常に大きい非水電解質二次電池となる。
【0033】
このとき、前記炭素系活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち2種以上を含むものであることが好ましい。
【0034】
炭素系活物質としては、これらのようなものが好適であり、これらのうち少なくとも2種が含まれていれば、良好な電池特性を得ることができる。
【0035】
またこのとき、前記炭素系活物質として、表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛の割合が10質量%以上70質量%以下のものであることが好ましい。
【0036】
表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛が上記の割合で含まれていると、ケイ素系活物質の膨張及び収縮に伴う応力を緩和でき、これにより負極活物質の破壊を抑制でき、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0037】
このとき、前記炭素系活物質のメジアン径Xと前記ケイ素系活物質のメジアン径YがX/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。
【0038】
膨張及び収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を確実に防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、非水電解質二次電池の充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0039】
またこのとき、前記ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク強度値BがA/B≧0.8の関係を満たすものであることが好ましい。
【0040】
ケイ素系活物質として、上記の範囲のピーク強度値比A/Bを有するものを用いることで、より良好な初期充放電特性が得られる。
【0041】
このとき、前記ケイ素系活物質は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズは7.5nm以下であることが好ましい。
【0042】
このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素系活物質は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の非水電解質二次電池は、電池容量、サイクル特性、及び初回充放電特性を向上させることができる。また、安全性が高く、ガス発生量が少ない非水電解質二次電池となる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素系活物質を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。ケイ素系活物質を主材として用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性、安全性、及びガス発生量が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性、安全性、及びガス発生量を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0047】
そこで、本発明者らは、高電池容量であるとともに、サイクル特性が良好で、安全性が高く、ガス発生量が少ない非水電解質二次電池を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0048】
本発明の非水電解質二次電池は、複数の種類の負極活物質を含む負極、及び、溶媒と塩とを含む電解液を有する非水電解質二次電池である。また、本発明において、負極は複数の種類の負極活物質のうちの1種としてSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質を含んでいる。さらに、電解液は、溶媒としてのプロピレンカーボネート、溶媒としてのジエチルカーボネート、及び塩としてのLiBF
4のうち、いずれか1種以上が含まれるものである。
【0049】
本発明の非水電解質二次電池のように、複数の種類の負極活物質を含み、そのうちの一種類がSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質である場合であっても、電解液の溶媒として、電解液の分解によるガスの発生を抑制可能なプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを含むことで、電池を高温で保存した時のガス発生量が少なく、ガス発生に伴う電極の歪みが起こり難い。例えば、従来ではジメチルカーボネートやエチルメチルカーボネートを使用した場合、電池を高温で保存すると、ガス発生が顕著に見られた。しかし、本発明では、たとえこれらのような物質が電解液に溶媒として含まれる場合であっても、プロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを電解液に溶媒として、含ませることでガス発生を大幅に抑制することができる。一方で、電解液に塩として例えばLiPF
6を用いると一部フッ酸の生成が見られ、ケイ素系活物質に影響を及ぼす。しかしながら、LiBF
4は、ケイ素系活物質に影響を及ぼすフッ酸を生成しないため、サイクル特性が良好となる。更に、LiBF
4は、電極にLiBF
4を源とするSEI膜を形成し、このLiBF
4から得られた被膜の表面では、電解液の分解が起こるものの、ガス発生には寄与しづらい電解液の分解となる。そのため、塩としてLiBF
4が含まれていれば、たとえLiPF
6が塩として含まれる場合であっても、ガスの発生量が大幅に小さく抑制され、良好な安定性を有する非水電解質二次電池となる。また、ケイ素系活物質を含むことによって、高い電池容量を有する非水電解質二次電池となる。
【0050】
また、電解液が、溶媒としてのプロピレンカーボネート、溶媒としてのジエチルカーボネート、及び塩としてのLiBF
4のうち、いずれか1種以上を含むことで、従来よりも膨れを小さくできる効果が得られるが、溶媒中のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートの量は合計で30体積%以上であることが好ましい。また、LiBF
4の添加量は、電解液中1.0質量%以上とすることが好ましい。
【0051】
[負極の構成]
続いて、このような本発明の非水電解質二次電池の負極の構成について説明する。
【0052】
図1は、本発明の一実施形態における負極の断面図を表している。
図1に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の非水電解質二次電池の負極においては、負極集電体11はなくてもよい。
【0053】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0054】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0055】
負極集電体11の表面は、粗化されていても良いし、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0056】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、複数の種類の負極活物質を含んでおり、電池設計上、さらにバインダー(負極結着剤)や導電助剤等の他の材料を含んでいても良い。また、負極活物質の形状は粒子状であって良い。
【0057】
本発明の非水電解質二次電池の負極は複数の種類の負極活物質の1種として、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質を含む。このケイ素系活物質は酸化ケイ素材(SiO
x:0.5≦x≦1.6)であり、その組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明における酸化ケイ素材の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0058】
更に、本発明の非水電解質二次電池において、ケイ素系活物質は、内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち1種以上を含むものであることが好ましい。このようなものであれば、より安定した電池特性を得ることをできる。
【0059】
このようなケイ素系活物質は、内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することにより得ることができる。そして、特にLi化合物の中でも、Li
4SiO
4、Li
2SiO
3が特に良い特性を示す。リチウム対極に対する電位規制や電流規制などを行い、条件を変更することで選択的化合物の作製が可能となる。
【0060】
ケイ素系活物質の内部のLi化合物はNMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0061】
選択的化合物の作製方法、すなわち、ケイ素系活物質の改質は、電気化学的手法により行うことが好ましい。
【0062】
このような改質(バルク内改質)方法を用いて負極活物質を製造することで、Si領域のLi化合物化を低減、又は避けることが可能であり、大気中、又は水系スラリー中、溶剤スラリー中で安定した物質となる。また、電気化学的手法により改質を行うことにより、ランダムに化合物化する熱改質(熱ドープ法)に対し、より安定した物質を作ることが可能である。
【0063】
ケイ素系活物質のバルク内部に生成したLi
4SiO
4、Li
2SiO
3は少なくとも1種以上存在することで特性向上となるが、より特性向上となるのはこれら2種の共存状態である。
【0064】
特に、ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3は、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。同様にケイ素系活物質の内部に含まれるLi
4SiO
4は、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。より望ましくは、Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4は非晶質であることが好ましい。
【0065】
ケイ素系活物質の内部に含まれるこれらのLi化合物の、結晶性が低いほど、負極活物質中の抵抗が下がり、電池特性を向上でき、実質的に非晶質であればより確実に電池特性を向上できる。
【0066】
また、本発明では、ケイ素系活物質の表面の少なくとも一部が炭酸リチウム(Li
2CO
3)で被覆されていることが好ましい。このようなものであれば、電解液との分解反応を抑制することができ、ケイ素系活物質の保存特性が飛躍的に向上する。炭酸リチウムの生成手法は特に限定されることはないが、電気化学法が最も好ましい。また、ケイ素系活物質はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物の部分にLi
4SiO
4及びLi
2SiO
3のうちの少なくとも1種以上を含有していることが好ましく、さらにその表面に炭酸リチウム(Li
2CO
3)から成る被膜層を有することがより好ましい。またケイ素系活物質に電気伝導性を有する炭素被膜層を設け、更にその表層に炭酸リチウムから成る被膜層を有する構造としても良い。このようなものであれば、より一層安定した電池特性を得ることができる。
【0067】
このように、ケイ素系活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なコア部を有し、その表層に導電性が得られる炭素被覆部、また電解液の分解反応抑制効果がある炭酸リチウム部を有するものにできる。この場合、炭素被覆部の少なくとも一部でリチウムイオンの吸蔵放出が行われても良い。また、炭素被覆部、炭酸リチウム被覆部は島状、膜状のどちらでも効果が得られる。
【0068】
また、本発明の非水電解質二次電池における負極は、負極活物質としてケイ素系活物質以外に炭素系活物質を含むと共に、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の割合が6質量%以上のものであることが好ましい。上記の割合で電池容量の大きいケイ素系活物質を含むことで、非水電解質二次電池の電池容量が顕著に増加し、体積エネルギー密度を上昇させることが可能である。
【0069】
また、負極に含まれる炭素系活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、及びソフトカーボンのうち2種以上を含むことが好ましい。これらの炭素系活物質の中の2種類以上を含むことで、充放電時のケイ素系活物質の膨張及び収縮に伴う応力を緩和することができるともに、電池容量に優れた負極活物質となる。
【0070】
また、負極に含まれる炭素系活物質は、天然黒鉛ベースが良い。また、天然黒鉛は表面をピッチ層で被覆されたものであることが好ましい。具体的には、炭素系活物質の総重量に占める、表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛の割合が10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。天然黒鉛はケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和に適しており、上記のような比率であればサイクル特性に優れた負極となる。さらに、天然黒鉛の表面のピッチ層は、天然黒鉛のグラファイトエッジにおける電解液の分解を抑制することができ、サイクル特性を向上させることができる。また、より優れたサイクル特性を得るには、ピッチ層で被覆した天然黒鉛を上記の割合で含み、かつ人造黒鉛を含むことが望ましい。なお、ピッチ層は、例えば、天然黒鉛、炭素質物質前駆体としての石炭ピッチ、及びNMP(N−メチルピロリドン)を撹拌混合し、得られた混合物を窒素雰囲気下、1200〜1400℃で1〜10時間加熱することにより、天然黒鉛の表面に形成することができる。
【0071】
本発明において、負極に含まれるケイ素系活物質の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素系活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。このように、特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。
【0072】
ケイ素系活物質を粒子状とした場合、そのメジアン径は特に限定されないが、中でも0.5μm〜20μmであることが好ましい。この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。このメジアン径が0.5μm以上であれば表面積が大きすぎないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メジアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく新生面が出にくいため好ましい。
【0073】
また、ケイ素系活物質のメジアン径は、炭素系活物質のメジアン径をX、ケイ素系活物質のメジアン径をYとしたときに、X/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。このように、炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張及び収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を確実に防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0074】
ここで、負極活物質のケイ素系材料は、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として、−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと−100〜−150ppmに与えられるSiO
2領域のピーク強度値Bが、A/B≧0.8というピーク強度比の関係を満たすことが好ましい。このようなものであれば、安定した電池特性を得ることができる。
【0075】
ケイ素系活物質の表層に炭素を被覆する場合、炭素被覆部の平均厚さは、特に限定されないが1nm以上5000nm以下であることが望ましい。このような厚さであれば電気伝導性を向上させることが可能である。炭素被覆部の平均厚さが5000nmを超えても電池特性を悪化させる事はないが、5000nm以下とすれば電池容量を高く維持できるため好ましい。
【0076】
この炭素被覆部の平均厚さは以下の手順により算出される。まず、TEM(透過型電子顕微鏡)により任意の倍率で負極活物質を観察する。この倍率は厚さを測定するため目視で確認できる倍率が好ましい。続いて、任意の15点において、炭素材被覆部の厚さを測定する。このとき、できるだけ特定の場所に測定位置を集中させず、広くランダムに測定位置を設定することが好ましい。最後に測定結果から厚さの平均値を算出する。
【0077】
また、ケイ素系活物質の表層における炭素の被覆率は特に限定されないが、できるだけ高い方が望ましい。中でも被覆率が30%以上あれば、十分な電気伝導性が得られる。
【0078】
これらの炭素材被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。これらの方法であれば、炭素材の被覆率を向上させることができるからである。
【0079】
また、本発明の非水電解質二次電池の負極は、上述のようにバインダー(負極結着剤)を含んでいても良い。例えば、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩、スチレンブタジエン系ゴム、ポリフッ化ビニリデン等をバインダーとして含んでよい。また、カルボキシメチルセルロースの金属塩としては、カルボキシメチルセルロースの一部がナトリウム塩となっているものなどが挙げられる。
【0080】
また、本発明の非水電解質二次電池の負極は、上述のように導電助剤を含んでいても良い。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上があげられる。特にカーボンナノチューブは膨張収縮率が高いケイ素系活物質と炭素系活物質の電気コンタクトを得ることに向いている。
【0081】
負極活物質層は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と上記した結着剤など、また必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0082】
[負極の製造方法]
続いて、本発明の非水電解質二次電池の負極の製造方法の一例を説明する。
【0083】
最初に負極に含まれる負極活物質の製造方法を説明する。まず、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素系活物質を作製する。次に、ケイ素系活物質にLiを挿入することにより、該ケイ素系活物質の表面にLi化合物を生成させて該ケイ素系活物質を改質する。このとき、同時にケイ素系活物質の内部にLi化合物を生成させることができる。
【0084】
より具体的には、負極活物質粒子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0085】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0086】
次に、得られた粉末材料の表層に炭素層を生成することができるが、この工程は必須ではない。しかしながら、より電池特性を向上させるには効果的である。
【0087】
得られた粉末材料の表層に炭素層を生成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、活物質粒子の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0088】
バルク内改質は電気化学的にLiを挿入・脱離し得る装置を用いて行うことが望ましい。特に装置構造を限定することはないが、例えば
図2に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源、改質源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。
【0089】
尚、改質した酸化ケイ素の粉末22は、同時にLi
2CO
3による被膜層を作製することができる。
【0090】
上記のように、得られた改質粒子は、炭素層を含んでいなくても良い。ただし、バルク内改質処理において、より均一な制御を求める場合、電位分布の低減などが必要であり、炭素層が存在することが望ましい。
【0091】
浴槽27内の有機溶媒23として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒23に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などを用いることができる。
【0092】
陽電極21はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどがあげられる。
【0093】
続いて、上記ケイ素系活物質と炭素系活物質を混合するとともに、これらの負極活物質粒子とバインダー(負極結着剤)、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0094】
次に、負極集電体11の表面に、この負極合剤のスラリーを塗布し、乾燥させて
図1に示す負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。以上のようにして、本発明の非水電解質二次電池の負極を製造することができる。
【0095】
[電解液]
続いて、このような本発明の非水電解質二次電池の電解液について説明する。
【0096】
上述の負極活物質層の少なくとも一部は、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0097】
本発明の非水電解質二次電池における電解液は、溶媒としてのプロピレンカーボネート、溶媒としてのジエチルカーボネート、及び塩としてのLiBF
4のうち、いずれか1種以上が含まれるものである。すなわち、本発明は、電解液にこれらの3種の物質のうちいずれか1種以上が含まれていればよい。また、上記の3種の物質のうちいずれか1種以上の物質に加え、溶媒又は塩としてその他の物質が含まれていても良い。
【0098】
例えば、溶媒として、環状カーボネートであるエチレンカーボネート、鎖状カーボネートである、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、更に含んでいても良い。また、塩として、例えばLiPF
6を、更に含んでいても良い。
【0099】
また、本発明では、電解液は、塩としてLiBF
4を含むものであることが好ましく、さらに、電解液は、溶媒としてジエチルカーボネート、及び塩としてLiBF
4の両方を含むものであることが特に好ましい。電解液にLiBF
4が含まれることにより、ガスの発生量をより小さく抑制することができ、電解液に、溶媒としてジエチルカーボネート、塩としてLiBF
4の両方が含まれていることにより、ガスの発生量をより大幅に小さく抑制することができる。
【0100】
また、合金系負極を用いる場合、特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を、更に含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0101】
この場合、ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は、多いほど望ましい。得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0102】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどがあげられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0103】
添加剤として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0104】
また、本発明では、電解液は、さらに、フルオロエチレンカーボネートを含むものであることが好ましい。電解液にフルオロエチレンカーボネートを含むことにより、サイクル特性がより良好な非水電解質二次電池となる。
【0105】
主電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0106】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0107】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0108】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0109】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0110】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0111】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0112】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0113】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0114】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0115】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0116】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0117】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0118】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0119】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0120】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0121】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0122】
上述のように、本発明の非水電解質二次電池における電解液は、溶媒としてのプロピレンカーボネート、溶媒としてのジエチルカーボネート、及び塩としてのLiBF
4のうち、いずれか1種以上が含まれるものであればよい。また、上記の3種の物質のうちいずれか1種以上の物質に加え、溶媒又は塩としてその他の物質が含まれていても良い。
【0123】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
【0124】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0125】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0126】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0127】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【0128】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池30等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0130】
(実施例1−1)
以下の手順により、
図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0131】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(LiNi
0.7Co
0.25Al
0.05O)95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0132】
次に負極を作製した。まず、ケイ素系活物質を以下のように作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を被覆した。作製した粉末はエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの体積比が3:7の混合溶媒(電解質塩を1.3mol/kgの濃度で含んでいる。)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。
【0133】
続いて、作製したケイ素系活物質と、炭素系活物質を1:9の質量比で配合し、負極活物質を作製した。ここで、炭素系活物質としては、ピッチ層で被覆した天然黒鉛及び人造黒鉛を2:8の質量比で混合したものを使用した。
【0134】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50μmの炭素微粒子)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボメチルセルロース(以下、CMCと称する)95:1:1:1.5:1.5の乾燥重量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。尚、上記のSBR、CMC、は負極バインダー(負極結着剤)である。
【0135】
また、負極集電体としては、電解銅箔(厚さ15μm)を用いた。最後に、負極合剤のスラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は5mg/cm
2であった。
【0136】
次に、溶媒として、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DEC=3:7とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。さらに、得られた電解液にビニレンカーボネート(VC)を1.5質量%添加した。
【0137】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0138】
(実施例1−2〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−6)
電解液の溶媒を表1のように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に、二次電池を作製した。なお、表1において、DMCとはジメチルカーボネート、EMCとはエチルメチルカーボネート、PCとはプロピレンカーボネート、FECとはフルオロエチレンカーボネートを意味している。
【0139】
また、実施例1−1〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−2における、ケイ素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。SiOxで表わされるケイ素系活物質において、xの値は1であった。また、ケイ素化合物のメジアン径D
50は4μmであった。X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.593°であり、そのSi(111)結晶面に起因する結晶子サイズは3.29nmであった。また、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク強度値Bの比A/Bは0.45であった。
【0140】
また、実施例1−1〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−6における、炭素系活物質のメジアン径は20μmであった。
【0141】
このように作製した実施例1−1〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−6のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0142】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に、100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。
【0143】
ガスの発生による厚みの変化については、以下のようにして調べた。まず、2サイクル充放電を行った後の電池を4.3Vまで満充電し、この際の厚みを測定する。その後85℃の恒温槽にセットし、5時間経過後に厚みを測定した。そして、恒温槽に5時間放置した後の厚みを2サイクル充放電後の電池の厚みで除することで、電池の膨れを評価した。
【0144】
【表1】
【0145】
表1から分かるように、溶媒にPC及びDECのいずれか一方又は両方を含むことで電池の膨れを小さく抑制できることが分かった。特に、DECを使用することで膨れを効果的に抑制でき、実施例1−1〜1−3、1−5〜1−10では、膨れを1.35倍以下に抑えることができた。特に、膨れが1.35倍以下であれば、高温時に発生したガスが、電池の冷却後に電池部材に吸収されるため、電池の電極等の歪みは大幅に改善される。また、添加材としてFECを含む場合、全体的に膨れが増加する傾向があるが、実施例においては許容できる範囲の膨れであり、また、電池特性が向上するため、FECの添加が望ましいことが分かった。
【0146】
(実施例2−1〜実施例2−16)
実施例1−1〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−6の電解液に、塩としてLiBF
4をさらに加えたこと以外、実施例1−1〜実施例1−10、比較例1−1〜比較例1−6と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0147】
このように作製した実施例2−1〜実施例2−16のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0148】
【表2】
【0149】
表2から分かるように、塩としてLiBF
4を含むことで膨れがより小さく抑制された。これは、LiBF
4によって電極に良質な被膜が形成されたため、ガスの発生に寄与する電解液の分解の発生が抑制されたためであると考えられる。
【0150】
(実施例3−1〜実施例3−10)
塩としてLiBF
4のみを使用し、LiPF
6を使用しなかったこと以外、実施例2−1〜実施例2−10と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0151】
このように作製した実施例3−1〜実施例3−10のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0152】
【表3】
【0153】
電解塩としてLiBF
4のみを用いた場合、電池の膨れを、実施例2−1〜実施例2−10よりも効果的に抑制できた。特に、DECとLiBF
4を組み合わせて使用することで、電池の膨れをより顕著に抑制できた。
【0154】
(実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1、比較例4−2)
SiOxで表わされるケイ素化合物において、酸素量を表4に示すように調整したこと以外は、実施例2−6と同様に、二次電池を作製した。
【0155】
このように作製した実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1、比較例4−2のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0156】
【表4】
【0157】
ケイ素系活物質中の酸素量が減る、すなわちx<0.5となると、Siリッチとなり、ガス発生が起こりやすくなる。これはSiが活性であるためと考えられる。また酸素リッチの場合、すなわちx>1.6となる場合、生成する酸性分などによって二酸化ケイ素成分がダメージを受け、膨れが増加すると考えられる。
【0158】
(実施例5−1〜実施例5−7)
ケイ素系活物質の改質時に、ケイ素系活物質の内部にLiシリケート化合物(Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4)を生成したこと以外は、実施例2−6と同様に、二次電池を作製した。なお、この際ケイ素系活物質の表面に炭酸リチウムを生成している。また、表5に示すように、Liシリケート化合物の結晶性を変化させた。結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0159】
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/Bは表5に示すように2であった。なお、比A/Bは、SiO
2領域に電気化学的な方法でLiドープを行い、その際に電位規制を行うことで制御できる。
【0160】
このように作製した実施例5−1〜実施例5−7のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0161】
【表5】
【0162】
ケイ素系活物質内部にLi
2SiO
3、Li
4SiO
4を含有させると電池容量が増加する。Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。
【0163】
(実施例6−1)
ケイ素系活物質の表面に炭酸リチウムを担持させなかったこと以外、実施例5−1と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0164】
このように作製した実施例6−1のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0165】
【表6】
【0166】
ケイ素系活物質の表面に炭酸リチウムが含まれていると、維持率が向上することが確認された。
【0167】
(実施例7−1〜実施例7−5)
炭素系活物質中のピッチ層で被覆した天然黒鉛の割合を表7に示すように変えたこと以外、実施例2−6と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0168】
このように作製した実施例7−1〜実施例7−5のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0169】
【表7】
【0170】
炭素系活物質の総重量に占める表面をピッチ層で被覆した天然黒鉛の割合が10質量%以上70質量%以下の場合に、維持率を高く維持できた。これは、上記割合の天然黒鉛が緩衝剤として十分に機能し、電極合剤層の破壊を防ぐためである。
【0171】
(実施例8−1〜実施例8−3)
炭素系活物質に含まれる黒鉛の種類を表8のように変更したこと以外、実施例2−6と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0172】
このように作製した実施例8−1〜実施例8−3のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0173】
【表8】
【0174】
表8のように、黒鉛の種類は、特に天然黒鉛のような比較的柔らかい物と組み合わせる事が重要であることがわかる。組み合わせはハードカーボン等を用いても問題無い。
【0175】
(実施例9−1〜実施例9−5)
基本的に実施例2−6と同様に二次電池の製造を行ったが、炭素系活物質のメジアン径Xとケイ素系活物質のメジアン径Yの比X/Yを表9のように変更した。
【0176】
このように作製した実施例9−1〜実施例9−5のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0177】
【表9】
【0178】
表9からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0179】
(実施例10−1〜実施例10−4)
基本的に実施例2−6と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSiO
2成分をLi化合物に変化させて、バルク内に生成するSi成分とSiO
2成分の比を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、電池容量を増加させた。これにより、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表10に示すように変化させた。また、Si成分とSiO
2成分の比は、電気化学的なLiドープ法によってSiO
2成分をLi化合物に変化させる際に電位規制を行うことにより制御できる。
【0180】
このように作製した実施例10−1〜実施例10−4のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0181】
【表10】
【0182】
表10から分かるように、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO
2領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池容量が得られた。このように、SiO
2成分をLi化合物に変化させて、Li反応サイトとなり得るSiO
2部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内に存在するため、充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
【0183】
(実施例11−1〜実施例11−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例2−6と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化は非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。ケイ素系活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅2θ(°)を表に示した。実施例11−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例11−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0184】
このように作製した実施例11−1〜実施例11−9のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
【0185】
【表11】
【0186】
表11から分かるように、特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で、膨れを低減でき、高い容量維持率が得られた。特に、非結晶領域では膨れを最も小さく抑えることができ、高い容量維持率が得られた。
【0187】
(実施例12−1、実施例12−2、比較例12−1)
基本的に実施例2−6と同様にして二次電池を作製したが、実施例12−1、実施例12−2、比較例12−1では負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の割合を変化させた。
【0188】
このように作製した実施例12−1、実施例12−2、比較例12−1のリチウムイオン二次電池のサイクル特性及びガスの発生による厚みの変化を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
【0189】
【表12】
【0190】
ケイ素活物質の割合が大きいほど、膨れは大きくなったが、実施例における膨れは1.35倍以下であり問題ない値となった。また、比較例12−1では、ケイ素系活物質の割合を100質量%とし、複数の種類の負極活物質を使用しなかったが、この場合膨れが1.40倍と実施例に比べ大きくなり、維持率も低下した。このように、特にケイ素活物質の量が膨れに影響していることがわかる。従って、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系活物質のみではなく、複数の種類の負極活物質を用いることで、膨れを抑制することが可能であることが確認された。
【0191】
また、
図4に負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の割合と二次電池の電池容量の関係を表すグラフを示す。
図4中のaで示す曲線は、Liをドープしたケイ素系活物質の割合を増加させた場合の電池容量を示している。一方、
図4中のbで示す曲線はLiをドープしていないケイ素系活物質の割合を増加させた場合の電池容量を示している。
図4に示すように、曲線a、曲線bの両方とも、ケイ素系活物質の割合が高くなるにつれて、電池容量及び体積エネルギー密度が増加していく。
【0192】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。