(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298237
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】真空ポンプ用モータロータ及びこれを備えるモータ並びに真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20180312BHJP
H02K 1/30 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
H02K1/27 501G
H02K1/30 A
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-33584(P2013-33584)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-165992(P2014-165992A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100117411
【弁理士】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小島 善徳
(72)【発明者】
【氏名】稲田 高典
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 敏治
(72)【発明者】
【氏名】真武 幸三
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−364541(JP,A)
【文献】
特開2002−325394(JP,A)
【文献】
米国特許第03465188(US,A)
【文献】
特開2012−213310(JP,A)
【文献】
特開平08−022910(JP,A)
【文献】
特開2006−245064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造プロセスにおいて使用される真空ポンプのポンプロータ回転軸を駆動するためのキャンドモータで用いるモータロータであって、
穴部を有する複数の鋼板が軸線方向に積層されたロータコアと、前記穴部に設置された永久磁石と、前記ロータコアの軸線方向両端部に取り付けられた側板とを備え、
前記鋼板の全面には接着剤が塗布されており、この接着剤を介して前記複数の鋼板同士及び側板が面接合されており、
前記鋼板が積層された後の硬化した接着剤は、樹脂含浸剤により封孔処理されていることを特徴とする、モータロータ。
【請求項2】
前記側板の接合面の全面にも、接合前に前記接着剤が塗布されている、請求項1に記載のモータロータ。
【請求項3】
前記ロータコア用の鋼板は珪素鋼板であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のモータロータ。
【請求項4】
前記モータロータはポンプロータ回転軸の端部に取り付けられていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項5】
前記側板は非磁性の金属板または樹脂板であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項6】
前記永久磁石の軸線方向長さは前記ロータコアの軸線方向長さより短く、前記永久磁石と各側板との間には所定の両端部隙間が形成され、当該隙間には前記接着剤が充填されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項7】
前記穴部と永久磁石との間の隙間には前記接着剤が充填されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項8】
前記接着剤は、嫌気性接着剤、加熱硬化型接着剤又は二液反応硬化型接着剤であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項9】
前記モータロータの表面の少なくとも一部には、腐食防止膜がコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項10】
前記永久磁石の表面には、錆防止膜又は腐食防止膜がコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項11】
前記コーティングは複数層のコーティングであって、少なくとも1層は耐食性樹脂を用いたCVD法による製膜でノンピンホールコーティングを施したことを特徴とする、請求項10に記載のモータロータ。
【請求項12】
上記請求項1〜11の何れか一項に記載のモータロータと、このモータロータの周囲に所定の隙間を隔てて設置されるモータステータと、前記モータロータと前記モータステータとの間に配置されるキャンと、を備えたことを特徴とする、キャンドモータ。
【請求項13】
請求項12に記載のキャンドモータを備えたことを特徴とする、真空ポンプ。
【請求項14】
真空ポンプのポンプロータ回転軸を駆動するためのモータで用いるモータロータであって、
穴部を有する複数の鋼板が軸線方向に積層されたロータコアと、前記穴部に設置された永久磁石と、前記ロータコアの軸線方向両端部に取り付けられた側板とを備え、
前記鋼板の全面には接着剤が塗布されており、この接着剤を介して前記複数の鋼板同士及び側板が面接合されており、
前記複数の鋼板同士の間には加熱硬化型接着剤が用いられ、前記永久磁石と前記穴部との隙間には嫌気性接着剤が用いられていることを特徴とする、モータロータ。
【請求項15】
前記永久磁石の表面には、耐食性樹脂を用いたCVD法による製膜を施したことを特徴とする、請求項14に記載のモータロータ。
【請求項16】
前記製膜はノンピンホールコーティングである、請求項15に記載のモータロータ。
【請求項17】
前記永久磁石と前記製膜との間には、錆防止膜または腐食防止膜がさらにコーティングされていることを特徴とする、請求項15又は16に記載のモータロータ。
【請求項18】
前記鋼板が積層された後の硬化した接着剤は、樹脂含浸剤により封孔処理されていることを特徴とする、請求項15〜17の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項19】
前記モータロータの表面の少なくとも一部には、腐食防止膜がコーティングされていることを特徴とする、請求項15〜18の何れか一項に記載のモータロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータロータに係り、特に、真空ポンプ用のモータロータ及びこれを備えたモータ並びに真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造プロセスにおいては、様々な工程において真空技術が利用されている。いくつか例を挙げると、金属薄膜の形成のための真空蒸着法、レジスト除去やエッチング工程のためのプラズマエッチング法、不純物の拡散工程のためのイオン注入法、シリコン酸化膜や窒化膜形成工程のための減圧CVDやプラズマCVD法などである。これらのプロセスはいずれも真空(或いは減圧)環境で行われるものであり、半導体製造プロセスにおける真空が果たす役割は非常に大きい。
【0003】
半導体製造装置等に使用される真空ポンプとしては、
図6に示すような、多段ルーツ型容積式の真空ポンプ101がある。この図に示すものは3段の真空ポンプ101である。すなわち、合計6個のポンプロータ103を備えている(但し、
図6(A)では対応するポンプロータが重なっているため、各段とも1つのポンプロータ103しか見えない)。この真空ポンプ101のポンプロータ回転軸105は、一対のギア107によって互いに反対方向に同じ周期で回転する。相互に対向するロータ103同士及びロータ103とケーシング108は接触することがなく、わずかな隙間を保ちながら回転して気体を外部に排出するようになっている。
【0004】
この
図6(A)において、右端に設置されているのがモータMである。このモータMでは、ポンプロータ回転軸105にモータロータ109が取り付けられ、このモータロータ109の周囲に所定隙間を隔ててモータステータ111が設置されている。この構造のモータMでは、モータロータ109とモータステータ111は同じ空間内に存在している。
図6(B)は、この真空ポンプ101のポンプロータ回転軸105に沿った断面図である。この図から分かるように、三つ葉状のポンプロータ103が相互に平行な2本のポンプロータ回転軸105に取り付けられている。
【0005】
一方、
図7に示す真空ポンプ121は、モータの耐腐食性を向上させたキャンドモータM3を備えている例である。キャンドモータM3とは、モータロータ129を円筒状のキャン141で覆った構造のモータであり、軸シール構造を具備しなくても気密性が保たれる構造を有している。すなわち、モータロータ129とモータステータ131の間を隔離するように、円筒状のキャン141を介在させる構造である。キャン141の開口端には所定のフランジ部が形成されており、このフランジ部がポンプロータ側のポンプハウジングに固定されている。このため、モータロータ129とモータステータ131との間は完全に気密性が維持される。
【0006】
キャンドモータM3の場合でも、モータロータ129が存在する空間は真空ポンプの内部空間と直接連通している。このため、半導体製造プロセスで排気されるガスに直接曝される構造である。半導体製造プロセスで使用されあるいは発生するガスには、腐食性ガスが含まれており、キャンドモータM3の構成要素は、耐食性の高い材料や構造が必要となる。特に、永久磁石を使用するタイプのモータにおいては、永久磁石自体が腐食しやすい特徴を有するために、耐錆及び耐腐食性向上の技術が必要になる。
【0007】
モータロータの耐食性を向上させる技術として、いくつかのものが提案されている。例えば、第1の例では、円環状の多数の鉄心板材を積層して形成された回転子鉄心の磁石挿
入孔部に永久磁石が挿入固定されている。この時、永久磁石は、軸線方向に列をなす複数個たる2個の単位磁石が樹脂にてコーティングされて棒状に形成されている。この発明は、永久磁石を樹脂でコーティングすることで、永久磁石の表面に発生する渦電流を抑制し、永久磁石の温度上昇を防ぐことにより、永久磁石の特性劣化を防止し、回転電機の性能低下を防ぐことを目的にしている(特許文献1、要約書参照)。
【0008】
また、第2の例では、複数の円盤状のロータコアが積層されたロータが回転軸に固設され、穴部を有するロータコアと、穴部に挿入される磁石と、穴部内に注入された樹脂部と、ロータコアの軸線方向の両端部に設けられるエンドプレートとを備え、磁石とエンドプレートとが接触している構造のロータである(特許文献2、要約書参照)。この例は、特に穴部と磁石との間の空間の密封に着目したものである。
【0009】
更に、第3の例では、ロータコアに穿設された磁石挿入孔の磁石挿入空間は、縦幅、横幅及び長さの各寸法が永久磁石の縦幅、横幅及び長さの各寸法よりも大きな寸法に設定されている。このため、磁石挿入孔に隙間嵌めにより挿入された永久磁石は、磁石挿入孔内に完全に埋没した形態となり、磁石挿入空間の内壁面と永久磁石の周囲との間に空間が形成され、また、ロータコアの両端面側にも空間が形成される。永久磁石の挿入後の磁石挿入孔には、永久磁石の全表面を覆う空間に非磁性体である樹脂が充填される。これにより、永久磁石の腐食を防止するものである(特許文献3、要約書参照)。
【0010】
上述したように、特許文献1〜3に係る発明は、モータロータに使用される永久磁石の耐錆性の向上を図るものである。すなわち、複数の鋼板を積層して構成されたロータコアと、当該ロータコアに軸線方向に貫通された穴部に挿入された永久磁石を備え、当該永久磁石の表面のコーティングと挿入穴部との隙間に樹脂介在させて、腐食の原因となる水分が侵入できないような構成にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−94845号公報
【特許文献2】特許第4685661号公報
【特許文献3】特開2012−213310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記各特許文献に係る発明には、以下のような問題点があった。すなわち、いずれの引用文献においても、積層される円盤状のロータコア材料は珪素鋼板である。珪素鋼板は微視的に見ると、面のうねりなどに起因して、隣接する珪素鋼板同士のあいだに隙間が生じている。水分や腐食性ガス等はこの隙間を通過し、永久磁石の挿入される穴部まで侵入することになる。
【0013】
永久磁石の表面に耐腐食性処理を施し且つ永久磁石と挿入穴部との隙間に樹脂を充填すれば、永久磁石が水分や腐食性ガスに直接曝されることは無い。しかし、永久磁石の耐腐食性膜や樹脂の膜厚は非常に薄い。このため、永久磁石の表面や樹脂に傷やピンホールなどがあった場合、水分や腐食性ガスが通過してしまい、永久磁石の素材の錆や腐食を招くことになる。この点で永久磁石の耐錆性や耐腐食性は十分でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、第1の手段では、真空ポンプのポンプロータ回転軸を駆動するためのモータで用いるモータロータであって、穴部を有する複数の鋼板が軸線方向に積層されたロータコアと、前記穴部に設置された永久磁石と、前
記ロータコアの軸線方向両端部に取り付けられた側板とを備え、前記鋼板の全面には接着剤が塗布されており、この接着剤を介して前記複数の鋼板同士及び側板が面接合している、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、積層した鋼板の間には、塗布された接着剤により鋼板間の隙間がなくなる。それと同時に、モータロータの両端部の側板も接着剤により面接着されていることで、永久磁石が挿入される穴部は積層された鋼板により完全な密閉構造となる。これにより穴部の永久磁石は、外部の雰囲気(水分や腐食性のガス)から完全に遮断され、より確実に耐錆性や耐腐食性の効果が向上する。
【0015】
また、第2の手段では、前記側板の接合面の全面にも、接合前に前記接着剤が塗布されている、という構成を採っている。このような構成を採ることで、上記作用に加えて、ロータコアの両端部の鋼板と側板との間にも確実の接着剤が介在する。
【0016】
また、第3の手段では、前記ロータコア用の鋼板は珪素鋼板である、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、純鉄の高い透磁率を損なわないで,比電気伝導度を低下させて,電磁鋼板として必要な低い鉄損を実現することができる。
【0017】
また、第4の手段では、前記モータロータはポンプロータ回転軸の端部に取り付けられている、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、ポンプロータ回転軸をモータによって直接回転させることができるので、構造がシンプルとなる。
【0018】
また、第5の手段では、前記側板は非磁性の金属板または樹脂板である、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、側板が非磁性体で構成されるので、永久磁石の磁界によって側板内部へ磁路が形成されることはなく、効率よくステータコアに磁路形成が行われ、モータ特性を損なうことがない。
【0019】
また、第6の手段では、前記永久磁石の軸線方向長さは前記ロータコアの軸線方向長さより短く、前記永久磁石と各側板との間には所定の両端部隙間が形成され、当該隙間には前記接着剤が充填されている、という構成を採っている。また、第7の手段では、前記穴部と永久磁石との間の隙間には前記接着剤が充填されている、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、前記ロータコアの穴部と永久磁石との隙間、および永久磁石と両側板との隙間に接着剤が充填されて空間が密封される。そして、積層された鋼板本体に何らかの理由によりピンホール等ができて、水分や腐食性のガスがロータコアの内部に侵入したとしても、永久磁石の周りの接着剤が水分や腐食性のガスを遮断する。このため、永久磁石の錆や腐食が生じない効果が得られる。また、樹脂ではなく、接着剤を封入することで、珪素鋼板と永久磁石の隙間は接着剤の性質から強固に結合される。
【0020】
また、第8の手段では、前記接着剤は嫌気性接着剤、加熱硬化型接着剤又は二液反応硬化型接着剤である、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、永久磁石をロータコアの穴部に挿入する時には接着剤が硬化してはおらず、挿入後に硬化させることが可能となり、隙間に十分接着剤を充填することが可能となる。また、嫌気性接着剤は、空気が遮断された状態で鉄部材があることで硬化するので、樹脂を充填するときのように高温な溶融温度(数百度程度)に曝されることも無く、永久磁石への影響がない。また加熱硬化型接着剤の硬化温度も100℃程度であるので、同様に永久磁石への影響がない。2液硬化型も硬化剤により硬化するので、同様に温度による永久磁石への影響がない。
【0021】
また、第9の手段では、前記鋼板が積層された後の硬化した接着剤は、樹脂含浸剤によ
り封孔処理されている、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、前記鋼板の接着積層時に何らかの理由によりピンホール等が生じる場合があるが、液状の樹脂を含浸させてピンホール等を密封処理することが可能となるものである。
【0022】
また、第10の手段では、前記モータロータの表面の少なくとも一部には、腐食防止膜がコーティングされている、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、鋼板自身の錆や腐食を防止することが可能となる。
【0023】
また、第11の手段では、前記永久磁石の表面には、錆防止膜又は腐食防止膜がコーティングされている、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、更なる耐錆性、耐食性の向上が図れる。
【0024】
また、第12の手段では、前記コーティングは複数層のコーティングであって、少なくとも1層は耐食性樹脂を用いたCVD法による製膜でノンピンホールコーティングを施した、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、上記作用に加えて、仮に水分や腐食性のガスがロータコア内部に浸入しても、永久磁石はこれらに接することが無いので、錆や腐食の発生を防ぐことが可能である。
【0025】
また、第13の手段では、上記各手段の何れかに記載のモータロータと、このモータロータの周囲に所定の隙間を隔てて設置されるモータステータとを備えたモータ、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、モータロータが、例えば腐食性ガス雰囲気中に設置されても、高い耐食性を有する。
【0026】
また、第14の手段では、上記モータと、前記モータロータとモータステータの間に配置されるキャンとを備えたキャンドモータ、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、モータロータとモータステータの設置領域が相互に分離され、モータステータに対して耐食性処理を施す必要がなくなる。
【0027】
更に、第15の手段では、上記モータ又はキャンドモータを備えた真空ポンプ、という構成を採っている。このような構成を採ることにより、耐錆性、耐食性に優れた真空ポンプが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータロータを示す図である。ここで、
図1(A)は
図1(B)のA−A線における断面図であり、
図1(B)は
図1(A)におけるB−B線における断面図であり、更に
図1(C)はC−C線における左側面図である。
【
図2】
図1に開示したモータロータの穴部に配置された永久磁石の断面図である。
【
図3】
図1に開示したモータロータの分解斜視図である。
【
図5】
図1に開示したモータロータを備えるキャンドモータであり、
図5(A)はポンプロータ回転軸の軸線方向に沿った断面図であり、
図5(B)は
図5(A)のVI−VI線における断面図である。
【
図6】一般的な多段ルーツ型容積式真空ポンプの断面図であり、
図6(A)はポンプロータ回転軸の軸線方向に沿った断面図であり、
図6(B)は
図6(A)のB−B線における断面図である。
【
図7】キャンドモータが搭載された真空ポンプの、ポンプロータ回転軸の軸線方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は本発明の一実施形態に係るモータロータ11を示す図である。ここで、
図1(A)は
図1(B)のA−A線における断面図であり、
図1(B)は
図1(A)のB−B線における断面図であり、更に
図1(C)は
図1(B)のC−C線における側面図である。モータロータ11は、全体的に円筒形状を有しており、内部に断面円形の貫通穴部13が形成されている。この貫通穴部13は、後述するポンプロータ回転軸が挿入されるものである。モータロータ11の軸線方向の両端部には、環状の側板15が取り付けられている。この側板15は、モータロータ11の断面形状とほぼ同様の形状を有している。
【0030】
また、モータロータ11内には断面矩形状の穴部17が、軸線方向に沿って形成されている。この穴部17は、軸線方向の全長にわたって形成されている。穴部17には、断面矩形状の永久磁石19が挿入されて配置されるようになっている。永久磁石19が挿入される穴部17の断面の寸法は、縦、横方向ともに、永久磁石19の寸法より、僅かに大きく形成されており、穴部17と永久磁石19の間には所定の隙間が形成されるようになっている。そしてこの隙間に、接着剤が充填されて硬化している。なお、永久磁石19の断面形状は特に限定されるものではなく、正方形、円形、楕円形、三角形など、どのような形状でもよい。
【0031】
本実施形態では、永久磁石19は4組設置されている。具体的には、
図1(A)又は(C)に示すように、等角度間隔(90°)の配置で、断面矩形の長辺方向がモータロータ11の半径方向に対して直角の方向に向くように設置されている。このため、隣り合う永久磁石19はその断面の長辺方向が互いに垂直となっており、一方、軸線Lを中心として相互に対向する永久磁石19の断面の長辺は、相互に平行になるように配置されている。なお、永久磁石19の数は一例であって、その数は2個でも良いし4個より多い数であってもよい。また、本実施形態の永久磁石19は、モータロータ11の軸線方向長さとほぼ同じ長さを有しているが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、軸線方向に沿って永久磁石19を複数個に分割してもよい。一例としては、永久磁石19の軸線方向の長さを、モータロータ11の軸線方向長さの1/4程度にして、1か所の穴部17に対して4つの永久磁石を配置するものである。このため、本実施形態のモータロータ11に適用する場合には、合計で16個に分割された永久磁石19を用いることとなる。
【0032】
図2は、永久磁石19を軸線方向に直行する方向に切った場合の断面図である。この図に示すように、最も内側に永久磁石本体19aがあり、その外側に所定の表面処理が施されている。具体的には、永久磁石本体19aの表面に先ずニッケルメッキ層19bが形成され、そのニッケルメッキ層19bの上に、更にCVD法によるピンホール封止処理として薄膜樹脂層19cが形成されている。これは、樹脂層自体にピンホールが生じていない、いわゆるノンピンホールコーティングである。以上により、永久磁石本体19aの表面に二層からなる表面処理が施されているのである。但し、当該表面処理はあくまでも一例であって、全く表面処理を行わなくても良いし、一層だけ或いは三層以上の表面処理を施すようにしてもよい。
【0033】
図3は、本実施形態に係るモータロータ11の分解斜視図である。当該
図3では、説明の便宜上ロータコアを形成するための環状の鋼板21を一部のみ示している。実際には、多数の鋼板21が積層されており、上述のような円筒状のロータコアが形成されている。因みに
図3では、ロータコアの軸線方向の両端部に3枚もしくは4枚の鋼板21を記載している。環状の鋼板21の材料は、一例として珪素鋼板である。珪素鋼板21はロータコアの材料として用いられた場合に、適切に磁路を形成できる。但し、適切に磁路を形成できる材料であれば、珪素鋼板21に限定されるものではない。なお、珪素鋼板21間で硬化した接着剤にはピンホールが生じている場合がある。この場合には、樹脂含浸材を用いてピンホールの封孔処理を行ってもよい。
【0034】
図4は、
図1の各部分における拡大断面図であり、
図4(A)は
図1中の部分4A、
図4(B)は
図1中の部分4B、
図4(C)は
図1中の部分4Cをそれぞれ示している。先ず、
図4(A)には、モータロータの軸線方向の端部と側板15が記載されている。珪素鋼板21の両面の全面には、積層前に予め接着剤23が塗布されている。そして、当該珪素鋼板21を軸線方向に積層した後、軸線方向に荷重を加えながら加熱する。これにより、接着剤23が硬化してロータコアが形成される。その結果、
図4(A)に示すように、珪素鋼板21にうねりなどが生じていたとしても、隣接する珪素鋼板21の間の隙間には完全に接着剤23が充填され面接触している。このため、各珪素鋼板21の相互間に水分や腐食性ガスなどが侵入することはない。
【0035】
ロータコアの端部の珪素鋼板21と側板15との間にも接着剤23が存在している。これは、珪素鋼板21の表面に塗布されていた接着剤23である。このため、うねりなどによって珪素鋼板21と側板15との間に隙間が生じるような場合でも、その隙間に接着剤23が存在して隙間を埋めることとなる。なお、ロータコアの組立前に、側板の接着面の全面に接着剤を塗布してもよい。また、ロータコアの外周面には、樹脂による腐食防止膜25が形成されている。使用される樹脂としては様々なものが考えれられが、本実施形態ではエポキシ樹脂が用いられている。なお、エポキシ樹脂による腐食防止膜はロータコアの外周面に限定されるものではない。すなわち、ポンプロータ回転軸が挿入される貫通穴13(
図1参照)の内周面や側板15の表面に形成してもよい。更には、ロータコアの一部分ではなく、表面全体に腐食防止膜を形成するようにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、永久磁石19はロータコアの軸線方向の長さよりも僅かに短くなるように形成されている。そして、
図4(A)に示すように、永久磁石19の端部と側板15との間に僅かな隙間が形成されるように、永久磁石19がロータコアの穴部17内に位置決めされている。そして、その隙間にも接着剤23が存在する。本実施例では、嫌気性接着剤がこの隙間に充填されて、硬化されている。但し、各側板15と永久磁石19の両端部との間の隙間の密封が確保できるのであれば、永久磁石19の長さをロータコアの軸線方向長さとほぼ等しくして、上記隙間を形成しないような構成でもよい。
【0037】
また、
図4(B)には、ロータコアの穴部17に設置されている永久磁石19が示されている。この図に示すように、永久磁石本体19aの外側に、ニッケルメッキ層19bが形成されると共に、このニッケルメッキ層19bの更に外側に、腐食防止膜である薄膜樹脂層19cが形成されている。更に、上述したように、永久磁石(実際には薄膜樹脂層)19と穴部17との間の隙間には、接着剤23が充填されて硬化している。このため、永久磁石19の周囲あるいは永久磁石19へ通じる隙間などはすべて接着剤が充填されており、水分や腐食性ガスが完全に遮断されている。
【0038】
更に、
図4(C)には、永久磁石19の断面、珪素鋼板21の表面及びエポキシ樹脂膜25の断面がそれぞれ示されている。珪素鋼板21の表面の全面には接着剤23が塗布されており、隣接する珪素鋼板21同士が接合された時に、互いの接着剤23同士が隙間に充填されることとなる。なお、接着剤23を珪素鋼板21の全面に塗布することは必須要件ではなく、少なくとも永久磁石19の周囲部を囲むように塗布されていれば、永久磁石19の錆や腐食を防ぐことは可能である。本実施形態で用いられる接着剤は、嫌気性接着剤である。嫌気性接着剤は、空気が遮断された状態で鉄系材料が存在する環境で硬化するものである。このため、珪素鋼板同士を積層して空気を遮断することで、嫌気性接着剤の硬化が始まる。
【0039】
接着剤23は嫌気性接着剤に限定されるものではなく、加熱硬化型接着剤や二液反応硬化型接着剤であってもよい。これらはいずれも、珪素鋼板21を積層した後で硬化を開始
させることができる接着剤である。このため、積層後の珪素鋼板21の相互間に確実に充填されることとなる。以上の特徴の他に、従来の技術である、溶融樹脂を用いるような場合(数百度程度に加熱する必要がある)と比べて、加熱硬化型接着剤は100℃程度の加熱で硬化させることができる。このため、加熱による永久磁石への悪影響を防ぐことができる。また、嫌気性接着剤や二液反応接着剤の場合には、加熱は不要であるので加熱による永久磁石への悪影響は考慮する必要がない。なお、接着剤を場所によって使い分けてもよい。例えば、珪素鋼板21を面接着させるのに、接着力の高い加熱硬化型接着剤を用い、一方、永久磁石の周囲には嫌気性接着剤を用いるような手法である。
【0040】
図5は、キャンドモータM2の断面図である。この図に示すように、ポンプロータ回転軸31の端部にモータロータ11が取り付けられている。そして、モータロータ11を覆うように円筒状のキャン33が設けられている。キャン33の一方端(図では左端)は閉じられており、他端(図では右端)は開放されている。キャン33の他端には、半径方向外側に向かうフランジ部が形成されている。このフランジ部がモータハウジング35に固定される。モータロータ11とキャン33の間には所定の隙間が形成されている。以上の構成により、モータロータ11が設置されている空間(キャン33の内部)と、モータステータ37が設置されている空間(キャン33の外側)とは、キャン33とモータハウジング35とによって完全に遮断されている。
【0041】
モータステータ37は、ステータコアとステータコイルとからなる。そして、モータステータ37によって生成される磁力によりモータロータ11が回転する。
図5(A)のVI−VI線における断面図である
図5(B)に示すように、モータステータ37はキャン33の外周面に6組設けられている。但し、モータステータ37の数は一例であって、6組より少ない数にしてもよいし、6組よりも多い数にしてもよい。なお、モータロータ11が設置された空間に腐食性ガスなどが侵入したとしても、キャン33によってそれがモータステータ37にまで到達することはない。従って、キャンドモータM2の場合には、モータステータ37に対する防錆、耐食性の要求は、モータロータとモータステータが同じ空間に存在するモータと比べて低い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、一例として、半導体製造装置などで真空を作り出すための真空ポンプに利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
4A,4B,4C 拡大部分
11 モータロータ
13 貫通穴部
15 側板
17 穴部
19 永久磁石
19a 永久磁石本体
19b ニッケルメッキ層
19c 腐食防止膜(薄膜樹脂層)
21 珪素鋼板
23 接着剤
25 腐食防止膜
33 キャン
35 モータハウジング
37 ステータ
L 軸線
M2 キャンドモータ