(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298625
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池用の正極の形成方法及びリチウム硫黄二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20180312BHJP
【FI】
H01M4/139
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-254439(P2013-254439)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-115119(P2015-115119A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】塚原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】野末 竜弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2012/070184(JP,A1)
【文献】
特開2006−092883(JP,A)
【文献】
特表2015−507340(JP,A)
【文献】
特表2013−538413(JP,A)
【文献】
特開2004−119367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139、4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に触媒層を形成し、触媒層表面にこの触媒層表面側を基端として触媒層表面に直交する方向に配向するように複数本のカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、カーボンナノチューブの成長端側から硫黄を溶融拡散させて各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う被覆工程とを含むリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法において、
被覆工程は、カーボンナノチューブの成長端側に固体の硫黄を撒布し、210℃〜300℃の範囲の温度に加熱して硫黄を高分子化してこの高分子化した硫黄をカーボンナノチューブの基端まで拡散させる加熱工程と、カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆った後に1℃/秒〜25℃/秒の範囲の冷却速度で冷却する急冷工程とを含むことを特徴とするリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法。
【請求項2】
前記被覆工程にて、カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆ったときのカーボンナノチューブの単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比が1.35以上となるように硫黄の散布量を設定することを特徴とする請求項1記載のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄二次電池用の正極の形成方法及びその形成方法を用いて作製したリチウム硫黄二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高エネルギー密度を有することから、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の携帯機器等だけでなく、ハイブリッド自動車、電気自動車、電力貯蔵蓄電システム等にも適用が拡がっている。その中でも、正極活物質を硫黄、負極活物質をリチウムとし、リチウムと硫黄の反応により充放電するリチウム硫黄二次電池が近年注目されている。
【0003】
このようなリチウム硫黄二次電池の正極として、集電体と、集電体表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備えるもの(一般に、カーボンナノチューブの密度が0.06g/cm
3で、硫黄の重量は、カーボンナノチューブの重量の0.7〜3倍とされている)が例えば特許文献1で知られている。この正極をリチウム硫黄二次電池に適用すると、電解質が広範囲で硫黄に接触して硫黄の利用効率が向上するため、充放電レート特性に優れ、リチウム硫黄二次電池としての比容量(硫黄単位重量当たりの放電容量)が大きいものとなる。
【0004】
各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う方法としては、カーボンナノチューブの成長端に硫黄を載置し、融点(113℃)以上に加熱して溶融させ、溶融した硫黄をカーボンナノチューブ相互間の隙間を通って基端側に拡散させるものが一般に知られているが、このような方法では、カーボンナノチューブの成長端付近にのみ硫黄が偏在し、カーボンナノチューブの基端周辺まで硫黄が拡散せず、当該部分が硫黄で覆われないか、覆われているとしても硫黄の膜厚が極めて薄くて密着性が弱く、これでは、十分な放電容量が得られない。これは、溶融した硫黄は粘度が高く、また、カーボンナノチューブ相互間には分子間力が働いて間隙の幅が狭くなるため、溶融した硫黄が当該間隙を下方に拡散し難く、カーボンナノチューブの基端近傍にまで効率よく硫黄を供給できないことに起因していると考えらえる。
【0005】
ところで、リチウム硫黄二次電池の正極では、硫黄とリチウムとが多段階で反応する途中でポリサルファイドが生成し、生成したポリサルファイド(特に、Li
2S
6やLi
2S
4)は電解液に溶出し易い。このため、カーボンナノチューブをその基端まで覆う硫黄のカーボンナノチューブとの密着性が低いと、電解液へのポリサルファイドの溶出量が増加し、溶出したポリサルファイドが負極のリチウムと反応してしまい、充電反応が促進されず(所謂レドックス・シャトル現象)、充放電のサイクル特性に劣るものとなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/070184号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、カーボンナノチューブの集電体近傍まで十分な量の硫黄で密着性良く覆うことができるリチウム硫黄二次電池用の正極の形成方法及びその形成方法を用いて作製したリチウム硫黄二次電池用正極を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、基体の表面に触媒層を形成し、触媒層表面にこの触媒層表面側を基端として触媒層表面に直交する方向に配向するように複数本のカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、カーボンナノチューブの成長端側から硫黄を溶融拡散させて各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う被覆工程とを含む本発明のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法は、被覆工程にて、カーボンナノチューブ
の成長端側に固体の硫黄を撒布し、210℃〜300℃の範囲の温度に加熱して硫黄を
高分子化してこの高分子化した硫黄をカーボンナノチューブの基端まで拡散させる加熱工程と、カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆った後に1℃/秒〜25℃/秒の範囲の冷却速度で冷却する急冷工程とを実施する。
【0009】
本発明によれば、先ず、加熱工程にて210℃〜300℃の範囲の温度に加熱して硫黄を溶融させるため、硫黄が直鎖状硫黄(高分子化)へと変化し、粘度が低下することで、カーボンナノチューブの基端まで硫黄が拡散し、カーボンナノチューブがその全長に亘って十分な量の硫黄で覆われる。この場合、210℃より低い温度では、硫黄の高分子化による粘度の低下が不十分となり、カーボンナノチューブの基端まで硫黄が拡散せずにカーボンナノチューブの成長端付近に硫黄が偏在する場合がある一方で、300℃を超えた温度では、硫黄を融解するときに硫黄が多量に昇華しまい、カーボンナノチューブの単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比の制御が事実上できない。
【0010】
次に、硫黄を拡散させた(被覆工程を所定時間行った)後、急冷工程にて1℃/秒〜25℃/秒の冷却速度で急冷するため、カーボンナノチューブを覆う硫黄の粘度が再度上がり、ゴム状硫黄のような状態でカーボンナノチューブに密着性良く付着する。これにより、本発明の方法を実施し、作製した正極を備えたリチウム硫黄二次電池は、十分な硫黄を担持していることで放電容量が多く、しかも、充放電のサイクル特性に優れたものとなる。なお、1℃/秒より遅い冷却速度では、前述の効果が発揮されない一方で、25℃/秒より速い速度で正極を冷却しようとする、設備が大掛かりになり過ぎ、現実的ではない。この場合、前述の加熱工程を経た正極を室温まで自然冷却した場合、カーボンナノチューブとの密着性が低下して硫黄の偏析が発生し、放電容量が低下してしまう。これは、硫黄が低粘度化する160℃付近の温度を経て徐々に冷却されていくことに起因しているものと考えられる。
【0011】
また、本発明において、放電容量を多くするためには、被覆工程にて、カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆ったときのカーボンナノチューブの単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比が1.35以上となるように硫黄の散布量を設定することが好ましい。この場合、重量比が1.35未満では、210℃以下の加熱温度でも充放電動作が可能であるが、正極の硫黄量が少なくなることで、エネルギー密度が小さくなってしまうという不具合が生じる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池の構成を模式的に示す断面図。
【
図2】本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池用の正極を模式的に示す断面図。
【
図3】(a)〜(c)は、本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池用の正極の形成手順を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明のリチウム硫黄二次電池用の形成方法の実施形態を説明する。
図1を参照して、リチウム硫黄二次電池BTは、主として、正極Pと、負極Nと、これら正極Pと負極Nの間に配置されたセパレータSと、正極Pと負極Nとの間でリチウムイオン(Li
+)の導電性を有する電解質(図示せず)とを備え、図外の電気缶に収納して構成される。負極Nとしては、例えば、Li、LiとAlもしくはIn等との合金、または、リチウムイオンをドープしたSi、SiO、Sn、SnO
2もしくはハードカーボンを用いることができる。電解質としては、例えば、テトラヒドロフラン、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどのエーテル系電解液、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどのエステル系電解液のうちから選択された少なくとも1種、または、これらのうちから選択された少なくとも1種(例えばグライム、ジグライムもしくはテトラグライム)に粘度調整のためのジオキソランを混合したものを用いることができる。正極Pを除く他の構成要素は公知のものを利用できるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0014】
正極Pは、集電体P
1と、集電体P
1表面に形成された正極活物質層P
2とで構成される。集電体P
1は、
図2に示すように、例えば、基体1と、基体1表面に5〜80nmの膜厚で形成された下地膜(「バリア膜」ともいう)2と、下地膜2表面に0.2〜5nmの膜厚で形成された触媒層3とを備える。基体1としては、例えば、Ni、CuまたはPtからなる金属箔を用いることができる。下地膜2は、基体1と後述のカーボンナノチューブとの密着性を向上させるためのものであり、例えば、Al、Ti、V、Ta、Mo及びWから選択される少なくとも1種の金属またはその金属の窒化物から構成される。触媒層3は、例えば、Ni、FeまたはCoから選択される少なくとも1種の金属またはこれらの合金で構成される。下地膜2と触媒層3とは、例えば、公知の電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、触媒金属を含む化合物の溶液を用いたディッピングを用いて形成することができる。
【0015】
正極活物質層P
2は、集電体P
1表面にこの集電体P
1表面側を基端として集電体P
1表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブ4と、各カーボンナノチューブ4の表面を夫々覆う硫黄5とで構成される。この場合、カーボンナノチューブ4相互の間には所定の間隙S1があり、この間隙S1に電解質(液)が流入するようになっている。カーボンナノチューブ4の成長方法(成長工程)としては、炭化水素ガスと希釈ガスとを含むものを原料ガスとする、熱CVD法、プラズマCVD法、ホットフィラメントCVD法などのCVD法が用いられる。他方、カーボンナノチューブ4の表面を硫黄5で夫々覆う方法(被覆工程)としては、カーボンナノチューブ4の成長端に、顆粒状の硫黄を撒布し、硫黄5の融点(113℃)以上に加熱して硫黄5を溶融させ、溶融した硫黄5をカーボンナノチューブ4相互間の間隙S1を通って基端側まで拡散させる。この場合、放電容量が多くするために、被覆工程にて、カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆ったときのカーボンナノチューブ4の単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比が1.35以上となるように硫黄の散布量が設定される。以下、
図3を参照して本実施形態のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法を具体的に説明する。
【0016】
上記手順で、基体1表面に下地膜2を形成し、下地膜2表面に触媒層3を形成して集電体P
1を作製する(
図3(a)参照)。次に、成長工程として、上記集電体P
1を図外のCVD装置の成膜室を画成する真空チャンバ内に設置して加熱し、成膜室内に炭化水素ガスと希釈ガスとを含む原料ガスを導入して熱CVD法によりカーボンナノチューブ4を成長させる(
図3(b)参照)。炭化水素ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン等が用いられ、希釈ガスとしては、窒素、アルゴン又は水素等が用いられる。また、第1工程では、原料ガスの流量が、成膜室内の容積や集電体P
1のカーボンナノチューブ4を成長させる面積等に応じて100〜5000sccmの範囲に設定される。このとき、原料ガス中の炭化水素ガスの濃度は0.5%〜20%の範囲に設定され、成膜室が所定温度(例えば、500℃)に達すると、導入されるようにしている。
【0017】
これにより、0.03〜0.06g/cm
3以下の密度で集電体P
1の表面に複数本のカーボンナノチューブ4が、集電体P
1の表面に対して直交する方向に配向して成長する(この場合、長さが100〜1000μmの範囲、直径が5〜50nmの範囲となる)。
【0018】
次に、被覆工程として、集電体P
1に複数本のカーボンナノチューブ4を成長させた後、カーボンナノチューブ4が成長した領域の全体に亘って、その上方から、1〜100μmの範囲の粒径を有する顆粒状の硫黄51を撒布する。硫黄51の重量は、上記重量比となるように、カーボンナノチューブ4の重量の1倍〜3倍に設定される。1倍よりも少ないと、カーボンナノチューブ4の夫々の表面が硫黄により均一に覆われない一方で、3倍よりも多いと、隣接するカーボンナノチューブ4相互間の間隙まで硫黄5が充填されてしまう。
【0019】
次に、集電体P
1を図外の加熱炉内に設置し、硫黄の融点以上の210℃〜300℃の範囲の温度に所定時間加熱して硫黄を溶融させる(
図3(c)参照:加熱工程)。210℃より低い温度では、硫黄の高分子化による粘度の低下が不十分となり、カーボンナノチューブ4の基端まで硫黄が拡散せずにカーボンナノチューブ4の成長端付近に硫黄が偏在する場合がある一方で、300℃を超えた温度では、硫黄を融解するときに硫黄が多量に昇華しまい、カーボンナノチューブ4の単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比の制御が事実上できない。また、加熱時間は、基体1の面積等を考慮して適宜設定される。これにより、硫黄51が直鎖状硫黄(高分子化)へと変化し、粘度が低下することで、カーボンナノチューブ4の基端まで硫黄5が拡散し、カーボンナノチューブ4がその全長に亘って1nm〜10nmの厚さの硫黄5で覆われ、隣接するカーボンナノチューブ4相互間に間隙S1が存するようになる。なお、空気中で加熱すると、溶融した硫黄51が空気中の水分と反応して
二酸化硫黄が生成するため、ArやHe等の不活性ガス雰囲気中、または真空中で加熱することが好ましい。
【0020】
次に、硫黄5を拡散させた(被覆工程を所定時間行った)後、1℃/秒〜25℃/秒の冷却速度で急冷する(急冷工程)。これにより、カーボンナノチューブ4をその全長に亘って覆う硫黄5の粘度が再度上がってゴム状硫黄の如く状態でカーボンナノチューブ4に密着性良く付着し、各カーボンナノチューブ4がその全体に亘って十分な量の硫黄(カーボンナノチューブ4の単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比が1.35以上)で均一性よく覆われた正極Pが得られる(
図2参照)。なお、1℃/秒より遅い冷却速度では、前述の効果が発揮されない一方で、25℃/秒より速い速度で正極を冷却しようとする、設備が大掛かりになり、現実的ではない。
【0021】
以上の実施形態により作製した正極Pを備えたリチウム硫黄二次電池BTは、十分な硫黄を担持していることで放電容量が多く、しかも、充放電のサイクル特性に優れたものとなる。
【0022】
次に、本発明の効果を確認するために次の実験を行った。本実験では、基体1を厚さが0.02mmのNi箔とし、このNi箔表面に下地膜2としてのAl膜を30nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成し、下地膜2表面に触媒層3としてのFe膜を1nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成し、集電体P
1を得た。次に、熱CVD装置の処理室内に載置し、処理室内にアセチレン15cmと窒素750sccmを供給し(濃度は2%)、作動圧力を1気圧、加熱温度を750℃に設定し、10分の成長時間で集電体P
1表面にカーボンナノチューブ4を成長させた。このとき、各カーボンナノチューブの平均長さは約200μmで単位面積当たりの平均密度は約0.04g/cm
3であった。
【0023】
次に、顆粒状の硫黄51を、カーボンナノチューブが成長した領域全体に亘って配置し、加熱工程としてAr雰囲気下で所定温度で所定時間(5分間)加熱した。そして、急冷工程として所定時間経過直後に25℃/秒の冷却速度で室温まで急冷して正極Pを得た。この場合、加熱工程での加熱温度を、140℃としたものを試料1、200℃としたものを試料2、210℃としたものを試料3、250℃としたものを試料4とし、この正極をリチウム硫黄二次電池として組み付け、複数回充放電を繰り返したときの充放電のサイクル特性を測定し、その結果を
図4に示す。
【0024】
以上によれば、試料1のものでは、カーボンナノチューブ4の単位面積当たりの重量に対する硫黄の重量比が1.38、試料2のものでは1.53、試料3のものでは1.41及び、試料4のものでは1.37であったが、試料1では、充放電の回数が10回に到達する前に放電容量が著しく低下した。また、試料2では、充放電の回数が15回程度までは放電容量を高く保持できたが、その直後に著しく低下した。それに対して、本発明の実施して得られる試料3では、充放電を30回程度繰り返しても800mAhg
−1程度の放電容量が得られており、試料4では、充放電の回数が50回を超えても800mAhg
−1以上の放電容量が得られていることが判る。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されない。上記実施形態では、触媒層3の表面に直接カーボンナノチューブを成長させる場合を例に説明したが、別の触媒層の表面にカーボンナノチューブを配向させて成長させ、このカーボンナノチューブを触媒層3の表面に転写してもよい。
【0026】
更に、上記実施形態では、カーボンナノチューブ4の各々の表面のみを硫黄5で覆っているが、カーボンナノチューブ4の各々の内部にも硫黄を充填すれば、正極Pにおける硫黄の量が更に増加することで、より一層比容量を増加させることができる。この場合、硫黄を配置する前に、例えば、大気中にて500〜600℃の温度で熱処理を行うことでカーボンナノチューブの各々の先端に開口部を形成する。次いで、上記実施形態と同様に、カーボンナノチューブが成長した領域全体に亘って硫黄を配置して溶融させる。これにより、カーボンナノチューブの各々の表面が硫黄で覆われると同時に、この開口部を通してカーボンナノチューブの各々の内部にも硫黄が充填される。硫黄の重量は、カーボンナノチューブの重量の5倍〜20倍に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0027】
BT…リチウム硫黄二次電池、P…正極、P
1…集電体、1…基体、3…触媒層、4…カーボンナノチューブ、S1…カーボンナノチューブ相互間の間隙、5…硫黄。