(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合体の製造方法および積層体の製造方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の複合体の製造方法の一例を概念的に示す。
本発明の複合体の製造方法は、ガラスシート12の一面に樹脂層14を形成してなる原複合体10aを切断(分断)して、所望のサイズや形状(面方向のサイズや形状)の複合体10を製造するものである。
【0016】
本発明の複合体の製造方法において、原複合体10a(すなわち、製造する複合体10)は、
図1(A)に概念的に示すように、ガラスシート12の一面(一方の主面(表面))に樹脂層14を形成してなるものである。なお、
図1に示す例において、原複合体10aの面方向の形状は、一例として、矩形である。
原複合体10aの基板(基材)となるガラスシート12のガラスは、公知の各種のガラスが利用可能である。具体的には、ソーダライムガラスや無アルカリガラス等が例示される。また、ガラスシート12は、フロート法、フュージョン法、リドロー法等の公知の方法で製造されたものが利用可能である。
【0017】
ガラスシート12の厚さは、製造する複合体10の用途に応じた厚さでよい。
ここで、本発明の製造方法による複合体10(積層体30)は、一例として、太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)等の電子デバイスの製造に利用される。これらの電子デバイスには、薄型化や軽量化を図ることが要求されており、さらに、フレキシブル性を要求される用途への展開も望まれる。この点を考慮すると、ガラスシート12は、電子デバイスを作製可能な範囲で薄い方が好ましい。
一方、後述するが、本発明の製造方法によれば、原複合体10aを切断する際に生じたガラスシート12の割れが伝播すること抑制して、ガラスシート12の割れに起因する欠陥の無い複合体を製造できる。この原複合体10aを切断する際における割れ、および、割れの伝播は、ガラスシート12が薄い程、発生し易い。
すなわち、電子デバイスなど、複合体10を利用する製品のフレキシブル性を考慮してガラスシート12を薄くすると、ガラスシート12の割れが発生し易くなるが、本発明によれば、ガラスシート12を薄くした際にも、割れを好適に抑制できる。この点を考慮すると、ガラスシート12の厚さは、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。
【0018】
また、ガラスシート12の厚さは、複合体10(積層体30)の用途に応じて、必要な強度を確保できる厚さ以上であればよい。
具体的には、ガラスシート12の厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0019】
ガラスシート12は、樹脂層14の接着力の向上等を目的として、樹脂層14の形成に先立ち、樹脂層14の形成面に表面処理が施されたものでもよい。
表面処理としては、プライマー処理、オゾン処理、プラズマエッチング処理等が例示される。プライマーとしては、シランカップリング剤が例示される。シランカップリング剤としては、アミノシラン類、エポキシシラン類、アルコキシシラン類、シラザン類等が例示される。
【0020】
原複合体10a(すなわち、製造する複合体10)において、ガラスシート12の表面には、樹脂層14が形成される。
樹脂層14は、各種の樹脂材料からなる層(膜)である。なお、
図1に示される原複合体10aは、樹脂層14は1層で形成されるが、合計の厚さが1〜100μmであれば、樹脂層14は複数層で形成されてもよい。また、複数層で樹脂層14を形成する際には、全ての層を同じ材料で形成してもよく、異なる材料からなる層が混在してもよい。さらに、複数層で樹脂層14を形成する際には、各層の厚さは、同じでも異なってもよい。
なお、
図1に示される原複合体10aは、ガラスシート12の表面全面に樹脂層14を形成しているが、製造する複合体10のサイズや形状に対応する十分な面積を有するものであれば、樹脂層14は、ガラスシート12の表面全面に形成されなくてもよい。
【0021】
ここで、本発明の製造方法において、樹脂層14は、厚さが1〜100μmで、ガラスシート12との界面からの法線方向の距離が0〜0.5μmの領域のヤング率が100MPa以上である。また、樹脂層14は、180°ピール剥離強度で1N/25mm以上の接着力で、ガラスシート12に接着される。
本発明は、ガラスシート12の表面に、このような樹脂層14が形成された原複合体10aを用いて、樹脂層14側からガラスシート12にスクライブ線18を形成して、原複合体10aの切断を行うことにより、ガラスシート12が薄い場合でも、切断の際にガラスシート12に生じた割れが、面方向に伝播することを抑制して、所望のサイズや形状を有し、かつ、ガラスシート12の割れを抑制したガラスシート12を有する複合体10を、安定して製造できる。この点に関しては、後に詳述する。
【0022】
樹脂層14は、公知の各種の樹脂材料(高分子材料)で形成可能である。例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
熱硬化性樹脂としては、ポリイミド(PI)、エポキシ(EP)等が例示される。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルホン(PES)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリル(PMMA)、ウレタン(PU)等が例示される。
また、樹脂層14は、光硬化性樹脂で形成されてもよく、共重合体や混合物であってもよい。
【0023】
複合体10(積層体30)が利用される電子デバイスの製造工程は加熱処理を伴う工程を含むことがある。そのため樹脂層14を形成する樹脂材料の耐熱温度(連続使用可能温度)は、好ましくは、100℃以上である。
耐熱温度が100℃以上の樹脂としては、ポリイミド(PI)、エポキシ(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルホン(PES)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル(PMMA)、ウレタン(PU)等が例示される。
【0024】
樹脂層14は、樹脂材料のみで形成されても良く、あるいは、フィラー等を含有してもよい。
フィラーとしては、繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が例示される。
具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブ等が例示される。などが挙げられる。金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。ガラス繊維あるいは炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、樹脂層14は、樹脂を含浸した織布、不織布などで構成されてもよい。
【0025】
樹脂層14は、樹脂層14の形成材料に応じた公知の方法で形成すればよい。
例えば、樹脂層14は、ガラスシート12の表面に、樹脂層14となる成分を含む液状の組成物(塗料)を塗布して、硬化させて、形成すればよい。
あるいは、樹脂層14は、ガラスシート12に樹脂層14となる樹脂フィルムを貼り付けて形成してもよい。なお、ガラスシート12に樹脂フィルムを貼り付けて樹脂層14を形成する場合には、必要に応じて、接着剤を用いて、ガラスシート12に樹脂フィルムを貼り付けてもよい。なお、この場合は、接着剤層も樹脂層14の一部と見なし、接着剤層も含めた複数層からなる樹脂層14として、ヤング率等の条件を満たす必要が有る。
また、樹脂層14は、ガラスシート12の表面に、樹脂層14となる樹脂材料の前駆体からなる層(膜)を形成し、この前駆体からなる層に、熱処理、電子線照射、紫外線照射等の処理を施すことで、目的とする樹脂材料からなる樹脂層14としたものてもよい。なお、この樹脂層14の形成方法において、前駆体からなる層は、ガラスシート12の表面に液状の組成物の塗布、乾燥(あるいはさらに硬化)して形成してもよく、あるいは、ガラスシート12の表面に、フィルム状物を貼り付けて形成してもよい(必要に応じて接着剤を用いてもよい)。
【0026】
なお、本発明の複合体(積層体)の製造方法は、前述のガラスシート12に、この樹脂層14を形成する工程(あるいはさらに、前述の表面処理を行う工程)を含んでもよい。
【0027】
本発明の複合体の製造方法では、
図1(B)に概念的に示すように、このような原複合体10aのガラスシート12に、製造する複合体10のサイズや形状に応じて、切断を行うためのスクライブ線18を形成する。前述のように、原複合体10aは矩形であるので、スクライブ線18は、紙面に垂直方向に延在している。
ここで、ガラスシート12に形成するスクライブ線18は、樹脂層14側から形成する。すなわち、樹脂層14にカッタ20を当てて、樹脂層14を貫通(切断)して、ガラスシート12にスクライブ線18を形成する。言い換えれば、ガラスシート12へのスクライブ線18の形成と同時に、樹脂層14の切断を行う。
【0028】
樹脂層14の切断とスクライブ線18の形成とを同時に行うことにより、特許文献2に示される方法のように、樹脂層14の切断とスクライブ線18の形成という2工程を行う必要がなく、また、樹脂層14の切断位置とスクライブ線18の形成位置との位置合せを行う必要も無い。
さらに、製造した複合体10において、樹脂層14の切断面と、ガラスシート12の切断面とを、好適に一致させることできる(両切断面を面一にできる)。
【0029】
スクライブ線18の形成は、ガラスシート12および樹脂層14に応じて、樹脂層14を貫通してスクライブ線18を形成可能な、公知の手段で行えばよい。一例として、樹脂用の各種のカッタやガラス用の各種のカッタを用いる方法が例示される。
なお、後述するが、本発明の複合体(積層体)の製造方法では、ガラスシート12の表面に所定の樹脂層14を有する。そのため、スクライブ線18(ガラスシート12のスクライブ線18の形成位置)に多くのチッピング等の欠陥が有っても、切断を行った際にガラスシート12に生じた割れが面方向に伝播することを抑制できる。従って、本発明の製造方法では、スクライブ線18にチッピング等が生じることを、差程、考慮する必要がなく、従って、スクライブ線18の形成は、安価なカッタ20等で行うことも可能である。
【0030】
スクライブ線18の幅(線の延在方向と直交する方向のサイズ)や、スクライブ線18の深さは、通常のガラスシート(ガラス板)の切断と同様、ガラスシート12の厚さ、形成材料等に応じて、ガラスシート12を確実に切断できる幅および深さを、適宜、設定すればよい。
【0031】
図1(B)に示すように、原複合体10aのガラスシート12にスクライブ線18を形成したら、
図1(C)に概念的に示すように、ガラスシート12の樹脂層14側の面に引張応力が掛かるように原複合体10aを折り曲げる。これにより、スクライブ線18を起点にガラスシート12をブレイクして原複合体10aを切断し、
図1(D)に概念的に示すように、目的とするサイズや形状の複合体10を形成する。すなわち、樹脂層14側が凸になるように、原複合体10aを折り曲げることにより、スクライブ線18を起点としてガラスシート12をブレイクしてガラスシート12を切断して、目的とするサイズや形状の複合体10を形成する。
ここで、本発明の複合体(積層体)の製造方法によれば、ガラスシート12が薄い場合や、スクライブ線18にチッピングが多数存在する場合でも、原複合体10aの切断時に生じたガラスシート12の割れ(クラック)が、面方向に伝播(拡散/進展)することを防止できる。
【0032】
前述のように、ガラスシート12に樹脂層を形成した複合体を利用することで、薄膜化や軽量化を図り、しかも、曲げ等の変形を受けた際にもガラスシート12の割れを防止できる、フレキシブル性に優れた電子デバイスを作製することができる。
ここで、複合体は、通常、目的とする複合体よりも大きな原複合体を切断して、所望のサイズや形状の複合体にされる。切断方法としては、樹脂層を切断し、さらに、この切断線に合せてガラスシート12にスクライブ線を形成し、ガラスシート12を切断する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、2回の切断処理が必要で、かつ、切断位置の位置合せ等に手間がかかる。また、従来の方法では、ガラスシート12の切断の際に、スクライブ線のチッピング等に起因して生じたガラスシート12の割れが面方向に伝播して、複合体が、ガラスシート12の割れという欠陥を有してしまう場合も多い。特に、この割れは、ガラスシート12が薄い場合には生じ易い。
【0033】
他方、位置合せ等の手間が掛からない所望形状の複合体の製造方法(切断方法)として、特許文献3に示されるような、樹脂層越しにスクライブ線18を形成することで、スクライブ線18の形成と樹脂層の切断とを、同時に行う方法が考えられる。
しかしながら、樹脂層の切断を伴ってガラスシート12にスクライブ線18を形成する場合には、スクライブ線18の形成に、ある程度の力が必要であり、カッタ20に掛けた力が、ガラスシート12にも掛かる。そのため、スクライブ線18には、チッピング等の欠陥が、多数、発生してしまう。従来の方法では、このようにチッピングを多数有するガラスシート12を切断(ブレイク)すると、このチッピング等の欠陥に起因して、ガラスシート12に多数の割れが生じ、かつ、この割れが、ガラスシート12の面方向内部まで伝播してしまう。その結果、得られた複合体は、ガラスシート12の割れという欠陥を有する複合体となってしまう。このような割れの発生は、特に、ガラスシート12が薄い場合に、甚だしく生じる。
【0034】
これに対し、本発明の製造方法では、原複合体10a(すなわち複合体10)の樹脂層14は、厚さが1〜100μmで、ガラスシート12との界面からの法線方向の距離が0〜0.5μmの領域のヤング率が100MPa以上である。さらに、また、樹脂層14は、180°ピール剥離強度で1N/25mm以上の接着力で、ガラスシート12に接着される。
これにより、原複合体10aの切断時(スクライブ線18を起点とするガラスシート12のブレイク時)に、ガラスシート12に割れが生じ、かつ、ガラスシート12に応力が掛かっても、応力によって割れが広がることを、ガラスシート12に高い接着力で接着された高弾性の樹脂層14が防止する。そのため、ガラスシート12に生じた割れが面方向に伝播することを抑制できる。
また、このような樹脂層14を有することにより、スクライブ線18を形成していない位置に不要な応力が掛かってガラスシート12が割れることを防止できる。そのため、本発明の複合体の製造方法では、円形等の異形の複合体を形成することも可能である。
従って、本発明の複合体の製造方法によれば、所望のサイズや形状を有し、かつ、ガラスシート12の割れを抑制した複合体10(すなわち、ガラスシート12の有効領域に割れが無い複合体10)を、安定して製造できる。
【0035】
本発明の製造方法において、樹脂層14の厚さは、1〜100μmである。
樹脂層14の厚さが1μm未満では、樹脂層14を有することの効果を得ることができず、原複合体10aにスクライブ線18を形成する際にガラスシート12が割れ、かつ、割れが伝播する、切断時(ブレイク時)にスクライブ線18以外の領域に割れが生じる等の不都合を生じる。
また、樹脂層14の厚さが100μmを超えると、良好なフレキシブル性を有する複合体10を得ることができない、薄膜化や軽量化の要求に十分に答えることができない、スクライブ線18の形成が困難になる等の不都合を生じる。
【0036】
また、ガラスシート12の割れをより好適に抑制できる、良好なフレキシブル性を有する複合体10を得ることができる、複合体の軽量化や薄膜化を好適に図れる等の点で、樹脂層14の厚さは、10〜50μmが好ましい。
【0037】
樹脂層14は、ガラスシート12との界面からの法線方向(界面と直交する方向)の距離が0〜0.5μmの領域(すなわち、ガラスシート12側の厚さ0.5μm以下の領域)のヤング率(以下、単に『樹脂層14のヤング率』とも言う)が100MPa以上である。
樹脂層14のヤング率が100MPa未満では、原複合体10aの切断時にガラスシート12の割れが伝播する等の不都合が生じる。
【0038】
ガラスシート12の割れをより好適に抑制できる等の点で、樹脂層14のヤング率は1000MPa以上が好ましい。
【0039】
樹脂層14のヤング率の上限には、限定は無い。ここで、フレキシブル性を低下させない(曲げ剛性の向上させない)こと等を考慮すると、樹脂層14のヤング率は、50000MPa以下が好ましく、10000MPa以下がより好ましい。
【0040】
樹脂層14のヤング率は、JIS K 7127に準拠した方法で測定すればよい。
また、樹脂層14(そのガラスシート12側の厚さ0.5μm以下の領域)が複数(n個)の層で構成される場合、樹脂層14のヤング率E(ヤング率E)は、下記式(1)で計算すればよい。
E=Σ(E
k×I
k)/I・・・(1)
E
k; k番目の層の材料のヤング率
I
k; k番目の層の断面2次モーメント
k; 1〜nの整数
I; 樹脂層14におけるガラスシート12側の厚さ0〜0.5μmの領域の断面2次モーメント
式(1)から明らかなように、樹脂層14を接着剤によってガラスシート12に接着する場合で、かつ、接着剤が樹脂層14よりも柔らかい場合でも、接着剤層の厚さみが十分に薄ければ(例えば100nm以下であれば)、樹脂層14のヤング率は100MPa以上となる。
【0041】
本発明の製造方法において、樹脂層14は、180°ピール剥離強度で1N/25mm以上の接着力(以下、単に『樹脂層14の接着力』とも言う)で、ガラスシート12に接着される。
樹脂層14の接着力が1N/25mm未満では、原複合体10aの切断時にガラスシート12の割れが伝播する、原複合体10aの切断時にガラスシート12に割れが生じる等の不都合が生じる。
【0042】
ガラスシート12の割れをより好適に抑制できる等の点で、樹脂層14の接着力は、3N/25mm以上が好ましく、5N/25mm以上がより好ましい。
【0043】
また、樹脂層14の接着力の上限には、限定は無い。
【0044】
なお、樹脂層14の接着力(180°ピール剥離強度)は、JIS K 6854に準拠して測定すればよい。
【0045】
このようにして所望のサイズおよび形状に製造された、本発明による複合体10は、前述のように、例えば、PV、LCD、OLEDなどの電子デバイスの基板として利用される。
【0046】
図2に、本発明の積層体の製造方法の一例を概念的に示す。
本発明の積層体の製造方法は、前述のガラスシート12と樹脂層14とからなる原複合体10aに第2ガラスシート34を積層してなる原積層体30a(複合体の積層体)を切断して、所望のサイズや形状の積層体30を製造するものである。なお、
図2に示す例において、原複合体10aおよび第2ガラスシート34の面方向の形状は、一例として、矩形である。
ここで、
図2(A)に概念的に示すように、本発明の積層体の製造方法において、第2ガラスシート34は樹脂層14に積層される(ガラスシート12と第2ガラスシート34とで樹脂層14を挟む)。さらに、第2ガラスシート34は、樹脂層14よりもサイズが小さく、面方向に樹脂層14に内包されるように積層される。
なお、以下の積層体の製造方法では、前述の複合体の製造方法と同じ部材を用いるので、同じ部材には同じ符号を付し、説明は異なる点を主に行う。
【0047】
本発明の積層体の製造方法において、原複合体10aは、前述の
図1に示す原複合体10aと同じものである。原積層体30aは、このような原複合体10aに、第2ガラスシート34を積層、貼着(接着)してなるものである。従って、原複合体10aのガラスシート12が、本発明の積層体の製造方法における第1ガラスシートになる。
【0048】
本発明の積層体の製造方法では、第2ガラスシート34の外周に沿って原複合体10aを切断して、所望のサイズおよび形状の積層体30を製造する。従って、第2ガラスシート34のサイズおよび形状は、製造する積層体30のサイズおよび形状と同じである。
【0049】
第2ガラスシート34のガラスも、前述のガラスシート12と同様、公知の各種のガラスが利用可能であり、さらに、公知の方法で製造されたものが利用可能である。
なお、製造した積層体30が、熱処理等の加熱を伴う工程を行う用途に利用される場合には、第2ガラスシート34は、ガラスシート12と線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラスシート12と同一材料で形成されることがより好ましい。
【0050】
第2ガラスシート34の厚さは、製造する積層体30の用途に応じた厚さでよい。従って、第2ガラスシート34の厚さは、ガラスシート12と同じでも、ガラスシート12より厚くても薄くてもよい。
一例として、本発明の製造方法による積層体30は、ガラスシート12を基板(素子が形成される基板(素子基板))とするPV、LCD、OLED等の電子デバイスの製造に、利用される。この際には、第2ガラスシート34は、素子を形成される薄いガラスシート12を支持し、適正なハンドリングを可能にする支持基材(キャリア基板)として作用するのが好ましい。従って、この際には、第2ガラスシート34の厚さは、0.2〜1mmが好ましく、0.4〜0.7mmがより好ましい。
【0051】
原積層体30aの樹脂層14に第2ガラスシート34を接着する方法は、樹脂層14の形成材料に応じた、公知の各種の方法が利用可能である。
一例として、接着剤を用いる方法、真空加熱積層による方法等が例示される。
なお、第2ガラスシート34は、接着力の向上等を目的として、樹脂層14への積層に先立ち、表面に表面処理が施されたものでもよい。第2ガラスシート34の表面処理としては、先にガラスシート12の説明で例示した各種の表面処理が例示される。
なお、樹脂層14と第2ガラスシート34とは、十分な接着力を確保しつつも、必要に応じて、樹脂層14と第2ガラスシート34とが剥離できるように、接着してもよい。
【0052】
なお、本発明の積層体の製造方法は、原複合体10aに、第2ガラスシート34を積層する工程(あるいはさらに、前述の表面処理を行う工程)を含んでもよい。
【0053】
図2(B)に概念的に示すように、本発明の積層体の製造方法では、このような原積層体30aに、第2ガラスシート34の外周(外辺)に沿って(第2ガラスシート34の外周に倣って)、カッタ20によって、切断を行うためのスクライブ線18を形成する。前述のように、原複合体10aは矩形であるので、スクライブ線18は、紙面と垂直方向に延在している。
ここで、
図1に示す複合体の製造方法と同様、本発明の積層体の製造方法でも、樹脂層14にカッタ20を当てて、樹脂層14を貫通(切断)して、ガラスシート12にスクライブ線18を形成する。すなわち、ガラスシート12へのスクライブ線18の形成と同時に、樹脂層14の切断を行う。このスクライブ線18の形成は、
図1に示す複合体の製造方法と同様に行えばよい。
なお、
図2においては、第2ガラスシート34の図中横方向の両側の紙面と垂直方向に延在するスクライブ線18のみを示しているが、前述のように、第2ガラスシート34は樹脂層14に内包されているので、紙面と垂直方向の第2ガラスシート34の両側にも、図中横方向に延在するスクライブ線18を形成する。
【0054】
原積層体30a(原複合体10a)のガラスシート12にスクライブ線18を形成したら、複合体の製造と同様、
図2(C)に概念的に示すように、ガラスシート12の樹脂層14側の面に引張応力が掛かるように原複合体10aを折り曲げる。
これにより、スクライブ線18を起点にガラスシート12をブレイクして原複合体10aを切断し、
図2(D)に概念的に示すように、目的とするサイズや形状の積層体30を形成する。
ここで、前述のように、原複合体10aは、所定の厚さおよびヤング率を有する樹脂層14が、所定の接着力で接着されている。そのため、本発明の複合体の製造方法と同様、本発明の積層体の製造方法でも、ガラスシート12が薄くても、この原複合体10aの切断時に生じたガラスシート12に割れが伝播することを防止でき、さらに、円形等の異形の切断も可能である。そのため、本発明の積層体の製造方法によれば、所望のサイズおよび形状を有する、ガラスシート12の割れを抑制した積層体30(ガラスシート12の有効領域に割れが無い積層体30)を製造できる。
【0055】
本発明の製造方法においては、好ましくは、原複合体10aを切断して積層体30を形成した後、
図2(E)に概念的に示すように、積層体30の端面(側縁部)を面取りする。
積層体30の面取りは、回転する砥石を用いる方法等、ガラス板と樹脂との積層体の面取りを行う、公知の各種の方法で行えばよい。
一例として、国際公開第2012/176608号に記載される方法が例示される。この面取り方法は、円盤状もしくは円筒状の回転する砥石によって、積層体30の端面を研削して面取りするものであり、樹脂層14とガラスシート12との界面、および、樹脂層14と第2ガラスシート34との界面に対して、砥石を斜めに当接して研削を行って、積層体30の面取りを行う。好ましくは、外周面に、積層体30の端面に当接して研削する研削溝を有する砥石を用い、かつ、樹脂層14とガラスシート12との界面、および、樹脂層14と第2ガラスシート34との界面を、研削溝の最深部に対して、研削溝の幅方向(回転軸の延在方向)にオフセットするように砥石の研削溝を配置して、両界面に対して研削溝を斜めに当接して研削を行う。より好ましくは、研削溝を積層体30の端面に当接して、さらに好ましくは、研削溝を断面円弧状として、樹脂層14とガラスシート12との界面、および、樹脂層14と第2ガラスシート34との界面に、断面円弧状の部分を当接して、研削を行う。
この面取り方法によれば、研削による欠けの発生を低減して、積層体30の端面の面取りを行うことができる。
【0056】
このようにして所望のサイズおよび形状で製造された、本発明による積層体30は、前述のように、例えば、PV、LCD、OLEDなどの電子デバイスの基板として利用される。
【0057】
以上、本発明の複合体の製造方法および積層体の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行っても良いのは、もちろんである。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明を、より詳細に説明する。
【0059】
[実施例1]
ガラスシート12として、厚さ100μm、150×100mmの無アルカリガラス板(旭硝子社製、AN100)を用意した。
【0060】
次に、以下の方法で、塗布用のポリアミック酸溶液を調製した。
パラフェニレンジアミン(10.8g,0.1mol)をN,N−ジメチルアセトアミド(198.6g)に溶解させ、室温下で攪拌した。これに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(29.4g,0.1mol)を1分間で加え、室温下で2時間攪拌し、下記式(2−1)および/または式(2−2)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸を含む固形分濃度20質量%のポリアミック酸溶液を得た。
【化1】
このポリアミック酸溶液を、スピンコート法(2000rpm、塗工量10g/m
2)によって、ガラスシート12に塗布して、塗膜を形成した。その後、60℃で10分、大気中で加熱し、さらに、120℃で10分、大気中で加熱することで、塗膜を乾燥して、ガラスシート12の表面に、ポリアミック酸の膜を形成した。
さらに、大気中で350℃で1時間加熱することにより、ポリアミック酸をイミド化して、ガラスシート12の表面に、ポリイミドからなる厚さ25μmの樹脂層14を有する、原複合体10aを作製した。
【0061】
作製した原複合体10aについて、万能試験機(島津製作所製)によって、樹脂層14の接着力(180°ピール剥離強度)を測定した。その結果、樹脂層14の接着力は12N/25mmであった。
また、JIS K 7127に準拠して樹脂層14のヤング率(ガラスシート12との界面からの法線方向の距離が0〜0.5μmの領域のヤング率)を測定した。その結果、樹脂層14のヤング率は5GPaであった。なお、ヤング率は、作製した原複合体10aから樹脂層14を引き剥がして測定した。原複合体10aから樹脂層14を引き剥がせない場合には、フッ酸によってガラスシート12を溶かして、測定用の樹脂層14を得た。
【0062】
このようにして作製した原複合体10aに、ホイールカッタ(三星ダイヤモンド工業社製 ペネット)によって、樹脂層14側から、樹脂層14を貫通して、ガラスシート12に直線状のスクライブ線18を形成した。
次いで、樹脂側を凸にして原複合体10aを折り曲げ、スクライブ線18を起点にガラスシート12をブレイクして原複合体10aを切断して、複合体10を製造した。
製造した複合体10のガラスシート12について、目視および光学顕微鏡を用いて、スクライブ線18から法線方向(スクライブ線に直交する方向)に5mm以上伝播した割れを確認した。その結果、スクライブ線18から5mm以上伝播した割れは、認められなかった(破損無し)。
【0063】
[実施例2]
樹脂層14を、PES(ポリエーテルスルホン酸)からなる厚さ20μmのものに変えた以外は、実施例1と同様にして、複合体10を製造した。
PESからなる樹脂層14の形成は、以下のように行った。まず、PES(住友化学製、5003P)を20質量%でN−メチルピロリドンに溶解させて、PES溶液を作製した。このPES溶液をスピンコート法(2000rpm、塗工量10g/m
2)によって、ガラスシート12に塗布して、塗膜を形成した。その後、130℃で1時間、大気中で加熱することで、塗膜を乾燥して、PESの膜を形成した。なお、本例では、ガラスシート12のシランカップリング処理は行わなかった。
また、原複合体10aを作製した時点で、実施例1と同様に樹脂層14の接着力およびヤング率を測定した。その結果、接着力は5.4N/25mm、ヤング率は2.4GPaであった。
また、実施例1と同様に複合体10のガラスシート12を確認したところ、スクライブ線18から5mm以上伝播した割れは、認められなかった(破損無し)。
【0064】
[比較例1]
ポリアミック酸溶液の固形分濃度を10質量%として、樹脂層の厚さを0.5μmとした以外は、実施例1と同様にして、複合体を製造した。
また、原複合体を作製した時点で、実施例1と同様に樹脂層の接着力およびヤング率を測定した。その結果、接着力は10N/25mm以上を示したが、樹脂層が裂けてしまったため、正確な値は測定できなかった。また、ヤング率は5GPaであった。
また、実施例1と同様に複合体のガラスシート12を確認したところ、スクライブ線18から5mm以上伝播した割れが認められた(破損有り)。
【0065】
[比較例2]
樹脂層を、シリコーン樹脂からなる厚さ16μmのものに変えた以外は、実施例1と同様にして、複合体を製造した。
シリコーン樹脂からなる樹脂層の形成は、以下のように行った。無溶剤付加反応型剥離紙用シリコーン(信越シリコーン株式会社製、KNS−320A。オルガノアルケニルポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの混合物)100質量部と白金系触媒(信越シリコーン株式会社製 CAT−PL−56)2質量部との混合物を、スピンコート法(2000rpm、塗工量10g/m
2)によって、ガラスシート12に塗布して、塗膜を形成した。その後、180℃で30分、大気中で加熱することで、塗膜を乾燥して、シリコーン樹脂の膜を形成した。なお、本例では、ガラスシート12のシランカップリング処理は行わなかった。
また、原複合体を作製した時点で、実施例1と同様に樹脂層の接着力およびヤング率を測定した。その結果、接着力は2.7N/25mm以上、ヤング率は0.003GPaであった。
また、実施例1と同様に複合体のガラスシート12を確認したところ、スクライブ線18から5mm以上伝播した割れが認められた(破損有り)。
【0066】
[比較例3]
ガラスシート12のシランカップリング処理は行わなかった以外は、実施例1と同様にして、複合体を製造した。
また、原複合体を作製した時点で、実施例1と同様に樹脂層の接着力およびヤング率を測定した。その結果、接着力は0.1N/25mm、ヤング率は5MPaであった。
また、実施例1と同様に複合体のガラスシート12を確認したところ、スクライブ線18から5mm以上伝播した割れが認められた(破損有り)。
以上の結果を、下記の表にまとめて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
上記実施例に示されるように、樹脂層14の厚さが1〜100μmで、接着力(180°ピール剥離強度)が1N/25mm以上、ヤング率が100MPa以上である本発明の製造方法によれば、スクライブ線18によって原複合体10aを切断(ガラスシート12をブレイク)した際における割れの伝播を抑制して、ガラスシート12に5mm以上の割れが無い、高品質な複合体を製造できる。
これに対して、樹脂層が薄い比較例1、樹脂層のヤング率が低い比較例2、および、樹脂層の接着力が低い比較例3では、スクライブ線18によって原複合体10aを切断した際に、割れが伝播して、ガラスシート12に5mm以上の割れが生じた。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。