(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体用基板ガラス、特に表面に金属ないし酸化物薄膜等を形成するものでは、例えば特許文献1に示されるような以下に示す特性が要求されてきた。
(1)アルカリ金属酸化物を含有していると、空気中の水や二酸化炭素と反応して、基板表面に反応生成物が生じ、いわゆる耐候性が低下し、磁気記録層を劣化させるのでアルカリ金属イオンが少ないことが好ましい。
(2)磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程では酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用いる研磨が行われることが多い。そして、研磨後のスラリー除去の洗浄のためにpHが2以下の強酸性あるいはpHが12以上の強アルカリ性の洗浄液が使用され、これらの薬品に対して十分な化学耐久性を有すること。
(3)内部および表面に欠点(泡、脈理、インクルージョン、ピット、キズ等)がないこと。
(4)研磨あるいは洗浄後の基板表面が十分平滑であること。
(5)ハードディスクドライブの回転中の反りやたわみが発生しないために比弾性率が高いこと。
(6)割れが発生しないように高強度であること。
【0003】
上記の要求に加えて、近年では、以下のような状況にある。
(7)ハードディスクドライブ回転時のモーター負荷軽減、消費電力低減のために、磁気ディスクの軽量化が要求され、ガラス自身も密度の小さいガラスが望まれる。
(8)磁気記録媒体の軽量化の要求から、基板ガラスの薄板化が望まれる。
【0004】
(9)磁気記録層成膜時の昇降温速度を速くして、生産性を上げたり耐熱衝撃性を上げるために、ガラスの線膨張係数の小さいガラスが求められる。
【0005】
一方、磁気記録媒体用基板を製造する場合、ガラス基板の主表面を平滑に仕上げるために、該主表面が鏡面研磨される(特許文献2参照)。上記の鏡面研磨では、ガラス基板の主表面に研磨パッドを接触させ、該ガラス基板の主表面に研磨砥粒を含む、酸性(pH1〜3)の研磨液を供給し、該ガラス基板と前記研磨パッドとを相対的に移動させて該ガラス基板の主表面を研磨する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に各成分の組成範囲について説明する。SiO
2は、ヤング率を高くし、失透温度T
Lを下げ、粘性も高くならず溶解温度が上昇しない、清澄時に泡が抜けきらず気泡が混入するおそれがないため、65%(質量%、以下特記しないかぎり同じ)以下とする。また、平均熱膨張係数が低くし、失透温度T
Lを下げるため、40%以上とする。好ましくは42〜63%、さらに好ましくは44〜61%である。
【0016】
Al
2O
3は、ガラスの分相性を抑制し、平均熱膨脹係数を下げ、ガラス転移点Tgを上げ、ヤング率を高くするため、後述するコンパクションを低くするため、23.5%超とする。また、失透温度T
Lが上昇しない、粘性も高くならず溶解温度が上昇しない、清澄時に泡が抜けきらず気泡が混入するおそれがないため、30%以下とする。好ましくは24〜29%、さらに好ましくは24.5〜28%である。
【0017】
MgOは、溶解性を向上させ、ヤング率を向上させるため、2.5%以上含有させる必要がある。しかし、失透温度T
Lを下げるため、後述するコンパクションを低くするため、20%以下とする。好ましくは3〜19%、さらに好ましくは3.5%〜18%である。
【0018】
CaOは、溶解性を向上させ、MgOと共に含有することで失透の発生を抑制できるため、2%以上含有させる必要がある。しかし、平均熱膨張係数が低くするため、後述するコンパクションを低くするため、30%以下とする。好ましくは3〜29%、さらに好ましくは4〜28%である。
【0019】
SiO
2+Al
2O
3が90%以下であれば、ヤング率が高くなり、失透温度T
Lが下がり、粘性も高くならず溶解温度が上昇しない、清澄時に泡が抜けきらず気泡が混入するおそれがない。また70%以上であれば、平均熱膨張係数が低くなり、後述するコンパクションを低くできる。好ましくは72%〜88%、さらに好ましくは74%〜86%である。
【0020】
本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば以下の成分を含有してもよい。この場合の他の成分は、ヤング率の低下などを抑えるために、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、さらに好ましくは1%未満、さらにより好ましくは0.5%未満であり、特に好ましくは、実質的に、すなわち不可避的不純物を除き、含有しないことが好ましい。したがって、本発明において、SiO
2、Al
2O
3、CaO、および、MgOの合計含有量は95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましく、99.5%以上であることがさらにより好ましい。実質的に、即ち不可避的不純物を除き、SiO
2、Al
2O
3、CaO、および、MgOからなることが特に好ましい。
【0021】
B
2O
3は、ガラスの溶解反応性をよくし、また、失透温度T
Lを低下させるため5%未満含有できる。しかし、多すぎるとヤング率が低下する。したがって3%未満が好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満がさらにより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0022】
SrOは、ガラスの失透温度T
Lを上昇させず溶解性を向上させるため5%未満含有できる。しかし、多すぎると平均熱膨張係数が増加する。したがって3%未満が好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満がさらにより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0023】
BaOは、ガラスの溶解性を向上させるため5%未満含有できる。しかし、多すぎると平均熱膨張係数が増加する。したがって3%未満が好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満がさらにより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0024】
ZrO
2は、ガラスのヤング率を向上させるため3%未満含有できる。しかし、多すぎると失透温度T
Lが上昇する。したがって2%未満が好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満がさらにより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0025】
なお、本発明のガラスは、磁気記録媒体製造時にガラス表面に設ける金属ないし酸化物薄膜の特性劣化を生じさせないために、アルカリ金属酸化物を不純物レベルを超えて(すなわち実質的に)含有しないのが好ましい。また、ガラスのリサイクルを容易にするため、PbO、As
2O
3、Sb
2O
3は実質的に含有しないことが好ましい。
また本発明ではガラスの溶解性、清澄性、成形性を改善するため、ガラス原料にはZnO、SO
3、Fe
2O
3、F、Cl、SnO
2を総量で1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.3%未満、さらにより好ましくは0.1%未満含有できる。
【0026】
本発明の無アルカリガラスは、ヤング率が90GPa以上であるため、破壊靭性が向上しており、ガラス板の薄板化が求められる磁気記録媒体用基板ガラスに好適である。92GPa以上がより好ましく、94GPa以上がさらに好ましい。
【0027】
また、本発明の無アルカリガラスは、ハードディスクドライブの回転時の反りやたわみが低減し、磁気記録媒体の高密度化に対応できるため、比弾性率(ヤング率/密度)が35GPa・cm
3/g以上であることが好ましい。36GPa・cm
3/g以上がより好ましく、37GPa・cm
3/g以上がさらに好ましい。
【0028】
本発明の無アルカリガラスは、磁気記録媒体製造時の熱変形を抑えられるため、ガラス転移点Tgが740℃以上であることが好ましい。
本発明の無アルカリガラスは、ガラス転移点Tgが740℃以上であると、製造プロセスにおいてガラスの仮想温度が上昇しやすい用途(例えば、板厚0.7mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下の磁気記録媒体用ガラス基板)に適している。
板厚0.7mm以下、さらには0.5mm以下、さらには0.3mm以下、さらには0.1mm以下の板ガラスの成形では、成形時の引き出し速度が速くなる傾向があるため、ガラスの仮想温度が上昇し、ガラスの熱変形が増大しやすい。この場合、高ガラス転移点Tgのガラスであると、熱変形を抑制することができる。
【0029】
また、本発明の無アルカリガラスは、粘度ηが10
2ポイズ(dPa・s)となる温度T
2が1730℃以下であることが好ましく、より好ましくは1710℃以下、さらに好ましくは1690℃以下になっているため溶解が比較的容易である。
【0030】
また、本発明の無アルカリガラスは、粘度ηが10
4ポイズ(dPa・s)となる温度T
4が1370℃以下であることが好ましく、より好ましくは1350℃以下、さらに好ましくは1330℃以下になっているため、フロート法による成型が可能である。
【0031】
本発明において、熱変形の指標に、ガラスのコンパクションを用いることができる。
コンパクションとは、加熱処理の際にガラス構造の緩和によって発生するガラス熱収縮率である。本発明の無アルカリガラスは、コンパクションがきわめて低い。
本発明においてコンパクションとは、次に説明する方法で測定した値を意味するものとする。
初めに、対象となるガラスを1550℃〜1650℃で溶解した後、溶融ガラスを流し出し、板状に成形後冷却する。得られた板状ガラスを研磨加工して100mm×20mm×1mmのガラス板を得る。
次に、得られたガラス板をガラス転移点Tg+70℃まで加熱し、この温度で1分間保持した後、降温速度40℃/分で室温まで冷却する。その後、ガラス板の表面に圧痕を長辺方向に2箇所、間隔A(A=90mm)で打ち、処理前試料とする。
次に処理前試料を450℃まで昇温速度100℃/時間で加熱し、450℃で2時間保持した後、降温速度100℃/時間で室温まで冷却し処理後試料1とする。
そして、処理後試料1の圧痕間距離B1を測定する。
このようにして得たA、B1から下記式を用いてコンパクションC1を算出する。
C1[ppm]=(A−B1)/A×10
6
また処理前試料を600℃まで昇温速度100℃/時間で加熱し、600℃で1時間保持した後、降温速度100℃/時間で室温まで冷却し処理後試料2とする。
そして、処理後試料2の圧痕間距離B2を測定する。
このようにして得たA、B2から下記式を用いてコンパクションC2を算出する。
C2[ppm]=(A−B2)/A×10
6
【0032】
本発明の無アルカリガラスは、コンパクションC1が5ppm以下であることが好ましい。一方、コンパクションC2が50ppm以下であるあることが好ましい。好ましくは47ppm以下であり、さらに好ましくは44ppm以下である。
【0033】
本発明の無アルカリガラスは、例えば次のような方法で製造できる。通常使用される各成分の原料を目標成分になるように調合し、これを溶解炉に連続的に投入し、1550〜1650℃に加熱して溶融する。この溶融ガラスをフロート法により所定の板厚に成形し、徐冷後切断することによって板ガラスを得ることができる。
【0034】
本発明の無アルカリガラスを用いて磁気ディスク用ガラス基板を製造する場合、上記の手順で得られた板ガラスを所定の形状のガラス基板に加工した後、該ガラス基板の主表面を、研磨パッドと、研磨砥粒を含むpH7未満の研磨液と、を用いて鏡面研磨する。
本発明では、下記式(1)により導出される、ガラス成分の溶出レートf(μg・cm
-2・min
-1)が、下記式(2)を満たす条件で鏡面研磨を実施する。
【数2】
(1)
(式(1)中、f
0=7.93×10
6であり、α,βは、無アルカリガラスのSiO
2含有量wが60質量%以上の場合、α=0.0121×w−1.46,β=−0.0868×w+4.38であり、無アルカリガラスのSiO
2含有量wが60質量%未満の場合、α=0.0562×w−4.07,β=−0.381×w+21.8であり、pHは研磨液のpH値であり、γ=5.81×10
3である。)
1×10
-3≦f≦1 (2)
【0035】
上記式(1)は、本発明の無アルカリガラス、すなわち、SiO
2、Al
2O
3、MgO、および、CaOを主成分とする無アルカリガラスについて、pH7未満の研磨液に対するガラス成分の溶出レートfに及ぼす因子を、無アルカリガラスのSiO
2含有量(w)、研磨液の温度(T)、および、研磨液のpH値(pH)の3つの因子に特定し、これら特定した因子によるガラス成分の溶出レートfへの影響を定量し、定式化したものである。
上記式(1)により導出されるガラス成分の溶出レートfが、上記式(2)を満たす条件で鏡面研磨を実施することにより、ガラス基板の主表面の表面粗さの悪化を抑制できる。また、ガラス成分の溶出による、研磨液のpH値に変動を抑制し、安定した研磨加工速度が確保される。
fが、1μg・cm
-2・min
-1より大きいと、ガラス基板の主表面の表面粗さが悪化する。また、ガラス成分の溶出により、研磨液のpH値に変動が生じ、安定した研磨加工速度が確保できなくなる。
一方、fが、1×10
-3μg・cm
-2・min
-1未満の場合、研磨加工速度が著しく低下するため生産性が低下する。
本発明では、下記式(1)により導出される、ガラス成分の溶出レートf(μg・cm
-2・min
-1)が、下記式(2)を満たす条件で鏡面研磨を実施することにより、本発明に属する任意の組成の無アルカリガラスを用いて、極めて平坦度が高い磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【0036】
上記式(2)を満たす条件で鏡面研磨を実施するには、磁気ディスク用ガラス基板の製造に使用する無アルカリガラスのSiO
2含有量(w)に応じて、研磨液の温度(T)、および/または、研磨液のpH値(pH)を適宜調節すればよい。
図1は、SiO
2、Al
2O
3、MgO、および、CaOを主成分とする無アルカリガラスについて、無アルカリガラスのSiO
2含有量(w)と、ガラス成分の溶出レートfと、の関係を示したグラフである。
図1中のプロット(点)は、下記手順で求めた溶出レートの実測値である。
ガラス成分の溶出レートfは、縦および横40mm、厚さ1mmの両面を鏡面研磨したガラス基板を作製し、これを塩酸に5時間から45時間浸漬し、浸漬前後の質量差を測定することにより算出した。
なお、(模擬)研磨液としては、pH値が1の塩酸を使用した。(模擬)研磨液の温度(T)は、50℃、70℃、90℃の3通りで実施した。
図2は、
図1と同じく、無アルカリガラスのSiO
2含有量(w)と、ガラス成分の溶出レートfと、の関係を示したグラフである。但し、(模擬)研磨液の温度(T)は90℃のみとし、(模擬)研磨液のpH値は1、2、3の3通りで実施した。
図2中のプロット(点)は、上記手順で求めた溶出レートの実測値である。
【0037】
上記したガラス基板の所定の形状は、特に限定されないが、一例をあげると、中央部に円孔を有する円盤形状である。
所定の形状のガラス基板に加工した後、ガラス基板の主表面を鏡面研磨する前に、通常は、ガラス基板の上下両主平面に、遊離砥粒または固定砥粒工具を用いて研削(ラッピング)加工する。また、ガラス基板の形状が、中央部に円孔を有する円盤形状の場合、ガラス基板の内周端面および外周端面を研磨する。
【0038】
ガラス基板の主表面の鏡面研磨には、たとえば、
図3に示す両面研磨装置を使用できる。この両面研磨装置20は、上下に対向して配置された上定盤201と下定盤202、およびこれらの間に配設されたキャリア30を有する。キャリア30は、その保持部に複数枚のガラス基板10を保持している。上定盤201と下定盤202のガラス基板10と対向する面には、それぞれ樹脂等からなる研磨パッド40、50が装着されている。
【0039】
図3に示す両面研磨装置20を用いたガラス基板の主表面の鏡面研磨は以下の手順で実施される。
キャリア30の保持部にガラス基板10が保持された状態で、上側の研磨パッド40の研磨面と、下側の研磨パッド50の研磨面との間にガラス基板10を狭持する。研磨パッド40、50の研磨面は、研磨対象物であるガラス基板10に接する面をいう。
上側および下側の研磨パッド40、50の研磨面を、それぞれガラス基板10の両主表面に押し付けた状態で、ガラス基板10の両主表面に、研磨砥粒を含むpH7未満の研磨液を供給するとともに、キャリア30を自転させながらサンギア203の周りを公転させ、かつ上定盤201と下定盤202をそれぞれ所定の回転数で回転させることで、ガラス基板10の両主表面が同時に鏡面研磨される。
【0040】
研磨パッドとしては、軟質または硬質の発泡樹脂からなるものが好ましく、特に軟質発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドが好ましい。
【0041】
研磨液としては、研磨砥粒として平均一次粒子径が1〜80nmのシリカ粒子を含有することが好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径は研磨速度を維持するために1nm以上が好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、研磨により得られる主平面の表面粗さを小さく適正な値とするために80nm以下が好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、1〜60nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲がさらに好ましく、1〜40nmの範囲が特に好ましい。なお、この平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布計、動的光散乱方式の粒度分布測定装置、または電子顕微鏡を用いて測定できる。
【0042】
研磨液に含有されるシリカ粒子は、一部が凝集粒子(二次あるいは三次粒子)として存在してもよい。研磨液中のシリカ粒子の平均粒子径は、動的光散乱方式の粒度分布測定機(例えば、日機装株式会社製、製品名:UPA−EX150)を用いて測定することができるが、こうして測定されたシリカ粒子の平均粒子径(D
50)は、一次粒子径と二次以上の粒子径を測定したものとなる。こうして測定される研磨液中のシリカ粒子の平均粒子径(D
50)は、10〜40nmの範囲であることが好ましい。なお、D
50は、体積基準累積50%粒径である。すなわち、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、累積値が50%となる点の粒径である。
【0043】
研磨液には、研磨砥粒の分散媒として水が含有される。水については特に制限はないが、後述する他の成分に対する影響、不純物の混入、pH等への影響の少なさの点から、純水、超純水、イオン交換水等を使用することが好ましい。そして、研磨砥粒がシリカ粒子の場合、研磨液におけるシリカ粒子の含有割合(濃度)は、3〜30質量%とすることが好ましい。シリカ粒子の含有割合が3質量%未満の場合には、十分な研磨速度を得ることが難しい。また、含有割合が30質量%を超えると、後述する手順で研磨液のpH値を7未満に調整した際に、シリカ粒子が凝集しやすくなる。シリカ粒子の含有割合は、5〜25質量%がより好ましく、7〜20質量%がさらに好ましく、10〜18質量%が特に好ましい。
【0044】
本発明において、pH値が7未満の研磨液を使用する理由は、pH値が7以上の研磨液を使用した場合には、研磨速度が低くなり、十分な生産性を上げることができないからである。研磨液のpH値は、上述したように、上記式(2)を満たす条件で鏡面研磨を実施するために適宜調整されるが、pH値が0.5〜6の範囲が好ましく、pH値が0.5〜5の範囲がより好ましく、pH値が1〜4.5の範囲が特に好ましい。
【0045】
研磨液のpH値を7未満とするため、研磨砥粒の分散媒としての水は、無機酸または有機酸を含有する。
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、フッ酸等が挙げられる。なかでも、硫酸または塩酸は入手が容易であり、使用者、環境等への影響が少ないため好ましい。
有機酸としては、アスコルビン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸およびフタル酸等を挙げることができる。また、有機酸としては、カルボン酸基を有するカルボン酸を好ましく使用することができる。カルボン酸基を2以上有する2価以上の多価カルボン酸がより好ましい。2価以上の多価カルボン酸は、錯形成作用により、研磨速度を向上させるとともに、砥粒の凝集を抑制して研磨キズの発生を抑える働きをする。すなわち、2価以上の多価カルボン酸は、ガラス基板の鏡面研磨の際に発生する金属イオンを捕捉して錯体(キレート)を形成することで、研磨速度の上昇に寄与するとともに、シリカ粒子の凝集を抑制する働きをする。
2価以上の多価カルボン酸として具体的には、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸およびフタル酸等が挙げられる。特に、クエン酸が好ましい。
【0046】
ガラス基板の主表面の表面粗さが所定値に達した時点で鏡面研磨を終了する。
目標とする表面粗さは、例えば、算術平均粗さ(Ra)が0.4nm以下であり、最大山高さ(Rp)が2nm以下である。算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは0.2nm 未満である。最大山高さ(Rp)は、好ましくは1.5nm以下である。
【0047】
鏡面研磨後のガラス基板の洗浄(例えば、精密洗浄)を行い、磁気ディスク用ガラス基板を得る。鏡面研磨後のガラス基板の洗浄では、例えば、洗剤を用いたスクラブ洗浄を行った後、洗剤溶液へ浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行う。洗浄後の乾燥は、例えば、イソプロピルアルコール蒸気による蒸気乾燥により行う。こうして得られた磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、磁性層などの薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【実施例】
【0048】
以下において例
2、3、5〜10、13〜16は実施例、
例1、4、11、12は参考例、例17〜19は比較例である。各成分の原料を目標組成になるように調合し、白金坩堝を用いて1550〜1650℃の温度で溶解した。溶解にあたっては、白金スターラを用い撹拌しガラスの均質化を行った。次いで溶解ガラスを流し出し、板状に成形後徐冷した。
【0049】
表1〜3には、ガラス組成(単位:質量%)と、密度ρ(g/cm
3)、ヤング率E(GPa)(超音波法により測定)、比弾性率E/ρ(GPa・cm
3/g)、ガラス転移点Tg(単位:℃)、ガラス粘度ηが10
2ポイズとなる温度T
2(単位:℃)、ガラス粘度ηが10
4ポイズとなる温度T
4(単位:℃)、および、コンパクションC1、C2(上述した方法により測定、単位:ppm)を示す。
なお、表1〜3中、括弧書で示した値は計算値である。
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表から明らかなように、実施例のガラスはいずれも、ヤング率が90GPa以上と高く、比弾性率が35GPa・cm
3/g以上であり、ガラス転移点Tgが740℃以上である。また、T
2が1730℃以下であり、T
4が1370℃以下である。また、コンパクションC1が5ppm以下であり、コンパクションC2が50ppm以下である。
【0053】
例4、12については、段落[0035]に記載する手順でガラス成分の溶出レートを測定した。なお、(模擬)研磨液のpH値が、(模擬)研磨液の温度(T)、および、ガラス成分の溶出レートの測定値はそれぞれ以下の通りである。なお、これらの場合の無アルカリガラスのSiO
2含有量(w)、研磨液の温度(T)および研磨液のpH値(pH)を式(1)に適用して導出されるガラス成分の溶出レートfも示す。
例4−1
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:50℃
ガラス成分の溶出レート:6.6μg・cm
-2・min
-1
f:5.7μg・cm
-2・min
-1
例4−2
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:70℃
ガラス成分の溶出レート:21.9μg・cm
-2・min
-1
f:15.9μg・cm
-2・min
-1
例4−3
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:61.7μg・cm
-2・min
-1
f:40μg・cm
-2・min
-1
例4−4
(模擬)研磨液のpH値:2
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:2.6μg・cm
-2・min
-1
f:2.1μg・cm
-2・min
-1
例4−5
(模擬)研磨液のpH値:3
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:4.9×10
-2μg・cm
-2・min
-1
f:0.1μg・cm
-2・min
-1
例12−1
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:50℃
ガラス成分の溶出レート:4.6μg・cm
-2・min
-1
f:3.8μg・cm
-2・min
-1
例12−2
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:70℃
ガラス成分の溶出レート:15.4μg・cm
-2・min
-1
f:10.9μg・cm
-2・min
-1
例12−3
(模擬)研磨液のpH値:1
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:45.8μg・cm
-2・min
-1
f:27.8μg・cm
-2・min
-1
例12−4
(模擬)研磨液のpH値:2
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:1.6μg・cm
-2・min
-1
f:1.53μg・cm
-2・min
-1
例12−5
(模擬)研磨液のpH値:3
研磨液の温度:90℃
ガラス成分の溶出レート:5.8×10
-2μg・cm
-2・min
-1
f:0.08μg・cm
-2・min
-1
【0054】
例4のガラスを用いて作製されるガラス基板について、
図3に示す両面研磨装置20を用いて、ガラス基板の両主表面を鏡面研磨する。研磨砥粒として、平均一次粒子径が30
nmのシリカ粒子を使用し、分散剤として、pH値が3の塩酸を使用する。研磨液におけるシリカ粒子の含有割合(濃度)は、10質量%であり、研磨液の温度(T)は90℃である。軟質発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドを使用し、ガラス基板の両主表面の算術平均粗さ(Ra)が0.4nm以下、最大山高さ(Rp)が2nm以下となるまで鏡面研磨する。
例4のガラスを用いて作製されるガラス基板について、上記と同様の手順でガラス基板の両主表面を鏡面研磨する。但し、研磨液のpH値および温度(T)は、例4−1〜4−4の条件とする。鏡面研磨後のガラス基板は両主表面の表面粗さが悪化し、算術平均粗さ(Ra)が0.4nm超、最大山高さ(Rp)が2nm超となる。
例12のガラスを用いて作製されるガラス基板について、上記と同様の手順でガラス基板の両主表面を、該両主表面の算術平均粗さ(Ra)が0.4nm以下、最大山高さ(Rp)が2nm以下となるまで鏡面研磨する。なお、研磨液のpH値および温度(T)は、例12−5の条件である。
例12のガラスを用いて作製されるガラス基板について、上記と同様の手順でガラス基板の両主表面を鏡面研磨する。但し、研磨液のpH値および温度(T)は、例12−1〜12−4の条件とする。鏡面研磨後のガラス基板は両主表面の表面粗さが悪化し、算術平均粗さ(Ra)が0.4nm超、最大山高さ(Rp)が2nm超となる。