特許第6299543号(P6299543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299543抵抗率制御方法及び追加ドーパント投入装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299543
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】抵抗率制御方法及び追加ドーパント投入装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   C30B29/06 502H
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-190199(P2014-190199)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-60667(P2016-60667A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−226897(JP,A)
【文献】 特開2014−125402(JP,A)
【文献】 特表2014−511146(JP,A)
【文献】 特開2012−148949(JP,A)
【文献】 特開平07−309693(JP,A)
【文献】 特開2002−226295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法によってシリコン単結晶を育成する際に、育成されるシリコン単結晶の抵抗率をドーパントによって制御する方法であって、前記シリコン単結晶が所定の導電型を有するように主ドーパントを初期ドーピングする工程と、前記シリコン単結晶を育成しながら、(結晶化した重量)/(初期シリコン原料の重量)で表される固化率に応じて、前記主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープする工程とを有する抵抗率制御方法において、
シリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加した場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の前記主ドーパントを追加した後に、シリコン単結晶の再育成を行うことを特徴とする抵抗率制御方法。
【請求項2】
前記副ドーパントの偏析係数が、前記主ドーパントの偏析係数よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の抵抗率制御方法。
【請求項3】
1本目のシリコン単結晶を育成した後、原料を追加チャージして2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返すマルチプーリング工程をさらに有し、
前記2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返す工程は、
それまでのシリコン単結晶の育成において追加ドープされた前記副ドーパントの量を考慮して、前記主ドーパントを加える段階と、
シリコン単結晶を育成しながら、前記固化率に応じて、前記副ドーパントを連続的または断続的に追加ドープする段階と
を有する請求項1又は請求項2に記載の抵抗率制御方法において、
2本目以降のシリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、2本目以降の当該シリコン単結晶の育成において、当該シリコン単結晶の育成を中断するまでに前記副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の前記主ドーパントを追加した後に、2本目以降の当該シリコン単結晶の再育成を行うことを特徴とする抵抗率制御方法。
【請求項4】
前記副ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記副ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤を、育成中のシリコン単結晶とルツボ壁との間の領域のシリコン融液へ挿入又は投入することで、前記副ドーパントを追加ドープすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抵抗率制御方法。
【請求項5】
前記主ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記主ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液へ挿入又は投入することで、シリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する際に、前記主ドーパントを追加することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の抵抗率制御方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の抵抗率制御方法で用いられる追加ドーパント投入装置であって、
前記副ドーパント又は前記主ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記副ドーパント又は前記主ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液へ挿入又は投入する装置を、前記主ドーパント用及び前記副ドーパント用にそれぞれ1つ以上備えていることを特徴とする追加ドーパント投入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZ法によって育成されるシリコン単結晶の抵抗率制御方法、この抵抗率制御方法において用いられる追加ドーパント投入装置、並びに、この抵抗率制御方法を用いて抵抗率が制御されたn型シリコン単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などパワー用などに用いられるスイッチングデバイスでは主にn型単結晶が用いられる。従来は抵抗率制御が比較的容易なEPW(エピタキシャルウェーハ)やFZ−PW(FZ法により製造されたウェーハ)が用いられてきた。しかしEPWはCZ−PW(CZ法により製造されたウェーハ)に比較して余分な工程(エピタキシャル成長工程)が含まれるため高価なウェーハであるし、FZ法は結晶径を大きくすることが容易ではないという問題があり、CZ−PWにエピタキシャル層を積まずにそのまま使うCZ−PWが注目されつつある。しかしCZ法により製造されたシリコン単結晶では偏析現象があり軸方向(引上げ軸方向)の抵抗率分布を均一にすることが難しい。
【0003】
これを解決できる方法として、特許文献1、2に、主ドーパントと主ドーパントと反対極性で偏析係数の小さい副ドーパントを添加する(すなわち、カウンタードープする)方法が開示されている。この方法を用いることによって、CZ単結晶の軸方向抵抗率分布を改善することが可能である。ただし、n型単結晶の製造において最も良く用いられるドーパントはリン(P)であり、その偏析係数は0.35程度である。これに対して反対極性であってリン(P)の偏析係数より偏析係数が小さい元素はGa、In、Alなどである。これらの元素は重金属であり、例えば酸化膜中に含まれると、酸化膜の電気的特性が劣化するとの報告もあり、デバイス特性にどう影響するかよく判っていない。このため、p型ドーパントとしてはB(ボロン)が主流であり、デバイスを作製する上で広く用いられている元素なので、可能であれば反対極性の元素としてデバイスを作製する上で広く用いられているボロン(B)を用いることが好ましい。しかしボロン(B)の偏析係数は0.78程度と、リン(P)より偏析係数が大きく、上述の技術を用いることができない。
【0004】
この点を解決可能な手段として、特許文献3に、主ドーパントのリン(P)に対してボロン(B)を連続的に添加する方法が開示されている。この方法を用いれば主ドーパントをリン(P)とし、副ドーパントをボロン(B)としたカウンタードープにより軸方向抵抗率分布を改善したn型単結晶を製造可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−128591号公報
【特許文献2】特開2004−307305号公報
【特許文献3】特開平3−247585号公報
【特許文献4】特開平10−029894号公報
【特許文献5】特開平6−234592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示された方法では単結晶が有転位化してしまった場合に、再溶融できないという問題があった。通常CZ法(MCZ法を含む)における単結晶製造では、何らかの要因で単結晶化が阻害され、有転位化が発生してしまうことが、しばしば起こる。有転位化が発生すると、有転位部で発生した転位が、すでに単結晶化しているがまだ高温の状態にある部分に滑っていくスリップバックと呼ばれる現象が起こる。このため、有転位化が発生した長さからスリップバックした長さを差し引いた長さしか、単結晶を得ることができない。更に単結晶のトップ部は抵抗率以外の品質、例えば酸素濃度やGrown−in欠陥特性などが、規格値に入らない部分があるので、一般的にトップ部からある程度の長さ以上の部分が製品向けに設定されている。従って、単結晶が比較的短い長さで有転位化が発生した場合には、トップ部の製品に向かない部分と、スリップバックとによって、全く製品が取れないことになる。このため、有転位化した結晶を原料融液(シリコン融液)中に沈めて再溶融してしまい、再度単結晶製造をやり直すことが行われている。特許文献3の方法を用いた場合、有転位化が発生した時点では、すでに反対極性のドーパントが単結晶及び原料融液中に含まれているので、これを再溶融してしまうと、主ドーパントが不足した状態となってしまい、製品を得ることができなくなる。従って、有転位化した部分までを原料融液から切り離して取り出し、廃棄処分することとなり、歩留まりが大きく低下するという問題点があった。
【0007】
その他に、特許文献4ではルツボの底部に反対極性のドーパントを収容しておき、抵抗率が下がってしまう前にこれらを溶出させる方法が開示されている。しかしこの方法は、固化率や単結晶長さに対して制御するのではなく、ルツボの溶解量に対して制御するものである。ルツボの溶解は再溶融中においても進行してしまうので、再溶融してしまうと添加すべきドーパントが狙いの位置より早く溶け出してしまうことになり、抵抗率が高くなってしまう。従って、この方法においてもやはり再溶融することはできない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、CZ法によるシリコン単結晶育成を中断し、育成されたシリコン単結晶を再溶融し、シリコン単結晶を再育成する場合に、歩留まりの低下を抑制でき、かつ、シリコン単結晶の抵抗率を精度よく制御することができる抵抗率制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、CZ法によってシリコン単結晶を育成する際に、育成されるシリコン単結晶の抵抗率をドーパントによって制御する方法であって、前記シリコン単結晶が所定の導電型を有するように主ドーパントを初期ドーピングする工程と、前記シリコン単結晶を育成しながら、(結晶化した重量)/(初期シリコン原料の重量)で表される固化率に応じて、前記主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープする工程とを有する抵抗率制御方法において、シリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の前記主ドーパントを追加した後に、シリコン単結晶の再育成を行うことを特徴とする抵抗率制御方法を提供する。
【0010】
このように、再溶融する時に、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合に主ドーパントを追加することで、製品部のトップ部から抵抗率が規格内に入り、シリコン単結晶から製品となる部分を引上げ軸方向の規定の長さ通り得ることができる。また、副ドーパントの溶解量を固化率に応じて制御しながら入れるので、育成するシリコン単結晶の抵抗率を正確に制御することができる。
【0011】
このとき、前記副ドーパントの偏析係数が、前記主ドーパントの偏析係数よりも大きいことが好ましい。
主ドーパント及び副ドーパントの偏析係数が上記のような関係にある場合に、本発明を好適に適用することができる。
【0012】
このとき、1本目のシリコン単結晶を育成した後、原料を追加チャージして2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返すマルチプーリング工程をさらに有し、前記2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返す工程が、それまでのシリコン単結晶の育成において追加ドープされた前記副ドーパントの量を考慮して、前記主ドーパントを加える段階と、シリコン単結晶を育成しながら、前記固化率に応じて、前記副ドーパントを連続的または断続的に追加ドープする段階とを有することができ、このような抵抗率制御方法においても、2本目以降のシリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、2本目以降の当該シリコン単結晶の育成において、当該シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加した場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の前記主ドーパントを追加した後に、2本目以降の当該シリコン単結晶の再育成を行うことができる。
【0013】
このように、1つのルツボから複数本のシリコン単結晶を育成するマルチプーリング法においても、本発明を適用することができる。
【0014】
このとき、前記副ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記副ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤を、育成中のシリコン単結晶とルツボ壁との間の領域のシリコン融液へ挿入又は投入することで、前記副ドーパントを追加ドープすることができる。
副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープする方法として、このような方法を好適に用いることができる。
【0015】
このとき、前記主ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記主ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液へ挿入又は投入することで、シリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する際に、前記主ドーパントを追加することができる。
再溶融した際に主ドーパントを追加する方法として、このような方法を好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明は、上記の抵抗率制御方法で用いられる追加ドーパント投入装置であって、前記副ドーパント又は前記主ドーパントを含むシリコン細棒、又は、前記副ドーパント又は前記主ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液へ挿入又は投入する装置を、前記主ドーパント用及び前記副ドーパント用にそれぞれ1つ以上備えていることを特徴とする追加ドーパント投入装置を提供する。
【0017】
上記の抵抗率制御方法を実施する際に、このような追加ドーパント投入装置を好適に用いることができる。
【0018】
さらに、本発明は、上記の抵抗率制御方法を用いて抵抗率が制御され、前記主ドーパントがP(リン)であり、前記副ドーパントがB(ボロン)であり、シリコン単結晶中のリン濃度Nとシリコン単結晶中のボロン濃度Nとの差N−Nが、1.4×1012atoms/cm以上、1.4×1015atoms/cm以下であり、抵抗率が3Ω・cm以上、3000Ω・cm以下であることを特徴とするn型シリコン単結晶を提供する。
【0019】
このようなn型シリコン単結晶であれば、高品質であり、良好な歩留まりで製造されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、例えば、育成単結晶が有転位化して、再溶融する必要が生じた場合に、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加することで、育成したシリコン単結晶の抵抗率が当初の狙い通りとなり、シリコン単結晶から製品となる部分を引上げ軸方向の規定の長さ通り得ることができ、また、副ドーパントの溶解量を固化率に応じて制御しながら入れるので、育成するシリコン単結晶の抵抗率を正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の抵抗率制御方法の実施態様の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の抵抗率制御方法を実施するときに用いられるCZ単結晶育成装置の一例を示す図である。
図3】実施例1で育成したシリコン単結晶の抵抗率と固化率との関係を示すグラフである。
図4】実施例2で育成したシリコン単結晶の抵抗率と固化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
上述のように、CZ−PWにエピタキシャル層を積まずにそのまま使うCZ−PWが注目されつつあるが、CZ法により製造されたシリコン単結晶では偏析現象があり軸方向(引上げ軸方向)の抵抗率分布を均一にすることが難しい。一方、特許文献3に、主ドーパントP(リン)に対してB(ボロン)を連続的に添加する方法が開示されおり、この方法を用いれば主ドーパントをP(リン)とし、副ドーパントをB(ボロン)としたカウンタードープにより軸方向抵抗率分布を改善したn型結晶を製造可能である。しかしながら、特許文献3に開示された方法では単結晶が有転位化してしまった場合に、再溶融できないという問題があった。すなわち、特許文献3の方法を用いた場合、有転位化が発生した時点では、すでに反対極性の副ドーパントが単結晶及び原料融液中に含まれているので、これを再溶融してしまうと、主ドーパントが不足した状態となってしまい、所望の抵抗率を有する製品を得ることができなくなる。従って、有転位化した部分までを原料融液から切り離して、取り出し廃棄処分することとなり、歩留まりが大きく低下するという問題点があった。
【0024】
そこで、発明者らは、CZ法によるシリコン単結晶育成を中断し、育成されたシリコン単結晶を再溶融し、シリコン単結晶を再育成する場合に、歩留まりの低下を抑制でき、かつ、シリコン単結晶の抵抗率を精度よく制御することができる抵抗率制御方法について鋭意検討を重ねた。その結果、シリコン単結晶を再育成する前に、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加することで、育成したシリコン単結晶の抵抗率が当初の狙い通りとなり、シリコン単結晶から製品となる部分を引上げ軸方向の規定の長さ通り得ることができ、また、副ドーパントの溶解量を固化率に応じて制御しながら入れるので、育成するシリコン単結晶の抵抗率を正確に制御することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0025】
ここで偏析現象と固化率に関して簡単に説明する。シリコンが固化(結晶化)する際には、融液中の不純物は結晶中に取り込まれにくい。この時の融液中の不純物濃度に対する結晶中に取り込まれる不純物濃度の比、すなわち、(結晶中に取り込まれる不純物濃度)/(融液中の不純物濃度)を偏析係数kという。従って、ある瞬間の結晶中の不純物濃度Cはその時の融液中の不純物濃度CとC=k×Cという関係である。kは一般に1より小さい値であり、従って結晶中に取り込まれる不純物濃度は、融液中の不純物濃度よりも低い。結晶成長は連続的に行なわれるので不純物は融液中に多く残されることとなり、融液中の不純物濃度は徐々に高くなる。これに伴い結晶中の不純物濃度も高くなり、その濃度Cを、初期の原料の重量に対する結晶化した重量を比率で表した固化率x、初期の融液中不純物濃度CL0を用いるとC(x)=CL0×k×(1−x)(k−1)と表される。従って、結晶の直胴部分の長さが長くなり固化率xが大きくなるに伴って、結晶中の不純物濃度は高くなり、抵抗率が低下する。この抵抗率が低下して、規格を下回ってしまうのを防ぐために、連続的または断続的に固化率に対して副ドーパントのドープ量を適切な量に調整しながら追加ドープすることが必要である。しかしながら、有転位化した際に育成したシリコン単結晶を再溶融すると、それまでに追加ドープした副ドーパントが、原料融液中及びシリコン単結晶中に含まれている。このため、そのまま何もせずにシリコン単結晶を再育成すると、追加ドープした副ドーパントの分だけ抵抗率が高くなってしまい、規格を満足しない可能性がある。そこでシリコン単結晶の育成を開始するまでに製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加してから、シリコン単結晶の育成を行うことにした。このとき、シリコン単結晶の再溶融を複数回繰り返し行った場合は、直近の再溶融前のシリコン単結晶の育成において、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加した場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加してから、シリコン単結晶の再育成を行う。
【0026】
なお、このような単結晶育成中に連続的または断続的に副ドーパントを追加する方法を適用するのは、副ドーパントの偏析係数が主ドーパントの偏析係数よりも大きい場合により適している。もちろん、主ドーパントと反対極性を持つ副ドーパントの偏析係数が、主ドーパントの偏析係数より小さい場合にも本発明を適用することは可能である。しかしながら、単結晶の育成中に副ドーパントを追加ドープすることは、その行為によって有転位化を引き起こす危険性も持っている。特許文献1、2には、副ドーパントの偏析係数が主ドーパントの偏析係数より小さい場合、副ドーパントを初期にのみ投入しても、軸方向の均一性を高められることが開示されている。そのため、本発明を適用する対象として、抵抗率の制御がより難しい、副ドーパントの偏析係数が主ドーパントの偏析係数よりも大きい場合がより適している。また、主ドーパントとして、リン(P)を用いた場合に、偏析係数がリン(P)より大きく、重金属ではないボロン(B)を副ドーパントとして用いることができる点でも、本発明を適用する対象として、副ドーパントの偏析係数が主ドーパントの偏析係数よりも大きい場合がより適している。
【0027】
以下、図2を参照しながら、本発明の抵抗率制御方法を実施するときに用いられるCZ単結晶育成装置の一例を説明する。
【0028】
図2に示すように、CZ単結晶育成装置100は、原料多結晶シリコンを収容して溶融するための部材や、熱を遮断するための断熱部材などを有しており、これらは、メインチャンバー1内に収容されている。メインチャンバー1の天井部(トップチャンバー11)に、そこから上に延びる引上げチャンバー2が連接されており、この上部に単結晶棒(シリコン単結晶)3をワイヤーで引上げる機構(不図示)が設けられている。
【0029】
メインチャンバー1内には、溶融された原料融液(シリコン融液)4を収容する石英ルツボ5とその石英ルツボ5を支持する黒鉛ルツボ6が設けられ、これらのルツボ5、6は駆動機構(不図示)によって回転昇降自在にルツボ軸で支持されている。そして、ルツボ5、6を囲繞するように、原料を溶融させるための加熱ヒーター7が配置されている。この加熱ヒーター7の外側には、断熱部材8がその周囲を取り囲むように設けられている。
【0030】
また、引上げチャンバー2の上部にガス導入口10が設けられており、アルゴンガス等の不活性ガスが導入され、メインチャンバー1の下部のガス流出口9から排出されるようになっている。さらに原料融液4と対向するように遮熱部材13が設けられ、原料融液4の表面からの輻射をカットするとともに原料融液4の表面を保温するようにしている。
【0031】
さらに、原料融液4の上方には、ガスパージ筒12が設けられ、ガス導入口10から導入された不活性ガスにより単結晶棒3の周囲をパージすることができる構成になっている。
【0032】
トップチャンバー11には、第1の細棒挿入機14が設けられ、副ドーパントを追加ドープするときに、副ドーパントを含む第1細棒結晶(第1シリコン細棒)15を原料融液4中に挿入できる構成になっている。
また、トップチャンバー11には、第2の細棒挿入機16が設けられ、主ドーパントを追加するときに、主ドーパントを含む第2細棒結晶(第2シリコン細棒)17を原料融液4中に挿入できる構成になっている。
【0033】
次に、図1、2を参照しながら、本発明の抵抗率制御方法を説明する。
まず、育成するシリコン単結晶が所定の導電型を有するように主ドーパントを初期ドーピングする(図1のS11参照)。
【0034】
具体的には、シリコン単結晶3の育成を開始する前に、シリコン単結晶3が所定の導電型を有するように主ドーパントを原料融液4の中に投入する。主ドーパントは、n型シリコン単結晶を育成する場合は、例えばリン(P)を用いることができる。この主ドーパントの投入は、予め原料多結晶シリコンとともに石英ルツボ5内に入れていてもよいし、原料融液4に主ドーパントを投入するようにしてもよい。
【0035】
次に、(結晶化した重量)/(初期シリコン原料の重量)で表される固化率に応じて、主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープしながら、シリコン単結晶を育成する(図1のS12参照)。
【0036】
具体的には、固化率(例えば、直胴部分Aの長さ)に応じて、副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープしながら、シリコン単結晶3を育成する。副ドーパントは、主ドーパントとしてリン(P)を用いた場合には、例えば、ボロン(B)を用いることができる。前述したようにシリコン単結晶の長さが長くなり固化率が大きくなるに伴って、抵抗率が低下するので、抵抗率が規格を下回ってしまうのを防ぐために、連続的または断続的に固化率に対して副ドーパントのドープ量を適切な量に調整しながら追加ドープする。
なお、シリコン単結晶3の育成は、CZ法を用いて行われる。ここでCZ法とは、磁場を印加するいわゆるMCZ法も含まれる。
【0037】
次に、直胴部分Aの長さが所定の範囲内で有転位化した場合には、S13へ進み、シリコン単結晶の育成を中断し、育成したシリコン単結晶を再溶融し、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加する(図1のS13参照)。
なお、直胴部分Aの長さが所定の範囲より長くなってから有転位化した場合、及び、有転位化が起こらなかった場合には、S14へ進み、シリコン単結晶育成を終了し、シリコン単結晶を取り出す(図1のS14参照)。
ここで、直胴部分Aの長さが所定の範囲とは、スリップバック等により製品部分の長さが短くなり、再溶融が適当であると判断される範囲である。
【0038】
具体的には、シリコン単結晶3の育成中に有転位化が生じた場合、スリップバックと呼ばれる現象が起こることにより、歩留まりが低下する(すなわち、製品として取れる直胴部分の長さが減少する)ため、シリコン単結晶の育成を中断し、育成したシリコン単結晶を再溶融することがある。このとき、そのまま何もせずにシリコン単結晶3を再育成すると、それまでに追加ドープした副ドーパントの分だけ抵抗率が高くなってしまい、規格を満足しない可能性がある。そこでシリコン単結晶3の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加する。
なお、この主ドーパントの追加は、シリコン単結晶3の再育成を開始する前であればどのタイミングでもよいが、再溶融前、再溶融中、再溶融後のいずれかのタイミングであれば、実際にシリコン結晶を育成している近傍に主ドーパントを投入する必要が無いので、この主ドーパント投入に起因する有転位化を防止することができる。
【0039】
次に、S12へ戻り、固化率に応じて、副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープしながら、シリコン単結晶を育成する(図1のS12参照)。
【0040】
具体的には、シリコン単結晶3の再育成を開始し、固化率(例えば、直胴部分Aの長さ)に応じて、副ドーパントを連続的又は断続的に追加ドープしながら、シリコン単結晶3を育成する。
【0041】
この場合、副ドーパントの偏析係数が、主ドーパントの偏析係数よりも大きいことが好ましい。偏析係数が上記のような関係にある場合に、本発明を好適に適用することができる。
【0042】
1本目のシリコン単結晶を育成した後、原料を追加チャージして2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返すマルチプーリング工程をさらに有し、2本目以降のシリコン単結晶の育成を繰り返す工程が、それまでのシリコン単結晶の育成において追加ドープされた副ドーパントの量を考慮して、主ドーパントを加える段階と、シリコン単結晶を育成しながら、固化率に応じて、副ドーパントを連続的または断続的に追加ドープする段階とを有することができ、このような抵抗率制御方法においても、2本目以降の当該シリコン単結晶の育成を中断して、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、2本目以降の当該シリコン単結晶の育成において、当該シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加ドープした場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の前記主ドーパントを追加した後に、2本目以降の当該シリコン単結晶の再育成を行うことができる。
【0043】
このように、1つのルツボから原料を追加チャージすることで複数本のシリコン単結晶を育成するマルチプーリング法において本発明を適用する場合、2本目以降のシリコン単結晶の育成を開始する時点で、原料融液4の中に副ドーパントが含まれているので、これから育成する単結晶には、主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントが単結晶トップから含まれてしまう。そこで単結晶トップで含まれる副ドーパントの濃度、つまり副ドーパントの原料融液4中の濃度に副ドーパントの偏析係数を掛けた分の濃度を相殺する分の主ドーパントを追加した上で、狙うべき抵抗率に相当する主ドーパントの量に調整する必要がある。
このように主ドーパントの濃度が調整された原料融液4からシリコン単結晶3を育成する際にも、固化率に応じた適正な量の副ドーパントを連続的または断続的に追加ドープする。このような抵抗率制御方法においても、シリコン単結晶の育成を中断して、育成した結晶を再溶融してシリコン単結晶を再育成する場合には、シリコン単結晶の育成を中断するまでにドープした副ドーパントを相殺する分の主ドーパントを追加してから、再度単結晶の製造を行うことが好ましい。
このようにすれば、その前のシリコン単結晶の育成において副ドーパントが追加されているマルチプーリング法において、2本目以降のシリコン単結晶の育成の際に再溶融を行った場合に、2本目以降のシリコン単結晶の抵抗率を正確に制御することができる。
このとき、シリコン単結晶の再溶融を複数回繰り返して行った場合は、直近の再溶融前のシリコン単結晶の育成において、シリコン単結晶の育成を中断するまでに副ドーパントを追加した場合は、製品部のトップ側の抵抗率が規格内に入る量の主ドーパントを追加してから、シリコン単結晶の再育成を行う。
【0044】
この場合、固化率に応じた適切な量の副ドーパントを追加ドープする方法としては、副ドーパントを含むシリコン細棒を育成中のシリコン単結晶3とルツボ壁との間の原料融液4へ挿入する方法、又は、副ドーパントを含むシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤を育成中のシリコン単結晶3とルツボ壁との間の原料融液4へ投入する方法を用いることができる。
このような方法を用いれば、固化率に応じて適切な量を追加ドープすることが可能である。例えば、シリコン細棒15を育成中のシリコン単結晶3とルツボ壁との間の原料融液4へ挿入する場合には、炉内圧を保てるように密閉してトップチャンバー11に取り付けられた、結晶細棒をおおよそ上下方向に移動可能な可動装置(図2の第1の細棒挿入機14)を用いることができる。これは特許文献5などで開示された技術を応用できる。
あるいは、副ドーパントを含むシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤を育成中のシリコン単結晶3とルツボ壁との間の原料融液4へ投入するように、炉内圧を保てるように密閉してトップチャンバー11に取り付けられ、粒状に砕いたドープ剤を育成中の単結晶とルツボ壁との間の原料融液4へ誘導する管を用いることができる。
副ドーパントを追加ドープする機構としては、粒状に砕いたドープ剤を原料融液4へ誘導する管が構造的に簡単であるが、粒状ドーパントを育成中の単結晶のそばに投入するため、粒状ドーパントが飛散あるいは浮遊して育成単結晶の有転位化の可能性が高くなる。一方で、第1の結晶細棒15を上下方向に移動可能な可動装置(第1の細棒挿入機14)の設置は、コスト的には上記の誘導管より高いが、育成中のシリコン単結晶3の近傍に第1の結晶細棒15を挿入しても育成中のシリコン単結晶3が有転位化しにくいという利点がある。
【0045】
シリコン単結晶3の育成を中断し、育成したシリコン単結晶3を再溶融して、シリコン単結晶3を再育成する際に、シリコン単結晶3の育成を中断するまでにドープした副ドーパントを相殺する分の主ドーパントを追加する方法としては、主ドーパントを含む第2の細棒結晶(第2のシリコン細棒)17、又は、主ドーパントを含むシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤を原料融液4へ挿入又は投入することで行うことができる。
このような方法を用いれば、副ドーパントを相殺する分の主ドーパントを適切な量で追加ドープすることが可能である。なお、この主ドーパントの追加は、シリコン単結晶3の再育成の開始前に行われるので、実際にシリコン単結晶3を育成している箇所の近傍に主ドーパントを投入する必要が無いので、この主ドーパントの投入に起因する有転位化を防止することができる。
【0046】
上記で説明した本発明の抵抗率制御方法によれば、たとえ、有転位化等の理由により、単結晶の育成を中断して再溶融したとしても、育成したシリコン単結晶の抵抗率が当初の狙い通りとなり、シリコン単結晶から製品となる部分を引上げ軸の規定の長さ通り得ることができ、また、育成するシリコン単結晶の抵抗率を正確に制御することができる。
【0047】
次に、図2を参照しながら、本発明の追加ドーパント投入装置について説明する。
本発明の追加ドーパント投入装置は、上記の抵抗率制御方法で用いられるものであって、副ドーパント又は主ドーパントを含むシリコン細棒、又は、副ドーパント又は主ドーパントを含むシリコン単結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液4へ挿入又は投入する装置を、主ドーパント用及び副ドーパント用にそれぞれ1つ以上備えている。
本発明の追加ドーパント投入装置は、例えば、図2の第1の細棒挿入機14と第2の細棒挿入機16を有する追加ドーパント投入装置18のような構成とすることができる。
所望のドーパントを含むシリコン細棒、又は、所望のドーパントを含むシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤をシリコン融液4へ挿入又は投入する場合に、主ドーパントと副ドーパントをひとつの投入口で兼用することは可能である。しかしながら、前述のように、粒状ドーパントを育成中のシリコン単結晶の近傍に投入すると、有転位化の可能性が高くなる。従って副ドーパントの追加ドープは、シリコン細棒を挿入する方法が好ましい。しかしながら、シリコン細棒を挿入する方法は、予めチャンバー内にシリコン細棒を取り付けてしまうので、1つの投入機を主ドーパント用と副ドーパント用で共用するのが難しい。そこで、投入機構を主ドーパント用及び副ドーパント用にそれぞれに1つ以上備えた追加ドーパント投入装置が好ましい。
上述したように、主ドーパントの投入に起因する有転位化は起こらないので、例えば、副ドーパントの投入はシリコン細棒を挿入する方式とし、主ドーパントの投入はシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤を原料融液4へ投入する方式としても良い。もちろん、両方ともシリコン細棒を挿入する方式としても良いし、両方ともシリコン結晶を粒状に砕いたドープ剤を原料融液4へ投入する方式としても良い。
【0048】
次に、本発明のn型シリコン単結晶について説明する。
本発明のn型シリコン単結晶は、上述のような抵抗率制御法を用いて製造され、主ドーパントとしてリン(P)を用い、副ドーパントとしてボロン(B)を用い、単結晶中のリン濃度Nとボロン濃度Nとの差N−Nが1.4×1012atoms/cm以上、1.4×1015atoms/cm以下であり、抵抗率が3Ω・cm以上、3000Ω・cm以下である。
このように、主ドーパントをリン(P)、副ドーパントをボロン(B)としたn型シリコン単結晶であれば、どちらの元素もデバイス製造にとって広く用いられている元素であり、予想外の不具合が出る可能性が少ない。特に高耐圧のパワー用の縦型デバイスでは、単結晶中に電流が流れ、また単結晶中に逆バイアスがかかるので、比較的高抵抗率で、かつ抵抗均一性が高い単結晶が望まれることから、単結晶中のリン濃度がボロン濃度より高く、その濃度の差が上記の範囲であり、抵抗率が上記の範囲であるn型シリコン単結晶が適している。また、本発明の抵抗率制御方法を用いれば、CZ法において単結晶のトップ部からボトム部までを、これらの範囲のうちの所望の濃度差および抵抗率に、ほぼ均一に制御することが可能である。従って本発明の抵抗率制御方法を用い、かつ、上記の範囲の中で抵抗率が狭い規格内に入るように制御されたシリコン単結晶は、パワーデバイスなど最新デバイスに最適なシリコン単結晶である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図2に示したCZ単結晶育成装置100を用いて、n型で、抵抗率の規格が55−75Ω・cm、直径200mmのシリコン単結晶を育成した。原料シリコンの初期チャージ量200kgとし、約160kgのシリコン単結晶を育成した。単結晶トップ部から抵抗率規格の中心である65Ω・cmを狙うためにP(リン)濃度を4×1019atoms/cmとしたシリコン単結晶を粒状に砕いて用意したドープ剤を0.97g初期ドープした。
【0051】
副ドーパントの追加ドープは、図2の細棒挿入機14の先端に副ドーパントを含む第1のシリコン細棒15を取り付けて、原料融液(シリコン融液)4に挿入して行った。この第1のシリコン細棒15は、B(ボロン)をドープして育成したシリコン単結晶から直径約300mm、長さ約300mmで切り出した抵抗率が0.15Ω・cmであるシリコン単結晶ブロックから、2cm×2cm×30cmの縦方向に角柱として切り出したものを用いた。シリコン細棒の作製方法はこれに限るものではなくで、例えばブロックから横方向に切り出せばより高い精度の抵抗率制御が可能となる。
また、副ドーパントの追加ドープは、シリコン単結晶3の直胴部分Aの育成開始とともに開始し、以降連続的にボロン(B)を追加ドープした。ドープ量は特許文献3を参考にして、{(1−x)(kp−1)−1+[1+kp×(1−x)(kp−1)]/kb}(ここで、kpはリンの偏析係数、kbはボロンの偏析係数、xは固化率である)に比例する量を追加ドープした。
【0052】
しかしながら、直胴部分Aの長さ55cmまでシリコン単結晶3を育成したところで、有転位化が発生した。このまま何もせずに、育成したシリコン単結晶を再溶融してシリコン単結晶を育成した場合に、単結晶トップ部での抵抗率が約77Ω・cmとなってしまうことが予測された。そこで、図2の第2の細棒挿入機16の先端に取り付けた主ドーパントを含む第2のシリコン細棒17を原料融液4に挿入して溶融した。この第2のシリコン細棒17は、P(リン)をドープして育成したシリコン単結晶から直径約300mm、長さ約300mmで切り出した抵抗率が0.10Ω・cmであるシリコン単結晶ブロックから、2cmx2cmx30cmの縦方向に角柱として切り出したものを用いた。この第2のシリコン細棒17を再溶融しているシリコン単結晶の脇の原料融液4に挿入することにより71g溶解させて、ドーパント濃度を調整した原料融液4を準備してから、シリコン単結晶の育成を開始した。
ここで、副ドーパントの連続的なドープ量は、最初に予定していた量に比較して、約10%多くした。これは、シリコン単結晶の再溶融に伴い、主ドーパントのP(リン)を追加ドープしたためである。
【0053】
このような主ドーパントの追加ドープおよび副ドーパントの連続的ドープの結果得られた抵抗率の軸方向プロファイル(すなわち、育成したシリコン単結晶の抵抗率と固化率との関係)を図3に示す。図3からわかるように、単結晶のトップ側からボトム側まで抵抗率規格のほぼ中心値である抵抗率の単結晶を得ることができた。
【0054】
(実施例2)
実施例1のシリコン単結晶を育成した後、シリコン原料を約160kg追加チャージして総原料を200kgとした。2本目でも1本目と同様n型で55−75Ω・cm、直径200mmの単結晶を育成した。1本目終了時に残っていた原料融液4中のP(リン)濃度は6.4×1014atoms/cm、B(ボロン)濃度は2.2×1014atoms/cmと算出された。そこで、これを考慮するとともに、酸素濃度や結晶欠陥等の結晶品質が規格内となる直胴部分Aの長さが約20cmの所で抵抗率が規格に入るように、P(リン)濃度を4×1019atoms/cmとしたシリコン単結晶を粒状に砕いて用意したドープ剤を0.66gドープして、2本目のシリコン単結晶を育成するための原料融液4を準備した。
【0055】
副ドーパントの追加は実施例1と同様に、図2の第1の細棒挿入機14の先端に、抵抗率0.15Ω・cm、2cm×2cm×30cmのB(ボロン)を含む第1のシリコン細棒15を取り付けて、これを原料融液4に挿入して行った。ただし実施例1とは異なり、断続的にB(ボロン)をドープした。断続的ドープは直胴部分Aの長さが40cm、70cm、100cm、130cm、150cm、165cmの時にそれぞれ、第1のシリコン細棒15の重量約7g、10g、12g、13g、10g、8g分を原料融液4に挿入して溶解して行う予定であった。
【0056】
しかしながら、最初の副ドーパントを投入した直後、直胴部分Aの長さが40cmの所で有転位化が発生した。スリップバックが20cm程度入ることが予想されるので、この長さで結晶育成を中止してシリコン単結晶を取り出しても、製品部を得ることができない。そこで育成した再溶融することが適当であると判断した。
このまま何もせずに再溶融すると単結晶トップ部での抵抗率は87Ω・cm、製品部トップ側である直胴部分Aの長さ20cmの所での抵抗率が80Ω・cmとなってしまうことが予想された。そこで図2の第2の細棒送入機16の先端に取り付けられた主ドーパントを含む第2のシリコン細棒17を原料溶液4に挿入して溶解した。
この第2のシリコン細棒17は、実施例1と同様に、抵抗率が0.10Ω・cm、2cm×2cm×30cmの角柱である。これを直胴部分Aの長さが20cmの所での抵抗率が74Ω・cmとなるように、29g溶解し、シリコン単結晶の再育成を行った。
なお、再育成においては、主ドーパントを追加した分、断続的にドープする副ドーパントの量を当初の予定より4%多くした。
再育成を行った結果、直胴部分Aの長さが160cmの所までシリコン単結晶を育成したところで、再度有転位化が発生した。この位置であれば、スリップバックが20cm生じたとしても、直胴部分Aの長さが20cmから140cmまでは製品部が得られるので、再溶融せずシリコン単結晶を取り出した。
【0057】
このようにして育成したシリコン単結晶(ただし、スリップバックが生じている部分は除去されている)で得られた抵抗率の軸方向プロファイル(すなわち、育成したシリコン単結晶の抵抗率と固化率との関係)を図4に示す。図4からわかるように、単結晶のトップ側からボトム側までの中で酸素濃度や結晶欠陥等の結晶品質が規格内となる領域において、抵抗率が規格内に収まるシリコン単結晶を得ることができた。
【0058】
(比較例)
実施例1と同様にしてシリコン単結晶を育成した。ただし、シリコン単結晶の直胴部分Aの長さ55cmの所で有転位化した際に、育成したシリコン単結晶を再溶融し、シリコン単結晶の再育成を行ったが、シリコン単結晶の再育成前に、主ドーパントを追加しなかった。その結果、育成されたシリコン単結晶の抵抗率は、単結晶のトップ側で77Ω・cmとなり、単結晶の全長にわたって抵抗率が規格を満たすことはなかった。
【0059】
以上のように、比較例においては、育成した結晶を再溶融して再度単結晶を育成する際に、再度単結晶を育成開始するまでにドープした副ドーパントを相殺する分の主ドーパントを追加しなかったことにより、規格内の抵抗率を得ることができない結果となった。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0061】
1…メインチャンバー、 2…引上げチャンバー、
3…単結晶棒(シリコン単結晶)、 4…原料融液(シリコン融液)、
5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、 7…加熱ヒーター、 8…断熱部材、
9…ガス流出口、 10…ガス導入口、 11…トップチャンバー、
12…ガスパージ筒、 13…遮熱部材、 14…第1の細棒挿入機、
15…第1の細棒結晶(第1のシリコン細棒)、 16…第2の細棒挿入機、
17…第2の細棒結晶(第2のシリコン細棒)、 18…追加ドーパント投入装置、
100…CZ単結晶育成装置、 A…直胴部分。
図1
図2
図3
図4