(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示物及び実施形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に挙げる例示物及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、固有複屈折が正であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味する。また、固有複屈折が負であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0014】
また、フィルムが「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0015】
さらに、MD方向(machine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、通常はフィルムの長手方向及び縦方向と平行である。さらに、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、MD方向に垂直な方向であり、通常はフィルムの幅方向及び横方向と平行である。
【0016】
[1.実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係るダイス10を、第一流路の幅方向に対して垂直な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係るダイス10はダイス本体100を備える。このダイス本体100は、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼(SUS)などで構成しうる。ダイス鋼としては、例えば、SKD系熱間ダイス鋼(熱伝導率:約30W/m℃)等を用いうる。また、ステンレス鋼としては、例えば、SUS420J2(熱伝導率:約25W/m℃)等を用いうる。
【0017】
ダイス本体100には、溶融樹脂が流れうる流路として、第一供給路110、第一マニホールド120、第一流路130、第二供給路210、第二マニホールド220、第二流路230、第三供給路310、第三マニホールド320、第三流路330、合流部410、合流流路420及びリップ部430が形成されている。このうち、第一供給路110、第一マニホールド120及び第一流路130は第一層形成用の溶融樹脂が流れうる流路部分であり、第二供給路210、第二マニホールド220及び第二流路230は第二層形成用の溶融樹脂が流れうる流路部分であり、第三供給路310、第三マニホールド320及び第三流路330は第三層形成用の溶融樹脂が流れうる流路部分である。また、合流部410、合流流路420及びリップ部430は、第一層形成用の溶融樹脂、第二層形成用の溶融樹脂及び第三層形成用の溶融樹脂がいずれも層状になって流れうる流路部分である。
【0018】
(第一層形成用の溶融樹脂が流れうる流路)
第一供給路110は、ダイス本体100の外部に開口した流路部分である。この第一供給路110には、押出機等の樹脂供給装置によって第一層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。そして、第一供給路110は、ダイス10の外部から供給される溶融樹脂を取り込み、取り込んだ溶融樹脂を第一マニホールド120に送るようになっている。
【0019】
第一マニホールド120は、第一供給路110の下流に接続された流路部分である。この第一マニホールド120には、第一供給路110を通じて、第一層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係るダイス10を
図1のII−II線で示す平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、第一マニホールド120は、第一供給路110より流路幅方向に広がって形成されている。これにより、第一マニホールド120に供給された溶融樹脂は、流路幅方向の全体に送られるようになっている。ここで、流路幅方向は、
図1においては紙面の法線方向を示し、
図2においては横方向を示す。
また、
図2に示すように、第一マニホールド120は、流路幅方向の端部に近い位置ほど下流に下がるように形成されている。これにより、第一マニホールド120に供給された溶融樹脂を、効率よく、流路幅方向の端部にまで行き渡らせることができるようになっている。
【0021】
図1に示すように、第一マニホールド120の下流には、第一マニホールド120から下流に延びるように、第一流路130が接続されている。これにより、第一マニホールド120に供給された溶融樹脂は、この第一流路130に流れ込めるようになっている。
【0022】
第一流路130の第一マニホールド120との接続部分には、第一プリランド131が形成されている。第一プリランド131の隙間の大きさA
P1は、第一流路130の第一プリランド131の直ぐ下流の部分132の隙間の大きさA
132よりも小さくなっている。ここで流路の「隙間の大きさ」とは、別に断らない限り流路の深さ方向の大きさを指し、フィルム又は層の厚み方向に対応している。この流路深さ方向は、
図1においては横方向を示し、
図2においては紙面の法線方向を示す。このように第一プリランド131においては流路断面積が小さくなっているので、この第一プリランド131を流れる溶融樹脂には大きな抵抗がかかるようになっている。
【0023】
図2に示すように、第一プリランド131は、第一流路130の流路幅方向の中央部を頂部として上流に張り出している。そのため、第一プリランド131を流れる溶融樹脂は、流路幅方向の中央部においては第一プリランド131内を長い距離で流通し、流路幅方向の端部に近い位置ほど第一プリランド131内を短い距離で流通するようになっている。
【0024】
第一流路130の幅方向中央部は、第一供給路110の直下に当たるため、供給される溶融樹脂の圧力が大きい。また、第一流路130の幅方向端部は、第一供給路110から遠いため、供給される溶融樹脂の圧力が小さい。そのため、溶融樹脂は第一流路130の幅方向中央部に多く流れようとするので、何ら対策を施さない場合には、得られる複層フィルムの第一層において幅方向の中央部が厚くなる傾向がある。これに対し、前記のような第一プリランド131を設けたことにより、第一プリランド131の幅方向中央部を流れる溶融樹脂には大きな抵抗が長い距離だけかかり、第一プリランド131の幅方向端部を流れる溶融樹脂には大きな抵抗は短い距離だけしかかからなくできる。これにより、第一マニホールド120から第一流路130に流れ込む溶融樹脂の量を流路幅方向で均一にして、得られる複層フィルムにおいて第一層の厚み精度を幅方向で向上させることができるようになっている。
【0025】
図1に示すように、第一流路130は、第一調整流路部133を備える。この第一調整流路部133は、第一流路130において、所定の範囲の大きさの隙間を有する部分である。具体的な第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1は、リップ部430の隙間の大きさA
Lに対する第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1の比A
C1/A
Lが、所定の範囲に収まるように設定しうる。具体的な前記の比A
C1/A
Lの範囲は、通常3.0以下、好ましくは2.0以下である。このような第一調整流路部133を、第一マニホールド120より下流かつ合流部410より上流に設けたことにより、得られる複層フィルムにおいて、第一層の厚み精度を幅方向で高めることができる。また、前記の比A
C1/A
Lの下限値に制限は無いが、好ましくは1.0以上である。
【0026】
第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1を前記の範囲に収めることによって複層フィルムの第一層の厚み精度を向上させられる理由は定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。すなわち、一般に、溶融樹脂がリップ部のTD方向のどの位置に多く流れ、どの位置に少なく流れるかは、マニホールドに供給されてからリップ部から放出されるまでのTD方向における全ての位置の溶融樹脂の圧力損失が一定になるように定まる。また、一般に、ダイス設備に係る圧力損失は、流路隙間に強く依存する。このため、第一調整流路部133で調整量を大きくするためには、第一調整流路部133の隙間を狭くすることが好ましい。通常、ダイスの設計において流路の隙間が最も狭いのはリップ部分であるため、A
C1/A
Lを3以下とすることで、ダイス10の全体における第一調整流路部133の影響が大きくなり、第一層の厚み精度を向上させられるものと推察できる。
【0027】
また、本実施形態においては、第一調整流路部133は、第一流路130において部分的に隙間の大きさが小さくなった部分である。したがって、第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1は、第一流路130の第一調整流路部133の直ぐ上流の部分134の隙間の大きさA
134よりも小さくなっている。これにより、第一調整流路部133は第一流路130において部分的に流路断面積が小さくなった絞りとして機能できる。このため、絞りの作用によって、第一流路130の第一調整流路部133よりも下流の部分135での溶融樹脂の圧力を安定させることができる。したがって、得られる複層フィルムにおいて、第一層の厚み精度を幅方向で更に高めることが可能となる。
【0028】
さらに、第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1は、第一プリランド131の隙間の大きさA
P1よりも小さいことが好ましい。これにより、得られる複層フィルムにおいて、第一層の厚み精度を幅方向で更に高めることができる。
【0029】
第一流路130は、その下流端部において合流部410に接続されている。したがって、第一流路130を流通した溶融樹脂は、合流部410に送られるようになっている。
【0030】
(第二層形成用の溶融樹脂が流れうる流路)
第二供給路210は、ダイス本体100の外部に開口した流路部分である。この第二供給路210には、押出機等の樹脂供給装置によって第二層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。そして、第二供給路210は、ダイス10の外部から供給される溶融樹脂を取り込み、取り込んだ溶融樹脂を第二マニホールド220に送るようになっている。
【0031】
第二マニホールド220は、第二供給路210の下流に接続された流路部分である。この第二マニホールド220には、第二供給路210を通じて、第二層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係るダイス10を
図1のIII−III線で示す平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、第二マニホールド220は、第一マニホールド120と同様に、第二供給路210より流路幅方向に広がって形成されている。また、第二マニホールド220は、流路幅方向の端部に近い位置ほど下流に下がるように形成されている。これにより、第二マニホールド220に供給された溶融樹脂は、流路幅方向の全体に送られて、流路幅方向の端部にまで効率よく行き渡らせることができるようになっている。
【0033】
図1に示すように、第二マニホールド220の下流には、第二マニホールド220から下流に延びるように、第二流路230が接続されている。これにより、第二マニホールド220に供給された溶融樹脂は、この第二流路230に流れ込めるようになっている。
【0034】
第二流路230の第二マニホールド220との接続部分には、第二プリランド231が形成されている。第二プリランド231の隙間の大きさA
P2は、第二流路230の第二プリランド231の直ぐ下流の部分232の隙間の大きさA
232よりも小さくなっている。また、
図3に示すように、第二プリランド231は、第二流路230の流路幅方向の中央部を頂部として上流に張り出している。このため、第一プリランド131と同様に、この第二プリランド231により、得られる複層フィルムにおいて第二層の厚み精度を幅方向で向上させることができるようになっている。
【0035】
第二流路230は、その下流端部において合流部410に接続されている。したがって、第二流路230を流通した溶融樹脂は、合流部410に送られるようになっている。
【0036】
(第三層形成用の溶融樹脂が流れうる流路)
第三供給路310は、ダイス本体100の外部に開口した流路部分である。この第三供給路310には、押出機等の樹脂供給装置によって第三層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。そして、第三供給路310は、ダイス10の外部から供給される溶融樹脂を取り込み、取り込んだ溶融樹脂を第三マニホールド320に送るようになっている。
【0037】
第三マニホールド320は、第三供給路310の下流に接続された流路部分である。この第三マニホールド320には、第三供給路310を通じて、第三層形成用の溶融樹脂が供給されうるようになっている。
【0038】
第三マニホールド320は、第一マニホールド120及び第二マニホールド220と同様に、第三供給路310より流路幅方向に広がって形成されている。また、第三マニホールド320は、流路幅方向の端部に近い位置ほど下流に下がるように形成されている。これにより、第三マニホールド320に供給された溶融樹脂は、流路幅方向の全体に送られて、流路幅方向の端部にまで効率よく行き渡らせることができるようになっている。
【0039】
図1に示すように、第三マニホールド320の下流には、第三マニホールド320から下流に延びるように、第三流路330が接続されている。これにより、第三マニホールド320に供給された溶融樹脂は、この第三流路330に流れ込めるようになっている。
【0040】
第三流路330の第三マニホールド320との接続部分には、第三プリランド331が形成されている。第三プリランド331の隙間の大きさA
P3は、第三流路330の第三プリランド331の直ぐ下流の部分332の隙間の大きさA
332よりも小さくなっている。また、第三プリランド331は、第三流路330の流路幅方向の中央部を頂部として上流に張り出している。このため、第一プリランド131及び第二プリランド231と同様に、この第三プリランド331により、得られる複層フィルムにおいて第三層の厚み精度を幅方向で向上させることができるようになっている。
【0041】
第三流路330は、第三調整流路部333を備える。この第三調整流路部333は、第三流路330において、所定の範囲の大きさの隙間を有する部分である。具体的な第三調整流路部333の隙間の大きさA
C3は、第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1と同様に定義される範囲に収まるようにする。このような第三調整流路部333を、第三マニホールド320より下流かつ合流部410より上流に設けたことにより、得られる複層フィルムにおいて、第三層の厚み精度を幅方向で高めることができる。
【0042】
第三調整流路部333は、第一調整流路部133と同様に、第三流路330において部分的に隙間の大きさが小さくなった部分である。したがって第三調整流路部333の隙間の大きさA
C3は、第三流路330の第三調整流路部333の直ぐ上流の部分334の隙間の大きさA
334よりも小さくなっている。これにより、得られる複層フィルムにおいて、第三層の厚み精度を幅方向で更に高めることが可能となる。
【0043】
また、第三調整流路部333の隙間の大きさA
C3は、第三プリランド331の隙間の大きさA
P3よりも小さいことが好ましい。これにより、得られる複層フィルムにおいて、第三層の厚み精度を幅方向で更に高めることができる。
【0044】
第三流路330は、その下流端部において合流部410に接続されている。したがって、第三流路330を流通した溶融樹脂は、合流部410に送られるようになっている。
【0045】
(第一層〜第三層形成用の溶融樹脂がいずれも流れうる流路)
図1に示すように、上述した第一流路130、第二流路230及び第三流路330は、合流部410で合流している。また、この合流部410の下流には、合流部410から下流に延びるように、合流流路420が接続されている。これにより、第一流路130を流れた第一層形成用の溶融樹脂、第二流路230を流れた第二層形成用の溶融樹脂、及び第三流路330を流れた第三層形成用の溶融樹脂は、合流部410で合流し、いずれも層状になって合流流路420を流れるようになっている。また、本実施形態においては、
図1に示すように、第一流路130、第二流路230及び第三流路330は、図中右側からこの順に並んで設けられている。そのため、合流流路420を流れる際、第一層形成用の溶融樹脂、第二層形成用の溶融樹脂、及び第三層形成用の溶融樹脂は、流路深さ方向において、この順に並んだ状態で流れるようになっている。
【0046】
合流流路420の下流には、リップ部430が形成されている。リップ部430は、その下流端部においてダイス本体100の外部に開口している。これにより、合流部410で合流した第一層形成用の溶融樹脂、第二層形成用の溶融樹脂及び第三層形成用の溶融樹脂は、このリップ部430から連続的に吐出しうるようになっている。
【0047】
リップ部430の隙間の大きさA
Lは、リップ部430の上流に設けられた合流流路420よりも小さく設定される。リップ部430の隙間の大きさA
Lの具体的な範囲は、製造しようとする複層フィルムの厚みに応じて任意に設定しうる。
【0048】
(調整流路部の隙間の大きさの調整機構)
本実施形態にかかるダイス10は、第一調整流路部133の隙間の大きさを調整できる流路隙間制御部500を備える。この流路隙間制御部500は、チョークバー510及び調整ボルト520を備える。
【0049】
チョークバー510は、移動可能に設けられた棒状の部材である。このチョークバー510は、流路幅方向に垂直な平面で切った断面が略台形状になっている。また、チョークバー510は、第一調整流路部133の流路幅方向の片方の端からもう片方の端にわたって連続して延びている。さらに、チョークバー510の流路側の端部は第一調整流路部133に面していて、チョークバー510は可動堰として機能できるようになっている。これにより、チョークバー510の位置を調整することにより、第一調整流路部133の隙間の大きさを調整できるようになっている。
【0050】
調整ボルト520は、チョークバー510の第一調整流路部133とは反対側に設けられている。また、調整ボルト520はチョークバー510の長手方向(即ち、第一調整流路部133の流路幅方向)において所定間隔で複数、設けられている。それぞれの調整ボルト520の先端部は、チョークバー510に進退自在に支持されている。これにより、調整ボルト520を軸方向に移動させることにより、チョークバー510を移動させて、第一調整流路部133の隙間の大きさを調整できるようになっている。
【0051】
具体的には、以下のような操作により、第一調整流路部133の隙間の大きさを調整できるようになっている。例えば、第一調整流路部133の幅方向のある部分の隙間の大きさを小さくしたい場合は、その部分に対応する調整ボルト520を前進させてチョークバー510を押すようにする。また、第一調整流路部133の幅方向のある部分の隙間の大きさを大きくしたい場合は、その部分に対応する調整ボルト520を後退させてチョークバー510を引くようにする。この操作を調整ボルト520ごとに行うことにより、流路幅方向の位置ごとに第一調整流路部133の隙間の大きさを調整することができ、ひいては流路幅方向における第一調整流路部133の隙間の大きさの分布を調整することができるようになっている。これにより、第一調整流路部133を流れる溶融樹脂の流量を流路幅方向の位置ごとに調整して、幅方向における第一層の厚みムラを抑制することが可能となっている。
【0052】
調整ボルト520同士の間隔は、40mm以上50mm以下とすることが好ましい。調整ボルト520同士の間隔を前記範囲の下限値以上にすることにより、チョークバー510に形成されるボルト穴によるチョークバー510の強度低下を抑制できる。また、上限値以下にすることにより、調整ボルト520の数を多くできるので、多くの部分においてチョークバー510を部分的に移動させることが可能となるため、第一調整流路部133の隙間の大きさを精密に調整できる。
【0053】
図4は、本発明の一実施形態に係る調整ボルト520を、調整ボルト520の軸方向に平行な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、調整ボルト520の外径D
520は、好ましくは10mm以上、より好ましくは14mm以上であり、好ましくは30mm以下、より好ましくは24mm以下である。調整ボルト520の外形D
520を前記範囲の下限値以上にすることにより、ボルト強度を高くできる。また、上限値以下にすることにより、調整ボルト520が螺合されるチョークバー510の強度を高くできる。
【0054】
また、各調整ボルト520は、それぞれ、第一調整流路部133の温度を調整できるヒーターとして、棒状の電気ヒーター530を備える。この電気ヒーター530は、調整ボルト520の軸部分に埋め込まれている。また、この電気ヒーター530は、通電又は遮電することにより電気ヒーター530の発熱量を調整できるようになっている。これにより、チョークバー510を所望の温度で加熱できるようになっている。そのため、チョークバー510をその長手方向において位置ごとに所望の温度に調整でき、ひいては第一調整流路部133の流路幅方向において温度分布を精密に調整できるようになっている。
【0055】
このように第一調整流路部133の流路幅方向において温度分布を精密に調整できることにより、ダイス10では、第一調整流路部133を流れる溶融樹脂の温度を流路幅方向の位置ごとに精密に調整できる。ここで、溶融樹脂は、一般に、温度が変化すると樹脂粘度が変化する。また、溶融樹脂は、粘度が低いと流路を流れ易く、また、粘度が高いと流路を流れ難い傾向がある。したがって、前記のような温度調整を行うことにより、第一調整流路部133を流れる溶融樹脂の流量を流路幅方向の位置ごとに調整できるので、複層フィルムの第一層の厚みを更に精密に調整することが可能になっている。
【0056】
また特に、第一調整流路部133の隙間の大きさは小さいので、電気ヒーター530による温度の調整を特に精密に行うことができる。したがって、第一流路130の中でも特に第一調整流路部133において温度調整を行うことにより、前記の複層フィルムの第一層の厚み精度を顕著に高めることができる。
【0057】
さらに、第一調整流路部133の隙間の大きさが小さいことにより、電気ヒーター530によって第一調整流路部133内での溶融樹脂の温度を、精密且つ広い温度範囲で調整可能である。このように溶融樹脂の温度を精密且つ広い温度範囲で調整できるので、第一層の厚みを精密に且つ広い厚み範囲で調整できる。したがって、第一調整流路部133において温度の調整を行うことにより、特に広い厚み範囲で第一層の厚みを精密に調整することができる。
【0058】
電気ヒーター530の径D
530は、調整ボルト520の外径D
520に対して、好ましくは75%以下、より好ましくは50%以下である。これにより、調整ボルト520の強度を高くできる。また、電気ヒーター530の径D
530の下限値に制限は無いが、通常は、調整ボルト520の外径D
520の30%以上である。
【0059】
また、
図1に示すように、ダイス10は、第三調整流路部333の隙間の大きさを調整できる流路隙間制御部600を備える。この流路隙間制御部600は、流路隙間制御部500と同様に、チョークバー610及び調整ボルト620を備える。これにより、第一調整流路部133と同様の要領で、流路幅方向の位置ごとに第三調整流路部333の隙間の大きさを調整することができるので、幅方向における第三層の厚みムラを抑制することが可能となっている。
【0060】
各調整ボルト620は、それぞれ、第三調整流路部333の温度を調整できるヒーターとして、電気ヒーター530と同様の棒状の電気ヒーター630を備える。これにより、チョークバー610をその長手方向において位置ごとに所望の温度に調整でき、ひいては第三調整流路部333の流路幅方向において温度分布を精密に調整できるようになっている。そのため、第三調整流路部333を流れる溶融樹脂の流量を流路幅方向の位置ごとに調整できるので、複層フィルムの第三層の厚みを更に精密に調整することが可能になっている。
【0061】
さらに、
図1に示すように、ダイス10は、リップ部430の隙間の大きさを調整できる流路隙間制御部としてリップ調整ボルト700を備える。このリップ調整ボルト700は移動可能に設けられている。また、リップ調整ボルト700の先端はリップ部430の近傍に配置されている。さらに、リップ調整ボルト700は、リップ部430の流路幅方向において所定間隔で複数、設けられている。これにより、リップ調整ボルト700を移動させることによって、流路幅方向の位置ごとにリップ部430の隙間の大きさを調整でき、ひいては流路幅方向におけるリップ部430の隙間の大きさの分布を調整することができるようになっている。
【0062】
このようにリップ部430の隙間の大きさの分布を調整することにより、リップ部430を流れる溶融樹脂の抵抗を流路幅方向の位置ごとに調整することができる。したがって、リップ部430では、隙間の大きさの分布を調整することにより、溶融樹脂の流量を位置ごとに調整することができるので、リップ部430から吐出される溶融樹脂の厚みを調整でき、ひいては複層フィルムの全厚みを調整できるようになっている。
【0063】
(複層フィルムの製造方法)
本発明の一実施形態にかかるダイス10は以上のように構成されている。このダイス10を用いて複層フィルムを製造する場合は、下記のように、溶融押し出し法による製造方法を実施しうる。
【0064】
複層フィルムを製造しようとする場合、押出機(図示省略)を用いて、第一層形成用の溶融樹脂、第二層形成用の溶融樹脂、及び第三層形成用の溶融樹脂を、それぞれ第一供給路110、第二供給路210及び第三供給路310を介して、第一マニホールド120、第二マニホールド220及び第三マニホールド320に供給する。
【0065】
第一マニホールド120に供給された溶融樹脂は、第一マニホールド120において流路幅方向に拡げられた後、第一流路130に送られる。第一流路130に送られた溶融樹脂は、第一プリランド131及び第一調整流路部133を含む第一流路130を通って、合流部410に送られる。
また、第二マニホールド220に供給された溶融樹脂は、第二マニホールド220において流路幅方向に拡げられた後、第二流路230に送られる。第二流路230に送られた溶融樹脂は、第二プリランド231を含む第二流路230を通って、合流部410に送られる。
さらに、第三マニホールド320に供給された溶融樹脂は、第三マニホールド320において流路幅方向に拡げられた後、第三流路330に送られる。第三流路330に送られた溶融樹脂は、第三プリランド331及び第三調整流路部333を含む第三流路330を通って、合流部410に送られる。
【0066】
合流部410に送られた第一層形成用の溶融樹脂、第二層形成用の溶融樹脂、及び第三層形成用の溶融樹脂は、合流部410で合流する。合流した溶融樹脂は、層状に重ね合わせられる。その後、これらの溶融樹脂は、層状態を維持したままで、合流流路420を流れる。
合流流路420を流れた溶融樹脂は、その層状態を保ったまま、リップ部430から連続的に吐出される。
そして、吐出された溶融樹脂が冷却されて硬化することにより、複層フィルムが得られる。
【0067】
上述した製造方法においては、調整ボルト520及び620により、第一調整流路部133の隙間の大きさA
C1及び第三調整流路部333の隙間の大きさA
C3を、前記の範囲に収まるように調整する。これにより、製造される複層フィルムにおいて、第一層及び第三層の厚み精度を幅方向で高めることができる。
【0068】
また、上述した製造方法においては、複数の調整ボルト520及び620により、第一調整流路部133及び第三調整流路部333の幅方向の各地点における隙間の大きさを調整する。具体的には、製造される複層フィルムにおいて、第一層及び第三層の幅方向における厚みムラが小さくなるように、調整を行う。これにより、第一層及び第三層の厚み精度を、幅方向で更に高めることができる。
【0069】
さらに、上述した製造方法においては、電気ヒーター530及び630により、第一調整流路部133及び第三調整流路部333の幅方向の各地点における温度を調整する。これにより、複層フィルムの第一層及び第三層の厚み精度を、幅方向で特に効果的に高めることができる。
【0070】
この際、第一層及び第三層の厚みの大まかな調整は、第一調整流路部133及び第三調整流路部333の隙間の大きさの調整により行うことが好ましい。また、第一層及び第三層の厚みの微小な調整については、第一調整流路部133及び第三調整流路部333の温度の調整により行うことが好ましい。流路の隙間の大きさは精密な調整が煩雑であるのに対し、温度の調整は精密な調整が容易だからである。
【0071】
また、上述した製造方法においては、リップ調整ボルト700により、リップ部430の幅方向の各地点における隙間の大きさを調整する。具体的には、製造される複層フィルムの全厚みが所望の大きさとなるように、調整を行う。これにより、所望の厚みの複層フィルムを得ることができる。
【0072】
図5は、本発明の一実施形態に係るダイス10を用いて製造される複層フィルム800の断面を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、上述した製造方法により、樹脂により形成された第一層810、第二層820及び第三層830をこの順に備える複層フィルム800が得られる。この複層フィルム800においては、前記のように、最外層である第一層810及び第三層830の厚み精度が高くなっている。また、第一層810及び第三層830の厚み精度が高くなっていることにより、第一層810及び第三層830の厚みムラを原因とした厚みムラが第二層820において抑制されるので、第一層810及び第三層830に挟まれた第二層820の厚み精度も高くなっている。したがって、上述した実施形態により、第一層810、第二層820及び第三層830のいずれにおいても厚み精度に優れた複層フィルム800を得ることができる。
【0073】
また、上述した複層フィルム800においては、その複層フィルム800に含まれる第一層810、第二層820及び第三層830の厚み精度を向上させることができるので、その第一層810、第二層820及び第三層830の幅方向における厚みムラを小さくできる。具体的には、複層フィルム800に含まれる少なくとも一つの層(第一層810、第二層820又は第三層830)の厚みムラは、当該層の平均厚みに対して、好ましくは±5%以内、より好ましくは±3%以内、特に好ましくは±1%以内に収まる。ここで「厚みムラ」とは、フィルムの幅方向の端部を除いた中央部75%の領域における、その層の厚みの最大値と最小値との差を、その層の平均厚みで除した値である。
【0074】
また一般に、厚みが薄い層ほど、厚み精度を高めることが難しい。中でも、厚みが異なる複数の層を備えた複層フィルムでは、層の厚みの差が大きい場合に、厚みが小さい層の厚み精度を高めることが特に難しい。したがって、上述した利点を有効に活用する観点では、本実施形態にかかるダイス10は、厚みが大きく異なる少なくとも2層を備える複層フィルムの製造に用いることが好ましい。例えば、上述した複層フィルム800において第一層810の厚みT
810及び第三層830の厚みT
830が小さく、第二層820の厚みT
820が大きい場合には、これらの厚みの比T
810/T
820及び比T
830/T
820の少なくとも一方は、1/25以上1/10以下の範囲に収まることが好ましい。
【0075】
複層フィルム800の全厚みは、複層フィルム800の用途に応じて任意に設定しうる。具体的な複層フィルム800の全厚みの範囲は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、特に好ましくは300μm以下である。
【0076】
複層フィルム800の全光線透過率は、85%以上であることが好ましい。ここで、光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定しうる。
【0077】
複層フィルム800のヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
【0078】
[2.変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、ダイス本体100の内部に、ヒーターとして、第一供給路110、第一マニホールド120及び第一流路130に沿って設けられた電気ヒーター;第二供給路210、第二マニホールド220及び第二流路230に沿って設けられた電気ヒーター;第三供給路310、第三マニホールド320及び第三流路330に沿って設けられた電気ヒーター;を設けてもよい。これらの電気ヒーターの形状は特に限定されず、例えば、板状、円柱状等が挙げられる。円柱状の電気ヒーターを用いる場合、その電気ヒーターの直径は、15mm〜25mmが好ましい。また、板状の電気ヒーターを用いる場合、その電気ヒーターの厚みは、15mm〜25mmが好ましい。
【0079】
また、例えば、上述した電気ヒーター以外にも、ダイス本体100の全体の温度を調整できる電気ヒーターを、ダイス本体100の外周に設けてもよい。
【0080】
また、例えば、リップ調整ボルト700内に、電気ヒーター530と同様にして、電気ヒーターを設けてもよい。これにより、リップ部430における溶融樹脂の温度を調整することができる。さらに、リップ調整ボルト700の温度を電気ヒーターで調整することにより、リップ調整ボルト700を膨脹及び収縮させて、この膨張及び収縮によりリップ部430の隙間の大きさを調整してもよい。
【0081】
また、例えば、ヒーターとして、電気ヒーター以外のヒーターを用いてもよい。このようなヒーターとしては、例えば、オイル循環による伝熱装置などが挙げられる。
【0082】
また、例えば、第一流路130、第二流路230、第三流路330、合流部410及び合流流路420の表面にH−Crメッキ等の表面処理を施してもよい。H−Crメッキを施すことにより、研磨によりリップ部430の形状を成形する場合に、リップ部430を滑らかにできる。そのため、ダイラインを効果的に防止することができる。また、第一流路130、第二流路230、第三流路330、合流部410及び合流流路420の表面への溶融樹脂の付着を抑制することができる。これにより、ダイラインの低減、及び厚みムラの更なる低減が期待できる。ここでダイラインとは、製造された複層フィルムのMD方向に延びる不規則に生じる線状凹部及び線状凸部のことをいう。
【0083】
また、例えば、リップ部430の表面にセラミックコート等の表面処理を施してもよい。セラミックコートを施すことにより、リップ部430の表面への溶融樹脂の付着を抑制することができる。これにより、ダイラインの低減、及び厚みムラの更なる低減が期待できる。
【0084】
また、例えば、第一流路130において第一調整流路部133は2箇所以上設けてもよく、第三流路330において第三調整流路部333は2箇所以上設けてもよい。
【0085】
また、例えば、第二流路230に、第一調整流路部133及び第三調整流路部333と同様に、調整流路部を設けてもよい。
【0086】
また、上述した実施形態では3層を有する複層フィルムの製造用のダイス10を例示して説明したが、本発明にかかるダイスは、2層を有する複層フィルムの製造用途に用いてもよく、4層以上の層を備える複層フィルムの製造用途に用いてもよい。
【0087】
また、上述した複層フィルムには、更に任意の工程を施してもよい。例えば、複層フィルムに延伸処理を施す工程を行ってもよい。延伸処理を施すことにより複層フィルムにレターデーションを発現させることができるので、複層フィルムを位相差フィルムとして用いることが可能となる。この際、延伸方法としては、例えば、ロールの周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンター延伸機を用いて横方向に一軸延伸する方法などの一軸延伸法;同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法等の二軸延伸法;テンター延伸機を用いた斜めに延伸する方法;などが挙げられる。ここで斜め方向とは、縦方向及び横方向の両方に平行でない方向を表す。
【0088】
また、例えば、複層フィルムの表面に、任意の層を設ける工程を行ってもよい。任意の層としては、例えば、マット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等が挙げられる。
【0089】
[3.樹脂の説明]
上述した複層フィルムが備える層は、いずれも、樹脂により形成される。このような樹脂としては、通常、熱可塑性樹脂を用いる。
熱可塑性樹脂としては、固有複屈折が正の樹脂を用いてもよく、固有複屈折が負の樹脂を用いてもよく、固有複屈折が正の樹脂と固有複屈折が負の樹脂とを組み合わせて用いてもよい。中でも、複数の層を組み合わせて多様な光学特性を得る観点では、複層フィルムの第一層又は第二層の一方を固有複屈折が正の樹脂で形成し、他方を固有複屈折が負の樹脂で形成することが好ましい。また、一般に固有複屈折が負の樹脂よりも固有複屈折が正の樹脂の方が機械的強度に優れるので、第一層及び第二層のうち厚みが薄い層を、固有複屈折が正の樹脂で形成することが好ましい。
【0090】
固有複屈折が正の樹脂は、通常、固有複屈折が正の重合体を含む。この重合体の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル重合体;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド重合体;ポリビニルアルコール重合体、ポリカーボネート重合体、ポリアリレート重合体、セルロースエステル重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリスルホン重合体、ポリアリルサルホン重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ノルボルネン重合体、棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。
【0091】
これらの中でも、レターデーションの発現性、低温での延伸性、並びに、固有複屈折が正の樹脂の層とその他の層との接着性の観点から、ポリカーボネート重合体が好ましい。ポリカーボネート重合体としては、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)を含む構造単位を有する任意の重合体を用いうる。ポリカーボネート重合体の例を挙げると、ビスフェノールAポリカーボネート、分岐ビスフェノールAポリカーボネート、o,o,o’,o’−テトラメチルビスフェノールAポリカーボネートなどが挙げられる。
【0092】
固有複屈折が負の樹脂は、通常、固有複屈折が負の重合体を含む。この重合体の例を挙げると、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体、並びに、スチレン又はスチレン誘導体と他の任意のモノマーとの共重合体を含む芳香族ビニル重合体;ポリアクリロニトリル重合体;ポリメチルメタクリレート重合体;あるいはこれらの多元共重合ポリマー;などが挙げられる。また、スチレン又はスチレン誘導体に共重合させうる前記任意のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエンが好ましいものとして挙げられる。また、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0093】
これらの中でも、レターデーションの発現性が高いという観点から、芳香族ビニル重合体が好ましく、さらに耐熱性が高いという点で、スチレン又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。この場合、芳香族ビニル重合体100重量部に対して、無水マレイン酸を重合して形成される構造を有する構造単位(無水マレイン酸単位)の量は、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、特に好ましくは15重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは28重量部以下、特に好ましくは26重量部以下である。
【0094】
前記の樹脂は、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例としては、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;染料及び顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。中でも、滑剤及び紫外線吸収剤は、可撓性及び耐候性を向上させることができるので好ましい。また、配合剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0095】
滑剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等の有機粒子;などが挙げられる。中でも、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0096】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0097】
配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めうる。例えば、配合剤の量は、複層フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲としうる。
【0098】
樹脂の重量平均分子量は、樹脂で溶融押し出し法を実施できる範囲に調整することが好ましい。
【0099】
樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、中でも好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。樹脂のガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、複層フィルムを延伸した場合に、樹脂の配向緩和を低減することができる。また、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0101】
[評価方法]
(複層フィルムに含まれる層の平均厚みの測定方法)
複層フィルムを平坦な状態に配置し、干渉式膜厚計(大塚電子社製 FE−2900)をTD方向に走査することで、複層フィルムに含まれる各層の厚みを測定した。TD方向の測定間隔は5mmとした。そして、各測定地点での層の厚みの平均値をその層の平均厚みとした。
【0102】
(層の厚み精度の評価方法)
前記のように測定した各層の複数の測定地点での厚みのうち、最大値と最小値を選び、その最大値と最小値との差を計算した。求めた最大値と最小値との差を、その層の平均厚みで割って、幅方向における厚みムラの大きさを求めた。この厚みムラが小さいほど、その層の厚み精度が優れていることを表す。
【0103】
(温度調整によって調整可能な厚みの範囲の評価方法)
調整ボルトに埋め込まれた電気ヒーターを用いて、TD方向全域に対する中央部30%の領域において、第一調整流路部及び第三調整流路部の温度を30℃高くしたこと以外は、各実施例及び比較例と同様の操作を行った。
こうして得られた複層フィルムに含まれる層の平均厚みを測定した。得られた値から、下記の式により、第一調整流路部及び第三調整流路部の温度を30℃高くしたことによる中央部30%の領域における平均厚みの増加率Iを計算した。ここで、T
0は、各実施例及び比較例での中央部30%の領域における層の平均厚みを表す。また、T
30は、各実施例及び比較例よりも第一調整流路部及び第三調整流路部の温度を30℃高くした場合の、中央部30%の領域における層の平均厚みを表す。
I=(T
0−T
30)/T
0×100(%)
【0104】
この平均厚みの増加率Iが大きいほど、温度調整によって層の厚みをより大きく変化させられることを表す。即ち、平均厚みの増加率Iが大きいほど、より広い範囲で層の厚みを温度調整によって調整可能であることを表す。
【0105】
[実施例1]
第一層形成用の熱可塑性樹脂及び第三層形成用の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(Chi Mei社製「ワンダーライトPC−115」、ガラス転移温度140℃)のペレットを用意した。
また、第二層形成用の熱可塑性樹脂として、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製「DylarkD332」、ガラス転移温度135℃)のペレットと、ポリメチルメタクリレート樹脂(旭化成社製「デルペット80NH」、ガラス転移温度110℃)のペレットとを、重量比85:15で混合したペレットを用意した。
【0106】
三種三層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備した。このフィルム成形装置は、3つの異なる押出機で押出した樹脂により3層からなるフィルムを形成するタイプの装置である。このフィルム成型装置には、ダイスとして、上述した実施形態で説明したのと同様の構成のダイスを取り付けた。このダイスのリップ部の表面粗さRaは、0.1μmであった。
【0107】
第一層形成用として、前記のポリカーボネート樹脂のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた第一の一軸押出機に投入して、溶融させた。
また、第二層形成用として、前記のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂のペレット及びポリメチルメタクリレート樹脂のペレットを混合したペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた第二の一軸押出機に投入して、溶融させた。
さらに、第三層形成用として、前記のポリカーボネート樹脂のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた第三の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0108】
溶融された260℃の第一層形成用のポリカーボネート樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、ダイスの第一のマニホールドに供給した。また、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂及びポリメチルメタクリレート樹脂の混合樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、ダイスの第二のマニホールドに供給した。さらに、溶融された260℃の第三層形成用のポリカーボネート樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、ダイスの第三のマニホールドに供給した。
【0109】
スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂とポリメチルメタクリレート樹脂との混合樹脂、及びポリカーボネート樹脂を、前記のダイスから260℃で同時に押し出して、「ポリカーボネート樹脂からなる第一層」/「スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂及びポリメチルメタクリレート樹脂の混合樹脂からなる第二層」/「ポリカーボネート樹脂からなる第三層」を備える、3層構成のフィルム状の溶融樹脂を得た。この際、ダイスにおいて、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第一調整流路部の隙間の大きさA
C1の比A
C1/A
Lは、1.2に設定した。また、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第三調整流路部の隙間の大きさA
C3の比A
C3/A
Lは、1.76に設定した。
【0110】
フィルム状の溶融樹脂を、表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度120℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、長尺の複層フィルムを得た。この複層フィルムの幅方向両端部を切り除き、幅を1400mmにした。
得られた複層フィルムに含まれる層の平均厚み及び幅方向における厚みムラを、上述した要領で測定した。また、上述した要領により、第一調整流路部及び第三調整流路部の温度を30℃高くした場合の層の平均厚みの増加率Iを測定した。
【0111】
[実施例2]
ダイスにおいて、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第一調整流路部の隙間の大きさA
C1の比A
C1/A
Lを、1.4に変更した。また、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第三調整流路部の隙間の大きさA
C3の比A
C3/A
Lを、1.6に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムを製造し、評価した。
【0112】
[実施例3]
第一層及び第三層を形成するポリカーボネート樹脂の押出量を変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムを製造し、評価した。
【0113】
[比較例1]
ダイスにおいて、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第一調整流路部の隙間の大きさA
C1の比A
C1/A
Lを、3.2に変更した。また、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第三調整流路部の隙間の大きさA
C3の比A
C3/A
Lを、3.2に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムを製造し、評価した。
【0114】
[比較例2]
ダイスにおいて、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第一調整流路部の隙間の大きさA
C1の比A
C1/A
Lを、6に変更した。また、リップ部の隙間の大きさA
Lに対する第三調整流路部の隙間の大きさA
C3の比A
C3/A
Lを、6に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムを製造し、評価した。
【0115】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、表1に示す。表1において、PCとはポリカーボネート樹脂を示し、St−Maとはスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂及びポリメチルメタクリレート樹脂の混合樹脂を示す。
【0116】
【表1】
【0117】
[検討]
溶融押し出し法による複層フィルムの製造においては、一般に、各層の厚みを精密に制御することが求められる。従来の押出技術においては、各樹脂の流量及び粘度に応じてダイスのマニホールド及びプリランドを設計することにより、各層の厚みを均一にしようと試みることが一般的であった。しかし、実際の工業生産の現場では、設計どおりに樹脂が流れることは稀である。また、樹脂の温度のわずかなバラツキがあれば、層の厚みは均一にならないことが多い。
【0118】
また、単独の層からなる単層フィルムであれば、ダイスのリップ部により調整を試みることも考えられる。ところが、2層以上の層を備える複層フィルムでは、リップ部を調整すれば複層フィルムの全厚みの精度を高めることは可能であるが、その複層フィルムに含まれる各層の厚み精度を高めることまでは難しい。中でも、厚みの異なる複数の層を備える複層フィルムにおいては、例え特許文献1,2のような技術を用いた場合でも、厚みの薄い層の厚み精度を高めることが特に困難であった。
【0119】
これに対し、表1から、ダイスにおいてリップ部の隙間の大きさに対する調整流路部の隙間の大きさの比を所定値以下にすれば、複層フィルムの各層の厚みムラを小さくできることが分かる。したがって、複層フィルムを製造するためのダイスにおいて、リップ部の隙間の大きさに対する調整流路部の隙間の大きさの比を所定値以下にすることにより、各層の厚み精度を効果的に改善できることが確認された。
【0120】
さらに、実施例1〜3では、第一調整流路部及び第三調整流路部の温度を変化させた場合に、各層の平均厚みも大きく変化している。このことから、ダイスの調整流路部の温度を調整することによって、各層の厚みを効果的に変化させられることが分かる。したがって、リップ部の隙間の大きさに対する調整流路部の隙間の大きさの比を所定値以下にしたダイスにおいて、調整流路部の温度調整を適切に行うことにより、各層の厚み精度を更に改善できることが確認された。