(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1面のうち、少なくとも前記端面と隣接する部位における任意の1点において、もしくは、前記端面から100mm以内の範囲にある任意の1点において、前記屈曲部を有する、請求項1または2に記載の曲面カバーガラス。
前記第1面のうち、少なくとも前記端面と隣接する部位における任意の1点において、もしくは、前記端面から100mm以内の範囲にある任意の1点において、前記Y軸と前記Z軸を通るYZ平面における前記ガラス板状体の第1面の断面の第2曲率半径R2が300〜10000mmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の曲面カバーガラス。
【背景技術】
【0002】
運転時に必要な各種情報を表示するため、インストルメントパネルやHUD(Head−Up Display)といった車載表示部材が自動車に内装される場合がある。これら車載表示部材には、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといったFPD(Flat Panel Display)が使用される。
これらの車載表示部材には高い意匠性や高い強度が求められるため、車載表示部材として使用されるFPDの表示面の前面に保護カバーを配置することが行われている。
【0003】
携帯電話などに代表される携帯型情報端末では、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといったFPDの保護板として、透明性に優れたアクリル系樹脂板が当初使用されていた(特許文献1参照)。
しかしながら、アクリル系樹脂板の場合、必要な強度を確保するには厚肉にする必要がある。また、長期間にわたって使用するとアクリル樹脂が劣化して透明度が損なわれる。
そのため、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといったFPDの保護板(カバーガラス)として、強化ガラス板が用いられるようになってきている(特許文献2,3参照)。
【0004】
これら携帯型情報端末の場合、FPDの保護板として使用される強化ガラス板は平板であり、その表示面は平面である。
しかしながら、運転時に必要な各種情報を表示することを目的とした車載表示部材の表示面が平面だと、運転者からの視野角が横方向および/または縦方向に広がるため、運転者が視線を横方向および/または縦方向に大きく動かす必要があるため、視認性に劣る。
【0005】
一方、特許文献4には、自動車のフロントガラスとして使用される湾曲窓板が開示されている。しかしながら、この湾曲窓板を車載表示部材に使用されるFPDのカバーガラスとして使用すると、以下の点が問題となる。
自動車のフロントガラスの場合、必要な強度を確保するため、物理強化ガラス若しくは合わせガラスが使用される。しかしながら、物理強化ガラスや合わせガラスは、厚肉になるため、車載表示部材に使用されるFPDのカバーガラスには適さない。これら物理強化ガラスや合わせガラスを、車載表示部材に使用されるFPDのカバーガラスとして使用される板厚にすると、自動車のフロントガラスに比べて薄板になるため、機械的強度の低下を招く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、車載表示部材の視認性を向上できる、曲面カバーガラス及びその製造方法、並びに車載用表示部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、第1面と、
前記第1面に対向する第2面と、
前記第1面と前記第2面を接続する少なくとも一つの端面を有するガラス板状体からなり、
前記ガラス板状体は化学強化されてなり、
前記第1面上の任意の点からの接線方向をX軸とし、前記第1面の中心からの接線方向のうち、前記X軸に直交する方向をY軸とし、前記X軸と前記Y軸に直交する方向をZ軸とするとき、
前記X軸は、前記第1面上の任意の点における前記第1面の接線方向のうち、前記X軸と前記Z軸を通るXZ平面における前記第1面の断面の第1曲率半径R
1が最小となる方向であり、
前記第1面は、前記第1面上の少なくとも1点において前記X軸方向にその表面が屈曲した屈曲部を有しており、第1曲率半径R
1が300〜10000mmであり、
前記第1面上において
、曲率半
径が300mm未満である特異屈曲部が、単位面積1mm
2あたり10箇所以下である、曲面カバーガラス、を提供する。
【0009】
また、上記した目的を達成するため、本発明は、第1面と、
前記第1面に対向する第2面と、
前記第1面と前記第2面を接続する少なくとも一つの端面を有するガラス板状体からなり、
前記ガラス板状体は化学強化ガラスからなり、
前記第1面の任意の点における接線方向のいずれかをX軸とし、前記任意の点における第1面の接線方向のうち、前記X軸に直交する方向をY軸とし、前記X軸と前記Y軸に直交する方向を
Z軸とするとき、
前記X軸は、前記第1面上の任意の点における前記第1面の接線方向のうち、前記X軸と前記Z軸を通るXZ平面における前記第1面の断面の第1曲率半径R
1が最小となる方向であり、
前記第1面は、前記第1面上の少なくとも1点において前記X軸方向にその表面が屈曲した屈曲部を有しており、第1曲率半径R
1が300〜10000mmであり、
前記第1面上において
、曲率半
径が300mm未満である特異屈曲部が、単位面積1mm
2あたり10箇所以下である、曲面カバーガラス、を提供する。
【0010】
また、前記第1面のうち、少なくとも前記端面と隣接する部位における任意の1点において、もしくは、前記端面から100mm以内の範囲にある任意の1点において、前記屈曲部を有していてもよい。
また、前記屈曲部上の少なくとも1点において、前記Y軸方向にも前記第1面が屈曲しており、
前記Y軸と前記Z軸を通るYZ平面における前記ガラス板状体の第1面の断面の第2曲率半径R
2が300〜10000mmであってもよい。
また、前記第1面のうち、少なくとも前記端面と隣接する部位における任意の1点において、もしくは、前記端面から100mm以内の範囲にある任意の1点において、前記Y軸と前記Z軸を通るYZ平面における前記ガラス板状体の第1面の断面の第2曲率半径R
2が300〜10000mmであってもよい。
また、前記曲面カバーガラスをなす前記ガラス板状体の平均厚みt
aveが2mm以下であってもよい。
また、前記屈曲部における厚みの最大値t
maxと、最小値t
minと、の比t
max/t
minが1.0〜1.5であってもよい。
また、前記第1面の二次元投影寸法における最大長が50mm以上1000mm以下であってもよい。
また、前記第1面の表面圧縮応力の最大値が600MPa以上であってもよい。
また、前記第1面が凹面であってもよい。
【0011】
また、上記した目的を達成するため、本発明は、上記の曲面カバーガラスの製造方法であって、
前記曲面カバーガラスを真空成形法により成形する曲面カバーガラスの製造方法を提供する。
【0012】
また、上記した目的を達成するため、本発明は、表示部材の表示面上に、前記表示面に前記第2面が対向するように、上記の曲面カバーガラスが配置された車載用表示部材を提供する。
また、前記表示部材の表示面と、前記曲面カバーガラスの前記第2面と、が接着されていてもよい。
また、前記表示部材がパネルディスプレイであってもよく、前記表示部材がフラットパネルディスプレイ(FPD)であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、曲面カバーガラスを、車載表示部材のカバーガラスとして使用した場合に、表示部材の表示面上に配置される部位が適度に屈曲しているため、運転者からの視野角が小さくなり、車載表示部材の視認性を向上できる。
また、本発明によれば、曲面カバーガラスが化学強化されているため、曲面カバーガラスを車載表示部材のカバーガラスとして使用する場合にも十分な強度が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の曲面カバーガラスおよび本発明の車載用表示部材のいくつかの実施形態について説明する。なお、本発明の曲面カバーガラスおよび本発明の車載用表示部材はこれらの実施形態に限定されない。
【0016】
図1は、本実施形態の曲面カバーガラスを説明するための曲面カラーガラスの斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の曲面カバーガラスは、第1面11と、第1面11に対向する第2面12と、第1面11と第2面12を接続する少なくとも一つの端面13を有するガラス板状体10aからなる。本明細書におけるガラス板状体10aとは、端面13の厚さに比べて、第1面11および第2面12の寸法が大きい板状体であることを意味しており、平板状の板ガラスを意味するものではない。本実施形態の曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、後述するように、屈曲部を有している。
【0017】
また、ガラス板状体の2つの主面のうち、いずれの主面を第1面もしくは第2面とするかは特に限定されないが、車載用表示部材のカバーガラスとして使用する場合、外部に露出する側の面、すなわち、表示面となる側の面を、ガラス板状体の第1面とする。この場合、車載用表示部材の表示面と対向する面がガラス板状体の第2面であり、車載用表示部材の表示面と、ガラス板状体の第2面と、が接着される。
【0018】
図2は、本発明における屈曲部を説明するための模式的な説明図であり、曲面カバーガラスを示している。
図2に示す曲面カバーガラスは、第1面11と、第1面11に対向する第2面12と、第1面11と第2面12を接続する少なくとも一つの端面13を有するガラス板状体10bからなる。本発明では、後述する屈曲部を特定するため、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面11の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、以下の条件を満たすよう選ばれる接線方向をX軸とし、第1面の点Pにおける第1面の接線方向のうち、X軸に直交する方向をY軸とし、X軸とY軸に直交する方向をZ軸とする。ただし、X軸、Y軸、Z軸は、相互に交差する関係を有した軸である。ここでX軸は、ガラス板状体の第1面上の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、X軸とZ軸を通るXZ平面におけるガラス板状体の第1面の断面の曲率半径(以下、第1曲率半径ともいう)R
1が最小となる方向とする。R
1が最小となる方向が複数ある場合、それらのうち少なくとも一つの方向をX軸として、第1曲率半径R
1を定めてよい。なお、その場合後述する第2曲率半径R
2が最小となるような方向をX軸として、第1曲率半径R
1を定めることが好ましい。
【0019】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面は、第1面上の少なくとも1点においてX軸方向にその表面が屈曲した屈曲部を有する。屈曲部とは、第1面上の任意の点PにおいてXZ平面における第1曲率半径R
1が300〜10000mmの範囲内となる領域を指す。なお、
図2では、第1面11全体が屈曲部をなしている。
【0020】
第1曲率半径R
1が300〜10000mmの範囲内の屈曲部を有していると、車載表示部材のカバーガラスとして使用した場合に、表示部材の表示面上に配置される部位が適度に屈曲しているため、運転者からの視野角が小さくなり、車載表示部材の視認性を向上する。
【0021】
車載表示部材の視認性の向上の観点からは、屈曲部の第1曲率半径R
1は400〜2500mmの範囲内であることが好ましく、500〜1000mmの範囲内であることがより好ましい。
【0022】
また、
図2に示すように、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の屈曲部は、屈曲部上の少なくとも1点においてY軸方向にもその表面が屈曲していてもよい。この場合、Y軸とZ軸を通るYZ平面におけるガラス板状体の第1面の断面の曲率半径(以下、第2曲率半径ともいう)R
2は特に制限はないが、300〜10000mmの範囲内であることが好ましく、400〜2500mmの範囲内であることがより好ましく、500〜1000mmの範囲内であることがさらに好ましい。なお、上述の通り、ガラス板状体の第1面上の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、第1曲率半径R
1が最小となる方向をX軸とするため、第1曲率半径R
1および第2曲率半径R
2はR
1≦R
2の関係式を満たす。
【0023】
なお、上述した任意の点Pは、ガラス板状体の第1面の屈曲部における任意の点であり、例えば、第1面の中央領域が屈曲部である場合、第1面の中心位置(例えば、ガラス板状体の重心位置)であってもよい。つまり、X軸及びY軸は、第1面の中心からの接線方向であり、Z軸は第1面の中心における法線方向であってもよい。
【0024】
図3〜6は、それぞれ本実施形態の曲面カバーガラスの構成例を示した斜視図である。
図3〜6に示す曲面カバーガラスは、第1面11と、第1面11に対向する第2面12と、第1面11と第2面12を接続する少なくとも一つの端面13を有するガラス板状体10c〜10fからなる。
図3〜6は、
図2と同様に、これらのガラス板状体10c〜10fの第1面11の任意の点Pと、点Pにより定まるX軸、Y軸、Zが示されている。
図3〜6に示すガラス板状体10c〜10fでは、第1面11全体が屈曲部をなしている。
図3に示す曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体10cの寸法が600mm×250mm×厚さ2mmである。曲面カバーガラスをなすガラス板状体10cの第1面11が、第2面12側に向けて窪む凹面であり、上記で定義したX軸方向にのみ屈曲しており、第1曲率半径R
1が500mmである。
図4に示す曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体10dの寸法が600mm×250mm×厚さ2mmである。曲面カバーガラスをなすガラス板状体10dの第1面11が凸面であり、上記で定義したX軸方向にのみ屈曲しており、第1曲率半径R
1が500mmである。
図5に示す曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体10eの寸法が600mm×250mm×厚さ2mmである。曲面カバーガラスをなすガラス板状体10eの第1面11が凸面であり、上記で定義したX軸方向およびY軸方向に屈曲しており、第1曲率半径R
1が500mmであり、第2曲率半径R
2が1500mmである。
図6に示す曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体10fの寸法が600mm×250mm×厚さ2mmである。曲面カバーガラスをなすガラス板状体10fの第1面11は、X方向に沿って第2面12の反対側に向けて突出する凸状で、且つY方向に沿って第2面12側に向けて窪む凹状であり、上記で定義したX軸方向およびY軸方向に屈曲している。また、第1曲率半径R
1が500mmであり、第2曲率半径R
2が1500mmである。
【0025】
本実施形態の曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面が、上記で定義した屈曲部を有するものであればよく、
図3に示す曲面カバーガラスのように、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面が凹面のものであってもよく、
図4、5に示す曲面カバーガラスのように、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面が凸面のものであってもよい。また、
図6に示す曲面カバーガラスのように、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面が、一方向(例えばX軸方向)には凸状で、他方向(例えばY軸方向)には凹状の複合曲面であってもよい。
【0026】
以上の通り、本実施形態の曲面カバーガラスは、
図1、3、4に示すような単一方向に湾曲する形状でもよく、
図2,5に示すような有底形状である椀形でもよく、
図6に示すような鞍形であってもよい。更には、変曲点が複数箇所に存在する波形や同心円状等の曲面形状であってもよい。つまり、本実施形態の曲面カバーガラスは、屈曲部を有するガラス板状体であれば、任意の曲面形状を採用できる。車載表示部材の視認性の向上の観点からは、車載用表示部材のカバーガラスとして使用する際に表示面となる第1面が凹面であることが好ましい。
【0027】
また、
図3〜6に示す曲面カバーガラスでは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体10c、10d、10e、10fの第1面11全体が屈曲しており、第1面11全体が屈曲部で構成されているが、これに限定されず、第1面の一部が屈曲部であってもよい。
【0028】
本明細書において、第1曲率半径R
1が10000mm超の部位を屈曲していない略平坦部とし、曲率半径が300mm未満の部位を特異屈曲部とする。曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、これら略平坦部や特異屈曲部を有していてもよい。曲率半径が300mm未満の(微細な)うねり、傷、へこみなどの凹凸状欠点がガラス表面に存在する部位が特異屈曲部となる。本実施形態の曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面上において、特異屈曲部が単位面積1mm
2あたり10箇所以下である。特異屈曲部が単位面積1mm
2あたり10箇所以下であれば、視認性に影響を及ぼすことはない。なお、ここでは特異屈曲部のうち曲率半径が300mm未満の部位が占める面積が1μm
2以下であるものについては、光学顕微鏡での確認が困難であり、また、視認性に影響を与えないため、1箇所に含めない。
【0029】
また、視認性の向上の観点からは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、第1面のうち、少なくとも、端面と隣接する部位における任意の1点において、若しくは、端面から100mm以内の範囲にある任意の1点において屈曲部を有することが車載表示部材の視認性の向上の観点から好ましい。ここで、前者は、第1面における屈曲部と、端面と、が接続している場合であり、後者は、第1面における屈曲部と、端面と、が接続していない場合である。後者では、第1面における屈曲部と、端面と、の間に、略平坦部や特異屈曲部が存在する。後者の場合、端面から50mm以内の範囲にある任意の1点において屈曲部を有することがより好ましく、端面から30mm以内の範囲にある任意の1点において屈曲部を有することがさらに好ましい。
【0030】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体の屈曲部が、Y軸方向にもその表面が屈曲している場合、視認性の向上の観点からは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、第1面のうち、少なくとも、端面と隣接する部位における少なくとも1点において、若しくは、端面から100mmの範囲内にある少なくとも1点において、第2曲率半径R
2が300〜10000mmの範囲内であることが好ましい。ここで、前者は、第1面における屈曲部と、端面と、が接続している場合であり、後者は、第1面における屈曲部と、端面と、が接続していない場合である。後者では、第1面における屈曲部と、端面と、の間に、略平坦部若しくは特異屈曲部が存在する。後者の場合、端面から50mm以内の範囲にある任意の1点において、第2曲率半径R
2が300〜10000mmの範囲内であることがより好ましく、端面から300mm以内の範囲にある任意の1点において、第2曲率半径R
2が300〜10000mmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態の曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の厚みtが小さいことが、以下の理由から好ましい。
まず、厚みtを小さくすることで、曲面カバーガラスの質量が小さくなる。また、曲面カバーガラスの厚み方向における吸光度は厚みtに比例する。したがって、厚みtを小さくすることで、吸光度を小さくし、曲面カバーガラスの厚み方向における可視光透過率を上げられるため、視認性が向上する。
図7は、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の厚みtを説明するための説明図である。
図7に示すガラス板状体10gは、第1面11と、第1面11に対向する第2面12と、第1面11と第2面12を接続する少なくとも一つの端面13を有する。
【0032】
本明細書において、第1面における任意の点Qにおけるガラス板状体の厚みtとは、
図7に示す通り、第1面11における任意の点Qと、点Qにおける第1面11に対する法線とガラス板状体の第2面との交点Pと、を結ぶ最短距離とする。
【0033】
具体的には、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の平均厚みt
aveが3mm以下であり、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。ガラス板状体の平均厚みt
aveが3mm以下であれば、化学強化処理を効率的に実施でき、軽量化を達成できる。またガラス板状体の平均厚みt
aveが2mm以下であれば、本実施形態の曲面カバーガラスをタッチパネルに使用した場合、優れた感度が得られる。下限値は特に制限はないが、0.1mmであり、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましく、0.4mmがさらに好ましく、0.5mmが特に好ましい。ガラス板状体の平均厚みt
aveが0.1mm以上であれば、優れた強度が得られる。
【0034】
本実施形態の曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の屈曲部における厚みtにばらつきが少ないことが、ガラス板状体の透過率などのばらつきが抑制され、視認性が向上するため好ましい。
具体的には、ガラス板状体の屈曲部における厚みの最大値t
maxと、最小値t
minと、の比t
max/t
minが1.0〜1.5であることが好ましく、1.0〜1.1であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の曲面カバーガラスは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面の二次元投影寸法における最大長が50mm以上1000mm以下であることが、屈曲部を設けることによる視認性の向上の効果が顕著となるため好ましく、200mm以上700mm以下であることがより好ましく、300mm以上600mm以下であることがさらに好ましい。ここで、二次元投影寸法における最大長とは、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面を二次元平面に任意の方向から投影して得られた平面図形のうち面積が最大のものについて、平面図形の輪郭上の任意の2点を結ぶ直線のうち最大の直線の長さ、を指す。二次元投影寸法における最大長が50mm以上1000mm以下であることで、車載表示部材として用いる上で二次元投影寸法が小さすぎず、なおかつ運転者からの視野角が横方向および/または縦方向に広がりすぎなくなる。
【0036】
本実施形態の曲面カバーガラスは、車載用表示部材のカバーガラスとして必要な機械的強度および耐擦傷性を確保するため、曲面カバーガラスをなすガラス板状体が化学強化されている。化学強化ガラスであるガラス板状体は、化学強化されることで、表面に圧縮応力層を形成し、強度及び耐擦傷性が高められている。化学強化は、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きなアルカリ金属イオン(典型的には、Kイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって実施できる。
【0037】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体のガラス組成は、化学強化処理が可能である限り特に限定されず、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラスが挙げられる。
【0038】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、化学強化処理を適切に行うため、そのガラス組成におけるLi
2OとNa
2Oの含有量の合計が12モル%以上であることが好ましい。さらに、ガラス組成におけるLi
2Oの含有率が増加するにしたがって、ガラス転移点下がり、成形が容易となるため、Li
2Oの含有率を0.5モル%以上とすることが好ましく、1.0モル%以上とすることがより好ましく、2.0モル%以上とすることがさらに好ましい。さらに、表面圧縮応力(Compressive Stress: CS)および圧縮応力層深さ(Depth of Layer: DOL)を大きくするため、ガラス板状体のガラス組成がSiO
2を60モル%以上、Al
2O
3を8モル%以上含有することが好ましい。なお、曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、第1面における表面圧縮応力の最大値が600MPa以上であることが好ましく、圧縮応力層深さは10μm以上であることが好ましい。表面圧縮応力および圧縮応力層深さを上記範囲とすることにより、優れた強度と耐擦傷性が得られる。
【0039】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体のガラス組成の具体例としては、モル%で表示した組成で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を0.1〜25%、Li
2O+Na
2O+K
2Oを3〜30%、MgOを0〜25%、CaOを0〜25%およびZrO
2を0〜5%含むガラスが挙げられるが、特に限定されない。より具体的には、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0〜25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意である。(i)のガラスはソーダライムシリケートガラスに含まれ、(ii)および(iii)のガラスはアルミノシリケートガラスに含まれる。
【0040】
(i)モル%で表示した組成で、モル%で表示した組成で、SiO
2を63〜73%、Al
2O
3を0.1〜5.2%、Na
2Oを10〜16%、K
2Oを0〜1.5%、Li
2Oを0〜5.0%、MgOを5〜13%及びCaOを4〜10%を含むガラス。
【0041】
(ii)モル%で表示した組成が、SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、Li
2Oを0〜5.0%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス。
【0042】
(iii)モル%で表示した組成が、SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、Li
2Oを0〜5.0%、MgOを4〜15%およびZrO
2を0〜1%含有するガラス。
【0043】
(iv)モル%で表示した組成が、SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、Li
2Oを0〜5.0%、MgOを6〜14%およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
【0044】
本実施形態において、曲面カバーガラスをなすガラス板状体は、平板状の板ガラスから所定の形状に成形することが好ましい。使用する成形法としては、自重成形法、真空成形法、プレス成形法から、成形後のガラス板状体の形状に応じて、所望の成形法を選択すればよい。
【0045】
自重成形法は、成形後のガラス板状体の形状に応じた所定の金型上に板ガラスを設置した後、その板ガラスを軟化させて、重力により板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。
【0046】
真空成形法は、板ガラスを軟化させた状態で板ガラスの表裏面に差圧を与えて、板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。真空成形法では、成形後のガラス板状体の形状に応じた所定の金型上に板ガラスを設置し、その板ガラス上にクランプ金型を設置し、板ガラスの周辺をシールした後、金型と板ガラスとの空間をポンプで減圧することにより、板ガラスの表裏面に差圧を与える。この際に、補助的に、板ガラスの上面側を加圧してもよい。
【0047】
プレス成形法は、成形後のガラス板状体の形状に応じた所定の金型(下型、上型)間に板ガラスを設置し、板ガラスを軟化させた状態で、上下の金型間にプレス荷重を加えて、板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。
【0048】
中でも真空成形法は、曲面カバーガラスをなすガラス板状体を所定の形状に成形する方法として特に好ましい。真空成形法によれば、ガラス板状体の対向する二つの主面のうち、一方の主面は成形型と接触せずに成形できるため、傷、へこみなどの凹凸状欠点を減らせる。この成形型と接触しない側の主面を第1面とすることで、第1面における特異屈曲部を単位面積1mm
2あたり10箇所以下にでき、視認性向上の観点から好ましい。
なお、成形後のガラス板状体の形状に応じて、2種以上の成形法を併用してもよい。
【0049】
曲面カバーガラスをなすガラス板状体には、車載用表示部材のカバーガラスとして使用する際に表示面となるガラス板状体の第1面に、必要に応じて各種機能層を形成してもよい。このような機能層の具体例としては、防眩層、反射防止層、防汚層が挙げられガラス板状体に機能を付与できればよく、特に限定されない。これら機能層は、ガラス板状体の第1面のうち、少なくとも屈曲部に設けられる。
【0050】
ガラス板状体の第1面に防眩層が形成されている場合、第1面の屈曲部のヘイズが50%以下であり、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。ヘイズ値が50%以下であれば、コントラストの低下が充分に抑えられる。なお、防眩層の形成方法については公知の方法を利用でき、液体原料を使用したスプレー法などのウェットコートやガラスのエッチングなどで防眩層を形成できる。
【0051】
ガラス板状体の第1面に防汚層が形成されている場合、第1面の屈曲部の静止摩擦係数が1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。静止摩擦係数が1.0以下であれば、人間の指が第1面の屈曲部に触れる際に指滑り性が良い。また、第1面の屈曲部の動摩擦係数が0.02以下であることが好ましく、0.015以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましい。動摩擦係数が0.02以下であれば、人間の指が第1面の屈曲部に触れる際に指滑り性が良い。
【0052】
その他の機能層として、銀や酸化チタンなどを含む抗菌層、曇りを予防する防曇層などを選択できる。また、隠蔽性を高めるための印刷層でも良い。
また、上記防眩層、反射防止層等の各種機能層は、ガラス板状体の表面に層形成された形態以外にも、ガラス板状体の内部(表面から厚み方向内側)に、層形成された形態であってもよく、ガラス板状体の全体が上記機能層として機能する形態であってもよい。さらに機能層はガラス全面に形成されてもよく、外縁に枠状に形成されるなど一部でもよく特に制限はない。
【0053】
本実施形態の車載用表示部材は、表示部材の表示面上に本実施形態の曲面カバーガラスを配置したものである。ここで、表示部材の表示面に曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第2面が対向するように配置されており、好ましくは、表示部材の表示面と、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第2面と、が接着剤を介して接着されている。接着剤としては従来公知のものを使用できるが、波長400nm〜800nmにおける光の平均透過率が95%以上であるものが好ましい。
【0054】
表示部材としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイといったフラットパネルディスプレイ(FPD)、プロジェクションマッピング、電子ペーパーなどが挙げられる。特に本実施形態の曲面カバーガラスには、有機ELディスプレイなどの湾曲させられる表示部材(パネルディスプレイ)に適している。曲面カバーガラスの形状に沿わせて表示部材を搭載させることで、視認者から視認性を向上できる。
【0055】
本実施形態の車載用表示部材では、表示部材の表示面の形状と、曲面カバーガラスをなすガラス板状体第2面の形状と、が一致していることが、視認性の向上の観点から好ましい。特に、表示部材の表示面と曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第2面が接着されている場合、両者の形状とが一致していることで接着剤の厚みが第2面上において均一になり、視認性がより向上するため好ましい。
【0056】
本実施形態の曲面カバーガラスは、上述したように、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の厚みtが小さいため、第1面の屈曲部における曲率半径(第1曲率半径R
1、第2曲率半径R
2)と、第1面に対向する第2面における曲率半径と、の差が小さい。そのため、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面の屈曲部における曲率半径(第1曲率半径R
1、第2曲率半径R
2)を、表示部材の表示面の形状と、曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第2面の形状と、の一致の判断指標にできる。曲面カバーガラスをなすガラス板状体の第1面の屈曲部上の任意の点Qにおける第1曲率半径R
1と、表示部材の表示面の部位における点Qに対向する点において第1曲率半径R
1と同方向の曲率半径と、の差の絶対値が、第1曲率半径R
1の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0057】
まず、板ガラス(旭硝子株式社製、製品名:Dragontrail(登録商標)、650mm×220mm×平均厚みt
ave2.0mm)を真空成形法により成形し、曲面カバーガラスを得た。板ガラスは720℃になるまで加熱され軟化させられたのち、板ガラスの表裏面に差圧を与え、板ガラスを曲げて金型になじませて所定の形状に成形させた。
次に、得られた曲面カバーガラスの第1面上の、第1曲率半径R
1は1000mmであり、第2曲率半径R
2は10000mmである点において、光学顕微鏡による第1面の観察を行った。光学顕微鏡としては、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−600)を用いた。第1面は真空成形時に金型に接触していない面である。これにより観察された第1面の写真を
図8に示す。倍率は450倍である。第1面の観察領域における特異屈曲部は、単位面積1mm
2あたり1箇所であり、視認性に影響はなかった。
続いて、得られた曲面カバーガラスの、
図8で観察された第1面上の点に対向する第2面上の点において、同様に光学顕微鏡による第2面の観察を行った。第2面は真空成形時に金型に接触した面である。これにより観察された第2面の写真を
図9に示す。第2面の観察領域における特異屈曲部は、単位面積1mm
2あたり約30箇所であり、視認性が悪化した。
【0058】
本出願は、2015年2月5日出願の日本特許出願2015−21070に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。