特許第6299912号(P6299912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299912pH及び酸化還元電位を制御可能な希釈薬液の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6299912
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】pH及び酸化還元電位を制御可能な希釈薬液の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/66 20060101AFI20180319BHJP
   C02F 1/74 20060101ALI20180319BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   C02F1/66 530C
   C02F1/66 510A
   C02F1/66 521E
   C02F1/66 530G
   C02F1/66 530L
   C02F1/66 530P
   C02F1/66 540D
   C02F1/66 540H
   C02F1/74 Z
   B01D61/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-68601(P2017-68601)
(22)【出願日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】顔 暢子
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/045975(WO,A1)
【文献】 特開2012−063303(JP,A)
【文献】 特開2003−205299(JP,A)
【文献】 特開2005−019876(JP,A)
【文献】 特開2009−219995(JP,A)
【文献】 特開2000−216130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00− 9/14
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水供給ラインに白金族金属担持樹脂カラムと膜式脱気装置とを順次備え、
前記白金族金属担持樹脂カラムと前記膜式脱気装置との間に、超純水にpH調整剤を添加するpH調整剤注入装置と酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤注入装置とを設け
前記pH調整剤がアンモニアであり、前記酸化還元電位調整剤が過酸化水素水である、
希釈薬液の製造装置。
【請求項2】
前記膜式脱気装置の後段に不活性ガス溶解装置を備える、請求項1に記載の希釈薬液の製造装置。
【請求項3】
前記膜式脱気装置が不活性ガスを吸入する方式によるものである、請求項1又は2に記載の希釈薬液の製造装置。
【請求項4】
前記膜式脱気装置の後段にpH計測手段と酸化還元電位計測手段とを備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の希釈薬液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子産業分野等で使用される希釈薬液の製造装置に関し、特にpH及び酸化還元電位を制御可能な高純度の希釈薬液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の電子部品の製造工程では、微細構造を有する被処理体を処理する工程が繰り返される。そして、ウエハや基板等の処理体表面に付着している微粒子、有機物、金属、自然酸化皮膜等の除去を目的とした洗浄を行い、高度な清浄度を達成、維持することは製品の品質保持や歩留まり向上にとって重要である。この洗浄は、例えば、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸溶液等の洗浄液を用いて行われ、該洗浄後に超純水を用いたすすぎが行われる。このすすぎ等の洗浄に供給される超純水や薬液には高い純度が要求される。また、近年では、半導体デバイスの微細化、材料の多様化、プロセスの複雑化により、洗浄回数が多くなっている。
【0003】
一般的に、超純水の製造には、前処理システム、一次純水システム、二次純水システム(サブシステム)で構成される超純水製造装置が用いられている。このような超純水製造装置で製造された超純水を用いたすすぎでは、超純水中の溶存酸素によりウエハ表面に薄い酸化皮膜が形成される、という問題点がある。この点を解決するために、特許文献1、2には、脱ガスをして溶存酸素を除去した超純水に、水素ガスを溶解した水素溶解水を用いて、過酸化水素を低減させた水を用いてすすぎ等の洗浄を行う方法が提案されている。また、特許文献3には、原料の超純水に導電性物質を溶解させ、その後に有機多孔質イオン交換体が充填されたイオン交換塔を通過させ、濃度の安定した導電性水溶液を提供する装置が提案されている。
【0004】
ところで、半導体や液晶の製造プロセスでは、不純物が高度に除去された超純水を用いて半導体ウエハやガラス基板の洗浄が行われている。このような超純水を用いた半導体ウエハの洗浄では、近年半導体デバイスの微細化に伴い、超純水に含まれる極微量の過酸化水素などによる配線金属の腐食や、比抵抗値の高い超純水を用いることで、洗浄時に静電気が発生しやすくなり、絶縁膜の静電破壊や微粒子の再付着を招くといった問題があることが知られている。そのため、近年では、超純水に二酸化炭素やアンモニアなどの薬液を添加させることで、pH調整を行い上述したような問題に取り組んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−136077号公報
【特許文献2】特開2010−17633号公報
【特許文献3】特開2016−76590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された技術では、添加する薬液に含まれる溶存ガス種の除去ができないため、超微細加工された半導体デバイスの洗浄時に生じる諸問題に対応することは困難である。
【0007】
そこで、本発明者が超微細加工された半導体デバイスの洗浄時に生じる諸問題の解決について検討した結果、微量の過酸化水素は、酸化還元電位の調整上、有効に活用できる可能性があることがわかった。そして、そのためにはpHと酸化還元電位を制御できることが望ましいが、従来このような制御可能な希釈薬液の製造装置はなかった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、pH及び酸化還元電位を制御可能な高純度の希釈薬液の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み、本発明は、超純水供給ラインに白金族金属担持樹脂カラムと膜式脱気装置とを順次備え、前記白金族金属担持樹脂カラムと前記膜式脱気装置との間に、超純水にpH調整剤を添加するpH調整剤注入装置と酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤注入装置とを設けた、希釈薬液の製造装置を提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、超純水供給ラインから超純水を白金族金属担持樹脂カラムに通水することにより、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去し、続いてpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を注入して希釈薬液を調製した後、膜式脱気装置で脱気して希釈薬液中の溶存酸素を除去することで、原水中の溶存過酸化水素の影響を排除するとともに、pH調整剤及び酸化還元電位調整剤中の溶存酸素などを除去することで、所望とするpH及び酸化還元電位を反映した高純度の希釈薬液を安全に製造・供給することが可能となる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記膜式脱気装置の後段に不活性ガス溶解装置を備えることが好ましい(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明2)によれば、高純度の希釈薬液に不活性ガスを溶解することで、得られる希釈薬液にガス成分を溶解しにくくし、所望とするpH及び酸化還元電位を精確に反映した高純度の希釈薬液を維持することができる。
【0013】
上記発明(発明1、2)においては、前記膜式脱気装置が不活性ガスを吸入する方式によるものであることが好ましい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明3)によれば、膜式脱気装置の気相側に不活性ガスを吸入し、液相側に希釈薬液を供給することで、溶存酸素などの溶存ガスが効果的に脱気されるので、得られる希釈薬液の溶存酸素濃度をさらに低減することができ、所望とするpH及び酸化還元電位を反映した高純度の希釈薬液を維持することができる。
【0015】
上記発明(発明1〜3)においては、前記膜式脱気装置の後段にpH計測手段と酸化還元電位計測手段とを備えることが好ましい(発明4)。
【0016】
かかる発明(発明4)によれば、これらpH計測手段及び酸化還元電位計測手段の測定結果に基づいて、得られる希釈薬液が所望とするpH及び酸化還元電位となるようにpH調整剤及び酸化還元電位調整剤の注入量を制御することができる。
【0017】
さらに、上記発明(発明1〜4)においては、前記pH調整剤がアンモニアであり、前記酸化還元電位調整剤が過酸化水素であることが好ましい(発明5)。
【0018】
かかる発明(発明5)によれば、アンモニアは金属イオンなどを含まないのでアルカリ領域でのpHの調整が容易かつ阻害要因となりにくく、さらに過酸化水素は正の領域での酸化還元電位の調整が容易であり、これらにより所望とするpH及び酸化還元電位とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の希釈薬液の製造装置によれば、まず白金族金属担持樹脂カラムにより超純水中に微量含まれる過酸化水素及び溶存酸素を除去し、続いてpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を注入して希釈薬液を調製した後、膜式脱気装置で脱気して希釈薬液中の溶存酸素を除去することで、原水中の溶存過酸化水素の影響を排除して所望とするpH及び酸化還元電位を反映した高純度の希釈薬液を安全に製造・供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による希釈薬液の製造装置を示す概略図である。
図2】比較例1の希釈薬液の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の希釈薬液の製造装置の一実施形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。
【0022】
〔希釈薬液の製造装置〕
図1は、本実施形態の希釈薬液の製造装置を示しており、図1において希釈薬液の製造装置は、超純水Wの供給ライン1に白金族金属担持樹脂カラム2と、膜式脱気装置3と、ガス溶解膜装置4とを順次備え、白金族金属担持樹脂カラム2と膜式脱気装置3との間にpH調整剤注入装置5Aと酸化還元電位調整剤注入装置5Bとを設けた構成を有する。この膜式脱気装置3の気相側には不活性ガス源6が接続しているとともにガス溶解膜装置4の気相側にも不活性ガス源7が接続していて、ガス溶解膜装置4には排出ライン8が連通している。なお、符号9は膜式脱気装置3及びガス溶解膜装置4のドレンタンクである。そして、本実施形態においては、排出ライン8の途中には、pH計測手段としてのpH計10Aと酸化還元電位計測手段としてのORP計10Bとが設けられている。
【0023】
<超純水>
本実施形態において、原水となる超純水Wとは、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。
【0024】
<白金族金属担持樹脂カラム>
(白金族金属)
本実施形態において、白金族金属担持樹脂カラム2に用いる白金族金属担持樹脂に担持する白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。こられの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので好適に用いることができる。また、これらの金属のナノオーダーの微粒子も特に好適に用いることができる。
【0025】
(担体樹脂)
白金族金属担持樹脂カラム2において、白金族金属を担持させる担体樹脂としては、イオン交換樹脂を用いることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金系金属は、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持されて剥離しにくいものとなる。アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。OH形アニオン交換樹脂は、樹脂表面がアルカリ性となり、過酸化水素の分解を促進する。
【0026】
<膜式脱気装置>
本実施形態において、膜式脱気装置3としては、脱気膜の一方の側(液相側)に超純水Wを流し、他方の側(気相側)を真空ポンプで排気することで、溶存酸素を膜を透過させて気相室側に移行させて除去するようにしたものを用いることができる。なお、この膜の真空側(気相側)には窒素等の不活性ガス源6を接続し、脱気性能を向上させることが好ましい。脱気膜は、酸素、窒素、蒸気等のガスは通過するが水は透過しない膜であれば良く、例えば、シリコンゴム系、ポリテトラフルオロエチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等がある。この脱気膜としては市販の各種のものを用いることができる。
【0027】
<ガス溶解膜装置>
本実施形態において、ガス溶解膜装置4は、ガス透過膜の一方の側(液相側)に超純水Wを流し、他方の側(気相側)にガスを流通させて液相側にガスを移行させて溶解させるものであれば特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサンブロック共重合体、ポリビニルフェノール−ポリジメチルシロキサン−ポリスルホンブロック共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子膜などを用いることができる。この水に溶解させるガスとしては、本実施形態においては窒素などの不活性ガスを用い、この不活性ガスは不活性ガス源7から供給する。
【0028】
<pH調整剤>
本実施形態において、pH調整剤注入装置5Aから注入するpH調整剤としては特に制限はなく、pH7未満に調整する場合には、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸などを用いることができる。また、pH7以上に調整する場合には、アンモニアを用いることができる。なお、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属溶液は、金属成分を含有するため好ましくない。例えば、遷移金属や半導体材料の洗浄液を調製する場合には、これらの材料の溶出を抑制するためにpH7以上に調整するのが好ましく、したがってアンモニアを用いることが好ましい。
【0029】
<酸化還元電位調整剤>
本実施形態において、酸化還元電位調整剤注入装置5Bから注入する酸化還元電位調整剤としては特に制限はないが、フェリシアン化カリウムやフェロシアン化カリウムなどは、金属成分を含有するため好ましくない。また、ガス成分は、後段の膜式脱気装置で除去されるので適しない。したがって、酸化還元電位を正側に調整するには、過酸化水素水を用いることが好ましい。酸化還元電位を負側に調整するにはシュウ酸などを用いることが好ましい。例えば、遷移金属や半導体材料の洗浄液を調製する場合には、これらの材料の溶出を抑制するために酸化還元電位は正に調整するのが好ましい。これらに基づき、過酸化水素水を用いることが好ましい。
【0030】
〔希釈薬液の製造方法〕
前述したような構成を有する本実施形態のpH及び酸化還元電位を制御可能な希釈薬液の製造装置を用いた高純度の希釈薬液の製造方法について以下説明する。
【0031】
まず、原水としての超純水Wを供給ライン1から白金族金属担持樹脂カラム2に供給する。この白金族金属担持樹脂カラム2では白金族金属の触媒作用により、超純水W中の過酸化水素を分解除去する。ただし、ここでは超純水W中の溶存酸素は、過酸化水素の分解によりわずかに増加傾向を示す。
【0032】
次に、この超純水Wに対しpH調整剤注入装置5AからpH調整剤を注入するとともに酸化還元電位調整剤注入装置5Bから酸化還元電位調整剤を注入して希釈薬液W1を調製する。pH調整剤及び酸化還元電位調整剤の注入量(流量)は、得られる希釈薬液W1が所望とするpH及び酸化還元電位となるように超純水Wの流量に応じて図示しない制御手段によりその注入量を制御すればよい。ここで、この希釈薬液W1中には超純水Wの溶存酸素と、pH調整剤及び酸化還元電位調整剤から持ち込まれた溶存酸素とが含まれることになる。
【0033】
続いて、この希釈薬液W1を膜式脱気装置3に供給する。膜式脱気装置3では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側に希釈薬液W1を流すとともに、気相室を図示しない真空ポンプで減圧することにより、希釈薬液W1中に含まれる溶存酸素等の溶存ガスを疎水性気体透過膜を通して気相室に移行させることで除去する。このとき気相室側に発生する凝縮水はドレンタンク9に回収する。本実施形態においては、膜式脱気装置3の気相室にスイープガスとして不活性ガスを不活性ガス源6から減圧下で供給することにより、脱気効果が高まり希釈薬液W1の溶存酸素除去効果が更に高くなる点で望ましい。不活性ガスとしては、特に限定されず希ガスや窒素ガスなどを用いることができる。特に、窒素は容易に入手でき、かつ高純度レベルでも安価であるため、好適に用いることができる。これにより希釈薬液W1の溶存酸素濃度を非常に低いレベルにまで低減することができる。このようにpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を直接脱気せずに希釈薬液W1とした後脱気することにより、これらの薬剤を真空脱気する際の薬液漏えいなどのリスクを低減することができる。
【0034】
そして、本実施形態においては、この脱気した希釈薬液W1をガス溶解膜装置4に供給する。ガス溶解膜装置4では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側に希釈薬液W1を流すとともに、気相室側の圧力が液相室側より高くなる条件下で不活性ガス源7から気相室に不活性ガスを供給することにより、液相室側に不活性ガスを移行させて希釈薬液W1に溶解し、最終的な希釈薬液(清浄希釈薬液)W2を得ることができる。このとき気相室側に発生する凝縮水はドレンタンク9に回収する。この不活性ガスの溶解により清浄希釈薬液W2へのガス種の再溶解を抑制することができ、清浄希釈薬液W2を溶存酸素が低減された状態に維持することができる。不活性ガスとしては、特に限定されず希ガスや窒素ガスなどを用いることができる。特に、窒素は容易に入手でき、かつ高純度レベルでも安価であるため、好適に用いることができる。このようなガス溶解膜モジュールを用いる方法であれば、水中に容易に不活性ガスを溶解させることができ、また、溶存ガス濃度の調整、管理も容易に行うことができる。
【0035】
この清浄希釈薬液W2は、本実施形態においては、pH計10AによりpHが計測されるとともに、ORP計10Bにより酸化還元電位が測定され、所望とするpH及び酸化還元電位であるか否かを監視され、清浄希釈薬液W2が所望とするpH及び酸化還元電位となるように図示しない制御手段によりpH調整剤注入装置5A及び酸化還元電位調整剤注入装置5Bによる注入量を制御可能となっている。
【0036】
上述したような本実施形態により製造される清浄希釈薬液W2は、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板あるいはフォトマスク用石英基板などの電子材料の洗浄機に供給される。このような清浄希釈薬液W2は、上述したように所望とするpH及び酸化還元電位を有するのみならず、過酸化水素濃度1ppb以下、清浄溶存酸素濃度100ppb以下と非常に低いレベルとすることが可能で、清浄希釈薬液W2へのガス種の再溶解を抑制して低い状態を維持することが可能であり、清浄希釈薬液W2を洗浄に好適な状態に維持することが可能となっている。
【0037】
以上、本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限らず種々の変更実施が可能である。例えば、流量計、温度計、圧力計、気体濃度計等の計器類を任意の場所に設けることができる。さらに、必要に応じて、pH調整剤注入装置5A及び酸化還元電位調整剤注入装置5Bに薬液流量調整バルブを設けたり、不活性ガス源6及び不活性ガス源7に気体流量調整バルブ等の制御機器を設けたりしてもよい。さらに希釈薬液の製造装置に他の薬液の注入装置を設けても良い。
【実施例】
【0038】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0039】
[実施例1]
図1に示す構成で希釈薬液製造装置を構成し、供給ライン1から超純水Wを3L/分の流量で供給し、白金族金属として白金を担持した白金族金属担持樹脂カラム2に流通した後、pH9.5〜10.2の範囲内となるようにpH調整剤注入装置5Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給するとともに、過酸化水素濃度10ppmで酸化還元電位400mVとなるように酸化還元電位調整剤注入装置5Bから過酸化水素水(濃度5重量%)を供給して希釈薬液W1を調製した。この希釈薬液W1を膜式脱気装置3及びガス溶解膜装置4で処理して清浄希釈薬液W2を製造した。この清浄希釈薬液W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測し、さらに過酸化水素濃度計で過酸化水素(H)濃度を測定した。結果を清浄希釈薬液W2の溶存酸素濃度とともに表1に示す。
【0040】
なお、膜式脱気装置3としては、リキセル(セルガード社製)を用い、スイープガスとして窒素ガスを10L/分の流量で流通した。また、ガス溶解膜装置4としては、三菱レイヨン製「MHF1704」を用い、窒素ガスを0.1L/分の流量で供給した。
【0041】
[比較例1]
図2に示すように、図1に示す装置においてガス溶解膜装置4の後段で、pH9.5〜10.2の範囲内となるようにpH調整剤注入装置5Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給するとともに、過酸化水素濃度10ppmで酸化還元電位400mVとなるように酸化還元電位調整剤注入装置5Bから過酸化水素水(濃度5重量%)を供給して清浄希釈薬液W2を調製した以外は同様にして希釈薬液製造装置を構成した。この希釈薬液製造装置により実施例1と同じ条件で清浄希釈薬液W2を製造した。この希釈薬液W1を膜式脱気装置3及びガス溶解膜装置4で処理して清浄希釈薬液W2を製造した。この清浄希釈薬液W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測し、さらに過酸化水素濃度計で過酸化水素(H)濃度を測定した。結果を清浄希釈薬液W2の溶存酸素濃度とともに表1にあわせて示す。
【0042】
[比較例2]
比較例1において、図2の装置においてpH調整剤注入装置5Aから過酸化水素濃度を供給せずにpH7.4〜9.5の範囲内となるようにpH調整剤注入装置5Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給し、酸化還元電位調整剤注入装置5Bから過酸化水素水を供給しなかった以外は同様にして清浄希釈薬液W2を製造した。この希釈薬液W1を膜式脱気装置3及びガス溶解膜装置4で処理して清浄希釈薬液W2を製造した。この清浄希釈薬液W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測した。結果を清浄希釈薬液W2の溶存酸素濃度とともに表1にあわせて示す。なお、比較のために参考例として超純水WのpH及び酸化還元電位及び溶存酸素濃度を表1にあわせて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から明らかなとおり、実施例1の希釈薬液製造装置では、溶存酸素濃度が100ppb未満で、pHが目標とする範囲内で、かつORP及び過酸化水素濃度も目標とする値に非常に近似するものであった。これに対し、比較例1の希釈薬液製造装置では、過酸化水素は目標値に近いものの溶存酸素濃度は1ppm以上であり、pHは目標値を外れていた。これはpH調整剤注入装置5A及び酸化還元電位調整剤注入装置5Bから供給されるアンモニア水溶液及び過酸化水素水に溶解している溶存酸素の影響であると考えられる。また、比較例2では過酸化水を添加していないので、過酸化水素濃度は目標値より小さく、溶存酸素濃度は1ppm以上であり、pHは目標値を外れていた。
【符号の説明】
【0045】
1 供給ライン
2 白金族金属担持樹脂カラム
3 膜式脱気装置
4 ガス溶解膜装置
5A pH調整剤注入装置
5B 酸化還元電位調整剤注入装置
6 不活性ガス源
7 不活性ガス源
8 排出ライン
9 ドレンタンク
10A pH計(pH計測手段)
10B ORP計(酸化還元電位計測手段)
W 超純水
W1 希釈薬液
W2 清浄希釈薬液
【要約】
【課題】 pH及び酸化還元電位を制御可能な希釈薬液の製造装置を提供する。
【解決手段】 希釈薬液の製造装置は、超純水Wの供給ライン1に白金族金属担持樹脂カラム2と、膜式脱気装置3と、ガス溶解膜装置4とを順次備え、白金族金属担持樹脂カラム2と膜式脱気装置3との間にpH調整剤注入装置5Aと酸化還元電位調整剤注入装置5Bとを設けた構成を有する。膜式脱気装置3の気相側には不活性ガス源6が接続しているとともに、ガス溶解膜装置4の気相側にも不活性ガス源7が接続していて、ガス溶解膜装置4には排出ライン8が連通している。この排出ライン8には、pH計10AとORP計10Bとが設けられている。
【選択図】 図1
図1
図2