【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
愛知製鋼社製の電気炉酸化スラグを流滓により室温まで徐冷した後、破砕し、最大寸法が5mm〜20mmの塊状の破砕物10kgを、縦横4cm角、厚さ2cmの直方体形状のNd−Fe−B系磁石に接触させ、吸着されるものと吸着されないものとに選別した。その結果、9.54kgが磁石に吸着され、そのうちの0.03kgは金属鉄であり、0.46kgは吸着されなかった。このように、電気炉酸化スラグのうちの重量比で約95%を磁化させることができた。また、最大寸法が5mm〜20mmの塊状のかんらん岩の破砕物10kgを、同様にして磁化させた。
【0037】
図1は、上述の電気炉酸化スラグの破砕物を、Nd−Fe−B系磁石に接触、吸着させ、磁化させた後、内径1.8cm、外径2cm、長さ50cmのポリ塩化ビニル製パイプに充填し、このパイプの表面磁界分布をMI磁気センサで測定したときのチャートである。このチャートの横軸は距離(z)であり、縦軸には、mGの単位表示があるが、より正確には、その距離(z)における検出磁界(B)の勾配dB/dzを示している。パイプの壁厚は2mmであり、パイプ表面と磁気センサヘッドとの距離は約5mmとした。その結果、約200ミリガウスの高さの正負のパルス磁界がパイプ長50cmに亘って21〜24パルスほど発生していた。これは、コンクリート硬化促進機能及び生物活性機能を有する同寸法(最大寸法が5mm〜20mm)の磁化されたかんらん岩集団の発生するパルス列分布磁界とほぼ同一の磁界であった。
【0038】
また、磁化されたかんらん岩の場合との相違は、磁化されたかんらん岩が重量比で全量の約20%とごく一部であったのに対して、徐冷した電気炉酸化磁化スラグでは、全量のうちの約95%が磁化されたことである。これは、全鉄成分(T−Fe)、MnO、SiO
2、Al
2O
3、CaOなどのスラグの原料混合体が、電気炉内の酸素雰囲気中で1600℃に加熱されることによって、酸化物強磁性体が生成するためである。この電気炉酸化スラグは、分析の結果、全鉄成分(T−Fe)を21.0質量%含有するほか、SiO
2:18.8質量%、MnO:7.3質量%、Cr
2O
3:2.8質量%、Al
2O
3:12.8質量%、MgO:6.1質量%、CaO:22.8質量%などを含有している。このように、本実施例において用いた電気炉酸化スラグは、磁化材料としての収率が高く、且つ高強度コンクリートの粗骨材として用い得るものであることが分かる。
【0039】
図2は、全鉄成分(T−Fe)が22.4質量%の電気炉酸化スラグを約1300℃から約100℃まで約2分で急冷した後、ふるい分けし、最大寸法が0.2〜2mmの微粒子とし、この微粒子18gを内径6mm、外径7mm、長さ20cmのポリ塩化ビニル製パイプに充填し、上述のようにして磁化させた後、表面磁界分布をMI磁気センサで測定したときのチャートである。このチャートの横軸、縦軸は、
図1と同様である。尚、この電気炉酸化スラグは、全鉄成分(T−Fe)を22.4質量%含有するほか、SiO
2:19.3質量%、MnO:6.7質量%、Cr
2O
3:2.8質量%、Al
2O
3:10.9質量%、MgO:4.9質量%、CaO:20.0質量%などを含有している。
【0040】
また、
図3は、全鉄成分(T−Fe)が27.7質量%と多い電気炉酸化スラグを約1300℃から約100℃まで約2分で急冷した後、ふるい分けし、最大寸法が0.2〜2mmの微粒子とし、この微粒子18gを内径6mm、外径7mm、長さ20cmのポリ塩化ビニル製パイプに充填し、上述のようにして磁化させた後、表面磁界分布をMI磁気センサで測定したときのチャートである。このチャートの横軸、縦軸は、
図1と同様である。尚、この電気炉酸化スラグは、全鉄成分(T−Fe)を27.7質量%含有するほか、SiO
2:15.4質量%、MnO:8.0質量%、Cr
2O
3:3.1質量%、Al
2O
3:9.5質量%、MgO:5.5質量%、CaO:17.2質量%などを含有している。表面磁界分布の測定の結果、20cm当たり、
図2では7〜9個、
図3では11〜12個の明確な交番パルス磁界を発生しており、
図1のチャートで表される徐冷された電気炉酸化スラグのパルス磁界より高さはやや低いものの、高強度コンクリートの細骨材として用い得るものであることが分かる。
【0041】
このように、電気炉酸化スラグを磁化させた磁化材料をコンクリートの骨材として用いた場合、この骨材の集団は、周期的パルス列分布静磁界を永久的に発生し続ける。これにより、コンクリートの水和結晶化による硬化が促進され、高強度コンクリートが形成されると推察される。
【0042】
実施例2
普通ポルトランドセメント、細骨材(山砂)、及び粗骨材(実施例1で製造した徐冷された電気炉酸化スラグを破砕し、磁化させてなる磁性材料)を水道水とともに練り混ぜた。
【0043】
図4,5は、上述のようにして練り混ぜて調製した未硬化コンクリートを用いて、幅20cm、長さ40cm、厚さ2cmのコンクリートボードを作製したときの、長さ方向の中央線上の表面磁界をMI磁気センサにより測定した結果である。尚、このチャートの横軸は距離(z)であり、縦軸には、mGの単位表示があるが、より正確には、その距離(z)における検出磁界(B)の勾配dB/dzを示している。
図4は、打設直後に、長さ方向の中央線上を2回測定した結果であり、40cmでパルス数はともに9個である。
図5は、打設後1日経過した時点の結果であり、パルス数は13個、15個に増加していた。この現象は、コンクリートの硬化過程でボード面内の圧縮力が増加し、磁歪の逆効果によって磁化ベクトルが面垂直方向へ向くためと考えられる。
【0044】
実施例3
図6は、実施例1における徐冷した電気炉酸化スラグを破砕し、磁化させた磁化材料のM(磁化)−H(磁界)特性を、振動試料磁力計(VSM、理研電子社製、型式「VBH−50」)により測定した結果である。
図6は、2個の微小なスラグのM−H特性であり、飽和磁化Msはそれぞれ3.66、2.99emu/gr、残留磁化Mrはそれぞれ0.94、0.49emu/gr、保磁力は、それぞれ273エルステッド、190エルステッドであった。
図7は、実施例1の全鉄成分(T−Fe)が27.7質量%と多い急冷した電気炉酸化スラグを用いたほかは同様にして調製したスラグのM−H特性であり、飽和磁化Msは3.15emu/grで徐冷スラグの場合と同程度であるが、残留磁化Mrは0.27emu/grと小さく、保磁力は16.0エルステッドと1桁小さい。これはガスアトマイズ急冷により、酸化強磁性結晶が微細化したためと考えられる。
【0045】
これらの測定で得られた徐冷スラグのMsの平均値3.33emu/gr(0.033T)及び保磁力の平均値231.5エルステッドを用いて、1cm
3の大きさのスラグ片が隣接スラグ片の磁化反転を起こす臨界条件を計算すると、約5mmとなる。これは、
図1、2、4、5のパルス列分布磁界の発生を説明できる条件である。
【0046】
実施例4
電気炉酸化スラグを永久磁石により磁化させた磁化材料を粗骨材として併用し、コンクリートの圧縮強度を評価した。具体的には、普通ポルトランドセメント及び細骨材(愛知県豊田市猿投町産山砂)を一定量とし、粗骨材(愛知県豊田市猿投町産山砂利)、及び同粗骨材の20質量%、40質量%、80質量%を磁化材料により置換した配合とし、水に対するセメントの質量割合を49%として、コンクリートミキサーにより混練した。また、コンクリートの流動性を確保するため、一定量の混和剤(BASFジャパン社製ポゾリスNo.70)をセメントに対する質量の0.25%配合した。表1にコンクリートの配合を記載する。表1において、G100は粗骨材の全量が磁化していない山砂利(G)である。また、山砂利の20質量%を磁化材料(M)に置換したものをM20、山砂利の40質量%を磁化材料(M)に置換したものをM40、山砂利の80質量%を磁化材料(M)に置換したものをM80と表記する。試験体は直径100mm、長さ200mmの円柱体であり、型枠にて製作し、24時間後に脱型し、所定の材齢まで標準養生を実施した。この試験体を用いて圧縮強度及び静弾性係数を測定した。圧縮強度の結果を
図8に、静弾性係数の結果を
図9に記載する。
【0047】
【表1】
【0048】
図8は、1週間経過後、4週間経過後、13週間経過後の圧縮強度の測定結果である。測定値は3本の試験体の測定値の平均値である。
図8によれば、G100、M20、M40、M80ともに、材齢が長くなると圧縮強度が高くなっている。このことはコンクリートの一般的な特徴であるが、1週間、4週間、及び13週間経過後の各材齢ごとの強度を比較すると、いずれの材齢においてもG100<M20<M40<M80の順に強度が高くなっている。このことから、一般的な粗骨材である山砂利を磁化材料に置き換えることで圧縮強度が高くなり、且つ置き換えの割合が高くなるほど、より高強度になることが分かる。
【0049】
図9は、1週間経過後、4週間経過後、13週間経過後の静弾性係数の測定結果である。測定値は3本の試験体の測定値の平均値である。
図9よれば、G100、M20、M40、M80ともに、材齢が長くなると静弾性係数が大きくなっている。また、1週間、4週間、及び13週間経過後の各材齢ごとの係数を比較すると、いずれの材齢においてもG100<M20<M40<M80の順に係数が大きくなっている。一般に、コンクリートの静弾性係数は、コンクリートの圧縮強度と比重(密度)との関数で表され、圧縮強度が高くなるほど、また、比重が大きくなるほど、静弾性係数も大きくなる。この試験で用いた山砂利及び磁化材料の各々の表乾比重は、それぞれ2.59及び3.65と磁化材料の比重のほうが大きい。このように、
図8における圧縮強度の挙動と、
図9における静弾性係数の挙動とは整合していることが分かる
【0050】
ここで重要なことは、一般的な粗骨材である山砂利を磁化材料により置き換えるのみで、静弾性係数の大きいコンクリートが得られることである。例えば、コンクリート製の橋桁の場合、コンクリートの強度とともに曲げに対する剛性が重要になる。コンクリートを高強度化して薄肉のコンクリート橋を設置しようとしても、静弾性係数が同じであれば、曲げに対する剛性を変わらないため、橋桁の撓みが懸念される。一方、高強度であるとともに、静弾性係数が大きくなれば、曲げに対する剛性も高まり、薄肉の軽量なコンクリート橋の実現性がみえてくる。即ち、圧縮強度の上昇と磁化材料の比重が大きいこととが相俟って、静弾性係数が大きくなっており、磁化材料を用いたコンクリートは高強度(圧縮強度が高い)且つ高剛性(静弾性係数が大きい)を併せて実現した優れたコンクリートであるといえる。
【0051】
図10〜13は、圧縮強度及び静弾性係数を測定したのと同じ試験体(φ100mm×200mmの円柱体)の表面磁界分布をMI磁気センサで測定したときのチャートである。
図10はG100、
図11はM20、
図12はM40、及び
図13はM80の結果である。この測定では、円柱体側面の長手方向の磁界変化を捉えている。これらの各図の横軸は距離(z)であり、単位はmmである。また、縦軸は検出磁界(B)であり、単位はmGである。尚、
図1〜5では、縦軸が距離(z)における検出磁界(B)の勾配dB/dzとなっており、この点で
図1〜5とは異なる。
【0052】
図10によれば、粗骨材が山砂利のみのG100の試験体では、磁界が全く検出されていないことが分かる。一方、山砂利の20質量%、40質量%、80質量%を磁化材料に置き換えたM20、M40、M80の試験体では、磁界がパルス状に検出され、その強さ(縦軸の値)は磁化材料の置換量とともに徐々に大きくなっていることが分かる。更に、
図1〜5と比べて波形がなだらかにみえるのは、縦軸が検出磁界(B)であり、その距離(z)における勾配dB/dzでないためである。尚、これらのチャートは、円柱体側面の長さ方向の磁界変化の一例であるが、どの側面においても同様なパルス状の磁界が検出されている。
【0053】
実施例5及び比較例1
2個の幅20cm、長さ60cmのプランターに培養土を入れ、タカノツメ(唐辛子)を栽培した。一方のプランターには、3株を植えつける際に、根の下に直径5〜20mmの磁化材料約40個を敷設した(実施例5)。その後、磁化材料を敷設したプランターと、敷設しないプランター(比較例1)の各々に同量の培養土を入れ、2013年4月9日に、寸法のほぼ等しいタカノツメ幼苗3株ずつをそれぞれ植え付けた。また、毎日、等量の給水のみをし、追肥はしなかった。
図14は、120日経過後の実施例5(磁化スラグ側)及び比較例1(対照側)の各々の苗であり、実施例5では、3株とも白い花が開花し、151日経過後には、3株の合計で15個の結実が確認された。一方、比較例1(対照側)では、開花もしなかった。また、240日経過後に収穫をしたところ、実施例5では赤い実は45個(結実している様子を表す
図15参照)であり、比較例1では僅か4個(
図16参照、極めて数が少ないため、この図では実はみられない。)であった。このように、タカノツメの栽培で、磁化材料を敷設することにより、苗の生長と開花・結実において生物活性効果が顕著に発現された。
【0054】
実施例6及び比較例2
2個の幅20cm、長さ60cmのプランターに同量の培養土を入れ、ミニ白菜を栽培した。この栽培試験では、直径5〜20mmの磁化材料を粗骨材とし、幅20cm、長さ38cm、厚さ2cmのコンクリートボード(重量4.5kg)を1枚手練りで作製した。その後、コンクリートボードの生物活性の指標となる表面磁界の発生を、ボード上1cmの高さにおいて長さ方向に磁気センサで測定した(
図17参照)。次いで、このボードをプランターの下に配設した(実施例6)。また、同寸法のプランターの下に、上述のコンクリートボードと同寸法の木製の板を配設した(比較例2)。次いで、各々のプランターに同量の培養土を入れ、2013年9月4日に、寸法のほぼ等しいミニ白菜の幼苗3株づつをそれぞれ植え付けた。また、毎日、等量の給水のみをし、追肥はしなかった。
図18は植え付けから6ケ月経過後の苗であり、実施例6(磁化スラグボード側)では、特に2株の生長が早く、比較例2(対照側)と比べて明らかに異なっている。尚、実施例5では、磁化材料を栽培土中に埋設したため、磁化材料の成分が溶出した可能性も否定できず、生物活性効果が純粋に磁界の効果のみによるものとは断定できないかもしれないが、この実施例6では、生物活性効果は純粋に磁界によるものと断定することができる。
【0055】
実施例7及び比較例3
実施例4で作製した粗骨材が山砂利のみのG100の試験体(比較例3)、及び山砂利の80質量%を磁化材料に置き換えたM80の試験体(実施例7)(試験体はいずれも直径が100mm、長さが200mmの円柱体である。)から、厚さ10mmの円板プレートを切り出した。その後、各々の円板プレートを発芽・生育試験の試験ポットの下に配置し、コマツナの発芽・生育効果を評価するための幼植物試験を実施した。試験方法は「植物に対する害に関する栽培試験の方法(昭和59年4月18日付59農蚕第1943号農林水産省農蚕園芸局長通知)」に準じているが、試験設計や植物個体の間引等、一部改変して実施した。試験ポットとしては、内径11.3cm、高さ6.5cmの鉢(ノイバウエルポット)を用いた。試験ポット数は実施例7及び比較例3各5個とした。
【0056】
供試土壌としては、土性が壌土の洪積土である黒ボク土を予め風乾させ、目開き2mmの篩下を用いた。また、供試作物として、コマツナ(品種は菜々音)20粒を播種した。肥料としては、全てのポットにアンモニア性窒素(A−N)、可溶性りん酸(S−P
2O
5)、水溶性加里(W−K
2O)として50mgに相当する量の硫酸アンモニア、過りん酸石灰及び塩化加里を施用した。試験期間中における栽培温度は、原則として15〜25℃の範囲に保持した。栽培期間は、播種後、3週間とした。具体的には、供試土壌に肥料を均一に混合してポットに詰めたうえで水分調整(最大容水量の60質量%)し、供試作物20粒を播種した。次いで、これらのポットを上述したG100(比較例3)及びM80(実施例7)の円板プレート上に配置した。更に、発芽した個体について、播種後、4日目に8本を間引き、7日目に2本を間引き、残り10本を生育させ、播種から21日後に収穫した。尚、水分は毎日与え、水分調整(最大容水量の60質量%)をした。試験終了後、各ポットで最も生育の良い葉の草丈の測定を行った。
【0057】
図19は、コマツナの発芽・生育試験結果である。外観上は大きな差異は感じられないが、草丈の測定結果では、平均値でG100の円板プレートを配置した比較例3(対照側)では10.1cm(5個のポットの各々の草丈は、10.0cm、9.9cm、10.2cm、10.3cm、10.0cmであった。)、M80の円板プレートを配置した実施例7(磁化スラグ側)では10.5cm(5個のポットの各々の草丈は、10.4cm、10.4cm、10.6cm、10.3cm、10.6cmであった。)と、約5%の差異が確認された。これはデータのばらつきを考慮しても有意な差と言える。
【0058】
尚、本発明においては、上述の具体的な実施例に記載されたものに限らず、目的及び用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。例えば、コンクリートの所要強度等によって、転炉スラグや電気炉還元スラグ等の他の鉄鋼スラグを用いることもできる。