(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ここで提案されるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法についての一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、各図は模式的に描かれており、例えば、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいう。「リチウムイオン二次電池」は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る電極(正極および負極)の製造工程を具現化する製造装置10を示す模式図である。かかる製造装置10は、正極形成工程および負極形成工程の双方に利用され得る。ここで、製造装置10は、
図1に示すように、搬送装置22と、バインダ塗布装置21と、造粒粒子供給装置24と、スキージ部材25と、プレスローラ26,27とを備えている。図中の矢印Fは、適宜、搬送方向を示している。ここで、搬送装置22は集電体12を搬送する装置である。バインダ塗布装置21は、バインダ液21dを塗布する装置である。造粒粒子供給装置24は、造粒粒子32(
図2参照)を供給する装置である。製造装置10を構成するこれらの装置については、後述する。
図2は、造粒粒子32を模式的に示す図である。
【0013】
ここで提案される正極形成工程および負極形成工程は、以下の工程(a)〜(d)を含んでいる。
(a)バインダコート層の形成工程
(b)造粒粒子の供給工程
(c)均し工程
(d)プレス工程
【0014】
<a.バインダコート層の形成工程>
工程aでは、集電体12の上にバインダ液21dをパターン塗工してバインダコート層を形成する。
【0015】
集電体12は、電極(正極および負極)において電気が取り出される部材である。例えば、リチウムイオン二次電池に用いられる集電体12には、電子伝導性に優れ、電池内部で安定に存在する材料が用いられる。また、軽量化や所要の機械強度や加工のしやすさなどが求められる。例えば、
図1に示す例では、集電体12として、帯状の金属箔が用意されている。ここでは、集電箔としての帯状の金属箔は、図示は省略するが、巻芯に巻かれた状態で用意されているとよい。
【0016】
リチウムイオン二次電池の正極を形成する場合、例えば、正極集電体としてアルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられる。必要に応じて、正極集電体に対して、表面の圧延油を除去して濡れ性を向上させる処理、例えば熱処理やコロナ放電処理やプラズマ処理などを施してもよい。正極集電体の厚みは特に限定されないが、高強度および低抵抗の観点から、概ね5μm〜30μmが適当であり、好ましくは10μm〜20μm(例えば15μm)である。
【0017】
リチウムイオン二次電池の負極を形成する場合、例えば、負極集電体として銅または銅合金が用いられる。必要に応じて、負極集電体の表面に無機防錆処理、有機防錆処理、その他の防錆処理を施してもよい。負極集電体の厚みとしては、特に限定されないが、高強度および低抵抗の観点から、概ね6μm〜20μmが適当であり、好ましくは8μm〜15μm(例えば10μm)である。
【0018】
そして、
図1に示された製造装置10は、上述した帯状の集電体12を長さ方向に沿って搬送する工程を備えている。ここでは、帯状の集電体としての集電体12が、搬送装置22によって、予め定められた搬送経路に沿って搬送されている。かかる帯状の集電体12は、
図1に示すように、ロールtoロールによって、搬送しつつ、所定の処理を施すのに向いている。なお、集電体は金属箔に限定されない。例えば、製造される電極の用途によっては、集電体12は、導電性を有する樹脂フィルムでもよい。
【0019】
バインダ液21dは、溶媒にバインダを分散または溶解させた液である。バインダ液21dの溶媒としては、環境負荷を軽減するとの観点において、いわゆる水系の溶媒が好適に用いられる。この場合、水または水を主体とする混合溶媒が用いられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒成分としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。また、バインダ液21dの溶媒は、いわゆる水系の溶媒に限定されず、いわゆる有機溶剤系であってもよい。有機溶剤系のものとしては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)などが挙げられる。
【0020】
また、バインダ液21dに含まれるバインダとしては、使用する溶媒に分散または溶解し得るポリマー材料を用いることが好ましい。かかるバインダ(第1バインダ)は、例えば造粒粒子の作製に用いるものと同じであってもよく、異なっていてもよい。一例として、例えば溶媒が水系の場合、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)などの使用が好ましい。また、溶媒として有機溶剤系のものを用いる場合、バインダとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)などを好ましく用いることができる。バインダ液21dの好適例としては、例えば、リチウムイオン二次電池の正極では、水を溶媒とし、バインダとしてのSBRやアクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸エステル樹脂)を混ぜるとよい。また、リチウムイオン二次電池の負極では、水を溶媒とし、バインダとしてのSBRを混ぜるとよい。
【0021】
バインダ液21d中の溶媒量としては、取扱性や塗工性を高める観点から、概ね20質量%〜80質量%、好ましくは30質量%〜75質量%であるとよい。
【0022】
バインダ液21dは、例えば、予め定められた塗工パターンで集電体12に塗布されるとよい。ここでは、集電体12に予め定められた領域にバインダ液21dが塗られる。バインダ液21dは、例えば、グラビア印刷などで塗布されるとよい。例えば、バインダ塗布装置21には、ダイレクトグラビアロールコーター(direct gravure roll coater)が用いられうる。かかるバインダ塗布装置21では、所定のパターン形状が表面に彫刻されたグラビアロール21aを用いたダイレクトグラビアによって、バインダ液21dが集電体12に転写される。
図1に示す例では、搬送装置22において、バインダ液21dが塗布される処理面(活物質層が形成される面)を下に向けて、帯状の集電体12を搬送し、当該集電体12にグラビアロール21aを当てる。グラビアロール21aの下側は、貯留槽21bに貯められたバインダ液21dに浸かっている。また、グラビアロール21aが集電体12に当たる面の裏側にはバックロール21cが当てられている。これにより、貯留槽21bに貯められたバインダ液21dは、グラビアロール21aを通じて集電体12に連続して転写される。かかる転写によって、集電体12上にグラビアロール21aのパターン形状に対応する塗工部16a(
図3参照)と未塗工部16b(
図3参照)とからなるバインダ液21dの塗工パターンが形成される。
【0023】
かかる塗工パターンは、集電体12の表面のうち活物質層14が形成される領域に形成されるとよい。集電体12の表面のうち活物質層14が形成される領域の面積を100%とした場合、上記塗工パターンにおける集電体12の露出面積比率は、集電体12と活物質層14との接着性を高める観点から、概ね5%以上、好ましくは10%以上であるとよい。また、抵抗を低減する観点から、概ね95%以下、好ましくは90%以下であるとよい。塗工パターンの詳細については後述する。
【0024】
かかるバインダ液21dの塗工パターンを、必要に応じて放熱機等の乾燥手段により乾燥することにより、集電体12の表面にバインダコート層16が形成される。バインダコート層16の厚みは、集電体12と活物質層14との接着性を高める観点から、例えば0.2μm以上、好ましくは0.5μm以上の厚みとするとよい。また、抵抗を低減する観点からは、例えば10μm以下、好ましくは5μm以下の厚みとするとよい。なお、バインダ液21dの溶媒量が少ない場合は、上記放熱機等の乾燥手段は省略しても構わない。
【0025】
<b.造粒粒子の供給工程>
工程bでは、前記バインダコート層の上に造粒粒子32を供給する。
図1に示す例では、集電体12は、搬送装置22に沿って転回され、バインダコート層が形成された面を上に向けて搬送される。集電体12の搬送経路には、造粒粒子供給装置24が配置されている。この造粒粒子供給装置24により、造粒粒子32を供給している。
【0026】
ここで供給される造粒粒子32は、
図2に示すように、活物質粒子34と、バインダ36(第2バインダ)とを少なくとも含んでいる。かかる造粒粒子32は、個々の活物質粒子34の表面にバインダ36が付着し、さらにその活物質粒子34がバインダ36によって互いに結合された態様であり得る。好適な一態様では、バインダ36が活物質粒子34の内部および外表面に局所的に偏在することなく略均一に分散されて配置されている。造粒粒子32は、活物質粒子34およびバインダ36以外の材料が含まれていてもよく、例えば、導電材や増粘材が含まれていてもよい。
【0027】
造粒粒子の性状としては、例えば、平均粒径Rが凡そ50μm以上であるとよい。均質な活物質層を形成する観点から、造粒粒子の平均粒径Rは、好ましくは60μm以上、より好ましくは70μm以上である。また、造粒粒子の平均粒径Rは、概ね120μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下である。ここで開示される技術は、例えば、造粒粒子の平均粒径が50μm以上120μm以下である態様で好ましく実施され得る。
【0028】
なお、本明細書中において「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径を意味するものとする。ここで、積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径を適宜に「D50」と称する。より具体的には、レーザ回析・散乱式粒度分布測定装置(例えば、「マイクロトラックMT−3200II」、日機装株式会社製)を用い、圧縮空気による粒子の分散は行わず、乾式測定した50%体積平均粒子径である。
【0029】
かかる造粒粒子32は、例えば、活物質粒子34とバインダ36とを所定の割合で混合して、造粒、分級等を行うことで用意することができる。造粒の手法としては特に制限はなく、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法(噴霧造粒法)等を採用することができる。一好適例では、活物質粒子34とバインダ36とを溶媒に混ぜ合わせた合剤(懸濁液)を、スプレードライ法で造粒する。スプレードライ法では、合剤が乾燥雰囲気中に噴霧される。この際、噴霧される液滴に含まれる粒子が概ね1つの塊になって造粒される。このため、液滴の大きさによって、造粒粒子32に含まれる固形分量が変わり、造粒粒子32の大きさや質量などが変わる。噴霧される液滴には、活物質粒子34とバインダ36とが少なくとも含まれているとよい。また噴霧される液滴には、例えば、導電材や増粘材が含まれていてもよい。
【0030】
リチウムイオン二次電池の正極を形成する場合、正極活物質粒子としては、従来からリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられている各種の材料を特に限定なく使用することができる。好適例として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO
2)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO
2)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn
2O
4)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩などが、挙げられる。正極活物質粒子の平均粒径(D50)は特に限定されないが、概ね1μm〜10μm程度が適当であり、好ましくは4μm〜6μmである。
【0031】
リチウムイオン二次電池の負極を形成する場合、負極活物質粒子としては、従来からリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられている各種の材料を特に限定なく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、チタン酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属窒化物、シリコン化合物などが挙げられる。負極活物質粒子の平均粒径(D50)は特に限定されないが、概ね10μm〜30μm程度が適当であり、好ましくは15μm〜25μmである。また、負極活物質粒子として炭素系材料を用いる場合、負極活物質粒子の比表面積は概ね1m
2/g〜10m
2/gとすることが適当であり、好ましくは1.5m
2/g〜5m
2/gであり、特に好ましくは2m
2/g〜3m
2/gである。
【0032】
造粒粒子32に含ませるバインダ36としては、活物質の結合を実現し得る各種の材料のなかから採用する造粒方法に適した材料を選択・使用するとよい。一例として、湿式の造粒方法(例えば前記スプレードライ法)を採用する場合には、溶媒に溶解または分散可能なポリマーが用いられる。水性溶媒に溶解または分散可能なポリマーとしては、例えば、アクリレート重合体、ゴム類(スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)、酢酸ビニル共重合体、などが挙げられる。また、非水溶媒に溶解または分散可能なポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。また、造粒粒子32に含ませるバインダ36として、セルロース系ポリマー、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))などを用いてもよい。
【0033】
また、導電材を含む構成においては、導電材として、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどの粉末を用いることができる。かかる導電材は、活物質粒子34と集電体12との導電パスを形成するうえで、導電性が乏しい活物質粒子34を用いる場合に好適に添加される。
【0034】
また、増粘剤を含む構成においては、増粘剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CMCのナトリウム塩(CMC−Na)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)などの材料が例示される。このような増粘剤から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0035】
造粒粒子供給装置24は、搬送装置22によって搬送される集電体12のバインダコート層の上に造粒粒子32を供給する。ここでは、造粒粒子供給装置24は、造粒粒子32を貯留するホッパ24aを備えている。ホッパ24aは、図示は省略するが、造粒粒子32を供給する量を調整する調整装置を備えているとよい。この場合、ホッパ24aは、例えば、集電体12の搬送速度などに応じて造粒粒子32の供給量を調整し、適当な量の造粒粒子32をバインダコート層16の上に供給するとよい。ここでは、造粒粒子32は、複数の造粒粒子32が集まった集合体(粉体30)として供給される。
【0036】
<c.造粒粒子の均し工程>
工程cでは、バインダコート層16の上に供給された造粒粒子32にスキージ部材25を当てて均す。かかる工程では、例えば、バインダコート層の上に供給された造粒粒子32の厚さ(つまり、造粒粒子32の粉体30の厚さ)が均一に整えられる。この実施形態では、造粒粒子供給装置24の下流側(集電体の搬送経路における下流側)にスキージ部材25が設けられている。スキージ部材25は、バインダコート層の上に供給された造粒粒子32の厚さを調整する。例えば、スキージ部材25と搬送される集電体12(バインダコート層)との間には間隙があり、かかる間隙に応じて通過する造粒粒子32の厚さが調整される。この実施形態では、スキージ部材25は、集電体12の上に供給された造粒粒子32を、厚さ方向に挟むように配置されたローラスキージ25aと、バックロール25bとで構成されている。なお、ここでは、スキージ部材25は、ロール状の部材であるが、ブレード状の部材でもよい。スキージ部材25と集電体12(バインダコート層)との間隙は、造粒粒子32の粒径および目付量にもよるが、例えば、凡そ100μm〜300μm程度(好適例としては、凡そ150μm〜250μm程度)に調整するとよい。
【0037】
リチウムイオン二次電池の正極を形成する場合、正極造粒粒子の目付量(すなわち正極造粒粒子の単位面積当たりの質量)が、少なくとも15mg/cm
2(好ましくは18.9mg/cm
2以上)となるように設定されているとよい。ここで開示される技術は、例えば、正極造粒粒子の目付量が15mg/cm
2以上35mg/cm
2以下(好ましくは18.9mg/cm
2以上35mg/cm
2以下である態様で好ましく実施され得る。
【0038】
リチウムイオン二次電池の負極を形成する場合、負極造粒粒子の目付量(すなわち負極造粒粒子の単位面積当たりの質量)が、少なくとも5mg/cm
2(好ましくは9.3mg/cm
2以上)となるように設定されているとよい。負極造粒粒子の目付量は、好ましくは10mg/cm
2以上、より好ましくは15mg/cm
2以上である。ここで開示される技術は、例えば、負極造粒粒子の目付量が5mg/cm
2以上20mg/cm
2以下(好ましくは9.3mg/cm
2以上20mg/cm
2以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0039】
<d.プレス工程>
工程dでは、バインダコート層16の上に供給した造粒粒子32をプレス(圧延)することで、集電体12上に活物質層14を形成する。この実施形態では、プレスローラ26,27は、帯状の集電体12が搬送される搬送経路において、造粒粒子32と集電体12とを挟む部材である。この場合、集電体12に堆積させる造粒粒子32の厚さを考慮して、プレスローラ26,27の間隙を調整するとよい。これによって、適当な強さで造粒粒子32が集電体12に押し付けられ、集電体12上に固着される。同時に、造粒粒子32中でバインダ36の接触箇所が増え、造粒粒子32同士が相互に密着される。これにより、集電体12の表面に活物質粒子34を含む層(活物質層14)が略一定の厚みで成形される。
【0040】
プレスローラ26,27の間隔は、例えば形成する活物質層14が所望の性状(例えば厚みや空隙率)となるよう調整するとよい。 また、プレスの際には適宜加熱等の成形促進手段を併用することもできる。加熱状態でプレスを行うことにより、造粒粒子32に含まれるバインダ36を軟化あるいは溶融させることができ、造粒粒子32同士をより強固に結着させる効果が期待できる。
【0041】
以下、バインダコート層16の塗工パターンについて、より詳細に説明する。
図3は、集電体12の上に堆積したバインダコート16層と、該バインダコート16層の上に供給された造粒粒子32の粉体30とを示す平面図である。
図4は、
図3のIV−IV断面図である。
図3および
図4では、粉体30を一部において仮想的に取り除き、バインダコート層16が露見した状態が図示されている。
【0042】
バインダコート層16は、
図3および
図4に示すように、バインダ液21dが塗工されてなる帯状(幅狭な線状も含み得る。以下、同じ。)の塗工部16aと、バインダ液21dが塗工されていない帯状の未塗工部16bとが交互に隣接するように、集電体12の上に間欠的に形成されている。この実施形態では、塗工部16aは、集電体12の長手方向に延びた複数の線(仮想線)L1に沿って形成されている。ここでは集電体12の長手方向に延びた線L1は、直線で設定されている。また、集電体12の長手方向に延びた複数の線L1は、互いに交わらず、集電体12の長手方向に平行に延びるように、複数設定されている。塗工部16aは、かかる複数の線L1に沿って形成されており、集電体12の上に、長手方向に延びるように連続して形成されている。
【0043】
ここで開示される製造方法では、バインダコート層16の塗工部16aの幅(すなわち帯状の塗工部16aの長手方向に直交する幅方向の長さ)をt1、未塗工部16bの幅(すなわち帯状の未塗工部16bの長手方向に直交する幅方向の長さ)をt2、造粒粒子32の平均粒径をRとした場合に、
(1)0.53R≦t1≦10R;
(2)0.66R≦t2≦10R;
(3)0.2≦t1/t2≦3.75;
の関係式が成立する。
【0044】
<塗工部の幅>
塗工部16aの幅t1は、上記(1)式で示されるように、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、0.53R≦t1であればよい。塗工部16aの幅t1が造粒粒子32の平均粒径Rに対して小さすぎると、
図5に示すように、造粒粒子32に対してバインダの塗工面積が少なすぎるため、バインダコート層16の結着力が不足し、造粒粒子32と集電体12との密着性が低下する。そのため、前述したローラスキージ25a(
図1)による均しの際に、造粒粒子32の粉体30が搬送される集電体12の動きに追従できず、集電体12の上で滑る事象が発生する。その結果、粉体30が集電体12とローラスキージ25aの隙間に適切に入っていかず、供給量(ひいては目付量)にバラツキが生じる事態が起こり得る。目付精度を高める観点からは、塗工部16aの幅t1は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、好ましくは0.8R≦t1であり、より好ましくは1R≦t1であり、特に好ましくは1.5R≦t1である。
【0045】
また、塗工部16aの幅t1は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、t1≦10Rであればよい。塗工部16aの幅t1が造粒粒子32の平均粒径Rに対して大きすぎると、
図6に示すように、造粒粒子32に対してバインダの塗工面積が多すぎるため、造粒粒子32が集電体12に直接的に接触しにくくなる。そのため、造粒粒子32と集電体12間の電子伝導が十分に確保されず、電池抵抗が増大する。抵抗を低減する観点からは、塗工部16aの幅t1は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、好ましくはt1≦8Rであり、より好ましくはt1≦6Rであり、特に好ましくはt1≦2Rである。例えば、0.53R≦t1≦10R(特に0.53R≦t1≦2R)の幅t1を満足する塗工部16a
が、目付精度の向上と抵抗増大の抑制とを両立させるという観点から適当である。
【0046】
特に限定されるものではないが、塗工部16aの幅t1を例示すると、例えば、造粒粒子32の平均粒径Rが50μm〜120μm(特に50μm〜75μm)の場合、塗工部16aの幅t1は、概ね30μm〜800μmの範囲内に設定することができ、好ましくは40μm〜750μm、より好ましくは60μm〜500μm、特に好ましくは100μm〜150μmである。このような塗工部16aの幅t1の範囲内であると、高い目付精度と低抵抗とをより高いレベルで両立させることができる。
【0047】
<未塗工部の幅>
未塗工部16bの幅t2は、上記(2)式で示されるように、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、0.66R≦t2であればよい。未塗工部16bの幅t2が造粒粒子32の平均粒径Rに対して小さすぎると、
図7に示すように、造粒粒子32が集電体12に直接的に接触しにくくなる。そのため、造粒粒子32と集電体12間の電子伝導が十分に確保されず、電池抵抗が増大する。抵抗を低減する観点からは、未塗工部16bの幅t2は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、好ましくは0.8R≦t2であり、より好ましくは1.2R≦t2であり、特に好ましくは1.5R≦t2である。
【0048】
また、未塗工部16bの幅t2は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、t2≦10Rであればよい。未塗工部16bの幅t2が造粒粒子32の平均粒径Rに対して大きすぎると、
図8に示すように、バインダを介さずに集電体12と直接接触する造粒粒子32が増えすぎるため、造粒粒子32と集電体12との密着性が低下する。そのため、前述したローラスキージ25a(
図1)による均し工程の際に、造粒粒子32の粉体30が搬送される集電体12の動きに追従できず、集電体12の上で滑る事象が発生する。その結果、粉体30が集電体12とローラスキージ25aの隙間に適切に入っていかず、供給量(ひいては目付量)にバラツキが生じる事態が起こり得る。目付精度を高める観点からは、未塗工部16bの幅t2は、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、好ましくはt2≦6Rであり、より好ましくはt2≦4Rであり、特に好ましくはt2≦2.67Rである。例えば、0.53R≦t2≦10R(特には0.8R≦t2≦2.67R)の幅t2を満足する未塗工部16bが、高い目付精度と低抵抗とを両立させるという観点から適当である。
【0049】
特に限定されるものではないが、未塗工部16bの幅t2を例示すると、例えば、造粒粒子32の平均粒径Rが50μm〜120μm(特に50μm〜75μm)の場合、未塗工部16bの幅t2は、概ね40μm〜800μmの範囲内に設定することができ、好ましくは50μm〜750μmであり、より好ましくは60μm〜500μmであり、特に好ましくは60μm〜200μmである。このような未塗工部16bの幅t2の範囲内であると、高い目付精度と低抵抗とをより高いレベルで両立させることができる。
【0050】
また、塗工部16aの幅t1と、未塗工部16bの幅t2との関係は、上記(3)式で示されるように、0.2≦t1/t2≦3.75を満足すればよい。このような幅の比率(t1/t2)で塗工部16aと未塗工部16bとを交互に設けることにより、バインダコート層16に対して粉体30が適切に配置される。ここで開示される技術は、例えば、上記幅の比率(t1/t2)が0.75≦t1/t2≦3である態様で好ましく実施され得る。
【0051】
ここで開示される製造方法によれば、造粒粒子32の平均粒径Rに対して、バインダコート層16の塗工部16aおよび未塗工部16bの幅t1、t2が上記式(1)〜(3)を満たすように設定されている。これにより、バインダコート層16に対して造粒粒子32の粉体30が適切に配置されるので、バインダを過度に塗工することなく、造粒粒子32と集電体12との密着性を適切に確保することができる。かかる態様によると、電気抵抗の増大を抑えつつ、ローラスキージ25aによる均しの際に、造粒粒子32の粉体30がローラスキージ25aと集電体12との隙間に適切に入りやすい。そのため、集電体12の上で粉体30の供給をより一層均質化することができる。また、過剰に供給された造粒粒子32の粉体30を、供給の少ない部位へと均すことができ、集電体12上に均質な目付量の活物質層14を形成することができる。
【0052】
<リチウムイオン二次電池>
以下、上述した製造装置10を用いて形成された負極(負極シート)および正極(正極シート)を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の一実施形態につき、
図9および
図10に示す模式図を参照しつつ説明する。
図9は本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の断面図である。
図10は、当該リチウムイオン二次電池100に内装される電極体40を示す図である。このリチウムイオン二次電池100は、正極(正極シート)50として、上述した製造装置10を用いて製造された正極(正極シート)50が用いられている。また、負極(負極シート)60として、上述した製造装置10を用いて製造された負極(負極シート)60が用いられている。
【0053】
正極シート50は、
図10に示すように、帯状の正極集電体52と正極活物質層53とを備えている。正極集電体52の幅方向片側の縁部に沿って正極活物質層非形成部51が設定されている。図示例では、正極活物質層53は、正極集電体52に設定された正極活物質層非形成部51を除いて、正極集電体52の両面に保持されている。正極シート50の製造方法については、前述したとおりであるので、その説明は省略する。
【0054】
負極シート60は、帯状の負極集電体62と負極活物質層63とを備えている。負極集電体62の幅方向片側には、縁部に沿って負極活物質層非形成部61が設定されている。負極活物質層63は、負極集電体62に設定された負極活物質層非形成部61を除いて、負極集電体62の両面に保持されている。負極シート60の製造方法については、前述したとおりであるので、その説明は省略する。
【0055】
セパレータ72、74は、
図10に示すように、正極シート50と負極シート60とを隔てる部材である。この例では、セパレータ72、74は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ72、74には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。また、かかる樹脂で構成されたシート材の表面に、絶縁性を有する粒子の層をさらに形成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。この例では、
図10に示すように、負極活物質層63の幅b1は、正極活物質層53の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ72、74の幅c1、c2は、負極活物質層63の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0056】
捲回電極体40を作製するに際しては、正極シート50と負極シート60とがセパレータ72、74を介して積層される。このとき、正極シート50の正極活物質層非形成部51と負極シート60の負極活物質層非形成部61とがセパレータ72、74の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように重ね合わせる。このように重ね合わせた積層体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体40が作製され得る。この実施形態では、捲回電極体40は、
図10に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。
図10に示す例では、正極シート50の正極活物質層非形成部51と負極シート60の負極活物質層非形成部61は、それぞれセパレータ72、74の両側においてらせん状に露出している。この実施形態では、
図9に示すように、正極活物質層非形成部51の中間部分は、寄せ集められ、電池ケース80の内部に配置された電極端子(内部端子)の集電タブ87、86に溶接される。
図9中の87a、86aは当該溶接個所を示している。
【0057】
電解液(非水電解液)85としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF
6,LiBF
4,LiAsF
6,LiCF
3SO
3,LiC
4F
9SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiC(CF
3SO
2)
3等のリチウム塩を用いることができる。
【0058】
ケース80の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。
【0059】
このようにして構築されたリチウムイオン二次電池100は、正極集電体52および負極集電体62の表面に造粒粒子が均一に供給され、目付品質の高い正極活物質層53および負極活物質層63を有する正極50および負極60を備えていることから、優れた電池性能を示すものであり得る。例えば、かかるリチウムイオン二次電池100は、ハイレートサイクル特性に優れる、入出力特性に優れる、熱的安定性に優れる、のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)を満たすものであり得る。
【0060】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
ここでは、リチウムイオン二次電池用の正極の種々のサンプルを作製し、それらの目付精度を評価した。また、かかる正極サンプルを用いてリチウムイオン二次電池(評価用セル)を構築し、それらのIV抵抗を評価した。
【0061】
<試験例1>
<正極シートの作製>
正極シートは、以下のようにして作製した。正極活物質としてのLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2粉末(平均粒径:4μm〜5μm)と、導電材としてのABと、バインダとしてのアクリレート重合体と、増粘剤としてのCMC−Naと、界面活性剤としてのレオコール(登録商標:ライオン株式会社製)とを水とともにプラネタリーディスパーに投入して均一に混合することで、正極造粒粒子形成用の調製液を用意した。そしてこの調製液を噴霧し、液滴状態で溶媒を除去し、乾燥させることで、平均粒径が75μmの正極造粒粒子の粉体を得た。
【0062】
次に、バインダとしてのアクリレート重合体を水に分散させたバインダ液を用意し、
図1に示すような製造装置を用いて、該バインダ液を正極集電体(厚み15μmのアルミニウム箔を使用した。)の片面にグラビア印刷によりパターン塗工してバインダコート層を形成した。ここで、上記バインダコート層は、
図3および
図4に示すように、バインダ液が塗工されてなる帯状の塗工部16aと、バインダ液が塗工されていない帯状の未塗工部16bとが交互に隣接するように、正極集電体の上に間欠的に形成した。バインダコート層の厚みは1μmとした。
【0063】
次いで、上記バインダコート層の上に正極造粒粒子の粉体を目付量が18.9mg/cm
2となるように供給した。そして、ローラスキージを当てて均した後、正極造粒粒子の粉体をプレスすることで、厚みが68μm、密度が2.8g/cm
3の正極活物質層を形成した。このようにして、正極集電体の片面に正極活物質層が保持された正極シートを得た。
【0064】
ここで、正極シートの各サンプルは、バインダコート層について、塗工部16aの幅t1(
図4参照)や、未塗工部16bの幅t2(
図4参照)が異なる。ここでは、塗工部16aの幅t1を30μm〜800μmの間で異ならせて正極シートを作製した。また、未塗工部16bの幅t2を40μm〜800μmの間で異ならせて正極シートを作製した。
【0065】
<工程能力指数の算出>
各サンプルの正極シートから直径30mmの切片を計60個ランダムに打ち抜き、正極活物質層の目付量を測定した。そして目付量の工程能力指数(Cpk)を算出した。ここで工程能力指数(Cpk)は、各切片の目付量の平均値をAve、標準偏差をσ、目付量の下限規格値をX(mg/cm
2)とした場合、Cpk=(X−Ave)/3σから算出される。ここでは下限規格値Xを18.3mg/cm
2として算出した。結果を表1に示す。ここではCpkが1.0以上の場合を良品「○」とし、1.0未満を不良「×」とした。
【0067】
<評価用セルの構築>
また、各サンプルの正極シートを用いて評価用セル(ラミネートセル)を構築した。評価用セルは、上記正極シートを略矩形に切り出した正極と、負極集電体の片面に負極活物質層が形成された負極と、正極活物質層と負極活物質層との間に介在したセパレータと、電解液とを備えている。
【0068】
評価用セルの負極は、以下のようにして作製した。負極活物質として天然黒鉛粉末と、バインダとしてのアクリレート重合体と、増粘剤としてのCMC−Naとを水とともにプラネタリーディスパーに投入して均一に混合することで、負極造粒粒子形成用の調製液を用意した。そしてこの調製液を噴霧し、液滴状態で溶媒を除去し、乾燥させることで、負極造粒粒子の粉体を得た。
次いで、負極集電体として厚みが10μmの銅箔を用意し、
図1の示す装置を用いて負極集電体の片面に負極造粒粒子の粉体を目付量が9.3mg/cm
2となるように供給した。そして、ローラスキージを当てて均した後、負極造粒粒子の粉体をプレスすることで、厚みが68μm、密度が1.36g/cm
3の負極活物質層を形成した。このようにして、負極集電体の片面に負極活物質層が形成された負極シートを得た。かかる負極シートを略矩形に切り出して評価用セルの負極を得た。
【0069】
評価用セルのセパレータには、総厚みが平均24μmの、ポリエチレン(PE)の両面をポリプロピレン(PP)で挟んだ形態の3層構造(PP/PE/PP)の微多孔質シートを用いた。
【0070】
上記正極と上記負極とを、互いの活物質層が対向するようにセパレータを挟んで積層し、電解液とともにラミネートフィルム(外装部材)に収容した。このようにして評価用セル(ラミネートセル)を構築した。
【0071】
<IV抵抗の測定>
上記評価用セルについて、温度−6.7℃で、SOC20%に調整した各電池に対し、4Cの放電レートで10秒間、CC放電を行い、そのときの電圧降下を測定した。測定された電圧降下の値(V)を、対応する電流値で除してIV抵抗(mΩ)を算出した。結果を表1に示す。 ここではIV抵抗が500mΩ未満の場合を良品「○」とし、500mΩ以上を不良「×」とした。
【0072】
表1に示されるように、造粒粒子の平均粒径Rが75μmの場合、バインダコート層の塗工部の幅t1を0.53R≦t1≦10R、未塗工部の幅t2を0.66R≦t2≦10Rとしたサンプルは、Cpkがいずれも1.0以上となり、目付精度が良好であった。またIV抵抗についても、何れも500mΩ未満であり、電池性能に優れていた。この結果から、バインダコート層の塗工部の幅t1を0.53R≦t1≦10R、未塗工部の幅t2を0.66R≦t2≦10Rとすることで、高い目付精度と低抵抗とを両立させ得ることが確認された。
【0073】
<試験例2>
本例では、造粒粒子の平均粒径Rを50μmに変更したこと以外は、試験例1と同様の手順で正極シートおよび評価用セルを作製した。ここでは、塗工部16aの幅t1を40μm〜800μmの間で異ならせて正極シートを作製した。また、未塗工部16bの幅t2を40μm〜800μmの間で異ならせて正極シートを作製した。結果を表2に示す。なお、塗工部の幅t1を150μm、未塗工部の幅t2を800μmとしたサンプルは、活物質層を成型することができなかった。
【0075】
表2に示されるように、造粒粒子の平均粒径Rが50μmの場合、バインダコート層の塗工部の幅t1を0.8R≦t1≦3Rとし、未塗工部の幅t2を0.8R≦t2≦4Rとしたサンプルは、Cpkがいずれも1.0以上となり、目付精度が良好であった。またIV抵抗についても、何れも500mΩ未満であり、電池性能に優れていた。この結果から、高い目付精度と低抵抗とを両立させ得ることが確認された。
【0076】
以上、ここで提案されるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法を説明したが、特に言及されない限りにおいて、本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は上述した実施形態に限定されない。
【0077】
例えば、
図3および
図4の例では、バインダコート層16の塗工部16aは、集電体12の長手方向に伸びる複数の線(仮想線)L1に沿って形成されている。バインダコート層16の塗工パターンはこれに限定されるものではない。バインダコート層16は、帯状の塗工部16aと、帯状の未塗工部16bとが交互に隣接するように、集電体12の上に間欠的に形成されていればよい。例えば、塗工部16aは、
図11に示すように、集電体12を斜めに横切る複数の線L1に沿って形成されてもよい。この場合、上述した実施形態と同等もしくはそれ以上の効果を得ることができる。あるいは集電体12をジグザグに横切る線に沿って形成されてもよい。このような場合であっても、上述の効果を得ることができる。
【0078】
ここで提案される製造方法によって製造された電極を備えるリチウムイオン二次電池は、活物質層の目付精度が高く、安定した品質の電極を備えている。このため、安定した性能が要求される用途で好ましく用いられる。かかる用途としては、例えば、車両に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)が挙げられる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、電気トラック、原動機付自転車、電動アシスト自転車、電動車いす、電気鉄道等が挙げられる。なお、かかるリチウムイオン二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。