(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を値として含む5mmの範囲内において、30℃/5mm以下に抑制されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を値として含む5mmの範囲内において、10℃/5mm以下に抑制されていることを特徴とする請求項3に記載のレーザ装置。
前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を値として含む5mmの範囲内において、2℃/5mm以上残存していることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のレーザ装置。
前記マルチモード光ファイバの前記第1曲げ部より前記マルチモード半導体レーザ側における最小の曲げ半径をR0、前記第1曲げ半径をR1、前記第2曲げ半径をR2、とすると、R1≦R2<R0が成り立つことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のレーザ装置。
前記第1曲げ部において、前記マルチモード半導体レーザから前記マルチモード光ファイバに入力された光のうち、前記コア部を伝搬する高次のコアモードの光が除去されることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一つに記載のレーザ装置。
前記第2曲げ部において、前記マルチモード光ファイバを伝搬する光の曲げ損失による前記被覆部の加熱、または、損傷が抑制されていることを特徴とする請求項10〜16のいずれか一つに記載のレーザ装置。
前記複数のマルチモード半導体レーザのうち、1つ以上のマルチモード半導体レーザの出力する前記レーザ光の光強度は、10W以上であることを特徴とする請求項1〜19のいずれか一つに記載のレーザ装置。
前記放熱部は、前記被覆部の外周に形成された放熱材と、前記放熱材を介して前記マルチモード光ファイバと接する放熱体と、を備えることを特徴とする請求項1〜21のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッドモードで伝搬する光を低減したとしても、光ファイバの曲がり部で加熱や損傷が生じる場合があるという課題があることが、本発明者らによって見出された。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、信頼性が高く、かつ、小型化できるレーザ装置、および、光ファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るレーザ装置は、マルチモードでレーザ光を出力する複数のマルチモード半導体レーザと、前記複数のレーザ光を合波して出力する光合波器と、前記複数のマルチモード半導体レーザと前記光合波器とを接続し、コア部と、前記コア部の外周に形成されたクラッド部と、前記クラッド部の外周を覆う被覆部とを備えるマルチモード光ファイバと、前記マルチモード光ファイバに形成され、所定の曲げ長さ、かつ、所定の第1曲げ半径で曲げた第1曲げ部と、前記第1曲げ部において前記被覆部の外側に形成され前記マルチモード光ファイバの熱を放熱する放熱部と、前記第1曲げ部と前記光合波器との間の前記マルチモード光ファイバに形成され、所定の第2曲げ半径で曲げた第2曲げ部と、を備え、前記放熱部からの放熱によって、前記第2曲げ部における温度上昇が抑制されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ部における温度上昇の抑制量が10℃以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を中心値として含む5mmの範囲内において、30℃/5mm以下に抑制されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を中心値として含む5mmの範囲内において、10℃/5mm以下に抑制されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ半径の変化に対する温度上昇の変化割合が、当該第2曲げ半径を中心値として含む5mmの範囲内において、2℃/5mm以上残存していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記マルチモード光ファイバの前記第1曲げ部より前記マルチモード半導体レーザ側における最小の曲げ半径をR0、前記第1曲げ半径をR1、前記第2曲げ半径をR2、とすると、R1≦R2<R0が成り立つことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記曲げ長さは、π×前記第1曲げ半径以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第1曲げ部における光損失は、0.2dB以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ半径は、前記マルチモード光ファイバの規格で定められた許容曲げ半径であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、マルチモードでレーザ光を出力する複数のマルチモード半導体レーザと、前記複数のレーザ光を合波して出力する光合波器と、前記複数のマルチモード半導体レーザと前記光合波器とを接続し、コア部と、前記コア部の外周に形成されたクラッド部と、前記クラッド部の外周を覆う被覆部とを備えるマルチモード光ファイバと、前記マルチモード光ファイバに形成され、所定の曲げ長さ、かつ、所定の第1曲げ半径で曲げた第1曲げ部と、前記第1曲げ部において前記被覆部の外側に形成され前記マルチモード光ファイバの熱を放熱する放熱部と、前記第1曲げ部と前記光合波器との間の前記マルチモード光ファイバに形成され、所定の第2曲げ半径で曲げた第2曲げ部と、を備え、前記マルチモード光ファイバの前記第1曲げ部より前記マルチモード半導体レーザ側における最小の曲げ半径をR0[mm]、前記第1曲げ半径をR1[mm]、前記第2曲げ半径をR2[mm]、とすると、R1−5[mm]≦R2かつR1<R0が成り立つことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、R1≦R2かつR1<R0が成り立つことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、R1≦R2<R0が成り立つことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第1曲げ半径は、50mm以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記曲げ長さは、πR1以上であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第1曲げ部において、前記マルチモード半導体レーザから前記マルチモード光ファイバに入力された光のうち、前記コア部を伝搬する高次のコアモードの光が除去されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第1曲げ部における光損失は、0.2dB以下であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ部において、前記マルチモード光ファイバを伝搬する光の曲げ損失による前記被覆部の加熱、または、損傷が抑制されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記第2曲げ半径は、前記マルチモード光ファイバの規格で定められた許容曲げ半径であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記被覆部の屈折率は、前記クラッド部の屈折率より高いことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記複数のマルチモード半導体レーザのうち、1つ以上のマルチモード半導体レーザの出力する前記レーザ光の光強度は、10W以上であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記光合波器は、光ファイババンドル構造を有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記放熱部は
、前記被覆部の外周に形成された放熱材と、前記放熱材を介して前記マルチモード光ファイバと接する放熱体と、を備えることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記放熱材には、樹脂が用いられ、前記放熱材は前記被覆部より屈折率が高いことを特徴とする。
【0030】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記放熱材は、シリコーン系の熱伝導性コンパウンドを含むことを特徴とする。
【0031】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記放熱体は、熱伝導性を有する板状部材であり、前記第1曲げ部は、前記板状の放熱体に形成された円形の溝に配置されることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記発明において、前記放熱体は、熱伝導性を有する円筒状部材であり、前記第1曲げ部は、前記円筒の外周に巻き付けられることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の一態様に係る光ファイバレーザは、上記発明のレーザ装置と、前記レーザ装置の出力光を入力される増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバの両端側に配置され、前記増幅用光ファイバで発生した光からレーザ光をレーザ発振させる光共振器を構成する光反射器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、信頼性が高く、かつ、小型化できるレーザ装置、および、光ファイバレーザを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、図面を参照して本発明に係るレーザ装置、および、光ファイバレーザの実施の形態を説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0037】
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態に係る光ファイバレーザであるレーザ装置について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ装置を側面側から見た模式的な構成図である。
図1に示すとおり、レーザ装置100は、基板10と、基板10の裏面に配置された励起レーザ部20と、励起レーザ部20に接続されたマルチモード光ファイバ30と、基板10の表面に配置されマルチモード光ファイバ30と接続された光合波器40と、基板10の表面に配置され順次接続されたダブルクラッド光ファイバ50、希土類添加光ファイバ60、ダブルクラッド光ファイバ70、融着接続部80、シングルモード光ファイバ90と、を備える。
【0038】
基板10は、その両面に各種素子を固定することにより、片面のみに各種素子を固定するよりもレーザ装置100を小型化することができる。また、基板10は、アルミニウム等の各種の金属板であってよいが、これに限定されない。基板10は、レーザ装置100を収容するための不図示の筐体と一体として構成されていてもよい。また、基板10は、レーザ装置100内の温度上昇を抑制するため、熱伝導性を有することが好ましく、アルミニウム(Al)等の熱伝導性が高い材質からなることがより好ましい。また、基板10は、内部に冷却水を循環させる循環路を備える水冷構造としてもよいし、側面の或る箇所から当該側面または他の側面の別の箇所に貫通するように形成され、かつその内壁にフィンを有する送風路(ダクト)を備える強制空冷構造としてもよい。
【0039】
励起レーザ部20は、基板10の裏面に固定されたマルチモード(横マルチモード)でレーザ光を出力する複数のマルチモード半導体レーザを備える。
図2は、
図1に示したレーザ装置の励起レーザ部の模式的な構成図である。
図2に示すように、励起レーザ部20は、12個のマルチモード半導体レーザ21−1〜12を備え、各マルチモード半導体レーザ21−1〜12は、基板10上に固定されている。各マルチモード半導体レーザ21−1〜12の出力光強度は、10W以上であってよい。さらに、各マルチモード半導体レーザ21−1〜12の出力光強度は、より高強度であってもよく、たとえば、20W以上、または、50W以上であってよい。なお、マルチモード半導体レーザの数は、たとえば、12個であるが、6個、または、18個などであってよく、適宜選択することができる。
【0040】
マルチモード光ファイバ30は、12本のマルチモード光ファイバ30−1〜12を有し、各マルチモード光ファイバ30−1〜12は、それぞれマルチモード半導体レーザ21−1〜12と、光合波器40とを接続する。
【0041】
各マルチモード光ファイバ30−1〜12は、コア部と、コア部の外周に形成されたクラッド部と、クラッド部の外周を覆う被覆部とを備えるマルチモード光ファイバである。被覆部の屈折率は、たとえば、クラッド部の屈折率より高くされている。
【0042】
また、マルチモード光ファイバ30−1〜12の規格で定められた許容曲げ半径をR
minとする。この許容曲げ半径R
minは、光ファイバを配置する際の光損失が十分少ない最小の曲げ半径として、光ファイバの製造者などによって所定の波長に対して定められた値である。許容曲げ半径R
minは種々の定義があるが、たとえば、許容曲げ半径R
minは、光ファイバを曲げ半径R
minで10回巻いたとき、所定の波長の光における曲げ損失が、0.5dB以下となる曲げ半径であると定義することができる。また、各マルチモード光ファイバ30−1〜12のNA(Numerical Aperture)は、たとえば、0.15、または、0.22であってよい。
【0043】
図2に示すように、各マルチモード半導体レーザ21−1〜12に接続されたマルチモード光ファイバ30−1〜12は、基板10上に複数(たとえば3本ずつ)束ねて固定される。ただし、ここでは、各マルチモード光ファイバ30−1〜12が、被覆部ごと束ねられているにすぎず、光学的に結合されているわけではない。また、マルチモード光ファイバ30−1〜12は、束ねた状態で基板10に固定されているものに限られず、基板10に個別に固定されていてもよい。つぎに、マルチモード光ファイバ30−1〜3は、光除去部30a−1を経由し、マルチモード光ファイバ30−4〜6は、光除去部30a−2を経由し、マルチモード光ファイバ30−7〜9は、光除去部30a−3を経由し、マルチモード光ファイバ30−10〜12は、光除去部30a−4を経由し、12本のマルチモード光ファイバ30−1〜12が束ねられる。ただし、ここでも、各マルチモード光ファイバ30−1〜12が、被覆部ごと束ねられているにすぎず、光学的に結合されているわけではない。
【0044】
光除去部30a−1〜4は、
図2に示すように、各マルチモード光ファイバ30−1〜12に形成され、所定の曲げ長さ、かつ、所定の第1曲げ半径R1で曲げた第1曲げ部30aa−1〜4を備える。
図2において、マルチモード光ファイバ30−1〜12における、円形に曲げられている部分が第1曲げ部30aa−1〜4である。各光除去部30a−1〜4の曲げ長さ、および、第1曲げ半径R1は、同一であってもよいが、互いに異なる値でもよく、たとえば、マルチモード光ファイバ30−1〜12に入力する光強度に合わせて調整してもよい。
【0045】
第1曲げ部30aa−1〜4の曲げ長さは、たとえば、πR1以上であってよく、より好ましくは、2πR1以上であってよい。第1曲げ部30aa−1〜4の曲げ長さは、
図2において、マルチモード光ファイバ30−1〜12が、第1曲げ部30aa−1〜4を半周する場合、πR1であり、マルチモード光ファイバ30−1〜12が、第1曲げ部30aa−1〜4を1.5周する場合、3πR1である。ただし、曲げ長さは、マルチモード光ファイバ30−1〜12および第1曲げ部30aa−1〜4の配置を適宜変更することにより、たとえば、2πR1などの任意の値に設定することができる。第1曲げ半径R1は、たとえば、50mm以下であってよく、より好ましくは、25mm以下である。また、曲げ長さおよび第1曲げ半径R1を適切に設定することにより、各第1曲げ部30aa−1〜4における光損失が、たとえば、0.2dB以下、より好ましくは、0.1dB以下とされていてもよい。
【0046】
さらに、光除去部30a−1〜4は、第1曲げ部30aa−1〜4におけるマルチモード光ファイバ30−1〜12の被覆部の外側に形成されマルチモード光ファイバ30−1〜12の熱を放熱する放熱部を備える。そして、放熱部は、マルチモード光ファイバ30−1〜12の被覆部の外周に形成された放熱材と、放熱材を介してマルチモード光ファイバ30−1〜12と接する放熱体とを備える。
図3は、
図2に示した励起レーザ部の放熱部の模式的な構成図である。
図3は、
図2のA−A線断面図に対応する。
図3に示すように、放熱部11の放熱体11aには、溝11aaが設けられている。この溝11aaは、
図2に示した光除去部30a−1〜4のように、半径がほぼ第1曲げ半径R1である円形に形成されている。そして、溝11aaの内部にマルチモード光ファイバ30−1〜3が配置されている。さらに、マルチモード光ファイバ30−1〜3は、放熱材11bにより溝11aaの内部に固定されている。例えば、放熱体11aは熱伝導性を有する板状部材である基板10と一体に構成されており、この溝内にマルチモード光ファイバ30−1〜3が配置される。このとき、マルチモード光ファイバ30−1〜3が発する熱は、放熱材11bを介して、放熱体11aに放熱される。なお、本実施の形態では、光除去部30a−1〜4はいずれも
図3に示した構成の放熱部11を有するが、放熱部の構成は光除去部30a−1〜4で互いに異なっていてもよい。
【0047】
放熱部11の放熱材11bには、樹脂が用いられ、また、放熱材11bはマルチモード光ファイバ30−1〜12の被覆部より屈折率が高い。これにより、マルチモード光ファイバ30−1〜12のコア部から漏れた光を被覆部が効率よく吸収する。また、放熱材11bは、たとえば、シリコーン系の熱伝導性コンパウンドを含む材料であってもよい。さらに、放熱材11bは、熱伝導率が0.5W/m・K以上の材料であってもよい。このとき、被覆部の光吸収による熱が、効率的に放熱体11aに伝導し、マルチモード光ファイバ30−1〜12の加熱、および、損傷が抑制される。また、放熱材11bは、マルチモード半導体レーザ21−1〜12の出力するレーザ光に対する吸収係数が小さいことが好ましい。これによって、放熱材11bの光吸収による温度上昇が抑制され、マルチモード光ファイバ30−1〜12の加熱、および、損傷がさらに抑制される。
【0048】
放熱部11の放熱体11aは、アルミニウム等の金属であってよいが、熱伝導性を有する材料であればこれに限られない。また、放熱体11aは、基板10と一体として構成されていてもよいが、放熱体11aと基板10とが別体として構成され、放熱体11aが基板10上に固定されている構成であってもよい。
【0049】
つぎに、12本のマルチモード光ファイバ30−1〜12を有するマルチモード光ファイバ30は、
図1に示すように、励起レーザ部20と光合波器40との間に配置され、マルチモード光ファイバ30を所定の第2曲げ半径R2で曲げる第2曲げ部30bを備えている。第2曲げ部は、基板10裏面の励起レーザ部20と、基板10表面のレーザ発振部LOとの間をマルチモード光ファイバ30で接続する際に形成されるものである。このように、基板10の両面に各種素子を固定することで、レーザ装置100を小型化することができる。第2曲げ半径R2は、たとえば、50mm以下であってよく、より好ましくは、25mm以下である。また、第2曲げ半径R2は、許容曲げ半径R
minであってよい。ここで、各マルチモード光ファイバ30−1〜12の第1曲げ部30aa−1〜4よりマルチモード半導体レーザ21−1〜12側における最小の曲げ半径をR0とし、第1曲げ半径R1、第2曲げ半径R2と比較すると、R1≦R2かつR1<R0の関係が成り立つが、これについては後に詳述する。なお、
図2中に図示されるR0はマルチモード光ファイバ30−1に対するものであるが、各マルチモード光ファイバ30−1〜12に対して同様にR0が定義される。
【0050】
光合波器40は、マルチモード光ファイバ30−1〜12から入力される複数のレーザ光を合波して出力する。光合波器40は、入力光を合波する機能を備えれば特に限定されないが、たとえば、12本のマルチモード光ファイバ30−1〜12が束ねられた構造である光ファイババンドル構造であってよい。
【0051】
図4は、
図1に示したレーザ装置の構成を表す概略図である。図中「×」は、光ファイバの融着接続点を示している。
図4に示すように、ダブルクラッド光ファイバ50および70は、FBG(Fiber Bragg Grating)50aおよび70aを形成したダブルクラッド光ファイバである。また、希土類添加光ファイバ60は、増幅用光ファイバであり、コアに希土類元素が添加されたダブルクラッド光ファイバである。そして、FBG50aおよび70aは、光共振器を構成し、希土類添加光ファイバ60とともにレーザ発振部LOを構成する。
【0052】
なお、希土類添加光ファイバ60コアに添加された希土類元素は、たとえばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等であるが、光増幅作用を有するものであれば特に限定はされない。また、マルチモード半導体レーザ21−1〜12が出力するレーザ光の波長は、希土類添加光ファイバ60のコアに添加された希土類元素を光励起できる波長に設定されており、希土類元素がYbの場合はたとえば915nmである。また、FBG50aおよび70aは、レーザ発振部LOにてレーザ発振させるべき波長を所定の反射率で選択的に反射する特性を有する。
【0053】
ダブルクラッド光ファイバ70は、融着接続部80によって、シングルモード光ファイバ90と融着接続されている。そして、シングルモード光ファイバ90の一端からレーザ装置100の最終的な出力としてのレーザ光が出射される。
【0054】
つぎに、本実施の形態に係るレーザ装置100の動作について説明する。はじめに、外部から電流を印加された励起レーザ部20のマルチモード半導体レーザ21−1〜12が、横マルチモードでレーザ光を出力する。マルチモード半導体レーザ21−1〜12から出力されたレーザ光は、マルチモード光ファイバ30−1〜12に入力される。ここで、レーザ装置100には、光除去部30a−1〜4が形成されている。そして光除去部30a−1〜4において、第1曲げ部30aa−1〜4におけるマルチモード光ファイバ30−1〜12が第1曲げ半径R1で曲げられる。すると、マルチモード光ファイバ30−1〜12を伝搬する光のうち、マルチモード光ファイバ30−1〜12の曲げにより漏れ易い成分が被覆部へと漏れる。被覆部は、この漏れ光の一部を吸収して、吸収された光は熱となる。この熱は、光除去部30a−1〜4の放熱部11により放熱され、光除去部30a−1〜4におけるマルチモード光ファイバ30−1〜12の加熱は抑制される。
【0055】
つぎに、12本のマルチモード光ファイバ30−1〜12を有するマルチモード光ファイバ30を伝搬する光は、第2曲げ部30bを通過する。ここで、光除去部30a−1〜4により、マルチモード光ファイバ30を伝搬する光のうち、マルチモード光ファイバ30の曲げにより漏れ易い成分の光強度はすでに低減されている。このとき、R1≦R2の関係が成り立っていることにより、マルチモード光ファイバ30の第2曲げ部30bにおいて被覆部に漏れる光は十分に抑制される。これにより、第2曲げ部30bにおけるマルチモード光ファイバ30の加熱、または、損傷が抑制される。
【0056】
その後、マルチモード光ファイバ30を伝搬する光は、光合波器40により合波され、ダブルクラッド光ファイバ50に入力される。そして、ダブルクラッド光ファイバ50に入力された光を励起光として、希土類添加光ファイバ60とFBG50aおよび70aが構成するレーザ発振部LOがレーザ光を発振し、発振したレーザ光が、ダブルクラッド光ファイバ70から出力される。なお、発振するレーザ光の波長は、希土類添加光ファイバ60のコアに添加された希土類元素の発光波長帯に含まれる波長である。たとえば、当該希土類元素がYbの場合にはたとえば1.08μmである。ダブルクラッド光ファイバ70の出力光は、融着接続部80により、シングルモード光ファイバ90に入力され、シングルモード光ファイバ90の一端から最終的なレーザ装置100の出力として出射される。
【0057】
このように、レーザ装置100は、マルチモード半導体レーザ21−1〜12と第2曲げ部30bとの間に配置された光除去部30a−1〜4により、第2曲げ部30bにおけるマルチモード光ファイバ30を伝搬する光のうち、マルチモード光ファイバ30の曲げにより漏れ易い成分の光強度を低減している。このとき、R1≦R2の関係が成り立っていることにより、第2曲げ部30bにおいて被覆部に漏れる光は十分に抑制される。これにより、マルチモード光ファイバ30の第2曲げ部30bにおける加熱、または、損傷が抑制されるので、信頼性の高いレーザ装置とすることができる。また、光除去部を設けない場合に、マルチモード光ファイバ30を第2曲げ半径R2で配置するとマルチモード光ファイバ30が加熱、または、損傷する恐れがある。しかしながら、本実施の形態に係るレーザ装置100においては、光除去部30a−1〜4により、マルチモード光ファイバ30を伝搬する光のうち、マルチモード光ファイバ30の曲げにより漏れ易い成分の光を低減しているため、マルチモード光ファイバ30を第2曲げ半径R2で配置することができる。これにより、レーザ装置100のマルチモード光ファイバの配置の自由度が増し、たとえば、基板10の両面に各種素子を配置することができる。したがって、レーザ装置100は、小型化されたレーザ装置として構成することができる。
【0058】
さらに、マルチモード光ファイバ30−1〜12の第1曲げ部30aa−1〜4よりもマルチモード半導体レーザ21−1〜12側における最小の曲げ半径をR0とすると、R1<R0が成り立つ。これによって、第1曲げ部30aa−1〜4よりもマルチモード半導体レーザ21−1〜12側においてマルチモード光ファイバ30−1〜12に曲げ部分があったとしても、その曲げ部分では光除去部30a−1〜4ほどの光の漏洩が無い。したがって、当該曲げ箇所でのマルチモード光ファイバ30−1〜12の加熱、損傷が防止されるとともに、光除去部30a−1〜4の効果がより確実に発揮される。
【0059】
以下、第1曲げ半径R1と、第2曲げ半径R2との関係、および第1曲げ半径R1と、マルチモード光ファイバ30−1〜12の第1曲げ部30aa−1〜4よりマルチモード半導体レーザ21−1〜12側における最小の曲げ半径であるR0との関係についてより詳細に説明する。
【0060】
まず、上述したように、従来ダブルクラッドファイバをクラッドモードで伝搬する光を除去することにより、ダブルクラッドファイバの加熱、および、損傷を抑制することが提案されている。
【0061】
しかしながら、本発明者らは、マルチモード光ファイバに入力する光強度がたとえば10Wを超えるような高出力下では、クラッドモードで伝搬する光を除去したとしても、マルチモード光ファイバの加熱、または、損傷が生じる場合があるという課題を発見した。そこで、本発明者らは、この課題を解決する手段を以下のように検討し、本発明を想到するに到った。
【0062】
はじめに、本発明者らが行った実験の実験系について説明する。
図5は、マルチモード光ファイバの曲げ半径と温度上昇との関係を測定する実験系の構成を表す概略図である。
図5に示すように、この実験系は、マルチモード半導体レーザ101と、マルチモード光ファイバ102と、パワーメータ103とを備える。さらに、この実験系は、マルチモード光ファイバ102に形成され、所定の曲げ長さ、かつ、所定の第1曲げ半径R1で曲げた第1曲げ部102aaと、マルチモード光ファイバ102の被覆部の外側に形成されマルチモード光ファイバ102の熱を放熱する放熱部と、を備えた光除去部102aと、第2曲げ半径R2でマルチモード光ファイバ102を曲げた第2曲げ部102bとを備える。なお、マルチモード光ファイバ102の被覆部の屈折率は、クラッド部の屈折率より高いものとした。また、放熱部の放熱材として、シリコーン系の熱伝導性コンパウンドを用いた。
【0063】
まず、この実験系において、曲げ長さと第1曲げ半径R1とは可変とされている。このとき、曲げ長さと、マルチモード光ファイバ102に放熱材を塗布する長さである塗布長とは、同一である。つぎに、この実験系において、第2曲げ半径R2は、25mmに固定されている。このとき、マルチモード半導体レーザ101からのレーザ光を入力しない場合の第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度と、レーザ光を入力した場合の第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度とを比較し、レーザ光を入力した場合にどれだけ第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇があるかを測定した。なお、マルチモード半導体レーザ101からのレーザ光出力が25Wとなるように制御した。また、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度は、熱カメラで計測した。以下において、マルチモード光ファイバ102の温度上昇値とは、レーザ光を入力した場合の第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度から、レーザ光を入力しない場合の第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度を引いた値である。
【0064】
はじめに、第1曲げ部102aaでマルチモード光ファイバ102を曲げずに直線とし、塗布長のみを変化させた場合について測定した。
図6は、第1曲げ部102aaにおいてマルチモード光ファイバを曲げない場合の塗布長とマルチモード光ファイバの温度上昇値との関係を表す図である。
図6に示すように、塗布長を変化させても第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値は変化しなかった。
【0065】
ここで、被覆部の屈折率は、クラッド部の屈折率より高いので、クラッドモードの光は被覆部に漏れ出す。このような被覆部へ漏洩するモードの光は、放熱材を被覆部の表面に塗布することによって被覆部外に漏れ、放熱材内部で熱に変換されて放熱される。したがって、クラッドモードの光に起因する場合、塗布長を長くするほど、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値は減少するはずである。ところが、
図6の結果が示すように、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値は、塗布長に関わらず略一定であった。これは、マルチモード光ファイバ102を伝搬する光のうち、クラッドモードで伝搬する光以外の光が第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇に寄与していることを示唆する。
【0066】
つぎに、曲げ長さを30mmに固定し、第1曲げ半径R1を変化させた場合について測定した。
図7は、塗布長が30mmである場合のマルチモード光ファイバの第1曲げ半径R1とマルチモード光ファイバの温度上昇値との関係を表す図である。
図7に示すように、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値は、第1曲げ半径R1が第2曲げ半径R2(25mm)に近づくにつれて、急激に小さくなる。このように、第1曲げ半径R1と第2曲げ半径R2とが十分に近い値であると、第1曲げ部102aaにおいて、マルチモード光ファイバ102を伝搬する光のうち、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇に寄与する光が十分に低減されることを意味している。
【0067】
そして、第1曲げ半径R1が、第2曲げ半径R2の25mmと等しい25mm、および、第2曲げ半径R2と十分近い30mmである場合に、曲げ長さを変化させた場合について測定した。
図8は、マルチモード光ファイバの第1曲げ半径R1が25mmまたは30mmである場合の曲げ長さとマルチモード光ファイバの温度上昇値との関係を表す図である。
【0068】
図8に示すように、第1曲げ半径R1が第2曲げ半径R2に十分近い場合には、曲げ長さを大きくするにつれて、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値が小さくなる。ここで、第1曲げ半径R1[mm]と第2曲げ半径R2[mm]の間に、R1−5[mm]≦R2という関係が成立している場合、第1曲げ半径R1が第2曲げ半径R2に十分近いと考えられる。さらに、第1曲げ半径R1が30mmの場合より、第1曲げ半径R1が25mmの場合の方が、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇を抑制する効果が高いことがわかる。すなわち、第1曲げ半径R1と第2曲げ半径R2の間に、R1≦R2という関係が成立している場合、マルチモード光ファイバ102の温度上昇を抑制する効果がより高い。
【0069】
また、
図8に示すように、曲げ長さを大きくするにつれて、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇値が小さくなっているので、第1曲げ部102aaにおける巻き数を増やす方が、マルチモード光ファイバ102の温度上昇を抑制する効果がより高まる。第1曲げ部102aaにおけるマルチモード光ファイバ102の巻き数を半周(曲げ長さπR1)以上とすれば十分効果が得られるが、巻き数を1周(曲げ長さ2πR1)以上とするとことで、より一層の効果が得られる。さらに、第1曲げ部102aaにおけるマルチモード光ファイバ102の巻き数を2周(曲げ長さ4πR1)以上とすればより好ましい。
【0070】
つぎに、第1曲げ部102aaが有る場合と無い場合において、第2曲げ半径R2を60mmから25mmまで減少させながら、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度を測定した。
図9は、第1曲げ部102aaが有る場合と無い場合における、マルチモード光ファイバの第2曲げ半径R2とマルチモード光ファイバの温度との関係を表す図である。ここで、第1曲げ部102aaが有る場合とは、第1曲げ半径R1を25mm、塗布長を157mmに設定した場合である。また、本実施例において第1曲げ部102aaが無い場合は、塗布長は157mmであるが、第1曲げ部102aaでマルチモード光ファイバ102を曲げずに直線とした場合である。
【0071】
図9に示すように、第1曲げ部102aaが有る場合においては、第2曲げ半径R2を60mmから25mmまで減少させた場合にマルチモード光ファイバ102の温度上昇が観測されたが、温度は55℃程度であり、許容範囲内であった。一方、第1曲げ部102aaが無い場合においては、第2曲げ半径R2を60mmから40mmまで減少させただけでマルチモード光ファイバ102が50℃まで温度上昇した。
【0072】
なお、NAが0.15の場合の実験においては、第1曲げ部がない場合についても、それに対応する位置に放熱材としてのシリコーン系熱伝導コンパウンドを塗布しているが、
図6を参照しながら説明した上記実験結果のように、第1曲げ部がない場合は、当該コンパウンドの有無による光ファイバ温度上昇値に対する差異が実質確認されなかった。したがって、以下で説明するNAが0.22の実験においては、当該コンパウンドの塗布は行わずに行っている。
【0073】
つぎに、マルチモード光ファイバ102のNAが第1曲げ部102aaの有無にどのような影響を与えるかを検証した。
図10は、NAが0.15のマルチモード光ファイバ102におけるレーザ出力の違いが光ファイバ温度上昇値に与える影響を示す図である。
図11は、NAが0.22のマルチモード光ファイバ102におけるレーザ出力の違いが光ファイバ温度上昇値に与える影響を示す図である。なお、
図10に示した検証実験では、第1曲げ部は設けず、レーザ出力が異なる場合(15W,25W)について、第2曲げ半径R2の変化に対する光ファイバの温度上昇値を測定している。一方、
図11に示した検証実験では、第1曲げ部102aaの有無による光ファイバ温度上昇値の比較を行っており、第1曲げ部102aaを設ける場合は第1曲げ半径R1を25mmとして1周(約157mm)周回させ、かつ、第2曲げ部102bの半径R2を25mmとしている。
【0074】
図10に示すように、NAが0.15のマルチモード光ファイバ102では、第1曲げ部102aaがないと、比較的低いレーザ出力であっても第2曲げ半径R2の減少に対する温度上昇が大きくなってしまう。一方、
図11に示すように、NAが0.22のマルチモード光ファイバ102では、第1曲げ部102aaがない場合であっても、NAが0.15の場合と比較すれば、光ファイバの温度上昇が低く抑えられている。実際、
図10と
図11と比較すると解るように、レーザ出力が同じ約15W付近、かつ、第1曲げ部102aaは設けず第2曲げ部を25mmとしたとき、NAが0.15の場合は第1曲げ部102aaがないと温度上昇が約20℃以上と大きくなってしまうが、NAが0.22の場合は第1曲げ部102aaがなくても温度上昇はあまり発生しない。
【0075】
ただし、NAが0.22のマルチモード光ファイバ102であっても、レーザ出力を上げていくと、光ファイバ温度上昇の問題が顕在化する。
図11に示すように、第1曲げ部102aaがない場合、レーザ出力の上昇に伴って、光ファイバ温度の上昇が急峻となっている。したがって、レーザ出力を例えば100数十Wまで上昇させた場合、たとえ、NAが0.22のマルチモード光ファイバ102であっても、顕著な光ファイバ温度上昇が発生することが予想される。また、
図13の点線「高出力時の推測線」は、NAが0.15の実験結果と0.22の実験結果を比較し、NAが0.22の光ファイバを使用し、第1曲げ部は設けずに、レーザ出力が100数十Wになった場合のR2と光ファイバ温度上昇値との関係を推測したものである。この推測線からも、レーザ出力が更に大きくなった場合、NAが0.22となっても、光ファイバ温度上昇の問題が発生する可能性があることがわかる。このような高出力のレーザを用いる場合であっても、
図11に示すように、本実施形態に係る第1曲げ部102aaを用いれば、光ファイバ温度の急峻な上昇を抑制することができる。
【0076】
ここで、マルチモード光ファイバ102のNAの違いに拘わらず共通する第1曲げ部102aaの性質について検討する。
図12および
図13は、それぞれNAが0.15と0.22との場合における、第2曲げ半径R2に対する光ファイバ温度上昇値を示す図である。
図12および
図13に示した検証実験では、第1曲げ部102aaにおける第1曲げ半径R1を25mmとし、曲げ長さを1周(約157mm)としている。また、
図12に示した検証実験では、NAが0.15のマルチモード光ファイバ102に対し出力約25Wのレーザ光を入力し、
図13に示した検証実験では、NAが0.22のマルチモード光ファイバ102に対し出力約64Wのレーザ光を入力している。
【0077】
図12および
図13に示すように、NAが0.22の場合よりもNAが0.15の場合の方が、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2に対する、当該第2曲げ半径R2を中心値として含む5mm範囲の光ファイバ温度上昇の変化割合が大きい。そして、NAが0.15の場合における、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2に対する、当該第2曲げ半径R2を中心値として含む5mmの範囲の光ファイバ温度上昇の変化割合の最大値は、30℃/5mmである。したがって、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2が外乱等の要因で変化をした場合であっても、この外乱に起因する光ファイバ温度上昇の変化割合は30℃/5mm以下に抑制される。
【0078】
さらに、
図12および
図13に示すように、第1曲げ半径R1および第2曲げ半径R2を適切に選択することで、NAが0.15および0.22のいずれの場合であっても、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2に対する、当該第2曲げ半径R2を中心値として含む5mmの範囲の光ファイバ温度上昇の変化割合を、10℃/5mmにすることができる。よって、第1曲げ部102aaを用いれば、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2の変動に対する光ファイバ温度上昇の変化が少ないという、信頼性が高いレーザ装置を実現することができる。
【0079】
また、
図12および
図13に示すように、第1曲げ半径R1および第2曲げ半径R2を適切に選択することで、NAが0.15および0.22のいずれの場合であっても、第2曲げ部102bにおける光ファイバ温度上昇値の抑制量が10℃以上になっている。ここで、光ファイバ温度上昇値の抑制量とは、第1曲げ部102aaが有る場合と無い場合の比較において、マルチモード光ファイバ102の温度上昇値の差のことをいう。
【0080】
なお、
図12および
図13に示すように、第2曲げ部102bにおける第2曲げ半径R2に対する、当該第2曲げ半径R2を中心値として含む5mmの範囲の光ファイバ温度上昇の変化割合が2℃/5mm以上残存している。第2曲げ部102bにいて除去される光がクラッドモードである場合、光ファイバ温度上昇はほぼなくなると推測されるが、このように、高次のコアモードのレーザ光を除去する場合、
図12および
図13などからわかるように、曲げ半径の選び方によっては若干の温度上昇(温度勾配)が残存することがある。しかし、本実施形態に係る第1曲げ部102aaを備えれば、温度上昇の残存分が十分に低くなることで、多少の曲げ径の変化があったとしても、これに影響されにくいレーザ装置を得ることができる。
【0081】
以上の結果から、第1曲げ半径R1と第2曲げ半径R2との関係をR1≦R2とすることで、第2曲げ部102bにおけるマルチモード光ファイバ102の温度上昇を十分に抑制することができることがわかる。なお、マルチモード光ファイバ102の第1曲げ部102aaよりマルチモード半導体レーザ101側に第1曲げ半径R1より曲げ半径が小さい部分があると、その部分が加熱、または、損傷する可能性があるため好ましくない。また、マルチモード光ファイバ102の第1曲げ部102aaよりマルチモード半導体レーザ101側における最小の曲げ半径をR0、第1曲げ半径をR1、第2曲げ半径をR2、としたときに、R1<R0とすることにより、マルチモード光ファイバ102の第1曲げ部102aaよりマルチモード半導体レーザ101側における加熱、損傷が防止される。さらに、R1≦R2<R0が成り立つことによって、R0≦R2の場合よりもマルチモード光ファイバ102の取り回し性が更に向上でき、より好ましい。
【0082】
ここで、上記の実験結果からマルチモード光ファイバにおける光の伝搬について考察する。
図14は、マルチモード光ファイバにおける光の伝搬の様子を表す説明図である。
図14に示すように、コア部201と、クラッド部202と、被覆部203とを備えるマルチモード光ファイバに、レーザ光が入力されるとする。すると、入力されたレーザ光は結合する角度によって、マルチモード光ファイバ内における伝搬モードが決まる。まず、レーザ光L1は、コア部201に結合したコア部201を伝搬するコアモードの光である。一方、レーザ光L2は、クラッド部202に結合したクラッド部202を伝搬するクラッドモードの光である。これまで、マルチモード光ファイバに高強度の光を入射した場合に、マルチモード光ファイバが加熱、または、損傷する原因は、レーザ光L2のようなクラッドモードで伝搬する光であると考えられていた。
【0083】
しかしながら、本発明者らの実験結果のたとえば
図6の結果は、マルチモード光ファイバが加熱、または、損傷する原因は、レーザ光L2のようなクラッドモードで伝搬する光だけではないことを示している。そこで、本発明者らは、上記の実験結果から、マルチモード光ファイバが加熱、または、損傷する原因は、レーザ光L3のようなコア部201に結合したコアモードの光であるが、高次のコアモードの光であると想定している。高次のコアモードの光は、曲げ損失が大きく、マルチモード光ファイバを曲げるとコア部201から容易に漏れ得る光である。
【0084】
レーザ光L3のような高次のコアモードの光は、マルチモード光ファイバをより小さい曲げ半径で曲げるほど、より次数の低いコアモードの光までコア部201から漏れると考えられる。したがって、第1曲げ半径R1と第2曲げ半径R2との関係について、R1≦R2が成り立つようにすることで、漏洩した高次のコアモードの光を光除去部で効果的に除去でき、かつ光除去部に放熱部を設けたことによって、除去した光のエネルギーを効果的に放熱処理することができる。このとき、たとえば、レーザ装置のある位置で許容曲げ半径R
minでマルチモード光ファイバを配置したい場合、マルチモード光ファイバを許容曲げ半径R
minで曲げる部分よりも入力側(励起レーザ側)に、許容曲げ半径R
min以下の曲げ半径でマルチモード光ファイバを曲げ、かつ、マルチモード光ファイバが損傷しないよう放熱部を備えた光除去部を設けるようにしてもよい。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーザ装置100は、マルチモード光ファイバを、所定の曲げ長さ、かつ、所定の第1曲げ半径で曲げる第1曲げ部と、第1曲げ部において被覆部の外側に形成されマルチモード光ファイバの熱を放熱する放熱部と、を備える光除去部と、光除去部と光合波器との間に配置され、マルチモード光ファイバを所定の第2曲げ半径で曲げる第2曲げ部と、を備え、マルチモード光ファイバの第1曲げ部よりマルチモード半導体レーザ側における最小の曲げ半径をR0、第1曲げ半径をR1、第2曲げ半径をR2、とすると、R1≦R2かつR1<R0であることを特徴とする。
【0086】
なお、上述した実施の形態において、レーザ装置100は、光合波器40を希土類添加光ファイバ60の前段に配置した前方励起型のレーザ装置として記載したが、本発明はこれに限られず、光合波器40を希土類添加光ファイバ60の後段に配置した後方励起型のレーザ装置、光合波器40を希土類添加光ファイバ60の前段、後段それぞれに配置した双方向励起型のレーザ装置、またレーザ発振部の後段にそのレーザ発振部から出力されるレーザ光を増幅するための光ファイバアンプとして、光合波器40と希土類添加光ファイバ60とを配置し、さらに光合波器40とマルチモード光ファイバ30で接続された励起レーザ部20を設けた構成を有するMOPAタイプ等、各種の高出力なレーザ光を出力する光源と、そのレーザ光を入力するマルチモード光ファイバとを備えたレーザ装置に適用することができる。
【0087】
また、上述した実施の形態において、放熱体は板状部材であり、第1曲げ部は、板状の放熱体に形成された円形の溝により構成されているとしたが、本発明はこれに限られない。
図15は、変形例に係る励起レーザ部の放熱部の模式的な構成図である。
図15に示すように、放熱部311の放熱体311aは、円筒状部材であり、第1曲げ部311aaは、この円筒の外周により構成されており、マルチモード光ファイバ30−1が円筒状の放熱体311aの外周に巻き付けられる構成であってもよい。さらに、マルチモード光ファイバ30−1は、放熱材311bにより第1曲げ部311aaの外周に固定されている。なお、
図15においては、図の煩雑さを避けるため、マルチモード光ファイバ30−1の1本のみを記載しているが、他のマルチモード光ファイバ30−2、30−3が放熱体311aの外周に巻き付けられていてもよい。また、他のマルチモード光ファイバ30−4〜12は、他の円筒状の放熱体の外周に巻き付けられていてもよい。このように、第1曲げ部は、マルチモード光ファイバを曲げることができる構成であれば、特にその構造は限定されない。
【0088】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。