(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インピーダンス成分の抵抗成分とリアクタンス成分とを直交座標軸上に表示し、前記インピーダンス成分の座標と予め設定された基準点の座標とを結ぶ直線と前記抵抗成分と平行な直線とのなす角度であるインピーダンス角度を求め、該インピーダンス角度から前記金属膜又は導電性膜の温度を求めることを特徴とする請求項3記載の基板保持装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の接触型温度センサおよび非接触型温度センサには、以下のような問題点がある。
1)接触型温度センサの場合には、測定対象物が動く場合に接触部分及び配線に関する問題点がある。
2)接触型温度センサが熱電対の場合には、測定対象物と熱電対とのケーブル結線が必要であり、結線部の熱放熱により計測温度の真値より低くなったり、ケーブルの影響により計測値が変動して精度の高い温度計測ができなくなる。
3)接触型温度センサが抵抗温度計の場合には、電流を流すことになるが、この電流で抵抗体の自己加熱誤差が生じ、また抵抗体との配線導体の温度変化による誤差、接続回路の接触抵抗などで測定誤差が発生するという問題点がある。
4)非接触型温度センサの代表例である放射温度計の場合、対象物の材質、状態によって温度が正確に計測できないという問題点がある。また、放射温度計は、測定対象物以外からの赤外線の反射による外乱影響を受け温度測定の誤差が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、測定対象物に生ずる渦電流に基づいて測定対象物の温度を計測することにより非接触型温度センサを構成することができ、また測定対象物以外からの外乱影響を受けることがなく、測定対象物の正確な温度計測が可能な渦電流センサ
を備えた基板保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の渦電流センサを備えた基板保持装置は、基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する基板保持装置において、基板を保持する上下動可能なトップリング本体と、前記トップリング本体に固定され、該トップリング本体の内部に圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜と、前記弾性膜において基板を保持する面の裏面側に設けられた金属膜又は導電性膜と、前記金属膜又は導電性膜に対向するように配置され、
前記金属膜又は導電性膜の近傍に配置されるセンサコイルと、該センサコイルに交流信号を供給して
前記金属膜又は導電性膜に渦電流を形成する信号源と、前記センサコイルの出力に基づいて
前記金属膜又は導電性膜に形成された渦電流を検出する検出回路とを備えた渦電流センサであって、前記渦電流センサの出力から、
前記金属膜又は導電性膜の材質と同材質の物質における温度と渦電流センサの出力との関係に基づいて、
前記金属膜又は導電性膜の温度を求める渦電流センサとを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、トップリングのトップリング本体内に少なくとも1個の渦電流センサが設置されており、また、圧力室を形成する弾性膜の裏面側(基板保持面の反対側)には、渦電流センサに対向した位置に熱伝導率が高い金属膜又は導電性膜が貼り付けられている。金属膜又は導電性膜は高い熱伝導率ゆえ、金属膜又は導電性膜は、研磨中に、金属膜又は導電性膜が貼り付けられている弾性膜の部分の温度と概略等しくなる。したがって、渦電流センサにより金属膜又は導電性膜を介して弾性膜の温度を計測し、更に計測した弾性膜温度に基づいて基板の温度を間接的に計測することができる。
上記渦電流センサは、測定対象物が同一金属種、金属膜であれば、出力が一定になる。測定対象物が移動しても、センサ側が一定条件で固定されており、同じ金属厚みであれば計測が可能になる。金属の抵抗が変化する条件は、膜が薄くなる、材質が変化する、温度の影響が考えられる。非接触状態で、金属膜の膜質、厚みが一定あれば、温度の計測が可能になる。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、
前記金属膜又は導電性膜の材質と同材質の物質における温度と渦電流センサの出力との関係を予め求めておくことを特徴とする。
本発明によれば、測定対象物の材質と同材質の物質における温度と渦電流センサの出力との関係を予め求めておき、測定時における渦電流センサの出力から、測定対象物の温度を求めることができる。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの出力はインピーダンス成分を含み、該インピーダンス成分の変化から
前記金属膜又は導電性膜の温度を求めることを特徴とする。
渦電流センサのコイルは温度の影響を受けることはなく、その場合、渦電流(I)は一定となるので、渦電流センサの出力V=Z(R)×Iが成り立つ。ここで、Zはインピーダンス成分である。したがって、インピーダンス成分Zの変化を渦電流センサの出力Vから求めることができる。インピーダンス成分Zの変化から温度を算出できる。インピーダンス成分Zは、抵抗成分(R)とリアクタンス成分(X)とからなっている。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記インピーダンス成分の抵抗成分とリアクタンス成分とを直交座標軸上に表示し、前記インピーダンス成分の座標と予め設定された基準点の座標とを結ぶ直線と前記抵抗成分と平行な直線とのなす角度であるインピーダンス角度を求め、該インピーダンス角度から
前記金属膜又は導電性膜の温度を求めることを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記インピーダンス角度は、
前記金属膜又は導電性膜の厚みが一定であれば、前記渦電流センサと
前記金属膜又は導電性膜との間の距離に拘わらず同一であることを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、
前記金属膜又は導電性膜が存在しない位置において時間の経過による渦電流センサの出力の変動値を取得し、該変動値を用いて
前記金属膜又は導電性膜が存在する位置で得た渦電流センサの出力値を補正することを特徴とする。
測定対象物が存在しない位置においては、センサ出力は本来的にはゼロであるが、経時的に出力がある場合がある。そこで、本発明においては、測定対象物が存在しない位置において一定時間の経過後にセンサ出力を見て、センサ自身の変動値を取得し、次に、測定対象物が存在する位置で得た出力値に、センサ自身の変動値を加えて変動分をキャンセルする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)渦電流センサにより非接触型温度センサを構成することができるため、測定対象物と接触させる必要がなく、また配線や結線に伴って生ずる計測値の誤差が生ずることがなく、正確な温度計測が可能となる。
(2)測定対象物に電流を流す等の必要がないため、自己加熱誤差や配線導体の温度変化による誤差などが生ずることがなく、正確な温度計測が可能となる。
(3)測定対象物に生ずる渦電流に基づいて測定対象物の温度を計測するため、放射温度計のように、測定対象物以外からの外乱影響を受けることがなく、正確な温度計測が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る渦電流センサ
を備えた基板保持装置の実施形態を
図1乃至
図10を参照して説明する。
図1乃至
図10において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明の
基板保持装置に備えられた渦電流センサによって、動く測定対象物に対して非接触で温度を計測する状態を示す概略図である。
図1に示すように、渦電流センサ1は、測定対象物2に対して離間して配置されている。測定対象物2は移動可能な対象物であり、渦電流センサ1は移動中の測定対象物2の温度を測定することができるようになっている。
図1に示す例においては、測定対象物2は、非金属製の基材部3の表面に金属膜4が形成された構成である。金属膜4と渦電流センサ1との距離は、Lに設定されている。基材部3は加熱源(図示せず)により加熱され、金属膜4は、基材部3から伝熱されて所定の温度まで上昇するようになっている。金属膜4は同一金属種、例えば、白金(Pt)から構成されている。
【0017】
渦電流センサ1は、測定対象物が同一金属種、同一厚みの金属膜であれば、出力が一定になる。測定対象物が移動しても、センサ側が一定条件で固定されており、同じ金属厚みであれば計測が可能になる。金属の抵抗が変化する条件は、膜が薄くなる、材質が変化する、温度の影響が考えられる。非接触状態で、金属膜の膜質、厚みが一定あれば、温度の計測が可能になる。渦電流センサ1は、測定対象物の金属膜種、膜厚に合わせて励磁周波数、回路ゲイン等を調整する。渦電流センサ1は、測定対象物が移動する場合でも非接触型センサのため温度計測が可能となる。なお、測定対象物が移動しない場合(固定の場合)でも、同様に温度計測が可能となる。
【0018】
次に、渦電流センサ1による金属膜の温度の検出原理を説明する。
金属膜の抵抗値は(1)式で表される。
R =ρ(T)×(L/S) ・・・(1)
L:長さ、S:断面積、ρ:抵抗率、T:対象物温度である。
抵抗値は(1)式で計算され、L,Sが変化しない条件では、抵抗率が変化しない限り、抵抗値は変化しない。
抵抗率は、温度の影響を受け(2)式で表される。
ρ(T)=ρ(To)(1+α(T−To)) ・・・(2)
ここで、α:抵抗温度係数、T:対象物温度、To:室温付近の任意の温度である。
(1)式および(2)式より、抵抗値Rと抵抗温度係数αとの関係は、(3)式で表される。
R(T)=R(To)(1+α(T−To)) ・・・(3)
金属膜の抵抗温度係数αは予め分かっているので、抵抗値の変化を渦電流で検出して、温度を算出する。すなわち、渦電流センサのコイルは温度の影響を受けることはなく、その場合、渦電流(I)は一定となるので、渦電流センサの出力V=Z(R)×Iが成り立つ。ここで、Zはインピーダンス成分である。したがって、インピーダンス成分Zの変化を渦電流センサの出力Vから求めることができる。インピーダンス成分Zの変化から温度を算出できる。インピーダンス成分Zは、抵抗成分(R)とリアクタンス成分(X)とからなっている。
【0019】
次に、渦電流センサ1の出力について、
図2乃至
図6を用いて説明する。
図2は、渦電流センサ1の基本構成を示す図であり、
図2(a)は渦電流センサ1の基本構成を示すブロック図であり、
図2(b)は渦電流センサ1の等価回路図である。
図2(a)に示すように、渦電流センサ1は、測定対象物2の金属膜4の近傍にセンサコイル11を配置し、そのコイルに交流信号源12が接続されている。センサコイル11は、検出用のコイルであり、検出対象の金属膜に対して、例えば10〜40mm程度の位置に配置される。
【0020】
渦電流センサには、金属膜4に渦電流が生じることにより、発振周波数が変化し、この周波数変化から金属膜の抵抗値の変化を検出する周波数タイプと、インピーダンスが変化し、このインピーダンス変化から金属膜の抵抗値の変化を検出するインピーダンスタイプとがある。即ち、周波数タイプでは、
図2(b)に示す等価回路において、渦電流I
2が変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(可変周波数発振器)12の発振周波数が変化すると、検波回路13でこの発振周波数の変化を検出し、金属膜の抵抗値の変化を検出することができる。インピーダンスタイプでは、
図2(b)に示す等価回路において、渦電流I
2が変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(固定周波数発振器)12から見たインピーダンスZが変化すると、検波回路13でこのインピーダンスZの変化を検出し、金属膜の抵抗値の変化を検出することができる。
【0021】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて具体的に説明する。交流信号源12は、1〜32MHz程度の固定周波数の発振器であり、例えば水晶発振器が用いられる。そして、交流信号源12により供給される交流電圧により、センサコイル11に電流I
1が流れる。金属膜4の近傍に配置されたセンサコイル11に電流が流れることで、この磁束が金属膜4と鎖交することでその間に相互インダクタンスMが形成され、金属膜4中に渦電流I
2が流れる。ここでR1はセンサコイルを含む一次側の等価抵抗であり、L
1は同様にセンサコイルを含む一次側の自己インダクタンスである。金属膜4側では、R2は渦電流損に相当する等価抵抗であり、L
2はその自己インダクタンスである。交流信号源12の端子a,bからセンサコイル側を見たインピーダンスZは、金属膜4中に形成される渦電流損の大きさによって変化する。
【0022】
図3(a),(b),(c)は、センサコイル11における各コイルの回路構成を示す概略図である。
図3(a)に示すように、センサコイル11は、金属膜に渦電流を形成するためのコイルと、金属膜の渦電流を検出するためのコイルとを分離したもので、3層のコイル21,22,23により構成されている。ここで中央のコイル21は、交流信号源12に接続される励磁コイルである。この励磁コイル21は、交流信号源12より供給される電圧の形成する磁界により、近傍に配置される金属膜4に渦電流を形成する。コイル21の上側(金属膜側)には、コイル22が配置され、金属膜に形成される渦電流により発生する磁界を検出する。そして、励磁コイル21に対して検出コイル22と反対側にはバランスコイル23が配置されている。
【0023】
検出コイル22とバランスコイル23とは、上述したように逆相の直列回路を構成し、その両端は可変抵抗25を含む抵抗ブリッジ回路26に接続されている。励磁コイル21は交流信号源12に接続され、交番磁束を生成することで、近傍に配置される金属膜4に渦電流を形成する。可変抵抗25の抵抗値を調整することで、コイル22,23からなる直列回路の出力電圧が、金属膜が存在しないときにはゼロとなるように調整可能としている。コイル22,23のそれぞれに並列に入る可変抵抗25(VR
1,VR
2)でL
1,L
3の信号を同位相にするように調整する。即ち、
図3(b)の等価回路において、
VR
1-1×(VR
2-2+jωL
3)=VR
1-2×(VR
2-1+jωL
1) (4)
となるように、可変抵抗VR
1(=VR
1-1+VR
1-2)およびVR
2(=VR
2-1+VR
2-2)を調整する。これにより、
図3(c)に示すように、調整前のL
1,L
3の信号(図中点線で示す)を、同位相・同振幅の信号(図中実線で示す)とする。
【0024】
そして、金属膜が検出コイル22の近傍に存在する時には、金属膜中に形成される渦電流によって生じる磁束が検出コイル22とバランスコイル23とに鎖交するが、検出コイル22のほうが金属膜に近い位置に配置されているので、両コイル22,23に生じる誘起電圧のバランスが崩れ、これにより金属膜の渦電流によって形成される鎖交磁束を検出することができる。即ち、交流信号源に接続された励磁コイル21から、検出コイル22とダミーコイル23との直列回路を分離して、抵抗ブリッジ回路でバランスの調整を行うことで、ゼロ点の調整が可能である。従って、金属膜に流れる渦電流をゼロの状態から検出することが可能になるので、金属膜中の渦電流の検出感度が高められる。これにより、広いダイナミックレンジで金属膜に形成される渦電流の大きさの検出が可能となる。
【0025】
図4は、渦電流センサの同期検波回路を示すブロック図である。
図4は、交流信号源12側からセンサコイル11側を見たインピーダンスZの計測回路例を示している。
図4に示すインピーダンスZの計測回路においては、金属膜がある場合には、抵抗成分(R)、リアクタンス成分(X)、インピーダンス成分(Z)および位相出力(tan
−1R/X)を取り出すことができる。
【0026】
上述したように、測定対象物2の金属膜4の近傍に配置されたセンサコイル11に、交流信号を供給する信号源12は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器であり、例えば、1〜32MHzの固定周波数の電圧を供給する。信号源12で形成される交流電圧は、バンドパスフィルタ30を介してセンサコイル11に供給される。センサコイル11の端子で検出された信号は、高周波アンプ31および位相シフト回路32を経て、cos同期検波回路33およびsin同期検波回路34からなる同期検波部により検出信号のcos成分とsin成分とが取り出される。ここで、信号源12で形成される発振信号は、位相シフト回路32により信号源12の同相成分(0゜)と直交成分(90゜)の2つの信号が形成され、それぞれcos同期検波回路33とsin同期検波回路34とに導入され、上述の同期検波が行われる。
【0027】
同期検波された信号は、ローパスフィルタ35,36により、信号成分以上の不要な高周波成分が除去され、cos同期検波出力であるX成分出力と、sin同期検波出力であるY成分出力とがそれぞれ取り出される。また、ベクトル演算回路37により、X成分出力とY成分出力とからインピーダンス成分Z=(X
2+Y
2)
1/2が得られる。また、ベクトル演算回路38により、同様にX成分出力とY成分出力とから位相出力θ=(tan
−1Y/X)が得られる。ここで、測定装置本体には、各種フィルタがセンサ信号の雑音成分を除去するために設けられている。各種フィルタは、それぞれに応じたカットオフ周波数が設定されており、例えば、ローパスフィルタのカットオフ周波数を0.1〜10KHzの範囲で設定することにより、測定対象物2の金属膜4の抵抗値の変化を高精度に測定することができる。
【0028】
図5(a)は、渦電流センサ1が計測したインピーダンス成分Zの変化を電圧に変換したグラフである。
図5(a)において、横軸は渦電流センサ1によるインピーダンス成分のX成分出力を示し、縦軸は渦電流センサ1によるインピーダンス成分のY成分出力を示す。
図5(a)において、Z0は金属膜がない時の出力であり、Z1は金属膜4がある時の出力であるインピーダンス成分である。Z1と予め設定された基準点Pとを結ぶ直線とX成分と平行な直線とのなす角度θは、インピーダンス角である。すなわち、測定対象物2に金属膜4がある場合には、渦電流センサ1は出力Z1とインピーダンス角θが得られる。
図5(b)は、渦電流センサ1の出力と対象物温度との関係を示すグラフである。
図5(b)において、横軸は時間(t)を示し、縦軸はセンサ出力(Z1)の大きさおよび対象物温度を示す。
図5(b)から、センサ出力と対象物温度とは、相関関係があることが分かる。
【0029】
図6(a),(b)は、
図1に示す構成において金属膜がPt(白金)の場合におけるPtの温度と渦電流センサ1の出力を計測した結果を示すグラフである。
図6(a)に示すように、渦電流センサ1の出力(V)とPtの温度T(℃)との間には、次式の関係がある。
V=0.07×T(℃)−1.96 ・・・(5)
図6(b)に示すように、渦電流センサ1の出力(θ(度))とPtの温度T(℃)との間には、次式の関係がある。
θ=2.7×T(℃)−72 ・・・(6)
図6(a),(b)のグラフから明らかなように、渦電流センサの出力とPtの温度とは、一定の関係があることが分かっているので、渦電流の出力からPtの温度を知ることができる。
金属膜が他の材質から構成される場合にも、予めその材質の金属膜と渦電流センサの出力との関係を求めておけば、渦電流センサの出力から金属膜の温度が分かる。
【0030】
次に、渦電流センサと測定対象物との距離について説明する。
測定対象物の温度を測定する場合に、渦電流センサを測定対象物に対して常に一定の距離に配置することはできない。また、半導体製造における成膜工程などで薄膜の温度を測定したい場合があるが、初期時には金属膜がなく、成膜工程が進行するにつれて金属膜が形成されていくような場合、渦電流センサを測定対象物に対して常に一定の距離に配置することはできない。
本発明の
基板保持装置に備えられた渦電流センサによれば、管理された距離、一定温度での出力特性を事前に取得しておき、この事前に取得した出力特性と比較することにより、距離の影響を受けずに測定対象物の温度計測が可能になる。
【0031】
図7(a)は、渦電流センサと測定対象物との距離を変化させた場合の渦電流センサの出力を示すグラフである。すなわち、
図7(a)は、
図1において、金属膜4と渦電流センサ1との距離Lを変化させた場合の渦電流センサ1の出力の変化を表す。
図7(a)において、横軸は渦電流センサによるインピーダンス成分のX成分出力を示し、縦軸は渦電流センサによるインピーダンス成分のY成分出力を示す。
図7(a)において、Z0は金属膜がない時の出力である。Z1は、金属膜がある時の出力であって渦電流センサと金属膜とが所定距離のときの出力である。Z2は、渦電流センサと金属膜との距離がZ1の場合より離間している場合の出力である。Z3は、渦電流センサと金属膜との距離がZ1の場合より近い場合の出力である。Z1,Z2,Z3はインピーダンス成分である。
【0032】
渦電流センサは、一定膜厚であれば、測定対象物との距離が変化しても、各出力(Z1,Z2,Z3)と予め設定された基準点Pとを結ぶ直線とX成分と平行な直線とのなす角度であるインピーダンス角θは、同一となる特性がある。すなわち、渦電流センサの出力は、測定対象物との距離によって変化するが、基準点Pとの角度であるインピーダンス角θは変化しない。ただし、温度による影響は受ける。
ここで、基準点Pとは、渦電流センサと測定対象物との間の距離が異なる条件下で取得された前記インピーダンス成分ZのX成分(抵抗成分)とY成分(リアクタンス成分)とを直交座標軸上に表示し、測定対象物の膜厚毎の前記X成分および前記Y成分からなる座標を結ぶ予備測定直線同士が交差する中心点である。
【0033】
図7(b)は、渦電流センサの出力およびインピーダンス角と対象物温度との関係を示すグラフである。
図7(b)において、横軸は時間(t)を示し、縦軸は渦電流センサの出力、インピーダンス角θおよび対象物温度を示す。
図7(b)に示すように、時間t1以前では渦電流センサと金属膜との距離は一定であり、その時のセンサ出力は
図7(a)のZ1に対応している。時間t1以降から渦電流センサと測定対象物との距離が離れるのでセンサ出力は低下していく。
図7(b)において最もセンサ出力が低下している位置は、
図7(a)のZ2に対応している。この間、対象物温度は一定のため、インピーダンス角θは一定である。時間t2から時間t3の間、渦電流センサと測定対象物との距離は変化しないが、対象物温度が変化しているため、センサ出力およびインピーダンス角は変化する。時間t3以降、対象物の温度は元の温度に戻る。そして、時間t4で渦電流センサと測定対象物との距離は時間t1以前と同様の距離になり、その時のセンサ出力は
図7(a)のZ1に対応している。その後、時間t5で渦電流センサと測定対象物との距離は近くなり、その時のセンサ出力は
図7(a)のZ3に対応している。
基本的には、渦電流センサの出力と測定対象物の温度との関係は、(5)式および(6)式と同様、1次式で表すことができる。
予め、渦電流センサと測定対象物との距離による出力の関連を前もって取得する必要がある。
【0034】
次に、渦電流センサ自身の変動をキャンセルする補正方法を説明する。
渦電流センサは、使用環境の変化や渦電流センサそのものの経時変化などにより、渦電流センサの出力が変動する場合がある。変動があると、渦電流センサの出力と測定対象物の温度との対応関係がずれてしまうので、測定温度に誤差が生じてしまうという問題がある。
図8は、センサ自身の変動をキャンセルする補正方法を示す模式図であり、
図1に示す渦電流センサと測定対象物との関係に、渦電流センサを移動可能とした構成を加えた模式図である。
【0035】
図8に示すように、渦電流センサ1を移動させ、以下の値を計測する。
(1)金属膜なし(xat,yat)、(2)金属膜あり(xbt,ybt)。
(3)任意時間経過後に上記(1),(2)を測定する。tは測定時刻である。
センサ変動値(δx,δy)を金属膜なし(xat,yat)のベクトル値に基づいて求める。金属膜なしの場合には、センサ出力は本来的にはゼロであるが、経時的に出力がある場合があり、そこで一定時間をおいて、センサ出力(xat,yat)を見る。
例えば、計測時刻1Sのセンサ値を(xa1,ya1)、計測時刻10Sのセンサ値を(xa10,ya10)とすると、センサ変動値は次式となる。
(δx,δy)=(xa10−xa1,ya10−ya1)
計測時刻10S以降の計測時刻tにおける金属膜ありの場合の計測値(xbt,ybt)に、センサ自身の変動値(δx,δy)を加えて変動分をキャンセルすることにより、以下のように補正を行う。
補正後のセンサ出力=金属膜あり(xbt−δx,ybt−δy)
【0036】
次に、本発明の
基板保持装置に備えられた渦電流センサを利用して研磨中の基板の温度を計測する態様を説明する。
研磨装置を用いて半導体ウエハ等の基板を研磨する際には、基板を研磨テーブル上の研磨パッドに所定の研磨圧力で押圧して摺動させることにより、基板と研磨パッドの接触面における温度、すなわち研磨温度が上昇する。研磨圧力を制御することは、研磨性能向上のために重要であるが、研磨温度を測定・制御することも研磨性能向上のために非常に重要である。すなわち、研磨パッドは発泡ポリウレタン等の樹脂材を用いているため、研磨温度は研磨パッドの剛性を変化させ基板の平坦化特性に影響を及ぼす。また、化学的機械研磨(CMP)は、研磨液(研磨スラリー)と基板の被研磨面との化学反応を利用して研磨する方法であるため、研磨温度は研磨スラリーの化学的特性に影響を及ぼす。更に、研磨温度によって研磨速度分布が変化し歩留まりが悪化したり、研磨速度が低下し研磨装置の生産性が悪化してしまうことにもつながる。また基板の面内で温度分布があると面内での研磨性能が均一でなくなる。
【0037】
研磨装置においては、渦電流センサを研磨テーブルに埋設し、研磨中に、渦電流センサによって基板上の金属膜の膜厚をモニターしながら、研磨圧力をコントロールすることが行われている。
研磨中に、研磨テーブルに設置された渦電流センサで基板上の金属膜の温度を計測しようとすると、金属膜の膜厚が変化するため、金属膜の温度を計測できないという問題がある。
そこで、本発明は、基板を保持するためのトップリングに渦電流センサを設置し、基板の温度を被研磨面の裏面側から計測するようにしたものである。
【0038】
図9は、本発明の
基板保持装置が適用される研磨装置の全体構成を示す模式的斜視図である。
図9に示すように、研磨装置は、研磨パッド42を支持する研磨テーブル41と、研磨対象物である半導体ウエハ等の基板を保持して研磨テーブル41上の研磨パッド42に押圧するトップリング51と、研磨パッド42上に研磨液(スラリー)を供給する研磨液供給ノズル43とを備えている。
【0039】
トップリング51は、その下面に真空吸着により半導体ウエハ等の基板を保持するように構成されている。トップリング51および研磨テーブル41は、矢印で示すように同一方向に回転し、この状態でトップリング51は、基板を研磨パッド42に押圧する。研磨液供給ノズル43からは研磨液が研磨パッド42上に供給され、基板は、研磨液の存在下で研磨パッド42との摺接により研磨される。
【0040】
図10は、
図9に示すトップリング51の詳細を示す模式的断面図である。
図10に示すように、トップリング51は、基板Wを研磨パッド42に対して押圧するトップリング本体52と、研磨パッド42を直接押圧するリテーナリング53とから基本的に構成されている。トップリング本体52の下面には、半導体ウエハ等の基板の裏面に当接する弾性膜(メンブレン)54が取り付けられている。弾性膜(メンブレン)54は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。弾性膜(メンブレン)54は、半導体ウエハ等の基板を保持する基板保持面を構成している。
【0041】
前記弾性膜(メンブレン)54は、同心状の複数の隔壁54aを有し、これら隔壁54aによって、メンブレン54の上面とトップリング本体52の下面との間に円形状のセンター室55、環状のリプル室56、環状のアウター室57、環状のエッジ室58が形成されている。すなわち、トップリング本体52の中心部にセンター室55が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室56、アウター室57、エッジ室58が形成されている。トップリング本体52内には、センター室55に連通する流路61、リプル室56に連通する流路62、アウター室57に連通する流路63、エッジ室58に連通する流路64がそれぞれ形成されている。そして、センター室55に連通する流路61、リプル室56に連通する流路62、アウター室57に連通する流路63、エッジ室58に連通する流路64は、圧力室加圧ライン(図示せず)にそれぞれ接続されている。
また、リテーナリング53の直上にも弾性膜(メンブレン)70によってリテーナリング圧力室59が形成されている。
【0042】
図10に示すように、トップリング51のトップリング本体52内に4個の渦電流センサ1が設置されている。また、メンブレン54の裏面側(基板保持面の反対側)には、各渦電流センサ1に対向した位置に熱伝導率が高い金属膜65が貼り付けられている。金属膜65は高い熱伝導率ゆえ、金属膜65は、研磨中に、金属膜65が貼り付けられているメンブレン54の各部の温度と概略等しくなる。すなわち、4個の渦電流センサ1は、それぞれセンター室55、リプル室56、アウター室57、エッジ室58に臨むように配置されており、各圧力室55,56,57,58に対応したメンブレン54の各部分の温度が測定できるようになっている。
【0043】
本発明によれば、渦電流センサ1により金属膜65を介してメンブレン54の温度を計測し、更に計測したメンブレン温度に基づいて基板の温度を間接的に計測することができる。
本発明の
基板保持装置を備えた研磨装置によれば、複数の渦電流センサ1により計測した基板の各部の温度を用いて各圧力室の圧力を変更して、基板の各部の研磨圧力を制御することができる。すなわち、研磨中、1つの圧力室(例えばセンター室55)に対応する部分の基板の温度計測値が、他の圧力室(例えばリプル室56)に対応する部分の基板の温度計測値よりも高い場合には、1つの圧力室(センター室55)の圧力を下げて温度上昇を抑制したり、逆に他の圧力室(リプル室56)の圧力を上げて当該圧力室(リプル室56)の温度上昇を促進することが行われる。これにより、研磨速度を制御して所望の研磨プロファイルを得ることができる。
【0044】
実施形態においては、金属膜の温度を計測する場合を説明したが、本発明の
基板保持装置に備えられた渦電流センサは導電性膜の場合にもその温度を計測することができる。
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。