(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合層を形成する工程は、前記被覆材が形成された前記Si粒子を700℃以上900℃以下の温度条件下で熱処理することによって、前記Si粒子と前記被覆材との界面に前記接合層を形成する工程を含む、請求項7に記載の二次電池用負極材の製造方法。
NiとPとを含む前記被覆材を形成する工程は、前記被覆材における含有量が5質量%以上15質量%以下であるPと、Niとからなる前記被覆材を形成する工程を含む、請求項9に記載の二次電池用負極材の製造方法。
前記被覆材を形成する工程は、エッチングにより、前記Si粒子の表面に形成されている自然酸化膜を除去する工程と、前記自然酸化膜を介さずに前記Si粒子と前記被覆材とが互いに接触するように前記Si粒子の表面上に前記被覆材を形成する工程とを含み、
前記接合層を形成する工程は、前記自然酸化膜を介さずに前記Si粒子と前記被覆材とが前記接合層を介して互いに接合するように前記Si粒子と前記被覆材との界面に前記接合層を形成する工程を含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の二次電池用負極材の製造方法。
前記エッチングにより前記自然酸化膜を除去する工程は、前記エッチングにより、前記自然酸化膜を除去するとともに、前記Si粒子の表面を凹凸形状に形成する工程を有する、請求項11に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のNiめっきされたSi粒子からなる活物質粒子では、Niめっきにより、二次電池用負極材に発生した応力に耐えて崩壊を抑制することがある程度可能である一方、Si粒子とNiめっきとが十分に密着していない場合には、NiめっきがSi粒子から剥離して、その結果、Si粒子の崩壊を十分に抑制することができなくなると考えられる。このため、上記特許文献1に記載された活物質粒子では、サイクル特性を十分に向上させることはできない場合があると考えられる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、Si粒子と被覆材との密着性を向上させることによって、サイクル特性をさらに向上させることが可能な二次電池用負極材、その二次電池用負極材の製造方法およびその二次電池用負極材を備える二次電池用負極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面による二次電池用負極材は、二次電池用負極の集電体層上に形成される活物質層を構成する二次電池用負極材であって、Si粒子と、Si粒子の表面上に形成されたNiを少なくとも含む被覆材と、Si粒子と被覆材との界面に形成され、NiとSiとを少なくとも含む接合層とを備え
、接合層は、Si粒子の表面上に島状、点状または網状に分布するように形成されており、接合層は、Si粒子と被覆材との界面のうちの被覆材側において、Si粒子側よりも多く形成されており、接合層の厚みは、被覆材の厚みよりも小さい。
【0009】
この発明の第1の局面による二次電池用負極材では、上記のように、Si粒子と被覆材との界面にNiとSiとを少なくとも含む接合層を形成することによって、接合層がSi粒子に含まれるSiと被覆材に含まれるNiとを共に含むことにより、Si粒子と接合層との密着性を良好にすることができるとともに、被覆材と接合層との密着性を良好にすることができる。これにより、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性を向上させることができるので、二次電池用負極材を用いた二次電池用負極のサイクル特性を向上させることができる。
【0010】
上記第1の局面による二次電池用負極材において、好ましくは、接合層は、Ni−Si合金を含む。このように構成すれば、Ni−Si合金を含む接合層により、Si粒子と接合層との密着性をより良好にすることができるとともに、被覆材と接合層との密着性をより良好にすることができるので、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性をより向上させることができる。
【0011】
上記第1の局面による二次電池用負極材において、好ましくは、接合層の厚みは、0.1μm以上である。このように構成すれば、接合層の厚みが小さいことに起因して、Si粒子と接合層との密着性、および、被覆材と接合層との密着性が低下するのを抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による二次電池用負極材において、好ましくは、Si粒子と被覆材とは、自然酸化膜を介さずに接合層を介して互いに接合している。このように構成すれば、主にセラミックス(酸化物(SiO
2))からなるSi粒子の自然酸化膜を介さずに、Si粒子と被覆材とを接合層を介して互いに接合することによって、Si粒子のSi(半金属元素)と被覆材のNi(金属元素)とを直接的に接触させることができる。これにより、Si粒子と被覆材とをセラミックスからなる自然酸化膜を介して互いに接合する場合と比べて、Si粒子と被覆材との密着性をさらに向上させることができる。
【0013】
上記第1の局面による二次電池用負極材において、好ましくは、Si粒子の表面は、凹凸形状に形成されている。このように構成すれば、凹凸形状の表面を有するSi粒子と被覆材との接触面積を増加させることができるので、Si粒子と被覆材との密着性を効果的に向上させることができる。
【0014】
上記第1の局面による二次電池用負極材において、好ましくは、被覆材は、NiとPとを含んでおり、被覆材のPは、Si粒子内に拡散している。このように構成すれば、Si粒子内に拡散したPがドーパントになることによって、Si粒子の電気伝導性を向上させることができる。これにより、二次電池用負極材が用いられる二次電池用負極の電気伝導性を向上させることができるので、二次電池用負極の出力特性を向上させることができる。
【0015】
この発明の第2の局面による二次電池用負極材の製造方法は、Niを少なくとも含む被覆材をSi粒子の表面上に形成する工程と、被覆材が形成されたSi粒子を熱処理することによって、Si粒子と被覆材との界面にNiとSiとを少なくとも含む接合層を形成する工程とを備え
、接合層を形成する工程は、Si粒子と被覆材との界面のうちの被覆材側において、Si粒子側よりも多いとともに島状、点状または網状に分布するように形成され、かつ、被覆材の厚みよりも小さい厚みを有する接合層を形成する工程を含む。
【0016】
この発明の第2の局面による二次電池用負極材の製造方法では、上記のように、Si粒子と被覆材との界面にNiとSiとを少なくとも含む接合層を形成することによって、接合層がSi粒子に含まれるSiと被覆材に含まれるNiとを共に含むことにより、Si粒子と接合層との密着性を良好にすることができるとともに、被覆材と接合層との密着性を良好にすることができる。これにより、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性を向上させることができるので、二次電池用負極材を用いた二次電池用負極のサイクル特性を向上させることができる。また、被覆材が形成されたSi粒子を熱処理することによって、Si粒子のSiを被覆材に拡散させることができるので、Si粒子と被覆材との界面に接合層を容易に形成することができる。
【0017】
上記第2の局面による二次電池用負極材の製造方法において、好ましくは、接合層を形成する工程は、700℃以上900℃以下の温度条件下で被覆材が形成されたSi粒子を熱処理することによって、Si粒子と被覆材との界面に接合層を形成する工程を含む。このように構成すれば、700℃以上900℃以下の温度条件下で熱処理を行うことにより、Si粒子のSiを被覆材に確実に拡散させることができるので、Si粒子と被覆材との界面に接合層を確実に形成することができる。
【0018】
上記第2の局面による二次電池用負極材の製造方法において、好ましくは、被覆材を形成する工程は、NiとPとを含む被覆材をSi粒子の表面上に形成する工程を含み、接合層を形成する工程は、被覆材が形成されたSi粒子を熱処理することによって、Si粒子と被覆材との界面にNi−Si合金を含む接合層を形成するとともに、被覆材のPをSi粒子内に拡散させる工程を含む。このように構成すれば、Si粒子内に拡散したPがドーパントになることによって、Si粒子の電気伝導性を向上させることができる。これにより、二次電池用負極材が用いられる二次電池用負極の電気伝導性を向上させることができるので、二次電池用負極の出力特性を向上させることができる。また、熱処理により、Si粒子のSiを被覆材に拡散させるだけでなく、被覆材のPをSi粒子に拡散させることができるので、容易に、Si粒子と被覆材との界面に接合層を形成しつつ、Si粒子の電気伝導性を向上させることができる。
【0019】
この場合、好ましくは、NiとPとを含む被覆材を形成する工程は、被覆材における含有量が0.5質量%以上15質量%以下であるPと、Niとからなる被覆材を形成する工程を含む。このように構成すれば、被覆材が0.5質量%以上のPを含むことにより、被覆材に二次電池用負極のSi粒子に発生した応力に耐えやすい結晶構造を有するNi
3Pを含めることができるので、Si粒子と被覆材との密着状態を長期間維持することができる。また、被覆材のPの含有量を15質量%以下にすることにより、被覆材に十分なNiを確保することができるので、熱処理により、被覆材のNiが拡散したSiと反応して接合層が形成された場合であっても、NiとPとを含む被覆材における電気伝導性を十分に確保することができる。
【0020】
上記第2の局面による二次電池用負極材の製造方法において、好ましくは、被覆材を形成する工程は、エッチングにより、Si粒子の表面に形成されている自然酸化膜を除去する工程と、自然酸化膜を介さずにSi粒子と被覆材とが互いに接触するようにSi粒子の表面上に被覆材を形成する工程とを含み、接合層を形成する工程は、自然酸化膜を介さずにSi粒子と被覆材とが接合層を介して互いに接合するようにSi粒子と被覆材との界面に接合層を形成する工程を含む。このように構成すれば、主にセラミックス(酸化物(SiO
2))からなるSi粒子の自然酸化膜を除去することによって、Si粒子のSi(半金属元素)と被覆材のNi(金属元素)とを直接的に接触させることができる。これにより、接合層だけでなくセラミックスからなる自然酸化膜を介して接合する場合と比べて、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性をさらに向上させることができる。また、研磨等と比べて、エッチングにより、Si粒子の表面に形成されている自然酸化膜を容易に除去することができる。
【0021】
この場合、好ましくは、エッチングにより自然酸化膜を除去する工程は、エッチングにより、自然酸化膜を除去するとともに、Si粒子の表面を凹凸形状に形成する工程を有する。このように構成すれば、凹凸形状の表面を有するSi粒子と被覆材との接触面積を増加させることができるので、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性を効果的に向上させることができる。また、エッチングにより、自然酸化膜を除去しつつSi粒子の表面を凹凸形状にすることができるので、Si粒子の表面を凹凸形状に形成する工程が別途不要となり、その結果、二次電池用負極材の製造プロセスを簡略化することができる。
【0022】
この発明の第3の局面による二次電池用負極は、集電体層と、集電体層の表面上に形成される活物質層とを備える二次電池用負極であって、活物質層は、Si粒子と、Si粒子の表面上に形成されたNiを少なくとも含む被覆材と、Si粒子と被覆材との界面に形成され、NiとSiとを少なくとも含む接合層とを有する二次電池用負極材を含
み、接合層は、Si粒子の表面上に島状、点状または網状に分布するように形成されており、接合層は、Si粒子と被覆材との界面のうちの被覆材側において、Si粒子側よりも多く形成されており、接合層の厚みは、被覆材の厚みよりも小さい。
【0023】
この発明の第3の局面による二次電池用負極では、上記のように、活物質層にSi粒子と被覆材との界面にNiとSiとを少なくとも含む接合層を形成することによって、接合層がSi粒子に含まれるSiと被覆材に含まれるNiとを共に含むことにより、Si粒子と接合層との密着性を良好にすることができるとともに、被覆材と接合層との密着性を良好にすることができる。これにより、接合層を介したSi粒子と被覆材との密着性を向上させることができるので、二次電池用負極のサイクル特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上記のように、Si粒子と被覆材との密着性を向上させることによって、サイクル特性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
(第1実施形態)
まず、
図1〜
図3を参照して、本発明の第1実施形態による負極100の構成について説明する。なお、負極100は、本発明の「二次電池用負極」の一例である。
【0028】
本発明の第1実施形態による負極100は、いわゆるリチウムイオン二次電池(図示せず)に用いられる負極であって、
図1に示すように、集電体層10と、集電体層10の一方表面に形成された活物質層11とを備えている。なお、活物質層11は、集電体層10の一方表面だけでなく両面に形成されてもよい。また、集電体層10は、Cu箔(銅箔)またはSUS箔(ステンレス箔)からなる。ここで、集電体層10としてCu箔を用いた場合には、集電体層10の電気伝導性が向上する一方、Cu箔の機械的強度が低いため、後述する負極材1のSi粒子2の膨張収縮によって塑性変形して伸びやすく、その結果、活物質層11が集電体層10から剥がれやすくなる。一方、集電体層10としてSUS箔を用いた場合には、SUS箔の機械的強度が高いためSi粒子2の膨張収縮に耐えて塑性変形しにくいものの、集電体層10の電気伝導性が低下する。
【0029】
活物質層11は、複数の負極材1(
図2参照)が集電体層10の表面10aに吹き付けられることによって形成されている。なお、負極材1は、本発明の「二次電池用負極材」の一例である。
【0030】
ここで、第1実施形態では、負極材1は、
図2および
図3に示すように、Si粒子2と、Si粒子2の表面2a上に形成されたNi−Pメッキ層3と、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aに形成されたNi−Si反応層4(
図3参照)とを含んでいる。なお、Ni−Pメッキ層3は、本発明の「被覆材」の一例であり、Ni−Si反応層4は、本発明の「接合層」の一例である。
【0031】
Si粒子2は、Si(ケイ素)からなるとともに、約15μm以下の粒径を有している。また、Si粒子2の表面2aは、セラミックスであるSiの酸化物(SiO
2)からなる自然酸化膜5(
図4参照)が除去されているとともに、凹凸形状に形成されている。この結果、Si粒子2の表面2aにおける酸化量が低下されている。また、Si粒子2内には、Ni−Pメッキ層3のPの一部が拡散している。
【0032】
Ni−Pメッキ層3は、主にNi(ニッケル)からなるとともに、P(リン)を含んでいる。また、Ni−Pメッキ層3は、Si粒子2の表面2a上に島状、点状または網状に分布するように形成されている。
【0033】
また、第1実施形態では、Ni−Si反応層4は、主にNi−Si合金からなるとともに、Ni−Pメッキ層3のPが若干含まれている。このNi−Si反応層4は、熱処理においてSi粒子2のSiの一部がNi−Pメッキ層3側に拡散することによって形成されている。なお、Ni−Pメッキ層3のNiも若干Si粒子2側に拡散すると考えられるものの、Siの拡散速度の方がNiの拡散速度よりも速いため、Ni−Si反応層4は、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aのうちの、Ni−Pメッキ層3側に実質的に形成される。
【0034】
また、Ni−Si反応層4は、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との密着性を向上させる機能を有している。また、Ni−Si反応層4の厚みt1は、約0.1μm以上である。なお、Ni−Si反応層4の厚みt1は、複数の負極材1の断面を各々観察した際に、計測可能であった複数地点におけるNi−Si反応層4の厚みの平均である。
【0035】
また、Si粒子2とNi−Pメッキ層3とは、自然酸化膜5を介さずにNi−Si反応層4を介して互いに接合されている。
【0036】
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0037】
第1実施形態では、上記のように、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aにNi−Si反応層4を形成することによって、Ni−Si反応層4がSi粒子2に含まれるSiとNi−Pメッキ層3に含まれるNiとを共に含むことにより、Si粒子2とNi−Si反応層4との密着性を良好にすることができるとともに、Ni−Pメッキ層3とNi−Si反応層4との密着性を良好にすることができる。これにより、Ni−Si反応層4を介したSi粒子2とNi−Pメッキ層3との密着性を向上させることができるので、負極材1を用いた負極100のサイクル特性を向上させることができる。
【0038】
また、第1実施形態では、Ni−Si反応層4が主にNi−Si合金からなることによって、Si粒子2とNi−Si反応層4との密着性をより良好にすることができるとともに、Ni−Pメッキ層3とNi−Si反応層4との密着性をより良好にすることができるので、Ni−Si反応層4を介したSi粒子2とNi−Pメッキ層3との密着性をより向上させることができる。
【0039】
また、第1実施形態では、Ni−Si反応層4の厚みt1を約0.1μm以上にすることによって、Ni−Si反応層4の厚みが小さいことに起因して、Si粒子2とNi−Si反応層4との密着性、および、Ni−Pメッキ層3とNi−Si反応層4との密着性が低下するのを抑制することができる。
【0040】
また、第1実施形態では、セラミックス(酸化物(SiO
2))からなるSi粒子2の自然酸化膜5を介さずに、Si粒子2とNi−Pメッキ層3とをNi−Si反応層4を介して互いに接合することによって、Si粒子2のSi(半金属元素)とNi−Pメッキ層3のNi(金属元素)とを直接的に接触させることができる。これにより、Ni−Si反応層4だけでなくセラミックスからなる自然酸化膜5を介して接合する場合と比べて、Ni−Si反応層4を介したSi粒子2とNi−Pメッキ層3との密着性をさらに向上させることができる。
【0041】
また、第1実施形態では、Si粒子2の表面2aを凹凸形状に形成することによって、凹凸形状の表面2aを有するSi粒子2とNi−Pメッキ層3との接触面積を増加させることができるので、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との密着性を効果的に向上させることができる。
【0042】
また、第1実施形態では、Si粒子2内に、Ni−Pメッキ層3のPの一部を拡散させることによって、Si粒子2内に拡散したPがドーパントになることにより、Si粒子2の電気伝導性を向上させることができる。これにより、負極材1が用いられる負極100の電気伝導性を向上させることができるので、負極100の出力特性を向上させることができる。
【0043】
次に、
図2〜
図5を参照して、本発明の第1実施形態による負極材1および負極100の製造プロセスについて説明する。
【0044】
まず、所定の大きさのSiの塊を粉砕等することによって、種々の粒径を有するSi粒子(図示せず)を作成する。そして、約15μmの篩目開きの篩を用いてSi粒子2を選別することによって、
図2に示すような約15μm以下の粒径を有するSi粒子2を準備する。この際、Si粒子2を約1μm以下の粒径を有する微小粒子のみに限定する場合と比べて、Si粒子2を容易に選別することが可能である。その後、
図4に示すように、フッ化水素酸を用いた化学エッチングによって、Si粒子2の表面2aを酸洗する。これにより、Si粒子2の表面2aの自然酸化膜5が除去されるとともに、Si粒子2の表面2aの一部が除去されて、Si粒子2の表面2aが凹凸形状に形成される。
【0045】
そして、めっき処理の一種である無電解析出(ELD)法を用いて、Si粒子2の表面2aにNi−Pメッキ層3を形成する。具体的には、NiSO
4・6H
2Oを溶解させたH
2SO
4水溶液に、自然酸化膜5が除去された複数のSi粒子2と、NaBH
4と、NaH
2PO
2・H
2Oと、Na
3C
6H
5O
7・2H
2Oとを添加する。この際、Ni−Pメッキ層3におけるPの質量(含有量)が約2.0質量%になるように調整する。そして、作成した溶液を所定の温度下で攪拌することによって、無電解めっき処理を行う。これにより、Si粒子2の表面2aに、自然酸化膜5を介さずに、約2.0質量%のPとNiとを含むNi−Pメッキ層3が形成される。これにより、
図2に示すように、Si粒子2の表面2aを島状、点状または網状に分布するNi−Pメッキ層3が形成される。この際、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との全体の質量におけるNi−Pメッキ層3の質量(含有量)が約5.0質量%になるようにNi−Pメッキ層3を形成する。
【0046】
ここで、第1実施形態の製造プロセスでは、
図5に示すように、Ni−Pメッキ層3が形成されたSi粒子2を、不活性ガス(Ar)雰囲気下で、かつ、おおむね600℃以上1000℃以下の所定の温度条件下で、所定の時間熱処理を行う。なお、1000℃近傍の温度条件下で熱処理を行う場合には、Si粒子2のSiの過度な拡散に起因するサイクル特性の低下を抑制するために、熱処理時間を短時間にする必要がある(たとえば、10分など)。また、熱処理の温度条件は、後述する実施例でのサイクル特性の測定結果に基づき、おおむね700℃以上900℃以下が好ましく、750℃以上850℃以下がより好ましい。特に、おおむね800℃の温度が最も好ましい。
【0047】
この熱処理により、Si粒子2のSiがNi−Pメッキ層3に拡散するとともに、Ni−Pメッキ層3のPがSi粒子2に拡散する。これにより、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aのうちの主にNi−Pメッキ層3側でSiとNiとが反応することによって、主にNi−Si合金からなるNi−Si反応層4が形成される。この結果、熱処理により、Si粒子2とNi−Pメッキ層3とが、自然酸化膜5を介さずにNi−Si反応層4を介して互いに接合される。なお、Ni−Si反応層4内には、Ni−Pメッキ層3のPも含まれる。このようにして、
図2および
図3に示す負極材1が形成される。
【0048】
その後、エアロゾルデポジション法を用いて、複数の負極材1を、集電体層10の表面10aに所定のガス圧で吹き付ける。これにより、集電体層10の表面10aに活物質層11が形成されて、
図1に示す負極100が形成される。
【0049】
第1実施形態の製造プロセスでは、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
第1実施形態の製造プロセスでは、上記のように、熱処理によりSi粒子2のSiをNi−Pメッキ層3に拡散させることができるので、SiとNiとを容易に反応させて、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aにNi−Si反応層4を容易に形成することができる。
【0051】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、おおむね700℃以上900℃以下の所定の温度条件下で熱処理を行うことによって、Si粒子2のSiをNi−Pメッキ層3に確実に拡散させることができるので、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aにNi−Si反応層4を確実に形成することができる。
【0052】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、熱処理により、Si粒子2のSiをNi−Pメッキ層3に拡散させるだけでなく、Ni−Pメッキ層3のPをSi粒子2に拡散させることができるので、容易に、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との界面1aにNi−Si反応層4を形成しつつ、Si粒子2の電気伝導性を向上させることができる。
【0053】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、Ni−Pメッキ層3における含有量が約2.0質量%であるPと、Niとを含むNi−Pメッキ層3を形成することによって、Ni−Pメッキ層3に負極100のSi粒子2に発生した応力に耐えやすい結晶構造を有するNi
3Pを含めることができるので、Si粒子2とNi−Pメッキ層3との密着状態を長期間維持することができる。また、Ni−Pメッキ層3に十分なNiを確保することができるので、熱処理により、Ni−Pメッキ層3のNiが拡散したSiと反応してNi−Si反応層4が形成された場合であっても、Ni−Pメッキ層3における電気伝導性を十分に確保することができる。
【0054】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、フッ化水素酸を用いた化学エッチングによって、Si粒子2の表面2aを酸洗することにより、Si粒子2の表面2aの自然酸化膜5を除去するとともに、Si粒子2の一部を除去して、Si粒子2の表面2aを凹凸形状に形成する。これにより、研磨等と比べて、エッチングにより、Si粒子2の表面2aに形成されている自然酸化膜5を容易に除去することができる。また、エッチングにより、自然酸化膜5を除去しつつSi粒子2の表面2aを凹凸形状にすることができるので、Si粒子2の表面2aを凹凸形状に形成する工程が別途不要となり、その結果、負極材1の製造プロセスを簡略化することができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、
図6を参照して、本発明の第2実施形態による負極材201について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態の負極材1とは異なり、自然酸化膜5が除去されていない負極材201について説明する。なお、負極材201は、本発明の「二次電池用負極材」の一例である。
【0056】
本発明の第2実施形態による負極材201は、
図6に示すように、上記第1実施形態の負極材1(
図3参照)とは異なり、Siの酸化物(SiO
2)からなる自然酸化膜5が除去されておらず、自然酸化膜5が形成されたSi粒子202の表面202a上に、Ni−Pメッキ層3が形成されている。また、Si粒子202とNi−Pメッキ層3との界面201aのうちの主にNi−Pメッキ層3側には、Ni−Si反応層204が形成されている。このNi−Si反応層204は、熱処理において、Si粒子202のSiの一部が、自然酸化膜5の図示しない間隙(Si粒子202を覆っていない部分)を通過して、Ni−Pメッキ層3に拡散することによって形成されている。なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0057】
次に、
図6を参照して、本発明の第2実施形態による負極材201の製造プロセスについて説明する。
【0058】
まず、上記第1実施形態と同様に、
図2に示すようなSi粒子202を準備する。その後、第2実施形態では、上記第1実施形態とは異なり、フッ化水素酸を用いた化学エッチングを行わない。つまり、Si粒子202の表面202aは凹凸形状に形成されない。そして、無電解析出法を用いて、Si粒子202の表面202aに、Ni−Pメッキ層3を形成する。そして、Ni−Pメッキ層3が形成されたSi粒子202に対して上記第1実施形態と同様に熱処理を行う。これにより、Si粒子202とNi−Pメッキ層3との界面201aのうちの主にNi−Pメッキ層3側に、Ni−Si反応層204が形成される。なお、第2実施形態のその他の製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0059】
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
第2実施形態では、上記のように、Si粒子202とNi−Pメッキ層3との界面201aにNi−Si反応層204を形成することによって、上記第1実施形態と同様に、Ni−Si反応層204を介したSi粒子202とNi−Pメッキ層3との密着性を向上させることができるので、負極材201を用いた負極のサイクル特性を向上させることができる。
【0061】
また、第2実施形態の製造プロセスでは、自然酸化膜5が形成されたSi粒子202の表面202a上に、Ni−Pメッキ層3を形成することによって、Si粒子202に対してエッチングを行う必要がないので、負極材201の製造プロセスを簡略化することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である
【0062】
[実施例]
次に、
図7〜
図15を参照して、本発明の負極材の効果を確認するために行った確認実験について説明する。
【0063】
この確認実験では、
図7に示すように、実施例1〜4、参考例1、比較例1および2の負極材を作成した。ここで、実施例1として、上記第2実施形態に対応する自然酸化膜5が除去されていない負極材201を準備した。具体的には、15μmの篩目開きの篩を用いてSi粒子202を選別することによって、15μm以下のSi粒子202を準備した。そして、Si粒子202に対して化学エッチング(酸洗)を行わずに、そのまま、無電解析出(ELD)法を用いて、Ni−Pメッキ層3を形成した。この際、Si粒子202とNi−Pメッキ層3との全体の質量におけるNi−Pメッキ層3の質量(含有量)が5.0質量%になるようにNi−Pメッキ層3を形成した。その後、Ni−Pメッキ層3が形成されたSi粒子202を、不活性ガス(Ar)雰囲気下で、かつ、600℃の温度条件下で1時間熱処理を行った。これにより、Si粒子202とNi−Pメッキ層3との界面201aにNi−Si反応層204を形成した。このようにして、上記第2実施形態に対応する実施例1の負極材201を作製した。
【0064】
実施例2では、700℃で1時間熱処理した点を除いて、実施例1と同様にして、上記第2実施形態に対応する実施例2の負極材201を作製した。
【0065】
実施例3では、800℃で1時間熱処理した点を除いて、実施例1と同様にして、上記第2実施形態に対応する実施例3の負極材201を作製した。
【0066】
実施例4では、Ni−Pメッキ層3を形成する前に、Si粒子2に対してフッ化水素酸を用いた化学エッチング(酸洗)を行う点と、900℃で1時間熱処理した点とを除いて、実施例1と同様にして、上記第1実施形態に対応する実施例4の負極材1を作製した。
【0067】
参考例1では、1000℃で1時間熱処理した点を除いて、実施例4と同様にして、上記第1実施形態に対応する参考例1の負極材1を作製した。
【0068】
一方、比較例1では、熱処理を行わない点を除いて、実施例1と同様にして、比較例1の負極材を作製した。また、比較例2では、酸洗を行う点と、熱処理を行わない点とを除いて、実施例1と同様にして、比較例2の負極材を作製した。
【0069】
(組成測定(ICP発光分光分析法))
まず、ICP発光分光分析法により、実施例1〜4、参考例1、比較例1および2の負極材の組成をそれぞれ測定した。具体的には、実施例1〜4、参考例1、比較例1および2の負極材を各々希酸水溶液に溶解させて溶液化した。そして、霧状にした溶液をArプラズマに導入した。この際に生じた光を分光することによって、負極材の組成を測定した。なお、Ni−Si合金は、希酸水溶液に略融解しなかった。つまり、今回のICP発光分光分析法による測定では、Ni−Si合金に基づくNiおよびSiは測定されなかった。
【0070】
図7にICP発光分光分析法の測定結果を示す。熱処理を行った実施例1〜4、参考例1のいずれにおいても、熱処理を行わない比較例1および2と比べて、Niの質量%が小さくなった。これは、熱処理によって、NiとSiとが反応してNi−Si合金が生成することによって、検出可能なNiが減少したからであると考えられる。また、熱処理を行った実施例1〜4、参考例1においては、熱処理の温度が大きいほど、Niの質量%が小さくなった。つまり、熱処理の温度を上昇させることによって、NiとSiとが反応してNi−Si合金がより生成すると考えられる。
【0071】
(組成測定(EDX、酸素濃度測定))
次に、EDXにより、比較例2の酸洗前後のSi粒子の表面の酸素濃度をそれぞれ測定した。具体的には、任意の6点において、酸洗前および酸洗後のSi粒子の表面の酸素濃度をEDXにより測定した。そして、得られたデータの平均を算出することによって、酸洗前および酸洗後の酸素濃度を得た。
【0072】
EDXの測定結果としては、酸洗前の酸素濃度の平均は、1.6質量%であり、酸洗後の酸素濃度の平均は、0.3質量%であった。これにより、酸洗の前後で、酸素濃度が1.3質量%減少することが確認でき、この結果、酸洗により自然酸化膜が十分に除去されたと推測することが可能である。
【0073】
(組成測定(X線回折))
次に、X線回折により、実施例1〜3、参考例1および比較例1の負極材の表面状態を観察した。具体的には、負極材の表面におけるSi、NiおよびNi
3Pの有無を測定した。なお、X線回折では、Siの格子面(220)、(311)、Niの格子面(111)、(200)およびNi
3Pの格子面(321)にそれぞれ対応する角度(2θ)においてX線の回折光が検出された場合には、対応する角度(2θ)に対応するSi、NiまたはNi
3Pが検出されたと判断する。
【0074】
図8にX線回折の結果を示す。Siに関して、実施例1〜3、参考例1および比較例1のいずれにおいても、回折光の明確なピークが検出された。つまり、実施例1〜3、参考例1および比較例1のいずれにおいてもSi粒子が負極材の表面に露出していることが確認できた。これにより、Ni−Pメッキ層はSi粒子の表面の一部のみを覆っていると考えられる。
【0075】
一方、Niに関して、800℃の熱処理を行った実施例3および1000℃の熱処理を行った参考例1では、比較例1、実施例1および2よりもNiの検出量が減少した。また、700℃の熱処理を行った実施例2では、600℃の熱処理を行った実施例1よりもNiの検出量が若干減少した。また、Ni
3Pに関して、実施例3および参考例1では、実施例1および2よりもNi
3Pの検出量が減少した。これは、700℃以上の熱処理により、Si粒子へ拡散するNi−Pメッキ層のPの量が増加したからであると考えられる。この結果、700℃以上の熱処理により、Si粒子内の電気伝導性を向上させることが可能であると考えられる。また、800℃以上の熱処理では、Ni−Pメッキ層内にNi−Si合金が十分に形成されたと考えられる。一方、600℃の熱処理では、十分にSiが拡散せずに、Ni−Pメッキ層内にNi−Si合金があまり形成されなかったと考えられる。
【0076】
(組成測定(SEM−EDX、画像観察))
次に、SEM−EDXにより、参考例2〜4の断面形状を観察した。このSEM−EDXの測定では、実際に微細な負極材の断面を測定するのは困難なため、上記第1実施形態の負極材に対応する参考例2〜4の試験材をそれぞれ作成した。具体的には、所定の大きさのSiウェハを準備した。そして、酸洗した後、Siウェハの表面上に、上記実施例と同様に、無電解析出法を用いて、Ni−Pメッキ層を8μmの厚みになるように作成した。そして、参考例2〜4の試験材を、それぞれ、600℃、700℃および800℃の温度条件下で1時間熱処理を行った。その後、各々の試験材を切断して、切断した断面を観察した。その際、SEMを用いて断面観察を行うとともに、SEM−EDXを用いて断面におけるPの分布状態を観察した。ここで、断面観察において、数か所のNi−Si反応層の厚みを測定し、それらの平均をNi−Si反応層の厚みとした。なお、
図10および
図12に示す各々の点(ドット)は、Pの分布を示している。
【0077】
観察結果としては、参考例2の試験材において、断面観察前にNi−Pメッキ層が剥離した。これにより、600℃の温度条件下で熱処理を行った参考例1の試験材では、SiウェハとNi−Pメッキ層との界面にNi−Si反応層が十分に形成されなかったと考えられる。なお、参考例2の試験材では、断面観察前にNi−Pメッキ層が剥離したため、断面観察およびPの分布状態の観察は行わなかった。
【0078】
また、
図9に示す参考例3の断面観察では、SiウェハとNi−Pメッキ層との間にNi−Si反応層が形成されていることが確認できた。このNi−Si反応層の厚みは、平均0.5μm程度であった。また、
図10に示す参考例3のPの分布状態(
図10の点(ドット)がPの分布を示している)では、Pは、主にNi−Pメッキ層に存在したものの、Pの一部は、SiウェハおよびNi−Si反応層に拡散することが確認できた。
【0079】
また、
図11に示す参考例4の断面観察では、SiウェハとNi−Pメッキ層との間にNi−Si反応層が明確に形成されていることが確認できた。このNi−Si反応層の厚みは、平均2.0μm程度であった。この結果、参考例3と比べて、参考例4において、Ni−Si反応層が十分な厚みで明確に形成されることが確認できた。これにより、熱処理の温度を高くすることによって、Ni−Si反応層を十分な厚みで明確に形成することが可能であることが判明した。また、
図12に示す参考例4のPの分布状態(
図12の点(ドット)がPの分布を示している)では、Pは、略全体に均等に存在した。これにより、熱処理の温度を大きくすることによって、Ni−Pメッキ層のPを、Si粒子を含む負極材の略全体に分布するように拡散させることが可能であることが判明した。なお、この結果は、酸洗しない実施例1〜3の負極材においても、それぞれ、酸洗した参考例2〜4の試験材と同様の結果が得られると考えられる。つまり、酸洗しない場合においても、熱処理の温度を大きくすることによって、Ni−Si反応層を十分な厚みで明確に形成することが可能であるとともに、Ni−Pメッキ層のPを、Si粒子を含む負極材の略全体に分布するように拡散させることが可能であると考えられる。
【0080】
(サイクル特性(放充電レート固定))
次に、実施例1〜3、参考例1および比較例1の負極材を用いた負極のサイクル特性を各々測定した。具体的には、実施例1〜3、参考例1および比較例1の負極材を、エアロゾルデポジション法を用いて、Cu箔からなる集電体層の表面に所定のガス圧でそれぞれ吹き付けることによって、実施例1〜3、参考例1および比較例1の負極を作成した。そして、実施例1〜3、参考例1および比較例1の負極を用いるとともに、対極(参照極)としてリチウム金属を用い、電解液として1MのLiN(CF
3SO
2)
2(LiTFSA)を含むプロピレンカーボネート(PC)を用いて、二次電池モデル(三極式ビーカーセル)を作製した。その二次電池モデルに対して、充放電を繰り返すことによって、サイクル特性を測定した。この際、放充電レート(放充電の電流値)を、0.4C(1.44Ag
−1)に固定した。また、サイクル特性としては、サイクル数に対する放電容量の変化と、サイクル数に対するクーロン効率(放電容量/充電容量)の変化とを測定した。
【0081】
図7および
図13にサイクル数に対する放電容量の変化の測定結果を示すとともに、
図14にサイクル数に対するクーロン効率の変化の測定結果を示す。負極材に熱処理を行った実施例1〜3では、負極材に熱処理を行わない比較例1と比べて、50回目以上のサイクル数において放電容量が大きくなった。特に、実施例2および3では、比較例1と比べて、サイクル数に拘わらず放電容量が大きくなった。また、実施例1および3では、比較例1と比べて、クーロン効率がサイクル数に拘わらず大きくなるとともに、実施例2では、比較例1と比べて、初期サイクル(50回程度まで)において、クーロン効率が大きくなった。
【0082】
これにより、実施例1〜3においては、放電容量の低下が抑制されることが確認できた。つまり、600℃以上800℃以下の熱処理によって、サイクル特性を向上させることができることが判明した。特に、800℃で熱処理を行った実施例3では、顕著にサイクル特性が向上することが判明した。この結果、熱処理を750℃以上850℃以下で行うことがより好ましく、熱処理を800℃周辺の温度で行うことがさらに好ましいと考えられる。なお、実施例1〜3でサイクル特性が向上した理由としては、放充電を繰り返すことにより、Si粒子の膨張収縮が繰り返された場合であっても、熱処理によって形成されたNi−Si反応層によって、Si粒子とNi−Pメッキ層との密着性が向上されて、Ni−Pメッキ層の剥離が抑制されたからであると考えられる。また、電気伝導性の高いNi−Pメッキ層が、長期間において、活物質層内の電気伝導の機能(伝導パスとしての機能)を果たすことも確認できた。さらに、形成されたNi−Si反応層は、Si粒子内へのLiイオンの挿入を容易にする機能も有していると考えられる。
【0083】
一方、負極材に1000℃で熱処理を行った参考例1では、比較例1と比べて、放電容量およびクーロン効率が全体的に小さくなり、サイクル特性が低下した。これは、1000℃での熱処理が長時間行われたことによって、負極材のNi−Pメッキ層がSiの拡散により溶融等することで、Ni−Pメッキ層におけるSi濃度が高くなり過ぎて、脆くなったからであると考えられる。このことは、
図8に示すX線回折の結果(参考例1において、NiおよびNi
3Pが検出されなかったという結果)からも推測可能である。
【0084】
(サイクル特性(放充電レート変更))
次に、放充電レート(放充電の電流値)を、10サイクルごとに変更した場合における、実施例1〜3および比較例1の負極材を用いた負極のサイクル特性を測定した。この際、放充電レートを、10サイクルごとに、0.4C、1C、2C、5Cおよび10Cの順に変更することを繰り返した。そして、サイクル数に対する放電容量の変化を測定した。
【0085】
図15にサイクル数に対する放電容量の変化の測定結果を示す。放充電レートを変更した場合においても、放充電レートを固定した場合と同様に、負極材に熱処理を行った実施例1〜3では、負極材に熱処理を行わない比較例1と比べて、全体的に放電容量が大きくなった。特に、実施例2および3では、比較例1と比べて、サイクル数および放充電レートに拘わらず放電容量が大きくなった。
【0086】
これにより、600℃以上800℃以下の熱処理によって、放充電レートの大小に拘わらずサイクル特性を向上させることができ、700℃以上800℃以下の熱処理によって、サイクル特性をより向上させることができることが判明した。この結果から、大きな放充電容量が要求される一方、大きな出力(電流)はあまり要求されないEV用だけでなく、大きな出力(電流)が要求されるHEV用のリチウム二次電池などにおいても、本発明の負極材を用いた負極は適していると考えられる。
【0087】
また、放電レートを変更した場合においても、800℃で熱処理を行った実施例3では、顕著にサイクル特性が向上することが判明した。これによっても、熱処理を750℃以上850℃以下で行うことがより好ましく、熱処理を800℃周辺の温度で行うことがさらに好ましいと考えられる。
【0088】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0089】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、Ni−Pメッキ層が、Si粒子の表面上に島状、点状または網状に分布するように形成される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Ni−Pメッキ層を、Si粒子の表面の全体を覆うように形成してもよいし、Si粒子の表面の全体を略覆いつつ、Si粒子の表面が所々で露出するように形成してもよい。なお、Ni−Pメッキ層をSi粒子の表面上に島状、点状または網状に分布するように形成した方が、Si粒子の膨張収縮に対してNi−Pメッキ層が剥がれにくくなるので、好ましい。
【0090】
また、上記第1および第2実施形態では、Si粒子の表面上に被覆材としてNi−Pメッキ層を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被覆材は、少なくともNiを含んでいればよい。
【0091】
また、上記第1および第2実施形態では、Ni−Pメッキ層3におけるPの質量が約2.0質量%になるように調整した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Ni−Pメッキ層におけるPの質量は、約2.0質量%以外でもよい。この際、Ni−Pメッキ層におけるPの質量は、約0.5質量%以上約15質量%以下であるのが好ましい。
【0092】
また、上記第1実施形態では、エッチングによって、Si粒子2の表面2aを酸洗することにより、Si粒子2の表面2aの自然酸化膜5を除去するとともに、Si粒子2の一部を除去して、Si粒子2の表面2aを凹凸形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、エッチングの条件を調整することによって、Si粒子の表面の自然酸化膜を除去する一方、Si粒子の表面を凹凸形状に形成しなくてもよい。また、エッチングの条件を調整することによって、Si粒子の表面の自然酸化膜を除去せずに、Si粒子の表面を凹凸形状に形成してもよい。
【0093】
また、上記第1および第2実施形態では、Si粒子とNi−Pメッキ層との全体の質量におけるNi−Pメッキ層の質量を約5.0質量%にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、全体の質量におけるNi−Pメッキ層の質量は、約5.0質量%に限られない。なお、Ni−Pメッキ層の質量は、約0.1質量%以上約20.0質量%以下であるのが好ましい。
【0094】
また、上記第1および第2実施形態の製造プロセスでは、複数の負極材を集電体層の表面に所定のガス圧で吹き付けることにより、集電体層の表面に活物質層を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、複数の負極材をスラリーに分散させた後に、そのスラリーを集電体層の表面に塗布して乾燥させることによって、集電体層の表面に負極材を含む活物質層を形成してもよい。
【0095】
また、上記第1および第2実施形態の製造プロセスでは、熱処理を行った後に負極材を集電体層の表面に吹き付けることによって、集電体層の表面に活物質層を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、熱処理を行う前に、複数の負極材を集電体層の表面に吹き付けること、または、上記したように複数の負極材をスラリーに分散させて塗布および乾燥させることを行った後に、熱処理を行うことによって、集電体層の表面に活物質層を形成してもよい。この製造プロセスによっても、Si粒子とNi−Pメッキ層との界面にNi−Si反応層が形成されて、Si粒子とNi−Pメッキ層との密着性が向上すると考えられる。