特許第6302372号(P6302372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6302372塗装システム及び塗装システムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302372
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】塗装システム及び塗装システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 16/00 20180101AFI20180319BHJP
   B05B 13/00 20060101ALI20180319BHJP
   B05B 15/00 20180101ALI20180319BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20180319BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20180319BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   B05B15/12
   B05B13/00
   B05B15/00
   B05D1/02 Z
   B05D3/02 D
   B05D3/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-146253(P2014-146253)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-22402(P2016-22402A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡室 泰行
(72)【発明者】
【氏名】寒風澤 敏和
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−088052(JP,A)
【文献】 特開2010−119901(JP,A)
【文献】 特開昭54−126247(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/044392(WO,A1)
【文献】 特開2008−093578(JP,A)
【文献】 特開2010−274204(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3168497(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B1/00〜B05B17/08
B05C1/00〜B05C21/00
B05D1/00〜B05D7/26
F24F1/00〜F24F13/32
F24H4/00〜F24H4/06
F25B1/00〜F25B49/04
F26B1/00〜F26B25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装ブース内の調整対象空気を循環させながら該調整対象空気の温湿度を調整する除湿再熱器と、
前記塗装ブースで塗装された被塗装物を加熱して乾燥させる調整対象空気を加熱ブース内で循環させながら前記調整対象空気を加熱するプレヒートと、
前記加熱ブースで加熱された被塗装物を冷却する調整対象空気を前記冷却ブース内で循環させながら前記調整対象空気を冷却するプレクールと、を備え、
前記除湿再熱器は、温水及び冷水を同時取出し可能な第1ヒートポンプによって生成された温水と冷水及び、温風及び冷水を同時取出し可能な第2ヒートポンプによって生成された冷水によって、前記塗装ブース内の調整対象空気の温湿度を調整するように構成され、
前記プレヒートは、前記第2ヒートポンプによって生成された温風の温熱によって、前記加熱ブース内の調整対象空気を加熱するように構成され、
前記プレクールは、前記第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプによって生成された冷水の冷熱によって、前記冷却ブース内の調整対象空気を冷却するように構成されている
ことを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
前記除湿再熱器には、一定温度にした冷水を前記除湿再熱器に供給可能な冷水チラーが接続され、
前記冷水チラーは、前記第1ヒートポンプ及び前記第2ヒートポンプによる冷熱供給が不足するときに作動するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の塗装システム。
【請求項3】
前記プレヒートには、温熱を該プレヒートに供給可能なボイラーが接続され、
前記ボイラーは、前記第2ヒートポンプによる温風供給が不足するときに作動するように構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装システム。
【請求項4】
前記第2ヒートポンプは、冷媒をCO2とするヒートポンプである
ことを特徴とする請求項1に記載の塗装システム。
【請求項5】
被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装システムの運転方法であって、
塗装ブース内で前記被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装工程と、
前記塗装工程で水溶性塗料が塗付された被塗装物を加熱ブース内で加熱して乾燥させるプレヒート工程と、
前記プレヒート工程で加熱された被塗装物を冷却ブース内で冷却するプレクール工程と、を備え、
前記塗装工程では、温熱及び冷熱を同時取出可能な第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプによって生成された冷水と、前記第1ヒートポンプによって生成された温水によって、前記塗装ブース内を循環する調整対象空気の温湿度を調整し、
前記プレヒート工程では、前記第2ヒートポンプによって生成された温風空気を、前記加熱ブース内を循環する調整対象空気と混合させて加熱し、
前記プレクール工程では、前記第1ヒートポンプによって生成された冷水の冷熱によって、前記冷却ブース内を循環する調整対象空気を冷却する
ことを特徴とする塗装システムの運転方法。
【請求項6】
前記塗装工程及び前記プレクール工程では、前記塗装ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給、及び前記冷却ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給の少なくともいずれかが不足する場合には、一定の冷却温度にした冷水を供給可能な冷水チラーを作動させて、冷熱供給が不足する調整対象空気に冷熱を供給する
ことを特徴とする請求項5に記載の塗装システムの運転方法。
【請求項7】
前記プレヒート工程では、前記加熱ブース内を循環する調整対象空気への温熱供給が不足する場合には、温熱を供給可能なボイラーを作動させて、温熱供給が不足する調整対象空気に温熱を供給する
ことを特徴とする請求項5に記載の塗装システムの運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装システム及び塗装システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディまたは部品等を塗装するための塗装システムは、特許文献1(図2)に記載されているように、塗装ブースの上流側(上部)に設けられた給気室からフィルターを通して塗装室に空調された空気を流下させながら、塗装機によってミスト化した塗料を被塗装物に向けて噴射し、被塗装物に一様膜厚の塗膜を付着させる。塗装の際に被塗装物に付着せずオーバースプレーされた飛散ミストを含む空気は、塗装ブースの下流側(下部)に設けられた飛散ミスト捕集手段で飛散ミストが分離捕集されて、清浄な空気のみが外部に排出される。この塗装システムでは、塗装ブースの上流側に設けられた外気空調装置によって外気を所定の温湿度に調整している。
【0003】
また、特許文献2の図1に記載の塗装システムでは、塗装ブースから排出される清浄な空気を所定の温湿度にするため除湿再熱装置は、冷温同時取出し可能な1つのヒートポンプを利用して、ヒートポンプからの冷熱で空気を冷却し、ヒートポンプからの温熱で空気を加熱して空気の湿度を所定の湿度にするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−274204号公報
【特許文献2】実用新案登録第3168497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の塗装システムでは、塗装室の上流側に設けられた外気空調装置によって外気を所定の温湿度に調整する必要がある。このため、外気の温湿度と調整する温湿度との差が大きい場合には、投入エネルギが増大する。また、四季のある日本では、夏は冷熱が増大し、冬は温熱が増大して、年中を通してエネルギコストが高くなる虞がある。また、特許文献2に記載の塗装システムでは、温水側の負荷が小さい場合、温熱の負荷バランスをコントロールすることができるが、冷水側の負荷が大きい場合には、冷熱が不足する虞があり、冷熱の負荷バランスをコントロールすることができない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一つの実施形態は、投入エネルギ及び四季による温熱と冷熱の負荷バランスを小さくし、年中を通してエネルギコストを低減可能な塗装システム及び塗装システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一つの実施形態に係わる塗装システムは、
被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装ブース内の調整対象空気を循環させながら該調整対象空気の温湿度を調整する除湿再熱器と、
前記塗装ブースで塗装された被塗装物を加熱して乾燥させる調整対象空気を加熱ブース内で循環させながら前記調整対象空気を加熱するプレヒートと、
前記加熱ブースで加熱された被塗装物を冷却する調整対象空気を前記冷却ブース内で循環させながら前記調整対象空気を冷却するプレクールと、を備え、
前記除湿再熱器は、温水及び冷水を同時取出し可能な第1ヒートポンプによって生成された温水と冷水及び、温風及び冷水を同時取出し可能な第2ヒートポンプによって生成された冷水によって、前記塗装ブース内の調整対象空気の温湿度を調整するように構成され、
前記プレヒートは、前記第2ヒートポンプによって生成された温風の温熱によって、前記加熱ブース内の調整対象空気を加熱するように構成され、
前記プレクールは、前記第1ヒートポンプ及び前記第2ヒートポンプによって生成された冷水の冷熱によって、前記冷却ブース内の調整対象空気を冷却するように構成されている。
【0008】
上記塗装システムによれば、塗装ブース内の調整対象空気の温湿度調整は、温水及び冷水を同時取出し可能な第1ヒートポンプによって生成された温水と冷水及び、温風及び冷水を同時取出し可能な第2ヒートポンプによって生成された冷水によって行われる。即ち、本願の塗装システムは、温水及び冷水を第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプで生成している。ヒートポンプは少ないエネルギで冷水や温水等を生成可能であるので、塗装システム全体の投入エネルギを小さくすることができる。また、除湿再熱器は、被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装ブース内の調整対象空気を循環させながら温湿度調整を行うので、外気の温度変化と比較して調整対象空気の温度変化を小さくすることができる。このため、第1ヒートポンプや第2ヒートポンプの投入エネルギを少なくすることができる。よって、投入エネルギが小さい塗装システムを実現できる。
【0009】
また、調整対象空気を循環させることで、大きな冷熱が必要となる夏場や、大きな温熱が必要となる冬場でも、調整対象空気を再加熱し、また再冷却するときの投入エネルギを少なくすることができる。このため、年中を通して必要な温熱や冷熱の夫々のエネルギを平準化することができる。よって、年中を通したエネルギコストを低減可能な塗装システムを実現できる。
【0010】
また、幾つかの実施形態では、
前記除湿再熱器には、一定温度にした冷水を前記除湿再熱器に供給可能な冷水チラーが接続され、
前記冷水チラーは、前記第1ヒートポンプ及び前記第2ヒートポンプによる冷熱供給が不足するときに作動するように構成されている。
【0011】
この場合、冷水チラーは、第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプによる冷熱供給が不足するときに作動するので、塗装システムの作動時に設定した温度調節が行える。このため、塗装システムにおける投入エネルギの増大を抑制することができる。また、塗装システムの作動によって、冷熱供給が不足する虞を未然に防止することができる。
【0012】
また、幾つかの実施形態では、
前記プレヒートには、温熱を該プレヒートに供給可能なボイラーが接続され、
前記ボイラーは、前記第2ヒートポンプによる温風供給が不足するときに作動するように構成されている。
【0013】
この場合、プレヒートには、温熱を該プレヒートに供給可能なボイラーが接続され、ボイラーは、第2ヒートポンプによる温風供給が不足するときに作動するので、塗装システムの作動時に設定した温度調節が行える。このため、塗装システムでの投入エネルギの増大を抑制することができる。また、ボイラーの作動によって、温熱供給が不足する虞を未然に防止することができる。
【0014】
また、幾つかの実施形態では、
前記第2ヒートポンプは、冷媒をCO2とするヒートポンプであるように構成されている。
【0015】
この場合、第2ヒートポンプは、冷媒をCO2とするヒートポンプであるので、HFC冷媒などを採用するヒートポンプと比較して、高温域ではより高いCOPを得ることができる。従って、加熱される温風の温度をより高くすることができる。
【0016】
また、本発明の少なくとも一つの実施形態に係わる塗装システムの運転方法は、
被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装システムの運転方法であって、
塗装ブース内で前記被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装工程と、
前記塗装工程で水溶性塗料が塗付された被塗装物を加熱ブース内で加熱して乾燥させるプレヒート工程と、
前記プレヒート工程で加熱された被塗装物を冷却ブース内で冷却するプレクール工程と、を備え、
前記塗装工程では、温水及び冷水を同時取出可能な第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプによって生成された冷水と、前記第1ヒートポンプによって生成された温水によって、前記塗装ブース内を循環する調整対象空気の温湿度を調整し、
前記プレヒート工程では、前記第2ヒートポンプによって生成された温風空気を、前記加熱ブース内を循環する調整対象空気と混合させて加熱し、
前記プレクール工程では、前記第1ヒートポンプによって生成された冷水の冷熱によって、前記冷却ブース内を循環する調整対象空気を冷却するように構成される。
【0017】
上記塗装システムの運転方法によれば、塗装工程では、温水及び冷水を同時取出可能な第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプによって生成された冷水と、前記第1ヒートポンプによって生成された温水によって、前記塗装ブース内を循環する調整対象空気の温湿度が調整される。つまり、本願の塗装システムの運転方法は、冷水や温水を第1ヒートポンプ及び第2ヒートポンプで供給している。ヒートポンプは少ないエネルギで冷水や温水を供給可能であるので、塗装システム全体の投入エネルギを小さくすることができる。
【0018】
また、塗装工程では、塗装ブース内を循環する調整対象空気の温湿度を調整し、プレヒート工程では、加熱ブース内を循環する調整対象空気を加熱し、プレクール工程では、冷却ブース内を循環する調整対象空気を冷却する。このため、外気の温度変化と比較して調整対象空気の温度変化を小さくすることができる。このため、第1ヒートポンプや第2ヒートポンプの投入エネルギを少なくすることができ、投入エネルギが小さい塗装システムの運転方法を実現できる。
【0019】
また、塗装工程、プレヒート工程、プレクール工程では、対応するブース内で調整対象空気が循環しているので、大きな冷熱が必要となる夏場や、大きな温熱が必要となる冬場でも、調整対象空気を再加熱し、また再冷却するときの投入エネルギを少なくすることができる。このため、年中を通して必要な温熱や冷熱の夫々のエネルギを平準化することができる。よって、年中を通したエネルギコストを低減可能な塗装システムの運転方法を実現できる。
【0020】
また、幾つかの実施形態では、
前記塗装工程及び前記プレクール工程では、前記塗装ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給、及び前記冷却ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給の少なくともいずれかが不足する場合には、一定の冷却温度にした冷水を供給可能な冷水チラーを作動させて、冷熱供給が不足する調整対象空気に冷熱を供給するように構成されている。
【0021】
この場合、塗装工程及びプレクール工程では、塗装ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給、及び前記冷却ブース内を循環する調整対象空気への冷熱供給の少なくともいずれかが不足する場合、冷水チラーを作動させて、冷熱供給が不足する調整対象空気に冷熱を供給するので、塗装システムの運転時に、設定した温度調節が行える。このため、塗装システムの運転時において、冷熱供給が不足する虞を未然に防止することができ、また、塗装システムの運転時における投入エネルギの増大を抑制することができる。
【0022】
また、幾つかの実施形態では、
前記プレヒート工程では、前記加熱ブース内を循環する調整対象空気への温熱供給が不足する場合には、温熱を供給可能なボイラーを作動させて、温熱供給が不足する調整対象空気に温熱を供給するように構成されている。
【0023】
この場合、プレヒート工程では、加熱ブース内を循環する調整対象空気への温熱供給が不足する場合には、温熱を供給可能なボイラーを作動させて、温熱供給が不足する調整対象空気に温熱を供給するので、塗装システムの運転時にボイラーは設定した温度調整が行える。このため、塗装システムの運転時において、温熱供給が不足する虞を未然に防止することができ、また、投入エネルギの増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態によれば、投入エネルギを小さくし、年中を通してエネルギコストを低減可能な塗装システム及び塗装システムの運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る塗装システムの概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る塗装システムと比較対象とした塗装システムの概略構成図である。
図3】比較対象とした塗装システムにおいて、夏場及び冬場に必要となる熱量負荷を表したグラフである。
図4】本発明の一実施形態に係る塗装システムにおいて、夏場及び冬場に必要となる熱量負荷を表したグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係る塗装システムと比較対象とした塗装システムとのランニングコストを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係わる実施形態を、図1図5を用いて詳細に説明する。本実施形態では、被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装システムを例にして説明する。先ず、本発明の塗装システムの運転方法の実施形態を説明する前に、本発明の塗装システムの実施形態について説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗装システムの概略構成図である。塗装システムは、図1に示すように、塗装ブース10と、加熱ブース15と、冷却ブース20と、塗装ブース10内の調整対象空気を空調する塗装ブース空調装置30と、加熱ブース15内の調整対象空気を空調するプレヒート空調装置50と、冷却ブース20内の調整対象空気を空調するプレクール空調装置60と、を有してなる。
【0028】
塗装ブース10では、図示しない搬送装置により搬送される自動車ボディ等の被塗装物に水溶性塗料をミスト状にして吹き付けて塗装する。塗装ブース10内では一様で穏やかな空気流が流されており、ミスト状にして被塗装物に向けて噴射された塗料のうち、被塗装物に付着しなかった塗料は飛散ミストとして、塗装ブース10内の空気流と混合して、飛散ミスト含有空気となって集められる。飛散ミスト含有空気は、塗装ブース10内を流れる洗浄水に捕捉され、塗料ミストを捕捉した洗浄水は、分離装置により捕捉塗料分を除去して浄化された後に、循環使用される。
【0029】
一方、塗装ブース10内の調整対象空気の一部(約70%)は、塗装ブース空調装置30の除湿再熱器31との間を循環する。また、調整対象空気のうち、外気から導入される量に相当する分(約30%)が外部に排出される。
【0030】
加熱ブース15は、塗装ブース10で塗装された被塗装物を加熱して被塗装物に付着する水分を蒸発させて乾燥させる。加熱ブース15内には、プレヒート空調装置50の加熱器51で加熱された調整対象空気(約80℃)が流れている。調整対象空気は、一部(約90%)が加熱ブース15と加熱器51との間を循環し、調整対象空気のうち外気から導入される量に相当する分(約10%)が外部に排出される。
【0031】
冷却ブース20では、加熱ブース15で加熱されて乾燥状態となった被塗装物を冷却する。冷却ブース20内には、プレクール空調装置60の冷却器61で冷却された調整対象空気(約15℃)が流れている。調整対象空気は、一部(約90%)が冷却ブース20と冷却器61との間を循環し、調整対象空気のうち外気から導入される量に相当する分(約10%)が外部に排出される。
【0032】
塗装ブース空調装置30は、除湿再熱器31と冷水タンク33と温水タンク35と第1ヒートポンプ37と第2ヒートポンプ39と冷水チラー41とを有してなる。冷水タンク33に貯留する水は、第1ヒートポンプ37、第2ヒートポンプ39、冷水チラー41によって冷却されて冷水タンク33に戻される。温水タンク35に貯留する水は、第1ヒートポンプ37によって加熱されて温水タンク35に戻される。
【0033】
第1ヒートポンプ37は、圧縮機−凝縮器−膨張弁−蒸発器の順に冷媒を循環させる蒸気圧縮式ヒートポンプであり、第1ヒートポンプ37の蒸発器で冷却した冷水を、第1冷水タンク循環路43を通じ冷水タンク33に供給する。また、この第1ヒートポンプ37の凝縮器で加熱した温水を、温水タンク循環路44を通じ温水タンク35に供給する。
【0034】
第2ヒートポンプ39は、第1ヒートポンプ37と同様に、圧縮機−凝縮器−膨張弁−蒸発器の順に冷媒を循環させる蒸気圧縮式ヒートポンプであり、冷媒はCO2である。第2ヒートポンプ39の蒸発器で冷却した冷水を、第2冷水タンク循環路45を通じ冷水タンク33に供給する。また、この第2ヒートポンプの39凝縮器で加熱した温風(約120℃)は、加熱器供給路46を通じて加熱器51に供給される。
【0035】
冷水チラー41は、冷水タンク33内の水を冷却して第3冷水循環路47を通って冷水タンク33に戻す。冷水チラー41は、第1ヒートポンプ37及び第2ヒートポンプ39による冷水タンク33への冷水の供給が不足したときに作動する。
【0036】
除湿再熱器31は、塗装ブース10内の調整対象空気を冷却除湿する冷却用熱交換器31aと、冷却用熱交換器31aによって冷却除湿された調整対象空気を加熱する再熱用熱交換器31bを備える。冷却用熱交換器31aには、冷水タンク33と冷却用熱交換器31aと冷却器61との間に接続されて、冷水タンク33から送られる冷水を、除湿再熱器31の冷却用熱交換器31aと冷水タンク33との間で循環させるとともに、冷却器61の冷却用熱交換器61aと冷水タンク33との間で循環させる冷却側循環路63が接続されている。冷却側循環路63の往路には、冷水タンク33内の冷水を送出させるためのポンプ64が設けられている。
【0037】
次に、プレヒート空調装置50について説明する。プレヒート空調装置50は、第2ヒートポンプ39と加熱器51とを有してなる。加熱器51は、第2ヒートポンプ39から送出される温風を導入して加熱ブース15内の調整対象空気を加熱する加熱用熱交換器51aを有している。加熱用熱交換器51aは、加熱ブース15内に導入された温風と調整対象空気とを混合して調整対象空気を加熱する。また、加熱用熱交換器51aには、ボイラー53で加熱された蒸気を通すための加熱用循環路54が接続されている。加熱器51は、通常は第2ヒートポンプ39から送出される温風によって調整対象空気を加熱し、温熱が不足した場合に、ボイラー53から供給される蒸気を利用して調整対象空気を加熱する。
【0038】
なお、第2ヒートポンプ39では、温風を加熱器51に送出する例を示したが、ブラインまたはオイルなどの熱媒体、あるいはCO超臨界ガスを介して熱交換器によって加熱ブース15内の調整対象空気を加熱してもよい。また、ボイラー53は、燃料として重油を使用するもの、ガスを燃料とするもの、気体を燃料とするバーナーボイラーのいずれでもよい。
【0039】
次に、塗装システムの運転方法について説明する。塗装システムの運転方法は、塗装ブース10内で被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装工程と、塗装工程で水溶性塗料が塗付された被塗装物を加熱ブース15内で加熱して乾燥させるプレヒート工程と、プレヒート工程で加熱された被塗装物を冷却ブース20内で冷却する、プレクール工程と、を備える。
【0040】
塗装工程では、第1ヒートポンプ37及び第2ヒートポンプ39によって生成された冷水と、第1ヒートポンプ37によって生成された温水によって、塗装ブース10内を循環する調整対象空気の温湿度を調整する。即ち、冷水タンク33に貯溜した冷水を、冷却側循環路63を通して除湿再熱器31の冷却用熱交換器31aに供給するとともに、冷却器61の冷却用熱交換器61aに供給する。従って、冷却用熱交換器31aを通過する調整対象空気(例えば、温度22℃、湿度95%)と冷水とが熱交換して、調整対象空気が冷却されて除湿される。なお、調整対象空気の温湿度が所望の温湿度にならない場合には、冷水チラー41を作動させる。
【0041】
また、再熱用熱交換器31bを通過する調整対象空気は、再熱用熱交換器31bを通過する際に温水タンク35に貯留する温水と熱交換して、調整対象空気が加熱される。従って、温湿度が調整された調整対象空気(例えば、温度25℃、湿度75%)が塗装ブース10内に送られる。
【0042】
プレヒート工程では、第2ヒートポンプ39によって生成された温風を加熱器51に供給する。加熱器51に供給された温風は、加熱ブース15を循環する調整対象空気と混合して、調整対象空気を加熱する(例えば、約80℃)。この加熱された調整対象空気は、加熱ブース15内に送られて、被塗装物を加熱して乾燥させる。なお、なお、調整対象空気の温度が所望の温度(例えば、温度80℃)にならない場合には、ボイラー53を作動させる。
【0043】
プレクール工程では、第1ヒートポンプ37によって生成された冷水の冷熱によって、冷却ブース20内を循環する調整対象空気を冷却する。即ち、冷水タンク33に貯溜した冷水を、冷却側循環路63を通して冷却器61の冷却用熱交換器61aに供給する。従って、冷却用熱交換器61aを通過する調整対象空気(例えば、温度20℃)と冷水(例えば、温度7℃)とが熱交換して、調整対象空気が冷却される(例えば、温度15℃)。
【0044】
ところで、本願の実施形態の塗装システムと比較対象とした塗装システムを図2に示す。比較対象の塗装システムは、図2に示すように、本願の実施形態の塗装システムから第1ヒートポンプ37、第2ヒートポンプ39、温水タンク35を削除し、ボイラー53から送出される蒸気は、除湿再熱器31の再熱用熱交換器31bにも供給され、塗装ブース10ではこのブース内を流れる空気は外気から導入されて循環することなく外気に排気されるように構成されている点で、本願の塗装システムと相違する。その他の点は本願の実施形態の塗装システムと同様であるので、その説明は対応する符号を附して説明を省略する。
【0045】
比較対象の塗装システムでは、塗装ブース10内の調整対象空気は、冷水チラー41によって生成された冷水と、ボイラー53によって生成された蒸気によって、塗装ブース10内を循環する調整対象空気の温湿度が調整される。即ち、冷水タンク33に貯溜した冷水が、冷却側循環路63を通して除湿再熱器31の冷却用熱交換器31aに供給される。従って、冷却用熱交換器31aを通過する調整対象空気(例えば、温度34℃、湿度60%)と冷水とが熱交換して、調整対象空気が冷却されて除湿される。
【0046】
また、再熱用熱交換器31bを通過する調整対象空気は、再熱用熱交換器31bを通過する際にボイラー53から供給される蒸気と熱交換して、調整対象空気が加熱される。従って、温湿度が調整された調整対象空気(例えば、温度21℃、湿度75%)が塗装ブース10内に送られる。塗装ブース10内に送られた調整対象空気は塗装ブース10内を通って外部に排気される。
【0047】
プレヒート工程では、ボイラー53によって生成された加熱された蒸気が加熱器51の加熱用熱交換器51aに供給される。加熱器51に供給された蒸気は、加熱ブース15を循環する調整対象空気と熱交換されて、調整対象空気を加熱する(例えば、約80℃)。この加熱された調整対象空気は、加熱ブース15内に送られて、被塗装物を加熱して乾燥させる。
【0048】
プレクール工程では、冷水チラー41によって生成された冷水の冷熱によって、冷却ブース20内を循環する調整対象空気を冷却する。即ち、冷水タンク33に貯溜した冷水が、冷却側循環路63を通して冷却器61の冷却用熱交換器61aに供給される。従って、冷却用熱交換器61aを通過する調整対象空気(例えば、温度20℃)と冷水(例えば、温度7℃)とが熱交換して、調整対象空気が冷却される(例えば、温度15℃)。
【0049】
この比較対象の塗装システムにおいて、夏場及び冬場に必要となる熱量負荷を表したグラフを図3に示す。図2及び図3に示すように、夏場では、塗装ブース10の冷熱が多くなっていることが分かる(図面では、冬場の塗装ブース10における熱負荷を100%としたときに55%)。また、冬場では、塗装ブース10の温熱が多くなっていることが分かる(図面では、100%)。これは、塗装ブース10は調整対象空気を循環させるものではなく、外気を温湿度調整した調整対象空気が塗装ブース10に送られた後に外部に排気されることが原因と考えられる。
【0050】
これに対して、本願の実施形態の塗装システムでは、図1及び図4に示すように、夏場での塗装ブース10の冷熱負荷は少なく(図面では、冬場の塗装ブース10における熱負荷を100%としたときに7%)、冬場での塗装ブース10の温熱負荷も少ないことが分かる(図面では、8%)。また、本願の塗装システムと比較対象の塗装システムのランニングコストの比較を示した図5によれば、夏場及び冬場ともに、本願の塗装システムのランニングコストは少なく、比較対象の塗装システムにおいて冬場のランニングコストを100%とすると、夏場で約1/2(43%に対して21%)及び冬場で約1/4(100%に対して23%)までに低減でき、また夏場及び冬場とも略同じコストであることが分かる。
【0051】
このように、本実施形態の塗装システムによれば、図1に示すように、塗装ブース10内の調整対象空気の温湿度調整は、温熱及び冷熱を同時取出し可能な第1ヒートポンプ37によって生成された温水と冷水及び、温熱及び冷水を同時取出し可能な第2ヒートポンプ39によって生成された冷水によって行われる。またヒートポンプは少ないエネルギで冷水や温水等を生成可能である。このため、塗装システム全体の投入エネルギを小さくすることができる。また、除湿再熱器31は、被塗装物に水溶性塗料を塗付する塗装ブース内の調整対象空気を循環させながら温湿度調整を行うので、外気の温度変化と比較して調整対象空気の温度変化を小さくすることができる。このため、第1ヒートポンプ37や第2ヒートポンプ39の投入エネルギを少なくすることができる。よって、投入エネルギが小さい塗装システムを実現できる。
【0052】
また、調整対象空気を循環させることで、大きな冷熱が必要となる夏場や、大きな温熱が必要となる冬場でも、調整対象空気を再加熱し、また再冷却するときの投入エネルギを少なくすることができる。このため、年中を通して必要な温熱や冷熱の夫々のエネルギを平準化することができる。よって、年中を通したエネルギコストを低減可能な塗装システムを実現できる。
【0053】
また、第2ヒートポンプ39は、冷媒をCO2とするヒートポンプであるので、HFC冷媒などを採用するヒートポンプと比較して、より高いCOPを得ることができる。従って、加熱される温風の温度をより高くすることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 塗装ブース
15 加熱ブース
20 冷却ブース
30 塗装ブース空調装置
31 除湿再熱器
31a 冷却用熱交換器
31b 再熱用熱交換器
33 冷水タンク
35 温水タンク
37 第1ヒートポンプ
39 第2ヒートポンプ
41 冷水チラー
43 第1冷水タンク循環路
44 温水タンク循環路
45 第2冷水タンク循環路
46 加熱器供給路
47 第3冷水循環路
50 プレヒート空調装置(プレヒート)
51 加熱器
51a 加熱用熱交換器
53 ボイラー
54 加熱用循環路
60 プレクール空調装置(プレクール)
61 冷却器
61a 冷却用熱交換器
63 冷却側循環路
64 ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5