(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0018】
≪1.ニッケル酸化鉱の製錬方法≫
先ず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱の製錬方法について説明する。以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱をペレット化し、そのペレットを還元処理することでメタル(鉄−ニッケル合金(以下、鉄−ニッケル合金を「フェロニッケル」ともいう)とスラグとを生成させ、そのメタルとスラグとを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0019】
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法は、ニッケル酸化鉱のペレットを用い、そのペレットを製錬炉(還元炉)に装入して還元加熱することによって製錬する方法である。具体的に、このニッケル酸化鉱の製錬方法は、
図1の工程図に示すように、ニッケル酸化鉱からペレットを製造するペレット製造工程S1と、得られたペレットを還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S2と、還元工程S2にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する分離工程S3とを有する。
【0020】
<1−1.ペレット製造工程>
ペレット製造工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱からペレットを製造する。
図2は、ペレット製造工程S1における処理の流れを示す処理フロー図である。この
図2に示すように、ペレット製造工程S1は、ニッケル酸化鉱を含む原料を混合する混合処理工程S11と、得られた混合物を塊状化してペレットを形成(造粒)するペレット形成工程S12と、得られたペレットを乾燥する乾燥処理工程S13とを有する。
【0021】
(1)混合処理工程
混合処理工程S11は、ニッケル酸化鉱を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、この混合処理工程S11では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱、鉄鉱石、炭素質還元剤、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm〜0.8mm程度の原料粉末を混合して混合物を得る。
【0022】
ニッケル酸化鉱としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。
【0023】
鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0024】
また、炭素質還元剤としては、例えば、粉炭、粉コークス等が挙げられる。この炭素質還元剤は、上述のニッケル酸化鉱の粒度と同等のものであることが好ましい。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0025】
下記表1に、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としては、これに限定されるものではない。
【表1】
【0026】
(2)ペレット形成工程
ペレット形成工程S12は、混合処理工程S11にて得られた原料粉末の混合物を用いてペレットを形成(造粒)する工程である。具体的には、混合処理工程S11にて得られた混合物に、塊状化に必要な水分を添加して、例えば塊状物製造装置(転動造粒機、圧縮成形機、押出成形機等)等を使用し、あるいは人の手によってペレット状の塊に形成する。
【0027】
ペレットの形状としては、特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、ペレット状にする塊状物の大きさとしては、特に限定されないが、例えば、後述する乾燥処理を経て、還元工程S2における還元炉等に装入されるペレットの大きさ(球状のペレットの場合には直径)で10mm〜30mm程度となるようにする。
【0028】
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程S13は、ペレット形成工程S12にて得られた塊状物であるペレットを乾燥処理する工程である。形成されたペレット(塊状物)は、その水分が例えば50重量%程度と過剰に含まれており、べたべたした状態となっている。したがって、そのペレットの取り扱いを容易にするために、乾燥処理工程S13では、例えばペレットの固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように乾燥処理を施すようにする。
【0029】
より具体的に、乾燥処理工程S13におけるペレットに対する乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば300℃〜400℃の熱風をペレットに対して吹き付けて乾燥させる。なお、この乾燥処理時におけるペレットの温度は100℃未満である。
【0030】
下記表2に、乾燥処理後のペレットにおける固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、乾燥処理後のペレットの組成としては、これに限定されるものではない。
【表2】
【0031】
ペレット製造工程S1では、上述したように原料鉱石であるニッケル酸化鉱を含む原料粉末の混合物をペレット状に造粒(塊状化)し、それを乾燥させることによってペレットを製造する。得られるペレットの大きさは、10mm〜30mm程度であり、形状を維持できる強度、例えば1mの高さから落下させた場合でも崩壊するペレットの割合が1%以下程度となる強度を有するペレットが製造される。このようなペレットは、次工程の還元工程S2に装入する際の落下等の衝撃に耐えることが可能であってそのペレットの形状を維持することができ、またペレットとペレットとの間に適切な隙間が形成されるので、製錬工程における製錬反応が適切に進行するようになる。
【0032】
なお、このペレット製造工程S1においては、上述した乾燥処理工程S13にて乾燥処理を施した塊状物であるペレットを所定の温度に予熱処理する予熱処理工程を設けるようにしてもよい。このように、乾燥処理後の塊状物に対して予熱処理を施してペレットを製造することによって、還元工程S2にてペレットを例えば1400℃程度の高い温度で還元加熱する際にも、ヒートショックによるペレットの割れ(破壊、崩壊)をより効果的に抑制することができる。例えば、還元炉に装入した全ペレットのうちの崩壊するペレットの割合を10%未満と僅かな割合とすることができ、90%以上のペレットで形状を維持することができる。
【0033】
具体的に、予熱処理においては、乾燥処理後のペレットを350℃〜600℃の温度に予熱処理する。また、好ましくは400℃〜550℃の温度に予熱処理する。このように、350℃〜600℃、好ましくは400℃〜550℃の温度に予熱処理することによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱に含まれる結晶水を減少させることができ、約1400℃の還元炉に装入して急激に温度を上昇させた場合であっても、その結晶水の離脱によるペレットの崩壊を抑制することができる。また、このような予熱処理を施すことによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱、炭素質還元剤、酸化鉄、バインダー、及びフラックス成分等の粒子の熱膨張が2段階となってゆっくりと進むようになり、これにより、粒子の膨張差に起因するペレットの崩壊を抑制することができる。なお、予熱処理の処理時間としては、特に限定されずニッケル酸化鉱を含む塊状物の大きさに応じて適宜調整すればよいが、得られるペレットの大きさが10mm〜30mm程度となる通常の大きさの塊状物であれば、10分〜60分程度の処理時間とすることができる。
【0034】
<1−2.還元工程>
還元工程S2では、ペレット製造工程S1で得られたペレットを所定の還元温度に加熱する。この還元工程S2におけるペレットの還元加熱処理により、製錬反応が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0035】
具体的に、還元工程S2における還元加熱処理は、製錬炉(還元炉)等を用いて行われ、ニッケル酸化鉱を含むペレットを、例えば1400℃程度の温度に加熱した還元炉に装入することによって還元加熱する。この還元工程S2における還元加熱処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすいペレットの表面近傍においてペレット中のニッケル酸化物及び鉄酸化物が還元されメタル化して鉄−ニッケル合金(フェロニッケル)となり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってペレット中のスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、1個のペレット中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0036】
そして、還元工程S2における還元加熱処理の処理時間をさらに10分程度まで延ばすことにより、ペレット中に含まれる還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤の炭素成分が鉄−ニッケル合金に取り込まれ、融点を低下させる。その結果、鉄−ニッケル合金は熔解して液相となる。
【0037】
上述したように、ペレット中のスラグは熔融して液相となっているが、既に分離して生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入するペレットと比較すると、50%〜60%程度の体積に収縮している。
【0038】
上述した製錬反応が最も理想的に進行した場合、装入したペレット1個に対して、メタル固相1個とスラグ固相1個とを混在させた1個の混合物として得られ、「だるま状」の形状の固体となる。ここで、「だるま状」とは、メタル固相とスラグ固相とが接合した形状である。このような「だるま状」の形状を有する混合物である場合、その混合物は粒子のサイズとしては最大となるので、還元炉から回収する際に、回収の手間が少なく、メタル回収率の低下を抑制することができる。
【0039】
なお、上述した余剰の炭素質還元剤としては、ペレット製造工程S1にてペレット中に混合されたものだけでなく、例えばこの還元工程S2にて使用する還元炉の炉床にコークス等を敷き詰めることによって準備してもよい。
【0040】
<1−3.分離工程>
分離工程S3では、還元工程S2にて生成したメタル(鉄−ニッケル合金)とスラグとを分離してメタルを回収する。具体的には、ペレットに対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(炭素質還元剤を含むスラグ固相)とを含む混合物からメタル相を分離して回収する。
【0041】
ここで、
図3に、分離工程S3におけるメタルとスラグの分離処理の流れを示すフロー図を示す。
図3のフロー図に示すように、分離工程S3は、メタルとスラグとの混合物を所定の大きさとなるように粉砕する粉砕処理工程S31と、粉砕処理により得られた粉砕物を磁力により選別してメタルとスラグとを分離する磁選処理工程S32とを有する。本実施の形態においては、このように、固体として得られたメタル相とスラグ相との混合物からメタル相とスラグ相とを分離するに際して、その混合物を所定の大きさまで粉砕し、得られた粉砕物を所定の磁力で選別する(磁選する)方法により分離することを特徴としている。このような分離方法によれば、還元工程S2にて得られたメタルとスラグとを含む混合物の塊が小さくなった場合であっても、メタルとスラグとを効果的に分離して、メタルのみを高い回収率で容易に回収することができる。なお、この分離工程S3における分離処理については、以下に詳述する。
【0042】
≪2.分離工程における分離処理≫
分離工程S3における分離処理について説明する。上述したように、分離工程S3は、メタル(鉄−ニッケル合金)とスラグとの混合物(メタル固相1個とスラグ固相1個とを混在させた「だるま状」の1個の混合物)を所定の大きさとなるように粉砕する粉砕処理工程S31と、粉砕処理により得られた粉砕物を磁力により選別してメタルとスラグとを分離する磁選処理工程S32とを有する。
【0043】
(1)粉砕処理工程
粉砕処理工程S31では、還元工程S2でのペレットの還元加熱処理により得られた、メタルとスラグとの混合物の塊を、少なくともスラグが2mm未満の大きさとなるように粉砕して粉砕物を得る。
【0044】
混合物塊の粉砕方法としては、メタル粒とスラグ粒の弱い接合を解くことができる力以上の粉砕力でもって、少なくともスラグが2mm未満の大きさ、すなわちスラグ粒の長径が2mm未満の大きさとなるように粉砕できる能力を有する方法であれば、特に限定されない。例えば、ロールクラッシャー、乳鉢、ボールミル等を用いた粉砕方法を挙げることができる。
【0045】
このように、本実施の形態においては、磁選処理を施す前に、還元工程S2における還元加熱処理で得られたメタル粒とスラグ粒の混合物塊を粉砕することにより、(i)メタルとスラグの接合が確実に解かれてメタル粒とスラグ粒はそれぞれ単独の粒となり、また、(ii)混合物のままで粉砕されるため、同程度のサイズとなり、サイズによる磁力の影響差が表れにくくなる。このことにより、後述する磁選処理における磁力範囲の境界付近で、精度よくメタルとスラグの着磁の差が表れるようになる。
【0046】
(2)磁選処理工程
磁選処理工程S32では、粉砕処理工程S31にて少なくともスラグが2mm未満の大きさとなるように粉砕して得られた粉砕物を、300ガウス〜600ガウスの磁力で選別する。
【0047】
粉砕物に対する磁選処理としては、例えば
図4に一例を示すような一般的な磁力選別装置を用いた方法で行うことができる。なお、一般的な磁力選別機の基本的な構造は同じであるため、磁選における磁力は、その他の条件に依らず、磁選の強さを表す指標となる。
【0048】
図4に模式図を示す磁力選別装置50は、主として、電磁石ドラム51と、スクレーパー52とを備えている。ベルトコンベア等の移動手段53により
図4の右方から左方に移送されてきた被磁選物X(メタル粒とスラグ粒との混合物)が、磁力選別装置50に装入される。
【0049】
磁力選別装置50においては、電磁石ドラム51が回転しながら、移動手段53により移送されてきた被磁選物X中の着磁物(メタル粒)をその表面に着磁させ、着磁させた着磁物を電磁石ドラム51の回転に伴って上方に移動させ、
図4中の点線丸囲み部の箇所において磁力を切り、その箇所に到達した着磁物をスクレーパー52により電磁石ドラム51の表面から剥がすようになっている。なお、
図4中の矢印は電磁石ドラム51の回転方向を示す。
【0050】
ここで、上述したように、還元工程S2でのペレットに対する還元加熱処理において、例えば10mm〜30mm程度のサイズに形成されたペレット1個から、メタルとスラグとの混合物の塊が1個得られるような理想的な製錬反応(還元反応)が進行した場合、そのメタルとスラグの混合物の塊は、およそ6mm〜18mm程度の大きさになる。通常、その混合物塊は、メタルとスラグとが弱く接合して「だるま状」になっており、このだるま状の混合物塊からメタルとスラグとを分離するためには、解砕あるいは粉砕の処理が必要となるが、場合によっては例えば振動篩等の装置から受ける力だけでも分離することが可能となる。
【0051】
また、混合物塊におけるメタル粒とスラグ粒とでは、その粒径が、例えばメタル粒で5mm、スラグ粒で3mmといったように、差ができる場合が多い。このような場合には、例えば4mmの目開きの篩で、1工程のみの篩い分け作業を行うことにより、篩上にメタルを回収することが可能な場合もあり、スラグ粒や炭素質還元剤は篩下に分離される。
【0052】
しかしながら、何らかの理由で、例えばペレットの強度が弱いことが原因で、還元工程S2における還元炉にペレットを装入したとき、あるいは還元炉における製錬反応の進行中に、元々のペレットの形状を保てずに崩壊するような場合に、その還元工程S2から得られる混合物塊が、例えば1mm〜9mm(混合物塊が小さくなった場合)となってしまうことがある。このような場合には、メタル粒とスラグ粒との分離や、分離後に得られる混合物からのメタル粒のみを回収することが極めて困難となる。より詳しくは、メタル粒とスラグ粒とは、製錬反応により得られるメタル粒とスラグ粒との混合物塊のサイズよりさらに小さくなり、メタル粒とスラグ粒とのサイズ差(絶対値)も小さくなるため、篩別けの分離精度が下がってしまい、メタルの分離回収が困難となる。
【0053】
この点、本実施の形態においては、還元工程S2での還元加熱処理により得られたメタルとスラグとの混合物塊を、粉砕手段等を用いて粉砕するようにしており、そして、得られた粉砕物を所定の磁力によって選別することを特徴としている。このように、混合物塊の粉砕と、得られた粉砕物の所定の磁力での磁選との組合せの効果により、極めて高い回収率で容易にメタルを回収することができる。具体的には、95%以上の高い回収率でメタルを回収することができる。また、このような方法では、その磁選に際してスラグの混入も有効に防ぐことができ、効果的にメタルとスラグを分離した上でメタルのみを回収することができる。
【0054】
このように、本実施の形態に係る分離回収の方法によれば、還元工程S2から得られるメタルとスラグの混合物塊が何らかの理由で小さくなった場合でも、粉砕によりさらに小さいサイズにし、それを所定範囲の磁力で効果的にメタルとスラグとを選別しているため、メタルのみを有効に回収することができる。
【0055】
より具体的に、本実施の形態では、磁選処理工程S32において、メタルとスラグとを含む粉砕物を300ガウス〜600ガウスの磁力で選別することを特徴としている。還元工程S2にて得られた混合物塊に含まれるメタルは鉄−ニッケル合金(フェロニッケル)であり、スラグはペレット組成を製錬して得られるものであり、これらメタルとスラグとの混合物塊を粉砕して得られた粉砕物を上述した範囲の磁力で選別することにより、メタルの回収量を95%以上の高い割合にまで向上させることができる。
【0056】
また、特に、ニッケル酸化鉱としてリモナイト又はサプロライトを用いた場合、リモナイトやサプロライトはNi品位が低いため、得られるフェロニッケル中のNi品位を維持するように例えば還元度を調整して操業すると、得られるフェロニッケル粒は小さくなる。そして、この小さなフェロニッケル粒が上述のように分裂すると、さらに小さくなる場合が多い。このような場合であっても、本実施の形態に係る分離処理によれば、工程計画を変更することなく、高い回収率でメタル(フェロニッケル)を分離回収できる。
【0057】
ここで、上述したように、メタルはフェロニッケルであり、スラグは上述した組成のペレットを製錬して得られるものであるが、メタルとスラグとはそれぞれおよそ下記表3に示すような組成となっている。なお、下記の数値はニッケル酸化鉱のペレットを用いて還元加熱処理して得られたメタルとスラグのそれぞれの組成の一例を示すものであり、ICP装置による分析値(重量%)である。
【0059】
この一例に示すような組成からなるメタル粒とスラグ粒が混合された粉砕物の場合、300ガウスより弱い磁力で選別すると、粉砕物中のメタルが十分に着磁せず、高い回収率でメタルを回収することができない。一方で、600ガウスより強い磁力で選別すると、スラグ中のマグネタイト(Fe
3O
4)等により、メタルと共にスラグの着磁が多くなり、メタルの回収率は高くなるものの、磁選処理におけるスラグ混入率も高くなり、メタルとスラグの分離が不十分となって取り扱いが困難となる。したがって、300ガウス〜600ガウスの範囲の磁力で選別することによって、メタルとスラグとを効果的に分離して、高い回収率でメタルを回収することができる。なお、スラグ混入率とは、磁選処理において選別された着磁物中に占めるスラグの割合をいう。
【0060】
また、上述したように、磁選処理に先立ち、還元工程S2から得られたメタル粒とスラグ粒の混合物塊を粉砕するようにしているため、(i)メタルとスラグの接合が確実に解かれてメタル粒とスラグ粒は単独の粒となり、また(ii)混合物のままで粉砕されるため、同程度のサイズとなり、サイズによる磁力の影響差が表れにくくなる。このことにより、300ガウス〜600ガウスの磁力範囲の境界付近で、精度よくメタルとスラグの着磁の差が表れるようになる。
【0061】
具体的には、後述する実施例及び比較例の結果をまとめた
図5のグラフ図に示されるように、メタルとスラグとの混合物塊を粉砕した後、300ガウス〜600ガウスの範囲の磁力で選別することにより、スラグの混入を防いでメタルとスラグとを効果的に分離し、およそ98%以上の高い回収率でメタルのみを回収することができる。
【0062】
さらに、より安定的に磁選処理を行う観点から、400ガウス〜500ガウスの範囲で磁力を設定することがより好ましい。このような400ガウス〜500ガウスの範囲の磁力で選別することにより、メタル粒のみが確実に着磁する範囲となるため、選別の精度を安定化させることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱と、鉄鉱石と、炭素質還元剤である石炭と、フラックス成分である珪砂及び石灰石と、バインダーとを混合して混合物を得た。次に、得られた原料粉末の混合物に適宜水分を添加して手で捏ねることによって塊状物に形成した。そして、得られた塊状物の固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、300℃〜400℃の熱風を塊状物に吹き付けて乾燥処理を施し、ペレットを製造した。下記表4に、乾燥処理後のペレットの固形分組成を示す。
【0065】
【表4】
【0066】
次に、得られたペレット100個を還元温度1400℃に加熱した還元炉内に装入し、15分間に亘りその還元温度に保持して還元加熱処理を施した。この還元加熱処理により、メタルとスラグとを含む混合物の塊を得た。
【0067】
続いて、還元加熱処理により得られた混合物塊を、乳鉢を用いて粉砕した。この粉砕処理では、その粉砕物を目開き2mmの篩で篩別けして全量が篩下となるように粉砕して、メタルとスラグの混合物粉末を得た。次いで、得られた混合物粉末を磁力選別機に装入して、300ガウスの磁力で、着磁物(メタル)と非着磁物(スラグ)とに分離した。そして、分離して得られた着磁物から下記式によって示すNi回収率(百分率)を算出した。
Ni回収率(%)=回収された着磁物中のNi重量/装入したペレット中のNi重量
【0068】
その結果、Ni回収率は97.6%であり、非常に高い回収率でNiを回収することができた。
【0069】
また、混合物粉末を磁力選別機により磁選するに際して混入したスラグの割合(スラグ混入率(百分率))を下記式によって算出した。
スラグ混入率(%)=回収された着磁物中のスラグ重量/回収された着磁物の重量
【0070】
その結果、スラグ混入率は0.1%未満であり、スラグの混入はほとんどなく、メタルとスラグとを効果的に分離してメタルのみを有効に回収することができた。
【0071】
[実施例2]
磁力選別機における磁力を400ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0072】
その結果、実施例2では、Ni回収率は98.2%であり、非常に高い回収率でNiを回収することができた。また、スラグ混入率は0.1%未満であり、スラグの混入はほとんどなく、メタルとスラグとを効果的に分離してメタルのみを有効に回収することができた。
【0073】
[実施例3]
磁力選別機における磁力を500ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0074】
その結果、実施例3では、Ni回収率は98.6%であり、非常に高い回収率でNiを回収することができた。また、スラグ混入率は2.0%であり、スラグの混入は僅かであり、メタルとスラグとを効果的に分離してメタルのみを有効に回収することができた。
【0075】
[実施例4]
磁力選別機における磁力を600ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0076】
その結果、実施例4では、Ni回収率は98.6%であり、非常に高い回収率でNiを回収することができた。また、スラグ混入率は4.0%であり、スラグの混入は僅かであり、メタルとスラグとを効果的に分離してメタルのみを有効に回収することができた。
【0077】
[実施例5]
磁力選別機における磁力を440ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0078】
その結果、実施例5では、Ni回収率は98.5%であり、非常に高い回収率でNiを回収することができた。また、スラグ混入率は0.1%であり、スラグの混入は僅かであり、メタルとスラグとを効果的に分離してメタルのみを有効に回収することができた。
【0079】
[比較例1]
還元加熱処理により得られた混合物塊を粉砕しなかったこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。すなわち、比較例1では、得られた混合物塊をそのまま磁力選別機に装入して磁選した。
【0080】
その結果、比較例1では、Ni回収率は80%であり、満足のできる回収率でNiを回収することができなかった。
【0081】
[比較例2]
還元加熱処理により得られた混合物塊を粉砕せず、また磁力選別機による磁選もせずに、目開き4mmの篩で篩別けした。なお、サンプリングにより測定したメタル粒は4mm以上のものが多く、その他の粒は3mm以下程度であった。
【0082】
その結果、比較例2では、篩上として回収されたメタル粒のNi回収率は65%であり、極めて低い回収率となって満足のできるものではなかった。
【0083】
[比較例3]
磁力選別機における磁力を100ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0084】
その結果、比較例3では、Ni回収率は85.7%であり、満足のできる回収率でNiを回収することができなかった。なお、スラグ混入率は0.1%未満であり、スラグの混入はほとんどなかった。
【0085】
[比較例4]
磁力選別機における磁力を200ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0086】
その結果、比較例4では、Ni回収率は94.2%であり、95%以上の回収率でNiを回収することができなかった。なお、スラグ混入率は0.1%未満であり、スラグの混入はほとんどなかった。
【0087】
[比較例5]
磁力選別機における磁力を700ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0088】
その結果、比較例5では、Ni回収率は98.6%であり高い回収率でNiを回収することができたものの、スラグ混入率は28%にも及び、効果的にメタルとスラグとを分離することができず、取り扱いが困難となった。
【0089】
[比較例6]
磁力選別機における磁力を800ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0090】
その結果、比較例6では、Ni回収率は98.6%であり高い回収率でNiを回収することができたものの、スラグ混入率は44%にも及び、多くのスラグがメタルと共に磁力選別機に着磁してしまい効果的にメタルとスラグとを分離することができず、取り扱いが困難となった。
【0091】
[比較例7]
磁力選別機における磁力を900ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0092】
その結果、比較例7では、Ni回収率は98.6%であり高い回収率でNiを回収することができたものの、スラグ混入率は68%にも及び、多くのスラグがメタルと共に磁力選別機に着磁してしまい効果的にメタルとスラグとを分離することができず、取り扱いが困難となった。
【0093】
[比較例8]
磁力選別機における磁力を1000ガウスとしたこと以外は、実施例1と同様にして操作し、メタルとスラグとを分離した。
【0094】
その結果、比較例8では、Ni回収率は98.6%であり高い回収率でNiを回収することができたものの、スラグ混入率は96%にも及び、ほとんどのスラグがメタルと共に磁力選別機に着磁してしまい効果的にメタルとスラグとを分離することができず、取り扱いが困難となった。
【0095】
なお、
図5は、上述した実施例及び比較例における磁選処理により得られた、磁力(ガウス)に対するNi回収率(%)とスラグ混入率(%)の結果を示すグラフ図である。
図5のグラフにおいて、『○』印が左縦軸に表すメタル回収率を示すプロットであり、『□(黒)』印が右縦軸に表すスラグ混入率を示すプロットである。このグラフ図にも示されるように、メタルとスラグとの混合物塊を粉砕した後、その粉砕物を300ガウス〜600ガウスの範囲の磁力で選別することにより、磁選処理においてスラグの混入を防いでメタルとスラグとを効果的に分離することができ、そして分離したメタルを高い回収率で回収できることが分かる。