(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記付加反応物は前記化学式1で表されるチオールと、前記(メタ)アクリレートとを、1:2〜1:10の範囲内のモル比で含む組成物を付加反応させて得られる請求項1または2に記載の回折光学素子。
前記付加反応物は前記化学式1で表されるチオールと、前記(メタ)アクリレートとを、1:2〜1:3.5の範囲内のモル比で含む組成物を付加反応させて得られる請求項1または2に記載の回折光学素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
式(1)によると、樹脂の屈折率差(n2−n1)と波長が比例関係にある事が分かる。波長が長くなるにつれ、2つの樹脂の屈折率差が大きくなるためには、第一の樹脂(屈折率n1)が低屈折率高分散樹脂、第二の樹脂(屈折率n2)が高屈折率低分散樹脂でそれぞれ構成されることが必要である。言い替えれば、2つの樹脂の分散値(アッベ数もしくは平均分散(nF−nC))の差が大きくなる樹脂の組み合わせが必要になる。また、2つの樹脂の屈折率差(n2−n1)が大きいほど格子高さhを低くできるので、格子の加工が容易になる。
【0006】
しかし、一般の樹脂は屈折率が大きくなるにつれ分散値が大きくなり、屈折率が小さくなるにつれ分散値が小さくなるという傾向を持つ。この為、高屈折率低分散と低屈折率高分散の樹脂を組み合わせ、かつ屈折率差も大きくなる様にする事は容易ではなく、優れた光学性能を有する密着複層型回折光学素子を作製する為には、新たな樹脂の開発が必要とされてきた。
【0007】
更に、密着複層型回折光学素子には、その用途応じて満たさなければならない条件が存在する。例えば、生物系顕微鏡など蛍光を用いた観察や測定を行う光学系に密着複層型回折光学素子を適用する為には、前述の屈折率分散の条件に加え、蛍光の励起波長(通常は紫外線を含む)において必要な透過率を有している事と密着複層型回折光学素子自体からの自家蛍光の発生を極めて少ない量に抑える事の両方が必要とされる。カメラ用交換レンズに密着複層型回折光学素子を適用する為には、回折光学素子に入射する光線の向きが変化しても回折光により発生するフレアの変化が許容量以下に抑えられる事が重要とされる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、従来の樹脂に比べ、より高屈折率低分散である樹脂およびその樹脂前駆体組成物を得るとともにこれを用いた光学要素を得ること、さらに、その用途に応じた条件を満たす為に、この樹脂と低屈折率高分散樹脂との組合せによる密着複層型回折光学素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的達成のため、本発明に係る光学材料用樹脂前駆体組成物は、下記化学式1で表されるチオール(A成分)と(メタ)アクリレートとを含む組成物の付加反応物を含む。
【化1】
【0010】
本発明に係る光学材料用樹脂前駆体組成物は、上述の付加反応物が上記化学式1で表されるチオール(A成分)と、(メタ)アクリレートとを、1:2〜1:10の範囲内のモル比で含む組成物を付加反応させて得られる。
【0011】
さらに好ましくは上述の付加反応物が上記化学式1で表されるチオール(A成分)と、(メタ)アクリレートとを、1:2〜1:3.5の範囲内のモル比で含む組成物を付加反応させて得られる。
【0012】
本発明に係る光学材料用樹脂前駆体組成物において、好ましくは、前記(メタ)アクリレートが下記化学式2で表されるアクリレート(B成分)である。
【化2】
【0013】
本発明に係る光学材料用樹脂前駆体組成物は、好ましくは、上述の付加反応物が下記化学式1で表されるチオール(A成分)と(メタ)アクリレートと下記化学式3で表されるチオール(C成分)とを含む組成物を付加反応させて得られる。
【化3】
【0014】
もう一つの本発明に係る光学要素は、上述した光学材料用樹脂前駆体組成物を硬化させて得られる。
【0015】
本発明に係る回折光学素子は、上述した光学要素とその光学要素より低屈折率高分散の光学要素とを積層し、界面に回折格子を設けた回折格子から構成される。
【0016】
本発明に係る回折光学素子は、前記低屈折率高分散の光学要素が、下記化学式4で表されるビスフェノールAF エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートを含む樹脂前駆体組成物を硬化させて得られる。
【化4】
【0017】
また、この回折光学素子から構成される本発明に係る光学素子において、前記低屈折率高分散の光学要素が、下記化学式5で表されるビスフェノールA エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートと下記化学式6で表されるフッ素化ジ(メタ)アクリレートとを含む樹脂前駆体組成物を硬化させて得られる。
【化5】
【化6】
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明に係る樹脂前駆体組成物は高屈折率低分散の材料であり、密着複層型の回折光学素子の用途に適し、本発明に係る光学要素は、この高屈折率低分散の樹脂に低屈折率高分散の樹脂との組合せから構成される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本願の好ましい実施形態として高屈折率低分散の樹脂前駆体について説明する。この樹脂前駆体は、下記化学式1により表されるチオールと(メタ)アクリレートとを含む組成物の付加反応物を含む。
【0021】
【化7】
化学式1のチオールは、「トリシクロデカンジメタンチオール(tricyclodecanedimethanethiol)」で、通称TDDTである。トリシクロデカンジメタンチオール(TDDT)は低分散特性を示すトリシクロデカン骨格を備えるとともに、高屈折率特性を示す硫黄元素を有する。
【0022】
上記化学式1で表されるチオールは常温で液体であり、このままでは光学要素を構成することはできない。このため、まず、上記チオール(TDDT)に、下記化学式2で表されるトリシクロデカン構造を有するアクリレートを所定の組成比(モル比)で付加反応しオリゴマー化させた。なお、付加反応としてはエンチオール反応やマイケル付加反応等が考えられる。しかし、エンチオール反応はアクリルとチオールの反応が制御できず、オリゴマーで止まらない欠点がある。一方、マイケル付加反応はオリゴマーで反応が止まるため、その後の紫外線照射時の硬化収縮が小さい利点がある。今回はマイケル付加反応を用いた。
【0023】
【化8】
化学式2のアクリレートBは、正式名称が「トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(tricyclodecanedimethanoldi(meth)acrylate)」で、通称TCDAである。
【0024】
チオールは硫黄元素に由来する高屈折率特性とトリシクロデカン骨格に由来する低分散性とを備えるため、これに(メタ)アクリレートモノマーを付加反応させると高屈折率低分散特性を示す樹脂の前駆体組成物が得られる。ここで、高屈折率特性と低分散特性とのバランスを考慮し、(メタ)アクリレートとして低分散特性を有する(メタ)アクリレートモノマーを選択する。分散値特性を有する(メタ)アクリレートの指標として、(メタ)アクリレート単体を硬化させた樹脂のアッベ数νdが51以上であること、さらには屈折率ndが1.52以上であることが好ましい。
【0025】
たとえば、低分散性を有する構造としてノルボルネン構造、シクロヘキサン構造、アダマンタン構造、トリシクロデカン構造等があり、これらの構造を有する(メタ)アクリレートを用いることができる。その中でも、上記化学式2で表されるようなトリシクロデカン構造を有する(メタ)アクリレートは特に好ましい。
【0026】
このオリゴマー化させた樹脂前駆体組成物に光(または熱)重合開始剤を加え、これに紫外光を照射して(または熱をかけて)硬化させた。なお、このように紫外光照射(または熱)により硬化する過程において、もしくは硬化後にこれを所望の形状に成形もしくは加工することにより、レンズ、回折光学素子等に用いられる光学要素が作られる。
【0027】
なお、高屈折率低分散特性を有し複層型の回折光学素子に用いるのに適した樹脂前駆体組成物を得るために、上記化学式1で表されるチオールの高屈折性に対し、低分散性を示す(メタ)アクリレートの配合割合は重要な因子である。本発明においては、高屈折性と低分散性とのバランスを考慮し、上記化学式1で表されるチオールと低分散構造を有する(メタ)アクリレートとの配合比(モル比)が1:2〜1:10の範囲であることが好ましい。(メタ)アクリレートの配合割合の下限を下回ると、樹脂前駆体組成物を硬化させて得られる樹脂の分散値が高くなり、回折光学素子に用いるのに適した高屈折率低分散特性を示さなくなる。
【0028】
(メタ)アクリレートの配合割合の上限値は、高屈折率性を示す化学式1で表されるチオールに加え、例えば1つの分子に3以上の硫黄元素を有するような化合物(たとえば下記化学式3)やその他の高い屈折率性を示す物質をさらに添加することを考慮した値である。この上限値を上回ると、樹脂前駆体組成物を硬化させて得られる樹脂の高屈折率性と低分散性のバランスが壊れ、複層型の回折光学素子に用いるのに適さなくなる。
また、上記化学式1で表されるチオールの高屈折性に対する(メタ)アクリレート低分散性とのバランスを考慮し、前記チオールと(メタ)アクリレートとのモル比が、1:2〜1:3.5であることがさらに好ましい。
【0029】
上記組成について、下記3種のもの(実施例1〜3)を作製した。
実施例1: 組成比 TCDA:TDDT=2.5:1
実施例2: 組成比 TCDA:TDDT=3:1
実施例3: 組成比 TCDA:TDDT=3.5:1
なお、実施例1〜3において、チオールとして、上記化学式1のうちm=1,n=1の構造式を有するTDDTを用いている。また、(メタ)アクリレートとしてR=H、m=1,n=1の構造を有するTCDAを用いている。
【0030】
上記混合組成とは別に、上記チオールに、以下の化学式3で示されるチオールと、低分散成分としての上記アクリレートを所定の組成比(モル比)でマイケル付加反応してオリゴマー化した。
【0031】
【化9】
化学式3のチオールは、「2,5−ジメルカプトメトル−1,4−ジチアン(2,5-dimercaptomethyl-1,4-dithiane)」で、通称DMMDであり、常温で液体の化合物である。
【0032】
化学式1のチオールと、化学式2のTCDAと化学式3のDMMDとを下記組成比でオリゴマー化させた。なお、実施例4において、上記化学式1のチオールとして、m=1,n=1の構造式を有するTDDTを用いている。また、上記化学式2の(メタ)アクリレートとしてR=H、m=1,n=1の構造を有するTCDAを用いている。
実施例4: 組成比 TCDA:DMMD:TDDT=22:5:3
化学式3で示されるような硫黄元素が多く含まれるチオールを添加することによりさらなる高屈折率が図ることができる。樹脂の屈折率を高くすることにより、格子高さが低減でき、すなわち成形が容易になる。
【0033】
まず、実施例1〜4のマイケル付加反応物にそれぞれ、光重合開始剤であるイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製)を0.1wt%添加して樹脂前駆体組成物Fを作った。この樹脂前駆体組成物Fを、シランカップリング処理した2枚の石英基板の間に入れ、この状態で紫外光を照射して樹脂硬化物G(これを樹脂Gと称する)を作製した。このとき、樹脂前駆体組成物Gの厚さは100μmとなるように2枚の石英基板の間隔を調整設定した。また、紫外光照射は、365nmの紫外光を発生するLEDを備えた紫外光照射機(ユービックス株式会社製)を使用して行った。このとき、すりガラス越しに、仮硬化として25mW/cm
2で60秒の照射を行い、次いで本硬化として40mW/cm
2で250秒の照射を行った。光源は365nmを含むものならメタルハライドランプ,高圧水銀ランプ,およびLEDなどが使用可能である。なかでも特に自家蛍光を抑えたい場合にはLEDが望ましいので、本実施では、LEDを用いた。
【0034】
このようにして作製した100μmの厚さの樹脂に、365nmの紫外光を発生するLEDを備えた紫外光照射機(ユービックス株式会社製)を使用して長時間の紫外光照射を行い、その耐光性をテストした。このときの紫外光照度は350mW/cm
2で、216分間の照射を行い、この照射後における蛍光測定と透過率測定を行った。なお、透過率は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製U−3900Hにより測定した。蛍光量は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製F−7000により測定した。
【0035】
これら実施例1〜4の組成で調製した樹脂の屈折率および分散値を
図1に示す。
図1よりTDDTと(メタ)アクリレートを含む樹脂前駆体を硬化させた樹脂は屈折率が高くかつ分散が低い特性を示すことがわかる。
【0036】
次に、これら実施例1〜4の組成で調製した樹脂の一つについて、長時間の紫外光照射による耐光性テストを行って蛍光および透過率を測定した。その結果を
図2および
図3に示す。なお、この耐光性テストは、365nmの紫外光を発生するLEDを備えた紫外光 照射機(ユービックス株式会社製)を使用して行った。このときの紫外光照度は350mW/cm
2で、216分間の照射を行い、この照射後における蛍光測定と透過率測定を行った。なお、透過率は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製U−3900Hにより測定した。蛍光量は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製F−7000により測定した。
図2に実施例1、実施例4の樹脂の紫外線照射後の蛍光特性および比較用として顕微鏡用対物レンズに用いられている接着剤の紫外線照射後の蛍光特性を示す。同図において横軸は光の波長、縦軸は任意単位[arb.unit]で示される蛍光強度である。図から本願発明の樹脂は紫外線照射後において蛍光強度が非常に小さく抑えられていることがわかる。
【0037】
また、
図3には実施例1〜4の透過率特性および比較用として顕微鏡用対物レンズに用いられている接着剤の透過率特性を示した。
図3に示されるように、実施例1〜4の樹脂は紫外光線透過率が高く(365nmで90%以上)紫外域から可視域にわたり良好な透過性能を有しており、蛍光観察を行う生物系の顕微鏡対物レンズ用途に十分耐え得るものであることがわかる。
【0038】
さらに、実施例1〜4の組成で調製した樹脂は上記耐光性テストの後において黄変は見られず、この点においても耐光性を有することが分かった。
【0039】
樹脂前駆体組成物を作り紫外光照射により効果させるために用いられる重合開始剤についても、その種類および添加量は適宜選ぶことができる。添加量については、0.05〜3wt%の範囲内で選ぶことができ、好ましくは、0.07〜0.7wt%の範囲内で選ばれる。前駆体組成物に好適な重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、メタンスルホン酸ヒドロキシベンゾフェノン、安息香酸o−ベンゾイルメチル、p−クロロベンゾフェノン、p−ジメチルアミノベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインアリルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−o−ベンゾイルオキシムなどの光重合開始剤や、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2、2’−アゾビスイソブチレートなど)、過酸化物(過酸化ベンゾイル、ジ(t−ブチル)パーオキシドなど)といった熱重合開始剤が挙げられる。
【0040】
図4に、密着複層型の回折光学素子の構造(断面形状)を示している。この回折光学素子は、高屈折率低分散の樹脂からなる第1回折光学要素1と、低屈折率高分散の樹脂からなる第2回折光学要素2とから構成され、第1および第2回折光学要素1,2の間に鋸歯状のレリーフパターン5(回折格子パターン)が形成されている。上述の実施例1〜4の樹脂前駆体組成物反応物は、高屈折率低分散の樹脂であり、第1回折光学要素1の樹脂として用いられる。
【0041】
上述の密着複層型の光学要素のもう一方である低屈折率高分散第2回折光学要素2に用いられる樹脂について以下に説明する。
第2回折光学要素2を構成する低屈折率高分散の樹脂として複数種類の樹脂組成を用いることができるが、例えば、以下の化学式4で示されるビスフェノールAF エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートを樹脂前駆体組成物として用いることが好ましい。
【0043】
上記化学式4により表される一般名称はビスフェノールAF エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートと称され、常温で液体の樹脂前駆体である。
さらには、上記化学式4において R=H、m=1,n=1である 2,2−ビス(4−(2−アクリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンまたは、R=CH
3、m=1,n=1である2,2−ビス(4−(2−メタクリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを樹脂前駆体組成物として用いることが好ましい。
【0044】
あるいは、以下の化学式5で表されるビスフェノールA エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートと、フッ素モノマーであり以下の化学式6で表されるフッ素化ジ(メタ)アクリレートの70:30(w/w)の混合物を樹脂前駆体組成物として用いてもよい。
【0047】
さらには、上記化学式5においてR=CH
3、m+n=2.3であるビスフェノールA エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートと、下記化学式6においてR=H、m=4である化合物の70:30(w/w)混合物等を用いることが好ましい。
【0048】
次に本願発明のこの密着複層型回折光学素子の具体的な製造方法およびその特性について以下実施例5、6に説明する。
【0049】
(実施例5)
本実施形態では、
図4に示す回折光学素子において、第1回折光学要素1として上述した高屈折率低分散の樹脂である実施例1の配合比の樹脂前駆体組成物を光硬化させた樹脂を用い、第2回折光学要素2として上述した低屈折率高分散の第2回折光学要素2として樹脂前駆体 2,2−ビス(4−(2−アクリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(上記化学式4において R=H、m=1,n=1)を光硬化させた樹脂を用いた。
【0050】
まず、低屈折率高分散樹脂として、2,2−ビス(4−(2−アクリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンに光重合開始剤であるイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製)を0.1wt%添加して樹脂前駆体組成物を作った。これを回折光学要素を成形するための所定の金型に塗布後、基板で押圧して紫外線を照射する。紫外光照射は、365nmの紫外光を発生するLEDを備えた紫外光照射機(ユービックス株式会社製)を使用して行った。このとき、すりガラス越しに、仮硬化として25mW/cm
2で60秒の照射を行った。
光源は365nmを含むものならメタルハライドランプ,高圧水銀ランプ,やLEDなどが使用可能である。なかでも特に自家蛍光を抑えたい場合にはLEDが望ましいので、本実施では、LEDを用いた。仮硬化後、金型から外し回折光学要素2が完成する。
【0051】
次に、上記化学式1で表されるチオール(m=n=1)と、上記化学式2で表されるアクリレート(R=H、m=1、n=1)との組成物(モル比 TCDA:TDDT=2.5:1)のマイケル付加反応物に光重合開始剤であるイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製)を0.1wt%添加して樹脂前駆体組成物を作った。これを成形した回折光学要素2の上に塗布し、基板を押圧して紫外線を照射する。
紫外光照射は、365nmの紫外光を発生するLEDを備えた紫外光照射機(ユービックス株式会社製)を使用して行った。このとき、すりガラス越しに、仮硬化として25mW/cm
2で60秒の照射を行い、次いで本硬化として40mW/cm
2で250秒の照射を行った。
【0052】
(実施例6)
高屈折率低分散回折光学要素として第1回折光学要素1として上述した高屈折率低分散の樹脂である実施例2(モル比 TCDA:TDDT=3:1)のマイケル付加反応物に光重合開始剤であるイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製)を0.1wt%添加した樹脂前駆体組成物について、実施例5と同様に回折光学要素1を成形した。本実施例では低屈折率低分散光学要素として2,2−ビス(4−(2−(メタ)クリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BMHF)にイルガキュア184(BASFジャパン株式会社製)を0.1wt%添加した樹脂前駆体組成物を用い、実施例5と同様に回折光学要素1を成形した。
【0053】
実施例5:
(高屈折率低分散光学要素) TCDA:TDDT=2.5:1の付加反応物、イルガキュア184 0.1wt%
(低屈折率高分散光学要素) 2,2−ビス(4−(2−アクリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、イルガキュア184 0.1wt%
【0054】
実施例6:
(高屈折率低分散光学要素) TCDA:TDDT=3:1の付加反応物、イルガキュア184 0.1wt%
(低屈折率高分散光学要素) 2,2−ビス(4−(2−(メタ)クリロイルオキシ)エトキシ)フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、イルガキュア184 0.1wt%
【0055】
実施例5,6について
図4の第1および第2回折光学要素1,2の間に形成される鋸歯状のレリーフパターン5(回折格子パターン)の格子高さを表1に示す。表1に示すように、実施例5においては、第1および第2回折光学要素1,2の間に形成される鋸歯状のレリーフパターン5の高さを25.6μm、実施例6においては25.5μmに設定することができた。
【0056】
【表1】
このように、レリーフパターン5の格子高さはどちらの実施例においても非常に小さい値に抑えることができた。
【0057】
この構成の光学レンズ10における不要回折次数の回折光強度を
図6に示す。
縦軸は(0次光回折光強度+2次光回折光強度)/1次光回折光強度であり、この値が小さいほど、回折性能が優れていることを示す。本願実施例で形成した回折光学素子は従来の樹脂で構成される回折光学要素を用いた場合に比べて不要次数の回折光強度が小さく、高い回折性能を示す。また、斜入射光に対する回折効率も高く、生物系の顕微鏡対物レンズ、交換レンズ、双眼鏡、望遠鏡、防犯カメラ、プロジェクタなどの広い用途に用いることができる。
【0058】
図5に、本願の光学要素を用いた回折光学素子10の例を示す。本願発明の高屈折率低分散の樹脂11とその樹脂より低屈折率高分散の樹脂12とを積層し、界面に回折格子13を設けた回折格子から構成されるいわゆる密着複層型の回折光学素子10である。密着複層型の回折光学素子10は、
図5(a)−(b)に示すように1枚の基板15(もしくはレンズ)上に形成されてもよく、また
図5(c)−(g)に示すように2枚の基板15(もしくはレンズ)に挟まれる構成であってもよい。高屈折率低分散樹脂、低屈折率高分散樹脂のどちらを1層目に形成してもよい。
【0059】
基板15は平行平板であってもよく、平凹形状、平凸形状あるいはメニスカス形状、両凸形状であってもよい。密着複層型の光学素子は平面上に形成されてもよいし、凸面上または凹面上に形成されてもよい。本願発明の光学要素・光学素子は撮影光学系、顕微鏡用光学系、観察光学系用光学系等に幅広く用いられ、その用途や光学系の形態により適宜最適な構成を選択できる。
【0060】
以上、本発明に係る高屈折率低分散の樹脂Gを例に説明したが、本発明に用いる高屈折率低分散の光学材料は、上記樹脂Gに限定されるものではない。上述した化学式1により表されるチオールと(メタ)アクリレートとを含む樹脂前駆体組成物からなる樹脂は、同様の特性を有する。