(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共重合体(A1)における単量体(a)に由来する単位と単量体(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))が、20/80〜80/20である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電線被覆用樹脂材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「単量体」とは、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物である。
「単量体に由来する単位」とは、単量体が重合することによって形成された単量体分子から構成される構成単位であり、単量体分子の一部が分解によって消失していてもよい。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
「分岐構造」とは、単位の繰り返しからなる分子鎖が途中で分岐した構造を意味し、単位を構成する単量体の一部であるペンダント基からなる分岐は、分岐構造には含めない。
「線形領域」とは、
図1の実線に示すように、伸長粘度を測定した際に伸長粘度がひずみ速度に依存せず、同一の時間依存性を示す領域である。
「非線形領域」とは、
図1の破線に示すように、伸長粘度を測定した際に伸張粘度が伸張時間とともに線形領域から外れて増大する領域である。
「ひずみ硬化性」とは、伸長粘度を測定した際に高ひずみ領域において伸長粘度が線形領域から外れて急激に上昇する性質である。
「ひずみ硬化度SH」とは、ひずみ硬化性の程度を示すパラメータである。ひずみ硬化度は、温度270℃、ひずみ速度ε
・:1.0s
−1の条件下で一軸伸長粘度を測定し、下式(1)〜(3)から求める。
SH=dlnλ
n(t)/dε(t) ・・・(1)
λ
n(t)=η
E+(t)/3η(t) ・・・(2)
ε(t)=ε
・・t ・・・(3)
ただし、SHはひずみ硬化度であり、lnは自然対数であり、λ
n(t)は非線形性パラメータであり、η
E+(t)は非線形領域における伸長粘度であり、η(t)は温度270℃、角周波数ω:0.1〜100(rad/s)の条件下でせん断動的粘弾性測定によってωの関数として得られた複素粘度の絶対値をt=1/ωとして時間の関数に変換することで得られる線形の伸長粘度であり、ε(t)はヘンキーひずみであり、tは伸長時間である。
3η(t)は、横軸t=1/ωとし、縦軸ηを3倍にした値をプロットすることでせん断動的粘弾性測定から予測される線形領域における伸長粘度(
図1における実線)である。式(2)で求められる非線形性パラメータλ
n(t)は、各時間での伸長粘度とせん断動的粘弾性測定から予測される線形領域における伸長粘度との比である。
図2に示すように、ひずみ硬化性を有する樹脂材料においては、伸長変化とともに(すなわち伸長時間tの経過とともに)非線形性パラメータλ
n(t)の対数がヘンキーひずみε(t)に対して直線的に増加することが知られている。式(1)は、該直線の傾きを求める式であり、該傾き(すなわちひずみ硬化度SH)が大きいほど、ひずみ硬化性が顕著になる。
【0015】
<電線被覆用樹脂材料>
電線被覆用樹脂材料は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位を有する共重合体(A)(すなわち、ETFE系共重合体)の1種以上からなる樹脂成分(X)を含む。電線被覆用樹脂材料は、樹脂成分(X)のみからなるものであってもよく、樹脂成分(X)と他の成分(他の樹脂成分、添加剤成分)とを含むものであってもよい。
【0016】
(共重合体(A))
共重合体(A)は、下記の2種類に大きく分けられる。
共重合体(A1):単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位と、単量体(c)に由来する単位または単量体(d)に由来する単位(ただし、ラジカル発生基は分解して該単位には残存していない。)とを有する共重合体(すなわち、分岐構造を有するETFE系共重合体)。
共重合体(A2):単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位を有し、単量体(c)に由来する単位および単量体(d)に由来する単位
のいずれの単位も有さない共重合体(すなわち、分岐構造を有さない直鎖のETFE系共重合体)。
【0017】
(共重合体(A1))
共重合体(A1)は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位と、単量体(c)に由来する単位または単量体(d)に由来する単位とを有し、必要に応じて他の単量体(e)に由来する単位を有していてもよい。
【0018】
単量体(a):
単量体(a)は、テトラフルオロエチレンである。共重合体(A1)が単量体(a)に由来する単位を有することによって、被覆層の耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、燃料バリア性が良好となる。
【0019】
単量体(b):
単量体(b)は、エチレンである。共重合体(A1)が単量体(b)に由来する単位を有することによって、電線被覆用樹脂材料の溶融流動性および被覆層の機械的特性が良好になる。
【0020】
単量体(c):
単量体(c)は、重合性炭素−炭素二重結合を2つ以上有する単量体である(ただし、単量体(d)を除く)。単量体(c)に由来する単位は、分子鎖の分岐点となるため、共重合体(A1)が単量体(c)に由来する単位を有することによって、共重合体(A1)に分岐構造が導入される。
【0021】
単量体(c)としては、下式(4)で表される化合物が挙げられる。
Y
1−R
f−Z
1 ・・・(4)
ただし、R
fはポリフルオロアルキレン基であり、Y
1およびZ
1はそれぞれビニル基、トリフルオロビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基である。
Y
1およびZ
1は、共重合性が良好である点から、ビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基が好ましい。Y
1およびZ
1は、入手の容易性の点から、同一であることが好ましい。
【0022】
式(4)で表される化合物としては、下記のものが挙げられる。
CH
2=CH−R
f1−CH=CH
2
CF
2=CF−R
f1−CH=CH
2
CF
2=CF−R
f1−CF=CF
2
CF
2=CF−O−R
f1−CH=CH
2
CF
2=CF−O−R
f1−CF=CF
2
CF
2=CF−O−R
f2−O−CF=CF
2
ただし、R
f1は単結合または炭素数1〜8のポリフルオロアルキレン基であり、R
f2は炭素数1〜8のポリフルオロアルキレン基である。
R
fは、共重合体(A1)の物性が良好である点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素数2〜8のペルフルオロアルキレン基がより好ましく、入手の容易性の点から、炭素数4または6のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
【0023】
単量体(c)としては、入手の容易性の点から、下記のものが好ましい。
CH
2=CH−(CF
2)
n1−CH=CH
2
CF
2=CF−O−(CF
2)
n1−O−CF=CF
2
ただし、n1は4〜8の整数である。
単量体(c)としては、下記のもの(以下、単量体(c1)と記す。)が特に好ましい。
CH
2=CH−(CF
2)
n2−CH=CH
2
ただし、n2は4または6である。
単量体(c1)は、重合性炭素−炭素二重結合がビニル基であるため、重合性から単量体(a)に由来する単位と隣接する確率が高く、単量体(b)に由来する単位と隣接する確率は低い。したがって、炭化水素鎖が並ぶ可能性が低く、共重合体(A1)は熱的に安定となる。
【0024】
単量体(d):
単量体(d)は、ラジカル発生基を有する単量体である。単量体(d)に由来する単位は、ラジカル発生基が分解した後に分子鎖の分岐点となるため、共重合体(A1)が単量体(d)に由来する単位を有することによって、共重合体(A1)に分岐構造が導入される。
【0025】
単量体(d)における重合性炭素−炭素二重結合の数は、1または2が好ましい。単量体(d)における重合性炭素−炭素二重結合の数が2の場合は、2つの重合性炭素−炭素二重結合の間にラジカル発生基が存在することが好ましい。単量体(d)における重合性炭素−炭素二重結合の数は1がより好ましい。重合性炭素−炭素二重結合の数が2の単量体(d)を用いる場合は、重合性炭素−炭素二重結合の数が1の単量体(d)に比べ少量用いることが好ましい。
【0026】
ラジカル発生基は、熱によってラジカルを発生し得る基が好ましく、ペルオキシ基がより好ましい。ラジカル発生基は、後述する樹脂成分(X2)の製造方法における1段階目の重合条件では実質的にラジカルを発生しない。「実質的にラジカルを発生しない」とは、ラジカルが全く発生しないか、発生したとしてもごくわずかであることを意味し、結果として、重合が起こらないか、重合が起こったとしても樹脂成分(X2)の物性には影響を与えないことを意味する。
【0027】
ラジカル発生基の、10時間半減期温度で定義される分解温度は、50〜200℃が好ましく、70〜150℃がより好ましい。後述する樹脂成分(X2)の製造方法における1段階目の重合条件および2段階目の重合条件における重合温度は、選択した単量体(d)におけるラジカル発生基の分解温度で調整される。したがって、ラジカル発生基の分解温度が低すぎる場合は、1段階目の重合条件下で重合を行うために、ラジカル発生基の分解温度よりもさらに低い分解温度の重合開始剤が必要となり、1段階目の重合条件の制約が厳しくなる。また、ラジカル発生基の分解温度が高すぎる場合は、2段階目の重合条件における重合温度が高くなり、2段階目の重合条件の制約が厳しくなる。
【0028】
単量体(d)としては、下記のものが挙げられる。
アルキルヒドロペルオキシドと不飽和カルボン酸とのエステル、
アルキルヒドロペルオキシドのアルケニルカーボネート、
不飽和アシル基を有するジアシルペルオキシド、
ジアルケニルヒドロペルオキシド、
ジアルケニルジカーボネート、等。
【0029】
単量体(d)としては、アルキルヒドロペルオキシドと不飽和カルボン酸とのエステル、またはアルキルヒドロペルオキシドのアルケニルカーボネートが好ましい。
アルキルヒドロペルオキシドとしては、t−ブチルヒドロペルオキシドが好ましい。
不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、またはマレイン酸が好ましい。
アルケニル基としては、ビニル基またはアリル基が好ましい。
単量体(d)の具体例としては、t−ブチルペルオキシメタクリレート、t−ブチルペルオキシクロトネート、t−ブチルペルオキシマレイックアシッド、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート等が挙げられる。
【0030】
単量体(e):
単量体(e)は、単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)および単量体(d)以外の単量体である。共重合体(A1)は、単量体(e)に由来する単位を有することが好ましい。
【0031】
単量体(e)としては、たとえば、下記のものが挙げられる。
炭化水素系オレフィン:プロピレン、ブテン等(ただし、エチレンを除く。)。
不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン:フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、下式(5)で表される化合物(以下、単量体(e1)と記す。)等。
CH
2=CX
2(CF
2)
n3Y
2 ・・・(5)
ただし、X
2およびY
2はそれぞれ水素原子またはフッ素原子であり、n3は2〜10の整数である。
不飽和基に水素原子を有さないフルオロオレフィン:クロロトリフルオロエチレン等(ただし、テトラフルオロエチレンを除く)。
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル):ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)等。
ビニルエーテル:アルキルビニルエーテル、(フルオロアルキル)ビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メチルビニロキシブチルカーボネート等。
ビニルエステル:酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル等。
(メタ)アクリレート:(ポリフルオロアルキル)アクリレート、(ポリフルオロアルキル)メタクリレート等。
酸無水物:無水イタコン酸、無水シトラコン酸等。
【0032】
単量体(e)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
単量体(e)としては、単量体(e1)が好ましい。共重合体(A1)が単量体(e1)に由来する単位を有すると、被覆層にクラック等が生じにくく、被覆層の耐久性が良好となる。
単量体(e1)におけるX
2は、入手の容易性の点から、水素原子が好ましい。単量体(e1)におけるY
2は、熱安定性の点から、フッ素原子が好ましい。単量体(e1)におけるn3は、共重合体(A1)の物性の点から、2〜6の整数が好ましく、2〜4の整数がより好ましい。
【0033】
単量体(e1)の具体例としては、下記のものが挙げられる。
CH
2=CF(CF
2)
n3F
CH
2=CF(CF
2)
n3H
CH
2=CH(CF
2)
n3F
CH
2=CH(CF
2)
n3H
ただし、n3は2〜10の整数である。
単量体(e1)としては、下記のものが好ましい。
CH
2=CF(CF
2)
n4F
CH
2=CH(CF
2)
n4F
CH
2=CH(CF
2)
n4H
CH
2=CF(CF
2)
n4H
ただし、n4は2〜6の整数である。
単量体(e1)としては、下記のものがより好ましい。
CH
2=CH(CF
2)
n4F
ただし、n4は2〜6の整数である。
単量体(e1)としては、下記のものが特に好ましい。
CH
2=CH(CF
2)
2F
CH
2=CH(CF
2)
4F
【0034】
組成:
共重合体(A1)における単量体(a)に由来する単位と単量体(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))は、20/80〜80/20が好ましく、40/60〜70/30がより好ましく、50/50〜60/40が特に好ましい。(a)/(b)が下限値以上であれば、被覆層の耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、燃料バリア性が良好となる。(a)/(b)が上限値以下であれば、電線被覆用樹脂材料の溶融流動性、被覆層の機械的特性が良好となる。
【0035】
共重合体(A1)が単量体(c)に由来する単位を有する場合、単量体(c)に由来する単位の割合は、少量であるため現状の分析技術では測定が困難である場合がある。単量体(c)に由来する単位が、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、0.3モル%以上存在すれば、測定が可能になると思われる。単量体(c)に由来する単位の測定が困難なため、後述する製造方法で得られる樹脂成分(X1)(単量体(c)に由来する単位を有する共重合体(A1)を含む。)の物性を見ながら、重合時の単量体(c)の仕込量を調整することになる。重合時の単量体(c)の仕込量は、単量体(c)の反応性によって若干変わってくるが、樹脂成分(X1)の特性を、従来の市販のETFE系共重合体の特性に比べて大きく変化させずに、ひずみ硬化度を充分大きくするためには、単量体(a)および単量体(b)の合計仕込み量100モル%に対して、0.01〜0.2モル%が好ましく、0.03〜0.15モル%がより好ましい。なお、後述するように、ひずみ硬化度の大きい樹脂成分(X1)を用いて、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整することができる。
【0036】
共重合体(A1)が単量体(d)に由来する単位を有する場合、単量体(d)に由来する単位の割合は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、0.01〜10モル%が好ましい。共重合体(A1)の特性を、従来の市販のETFE系共重合体の特性に比べて大きく変化させずに、ひずみ硬化度を充分大きくするためには、重合性炭素−炭素二重結合の数が1の単量体(d)の場合、0.01〜5モル%がより好ましく、重合性炭素−炭素二重結合の数が2の単量体(d)の場合、0.01〜1モル%がより好ましい。単量体(d)に由来する単位の割合が前記範囲よりも少ないと、共重合体(A1)のひずみ硬化度の向上の効果が少なく、前記範囲を超えると、共重合体(A1)のひずみ硬化度が大きくなりすぎる。なお、後述するように、共重合体(A1)における単量体単位の組成などを調整することにより、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整することができる。
【0037】
共重合体(A1)が単量体(e)に由来する単位を有する場合、単量体(e)に由来する単位の割合は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、0.01〜20モル%が好ましく、0.05〜15モル%がより好ましく、0.1〜10モル%がさらに好ましく、0.1〜7モル%が特に好ましい。
共重合体(A1)が単量体(e1)に由来する単位を有する場合、単量体(e1)に由来する単位の割合は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、0.1〜7モル%が好ましく、0.5〜5モル%がより好ましく、0.5〜3.5モル%がさらに好ましく、0.7〜3.5モル%が特に好ましい。
単量体(e)に由来する単位の割合が下限値以上であれば、被覆層にストレスクラック等が生じにくく、被覆層の耐久性が良好となる。単量体(e)に由来する単位の割合が上限値以下であれば、共重合体(A1)の結晶性が高くなるため、共重合体(A1)の融点が充分に高くなり、被覆層の硬度が充分に高くなる。
【0038】
(共重合体(A2))
共重合体(A2)は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位を有し、単量体(c)に由来する単位および単量体(d)に由来する単位
のいずれの単位も有さない。共重合体(A2)は、単量体(e)に由来する単位をさらに有するのが好ましい。
【0039】
単量体(a)、単量体(b)および単量体(e)としては、共重合体(A1)において例示したものと同様なものが挙げられ、単量体(a)、単量体(b)および単量体(e)の好ましい態様も共重合体(A1)と同様である。
単量体(a)に由来する単位、単量体(b)に由来する単位および単量体(e)に由来する単位の割合も、共重合体(A1)における割合と同様であり、好ましい割合も、共重合体(A1)における好ましい割合と同様である。
【0040】
共重合体(A2)のメルトフローレートは、1〜1000g/10分が好ましく、3〜500g/10分がより好ましく、5〜300g/10分が特に好ましい。メルトフローレートが下限値以上であれば、電線被覆用樹脂材料の溶融流動性が良好となる。メルトフローレートが上限値以下であれば、被覆層の機械的特性が良好となる。
メルトフローレートは、共重合体(A2)の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。メルトフローレートが大きいほど分子量が低く、小さいほど分子量が高い。共重合体(A2)のメルトフローレートは、ASTM D−3159に準じて温度が297℃、荷重が5kgの条件下で測定した、直径2mm、長さ8mmのオリフィスから10分間に流れ出す共重合体(A2)の質量である。
【0041】
(樹脂成分(X))
樹脂成分(X)は、共重合体(A)(すなわち、ETFE系共重合体)の1種以上からなり、かつ共重合体(A)の少なくとも1種が共重合体(A1)(すなわち、分岐構造を有するETFE系共重合体)である。樹脂成分(X)が共重合体(A1)を含むことによって、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を0.1以上にすることができる。樹脂成分(X)は、必要に応じて共重合体(A2)(すなわち、直鎖のETFE系共重合体)を含んでいてもよい。
すなわち、樹脂成分(X)は、共重合体(A1)の1種のみからなるものであってもよく、共重合体(A1)の1種のみと共重合体(A2)の1種のみとからなるものであってもよく、共重合体(A1)の1種のみと共重合体(A2)の2種以上とからなるものであってもよく、共重合体(A1)の2種以上と共重合体(A2)の1種のみとからなるものであってもよく、共重合体(A1)の2種以上と共重合体(A2)の2種以上とからなるものであってもよい。
【0042】
共重合体(A1)単独でも、共重合体(A1)における単量体単位の組成や分岐の長さを調整することによって樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲にすることは可能であるが、共重合体(A1)および共重合体(A2)を含む方が、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整しやすい。よって、樹脂成分(X)は、共重合体(A)の2種以上からなり、共重合体(A)の少なくとも1種が、共重合体(A1)であり、共重合体(A)の少なくとも1種が、共重合体(A2)であることが好ましい。
【0043】
樹脂成分(X)のひずみ硬化度は、0.1〜0.45であり、0.2〜0.45が好ましく、0.25〜0.45がより好ましい。樹脂成分(X)のひずみ硬化度が下限値以上であれば、電線被覆用樹脂材料の溶融成形性が良好となり、また、サーマルストレスクラック耐性に優れる被覆層を形成できる。樹脂成分(X)のひずみ硬化度が上限値以下であれば、機械的特性が良好な被覆層を形成できる。
【0044】
樹脂成分(X)のひずみ硬化度は、樹脂成分(X)への分岐構造の導入の度合いによって決まる。樹脂成分(X)への分岐構造の導入の度合いは、共重合体(A1)における単量体単位の組成や分岐の長さを調整する、または共重合体(A1)と共重合体(A2)との割合を調整することによって調整できる。共重合体(A1)と共重合体(A2)との割合を調整する方が、樹脂成分(X)への分岐構造の導入の度合いを調整しやすい。なお、樹脂成分(X)に含まれる共重合体(A1)と共重合体(A2)との割合は、現状の分析技術では測定が困難である場合がある。したがって、実際には、後述する樹脂成分(X1)または樹脂成分(X2)の製造条件(単量体の仕込量、重合条件等)を調整する、樹脂成分(X1)または樹脂成分(X2)にさらに共重合体(A2)を混合する等によって、樹脂成分(X)のひずみ硬化度が特定の範囲となるように、共重合体(A1)と共重合体(A2)との割合、すなわち樹脂成分(X)への分岐構造の導入の度合いを調整する。
【0045】
樹脂成分(X)のメルトフローレートは、1〜200g/10分であり、5〜150g/10分が好ましく、10〜100g/10分がより好ましい。樹脂成分(X)のメルトフローレートが下限値以上であれば、電線被覆用樹脂材料の溶融流動性が良好となる。樹脂成分(X)のメルトフローレートが上限値以下であれば、機械的特性が良好な被覆層を形成できる。
【0046】
樹脂成分(X)のメルトフローレートは、ASTM D−3159に準じて温度が297℃、荷重が5kgの条件下で測定した、直径2mm、長さ8mmのオリフィスから10分間に流れ出す樹脂成分(X)の質量である。
樹脂成分(X)のメルトフローレートは、樹脂成分(X)のひずみ硬化度と同様にして調整できる。
【0047】
(樹脂成分(X)の製造方法)
樹脂成分(X)は、製造方法によって下記のものに大きく分けられる。
(α)単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分(X1)。
(β)単量体(a)、単量体(b)および単量体(d)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分の存在下に、単量体(a)および単量体(b)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分(X2)。
(γ)単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分(X1)と、単量体(a)および単量体(b)を含み、単量体(c)および単量体(d)
のいずれの単量体も含まない単量体成分を重合して得られた共重合体(A2)とを混合して得られた樹脂成分(X)。
(δ)単量体(a)、単量体(b)および単量体(d)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分の存在下に、単量体(a)および単量体(b)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分(X2)と、単量体(a)および単量体(b)を含み、単量体(c)および単量体(d)
のいずれの単量体も含まない単量体成分を重合して得られた共重合体(A2)とを混合して得られた樹脂成分(X)。
【0048】
樹脂成分(X1)は、国際公開第2009/096547号に記載された製造方法によって製造できる。
樹脂成分(X2)は、国際公開第2009/096544号に記載された製造方法によって製造できる。
共重合体(A2)は、公知のETFE系共重合体の製造方法によって製造できる。
【0049】
樹脂成分(X1)または樹脂成分(X2)の製造条件(単量体の仕込量、重合条件等)を調整することによって、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整できる。樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整しやすい点からは、ひずみ硬化度が比較的大きい(たとえば0.45超の)樹脂成分(X1)または樹脂成分(X2)を得た後、これに共重合体(A2)を混合することによって、樹脂成分(X)のひずみ硬化度を特定の範囲に調整する方が好ましい。すなわち、樹脂成分(X)としては、前記(γ)の樹脂成分(X)または前記(δ)の樹脂成分(X)が好ましく、製造が容易である点から、前記(γ)の樹脂成分(X)がより好ましい。
また、樹脂成分(X1)において、重合時の単量体(a)および単量体(b)の好適な仕込み量(モル%)は、単量体(a)/単量体(b)=4/96〜98/2が好ましく、20/80〜96/4がより好ましく、25/75〜93/7がさらに好ましい。仕込み量がこの範囲であると、共重合体(A1)における単量体(a)に由来する単位と単量体(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))が前記の範囲となりやすく、被覆層の耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、燃料バリア性が良好となるとともに、電線被覆用樹脂材料の溶融流動性、被覆層の機械的特性が良好となる。
また、樹脂成分(X1)が、単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)に加えて、単量体(e)を含む単量体成分を重合して得られた樹脂成分である場合、単量体(e)の好適な仕込み量は、単量体(a)および単量体(b)の合計仕込み量100モル%に対して、0.1〜7.5モル%が好ましく、0.53〜5.4モル%がより好ましく、0.53〜3.75モル%がさらに好ましく、0.75〜3.75モル%が特に好ましい。なお、単量体(e)として、単量体(e1)を用いた場合も、仕込み量は前記の範囲が好ましい。仕込み量がこの範囲であると、共重合体(A1)において、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対する、単量体(e)の割合が前記の範囲となりやすく、被覆層にストレスクラック等が生じにくく、被覆層の耐久性が良好となるとともに、共重合体(A1)の結晶性が高くなり、共重合体(A1)の融点が十分に高くなり、被覆層の硬度が十分高くなる。
【0050】
(他の成分)
電線被覆用樹脂材料は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、他の樹脂成分、他の添加剤成分等が挙げられる。
他の樹脂成分としては、ETFE系共重合体以外の熱可塑性フッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン系共重合体、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロペン系共重合体、ポリフルオロアルキル基含有ポリシロキサン系エラストマー、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン−プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−ブデン−1系共重合体、テトラフルオロエチレン−エチルビニルエーテル系共重合体、含フッ素フォスフォニトリル系エラストマー等のフッ素共重合体等が挙げられる。
他の添加剤成分としては、顔料、紫外線吸収剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、有機過酸化物等が挙げられる。
【0051】
(機械的特性)
電線被覆用樹脂材料のMITは、10000回以上であることが好ましく、12000回以上であることがより好ましく、15000回以上であることがより好ましい。MITが前記範囲であれば、被覆層の機械的特性(特に耐折り曲げ性)が良好となる。
MITは、下記のように定義する。
電線被覆用樹脂材料を300℃で圧縮成形して得た厚さ0.220〜0.236mmのフイルムを、幅12.5mmの短冊状に打ち抜いて測定試料を得る。ASTM D−2176に準じて、荷重1.25kg、折り曲げ角度±135度、室温の条件で折り曲げ試験機MIT−D(東洋精機製作社製)を用いて測定試料の折り曲げ試験を行う。破断するまでの折り曲げ回数をMIT折り曲げ寿命とする。
【0052】
(作用効果)
以上説明した本発明の電線被覆用樹脂材料にあっては、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位を有する共重合体(A)の1種以上からなる樹脂成分(X)を含み、共重合体(A)の少なくとも1種が、単量体(c)に由来する単位または単量体(d)に由来する単位をさらに有する共重合体(A1)であり、樹脂成分(X)のひずみ硬化度が、0.1〜0.45であり、樹脂成分(X)のメルトフローレートが、1〜200g/10分であるため、サーマルストレスクラック耐性に優れ、かつ機械的特性(耐折り曲げ性等)が良好な被覆層を得ることができる。
【0053】
<電線>
本発明の電線は、本発明の電線被覆用樹脂材料からなる被覆層を有するものである。
電線としては、たとえば、芯線の表面に電線被覆用樹脂材料からなる被覆層を形成したものが挙げられる。
芯線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、銅が好ましい。芯線には、錫、銀等のメッキが施されていてもよい。
芯線の断面直径は、10μm〜3mmが好ましい。
被覆層の厚さは、5μm〜2mmが好ましい。
電線の断面直径は、20μm〜5mmが好ましい。
電線は、溶融押出成形法等の公知の方法で製造できる。
【0054】
以上説明した本発明の電線にあっては、本発明の電線被覆用樹脂材料を用いているため、被覆層がサーマルストレスクラック耐性に優れ、かつ被覆層の機械的特性(耐折り曲げ性等)が良好である。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
例3〜7は実施例であり、例1、2、8、9は比較例である。
【0056】
(樹脂成分(X1)の製造)
100Lの撹拌機付き圧力容器に、脱気後、CF
3(CF
2)
5H(以下、C6Hと記す。)の90.5kg、メタノールの0.925kg、単量体(e)であるCH
2=CH(CF
2)
4F(以下、PFBEと記す。)の0.496kg、単量体(c)であるCH
2=CH−(CF
2)
6−CH=CH
2(以下、「ジエン」と記す。)の0.030kg、単量体(a)であるテトラフルオロエチレンの11.1kgおよび単量体(b)であるエチレンの0.666kgを室温において仕込んだ。ついで66℃に昇温させ、t−ブチルペルオキシピバレート(10時間半減期温度55℃)の1質量%溶液(溶媒:C6H)の77mLを仕込み、重合を開始させた。重合の進行に伴い圧力が低下するため、圧力が一定になるように混合ガス(テトラフルオロエチレン/エチレン=54/46モル比)を連続的に仕込んだ。前記混合ガスに対して0.06モル%に相当する比率でジエンを連続的に仕込んだ。仕込んだ混合ガス量が6.66kgになった時点で内温を室温まで冷却し、未反応ガスを空放し、圧力容器を開放した。圧力容器の内容物をC6Hで洗浄し、ガラスフィルタでろ過し、乾燥させて樹脂成分(X1−1)の6.81kgを得た。
樹脂成分(X1−1)(単量体(c)に由来する単位を有する共重合体(A1)を含む。)における単量体(a)に由来する単位と単量体(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))は、54/46であり、重合時の単量体(c)の仕込量は、単量体(a)および単量体(b)の合計仕込み量100モル%に対して、0.06モル%であり、単量体(e)に由来する単位の割合は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、1.4モル%である。
【0057】
(共重合体(A2)の製造)
100Lの撹拌機付き圧力容器に、脱気後、C6Hの90.5kg、メタノールの0.925kg、PFBEの0.496kg、テトラフルオロエチレンの11.1kgおよびエチレンの0.666kgを室温において仕込んだ。ついで66℃に昇温させ、t−ブチルペルオキシピバレートの1質量%溶液(溶媒:C6H)の77mLを仕込み、重合を開始させた。重合の進行に伴い圧力が低下するため、圧力が一定になるように混合ガス(テトラフルオロエチレン/エチレン=54/46モル比)を連続的に仕込んだ。仕込んだ混合ガス量が6.66kgになった時点で内温を室温まで冷却し、未反応ガスを空放し、圧力容器を開放した。圧力容器の内容物をC6Hで洗浄し、ガラスフィルターでろ過し、乾燥させて共重合体(A2−1)の6.74kgを得た。共重合体(A2−1)のメルトフローレートは、29g/10分である。
共重合体(A2−1)における単量体(a)に由来する単位と単量体(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))は、54/46であり、単量体(e)に由来する単位の割合は、単量体(a)に由来する単位および単量体(b)に由来する単位の合計100モル%に対して、1.4モル%である。
【0058】
(例1〜9)
二軸押出機(テノベル社製、KZW15TW−45HG1100、スクリュー径:15mmΦ、L/D:45)を用い、表1に示す割合の樹脂成分(X1−1)および共重合体(A2−1)を下記条件にてペレット化して、例1の共重合体(A2)のペレットおよび例2〜9の樹脂成分(X)(すなわち電線被覆用樹脂材料)のペレットを得た。
シリンダ、ヘッドおよびダイの設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/D/H=250/260/270/280/280/280/280/280℃、
材料投入量:4.0kg/時間、
スクリュー回転数:200rpm。
【0059】
(一軸伸長粘度)
ひずみ制御型の回転レオメータ(ARES、TA Instruments社製)の伸長冶具(ARES−EVF)を用い、窒素雰囲気、温度:270℃、ひずみ速度ε
・:1.0s
−1の条件下で例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)の伸長粘度η
E+(t)を測定した。
【0060】
(せん断動的粘弾性)
ひずみ制御型の回転レオメータ(ARES、TA Instruments社製)を用い、窒素雰囲気、温度:270℃、周波数:0.01〜100rad/s、ひずみ:Strain Sweep Testでの線形範囲内の条件下で例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)のせん断動的粘弾性測定を行い、複素粘度の絶対値η(t)を得た。
【0061】
(ヘンキーひずみ)
ヘンキーひずみε(t)は、ひずみ速度ε
・と時間tの積によって得られる。
【0062】
(ひずみ硬化度)
一軸伸長粘度測定で得られた非線形領域における伸長粘度η
E+(t)、せん断動的粘弾性で得られた複素粘度の絶対値から算出した線形領域における伸長粘度3η(t)、およびヘンキーひずみε(t)に基づき、前記式(1)〜(2)から例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)のひずみ硬化度SHを求めた。結果を表1に示す。
【0063】
(メルトフローレート)
メルトインデクサー(テクノセブン社製)を用い、ASTM D−3159に準じて温度:297℃、荷重:5kgの条件下で、直径:2mm、長さ:8mmのオリフィスから10分間に流れ出す例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)の質量を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(MIT)
例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)からなる幅:12.5mm、厚さ:0.220〜0.236mmの短冊状の測定試料を作製し、ASTM D−2176に準じて、折り曲げ試験機MIT−D(東洋精機社製)を用い、荷重:1.25kg、折り曲げ角度:±135度、室温の条件で、測定試料の折り曲げ試験を行った。破断するまでの折り曲げ回数をMIT折り曲げ寿命とした。結果を表1に示す。
【0065】
(サーマルストレスクラック耐性)
断面直径:1.8mmの銅の芯線に、例1の共重合体(A2)および例2〜9の樹脂成分(X)を用いて溶融押出成形によって厚さ:0.5mmの被覆層を形成した電線を複数本作製した。各電線を、オーブンにより180℃、185℃、190℃、195℃、200℃、205℃、210℃、215℃の各温度で96時間熱処理(以下、「熱処理A」と記す。)した。その後、該電線の一部を折り返し、折り返した部分を電線自身に8回転以上巻きつけてその状態で固定した。各電線を、さらにオーブンにより200℃で1時間熱処理した後、該電線の状態を確認した。それぞれの温度で熱処理Aを行う場合について5本の電線の試験を行い、それぞれの温度での、全ての電線に対するクラックの入った電線数の割合(%)の和からなるSを計算し、下式(6)からストレスクラック温度Tb(単位:℃)を算出した。
Tb=Th−△T(S/100−1/2) ・・・(6)
ただし、Thは全ての電線がクラック破壊した場合の熱処理Aの温度における最も高い温度であり、△Tは、熱処理Aの試験温度の間隔(℃)であり、本実施例では5℃であり、Sは、全ての電線でクラック破壊が起きない場合における熱処理Aの温度が最低の場合から、熱処理Aの温度がThの場合までのクラック破壊の百分率の総和である。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す結果から、ひずみ硬化度が0.1〜0.45である例3〜7の樹脂成分(X)(電線被覆用樹脂材料)の測定試料は、ひずみ硬化度が0.1未満である例1の共重合体(A2)や例2の樹脂成分(X)の測定試料に比べ、機械的特性(耐折り曲げ性)が低下しているものの、ひずみ硬化度が0.45超である例8、9の樹脂成分(X)(電線被覆用樹脂材料)の測定試料に比べ、機械的特性(耐折り曲げ性)が良好であることがわかる。
また、ひずみ硬化度が0.1以上である例3〜7の樹脂成分(X)(電線被覆用樹脂材料)からなる被覆層は、ひずみ硬化度が0.1未満である例1の共重合体(A2)や例2の樹脂成分(X)からなる被覆層に比べ、ストレスクラック温度に優れていることがわかる。なお、例8、9の樹脂成分(X)はメルトフローレートが低すぎるため、溶融押出成形によって電線の被覆層を形成できなかった。