(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ光を出力するレーザ光源と、制御部から出力される駆動信号に基づいて前記レーザ光源から出力されたレーザ光を切り出してパルス光を出力する強度変調型の電気光学変調器とを備えたパルスレーザ装置であって、
前記電気光学変調器を透過する前記レーザ光の透過率が最小となるときの前記電気光学変調器に印加する電圧をV0とし、前記レーザ光の透過率が最大となるときの前記電気光学変調器に印加する電圧と電圧V0との間の電圧の大きさをVπとしたときに、
前記制御部は、
前記レーザ光源の光出力がオンのときに、前記電気光学変調器に印加する電圧が前記電圧V0を基準として2Vπ変化する駆動信号を前記電気光学変調器に出力して、前記パルス光を出力させ、
前記レーザ光源の光出力がオフのときに、前記電気光学変調器に印加する電圧を前記2Vπ変化した状態から前記電圧V0に戻して前記電気光学変調器に出力する、パルスレーザ装置。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザ装置は、例えば顕微鏡や形状測定装置、露光装置、検査装置などのレーザシステムの光源として用いられている。パルスレーザ装置が出力するパルス光の波長は、組み込まれるシステムの用途及び機能に応じて設定される。例えば、半導体露光装置や液晶露光装置では、波長が193nmのパルス光を出力するパルスレーザ装置や、波長が355nmのパルス光を出力するパルスレーザ装置などが用いられる。レーザ光源で発生するレーザ光の波長や、増幅器の有無及び段数、波長変換部を設ける場合の波長変換光学素子の組み合わせ等は、レーザシステムの用途や機能等に応じて設定される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
パルスレーザ装置においてパルス光を発生させる手段の一つとして、レーザ光源から出力されたレーザ光の一部を強度変調型の電気光学変調器により切り出して出力する手法がある。この手法を実施するパルスレーザ装置LS9の概要構成を
図16に示す。パルスレーザ装置LS9は、レーザ光を出力するレーザ光源911と、レーザ光源911から出力されたレーザ光の一部を切り出してパルス光を出力する強度変調型の電気光学変調器(Electro Optic Modulator:EOM)912とを備えて構成される(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
図17に、強度変調型の電気光学変調器(以下、EO強度変調器と表記する)912の動作特性例を示す。
図17における横軸はEO強度変調器912に印加する印加電圧、縦軸は0〜1に正規化したEO強度変調器912の透過率である。例示した動作特性のEO強度変調器912では、最小透過率になる電圧V
0が2,10,18…[V]、電圧V
0から最大透過率になるまでの電圧V
πが4[V]である。すなわち、EO強度変調器912への印加電圧をV
0(2,10,18…[V])にしたときに透過率が0、印加電圧をV
0±V
π(6,14…[V])にしたときに透過率が1になる。
【0005】
そこで、従来のパルスレーザ装置は、EO強度変調器912への印加電圧をV
0〜V
0±V
πで変化させることにより、レーザ光源911から出力されたレーザ光の一部を切り出してパルス光を出力するように構成されていた。
図18に、従来のパルスレーザ装置におけるパルス光発生のタイミングチャートを示す。
図18における、(a)はEO強度変調器912に入射するレーザ光のオン/オフ状態、(b)はEO強度変調器912への印加電圧、(c)はEO強度変調器912から出力される光パルスのオン/オフ状態である。
【0006】
図示のように、光パルスを出力しない期間は電圧V
0をEO強度変調器912に印加しておき、光パルスを出力するときに電圧V
0を基準として振幅がV
πの電気パルスをEO強度変調器912に印加する。これにより、最大透過率に対応する強度振幅の光パルスが出力される。このとき得られる光パルスの時間幅は、概ねEO強度変調器912に印加した電気パルスの時間幅に等しくなる。すなわち、従来のパルスレーザ装置におけるパルス光発生方法は、EO強度変調器912に印加する電気パルス波形≒パルスレーザ装置LS9から出力される光パルス波形の関係にあった。なお、電気パルスの振幅をV
πとしたが、これは光パルスの強度振幅を最大化するためであり、V
0〜V
0+V
π間で適宜に設定される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明の態様として例示するパルスレーザ装置LSの概要構成図を
図3に示す。パルスレーザ装置LSは、パルス状のシード光を出力するレーザ光発生部1と、レーザ光発生部1から出力されたシード光を増幅する増幅部2と、増幅部2から出力された増幅光を波長変換する波長変換部3と、これら各部の作動を制御する制御部8とを備えて構成される。
【0014】
レーザ光発生部1や増幅部2、波長変換部3の具体的な構成は、既述した先行技術文献等に開示されているように多種多様な構成形態がある。本実施形態においては、レーザ光発生部1から出力するシード光を波長1064nmの赤外光、波長変換部3から出力する出力光を波長355nmの紫外光とした場合を例として説明する。
【0015】
レーザ光発生部1は、レーザ光源11とEO強度変調器12とを備えて構成される。レーザ光源11は、発振波長が1064nmでCWまたはパルス状のレーザ光を発生する光源であり、半導体レーザやファイバレーザ、モードロックレーザなどが例示される。本実施形態ではレーザ光源11として、発振波長が1064nmのDFB(Distributed Feedback)半導体レーザを用いた構成を例示する。レーザ光源11の作動は制御部8から出力されるレーザ光源駆動信号により制御される。
【0016】
EO強度変調器12は、レーザ光源11から出力されたレーザ光の一部を切り出してパルス状のシード光を出力する強度変調型の電気光学変調器であり、例えば、LiNbO
3を用いたマッハツェンダ型の強度変調器が好適に用いられる。EO強度変調器12の作動は制御部8から出力される強度変調器駆動信号により制御される。EO強度変調器12から出射したシード光はレーザ光発生部1から出力され増幅部2に入射する。
【0017】
増幅部2は、レーザ光発生部1から出力されたシード光を増幅するファイバ増幅器21を備えて構成される。波長1064nmのシード光を増幅するファイバ増幅器21として、波長1000〜1100nmの帯域に利得を有するイッテルビウム・ドープ・ファイバ増幅器(YDFA)を好適に用いることができる。ファイバ増幅器(YDFA)21は、コアにイッテルビウム(Yb)がドープされた増幅用ファイバ21aと、増幅用ファイバに励起光を供給する励起光源21bとを主体として構成される。ファイバ増幅器21の作動は、制御部8から励起光源21bに出力される励起光源駆動信号により制御される。
【0018】
増幅部2に入射したシード光はファイバ増幅器21によって増幅され、増幅光となって増幅部2から出力される。なお、
図3では、増幅部2にファイバ増幅器21を単段で設けた構成を示したが、例えばシングルクラッドのファイバ増幅器を複数直列に接続し、あるいはシングルクラッドのファイバ増幅器とダブルクラッドのファイバ増幅器を直列に接続する等、複数のファイバ増幅器を直列に接続して増幅部2を構成することができる。増幅部2から出力された波長1064nmの増幅光は波長変換部3に入射する。
【0019】
波長変換部3には、増幅部2から出力された増幅光が伝播する波長変換光学系30が設けられている。例示する波長変換光学系30は、波長変換光学素子31と波長変換光学素子32とを主体とし、図示省略するレンズや波長板等を有して構成される。波長変換部3に入射した増幅光は、レンズを介して波長変換光学素子31に入射する。
【0020】
波長変換光学素子31は、第2高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)により、増幅光の第2高調波を発生させるための非線形光学結晶である。波長変換光学素子31として、LBO(LiB
3O
5)結晶やBBO(β-BaB
2O
4)結晶等のバルク結晶、あるいはPPLN(Periodically Poled LiNbO
3)結晶やPPLT(Periodically Poled LiTaO
3)結晶等の疑似位相整合(QPM:Quasi Phase Matching)結晶を用いることができる。波長変換光学素子31に入射した増幅光はこの光学素子を透過する過程で波長変換され、波長が532nmの第2高調波が発生する。波長変換光学素子31で発生した波長532nmの第2高調波と、波長変換光学素子31を波長変換されずに透過した波長1064nmの基本波は波長変換光学素子32に入射する。
【0021】
波長変換光学素子32は、波長変換光学素子31で発生した波長532nmの第2高調波と、波長変換光学素子31を透過した波長1064nmの基本波とから、和周波発生(SFG:Sum Frequency Generation)により増幅光の第3高調波を発生させるための非線形光学結晶である。波長変換光学素子32としては、LBO結晶やBBO結晶、CLBO(CsLiB
6O
10)結晶等を用いることができる。波長変換光学素子32に入射した増幅光の基本波及び第2高調波はこの光学素子を透過する過程で波長変換され、波長が355nmの第3高調波が発生する。波長変換部3の出力段には、増幅光の第3高調波である波長355nmの紫外光を波長変換部から出力し、これよりも長波長の光を除去する分離素子(不図示)が設けられている。これにより、波長変換部3に入射した増幅光は波長変換光学素子31,32により波長変換され、増幅光の第3高調波である波長355mmのパルス光(紫外光)Lvがパルスレーザ装置から出力される。
【0022】
制御部8は、パルス制御回路80、レーザ光源駆動回路81、強度変調器駆動回路82、ファイバ増幅器駆動回路83などを備えて構成される。パルス制御回路80はクロックを基準とし、外部入力される駆動情報(例えば光パルスの繰り返し周期やパルス幅、出力光のパワーなど)に基づいて各駆動回路に所定波形の制御信号を出力する。レーザ光源駆動回路81は、パルス制御回路80から出力された制御信号に基づいてレーザ光源11の駆動に適応した信号レベルのレーザ光源駆動信号を生成しレーザ光源11を駆動する。強度変調器駆動回路82は、パルス制御回路80から出力された制御信号に基づいてEO強度変調器12の駆動に適応した信号レベルの強度変調器駆動信号を生成し強度変調器12を駆動する。ファイバ増幅器駆動回路83はパルス制御回路80から出力された制御信号に基づいて励起光源21bの駆動に適応した信号レベルの励起光源駆動信号を生成し励起光源21bを駆動する。
【0023】
以上のように概要構成されるパルスレーザ装置LSにおいて、レーザ光発生部1から出力するパルス光の制御部8による制御について、以下詳細に説明する。パルスレーザ装置LSにおいては、制御部8は、EO強度変調器12を透過するレーザ光の透過率が最小となるときのEO強度変調器に印加する電圧をV
0とし、電圧V
0からレーザ光の透過率が最大になるまでの電圧をV
πとしたときに、強度変調器駆動回路82から電圧がV
0を基準として2V
π変化する強度変調器駆動信号をEO強度変調器12に出力してパルス光を出力させる。例えば、この駆動信号は、電圧V
0とV
0+2V
πとの間で変化する駆動信号、あるいは電圧V
0とV
0−2V
πとの間で変化する駆動信号などである。電圧V
0を基準として電圧2V
πの大きさ(すなわち、V
0+2V
πまたはV
0−2V
π)を含む電圧の範囲でEO強度変調器に電圧を印加すれば良い。なお、電圧V
0から透過率が最大になるまでの電圧V
πは、半波長電圧と呼んでも良い。また、透過率が最大になるようにEO強度変調器12に印加する電圧V
0+V
πを、基準電圧と呼んでよい。
【0024】
EO強度変調器12に印加する電圧をV
0を基準として2V
π変化させることによってレーザ光源11から出力された光の一部を切り出し、光パルスを発生させることが可能であることを、
図1及び
図2を参照して次に説明する。すなわち、強度変調型の電気光学変調器(EO強度変調器)を、電圧V
0を基準として2V
π変化する駆動信号によって駆動した場合の作用について、
図1を参照して説明する。
図1は、EO強度変調器に印加する印加電圧を時間的に変化させたときの透過率変化を示したグラフである。
図1における縦軸は左側がEO強度変調器への印加電圧、右側が0〜1に正規化したEO強度変調器の透過率、横軸は時間であり、図中に破線で印加電圧の時間波形、実線で透過率の時間波形を記載している。なお、EO強度変調器の動作特性(印加電圧と透過率との関係)は
図17に示したものと同じである。すなわち、EO強度変調器の透過率が最小になる電圧V
0は2,10,18…[V]、電圧V
0から透過率が最大になるまでの電圧V
πは4[V]である。そのため、EO強度変調器への印加電圧が2[V]のとき及び10[V]のときに透過率が最小になり、印加電圧がV
0±V
πである6[V]のときに透過率が最大になる。
【0025】
図1中に点線で示すように、EO強度変調器に印加する電圧をV
0=2[V]を基準として2V
π(=8[V])増加方向に変化させると、印加電圧が2[V]の最小透過率の状態から、印加電圧の増加とともに透過率が増加してV
0+V
πである6[V]で最大透過率になり、以降は印加電圧の増加に対して透過率が減少してV
0+2V
πである10[V]で再び最小透過率の状態になる。このときEO強度変調器によって切り出される光パルス波形はEO強度変調器の透過率波形と略同一である。従って、EO強度変調器に印加する電圧をV
0から2V
π変化させることによりパルス光を発生させることができる。
【0026】
図2に、EO強度変調器を電圧がV
0と2V
πとの間で周期的に変化する駆動信号(図では正弦波状の駆動信号)により駆動した場合の透過率変化のグラフを示す。
図2における縦軸及び横軸は
図1と同様である。すなわち、縦軸は左側がEO強度変調器への印加電圧、右側が0〜1に正規化したEO強度変調器の透過率、横軸は時間であり、図中に破線で印加電圧の時間波形、実線で透過率の時間波形を記載している。図示するように、EO強度変調器に印加する電圧をV
0=10[V]を基準として2V
π(=8[V])減少方向に変化させると、印加電圧が10[V]の最小透過率の状態から、印加電圧の減少に対して透過率が増加してV
0−V
πである6[V]で最大透過率になり、以降は印加電圧の減少とともに透過率が減少してV
0−2V
πである2[V]で再び最小透過率の状態になる。印加電圧が2[V]から2V
π増加方向に変化して10[V]になる場合については、
図1を参照して説明したのと同じである。
図2から、印加電圧を1周期分変化させると2つの光パルスが発生することが分かる。発生する光パルスの時間幅は2V
πの電圧変化の遷移時間で規定され、0.5V
π〜1.5V
πの変化時間が光パルスの半値全幅になる。次に、制御部8によるより具体的な制御形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
(第1の制御形態)
制御部8による第1の制御形態を説明するためのタイミングチャートを
図4に示す。
図4における(a)はレーザ光源駆動回路81からレーザ光源11に出力されるレーザ光源駆動信号のオン/オフ状態(レーザ光源11から出力されるレーザ光のオン/オフ状態)、(b)は強度変調器駆動回路82からEO強度変調器12に出力される強度変調器駆動信号の電圧状態、(c)はEO強度変調器12から出力される光の状態である。
【0028】
第1の制御形態では、制御部8は、レーザ光発生部1からパルス光を出力する期間中、EO強度変調器12にレーザ光が継続して入射するようにレーザ光源11を駆動し、レーザ光源11からレーザ光を出力させる(a)。制御部8は、周波数がfで電圧がV
0とV
0+2V
πとの間で周期的に変化する強度変調器駆動信号によりEO強度変調器12を駆動する(b)。
図4には強度変調器駆動回路82から出力される強度変調器駆動信号の一例として正弦波状の信号を例示する。このときEO強度変調器12から出力される光は、光パルスが周波数2fで繰り返されるパルス光になる(
図2を併せて参照)。また、強度変調器駆動信号の電気パルス波形と光パルス波形とを1:1で対応させていた従来の光パルス発生方法と比較して、時間幅が1/2以下の光パルスを発生させることができる。その理由を以下に説明する。
第1の実施形態では、EO強度変調器12に印加する電圧は正弦波状であり、かつ、電圧がVoとVo+2V
πとの間で周期的に変化するように設定されている。このため、EO強度変調器12を透過するレーザ光の透過率は、印加された電圧がVo+V
πで最大値となり、電圧がそれより高くても、あるいは低くても、透過率は最大値よりも小さくなる。その結果、EO強度変調器12を透過するレーザ光は、印加する電圧がVoのときにピークを持つパルス光となる。この場合、EO強度変調器12に印加する電圧Vは正弦波状なので、その時間微分、すなわち印加電圧の時間に対する変化率dV/dtは、電圧がV=Vo+V
πのときに最大となり、このとき、透過率の変化速度(増大または減少する速度)は最も速くなる。
従って、第1の実施形態によれば、透過率が最大、すなわち透過光のピークが得られる電圧において、dV/dtが最大となるように設定されているため、透過光のパルス幅を小さくすることができる。
これに対して、EO強度変調器に印加する電圧をVoとVo+πの間で変化する正弦波状としたときには、透過率最大が得られるときの電圧は正弦波状の信号の最大電圧であって、このときdV/dt=0であり、透過率の変化速度が小さくなるので、パルス幅が小さいパルス光は得られない。
【0029】
制御部8は、例えばキー入力やダイヤル設定等により、強度変調器駆動信号の周波数fを適宜な範囲で調整設定可能に構成される。そのため、強度変調器駆動信号の周波数を調整することにより、EO強度変調器12に印加する電圧がV
0と2V
πとの間で変化する遷移時間を調整することができ、これにより光パルスの時間幅を調整することができる。
【0030】
以上では、強度変調器駆動信号の一例として波形が正弦波状の信号を示したが、強度変調器駆動信号は電圧がV
0を基準として2V
π変化するものであればよい。
図5及び
図6に、
図4と異なる波形の強度変調器駆動信号によってEO強度変調器12を駆動した場合のタイミングチャートを示す。
図5は三角波の場合、
図6は矩形波の場合である。なお、理解容易のため、
図6では矩形波の立ち上がり/立ち下がりを緩やか(波形を台形状に)に表示している。両図における(a),(b),(c)は
図4の(a),(b),(c)と同様であり、(a)はレーザ光源駆動信号のオン/オフ状態(レーザ光源11から出力されるレーザ光のオン/オフ状態)、(b)は強度変調器駆動信号の電圧状態、(c)はEO強度変調器12から出力される光の状態である。
【0031】
図5及び
図6から、強度変調器駆動信号の波形が正弦波の場合と同様に、強度変調器駆動信号の周波数fに対して2倍の周波数2fで光パルスが発生することが分かる。一方、
図4〜
図6における各(c)を対比すると、EO強度変調器12から出力される光パルスのパルス波形、特に光パルスの時間幅(パルス幅)が相違する。例えば、強度変調器駆動信号の波形(信号波形)が三角波の場合には、パルス幅は信号波形が正弦波の場合よりも幾分大きくなっている。一方、信号波形が矩形波の場合には、パルス幅は信号波形が正弦波の場合よりも大幅に小さくなっている。
【0032】
これは以下の理由による。まず、信号波形が三角波の場合には、EO強度変調器12に印加される電圧がV
0から2V
π変化する遷移時間は正弦波の場合と同じである。しかし、EO強度変調器12において透過率が最大になる電圧V
πを挟む領域の信号の傾きは正弦波と三角波で異なり、0.5V
π〜1.5V
π間での変化時間は正弦波よりも三角波の方が大きく(長く)なる。そのため、パルス幅は、信号波形が三角波の場合の方が正弦波の場合よりも幾分大きくなる。強度変調器駆動信号の波形が矩形波の場合には、電圧がV
0から2V
π変化する遷移時間及び0.5V
π〜1.5V
π間での変化時間がともに正弦波よりも大幅に小さい。そのため、パルス幅は、信号波形が矩形波や台形波の場合の方が正弦波の場合よりも大幅に小さくなる。
【0033】
以上から、EO強度変調器12から出力する光パルスのパルス幅は、強度変調器駆動信号の周波数(繰り返し周期)のみならず、その信号波形を変化させることによっても調整設定可能であることが理解される。そのため、制御部8において、強度変調器駆動信号を複数の信号波形から選択可能とすることによって、光パルスのパルス幅を調整設定可能に構成することができる。
【0034】
また、強度変調器駆動信号の信号波形を矩形波とした場合において、電圧がV
0から2V
π変化する遷移時間、すなわち矩形波における立ち上がり/立ち下がり時間を調整可能とすることにより、光パルスのパルス幅を調整設定可能に構成することもできる。この場合、光パルスのパルス幅は、強度変調器駆動信号の周波数とは別個独立して任意に設定する事ができる。例えば、周波数を100MHz(繰り返し周期10nsec)とした矩形波状の強度変調器駆動信号において、立ち上がり/立ち下がり時間を調整することにより、数十〜数百psec程度の時間幅で光パルスのパルス幅を任意に調整設定することができる。発明者らは、簡易的な実験のなかでパルス幅が25〜100psecの光パルスを発生させることができた。このパルス幅(25psec)は、同様の装置構成で従来のパルス光発生方法により光パルスを発生させた場合の最小パルス幅の約1/4である。
【0035】
なお、パルス幅が小さい光パルスを発生させる他の手法として、半導体レーザのゲインスイッチング(gain switching)動作を利用した光パルスの発生方法がある。しかしながら、この手法ではサイドローブが無い綺麗な波形の光パルスを得ることが難しいことに加えて、発生する光のスペクトル帯域幅が広いという問題がある。本発明のパルス光発生方法においては、強度変調器駆動信号の波形を制御することにより光パルスの波形を容易にコントロールすることができ、且つスペクトル帯域幅がフーリエ限界に近い狭帯域のパルス光を出力することができる。
【0036】
このように、以上説明した制御形態のパルスレーザ装置によれば、背景技術の項で説明した従来のパルスレーザ装置と同様の簡明な装置構成で、スペクトル帯域幅が狭く時間幅が小さいパルス光を容易に発生させることができる。
【0037】
(第2の制御形態)
次に、制御部8による第2の制御形態について
図7及び
図8を参照して説明する。この制御形態では、レーザ光源11とEO強度変調器12とが制御部8により同期制御され、レーザ光源11の光出力がオンの状態に対する強度変調器駆動信号の電圧が2V
π変化するタイミングを相対的に変化させることにより、強度変調器駆動信号の立ち上がり時及び立ち下がり時のいずれか一方においてEO強度変調器12がレーザ光の一部を切り出す。
図7及び
図8における(a),(b),(c)は
図4〜
図6と同様であり、(a)はレーザ光源駆動信号のオン/オフ状態、(b)は強度変調器駆動信号の電圧、(c)はEO強度変調器12から出力される光の状態である。
【0038】
まず、
図7を参照して本制御形態の第1の態様について説明する。本態様では、レーザ光源11及びEO強度変調器12は制御部8により同じ繰り返し周期でオン/オフ制御される。例えば、レーザ光源駆動回路81からレーザ光源11に繰り返し周期が10nsec(周波数100MHz)でオン時間が1nsec程度のレーザ光源駆動信号が出力され(
図7(a))、レーザ光源11からレーザ光源駆動信号とほぼ同じ波形のパルス状のレーザ光が出力される。また、強度変調器駆動回路82から繰り返し周期が10nsecで電圧V
0+2V
πの時間が1nsec程度の矩形波状の強度変調器駆動信号がEO強度変調器12に出力される(
図7(b))。但し、
図7(a)(b)から分かるように、レーザ光源11がオンになるタイミングと、EO強度変調器12の印加電圧がV
0+2V
πになるタイミングとが相対的にずれている。
【0039】
制御部8は、レーザ光源11の光出力がオンのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0からV
0+2V
πに変化し、レーザ光源11の光出力がオフのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0+2V
πからV
0に戻るように、レーザ光源駆動信号と強度変調器駆動信号の相対的なタイミングを設定する。具体的には、パルス制御回路80からレーザ光源駆動回路81に出力する制御信号と、パルス制御回路80から強度変調器駆動回路82に出力する制御信号のタイミングが図示のように設定される。このとき、繰り返し周期が10nsecでパルス幅が例えば25psecの光パルスが周期的に繰り返されるパルス光がEO強度変調器12から出力される。このパルス光は、強度変調器駆動信号における信号波形の立ち上がり時に切り出された光パルスのみで構成される。
【0040】
図8は、本制御形態における第2の態様のタイミングチャートである。本態様は、
図7(a)(b)と
図8(a)(b)とを対比して明らかなように、レーザ光源11がオンになるタイミングと、EO強度変調器12の印加電圧が2V
π変化するタイミングの関係を
図7の例と逆にした構成例である。
【0041】
すなわち、本態様においては、制御部8は、レーザ光源11の光出力がオフのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0からV
0+2V
πに変化し、レーザ光源の光出力がオンのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0+2V
πからV
0に戻るように、レーザ光源駆動信号と強度変調器駆動信号の相対的なタイミングを設定する。具体的には、パルス制御回路80からレーザ光源駆動回路81及び強度変調器駆動回路82に出力する2つの制御信号のタイミングにより設定される。このとき、繰り返し周期が10nsecでパルス幅が例えば25psecの光パルスが周期的に繰り返されるパルス光がEO強度変調器12から出力される。このパルス光は、強度変調器駆動信号における信号波形の立ち下がり時に切り出された光パルスのみで構成される。
【0042】
一般的に、簡明な回路構成の駆動電源で信号波形が矩形波の駆動信号を生成する場合、形状が同じ矩形波を繰り返し出力することは比較的容易である一方、各矩形波における立ち上がり部分の波形(立ち上がり時間)と立ち下がり部分の波形(立ち下がり時間)とを同一にすることは難しい。そのため、
図7及び
図8に示したように、強度変調器駆動信号の信号波形における立ち上がり時及び立ち下がり時のいずれか一方においてEO強度変調器12がレーザ光の一部を切り出すような構成によれば、従来のパルスレーザ装置と同様の簡明な装置構成で、パルス幅が小さく且つパルス波形が均一な光パルスのみで構成されたパルス光を出力することができる。
【0043】
なお、上記信号波形における立ち上がり時と立ち下がり時の変化時間の相違を利用し、制御部8において立ち上がり時にパルス光を出力する場合と立ち下がり時にパルス光を出力する場合とを選択設定可能とし、これによりパルス幅が異なるパルス光を選択して出力するように構成してもよい。
【0044】
(第3の制御形態)
次に、制御部8による第3の制御形態について
図9を参照して説明する。この制御形態では、上述した第2の制御形態と同様に、レーザ光源11とEO強度変調器12とが同期制御され、レーザ光源11の光出力がオンの状態と強度変調器駆動信号の電圧が2V
π変化するタイミングを相対的に変化させることによって、EO強度変調器12から出力されるパルス光のオン/オフが制御される。
図9(I)はパルス光がオンの状態、(II)はパルス光がオフの状態を示す。両図における(a),(b),(c)は
図4〜
図8と同様であり、(a)はレーザ光源駆動信号のオン/オフ状態、(b)は強度変調器駆動信号の電圧、(c)はEO強度変調器12から出力される光の状態である。
【0045】
レーザ光源11及びEO強度変調器12は同じ繰り返し周期でオン/オフ制御される。例えば、制御部8からレーザ光源11に繰り返し周期が10nsecでオン時間が1nsec程度のレーザ光源駆動信号が出力され、レーザ光源11からレーザ光源駆動信号とほぼ同じ波形のパルス状のレーザ光が出力される。また、制御部8から繰り返し周期が10nsecで電圧V
0+2V
πの時間が1nsec程度の強度変調器駆動信号がEO強度変調器12に出力される。
【0046】
EO強度変調器12からパルス光を出力する場合(パルス光オンの場合)、制御部8は、レーザ光源11の光出力がオンのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0を基準として2V
π変化し、レーザ光源11の光出力がオフのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0に戻るように制御する。具体的には、パルス制御回路80からレーザ光源駆動回路81及び強度変調器駆動回路82に出力する2つの制御信号のタイミングにより設定される。例えば
図9(I)に示すように、制御部8は、レーザ光源11の光出力がオンのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0からV
0+2V
πに変化し、レーザ光源11の光出力がオフのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0+2V
πからV
0に戻るように、レーザ光源駆動信号と強度変調器駆動信号の相対的なタイミングを設定する。このとき、EO強度変調器12から繰り返し周期が10nsecでパルス幅が例えば25psecの光パルスが周期的に繰り返されるパルス光が出力される。
【0047】
EO強度変調器12からパルス光を出力しない場合(パルス光オフの場合)には、
図9(II)に示すように、制御部8は、レーザ光源11の光出力がオンのときに強度変調器駆動信号の電圧が変化せず、レーザ光源11の光出力がオフのときに強度変調器駆動信号の電圧がV
0を基準として2V
π変化するように、レーザ光源駆動信号と強度変調器駆動信号の相対的なタイミングをオフセット設定する。具体的には、パルス制御回路80からレーザ光源駆動回路81及び強度変調器駆動回路82に出力する2つの制御信号のタイミングにより設定される。このとき、EO強度変調器12からパルス光は出力されない。
【0048】
上記のように、パルス光のオン/オフは、パルス制御回路80からレーザ光源駆動回路81及び強度変調器駆動回路82に出力する2つの制御信号の相対的なタイミングを変化させるだけで実現されるため、光パルスの1パルス単位で高速にパルス光をオン/オフすることができる。従って、このような制御形態によれば、2つの駆動信号の相対的なタイミングを変化させる簡明な手法で、EO強度変調器12から出力するパルス光を高速にオン/オフすることができる。
【0049】
なお、以上説明した実施形態では、光パルスを発生させる際に、EO強度変調器12に印加する電圧をV
0を基準としてから2V
π変化させるとしたが、印加電圧の変化量は2nV
π(nは1以上の整数)とすることができる。すなわち、本実施形態ではn=1の場合を説明したが、nを2以上としても良い。また、以上説明した実施形態では、レーザ光発生部1から波長1064nmのシード光を出力し、波長変換部3の二つの波長変換光学素子31,32で波長355nmの紫外光に波長変換して出力する構成を例示したが、シード光の波長帯域や波長変換光学素子の個数及び配置、出力光の波長等は任意であり、公知の種々の構成に適用できる。
【0050】
以上説明したようなパルスレーザ装置LSは、小型軽量であるとともに取り扱いが容易であり、露光装置や光造形装置等の光加工装置、フォトマスクやウェハ等の検査装置、顕微鏡や望遠鏡等の観察装置、測長器や形状測定器等の測定装置、光治療装置などのシステムに好適に適用することができる。
【0051】
パルスレーザ装置LSを備えたシステムの第1の適用例として、半導体製造や液晶パネル製造のフォトリソグラフィ工程で用いられる露光装置について、その概要構成を示す
図10を参照して説明する。露光装置500は、原理的には写真製版と同じであり、石英ガラス製のフォトマスク513に精密に描かれたデバイスパターンを、フォトレジストを塗布した半導体ウェハやガラス基板などの露光対象物515に光学的に投影して転写する。
【0052】
露光装置500は、上述したパルスレーザ装置LSと、照明光学系502と、フォトマスク513を保持するマスク支持台503と、投影光学系504と、露光対象物515を保持する露光対象物支持テーブル505と、露光対象物支持テーブル505を水平面内で移動させる駆動機構506とを備えて構成される。照明光学系502は複数のレンズ群からなり、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を、マスク支持台503に保持されたフォトマスク513に照射する。投影光学系504も複数のレンズ群により構成され、フォトマスク513を透過した光を露光対象物支持テーブル上の露光対象物515に投影する。
【0053】
露光装置500においては、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光が照明光学系502に入力され、所定光束に調整されたパルス光がマスク支持台503に保持されたフォトマスク513に照射される。フォトマスク513を通過した光はフォトマスク513に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系504を介して露光対象物支持テーブル505に保持された露光対象物515の所定位置に照射される。これにより、フォトマスク513のデバイスパターンの像が、半導体ウェハや液晶パネル等の露光対象物515の上に所定倍率で結像露光される。
【0054】
パルスレーザ装置LSを備えたシステムの第2の適用例として、可変成形マスクを用いた露光装置について、その概要構成を示す
図11を参照して説明する。この露光装置550は、フォトマスクに変えて可変成形マスクを備える点を除いて、基本的には、上述した第1構成形態の露光装置500と同様であり、可変成形マスクにより生成された任意パターンの像をフォトレジストを塗布したガラス基板や半導体ウェハなどの露光対象物565に光学的に投影して転写する(例えば、本出願人に係る特許第5211487号公報、特開2012−54500号公報、特開2011−49296号公報等を参照)。
【0055】
露光装置550は、既述したパルスレーザ装置LSと、照明光学系552と、可変成形マスク563と、投影光学系554と、露光対象物565を保持する露光対象物支持テーブル555と、露光対象物支持テーブル555を水平面内で移動させる駆動機構556とを備えて構成される。照明光学系552は複数のレンズ群からなり、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を、ミラー553を介して可変成形マスク563に照射する。投影光学系554も複数のレンズ群により構成され、可変成形マスク563を介して生成された任意パターンの光を露光対象物支持テーブル555に保持された露光対象物565に投影する。
【0056】
可変成形マスク563は、複数の可動ミラーを有して任意パターンの反射光を生成可能に構成され、例えば
図12に示すように、可動ミラー563aがm行×n列にわたって次元的に配列されたDMD(Digital Micromirror DeviceまたはDeformable Micromirror Device)が好適に用いられる。
図13にDMDの一部を拡大した斜視図を示すように、各可動ミラー563a,563a,…は、入出射面と直交方向に延びる軸J回りに各々独立して回動可能に設けられており、図示省略するDMD駆動装置によって各可動ミラーがオン位置とオフ位置とに切り換え制御される。
【0057】
可動ミラー563aがオン位置に設定されたときには、照明光学系552から出射して当該可動ミラー563aで反射された光は、投影光学系554に入射して露光対象物565の露光面に結像する。一方、可動ミラー563aがオフ位置に設定されたときには、照明光学系552から出射して当該可動ミラー563aで反射された光は投影光学系554に入射せず、光路上に設けられたダンパにより吸収される。そのため、所定座標位置の可動ミラーをオン位置、他の座標位置の可動ミラーをオフ位置に設定することにより、任意パターンの光を生成して露光することができる(前記の特許等を参照)。
【0058】
露光装置550においては、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光が照明光学系552に入力され、所定光束に調整されたパルス光がミラー553を介して可変成形マスク563に照射される。可変成形マスク563に入射した光は所定パターンに変換されて投影光学系554に入射し、露光対象物支持テーブル555に保持された露光対象物565の所定位置に照射される。これにより、露光パターンに応じた露光光が、半導体ウェハや液晶パネル等の露光対象物515の上に所定倍率で結像される。
【0059】
以上説明した構成形態の露光装置500,550は、光源としてパルスレーザ装置LSを備えている。そのため、時間幅が小さいパルス光により露光精度を高めた露光装置を提供することができる。
【0060】
パルスレーザ装置LSを備えたシステムの第3の適用例として、直接描画タイプの露光装置について、
図14を参照して説明する。この露光装置570は、パルスレーザ装置から出力されたパルス光を偏向手段により偏向して露光対象物585上を走査させ、予め設定された任意パターンの像を露光対象物に直接描画する。本構成例では偏向手段としてポリゴンミラーを用いた構成を例示する。
【0061】
露光装置570は、既述したパルスレーザ装置LSと、整形光学系572と、ポリゴンミラー583と、対物光学系574と、露光対象物585を保持する露光対象物支持テーブル575と、露光対象物支持テーブル575を水平面内で移動させる駆動機構576とを備えて構成される。整形光学系572はコリメートレンズを含む複数のレンズ群からなり、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を整形し、ミラー573を介してポリゴンミラー583に入射させる。ポリゴンミラー583は回転多面鏡であり、
図14では平面視において正六角形のミラーがミラー駆動機構により紙面に直交する軸廻りに回転駆動される構成を例示する。対物光学系574はfθレンズや集光レンズ等の複数のレンズ群により構成され、ポリゴンミラー583により走査されるパルス光を露光対象物支持テーブル575に保持された露光対象物585に結像させる。露光対象物支持テーブル575は露光対象物585をポリゴンミラー583によるパルス光の走査方向と直交する方向(図において紙面直交方向)に移動させる。
【0062】
パルスレーザ装置LS、ポリゴンミラー583及び露光対象物支持テーブル575は、図示省略する制御装置により作動が制御される。制御装置には、露光対象物585に描画するパターンのデータが予め設定記憶されており、制御装置は、設定されたパターンのデータに応じてパルスレーザ装置LS、ポリゴンミラー583及び露光対象物支持テーブル575の作動を制御する。これにより、露光対象物支持テーブル575に保持された露光対象物585に予め設定されたパターンの像が露光形成される。
【0063】
パルスレーザ装置LSは、任意パターンのパルス光を発生させることができ、かつパルス光を構成する光パルス単位で高速にオン/オフ制御することができる。そのため、マスクを用いずにパルス光で直接描画する本構成形態のような露光装置において特に重要となるパルス光そのものを高精度に制御することができ、精度が高い露光を実現することができる。
【0064】
なお、実施形態では偏向手段の一例として、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を露光対象物585上で一軸方向に走査させるポリゴンミラー583を例示したが、偏向手段は他の構成を用いることもできる。例えば、ポリゴンミラー583に代えてガルバノミラーを用いることができ、あるいは、2つのガルバノミラーを直交する二軸方向に組み合わせてパルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を露光対象物585上で二軸方向に走査させるように構成することもできる。
【0065】
次に、パルスレーザ装置LSを備えたシステムの第4の適用例として、フォトマスクや液晶パネル、ウェハ等(被検物)の検査工程で使用される検査装置について、その概要構成を示す
図15を参照して説明する。
図15に例示する検査装置600は、フォトマスク等の光透過性を有する被検物613に描かれた微細なデバイスパターンの検査に好適に使用される。
【0066】
検査装置600は、前述したパルスレーザ装置LSと、照明光学系602と、被検物613を保持する被検物支持台603と、投影光学系604と、被検物613からの光を検出するTDI(Time Delay Integration)センサ615と、被検物支持台603を水平面内で移動させる駆動機構606とを備えて構成される。照明光学系602は複数のレンズ群からなり、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光を、所定光束に調整して被検物支持台603に保持された被検物613に照射する。投影光学系604も複数のレンズ群により構成され、被検物613を透過した光をTDIセンサ615に投影する。
【0067】
このような構成の検査装置600においては、パルスレーザ装置LSから出力されたパルス光が照明光学系602に入力され、所定光束に調整されたパルス光が被検物支持台603に保持されたフォトマスク等の被検物613に照射される。被検物613からの光(本構成例においては透過光)は、被検物613に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系604を介してTDIセンサ615に投影され結像する。このとき、駆動機構606による被検物支持台603の水平移動速度と、TDIセンサ615の転送クロックとは同期して制御される。
【0068】
そのため、被検物613のデバイスパターンの像がTDIセンサ615により検出され、このようにして検出された被検物613の検出画像と、予め設定された所定の参照画像とを比較することにより、被検物に描かれた微細パターンの欠陥が抽出される。なお、被検物613がウェハ等のように光透過性を有さない場合には、被検物からの反射光を投影光学系604に入射してTDIセンサ615に導くことにより、同様に構成することができる。
【0069】
このような構成形態の検査装置600は、光源としてパルスレーザ装置LSを備えている。そのため、時間幅が小さいパルス光により検査精度を高めた検査装置を提供することができる。
【0070】
また、他の実施形態として、電子デバイス製造方法に関する実施形態を説明する。本実施形態の電子デバイス製造方法には、上述した露光装置500,550,570が適用される。電子デバイス製造方法では、感光材料が塗布された基板を、露光装置を用いて露光して、基板にパターンを形成する処理、露光された基板を現像する処理、ダイシング、ボンディング、パッケージなどにより基板を加工する処理等により電子デバイスが製造される。上述した露光装置500,550,570は、時間幅が小さいパルス光により露光精度が高められているため、本実施形態の電子デバイス製造方法では、高性能な電子デバイスを製造することができる。なお、本実施形態の基板としては、半導体ウェハのみならず、ディスプレイデバイス用のガラス基板や、薄膜磁気ヘッド用のセラミックウェハ、あるいは露光装置に用いられるマスクまたはレチクルに用いる基板(合成石英、シリコンウェハ)等が挙げられる。
【0071】
上記の通り、種々の形態について説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0072】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2014年第28755号(2014年2月18日出願)