特許第6304494号(P6304494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304494
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ポリイミド及び耐熱性材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-534362(P2014-534362)
(86)(22)【出願日】2013年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2013073658
(87)【国際公開番号】WO2014038538
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-194459(P2012-194459)
(32)【優先日】2012年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−054872(JP,A)
【文献】 特開2005−347423(JP,A)
【文献】 特開2004−285129(JP,A)
【文献】 特表平11−504369(JP,A)
【文献】 特表平10−508059(JP,A)
【文献】 特開平07−316294(JP,A)
【文献】 特開平07−179605(JP,A)
【文献】 特開平02−251584(JP,A)
【文献】 特開2009−299009(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047591(WO,A1)
【文献】 特開2007−190692(JP,A)
【文献】 特開平05−032779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【化1】
(式(1)中、Xは、式(4)で表される4価の基を表す。
【化2】
【請求項2】
固有粘度が0.3dL/g以上である式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を、脱水環化して得られることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド。
【化3】
(式(5)中、Xは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミドからなる耐熱性材料。
【請求項4】
請求項に記載の耐熱性材料からなる耐熱性薄膜。
【請求項5】
厚さが1乃至100μmである、請求項に記載の耐熱性薄膜。
【請求項6】
15ppm/K以下の線熱膨張係数、370℃以上のガラス転移温度、及び、窒素雰囲気中、570℃以上の5%重量減少温度及び20%以上の破断伸びを有することを特徴とする、請求項又はに記載の耐熱性薄膜。
【請求項7】
請求項乃至のいずれか1項に記載の耐熱性薄膜からなる、光電変換素子、発光素子又は電子回路用の基板。
【請求項8】
式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を含むワニス。
【化4】
(式(1)中、Xは、式(4)で表される4価の基を表す。
【化5】
【請求項9】
前記ポリイミド前駆体が、0.3dL/g以上の固有粘度を有する、請求項8に記載のワニス。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のワニスを基板上に塗布し、これを350℃以上で加熱することを特徴とする、耐熱性薄膜の製造方法。
【請求項11】
式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【化6】
(式(5)中、Xは、式(4)で表される4価の基を表す。
【化7】
【請求項12】
固有粘度が0.3dL/g以上である、請求項11に記載のポリイミド前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド及び耐熱性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種画像表示装置や太陽電池の軽量化や脆弱性改善を主な目的として、無機ガラス基板をプラスチック基板に置き換えようとする検討が行われている。しかしながら、ガラス並みの特性、即ち、無色透明性、優れた低熱膨張特性及び超耐熱性を有し、且つ、ガラスの欠点である脆弱性を大幅に改善した、理想的なプラスチック基板材料を得ることは、現行の技術では極めて困難である。
【0003】
全芳香族ポリイミドは、現存する樹脂の中では最高の耐熱性(ハンダ耐熱性)を有するため、エレクトロニクス分野を中心に様々な用途の部材に適用されている。
しかしながら、従来のポリイミドフィルムは、分子構造由来の電荷移動相互作用により強く着色しており(例えば非特許文献1)、また、各種プロセス適合性のために求められる高度な低熱膨張特性は必ずしも十分ではない。
そのため、現行のポリイミドフィルムを何ら特性改善することなくそのままプラスチック基板等の光学部材に適用することは困難である。
【0004】
これに対して、ポリイミドのモノマーであるジアミンかテトラカルボン酸二無水物のどちらか一方、あるいは両方に脂環式モノマーを使用することで、電荷移動相互作用を著しく妨害してポリイミドを完全に無色透明化する技術が開示されている(例えば非特許文献2〜4)。
しかしながら、この場合、ポリイミド骨格中に耐熱性に劣る脂環構造単位が導入されるため、従来の全芳香族ポリイミドに比べると、熱安定性の大幅な低下は避けられない。また、脂環構造導入はポリイミド主鎖の直線性の低下も招くため、無色透明ポリイミドはしばしば低熱膨張特性を示さない。
このように、プラスチック基板として全ての要求特性を完璧に満たすことは材料設計上容易なことではない。
【0005】
一方、用途によっては、上記特性の内のいくつかの限られた要求特性に特化したプラスチック基板材料が求められる場合がある。1つの例として、トップ・エミッション方式の有機発光ダイオード(OLED)ディスプレーで用いられるプラスチック基板が挙げられる。
【0006】
現行のボトム・エミッション方式のOLEDディスプレー用途では、プラスチック基板上に発光素子を形成していく過程で300℃以上、場合によっては400℃以上の高温プロセスを経るため、その工程中に基板材料自身から揮発性有機化合物(VOC)が発生すると、素子に深刻な悪影響を及ぼす恐れがある。
そのため、OLED用プラスチック基板材料としては、できるだけ高温域までVOCの発生を抑制するための極めて高い熱安定性、高度な熱寸法安定性(即ち、低熱膨張特性)、ガラス並みの無色透明性及び優れた膜形成能(膜靱性)を併せ持つ、従来にない材料が求められているが、これら全ての要求特性をターゲットとする樹脂材料開発のハードルは極めて高い。
【0007】
一方、高精細化等の有利性から、最近、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレーが検討されている。この方式では発光層から放出された光がプラスチック基板とは反対方向に取り出されるため放出光がプラスチック基板を通過せず、プラスチック基板自身の着色は重大な問題ではない。
そのため、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板では、極めて高いVOC抑制能(基板材料自身からVOCが発生しない性質のことである。以下同じ。)、極めて低い線熱膨張係数(以下CTEと称する)及び優れた膜形成能(膜靱性)が求められる。
【0008】
しかし、トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板に求められるこれら要求特性でさえも、全てを同時に達成する実用的な材料は知られていないのが現状である。
【0009】
VOC抑制能を極限まで高めるためには、材料樹脂の構造から脂肪族炭化水素基、チオエーテル基、スルホン基、アミン基、カーボネート基、ウレア基、ウレタン基、アミド基、エステル基、アルキレン基、イソプロピリデン基、シクロヘキシレン基等といった耐熱性に劣る置換基や連結基を完全に排除することが望ましい。
【0010】
一方、高度な低熱膨張特性発現の観点からは、極めて剛直で直線的な主鎖構造とすることが望ましい。
【0011】
よって、VOC抑制能と低熱膨張特性の観点から、理想的な分子構造として下記式(X1)で表されるパラフェニレン基を繰り返し単位とするポリパラフェニレンが挙げられる。
しかし、ポリパラフェニレンは有機溶媒への溶解性を全く有しておらず、これを重合して得ようとすると分子量が増加する前に沈殿が生じてしまうため、その重合反応そのものが極めて困難である。
【0012】
【化1】
【0013】
これに対し、剛直で直線的な主鎖構造を有する下記式(X2)で表される繰り返し単位構造を有するポリイミドは、それ自身は一般の有機溶媒に全く不溶であるが、下記式(X3)で表される繰り返し単位構造を有するアミド系溶媒可溶性の前駆体(ポリアミド酸)の段階で溶液キャスト法によりフィルム状に成形しておき、これを高温で加熱脱水環化反応(イミド化反応)処理することで容易にポリイミドフィルムとして得ることができ、そしてそのフィルムが極めて低いCTEを示すことが報告されている(例えば非特許文献6)。
【0014】
【化2】
【0015】
ポリアミド酸の優れたアミド系溶媒溶解性は、上記式(X3)における置換基であるCOOH基の強い溶媒和能によるものである(例えば非特許文献6)。
【0016】
しかしながら、上記式(X2)で表されるような繰り返し単位構造を有する高分子は、高分子鎖同士の絡み合いが殆どないために、そのフィルムがしばしば著しく脆弱化して膜形成能を完全に失うという重大な問題がある(例えば非特許文献5)。
【0017】
一方、耐熱性の観点から、ポリイミドに匹敵する超耐熱性を有するポリベンゾオキサゾールも上記トップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板材料の候補となり得る。
例えば、下記式(X4)で表される繰り返し単位構造を有するポリベンゾオキサゾールは、上記用途に適用するのに理想的な分子構造、即ち、置換基や連結基を一切有さず、剛直で直線状の主鎖構造を有している。
【0018】
【化3】
【0019】
ポリイミドと同様に、ポリベンゾオキサゾールそれ自身は一般の有機溶媒に全く不溶であるので、ポリベンゾオキサゾール前駆体が溶媒に可溶であるならばこれを経由してポリベンゾオキサゾールフィルムを製造することが原理的には可能である。
【0020】
しかしながら、ポリベンゾオキサゾール前駆体を得るためには、モノマーを活性誘導体にあらかじめ変換しておく工程が必要であり、そのような工程を一切必要としないポリイミド前駆体の重合工程に比べると、ポリベンゾオキサゾール前駆体の重合工程は相当煩雑である。
この点に加え、VOC抑制能と低熱膨張特性の発現を目指して、上記式(X4)に例示したように、ポリベンゾオキサゾールから連結基を完全に排除した上で、剛直で直線性の高い主鎖構造となるように分子設計すると、ポリベンゾオキサゾールの前駆体であるポリヒドロキシアミドの段階でさえも有機溶媒への溶解性が乏しくなるという重大な問題が生じる(例えば非特許文献7)。
【0021】
これは、例えば、下記式(X5)で表される繰り返し単位構造を有するポリヒドロキシアミドの置換基であるフェノール性OH基の溶媒和能が弱いためである。
【0022】
【化4】
【0023】
このような事情により、ポリイミドフィルムを製造する際に通常用いられる簡便な2段階製膜工程、即ち、前駆体ワニスの塗布・乾燥後、加熱脱水環化反応を行う工程をそのまま適用して、ポリベンゾオキサゾールフィルムを製造することは困難である。
【0024】
ポリイミドを用いた場合のように、簡便な製造工程(容易な前駆体重合工程と引き続く2段階加熱製膜工程)に適合し、且つ、耐熱性に乏しい置換基や連結基を有さず剛直で直線性の高い主鎖構造を有する新規なポリベンゾオキサゾールを得ることができれば、上述の技術分野において特に上記プラスチック基板材料として有益な材料を提供し得るが、そのような材料は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001).
【非特許文献2】React. Funct. Polym., 30, 61-69 (1996).
【非特許文献3】Macromolecules, 32, 4933-4939 (1999).
【非特許文献4】Macromol. Res., 15, 114-128 (2007).
【非特許文献5】High Perform. Polym., 21, 709-728 (2009).
【非特許文献6】J. Polym. Sci., Part A, 25, 2479-2491 (1987).
【非特許文献7】J. Photopolym. Sci. Technol., 17, 253-258 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低い線熱膨張係数、高いガラス転移温度、高い耐熱性及び高い膜靱性を有し、特に、例えば有機EL素子といったデバイスの基板材料に適用することで、素子の軽量化や脆弱性改善に寄与し得る、ポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ベンゾオキサゾール基を含むジアミン化合物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とから誘導され、分子内に耐熱性に劣る置換基や連結基を有しない下記式(1)で表されるポリイミドが、特にトップ・エミッション方式のOLEDディスプレー用プラスチック基板材料に要求される特性、即ち、極めて高いVOC抑制能、高度な低熱膨張特性及び優れた膜形成能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
1.式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド、
【化5】
(式(1)中、Xは、炭素原子数6〜20の芳香族基で置換されていてもよい炭素原子数6〜14の4価の芳香族基を表す。)
2.前記Xが、式(2)〜(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の基である1.のポリイミド、
【化6】
3.固有粘度が0.3dL/g以上である式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を、脱水環化して得られることを特徴とする1.又は2.のポリイミド、
【化7】
(式(5)中、Xは、前記と同じ意味を表す。)
4.1.〜3.のいずれかのポリイミドからなる耐熱性材料、
5.4.の耐熱性材料からなる耐熱性薄膜、
6.厚さが1〜100μmである5.の耐熱性薄膜、
7.15ppm/K以下の線熱膨張係数、370℃以上のガラス転移温度、及び、窒素雰囲気中、570℃以上の5%重量減少温度及び20%以上の破断伸びを有することを特徴とする、5.又は6.の耐熱性薄膜、
8.5.〜7.のいずれかの耐熱性薄膜からなる、光電変換素子、発光素子又は電子回路用の基板、
9.式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を含むワニス、
【化8】
(式(5)中、Xは、炭素原子数6〜20の芳香族基で置換されていてもよい炭素原子数6〜14の4価の芳香族基を表す。)
10.前記Xが、式(2)〜(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の基である9.のワニス、
【化9】
11.前記ポリイミド前駆体の固有粘度が、0.3dL/g以上である9.又は10.のワニス、
12.9.〜11.のいずれかのワニスを基板上に塗布し、これを350℃以上で加熱することを特徴とする、耐熱性薄膜の製造方法、
13.式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体、
【化10】
(式(5)中、Xは、炭素原子数6〜20の芳香族基で置換されていてもよい炭素原子数6〜14の4価の芳香族基を表す。)
14.固有粘度が、0.3dL/g以上である13.のポリイミド前駆体
を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリイミドは、極めて高い熱安定性、高度な寸法安定性を実現するために必要な非常に低い線熱膨張係数だけでなく、非常に高いガラス転移温度及び優れた膜靱性を兼ね備えている。そのため、本発明のポリイミドは、これらの特性が近年求められている、光電変換素子、発光素子、画像表示装置などといった電子デバイスの基板材料、特にOLEDディスプレー用プラスチック基板材料に適しており、機器の軽量化や脆弱性改善に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1に記載のポリイミド前駆体薄膜のFT−IRスペクトルである。
図2】実施例1に記載のポリイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0031】
<ポリイミド>
本発明のポリイミドは、式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【0032】
【化11】
【0033】
式(1)中、Xは、炭素原子数6〜20の芳香族基で置換されていてもよい炭素原子数6〜14の4価の芳香族基を表す。
このような炭素原子数6〜14の4価の芳香族基の具体例としては、ベンゼン−1,2,4,5−テトライル基、ベンゼン−1,2,3,4−テトライル基、ナフタレン−1,2,3,4−テトライル基、ナフタレン−1,2,5,6−テトライル基、ナフタレン−1,2,6,7−テトライル基、ナフタレン−1,2,7,8−テトライル基、ナフタレン−2,3,5,6−テトライル基、ナフタレン−2,3,6,7−テトライル基、ナフタレン−1,4,5,8−テトライル基、ビフェニル−2,2’,3,3’−テトライル基、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトライル基、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトライル基、アントラセン−1,2,3,4−テトライル基、アントラセン−1,2,5,6−テトライル基、アントラセン−1,2,6,7−テトライル基、アントラセン−1,2,7,8−テトラキル基、アントラセン−2,3,6,7−テトライル基、フェナントラセン−1,2,3,4−テトライル基、フェナントラセン−1,2,5,6−テトライル基、フェナントラセン−1,2,6,7−テトライル基、フェナントラセン−1,2,7,8−テトライル基、フェナントラセン−1,2,9,10−テトライル基、フェナントラセン−2,3,5,6−テトライル基、フェナントラセン−2,3,6,7−テトライル基、フェナントラセン−2,3,9,10−テトライル基、フェナントラセン−3,4,5,6−テトライル基、フェナントラセン−3,4,9,10−テトライル基、フェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトライル基、ハイドロキノン−ジフタリックアンハイドライド−テトライル基等が挙げられる。繰り返し単位中のXは、同一であっても、異なっていてもよい。
これらの中でも、Xは、ベンゼン−1,2,4,5−テトライル基、ナフタレン−1,2,3,4−テトライル基、ナフタレン−1,2,5,6−テトライル基、ナフタレン−1,2,6,7−テトライル基、ナフタレン−1,2,7,8−テトライル基、ナフタレン−2,3,5,6−テトライル基、ビフェニル−2,2’,3,3’−テトライル基、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトライル基、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトライル基であることが好ましく、下記式(2)〜(4)のいずれかであることがより好ましい。
【0034】
【化12】
【0035】
本発明のポリイミドは、繰り返し構造中の炭素原子数6〜14の4価の芳香族基の芳香環上の任意の水素原子が、炭素原子数6〜20の芳香族基で置換されてもよい。
このような炭素原子数6〜20の芳香族基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。
【0036】
<ポリイミド前駆体>
本発明のポリイミドは、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体から製造することができる。
【0037】
【化13】
(式(5)中、Xは、上記と同じ意味を表す。)
【0038】
上記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、例えば、以下の方法により得られる。
まず、下記式(8)で表されるジアミン(後述の方法により得られる式(6)で表されるジアミンに対応する)を溶媒に溶解し、これに下記式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間、好ましくは1〜72時間撹拌する。
【0039】
【化14】
(式(7)中、Xは、上記と同じ意味を表す。)
【0040】
この際、式(8)で表されるジアミンと式(7)で表される酸二無水物との物質量(mol)比は、ジアミン1に対して、酸二無水物0.8〜1.1程度とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1程度であり、より好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0041】
また、反応溶媒中のモノマー(ジアミン及び酸二無水物)の濃度は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、モノマー及びポリマーの溶解性を十分確保することができ、均一で高重合度のポリイミド前駆体の溶液を得ることができる。
本発明の耐熱性薄膜の靭性の観点から、ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましく、それゆえ、反応溶媒中のモノマー濃度を5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%としてポリイミド前駆体を調製することが望ましい。
【0042】
なお、ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、重合溶液が撹拌しにくくなった場合には、反応に用いた溶媒と同一の溶媒で適宜希釈することもできる。
【0043】
また、本発明の耐熱性薄膜の靭性及びその製造に用いるワニスのハンドリングの観点から、ポリイミド前駆体の固有粘度は、0.3dL/g以上であることが好ましく、0.3〜5.0dL/gの範囲内であることがより好ましい。
【0044】
本発明が対象とするポリイミドは、極めて高い熱安定性を発現させるという観点から、ポリイミドを重合する際に、フェニル基以外の置換基やエーテル基以外の連結基を一切含まない芳香族テトラカルボン酸二無水物が用いられる。脂環式テトラカルボン酸の使用は例え少量であっても熱安定性を著しく損なう恐れがあり好ましくない。
【0045】
このような芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−2,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−3,4,5,6−テトラカルボン酸二無水物、フェナントラセン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ハイドロキノン−ジフタリックアンハイドライド等が例として挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物の中でも、本発明のポリイミドを得るには、低熱膨張特性発現という観点、及び入手容易性やコストの観点から、剛直で直線的な構造を有するテトラカルボン酸二無水物、即ち、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分として用いることが好ましい。この際、これらのテトラカルボン酸二無水物の含有量は、全テトラカルボン酸二無水物使用量の50〜100モル%、好ましくは70〜100モル%である。
【0047】
本発明のポリイミドの極めて高い熱安定性の発現という観点から、上記式(8)に例示されるベンゾオキサゾール基を含むジアミンの共重合成分として、フェニル基以外の置換基やエーテル基以外の連結基を一切含まない芳香族ジアミンを部分的に用いてもよい。但し、脂環式ジアミンの使用は例え少量であっても熱安定性を著しく損なう恐れがあり好ましくない。
【0048】
このような芳香族ジアミンとしては、上記条件の範囲内であれば特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−ターフェニレンジアミン等が例として挙げられる。また、これらは単独で用いてもよく、2種類以上併用することもできる。これらの共重合ジアミン成分の使用量は、全ジアミン使用量の0〜30モル%、好ましくは0〜10モル%である。
【0049】
本発明のポリイミド前駆体を重合する際に使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−n−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−sec−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−t−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等の非プロトン性溶媒を用いることが好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造には限定されない。
例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが使用可能である。
更に、フェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン等の一般的な溶媒も部分的に使用してもよい。
【0050】
本発明のポリイミド前駆体の重合溶液は、本発明の耐熱性薄膜を製造するためにそのまま用いてもよく、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥してポリイミド前駆体を得、これを再度溶媒(前述のポリイミド前駆体の製造に使用した溶媒など)に溶解させたものを本発明の耐熱性薄膜を製造するために用いてもよい。なお、上記ポリイミド前駆体の重合溶液及びポリイミド前駆体を再度溶媒に溶解させたものの何れもポリイミド前駆体を含むワニスであり、本発明の対象である。
【0051】
<耐熱性薄膜(ポリイミドフィルム)>
本発明の耐熱性薄膜は、上記の方法で得られたポリイミド前駆体を加熱脱水環化反応(イミド化反応)することで製造することができる。
【0052】
すなわち、本発明の耐熱性薄膜は、以下のようにして製造する。
本発明のポリイミド前駆体を含むワニスを、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中、40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥し、ポリイミド前駆体フィルムを作製する。
得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、加熱することで本発明の耐熱性薄膜(ポリイミドフィルム)が得られる。
この際、加熱温度は、イミド化反応を完結するという観点から200℃以上、好ましくは250℃以上、生成したポリイミドフィルムの熱分解を抑制するという観点から450℃以下、好ましくは430℃以下である。
また、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行ってもよい。
【0053】
イミド化反応は、熱処理に代えて、ポリイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。
また、これらの脱水環化試薬をあらかじめポリイミド前駆体を含むワニス中に室温で投入・撹拌し、それを上記基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体フィルムを作製することもでき、これを更に上記のように熱処理することでポリイミドフィルムが得られる。
【0054】
本発明のポリイミド前駆体を含むワニスを、金属箔、例えば、銅箔上に塗付して乾燥した後、上記の条件によりイミド化することで、金属層とポリイミドフィルムの積層体を得ることができる。更に塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて金属層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型フレキシブルプリント基板を製造することができる。
【0055】
本発明の耐熱性薄膜の厚さは、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜厚さを決定すればよいが、該耐熱性薄膜自体を有機太陽電気やシリコン太陽電池といった光電変換素子、有機EL素子といった発光素子、回路電子の基板として用いる場合であれば、1〜100μm程度が好適である。
以上説明した本発明の耐熱性薄膜は、本発明の優れた膜形成能を有するポリイミドの前駆体から容易に製造することができ、極めて高いVOC抑制能と高度な低熱膨張特性を有することから、有機EL素子、液晶表示素子や有機太陽電気等の基板における耐熱性の薄膜として好適に用いることができる。
【0056】
<ベンゾオキサゾール基を含むジアミン(以下、BO含有ジアミンともいう)の合成>
本発明のポリイミド前駆体及びポリイミドは、前述したようにそのモノマーであるテトラカルボン酸二無水物とBO含有ジアミンより得られる。
本発明で用いるBO基含有ジアミンは、下記式(8)で表される。
【0057】
【化15】
【0058】
上記式(8)で表されるBO基含有ジアミンは、出発原料として下記式(9)で表されるビス(o−アミノフェノール)を用いて合成される。
【0059】
【化16】
【0060】
以下、ビス(o−アミノフェノール)として3,3’−ジヒドロキシベンジジン(以下、p−HABという。)を用いた場合のBO基含有ジアミンの合成方法について、手順の一例について例示するが、合成方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0061】
まず、3つ口フラスコ中、p−HABをよく脱水したアミド系溶媒に溶解し、これに脱酸剤としてピリジンを添加し、セプタムキャップでシールしてA液とする。
次に、ナス型フラスコ中、p−HABの2倍モル量の4−ニトロ安息香酸クロリドをA液と同様の溶媒に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とする。
そして、A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後数時間撹拌を続け、ジアミド体を合成する。
【0062】
次に、氷浴を外し、室温で数時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液に適当量のp−トルエンスルホン酸を加え、200℃のオイルバスにて数時間還流を行う。
生成した沈殿物を濾過により集めて水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥して下記式(10)で表されるジニトロ体を合成する
【0063】
【化17】
【0064】
次に、3つ口フラスコ中、上記式(10)で表されるジニトロ体をアミド系溶媒に溶解し、触媒として適当量のPd/Cを加え、水素雰囲気中室温〜150℃で1〜24時間還元反応を行う。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡することができる。
反応終了後、濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を大量の水にゆっくりと滴下して生成物を析出させる。沈殿物を濾過により集めて水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥する。必要に応じて適当な溶媒から再結晶して高純度化することもできる。
このようにして、本発明のポリイミド前駆体の重合に用いることができる下記式(6)で表されるBO基含有ジアミンが得られる。
【0065】
【化18】
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0067】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBrプレート法にてBO基含有ジアミンの赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にてポリイミド前駆体フィルム及びポリイミドフィルム(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でBO基含有ジアミンのH−NMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点及び融解曲線)>
BO基含有ジアミンの融点及び融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5質量%のポリイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度(T)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からポリイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリイミドフィルム(20μm厚)のCTEを求めた。
<5%重量減少温度(T)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<弾性率、破断伸び、破断強度>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
【0068】
[合成例1]
<BO基含有ジアミンの合成>
3つ口フラスコ中、p−HAB(和歌山精化社製、2.61g、12mmol)をよく脱水させたN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)(81mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン(2.9mL、36mmol)を添加し、セプタムキャップでシールしてA液とした。次に別のナス型フラスコ中、4−ニトロ安息香酸クロリド(4.49g、24mmol)をNMP(17mL)に溶解し、セプタムキャップでシールしてB液とした。A液を氷浴中で冷却し、回転子で撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、ジアミド体を合成した。
【0069】
次に氷浴を外し、室温で数時間撹拌した後、脱水環化反応を完結させるためこの反応溶液に適当量のp−トルエンスルホン酸(1.90g、11mmol)を加え、200℃のオイルバスにて3時間還流を行った。生成した沈殿物を濾過により回収して水で洗浄した。この際、洗液に1%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、100℃で12時間真空乾燥して収率81%で融点401℃の黄色針状晶を得た。
得られた生成物は、DMSO−dやCDClに殆ど不溶であったため、H−NMR測定は実施しなかったが、その赤外線吸収スペクトルは、1605cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1518/1348cm−1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O−H伸縮振動バンドは見られなかった。
これらの結果から、得られた生成物は、下記式(10)で表されるジニトロ体であると考えられる。
【0070】
【化19】
【0071】
次に3つ口フラスコ中、上記式(10)で表されるジニトロ体(6.13g、11.9mmol)をNMP(250mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.63g)を加え、水素雰囲気中100℃で15時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を大量に水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾過により回収し、水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥して粗生成物収率82%で茶色粉末を得た。更に純度を高めるため、γ−ブチロラクトンから再結晶を行い、最後に100℃で12時間真空乾燥して融点354℃の茶色板状晶を得た。
得られた生成物の赤外線吸収スペクトルは、3454/3380/3210cm−1にアミノ基N−H伸縮振動バンド、1621/1607cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1499cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドを示し、ニトロ基伸縮振動バンドやアミドC=O伸縮振動バンドは見られなかった。
この赤外線吸収スペクトルの結果と下記H−NMRスペクトル及び元素分析の結果から、得られた生成物は、下記式(6)で表されるBO基含有ジアミンであることが確認された。
H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d,δ,ppm):8.06(s,2H),7.90−7.88(d,4H),7.75−7.71(m,4H),6.72−6.70(d,4H),6.04(s,4H)
元素分析:推定値C;74.63%,H;4.34%,N;13.39%,分析値C;74.41%,H;4.47%,N;13.26%
【0072】
【化20】
【0073】
<ポリイミド前駆体の重合、イミド化及びポリイミドフィルムの特性評価>
[実施例1]
よく乾燥した撹拌機付密閉反応容器中に上記式(6)で表されるBO基含有ジアミン5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMPに約50℃で溶解した後、室温まで放冷し、この溶液に2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(JFEケミカル社製、以下NTDAと称する)粉末5mmolを加えた(全溶質濃度:13質量%)。その後、室温で72時間撹拌して、均一で粘稠なポリイミド前駆体を含む溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。
NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は1.15dL/gであった。
上記ポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、熱風乾燥機中80℃で3時間乾燥してポリイミド前駆体フィルムを作製した。
図1に得られたポリイミド前駆体の薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。2600cm−1付近にブロードな吸収帯(水素結合性COOH基O−H伸縮振動バンド)、1711cm−1に水素結合性COOH基C=O伸縮振動バンド、1678cm−1(ショルダー)/1530cm−1にアミド基C=O伸縮振動バンド、1501cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンドが観測され、一方、モノマー由来のアミノ基N−H伸縮振動バンドやテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基C=O伸縮振動バンドが見られないことから、目的とするポリイミド前駆体の生成が確認された。
【0074】
次いで、ポリイミド前駆体フィルムをガラス基板ごと250℃で1時間、更に真空中350℃で1時間過熱して熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に真空中400℃で1時間熱処理を行い、膜厚20μmの柔軟なポリイミドフィルムを得た。
図2に同一条件で別途作製されたポリイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを示す。3046cm−1に芳香族C−H伸縮振動バンド、1777/1721cm−1にイミド基C=O伸縮振動バンド、1618cm−1にBO基C=N伸縮振動バンド、1501cm−1に1,4−フェニレン基伸縮振動バンド、1356cm−1にイミド基N−C(芳香族)伸縮振動バンドが観測され、一方、COOH基やアミド基に由来する吸収帯が見られないことから、イミド化反応は完結しており、目的とするポリイミドの生成が確認された。
【0075】
得られたポリイミドフィルムは如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。ポリイミドフィルム(膜厚20μm)について動的粘弾性測定を行った結果、408℃にガラス転移点が観測された。線熱膨張係数は、8.4ppm/Kという極めて低い値を示した。これは本発明のポリイミドの主鎖構造が極めて剛直で直線性が高いことに由来して、熱イミド化工程においてポリイミド主鎖がフィルム面に対して平行な方向に著しく配向したことによるものと考えられる。5%重量減少温度は、窒素中で603℃、空気中で592℃であり、得られたポリイミドが極めて高い熱安定性を有していることがわかった。さらに機械的特性を評価した結果、引張弾性率(ヤング率)3.8GPa、破断伸び39%であり、優れた膜靱性も保持していた。表1に物性値をまとめる。
【0076】
参考例2]
テトラカルボン酸二無水物成分としてNTDAの代わりに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(和光純薬社製、以下BPDAと称する)を同モル量用いた以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。表1に物性を示す。実施例1に記載のポリイミドと同様、優れた特性を示した。
なお、表中、NDは室温〜500℃までの動的粘弾性測定においてガラス転移が未検出であったことを表す。
【0077】
参考例3]
テトラカルボン酸二無水物成分としてNTDAの代わりにピロメリット酸二無水物(三菱瓦斯化学社製、以下PMDAと称する)を同モル量用いた以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。表1
に物性を示す。実施例1に記載のポリイミドと同様、優れた特性を示した。
【0078】
[比較例1]
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDA、ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンを同モル量用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムは極めて低いCTE(2.8ppm/K)を示したが、非常に脆弱であり破断伸びは0%であった。また、このフィルムは折り曲げることで容易に破断した。これは、このポリイミド系の棒状主鎖構造に由来するもので、ポリマー鎖間の絡み合いが殆どないためである。
【0079】
[比較例2]
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAを同モル量、ジアミン成分として4,4’−オキシジアニリンを同モル量それぞれ用い、実施例1に記載した方法に準じて重合、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。このポリイミドフィルムは極めて高いガラス転移温度(408℃)を示し、破断伸び85%と優れた靱性を有していたが、CTEは42.8ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。
【0080】
【表1】
図1
図2