(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304543
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】小麦粉を使用しない即席調理食品及びソース
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20180326BHJP
【FI】
A23L23/00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-127772(P2014-127772)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-7142(P2016-7142A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】久下沼 裕
(72)【発明者】
【氏名】松島 大祐
【審査官】
松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−196192(JP,A)
【文献】
特開2013−138687(JP,A)
【文献】
特開2012−85608(JP,A)
【文献】
特開2009−201479(JP,A)
【文献】
特開昭58−98071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を用いずに、米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いたことを特徴とする即席調理食品。
【請求項2】
前記即席調理食品が、カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、ホワイトソース又はデミグラスソースのうちのいずれかのソースを作るためのものである、請求項1に記載の即席調理食品。
【請求項3】
米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及び乾燥ポテトパウダーの含有比率が、乾燥状態での質量比で、米粉1に対し、コーンスターチが0.05〜4、リン酸架橋澱粉が0.1〜1及び乾燥ポテトパウダーが0.05〜4である請求項1又は2に記載の即席調理食品。
【請求項4】
小麦粉を用いずに、米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いたことを特徴とするソース。
【請求項5】
カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、ホワイトソース又はデミグラスソースのいずれかである、請求項4に記載のソース。
【請求項6】
乾燥質量として、米粉を0.3〜5.7質量%、コーンスターチを0.2〜5.5質量%、リン酸架橋澱粉を0.1〜1.4質量%及びジャガイモ粉砕物を0.1〜4質量%含有する、請求項4又は5に記載のソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉を使用しない即席調理食品及びソースに関する。
【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、ハヤシライス等は喫食頻度の高いメニューであり、老若男女問わずに好まれて喫食されている。これらのメニューは専用の調味料を使用せずに調理することは可能だが、必要とする材料が多く、調理工程が煩雑である。そのため、固形、フレーク、顆粒、粉末、ペーストなどの形態の専用の調味料である即席調理食品を用いて調理することが一般的である。
これらの即席調理食品には一般的に小麦粉が使用されており、小麦粉は焙煎されて使用されることが多く、好ましい特有の香味をソースに付与している。また、小麦粉が粘性を発現することでソースにとろみがつき、食べ応えのある好ましいテクスチャーが得られる。
【0003】
一方、近年、食物アレルギーに対し社会的な関心が高まっている。厚生労働省はアレルギーを引き起こす食物アレルゲンについて、患者数と症状の重篤さを評価し、食品パッケージへの表示義務のある特定原材料(小麦、乳、卵、そば、落花生、えび、かに)を定めている。そして食物アレルギー患者は、食品表示を確認することで食用できるか否かを判断している。しかしながら、小麦は広く食品に使用されているため、食用できる食品の選択肢がきわめて限られている。
【0004】
カレーやシチュー等のソースには、前述したように一般的には小麦粉が原材料として使用されているが、アレルギー患者用に特定原材料を使用していないソース及びその即席調理食品が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、もち種澱粉と、特定量のアミロースを含有するコーン粉砕物とを含む流動状食品が開示されており、アレルギー体質の人でも、おしいく食べることができる流動状食品及びその製造方法が開示されている。特許文献2には、ホワイトソースのボディー形成材の主体として該ボディー形成材の70%以上を米澱粉及び/又は米粉から形成されたホワイトソースが開示されており、小麦粉を使用しないホワイトソースは小麦アレルギー患者向きにとって好都合であることが記載されている。特許文献3には果実に由来する食物繊維と、増粘剤を含むカレーソース、シチューソースなどの粘性液状食品が開示されており、7大アレルゲン(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)等のアレルゲンを含まないアレルゲンフリーな粘性液状食品が得られるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−142824号公報
【特許文献2】特許第4636595号公報
【特許文献3】特開2013−9671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小麦粉はソースの粘性や外観、美味しさに大きく寄与しているため、小麦粉を使用しない従来のアレルギー患者向けのソースは、小麦粉を使用しているソースに比べて、(1)粘性、(2)外観及び(3)風味が著しく劣っている、という問題があった。
すなわち、(1)ソースの見た目の粘度、口当たり、口溶け、持続性などの粘性の質が全く異なってしまう。(2)ソースの見た目の透明度が高くなり、小麦粉を使用した場合に特有の濁りのある不透明な外観とは全く異なるものになってしまう。(3)ソースのコク、味わいの豊かさ、ボリューム感、深みなどの風味が全く異なるものになってしまう。
【0008】
本発明の目的は、小麦粉を使用しないにも係わらず、小麦粉を使用したソースと同等の粘性、外観及び風味を有するソースを作ることができる即席調理食品を提供することにある。
また、本発明の目的は、小麦粉を使用しないにも係わらず、小麦粉を使用したソースと同等の粘性、外観及び風味を有するソースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、小麦粉を用いなくとも、米粉、澱粉、加工澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1)小麦粉を用いずに、米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いたことを特徴とする即席調理食品。
(2)前記即席調理食品が、カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、ホワイトソース又はデミグラスソースのうちのいずれかのソースを作るためのものである、(1)に記載の即席調理食品。
(3)米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及び乾燥ポテトパウダーの含有比率が、乾燥状態での質量比で、米粉1に対し、コーンスターチが0.05〜4、リン酸架橋澱粉が0.1〜1及び乾燥ポテトパウダーが0.05〜4である(1)又は(2)に記載の即席調理食品。
(4)小麦粉を用いずに、米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いたことを特徴とするソース。
(5)カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、ホワイトソース又はデミグラスソースのいずれかである、(4)に記載のソース。
(6)乾燥質量として、米粉を0.3〜5.7質量%、コーンスターチを0.2〜5.5質量%、リン酸架橋澱粉を0.1〜1.4質量%及びジャガイモ粉砕物を0.1〜4質量%含有する、(4)又は(5)に記載のソース。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アレルギーの原因として知られている食品のうち表示義務のある特定原材料(卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)の1つである小麦粉を含まないソースを調製するための即席調理食品を提供することができる。
【0012】
また、本発明によれば、小麦粉を使用しなくても、小麦粉を使用したソースと同等の粘性、外観及び風味を有するカレーソースやシチューソース等のソースを作ることができる即席調理食品を提供することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、かかる小麦粉を使用しないカレーソースやシチューソース等のソースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明は、小麦粉を用いずに、米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物を用いたことを特徴とするソース及びそれを調製するための即席調理食品を提供する。
本明細書において「ソース」とは、カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、ホワイトソース、デミグラスソース、カスタードソースなどのように食品の調味に用いられ、一般的には小麦粉を使用して粘性が付与される、粘性のある液状の食品のことである。例に挙げた各ソースはそれぞれに使用原料が異なっており、粘性の高さや色調、風味もそれぞれに特徴のあるものを有している。しかし、いずれのソースも小麦粉を使用しているため、小麦粉に由来する共通の好ましい粘性、外観及び風味を有している。
【0015】
本明細書において「即席調理食品」とは、前記各種ソースを調製するための素となる食品であって、例えば直接水やお湯、牛乳などに加えて、溶解、加熱すれば、簡便に所望のソースが調製できる素である。例えば、液体、固形、フレーク、顆粒、粉末、ペースト等の形態で提供されるが、その形態に特に限定はない。
【0016】
本発明における即席調理食品及びソースに使用される米粉は、ジャポニカ種やインディカ種など各種品種から製造された粳米粉又はもち米粉が挙げられる。これらの米粉を1種のみ用いてもよいし、二種以上併用してもよい。米粉は、滑らかな粘性と、米特有の甘味、雑味によるボディ感を付与する作用を有する。米粉は、好ましくは粳米粉である。
ソース中の米粉の含有量は、乾燥質量として0.3〜5.7質量%であるのが好ましい。
【0017】
本発明に用いられるコーンスターチは、一般的なトウモロコシ澱粉であり、原料となる品種には、デントコーン(馬歯種)やワキシーコーン(もち種)が用いられる。本発明では自然な粘性と滑らかな口当たりを付与できる、デントコーンを使用したアミロース含有量が25%程度のものを用いるのが好ましい。
ソース中のコーンスターチの含有量は、乾燥質量として0.2〜5.5質量%であるのが好ましい。
【0018】
本発明には、小麦粉様の持続性のある粘性を付与する作用を有するリン酸架橋澱粉を用いる。小麦粉らしい粘性を付与するため、ワキシーコーンスターチ由来のリン酸架橋澱粉を使用することが好ましい。
ソース中のリン酸架橋澱粉の含有量は、乾燥質量として0.1〜1.4質量%であるのが好ましい。
【0019】
本発明に用いられるジャガイモ粉砕物としては、例えば原料ジャガイモを蒸煮後裏ごしし、乾燥、粉砕した乾燥ポテトパウダーが挙げられる。ジャガイモ粉砕物は、粉末状のものに限らずペースト状のものであってもよい。ジャガイモ粉砕物は、粘性のほか、ジャガイモ特有の甘味、雑味によるボディー感のある風味を付与する作用を有する。乾燥ポテトパウダーを使用する場合は、粒度が大きいとざらつきを感じ易くなるので、なめらかな口当たりにするために、粒度の細かいものを使用するのが好ましい。
ソース中のジャガイモ粉砕物の含有量は、乾燥質量として0.1〜4質量%であるのが好ましい。
【0020】
即席調理食品及びソース中の米粉、コーンスターチ、リン酸架橋澱粉及びジャガイモ粉砕物の使用量は適宜調整すればよいが、即席調理食品中の含有比率は、乾燥状態での質量比で米粉1に対して、コーンスターチが0.05〜4、リン酸架橋澱粉が0.1〜1及び乾燥ポテトパウダーが0.05〜4であるのが好ましく、より好ましくは米粉1に対し、コーンスターチが0.1〜3、リン酸架橋澱粉が0.2〜0.5及び乾燥ポテトパウダーが0.1〜2.5である。
【0021】
即席調理用食品及びソースには、風味づけなどを目的として、必要に応じて食塩、糖類、甘味料、調味料、エキス類、酸味料、pH調整剤、香辛料、油脂、着色料、香料などの副原料を配合することができる。特に、ソースとしての美味しさとまろやかな口当たりを付与するためには、油脂を配合することが望ましい。
【0022】
油脂は特定原材料を含まない一般的な食用油脂であれば植物性、動物性いずれでもよく、一種のみでも二種類以上を併用してもよい。
使用する油脂としてはパーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、オリーブ油、豚脂、牛脂、鶏油、魚油などが挙げられる。
使用する油脂の形態は、液状、固形、フレーク、粉末など特に限定はなく、利便性、即席調理食品の形態に合わせ適宜選択することができる。例えば粉末形態の即席調理食品を調製する場合は、粉末状の極度硬化油を使用するのが好ましい。また、使用する油脂にあらかじめ酸化防止剤、乳化剤、デキストリン、澱粉などが配合されたものを使用してもよい。かかる油脂原料を使用することにより、乳感を好適に付与することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0024】
実施例1〜2及び比較例1〜5
1.カレーソース用粉末即席調理食品の調製
表1の配合に従い、米粉(日の本穀粉社製)、コーンスターチ(日本コーンスターチ社製)、リン酸架橋澱粉(松谷化学工業社製)、乾燥ポテトパウダー、カレーパウダー、肉エキス、野菜・果物エキス、調味料、砂糖、食塩、乳化剤を混合して、カレーソース用粉末即席調理食品を調製した。
2.カレーソースの調製
前記各カレーソース用粉末即席調理食品(表1の合計質量(g))と水90gとを混合し、加熱した。この混合物が沸騰して粘性が発現したら加熱を終了し、カレーソースを得た。
【0025】
【表1】
【0026】
結果を表2に示す。表2中の原料配合は、表1の配合で調製したカレーソース中の各原料の比率を表したもので、単位は質量%である。比較例1は小麦粉及び乳原料である全粉乳を使用したソースである。実施例1〜2及び比較例2〜5は、比較例1(小麦粉を使用したカレーソース)と比較して評価した。
【0027】
実施例1及び2のカレーソースは、いずれも比較例1と同等の品質のソースが得られた。特に実施例2のカレーソースは、比較例1と同等の好ましい乳感も得られた。比較例2のカレーソースは外観が餡掛けの餡のような透明感を有しているばかりか、粘性の持続性がなくて口溶けが良過ぎ、好ましい粘性ではなかった。比較例3のソースは、外観の濁りは好ましいものであったが、粘性のキレが悪く、好ましい粘性ではなかった。比較例4のソースは、外観の濁りと風味のボディ感は好ましいものであったが、粘性の滑らかさが不十分であった。比較例5のカレーソースの粘性は口当たりが軽く、比較例1のソースの粘性とはまるで異なる質を有しており、風味のボディ感が全く足りなかった。
【0028】
【表2】
【0029】
実施例3及び比較例6〜10
1.ホワイトシチューソース用粉末即席調理食品の調製
表3の配合に従い、実施例1と同様に原料を混合して、ホワイトシチューソース用粉末即席調理食品を調製した。
2.ホワイトシチューソースの調製
前記各ホワイトシチューソース用粉末即席調理食品(表3の合計質量(g))と水120gとを混合し、加熱した。この混合物が沸騰して粘性が発現したら加熱を終了し、ホワイトシチューソースを得た。
【0030】
【表3】
【0031】
結果を表4に示す。表4中の原料配合は、表3の配合で調製したホワイトシチューソース中の各原料の比率を表したもので、単位は質量%である。比較例6は小麦粉を使用したソースである。実施例3及び比較例7〜10は、比較例6(小麦粉を使用したホワイトシチューソース)と比較して評価した。
【0032】
実施例3のシチューソースは、比較例6と同等の品質のシチューソースであった。比較例7のシチューソースは、シチューらしい粘性には程遠いほどキレが良過ぎ、外観の濁り及び風味のボディ感とも不十分だった。比較例8のシチューソースは、濁りとボディ感は好ましいものであったが、粘性のキレが悪く、好ましい粘性ではなかった。比較例9のシチューソースは、外観の濁りと風味のボディ感は好ましいものであったが、粘性の滑らかさが不十分であった。比較例10のシチューソースは、風味のボディ感が不十分であった。
【0033】
【表4】
【0034】
実施例4及び5
表5の配合に従い、実施例1と同様にして、カレーソース用粉末即席調理食品を調製した。次いで、このカレーソース用粉末即席調理食品(表5の合計質量(g))と水90gとを混合し、実施例1と同様にしてカレーソースを得た。
【0035】
【表5】
【0036】
結果を表6に示す。表6中の原料配合は、表5の配合で調製したカレーソース中の各原料の比率を表したもので、単位は質量%である。実施例4及び5は、比較例1(小麦粉を使用したカレーソース)と比較して評価した。
実施例4及び5のカレーソースは、いずれも比較例1と同等の品質のカレーソースであった。
【0037】
【表6】
【0038】
実施例6及び7
表7の配合に従い、実施例3と同様にして、ホワイトシチューソース用粉末即席調理食品を調製した。次いで、このホワイトシチューソース用粉末即席調理食品(表7の合計質量(g))と水120gとを混合し、実施例3と同様にしてホワイトシチューソースを得た。
【0039】
【表7】
【0040】
結果を表8に示す。表8中の原料配合は、表5の配合で調製したホワイトシチューソース中の各原料の比率を表したもので、単位は質量%である。実施例6及び7は、比較例6(小麦粉を使用したホワイトシチューソース)と比較して評価した。
実施例6及び7のホワイトシチューソースは、いずれも比較例6と同等の品質のホワイトシチューソースであった。
【0041】
【表8】