(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0020】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に掛かる心音雑音除去装置について、
図1ないし
図7を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る心音雑音除去装置のハードウェア構成図である。心音雑音除去装置1は、CPU11、RAM12、ROM13、ハードディスク(HDとする)14、通信I/F15、及び入出力I/F16を備える。ROM13やHD14には、オペレーティングシステムや各種プログラムが格納されており、必要に応じてRAM12に読み出され、CPU11により各プログラムが実行される。
【0021】
通信I/F15は、他の装置間の通信を行うためのインタフェースである。入出力I/F16は、キーボードやマウス等の入力機器からの入力を受け付けたり、プリンタやモニタ等にデータを出力するためのインタフェースである。この入出力I/F16は、必要に応じて光磁気ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−R、DVD−R等のリムーバブルディスク等に対応したドライブを接続することができる。また、USBメモリ、SD(HC)カード、マイクロSD等の記憶媒体に対応したインターフェースとして機能する。各処理部はバスを介して接続され、情報のやり取りを行う。
【0022】
図2は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の機能ブロック図である。心音雑音除去装置1は、被測定者に取り付けられた心電信号用電極から得られる拍動に伴う電気的な変化である心電信号を取得する心電取得部21と、取得した心電信号のピークを検出し、そのピーク間隔rrを取得するピーク間隔取得部22と、ピーク間隔におけるサンプル数(以下、検出サンプル数という)を検出するサンプル数検出部23と、被測定者に取り付けられた集音機から得られる心音信号を取得する心音取得部24と、サンプル数検出部23で得られた心電信号のサンプル数を、予め設定された所定の基準サンプル数(2
nが好ましい)にリサンプリングする処理を心音信号に対して適用する第1リサンプリング部25と、リサンプリングされた心音信号を直交変換する直交変換部26と、直交変換により得られた周波数データから基本周波数成分と高調波成分のみを抽出するフィルタリング部27と、フィルタリングされた周波数データを逆直交変換して、ノイズが除去された基準サンプル数でリサンプリングされた心音信号を生成する逆直交変換部28と、逆直交変換された心音信号を検出サンプル数でリサンプリングして、ノイズが除去された検出時の心音信号を出力する第2リサンプリング部29とを備える。
【0023】
ピーク間隔取得部22及びサンプル数検出部23は、取得した心電信号におけるピークを検出し、そのピーク間の間隔を取得し、ピーク間のサンプル数を検出サンプル数として取得する。なお、ピーク検出は、一般的に知られているピークホールド回路等を用いることができ、例えば、特許文献2に示す技術を用いることができる。
【0024】
第1リサンプリング部25は、心電信号のピーク間隔と心音とが位相は異なるものの同期している特徴を利用して、取得した心電信号のピーク間隔の検出サンプル数を用いて心音信号を基準サンプル数でリサンプリングする。
図3は、心電信号と心音信号の一例を示す図である。
図3(A)が心電信号、
図3(B)が心音信号を示している。
図3(A)に示すように、例えば運動中のような激しい動きや振動がある場合であっても、心電信号は比較的高精度に取得することが可能である。しかしながら、ピーク間隔RRは、特に運動中などの場合は一定ではなく常に変化している。例えば、運動開始時は徐々に心拍数が上がっていき、運動中は上下の変動があり、運動終了時は徐々に心拍数が下がっていく。これに対して心音信号は、
図3(B)に示すように、特に運動中などの場合は、ほぼ雑音との区別をつけることが不可能なぐらい雑音が強く、心音のピークを検出するのは不可能である。そこで、本実施形態においては、心電信号と心音信号が同期していることを利用して、心電信号のピーク間隔に基づいて、心音信号のノイズを除去する。
【0025】
図4は、第1リサンプリング部25により心音信号をリサンプリング処理した場合の信号を示す図である。
図3(B)における心音信号に対して、
図3(A)に示す心電信号のピーク間隔RR1、RR2、RR3・・・に対応する検出サンプル数に基づいて、予め設定された基準サンプル数の間隔RRにリサンプリングする。すなわち、
図4に示すように、心音信号におけるRR1の間に必ず当該RR1に対応する心音のピークがあることから、心音信号におけるRR1の期間をRRにリサンプリングする。同様に、心音信号におけるRR2、RR3の期間をRRにリサンプリングする。このようにして心音信号全体をRR間の基準サンプル数でリサンプリングする。
【0026】
基準サンプル数にリサンプリングされると、直交変換部26が直交変換処理を行うことで、リサンプリングされた波形データを周波数データに変換する。直交変換処理の方法としては、例えば、DCT(Discrete Cosine Transform:離散コサイン変換)、MDCT(Modified DCT:変形離散コサイン変換)、LOT(Lapped Orthogonal Transform:重複直交変換)、WHT(Walsh-Hadamard Transform:ウォルシュ−アダマール変換)等を用いることができる。ここでは、仮にDCT変換を行うものとする。
【0027】
DCT変換は、複数のフィルタバンクとして機能し、N個のBPF(バンドパスフィルタ)が存在する。しかし、DCTのような直交変換ではデシメーション処理であるため、それぞれ帯域分割された信号はDC信号となる。すなわち、上記のように、リサンプリング処理により時間軸方向に正規化した処理を施せば、周期信号のように整数倍の高調波を持つ波形は、必ず直流成分に変換される。つまり、雑音成分は高調波構造を持たないことからAC成分となり、フィルタリング部27の処理により直流成分のみをLPF(ローパスフィルタ)で抽出することで雑音成分を除去することができる。
【0028】
なお、MDCTによる帯域分割を行う場合、基準サンプル数(2
n)と同じ次数nに分割する。直交変換による処理は、通常のBPFと異なり、変換後の各周波数帯域が
図5(A)に示すようにDC(0Hz)からBAND帯域の幅の結果となる。すなわち、
図5(B)に示すように、正規化された一定期間の生体信号は基本周波数の整数倍に周波数が発生し、この整数倍の周波数と直交変換後の帯域周波数を一致させることで、変換後の結果はゆっくりとしたDC変化のみとなり、雑音は
図5(C)に示すように整数倍以外の領域に発生する。
【0029】
直交変換後は、フィルタリング部27が、変換後の各周波数データごとに基本周波数成分及び高調波成分を抽出し、逆直交変換部28が、直交変換部26と逆の変換処理を行う。第2リサンプリング部29は、逆変換により生成された波形データを、サンプル数検出部23で検出された検出サンプル数でリサンプリングし、検出時のサンプル数に戻して出力する。出力結果の一例を
図6に示す。
図6の上部に示す波形が心電信号の波形であり、下部に示す波形がノイズが除去された心音信号である。
図6に示すように、本実施形態に係る処理を行うことで、心電信号に同期しノイズが除去された心音信号を検出することが可能となっている。
【0030】
次に、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作について説明する。
図7は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作を示すフローチャートである。まず、ピーク間隔取得部22が、心電取得部21が被測定者から取得した心電信号におけるピークを検出し、そのピーク間隔を求める(S1)。サンプル数検出部23が、得られたピーク間隔におけるサンプル数を検出サンプル数として求める(S2)。第1リサンプリング部25が、求めた検出サンプル数と予め設定されている基準サンプル数とを用いて、心音取得部24が取得した心音信号に対してリサンプリング処理を行う(S3)。具体的には、心電信号の検出サンプル数に相当する期間の心音信号を基準サンプル数の期間にリサンプリングする。
【0031】
なお、この基準サンプル数は、2
nに設定されることが望ましく、検出された検出サンプル数の平均値、最小サンプル数又は最大サンプル数を基準に設定されてもよい。特に、検出サンプル数の最大値以上で、且つ、直近の2
nに設定されることが望ましい。こうすることで、処理を効率よく行いつつ、補間処理における誤差を最小限に抑えることができる。
【0032】
基準サンプル数にリサンプリングされた心音信号に対して、直交変換部26が直交変換を行う(S4)。フィルタリング部27が、直交変換された周波数データにフィルタリング処理をして、基本周波数成分及び高調波成分を抽出する(S5)。すなわち、基本周波数成分及び高調波成分以外のノイズ成分を除去する。逆直交変換部28が、ノイズ成分が除去された周波数データに対して逆直交変換の処理を行う(S6)。第2リサンプリング部29が、逆直交変換で取得された信号データについて、S2で求めた検出サンプル数でリサンプリングする(S7)。この一連の処理により、元の心音信号からノイズ成分のみが除去された新たな心音信号が出力される。
【0033】
このように、本実施形態における心音雑音除去装置においては、心電信号のピーク間隔を取得し、心電信号と同時刻に検出された心音信号に対して、取得した前記ピーク間隔に対応する心音信号を、予め定められた基準サンプル数にリサンプリングし、リサンプリングされた前記心音信号からノイズ成分を除去するため、大部分が外部からのノイズ成分(例えば、運動中の服の擦れ、環境音、風を切る音等)となっている心音信号から、心電信号から得られるピーク間隔に応じた心音成分のみを抽出し、大部分のノイズを除去することができる。
【0034】
また、ノイズ成分の除去は、リサンプリングされた心音信号を直交変換し、直交変換後の周波数データから、基本波の周波数成分である基本周波数成分及び高調波の周波数成分である高調波成分を少なくとも抽出し、抽出された周波数データを逆直交変換し、逆直交変換後に前記心音信号をピーク間隔のサンプル数(検出サンプル数)にリサンプリングするため、心電信号に同期した心音信号の基本周波数成分及び高調波成分のみを抽出することができ、不要なノイズのみを確実に除去することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、拍動信号として心電信号を取得し、その心電信号を元に心音信号のノイズを除去する処理を説明したが、拍動信号として拍動に伴う血液の流れの変化である脈波信号を取得し、その脈波信号に基づいて上記のような処理により心音信号のノイズを除去するようにしてもよい。
【0036】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に掛かる心音雑音除去装置について、
図8ないし
図10を用いて説明する。本実施形態に係る心音雑音除去装置は、前記第1の実施形態に係る心音雑音除去装置の処理をより高精度にしたものであり、血液の脈波信号を取得し、心音信号と共に脈波信号を基準サンプル数でリサンプリングし、リサンプリングされたそれぞれの心音信号と脈波信号とを適応フィルタ(例えば、LMSフィルタ)でフィルタリングしてノイズを除去するものである。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0037】
図8は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の機能ブロック図である。本実施形態に係る心音雑音除去装置は、被測定者に取り付けられた心電信号用電極から得られる心電信号を取得する心電取得部21と、取得した心電信号のピークを検出し、そのピーク間隔rrを取得するピーク間隔取得部22と、ピーク間隔におけるサンプル数(以下、検出サンプル数という)を検出するサンプル数検出部23と、被測定者に取り付けられた集音装置から得られる心音信号を取得する心音取得部24と、耳たぶなどに取り付けた脈拍センサ(例えば、血中のヘモグロビンの量を測定する赤外線センサ)から血液の脈波信号を取得する脈波取得部81と、サンプル数検出部23で得られた心電信号のサンプル数を、予め設定された所定の基準サンプル数(2
nが好ましい)にリサンプリングする処理を心音信号及び脈波信号に対して適用する第1リサンプリング部25と、リサンプリングされた脈波信号を参照信号とし、リサンプリングされた心音信号について適応フィルタによるフィルタリング処理を行うフィルタリング部27と、フィルタリングされた心音信号を検出サンプル数でリサンプリングして、ノイズが除去された検出時の心音信号を出力する第2リサンプリング部29とを備える。
【0038】
脈波信号は、心音信号とより密接に同期しており、運動中などの激しい動きの最中でも比較的正確に測定することが可能である。そして、この脈波信号は、心音信号から若干遅れたタイミングで、且つ、心電信号のピーク間に1つのピークを有していることを利用する。すなわち、上記に示したように、心電信号のピーク間隔に基づいて、心音信号及び脈波信号を基準サンプリング数でリサンプリングし(リサンプリングの方法は、前記第1の実施形態の場合と同様である)、それぞれの信号のうち高精度な検出が容易で心音信号と密接に関係している脈波信号を参照信号として、適応フィルタにかける。
【0039】
図9は、適用フィルタによる処理を示すブロック図である。
図9に示すように、ノイズが含まれる心音信号を入力信号とし、比較的正確に取得できる脈波信号を参照信号として適応フィルタにかける。適応フィルタでは、心音信号と脈波信号とが比較され、その誤差を適応プロセッサにフィードバックすることで、誤差の二乗平均が最小となるようにフィルタ係数が制御される。その結果、出力としてノイズが除去された心音信号が得られる。そして、第2リサンプリング部29が、検出サンプル数でフィルタリングされた心音信号をリサンプリングすることで、ノイズが除去された検出時の心音信号を出力することができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作について説明する。
図10は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作を示すフローチャートである。まず、ピーク間隔取得部22が、心電取得部21が被測定者から取得した心電信号におけるピークを検出し、そのピーク間隔を求める(S1)。サンプル数検出部23が、得られたピーク間隔におけるサンプル数を検出サンプル数として求める(S2)。第1リサンプリング部25が、求めた検出サンプル数と予め設定されている基準サンプル数とを用いて、心音取得部24が取得した心音信号及び脈波取得部81が取得した脈波信号に対してリサンプリング処理を行う(S3)。なお、リサンプリング方法は、上述したように前記第1の実施形態の場合と同様であり、心音信号に対して行うリサンプリング処理と脈波信号に対して行うリサンプリング処理も同様の処理である。
【0041】
フィルタリング部27が、基準サンプル数にリサンプリングされた心音信号と脈波信号に対して、脈波信号をリファレンス信号として適応フィルタによるフィルタリング処理を行う(S4)。このフィルタリング処理により心音信号のノイズが除去される。そして、第2リサンプリング部29が、フィルタリングされた信号データについて、S2で求めた検出サンプル数でリサンプリングする(S5)。この一連の処理により、元の心音信号からノイズ成分のみが除去された新たな心音信号が出力される。
【0042】
このように、本実施形態に係る心音雑音除去装置においては、血液の脈波信号を取得し、取得した脈波信号を心音信号と同様にリサンプリングし、リサンプリングされた前記脈波信号を参照信号として適応フィルタにより前記心音信号のノイズを除去するため、心電信号よりも心音信号とより密接に同期している脈波信号を参照信号として利用することで、脈波信号と同期し、ノイズが除去されたクリアな心音信号を抽出することができる。
【0043】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る心音雑音除去装置について、
図11及び
図12を用いて説明する。本実施形態に係る心音雑音除去装置は、血液の脈波信号を参照信号として、心音信号を適応フィルタ(例えば、LMSフィルタ)でフィルタリングしてノイズを除去するものである。なお、本実施形態において、前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0044】
図11は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の機能ブロック図である。本実施形態に係る心音雑音除去装置は、被測定者に取り付けられた集音機から得られる心音信号を取得する心音取得部24と、耳たぶなどに取り付けた脈拍センサ(例えば、血中のヘモグロビンの量を測定する赤外線センサ)から血液の脈波信号を取得する脈波取得部81と、脈波取得部81が取得した脈波信号を参照信号とし、心音取得部24が取得した心音信号について適応フィルタによるフィルタリング処理を行い、結果を出力するフィルタリング部27とを備える。
【0045】
前記第2の実施形態において上述したように、脈波信号は、心音信号と密接に同期しており、運動中などの激しい動きの最中でも比較的正確に測定することが可能である。そして、この脈波信号は、心音信号から若干遅れたタイミングでピークを有していることを利用する。すなわち、比較的高精度な検出が容易で、心音信号と密接に関係している脈波信号を参照信号として適応フィルタにかけることで、心音信号のノイズを除去して出力することが可能となる。なお、適応フィルタの処理は、上述した
図9の処理と同様である。
【0046】
次に、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作について説明する。
図12は、本実施形態に係る心音雑音除去装置の動作を示すフローチャートである。まず、心音取得部24が心音信号を取得する(S1)。また、同時に脈波取得部81が脈波信号を取得する(S2)。フィルタリング部27が、取得した心音信号と脈波信号に対して、脈波信号をリファレンス信号として適応フィルタによるフィルタリング処理を行う(S3)。このフィルタリング処理により心音信号のノイズが除去された新たな心音信号が出力される。
【0047】
このように、本実施形態に係る心音雑音除去装置においては、心音信号を取得し、血液の脈波信号を取得し、前記脈波信号を参照信号として適応フィルタにより前記心音信号のノイズを除去するため、シンプルな装置構成で、大部分が外部からのノイズ成分となっている心音信号から、脈波信号に同期する心音成分のみを抽出し、大部分のノイズを除去することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、耳たぶなどに取り付けた脈拍センサから血液の脈波信号を取得し、それを参照信号として利用する処理を説明したが、例えば、心電信号を取得し、その心電信号を参照信号として利用してノイズを除去するようにしてもよい。