(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パルスが入力され、入力されたパルスをノイズ低減のためのフィルタに通して前記パルスを所定波形の三角波信号へ変換する変換部と、該変換部が変換した三角波信号のピーク値を検出する検出手段とを備えるパルス処理装置において、
前記変換部が変換した三角波信号の信号値が所定の閾値を超えてからピーク値に達するまでの第1立ち上がり時間、前記三角波信号の信号値がピーク値から前記閾値以下になるまでの第1立下り時間、又は前記第1立ち上がり時間及び前記第1立下り時間を合計した第1合計時間を計測する計測手段と、
前記第1立ち上がり時間、前記第1立下り時間又は前記第1合計時間と、前記検出手段が検出したピーク値から前記閾値を差し引いた値で前記ピーク値を除した値とに応じた値のデッドタイムを特定する特定手段と
を備えることを特徴とするパルス処理装置。
前記デッドタイムは、前記三角波信号の信号値が所定の信号基準から立ち上がってピーク値に達するまでの第2立ち上がり時間と、前記三角波信号の信号値がピーク値から前記信号基準に戻るまでの第2立下り時間とを合計した第2合計時間に、前記第2立ち上がり時間を加算した時間であり、
前記第2立ち上がり時間は、前記ピーク値から前記閾値を差し引いた値で前記ピーク値を除した値を、前記第1立ち上がり時間に乗じた値であり、
前記第2立ち上がり時間と前記第2立下り時間との比率は一定であること
を特徴とする請求項1に記載のパルス処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、信号値が閾値を超えてからピーク値に達するまでの時間を立ち上がり時間としているので、信号値がゼロから立ち上がってからの真の立ち上がり時間に比べて、検出した立ち上がり時間は短くなる。このため、パルス処理装置が検出するデッドタイムは不正確であり、真の値よりも短いという問題がある。検出するデッドタイムが不正確である結果、放射線検出時の経過時間の補正が不正確になり、放射線検出の精度が悪化する。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、三角波信号の波形に基づいて正確にデッドタイムを特定することができるパルス処理装置、及び放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るパルス処理装置は、パルスが入力され、入力されたパルスをノイズ低減のためのフィルタに通して前記パルスを所定波形の三角波信号へ変換する変換部と、該変換部が変換した三角波信号のピーク値を検出する検出手段とを備えるパルス処理装置において、前記変換部が変換した三角波信号の信号値が所定の閾値を超えてからピーク値に達するまでの第1立ち上がり時間、前記三角波信号の信号値がピーク値から前記閾値以下になるまでの第1立下り時間、又は前記第1立ち上がり時間及び前記第1立下り時間を合計した第1合計時間を計測する計測手段と、前記第1立ち上がり時間、前記第1立下り時間又は前記第1合計時間
と、前記検出手段が検出したピーク値
から前記閾値
を差し引いた値で前記ピーク値を除した値とに応じた値のデッドタイムを特定する特定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るパルス処理装置は、前記デッドタイムは、前記三角波信号の信号値が所定の信号基準から立ち上がってピーク値に達するまでの第2立ち上がり時間と、前記三角波信号の信号値がピーク値から前記信号基準に戻るまでの第2立下り時間とを合計した第2合計時間に、前記第2立ち上がり時間を加算した時間であ
り、前記第2立ち上がり時間は、前記ピーク値から前記閾値を差し引いた値で前記ピーク値を除した値を、前記第1立ち上がり時間に乗じた値であり、前記第2立ち上がり時間と前記第2立下り時間との比率は一定であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るパルス処理装置は、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間と三角波信号のピーク値との組み合わせに対応づけて、
前記第1立ち上がり時間、前記第1立下り時間又は前記第1合計時間と前記ピーク値から前記閾値を差し引いた値で前記ピーク値を除した値とから予め計算された前記デッドタイムの値を記憶している記憶部を更に備え、前記特定手段は、前記計測手段が計測した第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間と前記検出手段が検出したピーク値との組み合わせに対応づけられた前記デッドタイムの値を前記記憶部から読み出すように構成してあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るパルス処理装置は、前記特定手段は、前記計測手段が計測した第1立ち上がり時間t
1 、前記検出手段が検出したピーク値P、前記閾値L、及び三角波信号の立ち上がり時間に対する立下り時間の比率Rを用いて、前記デッドタイムを(2+R)t
1 ・P/(P−L)と計算するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線検出時に放射線のエネルギーに応じたパルスを出力する放射線検出器と、該放射線検出器が出力したパルスを入力され、入力されたパルスを変換した三角波信号のピーク値を検出し、ピーク値検出のデッドタイムを特定する本発明のパルス処理装置と、該パルス処理装置が特定した前記デッドタイムを用いて、放射線検出時の経過時間を補正する手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、パルス処理装置は、入力されたパルスを三角波信号へ変換し、三角波信号の信号値が閾値からピーク値に達するまでの第1立ち上がり時間、信号値がピーク値から閾値以下になるまでの第1立下り時間、又は第1立ち上がり時間及び第1立下り時間を合計した第1合計時間を計測する。横軸を時間とし縦軸を信号値としたグラフ上では、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間を底辺とし、ピーク値から閾値を減算した値を高さとする三角形と、信号値が信号基準からピーク値に達するまでの第2立ち上がり時間、信号値がピーク値から信号基準へ戻るまでの第2立下り時間、又は第2立ち上がり時間及び第2立下り時間を合計した第2合計時間を底辺とし、ピーク値を高さとする三角形とは相似である。この相似関係によれば、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間と、第2立ち上がり時間、第2立下り時間又は第2合計時間との比は、ピーク値から閾値を減算した値とピーク値との比で表される。この関係に基づいて、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間から、計測が困難である第2立ち上がり時間、第2立下り時間又は第2合計時間が求められる。第2立ち上がり時間、第2立下り時間又は第2合計時間からは、三角波信号のピーク値の検出に伴うデッドタイムが求められる。従って、パルス処理装置は、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間、並びにピーク値及び閾値に基づいて、デッドタイムを特定することができる。放射線検出装置は、放射線検出器で放射線のエネルギーに応じたパルスを出力し、パルス処理装置でパルスの三角波信号への変換及びデッドタイムの特定を行い、デッドタイムを用いて放射線検出時の経過時間を補正する。
【0014】
また、本発明においては、パルス処理装置は、第2合計時間に第2立ち上がり時間を加算した時間をデッドタイムとすることにより、正確なデッドタイムを特定することができる。
【0015】
また、本発明においては、パルス処理装置は、第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間と三角波信号のピーク値との組み合わせに対応づけて、デッドタイムの値を記憶しておき、計測した第1立ち上がり時間、第1立下り時間又は第1合計時間と検出したピーク値とに応じて、デッドタイムを読み出す。これにより、パルス処理装置は、迅速にデッドタイムを特定する。
【0016】
また、本発明においては、パルス処理装置は、計測した第1立ち上がり時間及び検出したピーク値から、三角形の相似関係に基づいて、正確にデッドタイムを計算する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、パルス処理装置は、パルス強度検出の正確なデッドタイムを容易に特定する。従って、パルス処理装置を利用した放射線検出装置は、放射線検出時の経過時間を正確に補正することが可能となり、放射線検出の精度が向上する等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。放射線検出装置は、放射線検出器1と、パルス処理装置2と、分析部3とを備えている。放射線検出器1は、放射線検出素子11と、プリアンプ12とを備えている。放射線検出素子11は、SDD(Silicon Drift Detector)等の半導体放射線検出素子であり、入射した放射線のエネルギーに応じた電荷を発生し、発生した電荷に応じたパルス電流を出力する。プリアンプ12は、放射線検出素子11が出力したパルス電流を電圧パルスに変換し、放射線検出時に一段のステップ状に信号値が上昇するパルスを生成する。放射線検出器1は、プリアンプ12が生成したパルスを出力する。
【0020】
パルス処理装置2は、DPP(デジタルパルスプロセッサ)である。放射線検出器1が出力したパルスは、パルス処理装置2へ入力される。パルス処理装置2は、A/D(アナログ/デジタル)変換部21を備えている。A/D変換部21は、放射線検出器1からパルスを入力され、入力されたパルスをA/D変換する。A/D変換部21にはフィルタ部(変換部)22が接続されている。フィルタ部22は、パルスを所定のフィルタに通して三角波信号へ変換する処理を行う。フィルタ部22での処理により、パルスに含まれるノイズが低減され、所定の増幅が行われる。
【0021】
図2は、放射線検出器1が出力するパルス及び三角波信号の例を示す模式的特性図である。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。
図2Aは放射線検出器1が出力するパルスを示している。放射線検出器1は、放射線を検出する都度、一段のステップ状に信号値が上昇するパルスを出力する。信号値が上昇するステップの高さを、パルス強度とする。パルス強度は放射線のエネルギーに対応する。
図2Bは、
図2Aに示すステップ状のパルスをフィルタ部22で変換した三角波信号を示す。三角波信号は、信号値がゼロになる所定の信号基準から信号値が一定の変化率でピーク値まで上昇し、更に信号値が一定の変化率で信号基準まで下降する信号である。信号基準は例えばゼロ電位である。三角波信号のピーク値はパルス強度に対応し、従って放射線のエネルギーに対応する。また、フィルタ部22は、三角波信号の波形が予め定められた波形になるようにフィルタ処理の特性が定められている。例えば、フィルタ部22は、三角波信号の波形が二等辺三角形になるようにフィルタ処理の特
性が定められている。なお、放射線検出器1は、ステップ状のパルスを出力する形態に限らず、立ち上がり及び立下りを有するパルスを出力する形態であってもよい。この形態では、フィルタ部22は、立ち上がり及び立下りを有するパルスを三角波信号に変化するように構成されている。
【0022】
フィルタ部22は、処理部23に接続されている。処理部23は、演算を行うプロセッサ及び演算に伴う一時的な情報を記憶するメモリを含んで構成されている。処理部23には、不揮発性のメモリで構成された記憶部24が接続されている。なお、記憶部24は処理部23の内部に備えられてあってもよい。処理部23は、フィルタ部22がパルスから変換した三角波信号のピーク値をピークホールドにより検出し、また、ピーク値検出のデッドタイムを特定する処理を行う。また、処理部23は、時間を計測する機能を備えている。
【0023】
図3は、デッドタイムを説明する説明図である。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。実線で示した三角波信号と破線で示した三角波信号の時間幅は同一である。図中に実線で示す三角波信号のピーク値をピークホールドによって正確に求めるためには、三角波信号が立ち上がってピーク値に達するまでに他の三角波信号が重ならないことが必要である。このためには、三角波信号が立ち上がる前に以前の三角波信号の立下りが終了していることが必要である。また、三角波信号の信号値がピーク値に達するまでに次の三角波信号が立ち上がらないことが必要である。
図3中には、実線で示す三角波信号のピーク値を正確に求めるために必要な条件を満たした以前の三角波信号及び次の三角波信号を破線で示している。
図3に示す以前の三角波信号と次の三角波信号との時間間隔は、三角波信号の立ち上がり時間及び立下り時間の合計時間に更に立ち上がり時間を加算した時間である。この時間は、一つの三角波信号のピーク値を正確に求めるために必要な時間である。また、この時間中は、他の三角波信号のピーク値を検出することはできない。このため、この時間はデッドタイムと呼ばれる。一つのパルスの入力及び三角波信号のピーク値の検出に伴ってデッドタイムが発生し、このデッドタイムの間は、他にパルスの入力に応じた三角波のピーク値の検出ができない。放射線検出器1からパルス処理装置2へのパルスの入力に応じた三角波のピーク値の検出ができないので、このデッドタイムの間は、放射線検出装置は放射線を検出することができない。従って、ピーク値検出のデッドタイムは、放射線検出のデッドタイムになる。デッドタイムの間は実際には放射線検出が行われていないので、放射線の計数率を計算する際にはデッドタイムを考慮する必要がある。
【0024】
更に、処理部23には、MCA(マルチチャネルアナライザ)25が接続されている。処理部23は、検出した三角波信号のピーク値をMCA25へ入力し、MCA25は、ピーク値別に、三角波信号のピーク値を検出することによってパルスを検出した回数をカウントする。また、処理部23は、特定したデッドタイムを用いて、放射線検出時の経過時間を補正する処理を行う。具体的には、処理部23は、放射線検出時の経過時間を計測し、デッドタイムの間は時間計測を停止することにより、放射線検出時の経過時間からデッドタイムを差し引いた正味の放射線検出時間を計測する。パルス処理装置2は、三角波信号のピーク値とMCA25がカウントしたカウント数との関係を示すデータ、及び補正後の放射線検出時間を示すデータを出力する。
【0025】
分析部3は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータで構成されている。分析部3は、パルス処理装置2が出力したデータを入力され、パルスのカウント数及び補正した放射線検出時間から、パルスに対応する放射線の計数率を計算する。また、分析部3は、三角波信号のピーク値とカウント数との関係から、三角波信号のピーク値が対応する放射線のエネルギーと放射線の計数率とを関係づけた放射線のスペクトルを生成する処理を行う。分析部3は、更に、生成した放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析等の更なる処理を行ってもよい。
【0026】
図4は、デッドタイムを特定する方法を説明する説明図である。
図4には、横軸を時間とし縦軸を信号値としたグラフを示している。三角波信号の波形は二等辺三角形であるとする。三角波信号の真の立ち上がり時間は、図中に信号値ゼロで示した信号基準から信号値が立ち上がってピーク値に達するまでの第2立ち上がり時間T
1 である。しかしながら、ノイズのために、信号基準からの立ち上がりを処理部23が検出することは困難であり、第2立ち上がり時間T
1 を直接に計測することは困難である。そこで、処理部23は、予め所定の閾値Lを記憶しており、信号値が閾値Lを超えてからピーク値に達するまでの第1立ち上がり時間t
1 を計測する。また、処理部23は、三角波信号のピーク値Pを検出する。ピーク値Pは、信号基準から三角波信号のピークまでの高さの値である。また、閾値Lは信号基準からの高さである。
図4に示すグラフ上では、第1立ち上がり時間t
1 を底辺とし、ピーク値Pから閾値Lを減算した値を高さとする三角形と、第2立ち上がり時間T
1 を底辺としピーク値Pを高さとする三角形とは、相似である。相似な三角形の底辺同士の比は、高さ同士の比と同一である。従って、第1立ち上がり時間t
1 と第2立ち上がり時間T
1 との間には、下記の(1)式の関係が成り立つ。
t
1:T
1=(P−L):P …(1)
【0027】
(1)式を整理すると、第2立ち上がり時間T
1 は、下記の(2)式で表される。
T
1=t
1・P/(P−L) …(2)
【0028】
三角波信号の波形は二等辺三角形であるので、三角波信号の信号値がピーク値から閾値以下になるまでの第1立下り時間t
2 は、第1立ち上がり時間t
1 と同じ値である。同様に、三角波信号の信号値がピーク値から信号基準に戻るまでの第2立下り時間T
2 は、第2立ち上がり時間T
1 と同じ値である。デッドタイムT
D は、第2立ち上がり時間T
1 及び第2立下り時間T
2 を合計した時間に更に第2立ち上がり時間T
1 を加算した時間である。従って、デッドタイムT
D は、下記の(3)式で表される。
T
D=(T
1+T
2)+T
1
=3t
1・P/(P−L) …(3)
【0029】
(3)式によれば、デッドタイムT
Dは、第1立ち上がり時間t
1 、ピーク値P及び閾値Lで表される。従って、処理部23は、計測した第1立ち上がり時間t
1 、検出したピーク値P、及び予め記憶している閾値Lを用いて、デッドタイムT
D を計算することができる。実際には、第1立ち上がり時間t
1 、ピーク値P及び閾値Lを用いて予め計算したデッドタイムT
D の値を第1立ち上がり時間t
1 及びピーク値Pの組み合わせに対応づけて記録したルックアップテーブルを、記憶部24が記憶している。処理部23は、記憶部24が記憶しているルックアップテーブルから、計測した第1立ち上がり時間t
1 及び検出したピーク値Pの組み合わせに対応づけられたデッドタイムT
D の値を読み出すことによって、デッドタイムT
D を特定する。ルックアップテーブルを用いることにより、デッドタイムT
D を迅速に特定することができる。
【0030】
図4に示すように、従来技術で得られるデッドタイムは、第1立ち上がり時間t
1 及び第1立下り時間t
2 を合計した時間に更に第1立ち上がり時間t
1 を加算した時間である。このため、従来のデッドタイムは、真のデッドタイムT
D よりも短く、不正確である。本発明では、従来よりも正確なデッドタイムを容易に特定することが可能である。
【0031】
図5は、パルス処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。放射線検出素子11に放射線が入射した場合に、放射線検出器1は、放射線のエネルギーに応じたパルスを出力し、パルス処理装置2にはステップ状のパルスが入力される(S1)。A/D変換部21は、入力されたパルスをA/D変換する(S2)。A/D変換部21は、A/D変換したパルスをフィルタ部22へ入力する。フィルタ部22は、パルスに対してフィルタ処理を行う(S3)。フィルタ処理により、フィルタ部22はパルスに含まれるノイズ成分を低減し、パルスを三角波信号へ変換する。フィルタ部22は、三角波信号を処理部23へ入力する。
【0032】
処理部23は、ピークホールドの処理により三角波信号のピーク値を検出し(S4)、信号値が閾値Lを超えてからピーク値に達するまでの第1立ち上がり時間t
1 を計測する(S5)。処理部23は、次に、記憶部24が記憶しているルックアップテーブルから、計測した第1立ち上がり時間t
1 及び検出したピーク値Pの組み合わせに対応づけられたデッドタイムT
D の値を読み出すことによって、デッドタイムT
D を特定する(S6)。なお、処理部23は、S6で、計測した第1立ち上がり時間t
1 及び検出したピーク値Pから(3)式に従ってデッドタイムT
D を計算する処理を行ってもよい。処理部23は、次に、特定したデッドタイムを用いて、放射線検出の経過時間を補正する(S7)。処理部23は、検出した三角波信号のピーク値をMCA25へ入力する。MCA25は、処理部23から入力されたピーク値別に、三角波信号のピーク値を検出することによってパルスを検出した回数をカウントする(S8)。パルス処理装置2は、以上で処理を終了する。放射線検出器1からパルスが入力される都度、パルス処理装置2はS1〜S8の処理を実行する。
【0033】
以上詳述した如く、本実施の形態においては、パルス処理装置2は、放射線検出器1から入力されたパルスを三角波信号へ変換し、三角波信号の第1立ち上がり時間と第2立ち上がり時間との比をピーク値から閾値を減算した値とピーク値との比で表した関係に基づいて、第1立ち上がり時間及びピーク値からピーク値検出のデッドタイムを求める。ピーク値から閾値を減算した値とピーク値との比を用いることにより、信号基準からの三角波信号の立ち上がり及び信号基準までの立下りを含んだ正確なデッドタイムを容易に特定することが可能である。放射線検出のデッドタイムを正確に特定することができるので、放射線検出時の経過時間を正確に補正して、正味の放射線検出時間及び放射線の計数率を正確に計測することが可能となり、放射線検出の精度が向上する。また、従来においても、デッドタイムを長めに見積もることによって、放射線検出の精度を向上させることが可能であったものの、放射線検出の効率が低下するという問題があった。本実施の形態においては、放射線検出のデッドタイムを正確に特定することができるので、デッドタイムが長すぎることがなく、放射線検出の精度を向上させながらも、放射線検出の効率の低下を防止することができる。
【0034】
なお、フィルタ部22がパルスを変換した三角波信号の波形は、二等辺三角形以外の三角形であってもよい。フィルタ部22は、三角波信号の波形が、立ち上がり時間と立下り時間との比率が一定になる予め定められた波形になるようにフィルタ処理の特性が定められている。三角波信号の立ち上がり時間に対する立下り時間の比率をRとする。第1立下り時間t
2 は、第1立ち上がり時間t
1 のR倍である。同様に、第2立下り時間T
2 は、第2立ち上がり時間T
1 のR倍である。従って、この形態のデッドタイムT
D は、下記の(4)式で表される。
T
D=(2+R)t
1・P/(P−L) …(4)
【0035】
この形態においては、処理部23は、S6で、第1立ち上がり時間t
1 、ピーク値P、比率R及び閾値Lから(4)式に従って得られるデッドタイムT
D を特定する処理を行う。この形態においても、処理部23は、計測した第1立ち上がり時間t
1 及び検出したピーク値Pから正確なデッドタイムT
D を特定することが可能である。
【0036】
なお、
図1に示した放射線検出装置の機能構成は、最小限の機能構成であり、パルス処理装置2は、必要に応じて増幅部等のその他の機能部を更に備えた形態であってもよい。
【0037】
(実施の形態2)
実施の形態2では、三角波信号の信号値がピーク値から閾値以下になるまでの第1立下り時間を用いてデッドタイムを特定する形態を示す。放射線検出装置及びパルス処理装置2の構成は実施の形態1と同様である。
【0038】
図4に示すように、第1立下り時間t
2を底辺とし、ピーク値Pから閾値Lを減算した値を高さとする三角形と、第2立下り時間T
2 を底辺としピーク値Pを高さとする三角形とは、相似である。従って、第1立下り時間t
2 と第2立下り時間T
2 との比は、ピーク値Pから閾値Lを減算した値とピーク値Pとの比で表され、第2立下り時間T
2 は、下記の(5)式で表される。
T
2=t
2・P/(P−L) …(5)
【0039】
三角波信号の波形が二等辺三角形である場合は、第2立ち上がり時間T
1 は第2立下り時間T
2 と同じ値である。また、デッドタイムT
D は、第2立ち上がり時間T
1 及び第2立下り時間T
2 を合計した時間に更に第2立ち上がり時間T
1 を加算した時間である。従って、デッドタイムT
D は、下記の(6)式で表される。
T
D=3t
2・P/(P−L) …(6)
【0040】
三角波信号の立ち上がり時間に対する立下り時間の比率がRである場合は、第2立ち上がり時間T
1 は、第2立下り時間T
2 の(1/R)倍である。従って、この場合のデッドタイムT
D は、下記の(7)式で表される。
T
D=(1+2/R)t
2・P/(P−L) …(7)
【0041】
本実施の形態では、処理部23は、実施の形態1でのS5の代わりに、第1立下り時間t
2 を計測する処理を行う。また、処理部23は、S6で、第1立下り時間t
2 及びピーク値Pから(6)式又は(7)式に従って得られるデッドタイムT
D を特定する処理を行う。この処理では、処理部23は、記憶部24が記憶しているルックアップテーブルから第1立下り時間t
2 及びピーク値Pの組み合わせに対応づけられたデッドタイムT
D の値を読み出すか、又は(6)式若しくは(7)式に従ってデッドタイムT
D を計算する。この形態においても、パルス処理装置2は、従来よりも正確なデッドタイムを特定することが可能であり、放射線検出の精度を向上させることができる。
【0042】
なお、パルス処理装置2は、第1立ち上がり時間t
1 及び第1立下り時間t
2 の両方を計測する形態であってもよい。第2立ち上がり時間T
1 は(2)式で表され、第2立下り時間T
2 は(5)式で表されるので、この形態でのデッドタイムT
D は、下記の(8)式で表される。
T
D=(2t
1+t
2)・P/(P−L) …(8)
【0043】
この形態では、処理部23は、実施の形態1でのS5の代わりに、第1立ち上がり時間t
1 及び第1立下り時間t
2 を計測する処理を行う。また、処理部23は、S6で、第1立ち上がり時間t
1 、第1立下り時間t
2 及びピーク値Pから(8)式に従って得られるデッドタイムT
D を特定する処理を行う。この形態においても、パルス処理装置2は、従来よりも正確なデッドタイムを特定することが可能であり、放射線検出の精度を向上させることができる。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態3では、三角波信号の信号値が閾値を超えてから閾値以下になるまでの時間を用いてデッドタイムを特定する形態を示す。放射線検出装置及びパルス処理装置2の構成は実施の形態1と同様である。
【0045】
図6は、実施の形態3においてデッドタイムを特定する方法を説明する説明図である。
図6には、横軸を時間とし縦軸を信号値としたグラフを示している。実施の形態3においては、処理部23は、第1立ち上がり時間t
1 及び第1立下り時間t
2 を合計した第1合計時間t
3 を計測する。第1合計時間t
3 は、三角波信号の信号値が閾値を超えてから閾値以下になるまでの時間である。第2立ち上がり時間T
1 及び第2立下り時間T
2 を合計した第2合計時間T
3 は、三角波信号の信号値が信号基準から立ち上がってから信号基準へ戻るまでの時間であり、三角波信号の真の時間幅である。
図6に示すグラフ上では、第1合計時間t
3 を底辺とし、ピーク値Pから閾値Lを減算した値を高さとする三角形と、第2合計時間T
3 を底辺としピーク値Pを高さとする三角形とは、相似である。従って、第1合計時間t
3 と第2合計時間T
3 との比はピーク値Pから閾値Lを減算した値とピーク値Pとの比で表され、第2合計時間T
3 は下記の(9)式で表される。
T
3=t
3・P/(P−L) …(9)
【0046】
三角波信号の波形が二等辺三角形である場合は、第2立ち上がり時間T
1 は第2合計時間T
3 の1/2である。また、デッドタイムT
D は、第2合計時間T
3 に第2立ち上がり時間T
1 を加算した時間である。従って、デッドタイムT
D は、下記の(10)式で表される。
T
D=(3/2)t
3・P/(P−L) …(10)
【0047】
三角波信号の立ち上がり時間に対する立下り時間の比率がRである場合は、第2立ち上がり時間T
1 は第2合計時間T
3 の1/(1+R)である。従って、デッドタイムT
D は、下記の(11)式で表される。
T
D=(1+1/(1+R))t
3 ・P/(P−L) …(11)
【0048】
本実施の形態では、処理部23は、実施の形態1でのS5の代わりに、第1合計時間T
3 を計測する処理を行う。また、処理部23は、S6で、第1合計時間T
3 及びピーク値Pから(10)式又は(11)式に従って得られるデッドタイムT
D を特定する処理を行う。この処理では、処理部23は、記憶部24が記憶しているルックアップテーブルから第1合計時間T
3 及びピーク値Pの組み合わせに対応づけられたデッドタイムT
D の値を読み出すか、又は(10)式若しくは(11)式に従ってデッドタイムT
D を計算する。この形態においても、パルス処理装置2は、従来よりも正確なデッドタイムを特定することが可能であり、放射線検出の精度を向上させることができる。
【0049】
なお、以上の実施の形態1〜3においては、A/D変換部21及びMCA25をパルス処理装置2の内部に備えた形態を示したが、本発明は、パルス処理装置2の外部にA/D変換部21又はMCA25を備えた形態であってもよい。また、放射線検出装置は、分析部3を備えていない形態であってもよい。また、実施の形態1〜3においては、デッドタイムを用いて放射線検出時の経過時間を補正する処理をパルス処理装置2で行う形態を示したが、放射線検出装置は、デッドタイムを用いて放射線検出時の経過時間を補正する処理をパルス処理装置2の外部で行う形態であってもよい。