特許第6305059号(P6305059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305059
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20180326BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180326BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-528716(P2013-528716)
(86)(22)【出願日】2011年9月20日
(65)【公表番号】特表2013-541147(P2013-541147A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2011066300
(87)【国際公開番号】WO2012038412
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年9月19日
【審判番号】不服2016-13843(P2016-13843/J1)
【審判請求日】2016年9月15日
(31)【優先権主張番号】10177833.0
(32)【優先日】2010年9月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ−ドブリック,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エヴァルト,バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ランパート,ジョーダン ケイス
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 ▲辻▼ 弘輔
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−270184(JP,A)
【文献】 特開2006−139945(JP,A)
【文献】 特開2002−352804(JP,A)
【文献】 特開2007−18828(JP,A)
【文献】 特開2009−193780(JP,A)
【文献】 国際公開第00/76016(WO,A1)
【文献】 特開2009−123463(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/040950(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物、又は酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物の対応するアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩を用いて、カチオンとしてのリチウム及び一以上の遷移金属を含有する複合酸化物を化学的に処理する工程、
を含み、
前記酸素含有の有機リン化合物が、O=P(OR、O=PR(OR、O=P(R(OR)、O=P(R、P(OR、PR(ORから選ばれ、及び
前記酸素含有の有機硫黄化合物が、OS(OR、OSR(OR)、OS(R、OS(OR、OSR(OR)、OS(R、S(OR、SR(OR)、OS(OR)OH、OSR(OH)、OS(OR)OH、又はOSR(OH)から選ばれ、
及びRは、C−C−アルキル基から選択され、
及びRは、C−C−アルキル基から選択され、
は、水素、フェニル基、及びC−C−アルキル基から選択され、
前記複合酸化物は、一般式(I)、(Ia)及び(Ib)の化合物から選択され、
Li (I)
Li1+t1−t (Ia)
Li1+t2−t4−a (Ib):
ここで、一般式(I)の変数について、
Mは、元素の周期律表の3〜12族の一以上の金属であり、
xは1〜2の範囲であり、
yは、2〜4の範囲であり、
zは0.5〜1.5の範囲であり、
及び一般式(Ia)、(Ib)の変数について、
aは、0〜0.4の範囲であり、
tは、0〜0.4の範囲であり、
Mは、一般式(I)の定義と同様に定義され、
更に上記工程の後に、以下の工程、
未反応の有機硫黄化合物又は有機リン化合物、任意の副生成物、及び使用された任意の溶媒を除去する工程、
を含み、及び上記工程の後に、以下の工程、
300℃〜500℃で熱処理する工程、
を含み、及び
前記化学的に処理する工程において、前記複合酸化物が、炭素及びポリマーバインダから選択される他の一以上の電極構成成分と混合されて化学的に処理されることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項2】
一般式(I)の化合物のM及び一般式(Ia)の化合物の1−t、Ni0.33Mn0.33Co0.33、Ni0.5Mn0.3Co0.2、Ni0.4Mn0.2Co0.4、Ni0.22Mn0.66Co0.12、Ni0.4Co0.3Mn0.3、Ni0.45Co0.1Mn0.45、Ni0.4Co0.1Mn0.5、及びNi0.5Co0.1Mn0.4から選択されることを特徴とする請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
前記酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物、又はこれらのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩を用いて、
気相又は液相中において、前記カチオンとしてのリチウム及び一以上の遷移金属を含有する複合酸化物を化学的に処理する請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の製造方法に関し、特に、一以上の酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物、又は酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物の対応するアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩、又は酸素含有の有機硫黄化合物若しくは有機リン化合物の十分(完全)にアルキル化された誘導体を用いて、カチオンとしてのリチウム及び一以上の遷移金属を含有する複合酸化物を処理する工程を含む製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、本発明の製造方法により得られる電極材料、及びそれを電気化学セルの製造のために使用する方法に関する。さらに、本発明は、一以上の本発明の電極材料を含む電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0003】
導電物質類としてリチウムイオンを用いる電池用の有効な電極材料の模索により、これまで、多数の材料、例えば、リチウム含有のスピネルや複合酸化物が提案されている。リチウム含有のスピネルや複合酸化物は、例えば、リチウム化ニッケル−マンガン−コバルト酸化物及びリン酸鉄リチウムである。現在特に注目すべきは、複合酸化物である。
【0004】
一般的に非常に高重量の電極等を用いる電気化学セルのエネルギー密度を向上させるために、充電/放電性能が向上した改良された電極材料が絶えず研究されている。
【0005】
さらに、非常に安定した電気化学セルを提供する正極材料に関心がもたれている。この目的のために、負極材料は、電極及び特に使用される溶媒に対する反応を最小限とすべきである。これは、セル内においてイオン伝導を妨げる化合物が反応により生じ、電気化学セルの長期安定性に悪影響を与えるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2009/0286157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
US2009/0286157には、リチウムイオン電池の動作の最中において発生するガスを低減することのできるリチウムイオン電池用の電極表面の改質方法が提案されている。この電極表面の改質方法は、電極材料とシラン又は有機金属化合物の反応を基本とするものである。しかし、提案されたシラン及び有機金属化合物の多くは、製造が煩雑で取り扱いが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、冒頭に定義された製造方法(略して「本発明による方法」とも記載する)が発見された。
【0009】
本明細書等において、冒頭に定義された有機硫黄化合物を略して「有機硫黄化合物」とも記載し、冒頭に定義された有機リン化合物を略して「有機リン化合物」とも記載する。
【0010】
本発明の方法は、リチウム及び一以上の遷移金属をカチオンとして含む複合酸化物から進行する。遷移金属は、好ましくは二種以上、より好ましくは三種以上の異なる遷移金属である。
【0011】
複合酸化物は、10種以下、より好ましくは5種以下の異なる遷移金属をカチオンとして含む。
【0012】
「カチオンとして含む」という表現は、当該カチオンが単に本発明において使用される複合酸化物内において痕跡として存在することを意味するものではなく、複合酸化物における金属の全含有量を基準として、2質量%以上、より好ましくは5質量%以上の割合で含まれることを意味すると解されるべきである。
【0013】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、カチオンとして三種の異なる遷移金属を含む。
【0014】
本発明の一つの実施の形態では、リチウムは、一以上の他のアルカリ金属、又はマグネシウムにより5モル%以下の範囲で置き換えられてもよい。リチウムは、好ましくは、0.5モル%以下の範囲で、他のアルカリ金属、又はマグネシウムで置き換えられる。
【0015】
本発明の一つの実施の形態では、リチウムは、10モルppm以下の範囲で、一以上の他のアルカリ金属又はマグネシウムで置き換えてもよい。
【0016】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、微粒子の形態で、例えば10nmから100μmの範囲内の平均径を有する粒子の形態で存在する。本明細書等では、粒子は一次粒子と二次粒子を含んでいてもよい。本発明の一つの実施の形態においては、複合酸化物の一次粒子は、10nm〜950nmの範囲の平均径を有し、二次粒子は1μm〜100μmの範囲内の平均径を有していても良い。
【0017】
本発明の一つの実施の形態では、本明細書等において「M」とも記載される遷移金属は、元素の周期律表の3〜12族から選択される。これは例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、又はMoであり、好ましくはMn、Co、及びNiである。
【0018】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、一般式(I)の化合物から選択される。
【0019】
【化1】
【0020】
但し、変数はそれぞれ下記のように選択される。
Mは、元素の周期律表の3〜12族の一以上の金属、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、又はMoであり、好ましくはMn、Co、及びNiであり、
xは1〜2の範囲であり、
yは、2〜4の範囲であり、
zは0.5〜1.5の範囲である。
【0021】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、一般式(Ia)又は一般式(Ib)の化合物から選択される。
【0022】
【化2】
【0023】
但し、変数はそれぞれ下記のように選択される。
aは、0〜0.4の範囲であり、tは0〜0.4の範囲であり、
更に、他の変数は上述のように選択される。
【0024】
一つの実施の形態では、Mは、Ni0.25Mn0.75から選択される。この変形例は、複合酸化物が式(Ib)の化合物から選択される場合に特に好ましい。
【0025】
本発明の一つの実施の形態では、Mは、Ni0.33Mn0.33Co0.33、Ni0.5Mn0.3Co0.2、Ni0.4Mn0.2Co0.4、Ni0.22Mn0.66Co0.12、Ni0.4Co0.3Mn0.3、Ni0.45Co0.1Mn0.45、Ni0.4Co0.1Mn0.5、及びNi0.5Co0.1Mn0.4から選択される。
【0026】
本発明の一つの実施の形態では、10質量%以下(例えば0.5質量%〜10質量%)の周期律表の3〜12族の一以上の金属を、Alで置き換えても良い。本発明の他の実施の形態においては、Mが測定可能な割合ではAlと置き換えられない。
【0027】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、一以上の他の金属カチオンによってドープ又は不純物とされても良い。一以上の他の金属カチオンは、例えば、アルカリ土類金属カチオン、特にMg2+、又はCa2+である。
【0028】
Mは、例えば+2以上の可能な最大酸化数以下で存在しても良い。Mnの場合においては、酸化数は+2〜+4であることが好ましい。また、Co又はFeの場合には、酸化数は+2〜+3であることが好ましい。
【0029】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、該複合酸化物の全体量を基準として、10ppm〜5質量%の酸化物イオンではないアニオンを含んでいても良い。このアニオンは、例えば、リン酸塩、ケイ酸塩、特に硫酸塩のイオンである。
【0030】
本発明によれば、処理(化学的処理)が、一以上の酸素含有の有機硫黄化合物又は有機リン化合物を用いて行われる。すなわち、直接的に硫黄原子又はリン原子に結合可能であるか、硫黄原子又はリン原子に所定の一以上の原子(好ましくは酸素原子)を介して結合する一以上の有機基を有する一以上の硫黄化合物又はリン化合物を用いて処理が行われる。また、酸素含有の有機硫黄化合物又は有機リン化合物は、それ自体が酸として存在し得るか、或いは又は対応するアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩として存在し得る一以上の酸性基を有する。
【0031】
本発明の一つの実施の形態では、処理が、一般式OS(OR、OSR(OR)、OS(R、OS(OR、OSR(OR)、OS(R、S(OR、SR(OR)、OS(OR)OH、OSR(OH)、OS(OR)OH、若しくはOSR(OH))の一以上の化合物、又はこれらの対応するアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩を用いて行われる。アルカリ金属塩としては、例えば、カリウム塩、特にナトリウム塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、適切なアミンの塩、例えば、C−C−アルキルアミン、ジ−C−C−アルキルアミン、トリ−C−C−アルキルアミンが挙げられる。ここで、ジ−C−C−アルキルアミン及びトリ−C−Cアルキルアミンにおけるアルキル基は、異なっていても良いが、同一であることが好ましい。また、特に、アルカノールアミン、特にエタノールアミンの塩が好適であり、これは、例えば、エタノールアミン、N、N−ジエタノールアミン、N、N、N−トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及びN−n−ブチルエタノールアミンである。
【0032】
ここで、変数はそれぞれ、下記のように定義される。
【0033】
は、異なっていても、又は可能であれば同一でも良く、C−C−アルキル基から選択される。C−C−アルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、及び1,3−ジメチルブチル基であり、好ましくはn−C−C−アルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、最も好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0034】
は、フェニル基及び好ましくはC−C−アルキル基から選択される。これらは、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、及び1,3−ジメチルブチル基であり、好ましくはn−C−C−アルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、最も好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0035】
本発明の実施の形態において、処理が、一般式O=P(OR、O=P(OH)(OR、O=P(OH)(OR)、O=PR(OR、O=PR(OH)(OR)、O=P(R(OR)、O=P(R(OH)、O=P(RP(OR、P(OH)(OR、P(OH)(OR)、PR(OR、PR(OH)(OR)、又はP(R(OH)を用いて実行される。
【0036】
本発明の一つの実施の形態において酸素含有リン化合物の十分にアルキル化された誘導体は、一般式O=P(ORの化合物、及び一般式R−P(O)(ORのジアルキルホスホン酸アルキルから選択される。なお、一般式は、O=PR(ORでも良い。各変数は以下のように定義される。
【0037】
すなわち、
は、異なっているか好ましくは同一であり、上述のC−C−アルキル基から選択され、
は、異なっているか好ましくは同一であり、水素、フェニル基、及びC−C−アルキル基から選択され、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0038】
好ましくは、一般式O=PR(ORの化合物において、R及びRは相互に同一であり、メチル基及びエチル基から選択される。
【0039】
本発明の方法は、気相又は液相(縮合相)の状態で実行することができる。気相中における処理は、有機硫黄化合物又は有機リン化合物が主として(すなわち、気相状態において50モル%以上程度まで)存在することを意味するものと理解される。複合酸化物は、当然、本発明に係る方法の実施の過程で気相中において存在しない。
【0040】
液相中における処理とは、有機硫黄化合物又は有機リン化合物を溶解、乳化又は懸濁した状態で使用するか、又は有機硫黄化合物又は有機リン化合物が処理温度において実質的に液体である状態で使用することを意味すると理解される。複合酸化物は、本発明に係る方法の過程で固体の状態である。
【0041】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、−20〜+1000℃、好ましくは+20〜+900℃の温度範囲において有機硫黄化合物又は有機リン化合物で処理される。
【0042】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、溶媒又は分散物の存在下において有機硫黄化合物又は有機リン化合物で処理する。好適な溶媒は、例えば、脂肪族又は芳香族炭化水素、有機カーボネート、エーテル、アセタール、ケタール、非プロトン性アミド、ケトン、及びアルコールである。さらに溶媒の例としては、n−ヘプタン、n−デカン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、オルト−、メタ−、及びパラ−キシレン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,1−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、並びにイソプロパノールである。
【0043】
本発明の一つの実施の形態では、有機硫黄化合物又は有機リン化合物は、気相状態で使用される。なお、有機硫黄化合物又は有機リン化合物は、例えばそのまま状態か又はキャリアガスを用いて使用される。好適なキャリアガスは、例えば、窒素、アルゴン等の希ガス、及び、酸素又は空気である。
【0044】
本発明の一つの実施の形態では、1〜99体積%のキャリアガス及び99〜1体積%の気相の有機硫黄化合物又は有機リン化合物が用いられる。好ましくは、5〜99体積%のキャリアガス及び99〜5体積%の気相の有機硫黄化合物又は有機リン化合物が用いられる。
【0045】
本発明の一つの実施の形態では、本発明による方法は、常圧で行われる。
【0046】
本発明の他の実施形態では、本発明による方法は、例えば1.1〜20バールの上昇された圧力で行われる。
【0047】
本発明の他の実施形態では、本発明による方法は、例えば、0.5〜900ミリバール、特に5〜500ミリバールの減圧下で行われる。
【0048】
本発明の一つの実施の形態では、本発明による方法を、1分〜24時間、好ましくは10分〜3時間の範囲の時間にわたって実行することができる。
【0049】
本発明の一つの実施の形態では、有機硫黄化合物又は有機リン化合物に対する複合酸化物の質量比が、0.01:1〜1000:1の間で選択される。
【0050】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物が有機硫黄化合物又は有機リン化合物で処理される。他の実施の形態では、複合酸化物は、例えば同時に又は連続的に、2種の異なる有機硫黄化合物又は2種の異なる有機硫黄化合物有機リン化合物で処理される。
【0051】
本発明によれば、当然に、一種の複合酸化物だけを処理するのではなく、2種以上の複合酸化物の混合物を処理することもできる。
【0052】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、後の方の相において処理されるか、又は水酸化物、塩基性酸化物、又は炭酸塩等から生じた複合酸化物の生成工程の終了に向かうにしたがい処理される。
【0053】
本発明の一つの実施の形態では、本発明に係る有機硫黄化合物又は有機リン化合物による複合酸化物の処理は、ロータリーキルン、振り子反応器、マッフル炉、又はプッシュスルー炉内で行われる。
【0054】
本発明の一つの実施の形態では、複数のセクションを有するプッシュスルー炉、振り子、又は回転管炉が使用され、有機硫黄化合物又は有機リン化合物を含むガス流は、一以上のセクション、例えば最後のセクションで導入される。最後のセクションとは、加熱すべき材料が炉から出る前に、最後に通過するセクションを意味する。
【0055】
有機硫黄化合物又は有機リン化合物を用いた実際の処理の後には、未反応の有機硫黄化合物又は有機リン化合物、任意の副生成物、及び使用された任意の溶媒を除去することができる。
【0056】
有機硫黄化合物又は有機リン化合物を用いた複合酸化物の処理を気相で実行する場合には、例えば、未反応の有機硫黄化合物又は有機リン化合物及び任意の副生成物を、任意に減圧下において不活性ガスでパージすることによって、排気によって、又はベークアウトすることによって除去することができる。当該除去は、任意に減圧下で行っても良い。
【0057】
有機硫黄化合物又は有機リン化合物を用いた複合酸化物の処理を溶媒の存在下において液相で実行する場合には、例えば、未反応の有機硫黄化合物又は有機リン化合物及び溶媒を、濾過、抽出洗浄、溶媒の蒸留除去、有機硫黄化合物又は有機リン化合物及び/又は溶媒の気化、抽出、又はこれら手段の一以上の組み合わせによって除去することができる。
【0058】
続いて、本発明により処理された複合酸化物を、例えば、100℃〜1000℃、好ましくは200℃〜600℃の温度で熱的に後処理する。この熱後処理を、空気又は不活性キャリアガスの存在下で行っても良い。
【0059】
本発明の一つの実施の形態においては、振り子炉、プッシュスルー炉、又はロータリーキルンが、熱後処理のために選択される。
【0060】
本発明の一つの実施の形態では、熱後処理が、1分〜24時間、好ましくは30分〜4時間の範囲の時間にわたって実行される。
【0061】
本発明の一つの実施の形態では、処理の手順は、一以上の電極の構成成分と混合された複合酸化物を、有機硫黄化合物又は有機リン化合物を用いて処理することである。なお、電極の構成成分は、炭素、炭素の前駆体、及びポリマーバインダから選択される。
【0062】
本発明の他の実施の形態では、処理の手順は、有機硫黄化合物又は有機リン化合物だけを用いて処理することである。すなわち、炭素、炭素前躯体、及びポリマーバインダは使用しない。
【0063】
本発明の方法により製造された材料は、電極材料として非常に適している。従って、本出願は、さらに、本発明に係る方法により製造された電極材料を提供する。この電極材料は、本発明の複合酸化物における良好な性質だけでなく、非常に良好なフリーフロー性を有しているので、電極を得るために良好に処理することができる。
【0064】
さらに、本発明は、一般式(I)の一以上の複合酸化物を含む電極材料であって、
【0065】
【化3】
【0066】
(但し、変数はそれぞれ下記のように選択される。すなわち、
Mは、元素の周期律表の3〜12族の一以上の金属、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、又はMoであり、好ましくはMn、Co、及びNiであり、
xは1〜2の範囲であり、
yは、2〜4の範囲であり、
zは0.5〜1.5の範囲であり、
複合酸化物の0.01〜1質量%の範囲が+3又は+5の酸化状態のリンに改質される電極材料を提供する。なお、この複合酸化物を、略して「本発明の改質された複合酸化物」とも記載する。
【0067】
本発明の一つの実施の形態では、複合酸化物は、一般式(Ia)又は一般式(Ib)の化合物から選択される。
【0068】
【化4】
【0069】
但し、変数はそれぞれ下記のように選択される。
aは、0〜0.4の範囲であり、tは0〜0.4の範囲であり、
更に、他の変数は上述のように選択される。
【0070】
理論にしたがうものではないが、+3若しくは+5の酸化状態のリン原子又は+6の酸化状態の硫黄原子を複合酸化物にドープすることができる。これはつまり、結晶格子中において遷移金属位置がリン原子又は硫黄原子で置換されることを意味する。他の例においては、リン原子又は硫黄原子が、元素の周期律表における3〜12族の一以上の金属との化合物を形成する。
【0071】
本発明の一つの実施の形態において、本発明の電極材料は、層構造又はスピネル構造を有している。
【0072】
本発明の一つの実施の形態では、Mは、Ni0.33Mn0.33Co0.33、Ni0.5Mn0.3Co0.2、Ni0.4Mn0.2Co0.4、Ni0.22Mn0.66,Co0.12、Ni0.4Co0.3Mn0.3、Ni0.45Co0.1Mn0.45、Ni0.4Co0.1Mn0.5、及びNi0.5Co0.1Mn0.4から選択される。
【0073】
本発明では、元素の周期律表における3〜12族の一以上の金属の10質量%以下を、例えば0.5〜10質量%のAlで置き換える。本発明の他の実施形態では、Mを、Alによって測定可能な比率では置き換えられない。
【0074】
本発明では式(I)の化合物における酸素の5質量%以下を、例えばFで置き換える。
【0075】
本発明の他の実施形態では、Mを、Fによって測定可能な比率では置き換えられない。
【0076】
本発明の電極材料は、例えば、本発明の方法により得ることができる。
【0077】
本発明の一つの実施の形態においては、本発明の電極材料における改質、すなわち、+3若しくは好ましくは+5の酸化状態であるリン、又は+6の酸価状態である硫黄を用いた改質を、電極材料の表面上に亘って均一に行う。これは、リン原子又は硫黄原子が電極材料の外表面上だけではなく、複合酸化物の粒子の細孔においても分布していることを意味する。
【0078】
本発明の一つの実施の形態においては、さらに、+3若しくは好ましくは+5の酸化状態であるリン、又は+6の酸価状態である硫黄を用いた改質は、複合酸化物の粒子の表面において測定された濃度が±20モル%、好ましくは±10モル%を逸脱しないように均一に行われる。
【0079】
本発明の電極材料は、それらの優れたフリーフロー性などの理由により、非常に良好な加工性を有し、電気化学セルの製造の際に本発明の改良された複合酸化物を用いることで、非常に優れたサイクル安定性を示す。
【0080】
さらに、本発明の電極材料は、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ又は活性炭の形態で、導電性の多形結晶の炭素を含んでいても良い。
【0081】
本発明の電極材料は、さらに、一以上のバインダ、例えばポリマーバインダを含んでいても良い。
【0082】
好適なバインダは、好ましくは、有機(コ)ポリマー類から選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわちホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン、触媒又はフリーラジカル(共)重合によって得られる(コ)ポリマーから選択することができる。この(コ)ポリマーは、特に、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、及び二以上のコモノマーのコポリマーである。また、このコモノマーは、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、及び1,3−ブタジエンから選択される。ポリプロピレンもまた好適である。更に、ポリイソプレン及びポリアクリレートも適している。特に好ましくはポリアクリロニトリルである。
【0083】
本明細書等において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけを意味するのではなく、アクリロニトリルと1,3−ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味する。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0084】
本明細書等において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけを意味するのではなく、50モル%以上の共重合エチレン及び50モル%以下の一以上の他のコモノマーを含むコポリマーも意味する。なお、他のコモノマーは、例えば、プロピレン、ブチレン(1−ブテン)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ペンテン等のα‐オレフィン、イソブテン、スチレン等のビニル芳香族モノマー、更に、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸のC−C10−アルキルエステル、特に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、並びにマレイン酸、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸である。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであることが好ましい。
【0085】
本明細書等において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけを意味するのではなく、50モル%以上の共重合ポリプロピレン及び50モル%以下の一以上の他のコモノマーを含むコポリマーも意味する。なお、他のコモノマーは、例えば、エチレン、並びにブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、及び1−ペンテン等のα‐オレフィンである。ポリプロピレンは、アイソタクチック又はほぼアイソタクチックのポリプロピレンであることが好ましい。
【0086】
本明細書等において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけを意味するのではなく、アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC−C10−アルキルエステル、ジビニルベンゼン(特に1,3−ジビニルベンゼン)、1,2−ジフェニルエチレン、並びにα−メチルスチレンとのコポリマーも意味する。
【0087】
他の好ましいバインダは、ポリブタジエンである。
【0088】
他の好適なバインダは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、及びポリビニルアルコールから選択される。
【0089】
本発明の一つの実施の形態において、バインダは、分子量Mが50000〜1000000g/molの範囲、好ましくは500000g/mol以下である上記(コ)ポリマーから選択される。
【0090】
バインダは、架橋(コ)ポリマーであっても、架橋されていない(コ)ポリマーであっても良い。
【0091】
本発明の特に好ましい実施形態においては、バインダは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、分子中に一個以上(好ましくは二個以上)のハロゲン原子及び一個以上(好ましくは二個以上)のフッ素原子を有する一以上の(共)重合した(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味する。
【0092】
例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン−クロロフルオロコポリマーである。
【0093】
好適なバインダは、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデン、特にフッ化ポリビニル等のフッ素化(コ)ポリマー、特にフッ化ポリビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0094】
導電性炭素含有材料は、例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン又はこれら物質の2種以上の混合物から選択される。本明細書等において、導電性炭素含有材料を、略して炭素(B)とも記載する。
【0095】
本発明の一つの実施の形態において、導電性炭素含有材料はカーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ランプブラック、ファーネスブラック、フレームブラック(flame black)、サーマルブラック、アセチレンブラック、及び工業用炭素から選択することができる。カーボンブラックは、例えば、炭化水素、特に芳香族炭化水素、又は酸素含有化合物若しくは酸素含有基(例えばOH基)等の不純物を含んでいてもよい。また、硫黄又は鉄を含有する不純物が、カーボンブラックに含まれていても良い。
【0096】
一つの変形例では、導電性炭素含有材料は、部分的に酸化されたカーボンブラックである。
【0097】
本発明の一つの実施の形態では、導電性炭素含有材料は、カーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブ(略してCNT)は、例えば、単層のカーボンナノチューブ(SW CNTs)及び好ましくは多層のカーボンナノチューブ(MW CNTs)であり、それ自体は公知である。その生産方法及びそのいくつかの性質は、例えばA. Jessらによる「Chemie Ingenieur Technik 2006, 78, 94-100」に記載されている。
【0098】
本発明の一つの実施の形態では、カーボンナノチューブは、0.4〜50nm、好ましくは1〜25nmの範囲の径を有する。
【0099】
本発明の一つの実施の形態において、カーボンナノチューブは、10nm〜1mm、好ましくは100nm〜500nmの範囲の長さを有する。
【0100】
カーボンナノチューブは、それ自体公知の方法によって製造することができる。例えば、メタン若しくは一酸化炭素、或いはアセチレン若しくはエチレン等の揮発性炭素化合物、又は揮発性炭素化合物の混合物(例えば合成ガス)は、水素及び/又は他の気体(窒素等)等の一以上の還元剤の存在下で分解される。他の好適なガス混合物は、一酸化炭素及びエチレンの混合物である。分解に適した温度は、400〜1000℃、好ましくは500〜800℃である。分解に適した圧力条件は、例えば、常圧から100バールまで、好ましくは常圧から10バールまでの範囲内である。
【0101】
単層又は多層のカーボンナノチューブは、例えば、分解触媒の存在下又は分解触媒が存在しない状態で、炭素含有化合物をアーク光中で分解することにより得られる。
【0102】
一つの実施の形態では、揮発性炭素含有化合物又は炭素含有化合物の分解が、Fe、Co、又はNi等の分解触媒の存在下で行われる。
【0103】
本明細書等において、グラフェンは、単一のグラファイト層と類似の構造を備えた、ほぼ理想的又は理想的な二次元構造の六方晶炭素を意味すると理解される。
【0104】
本発明の一つの実施の形態では、一般式(I)の化合物の質量:導電性炭素含有材料の質量の比は、200:1〜5:1、好ましくは100:1〜10:1の範囲である。
【0105】
本発明のさらなる態様は、一般式(I)の一以上の化合物、一以上の導電性炭素含有材料、及び一以上のバインダを含む電極である。
【0106】
一般式(I)の化合物及び導電性炭素含有材料については、上述した。
【0107】
本発明はさらに、一以上の本発明の電極を用いて製造された電気化学セルを提供する。
【0108】
また、本発明は、一以上の本発明の電極を含む電気化学セルを提供する。
【0109】
本発明の一つの実施の形態では、本発明の電極材料が、
60〜98質量%、好ましくは70〜96質量%の改質された本発明の複合酸化物と、
1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%のバインダと、
1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%の導電性炭素含有材料と、
を含む。
【0110】
本発明の電極の形状は、広い範囲内で選択することができる。電極は、薄いフィルム状に構成されることが好ましくは、例えば、10μm〜250μm、好ましくは20〜130μmの範囲の厚さを有するフィルム状に構成されることが好ましい。
【0111】
また、本発明の一つの実施の形態では、本発明の電極は箔を含む。箔は、例えば金属箔、特にアルミ箔であるか、又は未処理の若しくはシリコン処理されたポリエステルフィルム等のポリマーフィルムである。
【0112】
さらに、本発明は、電気化学セル中において本発明の電極材料又は本発明の電極を使用する方法を提供する。また、本発明は、本発明の電極材料又は本発明の電極を用いて電気化学セルを製造する方法を提供する。さらに、本発明は、一以上の本発明の電極材料又は一以上の本発明の電極を含む電気化学セルを提供する。
【0113】
定義によれば、本発明の電気化学セル中における本発明の電極は、正極として機能する。本発明の電気化学セルは、本明細書等において負極として定義されている対向電極を含んでおり、この対向電極は、カーボン負極、特にグラファイト負極、リチウム負極、シリコン負極、又はチタン酸リチウム負極等である。
【0114】
本発明の電気化学セルは、例えば、一次電池又は二次電池であってもよい。
【0115】
本発明の電気化学セルは、負極及び本発明の電極に加えて、例えば、導電性塩、非水溶媒、セパレータ、金属又は合金等から成る出力導体、並びに接続ケーブル及びハウジングを含んでいてもよい。
【0116】
本発明の一つの実施の形態では、本発明の電気セルは、室温で液体でも固体でも良い一以上の非水溶媒を含む。なお、非水溶媒は、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、並びに環状又は非環状有機カーボネートから選択されることが好ましい。
【0117】
好適なポリマーの例は、特にポリアルキレングリコールであり、好ましくはポリ−C−C−アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。これらのポリエチレングリコールは、共重合状態で、20モル%以下の一以上のC−Cアルキレングリコールを含んでいても良い。ポリアルキレングリコールは、メチル基又はエチル基で二重に覆われたポリアルキレングリコールであることが好ましい。
【0118】
好適なポリアルキレングリコールの分子量Mwは、特に、400g/mol以上である。
【0119】
好適なポリアルキレングリコールの分子量Mwは、特に、5000000g/mol以下、好ましくは2000000g/mol以下であってもよい。
【0120】
好適な非環式エーテルは、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、好ましくは、1,2−ジメトキシエタンである。
【0121】
好適な環状エーテルは、例えば、テトラヒドロフラン、及び1,4−ジオキサンである。
【0122】
好適な非環式アセタールは、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、及び1,1−ジエトキシエタンである。
【0123】
好適な環状アセタールは、例えば、1,3−ジオキサン、特に1,3−ジオキソランである。
【0124】
好適な非環式有機カーボネートは、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートである。
【0125】
好適な環状有機カーボネートとしては、例えば、一般式(II)の化合物及び(III)の化合物である。
【0126】
【化5】
【0127】
但し、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、水素並びにメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基等のC−C−アルキル基から選択されても良い。R及びRは、双方ともtert−ブチル基ではないことが好ましい。
【0128】
特に好ましい実施の形態においては、Rはメチル基且つR及びRは、それぞれ水素であり、又はR、R、及びRは、それぞれ水素である。
【0129】
他の好ましい環状有機カーボネートは、一般式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0130】
【化6】
【0131】
溶媒は、無水状態として知られているものを使用することが好ましい。すなわち、カールフィッシャー滴定等により測定した含水量が、1ppm〜0.1質量%である。
【0132】
本発明の電気化学セルは、一以上の導電性塩を含む。好適な導電性塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、及びLiN(C2n+1SO等のリチウムイミド、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、並びに一般式(C2n+1SOYLiの塩である。但し、nは1〜20の整数であり、mは、以下のように定義される。
【0133】
すなわち、
Yが、酸素及び硫黄から選択される場合、m=1、
Yが、窒素及びリンから選択される場合、m=2、並びに
Yが、炭素及びケイ素から選択される場合、mは3である。
【0134】
好適な導電性塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、好ましくはLiPF及びLiN(CFSOから選択される。
【0135】
本発明の一つの実施の形態では、本発明の電気化学セルは、電極を機械的に分離する一つ以上のセパレータを備える。好適なセパレータは、ポリマーフィルム、特に金属リチウムに対して反応性の無い多孔質ポリマーフィルムである。セパレータ用の特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム状の多孔質ポリエチレン及びフィルム状の多孔質ポリプロピレンである。
【0136】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから製造されたセパレータは、35〜45%の範囲の気孔率を有していても良く、好適な孔部の径は、例えば30〜500nmの範囲である。
【0137】
本発明の他の実施形態において、セパレータは、無機粒子を充填したPET不織布から選択することができる。このセパレータは、40〜55%の範囲の気孔率を有していても良い。好適な孔部の径は、80〜750nmの範囲である。
【0138】
さらに、本発明の電気化学セルは、所望の形状、例えば直方体又は円筒ディスク状のハウジングを有していても良い。一つの変形例において、使用されるハウジングは、パウチが施された金属箔である。
【0139】
本発明の電気化学セルは高電位であり、注目すべき高いエネルギー密度及び優れた安定性を有する。
【0140】
本発明の電気化学セルは、例えば、相互に直列接続又は並列接続とすることができる。直列接続であることが好ましい。
【0141】
さらに、本発明は、本発明の電気化学セルをユニット、特に移動ユニットに使用する方法を提供する。移動ユニットの例は動力付きの乗り物であり、例えば、オートバイ、飛行機、又はボートや船舶等の水上の乗り物である。
【0142】
他の移動ユニットの例としては、手動で移動させるもの、例えば、コンピュータ、特にラップトップ、携帯電話、又は建築部門で用いるドリル、バッテリ駆動式ドリル、バッテリ駆動式タッカー等の電動工具である。
【0143】
上記ユニット内において本発明の電気化学セルを使用すると、充電まで耐用時間が長いという利点が得られる。もし、より低いエネルギー密度の電気化学セルに対して同一の耐用時間が望まれる場合には、この電気化学セルの重量をより大きくすれば良い。
【発明を実施するための形態】
【0144】
本発明を下記の実施例によって説明する。
【0145】
I.リン化合物による処理
I.1 リン化合物(P−1)を用いた複合酸化物1.1の処理
スピネル構造を有する10gのLiNi0.5Mn1.5を、10gのリン酸トリエチルO=P(OC)(P−1)に懸濁した。このようにして得られた懸濁液を、窒素下において60℃で1時間撹拌した。次いで、懸濁液をガラスフリットで濾過した。その後、こうして得られた複合酸化物を、回転式チューブ炉内において窒素下で160℃で1時間焼成し、その後、500℃で3時間焼成した。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−1を得た。本発明に係る処理された複合酸化物のリン含有量を、0.030質量%と測定した。X線回折測定により、スピネル構造が維持されていたことが示された。
【0146】
I.2 リン化合物(P−1)を用いた複合酸化物1.1の処理
スピネル構造を有する10gのLiNi0.5Mn1.5を、10gのリン酸トリエチルO=P(OC)(P−1)に懸濁した。このようにして得られた懸濁液を、窒素下において60℃で1時間撹拌した。そして、懸濁液を、ロータリーエバポレーターを用いて、約2ミリバールの圧力、及び110℃の加熱浴温度で濃縮乾固した。その後、こうして得られた残留物を、回転式チューブ炉内において窒素下で160℃で1時間焼成し、その後、500℃で3時間焼成した。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−1’を得た。本発明に係る処理された複合酸化物MOx−1’のリン含有量を、0.022質量%と測定した。X線回折測定により、スピネル構造が維持されていたことが示された。
【0147】
I.3 リン化合物(P−1)を用いた複合酸化物1.1の処理
スピネル構造を有する10gのLiNi0.5Mn1.5を、10gのリン酸トリエチルO=P(OC)(P−1)に懸濁した。このようにして得られた懸濁液を、窒素下において60℃で1時間撹拌した。次いで、懸濁液をガラスフリットで濾過した。その後、こうして得られた残留物を、マッフル炉内において窒素下で300℃で1時間焼成した。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−1’’を得た。本発明に係る処理された複合酸化物MOx−1’’のリン含有量を、0.050質量%と測定した。X線回折測定により、スピネル構造が維持されていたことが示された。
【0148】
I.4 リン化合物(P−1)を用いた複合酸化物1.2の処理
層構造を有する10gのLi(Li0.20Ni0.17Co0.10Mn0.53)Oを、10gのリン酸トリエチルO=P(OC)(P−1)に懸濁した。このようにして得られた懸濁液を、窒素下において60℃で1時間撹拌した。次いで、懸濁液をガラスフリットで濾過した。その後、こうして得られた残留物を、マッフル炉内において大気下で300℃で1時間焼成した。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−2を得た。本発明に係る処理された複合酸化物MOx−2のリン含有量を、0.130質量%と測定した。X線回折測定により、層構造が維持されていたことが示された。
【0149】
I.5 リン化合物(P−1)を用いた複合酸化物1.1の処理
スピネル構造を有する10gのLiNi0.5Mn1.5を、12gのエタノールに0.5gのリン酸トリエチルO=P(OC)(P−1)を溶解させた溶液中で懸濁した。このようにして得られた懸濁液を、窒素下において60℃で1時間撹拌した。次いで、懸濁液を、ロータリーエバポレーターを用いて、70℃の加熱浴温度において初めに約250ミリバールの圧力とし、その後、10ミリバールの圧力として、濃縮乾固した。そして、こうして得られた残留物を、回転式チューブ炉内において窒素下で300℃で1時間焼成し、その後、500℃で3時間焼成した。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−1’’’を得た。本発明に係る処理された複合酸化物MOx−1’’’のリン含有量を、0.10質量%と測定した。X線回折測定により、スピネル構造が維持されていたことが示された。
【0150】
I.6 リン化合物(P−2)を用いた複合酸化物1.1の処理
スピネル構造を有する25gのLiNi0.5Mn1.5を、投入部及び該投入口に対して180°の位置に排出口を有する2リットルの球状のガラスロータリーに投入した。ガラスロータリー内を乾燥窒素で30分間パージし、その後、120℃となるまで10分間加熱した。そして、ガラスロータリーを1分あたり5回転の速度で回転させた。O=P(CH)(OCH)(P−2)を5体積%の割合で含むガス流を一時間、ロータリー球にポンプで供給した。ガス流量を、1時間あたり10標準リットルのガスが流れるように調整した。その後、得られた粉末を、室温に冷却して熱風乾燥機に送った。そして、熱風乾燥機内において、空気下で、30分間加熱を行い、300℃で2時間の熱処理を行った。これにより、本発明にしたがって処理された複合酸化物MOx−1.1’’’’を得た。本発明に係る処理された複合酸化物MOx−1’’’’のリン含有量を、0.04質量%と測定した。X線回折測定により、スピネル構造が維持されていたことが示された。
【0151】
II.電極及び試験セルの製造のための一般的方法
使用材料:
導電性炭素含有材料:
炭素材料(C−1):カーボンブラック(62m/gのBET表面積、Timcal社により「Super P Li」の名称で市販されている)
バインダ(BM.1):粉末状のフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロペンコポリマー(Arkema 社により「Kynar Flex」(登録商標)の商品名で市販されている)、
【0152】
特に明記しない限り、図における「%」値は、質量%に基づく。
【0153】
材料の電気化学的データを測定するために、8gの本発明の複合酸化物MOx−1を、1gの炭素材料(C−1)、及び1gの(BM.1)に、24gのN−メチルピロリドンを添加して混合し、ペーストを得た。
【0154】
厚さ30μmのアルミニウム箔を、上述したペーストでコーティングした(活物質の重みは5−7mg/cm)。これを105°Cで乾燥した後、このようにして被覆されたアルミニウム箔を円形(径が20ミリメートル)部分に打ち抜いた。このようにして得られた電極を、電気化学セルの製造に使用した。
【0155】
105°Cで乾燥した後、円形電極(径が20ミリメートル)を打ち抜いて試験セルを組み立てた。使用された電解質は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(質量部基準で1:1)中にLiPFを1mol/l溶解させた溶液である。試験セルの負極は、ガラス繊維紙から成るセパレータを介して正極の箔と接触するリチウム箔から構成した。
【0156】
これにより、本発明の電気化学セルEZ.1を得た。
【0157】
本発明の電気化学セルEZ.6を、以下のように製造した。
試験セルを、本発明(実施例I.6)にしたがい処理された複合酸化物MOx−1.1’’’’から製造された正極材料を用いて製造した。なお、正極材料は、IIと同様にして、炭素材料(C−1)及びポリマーバインダ(BM.1)とともに粉末状にされている。これに対して、比較用セルを、スピネル構造を有する未改質のLiNi0.5Mn1.5を用いて同様の方法で製造した。
【0158】
本発明の電気化学セルの試験
本発明の電気化学セルEZ.6を、25℃において、4.9V〜3.5Vの間で100サイクル充放電した。充放電電流は、正極材料において150mAh/gであった。100サイクル後の放電容量維持率を測定した。
EZ.6:98.0%
比較例:96.0パーセント
【0159】
本発明の電気化学セルは、サイクル安定性において優位性を示した。
【0160】
なお、本発明の電気化学セルに対しては、25℃において、4.9V〜3.5Vの間で100サイクル充放電した。それらの充放電電流は、正極材料において150mAh/gであった。そして、放電容量維持率は100サイクル後に測定したものである。