【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
本明細書の下記製造例に示すポリマーの重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)法による測定結果である。GPC測定装置を用いた測定における測定条件は下記のとおりである。
GPCカラム:WB−G−50(和光純薬工業株式会社)
カラム温度:25℃
溶媒:0.1M NaBr水溶液
流量:0.2mL/分
標準試料:プルラン(昭和電工株式会社)
【0033】
[実施例1:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PCMB修飾基板)の製造]
製造例1 SDTB(ジチオベンゾエートナトリウム塩)の合成
ナトリウムメトキシド(1.08g、0.020mol)を脱気したメタノール3.6mLに溶解し、ここに単体硫黄(650mg、0.020mol)を加え、N
2バブリング(窒素置換)を行いながら撹拌した。ここにベンジルクロリド(1.14mL、0.010mol)を30分かけて滴下し、65℃で10時間反応させた(スキーム1)。
反応終了後、反応系を氷水に浸し、析出した塩を吸引ろ過により除去し、溶媒を減圧濃縮により除去した。ここに水10mLを加え、再度吸引ろ過を行った後、ろ液に4mLのジエチルエーテルを加え、分液操作を行った。同様にさらに2回分液操作を行い、回収した水層にジエチルエーテル4mL、1M HCl 5mLを加え、分液操作を行った。回収したエーテル層に、水6mL及び1M NaOH 6mLを加え、分液操作を行った。上記分液操作後、回収した水層にジエチルエーテルと1M HClを加える分液操作と、回収したエーテル層に水と1M NaOHを加える分液操作を上記と同様の操作にてさらに2回行った。
回収した水層を減圧濃縮し、アセトン中に滴下した。析出した塩を吸引ろ過により除去した後、ろ液を減圧乾燥し、褐色粉末の生成物SDTB(A)(ジチオベンゾエートナトリウム塩)を得た(収量:542mg)。
【化8】
【0034】
製造例2 BSTMPA(2−(n−ブチルチオ(チオカルボニル)チオ)−2−メチル−プロピオン酸)の合成
リン酸カリウム(4.25g、20mmol)をアセトン32mLに溶解し、30分間撹拌後、1−ブタンチオール2.14mL、次に二流化硫黄3.0mL、そして2−メチル−2−ブロモプロピオン酸3.34gを、10分間隔で順に加えた後、18時間反応を行った(スキーム2)。
シリカゲルカラムによる精製を行った後、減圧濃縮により溶媒を除去し、ヘキサンに溶解させ、その後冷却して固体を回収した。得られた固体をデシケータで乾燥し、黄色粉末のBSTMPA(B)を得た(収量:840mg)。
【化9】
【0035】
製造例3 シリコンウェハの表面修飾
8インチシリコンウェハを水、メタノール、アセトンの順で洗浄し、さらにUV/オゾン洗浄を行った。
8インチシリコンウェハが入る反応容器中に、CMPS(4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン)185μL(2v/v%)をトルエン9mLに溶解した溶液を入れ、窒素雰囲気下で、上述の洗浄後のシリコンウェハを浸漬させた。その反応容器を80℃のオイルバス中に15時間保持し、シリコンウェハ表面のヒドロキシ基と4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシランのアルコキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコンウェハをトルエンで2回洗浄し、次に30秒間超音波洗浄を行い、さらに2回トルエンで洗浄した。洗浄後、N
2フローにより乾燥し、CMPSで表面修飾されたシリコンウェハを得た(スキーム3:上段参照)。
【0036】
製造例4 双性イオンポリマー鎖によるシリコンウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例1で得たSDTB20mgをテトラヒドロフラン(THF)10mLに溶解した後、この溶液に、製造例3で得たCMPSにて表面修飾されたシリコンウェハを浸漬し、室温で1時間反応を行った(スキーム3:中段参照)。
その後、THF、メタノールで洗浄を行い、N
2フローによりシリコンウェハを乾燥させた。
【0037】
前述の如くジチオベンゾエートにて表面修飾したシリコンウェハをサンプル瓶に入れ、エタノール(10.00mL)、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB、2.33g、10mmol)を加え、30分間以上N
2バブリングを行った。続いて、反応溶液に、製造例2で得たBSTMPA(B)(50.4mg、0.20mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、11.2mg、0.040mmol)を加え、3分間のN
2バブリングを行い、サンプル瓶を密栓した。これを70℃のオイルバス中に入れ、24時間重合反応を行った(スキーム3:下段参照)。
重合反応終了後、シリコンウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N
2フローにより乾燥させ、双性イオンポリマー鎖であるCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハを得た。
スキーム3:下段に記載のCMBポリマー鎖の構造式は、本製造例4で得られるCMBポリマー鎖の推定構造の1つである。
【化10】
【0038】
[実施例2:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(BTPT−g−PCMB修飾基板)の製造]
製造例5 BTPT(S−ベンジル−S’−トリメトキシシリルプロピルトリチオカーボネート)による基板修飾
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合可能なRAFT剤付きシランカップリング剤であるS−ベンジル−S’−トリメトキシシリルプロピルトリチオカーボネート(BTPT)溶液2.8gをトルエン200mLに溶解した。上述製造例3と同様の手順にて洗浄した8インチシリコンウェハを溶液中に浸漬し、24時間室温で保持し、シリコンウェハ表面のヒドロキシ基とBTPTのトリメトキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコンウェハをトルエンで洗浄し、N
2フローにより乾燥させ、BTPTにて修飾されたシリコンウェハを得た(スキーム4:上段参照)。
【0039】
製造例6 双性イオンポリマー鎖によるシリコンウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例5でBTPTを修飾したシリコンウェハ(基板)を入れたサンプル瓶に、エタノール(10.00mL)、CMB(N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、2.33g、10mmol)を加え30分以上N
2バブリングを行った。続いて、反応溶液に製造例2で合成したBSTMPA(B)(50.4mg、0.20mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、11.2mg、0.040mmol)を加え、3分間のN
2バブリングを行い、サンプル瓶を密栓した。70℃のオイルバス中に反応容器を入れ、重合を開始し、24時間重合を行った(スキーム4:下段参照)。
重合反応終了後、シリコンウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N
2フローにより乾燥させ、BTPT−g−PCMB修飾済みシリコンウェハを得た。
スキーム4:下段で得られるBTPT−g−PCMBは、本製造例6で得られるBTPT−g−PCMBの推定構造の1つである。
【化11】
【0040】
[実施例3 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(SPB−KBM−1403共重合体修飾基板)の製造]
製造例7 SPB−KBM−1403共重合体の合成
KBM−1403(p−スチリルトリメトキシシラン、信越化学株式会社製)(0.175g、0.78mmol)とSPB(N−(3−スルホプロピル)−N−メタクロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、1.96g、0.70mmol)を窒素バブリングしたTHF(13.75ml)に加えた。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.107g、0.65mmol)を加え、70℃で重合を開始した。4時間後さらにAIBN(0.0214g、0.13mmol)を加え、その後4時間反応させることにより、下記式(4)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は105,000であった。
【化12】
【0041】
製造例8 SPB−KBM−1403共重合体による修飾基板の製造
溶媒循環用冷却管が接続された8インチシリコンウェハ浸漬用ステンレス製反応容器にトリフルオロエタノール(TFE)(137.8mL)と製造例7で合成したSPB−KBM−1403共重合体を加え、ここにオゾン洗浄処理した8インチシリコンウェハを室温にて24時間浸漬した。その後、水とメタノールで洗浄し、さらに1時間水に浸漬し、SPB−KBM−1403共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0042】
[実施例4 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(CMB−KBM−1403共重合体修飾基板)の製造]
製造例9 CMB−KBM−1403共重合体の合成
KBM−1403(p−スチリルトリメトキシシラン、0.175g、0.78mmol)とCMB(N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、1.96g、9.1mmol)を窒素バブリングしたエタノールに加えた。AIBN(0.0905g、0.55mmol)を加え、70℃で重合を開始した。4時間後さらにAIBN(0.0181g、0.11mmol)を加え、その後4時間反応させることにより、下記式(5)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は122,000であった。
【化13】
【0043】
製造例10 CMB−KBM−1403共重合体による修飾基板の製造
溶媒循環用冷却管が接続された8インチシリコンウェハ浸漬用ステンレス製専用の反応容器にエタノール(226.0mL)と製造例9で合成したCMB−KBM−1403共重合体を加え、ここにオゾン洗浄処理した8インチシリコンウェハを室温にて24時間浸した。その後、水とメタノールで洗浄し、さらに1時間水に浸漬し、CMB−KBM−1403共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0044】
[実施例5 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(CMB−MPTMS共重合体修飾基板)の製造]
製造例11 CMB−MPTMS共重合体の合成
KBM−1403をMPTMS(3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、0.29g、1.0mmol)とした以外は製造例9と同様の操作を行い、下記式(6)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は10,000であった。
【化14】
【0045】
製造例12 CMB−MPTMS共重合体による修飾基板の製造
製造例10においてCMB−KBM−1403共重合体の代わりに、製造例11で合成したCMB−MPTMS共重合体を使用した以外は、製造例10と同様の操作を行い、CMB−MPTMS共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0046】
[比較例1 双性イオンを持たないポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PMA修飾基板)の製造]
実施例1において、CMBの代わりにMA(メタクリル酸)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、B−PMA修飾済み基板を得た(
図1の模式図参照)。
【0047】
[比較例2 双性イオンを持たないポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PDMAEMA修飾基板)の製造]
実施例1において、CMBの代わりにDMAEMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、B−PDMAEMA修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た(
図2の模式図参照)。
【0048】
[実施例6:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハ(B−PCMB修飾基板)の製造]
製造例13 シリコン酸窒化ウェハの表面修飾
8インチシリコン酸窒化ウェハを水、メタノール、アセトンの順で洗浄し、さらにUV/オゾン洗浄を行った。
8インチシリコン酸窒化ウェハが入る反応容器中に、CMPS(4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン)8mL(2v/v%)をトルエン392mLに溶解した溶液を入れ、窒素雰囲気下で、上述の洗浄後のシリコン酸窒化ウェハを浸漬させた。その反応容器を80℃のウォーターバス中に15時間保持し、シリコン酸窒化ウェハ表面のヒドロキシ基と4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシランのアルコキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコン酸窒化ウェハを4回トルエンで洗浄した。洗浄後、N
2フローにより乾燥し、CMPSで表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハを得た(前述のスキーム3:上段参照)。
【0049】
製造例14 双性イオンポリマー鎖によるシリコン酸窒化ウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例1で得たSDTBとテトラヒドロフラン(THF)を用いて、20mg/mLSDTB溶液200mLを調製後、この溶液に、CMPSにて表面修飾されたシリコンウェハを浸漬し、室温で1時間反応を行った(前述のスキーム3:中段参照)。
その後、THF、メタノールで洗浄を行い、N
2フローによりシリコン酸窒化ウェハを乾燥させた。
前述の如くジチオベンゾエートにより表面修飾したシリコン酸窒化ウェハを8インチシリコンウェハが入る反応容器中に入れ、エタノール(600mL)、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB、27.96g、120mmol)を加えた。続いて、反応溶液に、製造例2で得たBSTMPA(B)(140.3mg、0.60mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、33.7mg、0.12mmol)を加え、30分間以上N
2バブリングを行い、反応容器を密栓した。これを70℃のウォーターバス中に入れ、24時間重合反応を行った(前述のスキーム3:下段参照)。
重合反応終了後、シリコン酸窒化ウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N
2フローにより乾燥させ、双性イオンポリマー鎖であるCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハを得た。
【0050】
[露光方法]
上記実施例及び比較例で製造した表面修飾されたシリコンウェハを、露光量250mJ、500mJ、1000mJ及び3000mJで露光を行い、その後、蒸留水を用いてシリコンウェハの洗浄処理を行った。そして以下の膜厚測定、接触角の測定、タンパク質吸着測定、パターニング試験(AFM測定)及びタンパク質パターニング試験(蛍光顕微鏡測定)に用いた。
なお、露光には(株)ニコン製NSR−S307Eレンズキャニング方式ステッパー(ArFエキシマレーザー(波長:193nm))を用いた。
また、パターニング試験では、現像後にパターンの縦横幅がそれぞれ0.25〜5.0μmになるように設定されたマスクを通して露光を行った。
【0051】
[膜厚測定]
膜厚の測定は、エリプソ(偏光解析)式膜厚測定装置 Lambda Ace RE−3100(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて行った。
実施例1及至実施例5、並びに比較例1及至比較例2で製造した各シリコンウェハ(基板)の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて行った膜厚(nm)の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0052】
表1に示すように、実施例1及至実施例5、並びに比較例1及び比較例2で製造した各基板において、露光量の増大に伴い、膜厚の減少が見られた。
【0053】
[接触角の測定]
水液滴の接触角の測定は、接触角計(協和界面科学(株)製、品番:CA−D)を用いて、液滴法によって求めた。
なお液滴法は、室温下(相対湿度:約50%)で、3〜4μLの水を試料(シリコンウェハ)に接触させ、接触後27秒後の角度と33秒後の角度とを合計した角度の合計値で評価し、各ウェハ6点ずつ評価を行い、その平均値を測定値として採用した。
実施例1及至実施例5、並びに比較例1及び比較例2で製造した各シリコンウェハ(基板)の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて行った水液滴の接触角(度)の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0054】
表2に示すように、実施例1及至実施例5で製造した各基板においては、露光量の増大に伴い、接触角の増加が見られた。一方、比較例1及び比較例2で製造した各基板においては、露光量が増加しても接触角の増加は観測されなかった。
【0055】
[パターニング試験(AFM測定)]
前述の実施例1及至実施例6で製造したポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハまたはシリコン酸窒化ウェハに対して、現像後にパターンの縦横幅がそれぞれ0.25〜5.0μmになるように設定されたマスクを通して、露光量3000mJで上述の露光方法にて露光を行った。露光後、該ウェハのパターンの形成を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)により観察した。本観察では高性能大型試料用走査型プローブ顕微鏡(Dimention ICON:Bruker AXS製)を用い、プローブとして単結晶Si(Bruker AXS)を使用した。また、バネ定数:約3N/m、共振周波数:70kHz、走査速度:0.5Hzにより測定を行った。観察された格子状パターンのパターンサイズ(縦横幅)を表3に示す。
表3に示すように、実施例1及至実施例6で製造したポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハまたはシリコン酸窒化ウェハの表面に格子状のパターンの形成が確認された。
【表3】
【0056】
[ビシンコニン酸(BCA:Bicinchonianate)法によるタンパク質吸着測定試験]
実施例1及至実施例6、並びに比較例1及び比較例2で製造したシリコンウェハ(基板)又はシリコン酸窒化ウェハの未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)の吸着試験を、吸光マイクロプレートリーダーを用いてBCA法により評価した。
まずリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate Buffered Saline)で各ウェハを洗浄し、洗浄後のウェハ上にシリコンシートを用いて作製した枠(内径:20mm×20mm、外径:25mm×25mm)を載せた。シリコンシートの枠内に、500μLのBSA溶液(2wt% in PBS、シグマ−アルドリッチ社製)を入れ、室温下で2時間インキュベートした。BSA溶液を除去後、PBSで枠内を濯いだ後、600μLの「Micro BCA Protein Assay Kit」(商品名)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)/PBS等量混合溶液を加え、37℃で2時間インキュベートした。インキュベート後のBCA溶液の波長570nmにおける吸光度を測定し、BSAの吸着量(ng/cm
2)を求めた。
得られた結果を表4に示す。
【表4】
【0057】
表4に示すように、実施例1及至実施例6で製造した各基板においては露光量の増大に伴いBSA吸着量の増加が見られた。一方、比較例1及び比較例2で製造した各基板においては、露光量の増大に伴うBSA吸着量の変化は観測されなかった。
さらに実施例1と実施例2の結果を比較すると、BSA吸着量は、ポリマーブラシ中にフェニル基を有する実施例1の方が、フェニル基を有していない実施例2より明らかに大きい結果となった。
また、実施例4と実施例5について、以下に示す<BSA吸着量増加比率>の式を用いてBSA吸着量の増加比率(数字が大きいほど増加比率が大きい)を算出したところ、ポリマー鎖中にフェニル基を有する実施例4の方が、フェニル基を有していない実施例5より大きい増加比率の値を示した。
以上の結果より、ポリマーブラシまたはポリマー鎖中に露光光に対する吸収部位(フェニル基等)を導入することによって感度が増大することが確認された。
<BSA吸着量増加比率>
((高露光量(3000mJ)でのタンパク吸着量)―(未露光(0mJ)でのタンパク吸着量))/(未露光(0mJ)でのタンパク吸着量)
実施例4;(1838.4−153.7)/153.7≒11.0
実施例5;(2245.0−220.3)/220.3≒9.2
【0058】
[タンパク質パターニング試験]
前述したように、実施例1で製造したCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハに対して、縦横幅がそれぞれ5.0μmのパターンを有するマスク(
図3(b)模式図参照)を通して、露光量1000mJで露光を行った。露光後、該シリコンウェハへの蛍光物質結合免疫グロブリンG(Molecular Probes(登録商標)Alexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)の特異的な吸着を、蛍光顕微鏡(IX71(商品名)、オリンパス株式会社製)により観察した。観察写真を
図3に示す。
図3(a)(観察写真)に示すように、
図3(b)(模式図)の白色部分(露光部分)に対応するように、格子状にAlexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)の特異的な吸着が観察された。なお
図3(a)中のランダムな輝点は洗浄不良による欠陥部である。
又同様に、縦横幅がそれぞれ1.0μmのパターンを有するマスクを通して、露光量3000mJで露光を行うと、同様の1.0μmの格子状にAlexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)の特異的な吸着が観察された。
【0059】
[細胞接着性の評価]
実施例1にて製造したB−PCMB修飾基板の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて、NIH−3T3細胞(マウス表皮由来繊維芽細胞)(DSファーマメディカル株式会社製)を5×10
4cell/cm
2となるように播種し、5%CO
2雰囲気下、37℃にて12時間培養した後、37℃に加温したリン酸緩衝液にて洗浄、培地交換を行った。さらに5%CO
2雰囲気下、37℃にて24時間培養した後、基板上へ接着した細胞について、細胞核を染色できるCellstain(登録商標)Hoechst33342(商品名)(2μg/mL、株式会社同仁化学研究所製)及び生細胞の細胞質を染色できるCellstain(登録商標)Calcein−AM溶液(商品名)(2μg/mL、株式会社同仁化学研究所製)を含む培養液に30分間暴露させた後に、リン酸緩衝液で洗浄後、蛍光顕微鏡により観察した。基板に接着した細胞を、染色された核を計数することにより測定した。1細胞当たりの平均細胞伸展率(%)を、Calcein−AM溶液によって染色された細胞の面積を測定し、以下の計算式で算出した。
また、比較例1で製造したB−PMA修飾基板並びに比較例2で製造したB−PDMAEMA修飾基板の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについても、同様の操作にて細胞接着を実施し、細胞接着数の測定と1細胞当たりの平均細胞伸展率(%)を算出した。
<1細胞当たりの平均伸展率(%)>
1細胞当たりの平均伸展率(%)=[(染色された全細胞の総面積)/(細胞数・細胞核の数)] / [非接着細胞の断面積(397.4μm
2)] × 100
得られた結果を表5(細胞接着数)及び表6(平均細胞伸展率(%))に示す。
【表5】
【表6】
【0060】
表5及び表6に示すように、実施例1で製造した基板は露光量が増大するにつれて、細胞接着数が増加するという結果を得た。1細胞当たりの平均伸展率も同様の傾向を示した。
一方、比較例1と比較例2で製造した基板は細胞接着数と1細胞当たりの平均伸展率の露光量依存性は見られなかった。