特許第6305342号(P6305342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人富山大学の特許一覧 ▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

特許6305342光分解性材料、基板及びそのパターニング方法
<>
  • 特許6305342-光分解性材料、基板及びそのパターニング方法 図000025
  • 特許6305342-光分解性材料、基板及びそのパターニング方法 図000026
  • 特許6305342-光分解性材料、基板及びそのパターニング方法 図000027
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6305342
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】光分解性材料、基板及びそのパターニング方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/075 20060101AFI20180326BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20180326BHJP
   C08F 20/36 20060101ALI20180326BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20180326BHJP
   G03F 7/09 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   G03F7/075 511
   C12M1/00 A
   C08F20/36
   G03F7/004 521
   G03F7/09 501
【請求項の数】16
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-540912(P2014-540912)
(86)(22)【出願日】2013年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2013077804
(87)【国際公開番号】WO2014058061
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226380(P2012-226380)
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】木村 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】臼井 友輝
(72)【発明者】
【氏名】北野 博巳
(72)【発明者】
【氏名】中路 正
(72)【発明者】
【氏名】源明 誠
【審査官】 本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−034747(JP,A)
【文献】 特開2007−039391(JP,A)
【文献】 特開2008−268488(JP,A)
【文献】 特開2012−148436(JP,A)
【文献】 特開2008−213177(JP,A)
【文献】 Hisatomo Suzuki, Lifu Li, Tadashi Nakaji-Hirabayashi, Hiromi Kitano,Kohji Ohno, Kazuyoshi Matsuoka, Yoshiyuki Saruwatari,Carboxymethylbetaine copolymer layer covalently fixed to a glass substrate,Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2012年 2月 1日,Vol.94,p.107-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004 − 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
(RO)−Si−Y− (1)
(式中、Rは炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Yは、硫黄原子、ジチオ炭酸エステル結合基(−S−C(=S)−)、トリチオ炭酸エステル結合基(−S−C(=S)−S−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表す。)
で表される構造を有し、シロキサン結合を介して基板表面に結合することができる起端部と、
該起端部に連なる、下記式(2−a)で表される構造単位を含む連結部を含む、光分解性材料であって、
該光分解性材料は、光照射によって、双性イオンのアニオン部分が切断され、双性イオンポリマー鎖がカチオン性ポリマー鎖に構造変化することによるか、又は該材料中にフェニル基を含む場合は該基が分解して双性イオンポリマー鎖が喪失する、光分解性材料。
【化1】
(式中、
乃至Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Zは、カルボアニオン(−COO基)又はスルホアニオン(−SO基)を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表し、
nは、1乃至10の整数を表す。)
【請求項2】
下記式(2−a)で表される構造単位と、シロキサン結合を介して基板表面に結合することができる側鎖を有する下記式(3)で表される構造単位とを含むポリマーを含む、光分解性材料であって、
該光分解性材料は、光照射によって、双性イオンのアニオン部分が切断され、双性イオンポリマー鎖がカチオン性ポリマー鎖に構造変化することによるか、又は該材料中にフェニル基を含む場合は該基が分解して双性イオンポリマー鎖が喪失する、光分解性材料
【化2】
(式中、
乃至Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Zは、カルボアニオン(−COO基)又はスルホアニオン(−SO基)を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステ
ル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表し、
nは、1乃至10の整数を表す。)
【化3】
(式中、
は、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表す。)
【請求項3】
フォトリソグラフィによるパターン形成用材料である、請求項1又は請求項2に記載の光分解性材料。
【請求項4】
フォトリソグラフィがArFエキシマレーザーを用いて為される、請求項3に記載の光分解性材料。
【請求項5】
上記Y又はQのいずれか一方又は双方が、置換されていてもよいフェニレン基を含む、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の光分解性材料。
【請求項6】
タンパク質、細胞又はウイルスを特異的に吸着させたパターンを形成するための材料である、請求項3乃至請求項5のうち何れか一項に記載の光分解性材料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載の光分解性材料がシロキサン結合を介して基板の表面に結合してなるパターン形成可能な基板。
【請求項8】
請求項7に記載の基板であって、その表面に結合する光分解性材料がフォトリソグラフィ法によりパターン露光されてなる、パターン形成された基板。
【請求項9】
前記露光がArFエキシマレーザーを用いて為される、請求項8に記載の基板。
【請求項10】
前記基板が、ガラス基板、金属基板、金属酸化物基板、金属窒化物基板、金属炭化物基板、金属酸窒化物基板、セラミックス基板、シリコン酸化物基板、シリコン窒化物基板、シリコン炭化物基板、シリコン酸窒化物基板又はシリコン基板である、請求項7乃至請求項9のうち何れか一項に記載の基板。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のうち何れか一項に記載の基板を用いた細胞培養用基板。
【請求項12】
請求項7乃至請求項10のうち何れか一項に記載の基板を用いたマイクロ流路。
【請求項13】
タンパク質、細胞又はウイルスが特異的に吸着されたパターン形成された基板の製造方法であって、
基板表面に請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載の光分解性材料をシロキサン結合を介して固定化することにより表面修飾された基板を製造する工程、
該表面修飾された基板をパターン露光することにより基板表面をパターン形成する工程、及び
基板表面のパターン露光された部分にタンパク質、細胞又はウイルスを吸着/接着させる工程、
を含む、パターン形成された基板の製造方法。
【請求項14】
前記パターン露光がArFエキシマレーザーを用いて為される、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記パターン形成された基板が、細胞培養用基板である請求項13又は請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記パターン形成された基板が、マイクロ流路形成用基板である請求項13又は請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光パターニングによりタンパク質、細胞又はウイルス等の吸着/接着制御が可能となる光分解性材料、当該材料を用いてパターン形成された基板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞に対して接着性と非接着性の二種類の化学種をパターン化した培養基材(又は基板)を用いて、細胞の接着領域と非接着領域を規定する技術(細胞パターニング)の研究が、細胞生物学的な基礎研究から、組織工学から細胞基板センサー等の応用研究といった多岐に亘る分野において進められている。
中でも、特に注目を集めている外部刺激に応じて細胞接着性を変換(スイッチング)する技術分野においては、熱(温度)や電気、光等の外部刺激に応じて相転移、酸化・還元、化学反応などで表面化学種が変換することにより、培養基板上の特定領域の細胞接着性を制御できる機能性材料が、種々検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、光照射によって細胞付着性を付加可能にする細胞付着・培養基材として、光分解性基及び細胞付着抑制基が順に共有結合で結合した材料が提案されている。その他にも、光照射により官能基から光分解性保護基を脱離させることを含む、細胞培養下において新たな細胞接着パターニングの形成及びサイズ変更の実現を図った細胞を固定化した基板の作製方法(特許文献2)、細胞を高精細なパターン状に接着させることを目的とする細胞培養用パターニング基板およびその製造方法(特許文献3)、並びに、細胞の配列制御用具の製法(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−65945号公報
【特許文献2】特開2006−6214号公報
【特許文献3】国際公開第2005/103227号パンフレット
【特許文献4】特開平3−7576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の文献等に示すように、これまで提案された光照射による細胞付着性制御を図った機能性材料においては、光照射の露光源が高圧水銀灯やi線(波長365nm)であることから、接着制御の適用材料に制限があり、ひいては接着制御の対象(細胞等)にも限定があった。また、従来使用される光源では、形成されるパターンサイズがマイクロメートルオーダー(10-6m)にとどまっていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より微細なパターンを形成でき、且つ、光源に限定されることなく様々な細胞種、さらにはタンパク質、ウイルス等の吸着/接着制御に対しても適用可能である、新たな材料の提供を目的とする。また、本発明は、該材料を用いてパターン形成された基板、並びにその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねたところ、ベタイン構造を有する双性イオンポリマーが、半導体製造の超微細加工にも用いられるArF(フッ化アルゴン)(波長193nm)の照射により、細胞だけでなくタンパク質さらにはウイルス等の吸着性/接着性が変化するものであることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、式(1):
(RO)−Si−Y− (1)
(式中、Rは炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Yは、硫黄原子、ジチオ炭酸エステル結合基(−S−C(=S)−)、トリチオ炭酸エステル結合基(−S−C(=S)−S−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表す。)
で表される構造を有し、シロキサン結合を介して基板表面に結合することができる起端部と、該起端部に連なる、下記式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位を含む連結部を含む、光分解性材料に関する。
【化1】
(式中、
乃至Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Zは、カルボアニオン(−COO基)又はスルホアニオン(−SO基)を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表し、
nは、1乃至10の整数を表す。)
第2観点として、下記式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位と、シロキサン結合を介して基板表面に結合することができる側鎖を有する下記式(3)で表される構造単位とを含むポリマーを含む、光分解性材料に関する。
【化2】
(式中、
乃至Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Zは、カルボアニオン(−COO基)又はスルホアニオン(−SO基)を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表し、
nは、1乃至10の整数を表す。)
【化3】
(式中、
は、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステ
ル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表す。)
第3観点として、フォトリソグラフィによるパターン形成用材料である、第1観点又は第2観点に記載の光分解性材料に関する。
第4観点として、フォトリソグラフィがArFエキシマレーザーを用いて為される、第3観点に記載の光分解性材料に関する。
第5観点として、上記Y又はQのいずれか一方又は双方が、置換されていてもよいフェニレン基を含む、第4観点に記載の光分解性材料に関する。
第6観点として、タンパク質、細胞又はウイルスを特異的に吸着させたパターンを基板表面に形成するための材料である、第3観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の光分解性材料に関する。
第7観点として、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の光分解性材料がシロキサン結合を介して基板の表面に結合してなるパターン形成可能な基板に関する。
第8観点として、第7観点に記載の基板であって、その表面に結合する光分解性材料がフォトリソグラフィ法によりパターン露光されてなる、パターン形成された基板に関する。
第9観点として、前記露光がArFエキシマレーザーを用いて為される、第8観点に記載の基板に関する。
第10観点として、前記基板が、ガラス基板、金属基板、金属酸化物基板、金属窒化物基板、金属炭化物基板、金属酸窒化物基板、セラミックス基板、シリコン基板、シリコン酸化物基板、シリコン窒化物基板、シリコン炭化物基板、シリコン酸窒化物基板又はシリコン基板である、第7観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の基板に関する。
第11観点として、請求項7乃至第10観点のうち何れか一項に記載の基板を用いた細胞培養用基板に関する。
第12観点として、第7観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の基板を用いたマイクロ流路に関する。
第13観点として、タンパク質、細胞又はウイルスが特異的に吸着されたパターン形成された基板の製造方法であって、
基板表面に第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の光分解性材料をシロキサン結合を介して固定化することにより表面修飾された基板を製造する工程、該表面修飾された基板をパターン露光することにより基板表面をパターン形成する工程、及び
パターン露光された部分にタンパク質、細胞又はウイルスを吸着/接着させる工程、
を含む、パターン形成された基板の製造方法に関する。
第14観点として、前記パターン露光がArFエキシマレーザーを用いて為される、第13観点に記載の製造方法に関する。
第15観点として、前記パターン形成された基板が、細胞培養用基板である第13観点又は第14観点に記載の製造方法に関する。
第16観点として、前記パターン形成された基板が、マイクロ流路形成用基板である第13観点又は第14観点に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光分解性材料は、光照射、特にArF照射によって、双性イオンのアニオン部分が切断され、双性イオンポリマー鎖がカチオン性ポリマー鎖に構造変化することによるか、又は該材料中にフェニル基等を含む場合は該基等が分解して双性イオンポリマー鎖が喪失することにより、該分解部分にタンパク質、細胞又はウイルス等の吸着/接着が可能となるため、タンパク質等の吸着性/接着性の制御が可能な材料である。
また本発明の基板は、上記光分解性材料がシロキサン結合を介して表面に強固に結合してなる。そして、マスク等を介して基板を露光することにより、光照射された部分の光分解性材料のみを分解させ、光照射部分にのみタンパク質等に対する吸着性/接着性を容易に付与できる。また、該光分解性材料はArF露光することによってナノメートルオーダー(10-9m)の超微細なパターンを形成可能である。このため、本発明は所望の形状のマスクを通して光照射することにより、超微細なパターン上にのみタンパク質等の吸着/接着を可能とした基板を提供できる。これは特にナノメートルオーダーの大きさを有するタンパク質又はウイルスを特異的に吸着させたパターン形成に有用である。
さらに本発明のパターン形成された基板の製造方法によれば、タンパク質等が所望のパターン形状に吸着/接着した基板を容易に製造できる。
このように、本発明は、細胞生物学的な基礎研究或いは組織工学や細胞基板センサー等において有用となる新たな手段を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、比較例1にて製造した表面修飾された基板の模式図である。
図2図2は、比較例2にて製造した表面修飾された基板の模式図である。
図3図3は、タンパク質パターニング試験結果を示す観察写真であり、(a)観察写真及び(b)模式図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光分解性材料]
本発明の光分解性材料は、後述する基板に、シロキサン結合を介して結合できる式(1)で表される起端部と、それに連なる式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位を含む連結部とから構成される材料である。
また本発明の光分解性材料は、下記式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位と、シロキサン結合を介して基板表面に結合することができる側鎖を有する下記式(3)で表される構造単位とを含むポリマーを含む材料であってもよい。
【0012】
(RO)−Si−Y− (1)
(式中、Rは炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Yは、硫黄原子、ジチオ炭酸エステル結合基(−S−C(=S)−)、トリチオ炭酸エス
テル結合基(−S−C(=S)−S−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表す。)
【化4】
(式中、
乃至Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Zは、カルボアニオン(−COO基)又はスルホアニオン(−SO基)を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O−)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表し、
nは、1乃至10の整数を表す。)
【化5】
(式中、
は、炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Xは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基を表し、
Qは、エステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)、リン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O)−O−)、アミド結合基(−NH−CO−又は−CO−NH−)、炭素原子数1乃至10のアルキレン基又は置換されていてもよいフェニレン基、或いはこれら二価の基の組み合わせを表し、
は、1乃至200の整数を表す。)
【0013】
上記式(1)、式(2−a)、式(2−b)又は式(3)において、R1乃至R5並びにXにおける炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基とは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、1,2−ジメチル−n−プロピル基、2,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−n−プロピル基又はn−ペンチル基等が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基又はn−ペンチル基である。
またY及びQにおける炭素原子数1乃至10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、シクロプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、シクロブチレン基、1−メチル−シクロプロピレン基、2−メチル−シクロプロピレン基、n−ペンチレン基、1−メチル−n−ブチレン基、2−メチル−n−ブチレン基、3−メチル−n−ブチレン基、1,1−ジメチル−n−プロピレン基、1,2−ジメチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン、1−エチル−n−プロピレン基、シクロペンチレン基、1−メチル−シクロブチレン基、2−メチル−シクロブチレン基、3−メチル−シクロブチレン基、1,2−ジメチル−シクロプロピレン基、2,3−ジメチル−シクロプロピレン基、1−エチル−シクロプロピレン基、2−エチル−シクロプロピレン基、n−ヘキシレン基、1−メチル−n−ペンチレン基、2−メチル−n−ペンチレン基、3−メチル−n−ペンチレン基、4−メチル−n−ペンチレン基、1,1−ジメチル−n−ブチレン基、1,2−ジメチル−n−ブチレン基、1,3−ジメチル−n−ブチレン基、2,2−ジメチル−n−ブチレン基、2,3−ジメチル−n−ブチレン基、3,3−ジメチル−n−ブチレン基、1−エチル−n−ブチレン基、2−エチル−n−ブチレン基、1,1,2−トリメチル−n−プロピレン基、1,2,2−トリメチル−n−プロピレン基、1−エチル−1−メチル−n−プロピレン基、1−エチル−2−メチル−n−プロピレン基、シクロヘキシレン基、1−メチル−シクロペンチレン基、2−メチル−シクロペンチレン基、3−メチル−シクロペンチレン基、1−エチル−シクロブチレン基、2−エチル−シクロブチレン基、3−エチル−シクロブチレン基、1,2−ジメチル−シクロブチレン基、1,3−ジメチル−シクロブチレン基、2,2−ジメチル−シクロブチレン基、2,3−ジメチル−シクロブチレン基、2,4−ジメチル−シクロブチレン基、3,3−ジメチル−シクロブチレン基、1−n−プロピル−シクロプロピレン基、2−n−プロピル−シクロプロピレン基、1−イソプロピル−シクロプロピレン基、2−イソプロピル−シクロプロピレン基、1,2,2−トリメチル−シクロプロピレン基、1,2,3−トリメチル−シクロプロピレン基、2,2,3−トリメチル−シクロプロピレン基、1−エチル−2−メチル−シクロプロピレン基、2−エチル−1−メチル−シクロプロピレン基、2−エチル−2−メチル−シクロプロピレン基又は2−エチル−3−メチル−シクロプロピレン基等が挙げられるが、好ましくはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基である。
また、Y又はQのいずれか一方又は双方がフェニレン基の場合、置換されていてもよい」とは、当該フェニレン基はその水素原子が、上記炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はヒドロキシ基で置換されていてもよい、という意味である。
【0014】
上記式(1)においてYは、後述する基板に固定化した後、露光することによりパターン形成する際、より低い露光量でも光分解性材料が分解可能(パターン形成可能)、すなわち高感度とすべく、フェニレン基を含むことが好ましい。上記フェニレン基の水素原子は、上記炭素原子数1乃至5の飽和直鎖アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はヒドロキシ基で置換されていてもよい。
また式(2−a)において、Zはカルボアニオン(−COO-基)又はスルホアニオン(−SO3-基)であることが好ましい。
さらに式(2−a)、式(2−b)又は式(3)において、Qはエステル結合基(−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−)と炭素原子数1乃至10のアルキレン基の組み合わせ、又はリン酸ジエステル結合基(−O−P(=O)(−O-)−O−)と炭素原子数1乃至10のアルキレン基の組み合わせであることが好ましい。
【0015】
上記構造単位(2−a)は、例えば下記式(2−a−1)で表されるモノマーに由来するものであることが好ましい。
【化6】
上記式中、R2、R3、X及びnは上記式(2−a)における定義のとおりである。
上記式(2−a−1)で表されるモノマーの具体例としては、例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシメチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルオキシメチル−N,N−ジエチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジエチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、N−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−N,N−ジエチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、特にN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインが好ましく用いられる。
又、上記式(2−a−1)のカルボアニオン(−COO-基)部分がスルホアニオン(−SO3-基)に置換している化合物も好ましく用いられ、例えばN−(3−スルホプロピル)−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン等を挙げることができる。
【0016】
式(2−b)で表される構造単位の例としては、2−((メタ)クリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−((メタ)クリロイルオキシ)プロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−((メタ)クリロイルオキシ)ブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−((メタ)クリロイルオキシ)ペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−((メタ)クリロイルオキシ)ヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)クリロイルオキシ)プロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)クリロイルオキシ)ブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)クリロイルオキシ)ペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)クリロイルオキシ)ヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等のモノマー由来の構造単位が挙げられ、それらの中でも2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)由来の構造単位が特に好ましい。
【0017】
また上記構造単位(3)は、例えば下記式(3−1)で表されるモノマーに由来するものであることが好ましい。
【化7】
上記式中、R5及びXは上記式(3)における定義のとおりである。
上記式(3−1)で表されるモノマーの具体例としては、例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン等が挙げられる。
また上記構造単位(3)は、スチリルトリメトキシラン等のフェニレン基を含むモノマーや3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のモノマーであってもよい。
【0018】
本発明の光分解性材料は、フォトリソグラフィによるパターン形成用材料として好適であり、特に露光光にArFエキシマレーザーを用いたフォトリソグラフィによるパターン形成用材料として好適である。
そして本発明の光分解性材料は、露光することによってタンパク質、細胞又はウイルスに対する吸着性/接着性を発現するため、タンパク質、細胞又はウイルスを特異的に吸着させたパターンを基板表面に形成するための材料として好適である。
【0019】
[基板及びパターン形成基板の製造方法]
本発明は、上記光分解性材料がシロキサン結合を介して基板の表面に結合してなるパターン形成可能な基板、前記基板の表面上に結合する光分解性材料がパターン露光されてなるパターン形成された基板、そしてタンパク質、細胞又はウイルスが特異的に吸着したパターン形成された基板の製造方法にも関する。
【0020】
上記パターン形成された基板は、以下の(a)〜(c)工程を経て製造可能である。
(a)基板表面に前記光分解性材料をシロキサン結合を介して固定化することにより表面修飾された基板を製造する工程、
(b)該表面修飾された基板をパターン露光することによりパターン形成する工程、及び
(c)パターン露光された部分にタンパク質、細胞又はウイルスを吸着させる工程。
【0021】
上記(a)工程は、前述の本発明の光分解性材料を基板表面に固定化する工程、すなわち光分解性材料の被膜を基板表面に形成する工程である。
ここで使用する基板としては、光分解性材料がシロキサン結合を介して基板と結合することができるよう、その表面上にヒドロキシ基が存在していることが好ましい。例えば、ガラス基板、金属、金属酸化物基板、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、セラミックス基板、シリコン基板、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物又はシリコン酸窒化物等を好適な基板として挙げることができる。なお、基板表面上にヒドロキシ基が存在していない基板を使用する場合には、その表面を親水化させておくことが好ましい。
【0022】
本発明の光分解性材料を基板表面に固定化する(被膜を基板の表面上に形成させる)方法としては、例えば、スピンコート法、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法、刷毛塗法、ロールコート法、蒸着法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
また、本工程の雰囲気は、通常、大気中であればよく、また塗布する際の温度は、通常、常温であってもよく、加温であってもよい。基板表面に固定化させる光分解性材料の量は、基板の用途などによって適宜調整することが好ましい。
また前記光分解性材料を基板表面に固定化した後(被膜を基板の表面上に形成させた後)は、生産効率を高める観点から、基板を加熱することが好ましい。基板を加熱する際の加熱温度は、その基板の耐熱温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、30〜150℃の範囲内で、その基板に適した温度を選択することが好ましい。
【0023】
或いは、本発明の光分解性材料を基板表面に固定化する工程は、前記式(1)で表される構造を有する起端部をまず基板表面に結合させた後、該起端部から式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位の由来となるモノマーを重合させ、光分解性材料を基板表面上に形成させることによっても可能である。
この場合、まず基板に式(1)で表される構造を有する起端部を結合させた後、ここに連鎖移動反応を起こしやすい基を導入する。そして、式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位の由来となるモノマーと、重合開始剤、連鎖移動剤等を投入して反応させることで、前記起端部に式(2−a)又は/及び式(2−b)で表される構造単位を有するポリマーが結合した本発明の光分解性材料とすることができる。本法は「Grafting from」法(表面開始グラフト重合)と呼ばれる。
本方法は、塗布方法に比べて、機能性材料を比較的薄膜の状態で基板表面に高密度に存在させ、所望の機能を向上させることが出来る。例えば本願においては、露光部位に対するタンパク質、細胞又はウイルスの接着性が向上することで、パターンのコントラストを高めることが出来る。このようにして作製されたものは一般に「ポリマーブラシ」とも呼ばれる。又、既成の高分子化合物と基板表面の官能基との反応による「Grafting to」法を用いてもよい。
【0024】
上記反応に使用する重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の量は、特に限定されないが、通常、モノマー成分100質量部あたり0.01〜10質量部程度であることが好ましい。
【0025】
上記反応に使用する連鎖移動剤は、モノマー成分と混合することによって用いることができ、例えばラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのメルカプタン基含有化合物、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の量は、特に限定されないが、通常、モノマー成分100質量部あたり0.01〜10質量部程度であればよい。
【0026】
モノマー成分を重合させる方法としては、例えば、溶液重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
溶液重合法に使用する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリフルオロエタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒の量は、通常、モノマー成分を溶媒に溶解させることによって得られる溶液におけるモノマー成分の濃度が1〜80質量%程度となるように調整することが好ましい。
【0027】
モノマー成分を重合させる際の重合温度、重合時間などの重合条件は、そのモノマー成分の組成、重合開始剤の種類およびその量などに応じて適宜調整することが好ましい。
またモノマー成分を重合させるときの雰囲気は、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0028】
続いて、(b)工程は、(a)工程で製造した、本発明の光分解性材料が基板表面に結合した基板をフォトリソグラフィによりパターン露光することによりパターン形成する工程である。
本工程は、パターンマスクを介して、露光光としてArFエキシマレーザー(波長:193nm)を用いて行うことが好ましい。露光装置としては、半導体製造用超微細露光用ArFステッパー等を用いることが出来る。
露光量は、10mJからおよそ3000mJで適宜選択され得、250mJ以上の露光量であることがより好ましい。
こうして得られた基板は、露光部の光分解性材料の双性イオンポリマー鎖がカチオン性ポリマー鎖に構造変化、又は分解による双性イオンの喪失により、該カチオン性部分又は双性イオン喪失部分(すなわち露光部)にタンパク質、細胞又はウイルス等の吸着/接着が可能となる。
【0029】
最後に(c)工程として、前述のパターン露光された部分にタンパク質、細胞又はウイルスを吸着させ、タンパク質、細胞又はウイルスを特異的に吸着させたパターン形成された基板を得る。例えば、インキュベーション法等が挙げられる。
【0030】
本発明の上記パターン形成基板は、細胞培養用基板或いはマイクロ流路形成用基板として好適に適用可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
本明細書の下記製造例に示すポリマーの重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)法による測定結果である。GPC測定装置を用いた測定における測定条件は下記のとおりである。
GPCカラム:WB−G−50(和光純薬工業株式会社)
カラム温度:25℃
溶媒:0.1M NaBr水溶液
流量:0.2mL/分
標準試料:プルラン(昭和電工株式会社)
【0033】
[実施例1:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PCMB修飾基板)の製造]
製造例1 SDTB(ジチオベンゾエートナトリウム塩)の合成
ナトリウムメトキシド(1.08g、0.020mol)を脱気したメタノール3.6mLに溶解し、ここに単体硫黄(650mg、0.020mol)を加え、N2バブリング(窒素置換)を行いながら撹拌した。ここにベンジルクロリド(1.14mL、0.010mol)を30分かけて滴下し、65℃で10時間反応させた(スキーム1)。
反応終了後、反応系を氷水に浸し、析出した塩を吸引ろ過により除去し、溶媒を減圧濃縮により除去した。ここに水10mLを加え、再度吸引ろ過を行った後、ろ液に4mLのジエチルエーテルを加え、分液操作を行った。同様にさらに2回分液操作を行い、回収した水層にジエチルエーテル4mL、1M HCl 5mLを加え、分液操作を行った。回収したエーテル層に、水6mL及び1M NaOH 6mLを加え、分液操作を行った。上記分液操作後、回収した水層にジエチルエーテルと1M HClを加える分液操作と、回収したエーテル層に水と1M NaOHを加える分液操作を上記と同様の操作にてさらに2回行った。
回収した水層を減圧濃縮し、アセトン中に滴下した。析出した塩を吸引ろ過により除去した後、ろ液を減圧乾燥し、褐色粉末の生成物SDTB(A)(ジチオベンゾエートナトリウム塩)を得た(収量:542mg)。
【化8】
【0034】
製造例2 BSTMPA(2−(n−ブチルチオ(チオカルボニル)チオ)−2−メチル−プロピオン酸)の合成
リン酸カリウム(4.25g、20mmol)をアセトン32mLに溶解し、30分間撹拌後、1−ブタンチオール2.14mL、次に二流化硫黄3.0mL、そして2−メチル−2−ブロモプロピオン酸3.34gを、10分間隔で順に加えた後、18時間反応を行った(スキーム2)。
シリカゲルカラムによる精製を行った後、減圧濃縮により溶媒を除去し、ヘキサンに溶解させ、その後冷却して固体を回収した。得られた固体をデシケータで乾燥し、黄色粉末のBSTMPA(B)を得た(収量:840mg)。
【化9】
【0035】
製造例3 シリコンウェハの表面修飾
8インチシリコンウェハを水、メタノール、アセトンの順で洗浄し、さらにUV/オゾン洗浄を行った。
8インチシリコンウェハが入る反応容器中に、CMPS(4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン)185μL(2v/v%)をトルエン9mLに溶解した溶液を入れ、窒素雰囲気下で、上述の洗浄後のシリコンウェハを浸漬させた。その反応容器を80℃のオイルバス中に15時間保持し、シリコンウェハ表面のヒドロキシ基と4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシランのアルコキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコンウェハをトルエンで2回洗浄し、次に30秒間超音波洗浄を行い、さらに2回トルエンで洗浄した。洗浄後、N2フローにより乾燥し、CMPSで表面修飾されたシリコンウェハを得た(スキーム3:上段参照)。
【0036】
製造例4 双性イオンポリマー鎖によるシリコンウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例1で得たSDTB20mgをテトラヒドロフラン(THF)10mLに溶解した後、この溶液に、製造例3で得たCMPSにて表面修飾されたシリコンウェハを浸漬し、室温で1時間反応を行った(スキーム3:中段参照)。
その後、THF、メタノールで洗浄を行い、N2フローによりシリコンウェハを乾燥させた。
【0037】
前述の如くジチオベンゾエートにて表面修飾したシリコンウェハをサンプル瓶に入れ、エタノール(10.00mL)、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB、2.33g、10mmol)を加え、30分間以上N2バブリングを行った。続いて、反応溶液に、製造例2で得たBSTMPA(B)(50.4mg、0.20mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、11.2mg、0.040mmol)を加え、3分間のN2バブリングを行い、サンプル瓶を密栓した。これを70℃のオイルバス中に入れ、24時間重合反応を行った(スキーム3:下段参照)。
重合反応終了後、シリコンウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N2フローにより乾燥させ、双性イオンポリマー鎖であるCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハを得た。
スキーム3:下段に記載のCMBポリマー鎖の構造式は、本製造例4で得られるCMBポリマー鎖の推定構造の1つである。
【化10】
【0038】
[実施例2:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(BTPT−g−PCMB修飾基板)の製造]
製造例5 BTPT(S−ベンジル−S’−トリメトキシシリルプロピルトリチオカーボネート)による基板修飾
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合可能なRAFT剤付きシランカップリング剤であるS−ベンジル−S’−トリメトキシシリルプロピルトリチオカーボネート(BTPT)溶液2.8gをトルエン200mLに溶解した。上述製造例3と同様の手順にて洗浄した8インチシリコンウェハを溶液中に浸漬し、24時間室温で保持し、シリコンウェハ表面のヒドロキシ基とBTPTのトリメトキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコンウェハをトルエンで洗浄し、N2フローにより乾燥させ、BTPTにて修飾されたシリコンウェハを得た(スキーム4:上段参照)。
【0039】
製造例6 双性イオンポリマー鎖によるシリコンウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例5でBTPTを修飾したシリコンウェハ(基板)を入れたサンプル瓶に、エタノール(10.00mL)、CMB(N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、2.33g、10mmol)を加え30分以上N2バブリングを行った。続いて、反応溶液に製造例2で合成したBSTMPA(B)(50.4mg、0.20mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、11.2mg、0.040mmol)を加え、3分間のN2バブリングを行い、サンプル瓶を密栓した。70℃のオイルバス中に反応容器を入れ、重合を開始し、24時間重合を行った(スキーム4:下段参照)。
重合反応終了後、シリコンウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N2フローにより乾燥させ、BTPT−g−PCMB修飾済みシリコンウェハを得た。
スキーム4:下段で得られるBTPT−g−PCMBは、本製造例6で得られるBTPT−g−PCMBの推定構造の1つである。
【化11】
【0040】
[実施例3 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(SPB−KBM−1403共重合体修飾基板)の製造]
製造例7 SPB−KBM−1403共重合体の合成
KBM−1403(p−スチリルトリメトキシシラン、信越化学株式会社製)(0.175g、0.78mmol)とSPB(N−(3−スルホプロピル)−N−メタクロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、1.96g、0.70mmol)を窒素バブリングしたTHF(13.75ml)に加えた。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.107g、0.65mmol)を加え、70℃で重合を開始した。4時間後さらにAIBN(0.0214g、0.13mmol)を加え、その後4時間反応させることにより、下記式(4)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は105,000であった。
【化12】
【0041】
製造例8 SPB−KBM−1403共重合体による修飾基板の製造
溶媒循環用冷却管が接続された8インチシリコンウェハ浸漬用ステンレス製反応容器にトリフルオロエタノール(TFE)(137.8mL)と製造例7で合成したSPB−KBM−1403共重合体を加え、ここにオゾン洗浄処理した8インチシリコンウェハを室温にて24時間浸漬した。その後、水とメタノールで洗浄し、さらに1時間水に浸漬し、SPB−KBM−1403共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0042】
[実施例4 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(CMB−KBM−1403共重合体修飾基板)の製造]
製造例9 CMB−KBM−1403共重合体の合成
KBM−1403(p−スチリルトリメトキシシラン、0.175g、0.78mmol)とCMB(N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、1.96g、9.1mmol)を窒素バブリングしたエタノールに加えた。AIBN(0.0905g、0.55mmol)を加え、70℃で重合を開始した。4時間後さらにAIBN(0.0181g、0.11mmol)を加え、その後4時間反応させることにより、下記式(5)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は122,000であった。
【化13】
【0043】
製造例10 CMB−KBM−1403共重合体による修飾基板の製造
溶媒循環用冷却管が接続された8インチシリコンウェハ浸漬用ステンレス製専用の反応容器にエタノール(226.0mL)と製造例9で合成したCMB−KBM−1403共重合体を加え、ここにオゾン洗浄処理した8インチシリコンウェハを室温にて24時間浸した。その後、水とメタノールで洗浄し、さらに1時間水に浸漬し、CMB−KBM−1403共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0044】
[実施例5 双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(CMB−MPTMS共重合体修飾基板)の製造]
製造例11 CMB−MPTMS共重合体の合成
KBM−1403をMPTMS(3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、0.29g、1.0mmol)とした以外は製造例9と同様の操作を行い、下記式(6)に示す2つの構造単位を有するポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は10,000であった。
【化14】
【0045】
製造例12 CMB−MPTMS共重合体による修飾基板の製造
製造例10においてCMB−KBM−1403共重合体の代わりに、製造例11で合成したCMB−MPTMS共重合体を使用した以外は、製造例10と同様の操作を行い、CMB−MPTMS共重合体修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た。
【0046】
[比較例1 双性イオンを持たないポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PMA修飾基板)の製造]
実施例1において、CMBの代わりにMA(メタクリル酸)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、B−PMA修飾済み基板を得た(図1の模式図参照)。
【0047】
[比較例2 双性イオンを持たないポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハ(B−PDMAEMA修飾基板)の製造]
実施例1において、CMBの代わりにDMAEMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、B−PDMAEMA修飾済みシリコンウェハ(基板)を得た(図2の模式図参照)。
【0048】
[実施例6:双性イオンポリマー鎖で表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハ(B−PCMB修飾基板)の製造]
製造例13 シリコン酸窒化ウェハの表面修飾
8インチシリコン酸窒化ウェハを水、メタノール、アセトンの順で洗浄し、さらにUV/オゾン洗浄を行った。
8インチシリコン酸窒化ウェハが入る反応容器中に、CMPS(4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン)8mL(2v/v%)をトルエン392mLに溶解した溶液を入れ、窒素雰囲気下で、上述の洗浄後のシリコン酸窒化ウェハを浸漬させた。その反応容器を80℃のウォーターバス中に15時間保持し、シリコン酸窒化ウェハ表面のヒドロキシ基と4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシランのアルコキシシリル基とを反応させた。その後、取り出したシリコン酸窒化ウェハを4回トルエンで洗浄した。洗浄後、N2フローにより乾燥し、CMPSで表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハを得た(前述のスキーム3:上段参照)。
【0049】
製造例14 双性イオンポリマー鎖によるシリコン酸窒化ウェハの表面修飾(ポリマーブラシタイプ)
製造例1で得たSDTBとテトラヒドロフラン(THF)を用いて、20mg/mLSDTB溶液200mLを調製後、この溶液に、CMPSにて表面修飾されたシリコンウェハを浸漬し、室温で1時間反応を行った(前述のスキーム3:中段参照)。
その後、THF、メタノールで洗浄を行い、N2フローによりシリコン酸窒化ウェハを乾燥させた。
前述の如くジチオベンゾエートにより表面修飾したシリコン酸窒化ウェハを8インチシリコンウェハが入る反応容器中に入れ、エタノール(600mL)、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB、27.96g、120mmol)を加えた。続いて、反応溶液に、製造例2で得たBSTMPA(B)(140.3mg、0.60mmol)及び水溶性アゾ重合開始剤V−501(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、和光純薬工業(株)、33.7mg、0.12mmol)を加え、30分間以上N2バブリングを行い、反応容器を密栓した。これを70℃のウォーターバス中に入れ、24時間重合反応を行った(前述のスキーム3:下段参照)。
重合反応終了後、シリコン酸窒化ウェハをメタノールで2回、水で1回、さらにメタノールで1回洗浄し、N2フローにより乾燥させ、双性イオンポリマー鎖であるCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコン酸窒化ウェハを得た。
【0050】
[露光方法]
上記実施例及び比較例で製造した表面修飾されたシリコンウェハを、露光量250mJ、500mJ、1000mJ及び3000mJで露光を行い、その後、蒸留水を用いてシリコンウェハの洗浄処理を行った。そして以下の膜厚測定、接触角の測定、タンパク質吸着測定、パターニング試験(AFM測定)及びタンパク質パターニング試験(蛍光顕微鏡測定)に用いた。
なお、露光には(株)ニコン製NSR−S307Eレンズキャニング方式ステッパー(ArFエキシマレーザー(波長:193nm))を用いた。
また、パターニング試験では、現像後にパターンの縦横幅がそれぞれ0.25〜5.0μmになるように設定されたマスクを通して露光を行った。
【0051】
[膜厚測定]
膜厚の測定は、エリプソ(偏光解析)式膜厚測定装置 Lambda Ace RE−3100(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて行った。
実施例1及至実施例5、並びに比較例1及至比較例2で製造した各シリコンウェハ(基板)の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて行った膜厚(nm)の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0052】
表1に示すように、実施例1及至実施例5、並びに比較例1及び比較例2で製造した各基板において、露光量の増大に伴い、膜厚の減少が見られた。
【0053】
[接触角の測定]
水液滴の接触角の測定は、接触角計(協和界面科学(株)製、品番:CA−D)を用いて、液滴法によって求めた。
なお液滴法は、室温下(相対湿度:約50%)で、3〜4μLの水を試料(シリコンウェハ)に接触させ、接触後27秒後の角度と33秒後の角度とを合計した角度の合計値で評価し、各ウェハ6点ずつ評価を行い、その平均値を測定値として採用した。
実施例1及至実施例5、並びに比較例1及び比較例2で製造した各シリコンウェハ(基板)の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて行った水液滴の接触角(度)の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0054】
表2に示すように、実施例1及至実施例5で製造した各基板においては、露光量の増大に伴い、接触角の増加が見られた。一方、比較例1及び比較例2で製造した各基板においては、露光量が増加しても接触角の増加は観測されなかった。
【0055】
[パターニング試験(AFM測定)]
前述の実施例1及至実施例6で製造したポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハまたはシリコン酸窒化ウェハに対して、現像後にパターンの縦横幅がそれぞれ0.25〜5.0μmになるように設定されたマスクを通して、露光量3000mJで上述の露光方法にて露光を行った。露光後、該ウェハのパターンの形成を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)により観察した。本観察では高性能大型試料用走査型プローブ顕微鏡(Dimention ICON:Bruker AXS製)を用い、プローブとして単結晶Si(Bruker AXS)を使用した。また、バネ定数:約3N/m、共振周波数:70kHz、走査速度:0.5Hzにより測定を行った。観察された格子状パターンのパターンサイズ(縦横幅)を表3に示す。
表3に示すように、実施例1及至実施例6で製造したポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハまたはシリコン酸窒化ウェハの表面に格子状のパターンの形成が確認された。
【表3】
【0056】
[ビシンコニン酸(BCA:Bicinchonianate)法によるタンパク質吸着測定試験]
実施例1及至実施例6、並びに比較例1及び比較例2で製造したシリコンウェハ(基板)又はシリコン酸窒化ウェハの未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)の吸着試験を、吸光マイクロプレートリーダーを用いてBCA法により評価した。
まずリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate Buffered Saline)で各ウェハを洗浄し、洗浄後のウェハ上にシリコンシートを用いて作製した枠(内径:20mm×20mm、外径:25mm×25mm)を載せた。シリコンシートの枠内に、500μLのBSA溶液(2wt% in PBS、シグマ−アルドリッチ社製)を入れ、室温下で2時間インキュベートした。BSA溶液を除去後、PBSで枠内を濯いだ後、600μLの「Micro BCA Protein Assay Kit」(商品名)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)/PBS等量混合溶液を加え、37℃で2時間インキュベートした。インキュベート後のBCA溶液の波長570nmにおける吸光度を測定し、BSAの吸着量(ng/cm2)を求めた。
得られた結果を表4に示す。
【表4】
【0057】
表4に示すように、実施例1及至実施例6で製造した各基板においては露光量の増大に伴いBSA吸着量の増加が見られた。一方、比較例1及び比較例2で製造した各基板においては、露光量の増大に伴うBSA吸着量の変化は観測されなかった。
さらに実施例1と実施例2の結果を比較すると、BSA吸着量は、ポリマーブラシ中にフェニル基を有する実施例1の方が、フェニル基を有していない実施例2より明らかに大きい結果となった。
また、実施例4と実施例5について、以下に示す<BSA吸着量増加比率>の式を用いてBSA吸着量の増加比率(数字が大きいほど増加比率が大きい)を算出したところ、ポリマー鎖中にフェニル基を有する実施例4の方が、フェニル基を有していない実施例5より大きい増加比率の値を示した。
以上の結果より、ポリマーブラシまたはポリマー鎖中に露光光に対する吸収部位(フェニル基等)を導入することによって感度が増大することが確認された。
<BSA吸着量増加比率>
((高露光量(3000mJ)でのタンパク吸着量)―(未露光(0mJ)でのタンパク吸着量))/(未露光(0mJ)でのタンパク吸着量)
実施例4;(1838.4−153.7)/153.7≒11.0
実施例5;(2245.0−220.3)/220.3≒9.2
【0058】
[タンパク質パターニング試験]
前述したように、実施例1で製造したCMBポリマー鎖で表面修飾されたシリコンウェハに対して、縦横幅がそれぞれ5.0μmのパターンを有するマスク(図3(b)模式図参照)を通して、露光量1000mJで露光を行った。露光後、該シリコンウェハへの蛍光物質結合免疫グロブリンG(Molecular Probes(登録商標)Alexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)の特異的な吸着を、蛍光顕微鏡(IX71(商品名)、オリンパス株式会社製)により観察した。観察写真を図3に示す。
図3(a)(観察写真)に示すように、図3(b)(模式図)の白色部分(露光部分)に対応するように、格子状にAlexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)の特異的な吸着が観察された。なお図3(a)中のランダムな輝点は洗浄不良による欠陥部である。
又同様に、縦横幅がそれぞれ1.0μmのパターンを有するマスクを通して、露光量3000mJで露光を行うと、同様の1.0μmの格子状にAlexa Fluor(登録商標)488−IgG(商品名)の特異的な吸着が観察された。
【0059】
[細胞接着性の評価]
実施例1にて製造したB−PCMB修飾基板の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについて、NIH−3T3細胞(マウス表皮由来繊維芽細胞)(DSファーマメディカル株式会社製)を5×104cell/cm2となるように播種し、5%CO2雰囲気下、37℃にて12時間培養した後、37℃に加温したリン酸緩衝液にて洗浄、培地交換を行った。さらに5%CO2雰囲気下、37℃にて24時間培養した後、基板上へ接着した細胞について、細胞核を染色できるCellstain(登録商標)Hoechst33342(商品名)(2μg/mL、株式会社同仁化学研究所製)及び生細胞の細胞質を染色できるCellstain(登録商標)Calcein−AM溶液(商品名)(2μg/mL、株式会社同仁化学研究所製)を含む培養液に30分間暴露させた後に、リン酸緩衝液で洗浄後、蛍光顕微鏡により観察した。基板に接着した細胞を、染色された核を計数することにより測定した。1細胞当たりの平均細胞伸展率(%)を、Calcein−AM溶液によって染色された細胞の面積を測定し、以下の計算式で算出した。
また、比較例1で製造したB−PMA修飾基板並びに比較例2で製造したB−PDMAEMA修飾基板の未露光部(露光量:0mJ)、露光部(露光量:250〜3000mJ)のそれぞれについても、同様の操作にて細胞接着を実施し、細胞接着数の測定と1細胞当たりの平均細胞伸展率(%)を算出した。
<1細胞当たりの平均伸展率(%)>
1細胞当たりの平均伸展率(%)=[(染色された全細胞の総面積)/(細胞数・細胞核の数)] / [非接着細胞の断面積(397.4μm2)] × 100
得られた結果を表5(細胞接着数)及び表6(平均細胞伸展率(%))に示す。
【表5】
【表6】
【0060】
表5及び表6に示すように、実施例1で製造した基板は露光量が増大するにつれて、細胞接着数が増加するという結果を得た。1細胞当たりの平均伸展率も同様の傾向を示した。
一方、比較例1と比較例2で製造した基板は細胞接着数と1細胞当たりの平均伸展率の露光量依存性は見られなかった。
図1
図2
図3