【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体微細加工・評価基盤技術の開発(超低電力デバイスプロジェクト)/EUVマスク検査・レジスト材料技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面を参照して説明する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る画像取得装置10の構成を示した図である。本実施形態の画像取得装置10は、基本的には電子顕微鏡装置に適用することが可能であるが、欠陥検査装置(半導体ウェハの欠陥検査装置やフォトマスクの欠陥検査装置)にも適用することが可能である。
【0013】
半導体ウェハやフォトマスク等の測定対象(測定試料)11は、ステージ12上に載置される。ステージ12の斜め上方には、電子銃13及びアノード14によって構成される電子線源15が配置されている。この電子線源15により、測定対象11に照射される電子線が生成される。ステージ12が移動することにより、測定対象11の所望の位置に電子線を照射することができる。電子線源15で生成された電子線は、E×B電子光学系17を介して測定対象11に照射される。
【0014】
ステージ12の上方には画像検出器18が配置されている。この画像検出器18により、電子線源15から測定対象11に照射された電子線に基づく測定対象の電子画像(電子顕微鏡画像、電子光学画像)が検出される。すなわち、測定対象11に電子線が照射されると、2次電子やミラー電子が生成され、この2次電子やミラー電子に基づく電子画像が画像検出器18によって検出される。測定対象11からの2次電子やミラー電子は、E×B電子光学系17を介して画像検出器18に入射する。
【0015】
電子線源15には、電子線源15に印加される電圧を変調する電圧変調部20が接続されている。なお、本実施形態では、電圧変調部20によって電子線源15に印加される電圧を変調するようにしているが、測定対象11に印加される電圧を変調するようにしてもよい。一般的には、電圧変調部により、電子線源15に印加される電圧及び測定対象11に印加される電圧の少なくとも一方が変調される。
【0016】
電圧変調部20により、電子銃13とアノード14との間に所望の電圧を印加することができる。その結果、測定対象11に入射する電子に所望のエネルギーを与えることが可能である。電圧変調部20により、例えば、入射電子のエネルギーを1eVから2000eVの間の所望の値に設定することが可能である。
【0017】
測定対象11に入射する電子のエネルギーが1eV程度であれば、測定対象11にチャージされている電子によって測定対象11には電子は到達せず、画像検出器18ではミラー電子画像が検出される。また、入射電子のエネルギーが2000eV程度であれば、測定対象11から2次電子が発生し、画像検出器18では2次電子画像が検出される。すなわち、電圧変調部によって電子線源15に印加される電圧及び測定対象11に印加される電圧の少なくとも一方を変調することにより、画像検出器18で複数種類の電子画像が検出される。
【0018】
図2は、測定対象11の一例を模式的に示した図である。本実施形態では、測定対象11として、EUV(extreme ultraviolet)露光用の反射型フォトマスクを用いるものとする。この反射型フォトマスクは、金属層(例えば、Ru層)31と、金属層31上に設けられた吸収層(例えば、TaBO層又はTaNO層)32とを有している。金属層31はEUV光を反射する導電体で形成され、吸収層32はEUV光を吸収する絶縁体(誘電体)で形成されている。また、吸収層32で形成された凸部の表面には細かいラフネスが存在しているものとする。
【0019】
図3は、
図2に示した測定対象(反射型フォトマスク)11の表面の等電位面を模式的に示した図である。測定対象11の凹部では金属層31が露出しているが、測定対象11の凸部の吸収層32は絶縁体で形成されている。そのため、凹部では測定対象11の外側に存在している等電位面が、凸部では吸収層(絶縁体層)32の内部に存在している。そのため、入射電子のエネルギーを1eVに設定した場合、凹部では、入射電子は金属層31に到達せずにミラー電子として跳ね返る。一方、凸部では、入射電子は吸収層32に衝突する。したがって、凸部では、ミラー電子は発生しない。また、入射電子のエネルギーは非常に低いため、凸部では2次電子もほとんど発生しない。その結果、画像検出器18では、凹部からのミラー電子に基づく画像が検出される。
【0020】
図4は、上記のように入射電子のエネルギーを1eVに設定した場合の、画像検出器18で検出される電子画像を模式的に示した図である。
図4に示すように、金属層31が露出した凹部と吸収層(絶縁体層)32で形成された凸部とのコントラストが高い画像が得られる。ただし、凸部ではほとんど電子が発生しないため、凸部表面の細かなラフネスはほとんど検出されない。
【0021】
図5は、入射電子のエネルギーを500eVに設定した場合の、画像検出器18で検出される電子画像を模式的に示した図である。この場合には、測定対象11からは2次電子が放出される。その結果、凹部と凸部とのコントラストは小さいが、凸部表面の細かなラフネスが検出される。
【0022】
図6は、入射電子のエネルギーを2000eVに設定した場合の、画像検出器18で検出される電子画像を模式的に示した図である。この場合には、凹部と凸部との境界(エッジ)で2次電子が多く発生するため、エッジが強調された画像が得られる。
【0023】
上述したように、入射電子のエネルギーを変えることにより、入射電子のエネルギーに応じた種々の画像が得られる。これらの画像は、互いに異なった性質(特徴)を有している。したがって、これらの画像を組み合わせて用いれば、測定対象の適切な画像を得ることが可能である。しかしながら、入射電子のエネルギーを変えて複数回の測定を行うと、画像を取得するための総時間が長くなり、効率的な画像取得を行うことが困難になる。例えば、2種類の画像を取得するために2回の測定を行うと、最低でも2倍以上の時間が必要となる。
【0024】
そこで、本実施形態では、入射電子のエネルギーを時分割で切り換え、同一の測定処理で複数種類の画像を取得するようにしている。
【0025】
図7は、時分割で切り換えられる入射電子エネルギーについて示したタイミング図である。電圧変調部20で電圧変調を行うことにより、
図7に示すような入射電子エネルギーの切り換えが行われる。
図7の例では、1eVと500eVとを50%デューティで切り換える場合を示している。
【0026】
図1の説明に戻ると、同一の測定で複数種類の画像を取得するために、同期制御部21が設けられている。この同期制御部21により、電圧変調部20での電圧変調タイミングと、画像検出器18での画像検出タイミングとを同期させるようにしている。このように、同期制御部21によって電圧変調タイミングと画像検出タイミングとを同期させることで、複数の入射電子エネルギーに対応した複数種類の電子画像を個別に取得することができる。
【0027】
画像検出器18には、画像合成部22が接続されている。この画像合成部22により、上記のようにして得られた複数種類の電子画像が合成される。
【0028】
図8は、画像合成部22によって合成された電子画像の例を示している。
図8の例では、
図4に示すような画像(入射電子エネルギーが1eVの場合の画像)と、
図5に示すような画像(入射電子エネルギーが500eVの場合の画像)とが合成された画像を示している。
【0029】
なお、複数の入射電子エネルギーに対応した複数種類の電子画像を取得する場合、予めプレスキャンによって最適な入射電子エネルギーを求めておくようにしてもよい。具体的には、電圧変調部20によって正弦波を発生させ、入射電子エネルギーを正弦波にしたがって変化させる。その結果、入射電子エネルギーに応じた多数の画像が得られる。このようにして得られた結果に基づき、最良の入射電子エネルギーを決定する。例えば、ミラー電子画像と2次電子画像と2つの画像を取得する場合には、ミラー電子画像に対する最良の入射電子エネルギーと、2次電子画像に対する最良の入射電子エネルギーを決定する。このようにして得られた最良の入射電子エネルギーを用いて、
図7に示すような時分割スキャンを行う。
【0030】
次に、
図9に示したフローチャートを参照して、本実施形態に係る画像取得方法を説明する。
【0031】
まず、測定対象(本実施形態では、EUV露光用の反射型フォトマスク)11をステージ12上に載置する(S11)。
【0032】
次に、電圧変調部20によって正弦波を発生させてプレスキャンを行う。さらに、プレスキャン結果に基づいて、取得すべき複数の画像に対する複数の最良の入射電子エネルギーを決定する(S12)。例えば、ミラー電子画像の入射電子エネルギーを1eV、2次電子画像の入射電子エネルギーを500eV、と決定する。
【0033】
次に、電圧変調部20を制御して電子線源15で電子線を発生させ、発生した電子線を測定対象11に照射する(S13)。このとき、電子線源15に印加される電圧を変調する。すなわち、S12のステップで決定された最良の入射電子エネルギーが得られるように電圧変調部20を制御し、例えば
図7に示すような時分割スキャンを行う。なお、本実施形態では、電圧変調部20によって電子線源15に印加される電圧を変調するようにしているが、測定対象11に印加される電圧を変調するようにしてもよい。一般的には、電圧変調部により、電子線源15に印加される電圧及び測定対象11に印加される電圧の少なくとも一方を変調する。
【0034】
次に、測定対象11に照射された電子線に基づく測定対象11の電子画像を、画像検出器18によって検出する(S14)。このとき、同期制御部21により、電圧変調部20での電圧変調タイミングと、画像検出器18での画像検出タイミングとを同期させる。これにより、複数の入射電子エネルギーに対応した複数種類の電子画像を個別に取得することができる。本実施形態では、
図4に示すようなミラー電子画像と
図5に示すような2次電子画像が取得される。
【0035】
次に、S14のステップで取得された複数の電子画像を、画像合成部22によって合成する(S15)。その結果、
図8に示すような合成された画像が得られる。
【0036】
以上のように、本実施形態では、電圧変調部によって電圧変調を行うことで、時間的に変動する入射電子エネルギーで測定対象に電子線が照射される。そのため、複数種類の電子画像を同一の測定処理で取得することができる。その結果、画像を取得するための総時間を増加させることなく、複数種類の電子画像を取得することができる。したがって、複数種類の電子画像それぞれの特徴を有する的確な画像を効率的に取得することが可能となる。
【0037】
次に、上述した画像取得装置及び画像取得方法を用いた欠陥検査装置及び欠陥検査方法について説明する。
【0038】
図10は、欠陥検査装置の構成を示したブロック図である。
図10に示した欠陥検査装置は、
図1に示した画像取得装置10と欠陥検出部41とを備えている。
【0039】
欠陥検出部41は、画像取得装置10で取得された画像に基づいて測定対象に含まれる欠陥を検出する。具体的には、欠陥検出部41では、
図1の画像合成部22によって合成された画像に基づいて欠陥検出を行う。本実施形態では、2次電子画像とミラー電子画像との合成画像に基づいて欠陥検出を行う。
【0040】
2次電子画像は、SN比の大きな鮮明な画像が得られるという利点がある。しかしながら、測定対象であるフォトマスクや半導体ウェハの表面には絶縁体が形成されている場合があり、そのような測定対象の表面はチャージアップしている。そのため、2次電子画像では、画像がぼけたり歪んだりする場合がある。一方、ミラー電子画像は、測定対象の表面近傍の等電位面で反射するため、測定対象との間の相互作用が少ない。そのため、ミラー電子画像は、チャージアップの影響が少ない。また、ミラー電子画像は、欠陥によって歪んだ等電位面の影響を受けるために、欠陥信号が強調されるという利点もある。したがって、2次電子画像とミラー電子画像とを組みあわせることで、両者の利点を生かした欠陥検出を行うことが可能である。
【0041】
また、欠陥検出の測定を行う場合、電気的なノイズ等に起因する擬似欠陥を誤って欠陥であると認定してしまうことがある。このような擬似欠陥も、複数種類の画像(例えば、2次電子画像とミラー電子画像)を用いることで的確に判断することが可能である。擬似欠陥が多い場合、仮に複数種類の画像を別々の測定で取得したとすると、複数種類の画像を別々の測定で取得した後に初めて擬似欠陥が多いことが判明する。そのような場合、条件設定を変えて、始めから測定をやり直す必要があり、多大な時間を費やすことになる。本実施形態のように、複数種類の画像を同一の測定で取得すれば、測定の最初の段階で擬似欠陥が多いことが判断できる。そのため、測定の最初の段階で条件設定を変えて測定をやり直すことができ、多大な時間を費やさなくてすむ。
【0042】
以上のように、本実施形態の欠陥検査装置によれば、同一の測定で取得した複数種類の電子画像に基づいて欠陥検査を行うことにより、的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。
【0043】
(実施形態2)
次に、第2の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態で説明した事項についての説明は省略する。
【0044】
第1の実施形態では、入射電子エネルギーの切り換えを50%デューティで行う場合について説明した。すなわち、複数の入射電子エネルギーの設定期間が互いに等しくなるようにした。本実施形態では、複数の入射電子エネルギーの設定期間を異ならせるようにしている。
【0045】
図11は、本実施形態における入射電子エネルギーの切り換えについて示したタイミング図である。
図11の例では、電圧変調部20を制御することで、2次電子画像を得るための入射電子エネルギー(2000eV)の期間を80%とし、ミラー電子画像を得るための入射電子エネルギー(1eV)の期間を20%としている。
【0046】
一般に、ミラー電子画像は、輝度が高く、コントラストの高い画像が得られる。一方、2次電子画像は、パターンの詳細を取得することが可能であるが、ミラー電子画像に比べて輝度が低い。そのため、
図11に示すように、2次電子画像の取得期間をミラー電子画像の取得期間より長くすることで、的確な画像を取得することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態においても第1の実施形態と同様に、同一の測定処理で取得した複数種類の電子画像に基づいて欠陥検査を行うことにより、的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。また、本実施形態では、複数種類の電子画像の取得期間をそれぞれ適切に設定することで、より的確な画像を取得することができ、より的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。
【0048】
(実施形態3)
次に、第3の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態で説明した事項についての説明は省略する。
【0049】
本実施形態では、3通りの入射電子エネルギーを用いて3種類の電子画像を取得する例について説明する。特に、測定対象11として半導体ウェハを用いる場合について説明する。
【0050】
図12は、本実施形態における入射電子エネルギーの切り換えについて示したタイミング図である。
【0051】
回路パターンが形成された半導体ウェハの表面には、導電体や絶縁体等の種々の材料が混在している。そのため、半導体ウェハの表面には、種々の導電率や誘電率を有する領域が混在している。そこで、本実施形態では、
図12に示すように、3通りの入射電子エネルギー(1eV、500eV、2000eV)が得られるように、電圧変調部20を制御している。2次電子発生効率は材料によって異なるため、2次電子発生用に複数の入射電子エネルギー(500eV、2000eV)を用いることで、材料に応じた的確な画像を取得することができる。また、全体的なコントラストの向上のために、ミラー電子発生用に入射電子エネルギー(1eV)を用いている。
【0052】
以上のように、入射電子エネルギーの数を増やすことで、半導体ウェハ表面のように種々の導電率や誘電率を有する領域が混在している場合にも、的確な画像を取得することができ、的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。
【0053】
(実施形態4)
次に、第4の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態で説明した事項についての説明は省略する。
【0054】
フォトマスク上に存在する欠陥は全てがウェハ上に転写されるわけではなく、ウェハ上に転写されない欠陥も存在する。
【0055】
図13は、フォトマスク上における転写される欠陥と転写されない欠陥について示した図である。
図13は、周期的なラインパターン51間の溝内に、絶縁体(誘電体)で形成された薄膜欠陥が存在する場合を示している。具体的には、ラインパターン51間の溝内に厚い薄膜欠陥52と薄い薄膜欠陥53とが存在する状況を示している。
【0056】
一定の厚さよりも厚い薄膜欠陥52は、リソグラフィの際に転写されるが、一定の厚さよりも薄い薄膜欠陥53は、リソグラフィの際に転写されない。したがって、このような薄い薄膜欠陥53は、一種の擬似欠陥であり、欠陥として検出しない方がよい。このような薄い薄膜欠陥53も欠陥として検出してしまうと、データ量が多くなり、検査時間の増大につながる。そこで、本実施形態では、ミラー電子のリターンポイントを適切に設定することで、厚い薄膜欠陥52は欠陥として検出するが、薄い薄膜欠陥53は欠陥として検出しないようにしている。
【0057】
図14は、本実施形態における欠陥検出の原理を示した図である。例えば、入射電子エネルギーが2eVのとき、溝内に薄膜欠陥が存在しない箇所ではミラー電子が検出され、溝内に厚い薄膜欠陥52及び薄い薄膜欠陥53が存在する箇所ではミラー電子が検出されないものとする。また、入射電子エネルギーが1eVのとき、溝内に薄膜欠陥が存在しない箇所及び薄い薄膜欠陥53が存在する箇所ではミラー電子が検出され、溝内に厚い薄膜欠陥52が存在する箇所ではミラー電子が検出されないものとする。このような場合には、入射電子エネルギーが2eVではミラー電子が検出されないが、入射電子エネルギーが1eVではミラー電子が検出される箇所は、転写されない薄い薄膜欠陥53が存在する箇所として、欠陥とは見なさないようにする。また、入射電子エネルギーが2eV及び1eVいずれにおいてもミラー電子が検出されない箇所は、転写される厚い欠陥52が存在する箇所として、欠陥と見なすようにする。
【0058】
図15は、本実施形態に係る入射電子エネルギーの切り換えについて示したタイミング図である。
図15に示すように、入射電子のエネルギー(1eV、2eV、2000eV)を時分割で切り換えるようにしている。上述したように、入射電子エネルギーが2000eVの場合には、2次電子画像が検出される。この2次電子画像によってフォトマスクの全体的な画像を得ることができる。
【0059】
以上のように、本実施形態においても第1の実施形態と同様に、同一の測定処理で取得した複数種類の電子画像に基づいて欠陥検査を行うことにより、的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。また、本実施形態では、ミラー電子のリターンポイントを適切に設定することで、ウェハ上に転写されない欠陥とウェハ上に転写される欠陥とを区別することが可能である。したがって、より的確な欠陥検査を効率的に行うことが可能となる。
【0060】
なお、本実施形態で示した方法(原理)を応用することにより、絶縁体(誘電体)で形成された薄膜の厚さを非接触で測定することが可能である。以下、本実施形態の応用例について説明する。
【0061】
上述したことからわかるように、絶縁体(誘電体)で形成された薄膜に電子線を照射したとき、入射電子エネルギーに応じて、ミラー電子が検出される場合と、ミラー電子が検出されない場合とがある。別の観点から見ると、薄膜の厚さに応じて、ミラー電子が検出される場合と、ミラー電子が検出されない場合とがある。そこで、ミラー電子が検出される入射電子エネルギーとミラー電子が検出されない入射電子エネルギーとの境界値(境界エネルギー)と、薄膜の厚さとの関係を予め求めておけば、入射電子エネルギーの境界値から薄膜の厚さを非接触で測定することが可能である。例えば、ある薄膜の厚さを求める場合、薄膜への入射電子エネルギーを低いエネルギーから高いエネルギーへと増加させながら、ミラー電子の検出を行う。この場合、ミラー電子が検出されなくなったときの入射電子エネルギーが、上述した入射エネルギーの境界値(境界エネルギー)となる。予め薄膜の厚さと入射エネルギーの境界値との関係を求めておけば、求められた境界値から薄膜の厚さを求めることができる。
【0062】
このように、本実施形態の応用例によれば、絶縁体(誘電体)で形成された薄膜に電子線を照射することで、薄膜の厚さを非接触で求めることが可能である。
【0063】
以上、第1〜第4の実施形態おいて、電子画像の取得方法は、走査電子顕微鏡型の画像取得方法でもよいし、照射系及び検出系(結像系)を有する写像投影型の画像取得方法でもよい。走査電子顕微鏡型の画像取得方法では、電子線が測定対象の表面でフォーカスされ、フォーカスされた電子線を測定対象の表面で走査することで、電子画像が取得される。写像投影型の画像取得方法では、電子線が測定対象の表面で2次元的な広がりを有して照射されるように照射系を設定し、2次元的な広がりを有して照射された電子線により、測定対象の内部、表面又は表面近傍から得られる電子画像を、検出系(結像系)で拡大して画像検出器に結像させることで、電子画像が取得される。
【0064】
(実施形態5)
次に、第5の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態で説明した事項についての説明は省略する。
【0065】
本実施形態では、写像投影型の画像取得装置を用いて電子画像の取得を行う。
図16は、本実施形態に係る写像投影型の画像取得装置の構成を模式的に示した図である。
【0066】
測定対象(測定試料)61はステージ62上に載置され、電子線源63から電子線照射系64を介して測定対象61に電子線(電子ビーム)が照射される。測定対象61からの電子は、電子像投影系65によって拡大され、画像検出器66に入射する。画像検出器66によって検出された電子画像の画像データは、画像処理部67に送られる。そして、画像処理部67での画像処理結果に基づいてマスクブランクの欠陥が検出される。
【0067】
電子線照射系64は、ガンレンズ、アパーチャ(図示せず)、ビーム偏向用アライナ(図示せず)、高速偏向用アライナ64a及びブランキング用アパーチャ64bを備えている。電子線源63で発生した電子は、これらの要素を介してビーム分離部(ビーム分離器)68に入射する。入射電子は、ビーム分離部68で測定対象61の方向に曲げられる。その結果、電子線は測定対象61の表面に対してほぼ垂直に照射される。
【0068】
測定対象61からの電子は、レンズ69を介してビーム分離部68に入射する。ビーム分離部68は、電子線照射系64から測定対象61に向かう電子線と、測定対象61から電子像投影系65に向かう電子とを分離する機能を有している。なお、電子像投影系65で拡大投影される電子線の収差や歪みを抑制するため、拡大投影される電子線に対してはウィーン条件(電子線が直進する条件)が適用される。
【0069】
ビーム分離部68を通過した電子線は、リレーレンズ65a、スティグメータ65b及びNAアパーチャ65cを通過し、さらにズームレンズ65d、ズームレンズ65e及び拡大投影レンズ65fによって画像検出器66に拡大投影される。なお、リレーレンズ65a、ズームレンズ65d、ズームレンズ65e及び拡大投影レンズ65fの中心には、拡大投影ビームの位置を調整するための偏向器(図示せず)が設けられている。
【0070】
画像検出器66は、TDI(Time Delay Integration)−CCDセンサを用いて構成されている。TDI−CCDセンサを用いた連続像の取得について説明する。例えば、横方向が2000画素で、縦方向が500画素のTDI−CCDセンサを用いると、連続像の幅は2000画素幅であり、連続移動の積算段数は500段である。ライン周波数が200kHzであるとすると、積算方向に1段移動する時間は5μsecとなる。したがって、500段の積算時間は2.5msecとなる。1フレーム画像が2000×2000画素であるとすると、10msecで1フレーム画像を取得することができる。TDI−CCDセンサでは、測定対象の同一位置の画像(信号)を積算して出力するため、高感度及び高解像度の画像を高速で取得することが可能である。
【0071】
図17は、電源電圧を電圧V1と電圧V2との間で切り替える場合のタイミング図である。
図17の例では、電圧V1(印加時間Ta)から電圧V2(印加時間Tb)への遷移時間がTcであり、電圧V2から電圧V1への遷移時間がTdである。この場合、遷移時間Tc及びTdはいずれも、時間Taの1/3以下かつ時間Tbの1/3以下であることが好ましい。
【0072】
上述したように、電圧が切り替わる際には遷移期間が存在する。この遷移期間では、電圧が変化するために、電子線照射系及び電子像投影系の結像条件が崩れている。そのため、電子線照射系の照射ビームサイズ並びに、電子像投影系のフォーカス及び倍率は大きくずれた状態となる。したがって、遷移期間(Tc、Td)の最中に画像検出器によって画像信号の検出を行うと、ぼけた画像が検出される。
【0073】
上述したような問題を解決するために、本実施形態では、電圧の遷移期間、すなわち電圧が切り替わる際に、電子線照射系の電子ビームのブランキングを行うようにしている。具体的には、
図16の電子線照射系64の高速偏向用アライナ64aにより、照射ビームをブランキング用アパーチャ64bの端部に偏向する。より具体的には、タイミング制御部71を設け、電源(
図1の電圧変調部20に対応)の電圧切り替えタイミングに対応させて、高速偏向用アライナ64aの偏向タイミングを制御するようにしている。これにより、測定対象61へのビーム照射が阻止される。一般的に言えば、本実施形態の装置は、電圧変調部によって電圧が切り替わる遷移期間に、電子線源から出射された電子線が測定対象に照射されないように制御する照射制御部を備えている。本実施形態では、照射制御部には、タイミング制御部71、高速偏向用アライナ64a及びブランキング用アパーチャ64bが対応する。
【0074】
このように、本実施形態では、電源電圧の切り替えタイミングに対応させて(電源電圧の遷移期間に対応させて)、電子ビーム(照射ビーム)のブランキングを行うことにより、鮮明な画像を取得することが可能である。
【0075】
なお、ブランキング期間は、電圧の遷移期間(
図17の期間Tc、Td)よりも5〜20%程度長いことが好ましい。また、電圧上昇期間(
図17の期間Tc)と電圧下降期間(
図17の期間Td)とが異なる場合には、電圧上昇期間と電圧下降期間とで、それぞれ最適なブランキング期間を設定することが好ましい。
【0076】
TDIカメラによって連続像を取得する場合、ライン周波数よりも速く電圧変調を行う場合と、1フレーム期間内で電圧変調を行う場合とが考えられる。
【0077】
ライン周波数よりも速く電圧変調を行う場合を考える。先述した例では、ライン周波数が200kHzであるため、5μsecの期間内に
図17に示した1周期の動作を行う必要がある。例えば、Ta=2μsec、Tb=2μsec、Tc=0.5μsec、Td=0.5μsec、に設定する。
【0078】
1フレーム期間内で電圧変調を行う場合を考える。先述した例では、TDIカメラの1フレーム期間は2.5msecである。したがって、2.5msecの期間内に
図17に示した1周期の動作が行われる。例えば、Ta=1msec、Tb=1msec、Tc=0.25msec、Td=0.25msec、に設定する。この場合、1フレーム期間で
図17に示した1周期の動作を行っているが、
図17に示した2以上の周期の動作を1フレーム期間で行うようにしてもよい。
【0079】
なお、
図16に示したブランキング用アパーチャ64bは、筒状であり、下流側にアパーチャが設けられている。例えば、穴の径は3mmであり、端部の径は6mm以上である。端部に電子線が長時間照射されると、照射部分にカーボン等の絶縁性コンタミネーションが発生するおそれがある。したがって、コンタミネーションの影響が抑制されるような距離でブランキングを行うことが好ましい。
【0080】
また、電圧変調によって電子線のエネルギーを変化させると、電子像投影系によって形成される画像の倍率や像歪が変化する場合がある。すなわち、画像検出器で検出される電子画像の倍率及び像歪が変化する場合がある。このような場合、本実施形態では、以下のような方法によって倍率や像歪を調整する。
【0081】
まず、倍率及び像歪が同一になるように、
図16に示した電子ビーム照射系64、電子像投影系65及びビーム分離部68の各部の条件を予め求めておく。そして、電圧遷移期間内において、電圧遷移期間の前後の倍率及び像歪を一致させるための条件を変更する(調整する)。例えば、
図17の例では、電圧V1の印加期間(期間Ta)と電圧V2の印加期間(期間Tb)とで、倍率及び像歪が一致するように、電圧遷移期間(期間Tc及び期間Td)内において、倍率及び像歪を一致させるための条件を変更する(調整する)。本実施形態の装置は、画像検出器で検出される電子画像の倍率及び像歪の少なくとも一方を調整する調整部72を備えている。この調整部72によって電子像投影系65等を制御することにより、電圧遷移期間内において、倍率及び像歪を一致させるための条件が調整される。
【0082】
このように、本実施形態では、電子画像の倍率及び像歪の少なくとも一方を電圧遷移期間内で調整することにより、電圧遷移期間の前後で倍率及び像歪を一致させることが可能である。また、電圧遷移期間では、電子線がブランキング状態であるため、画像検出器で取得される画像に悪影響を与えずに調整を行うことが可能である。
【0083】
なお、上述した例では、電圧遷移期間内に倍率及び像歪を調整するようにしたが、このような調整に加えてさらに、電圧遷移期間内に電子線照射系によって測定対象に照射される電子ビームのサイズを調整するようにしてもよい。具体的には、測定対象に照射される電子ビームのサイズが電圧遷移期間の前後で一致するように、電子ビームのサイズを調整する。
【0084】
(実施形態6)
次に、第6の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態等と同様である。したがって、第1の実施形態等で説明した事項についての詳細な説明は省略する。
【0085】
電源電圧の切り替えを複数の電源を用いて行う、すなわち電圧変調を複数の電源を用いて行うと、切り替え時に電圧振動が発生する場合がある。そのため、高速の電圧切り替えに悪影響を与えるおそれがある。そこで、本実施形態では、電圧変調を単一の電源を用いて行うようにしている。以下、説明を行う。
【0086】
図18は、本実施形態に係る写像投影型の画像取得装置の構成を模式的に示した図である。なお、基本的な構成は、第5の実施形態の
図16に示した画像取得装置と同様である。したがって、
図16に示した構成要素に対応する構成要素には同一の参照番号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0087】
本実施形態では、電子線源63に印加される電圧を発生する電源81(すなわち、電圧変調部で変調される電圧を発生する電源)が、基本電圧を発生する基本電圧発生部81aと、基本電圧に重畳される重畳電圧を発生する重畳電圧発生部81bとを含んでいる。そして、重畳電圧を変調することで、電子線源63に印加される電圧が変調される。
【0088】
基本電圧発生部81aは、基本電圧(例えば、一定電圧)を発生するものであり、例えば0から−5kVの範囲の電圧を発生することが可能である。重畳電圧発生部81bは、例えば0から−0.7kVの範囲の電圧を発生することが可能である。このように、重畳電圧発生部81bは、基本電圧発生部81aに比べて設定可能な電圧範囲が狭い。そのため、重畳電圧発生部81bでは、高速で電圧を切り替えることが可能である。この重畳電圧発生部81bの電圧を切り替えることにより、電源電圧を高速で変調することが可能である。
【0089】
測定対象61には、測定対象用電源82が接続され、測定対象61に所望の電圧が印加されるようになっている。測定対象用電源82から測定対象61に印加される電圧と、電源81から電子線源63に印加される電圧との電圧差によって、電子線(電子ビーム)のエネルギーが決まる。
【0090】
上述したように、本実施形態では、単一の電源81内に基本電圧発生部81a及び重畳電圧発生部81bが設けられている。そのため、電源電圧を切り替える際の電圧振動の発生を抑制することができる。また、重畳電圧発生部81bは基本電圧発生部81aに比べて設定される電圧範囲が狭いため、重畳電圧発生部81bでは高速で電圧を切り替えることが可能である。したがって、本実施形態では、電圧振動の発生を抑制できるとともに高速の電圧切り替えを的確に行うことが可能である。
【0091】
図19は、本実施形態の変更例に係る写像投影型の画像取得装置の構成を模式的に示した図である。なお、基本的な構成は、
図18に示した画像取得装置と同様である。したがって、
図18に示した構成要素に対応する構成要素には同一の参照番号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0092】
本変更例では、
図19に示されるように、電源81内の基本電圧発生部81aの電圧が測定対象61にも印加されている。すなわち、本変更例では、電子線源63用の電源と測定対象61用の電源とで、単一の電源81を共用している。このように、電源を共用することで、測定対象61に印加される電圧と電子線源63に印加される電圧との電圧差の精度を向上させることが可能である。
【0093】
例えば、電子線源63用の電源と測定対象61用の電源とを別々に設けた場合、電圧精度は通常、0.1%程度である。例えば5kVを設定した場合には、5V程度の誤差が生じる。そのため、異なった電源間の電圧誤差を校正するための作業が必要となる。本変更例では、測定対象61に印加される電圧と電子線源63に印加される電圧との電圧差は、重畳電圧発生部81bの設定精度で決まるため、重畳電圧発生部81bの校正作業だけを行えばよい。また、重畳電圧発生部81bの電圧範囲は小さい。例えば、重畳電圧発生部81bの電圧範囲が0から−0.7kVの範囲であり、電圧精度が0.1%程度であるとすると、誤差範囲は0.7V程度である。したがって、このような観点からも、測定対象61に印加される電圧と電子線源63に印加される電圧との電圧差の誤差を小さくすることが可能である。
【0094】
なお、上述した実施形態では、電子線源用の電源内に基本電圧発生部及び重畳電圧発生部を設けたが、測定対象用の電源内に基本電圧発生部及び重畳電圧発生部を設けるようにしてもよい。
【0095】
また、上述した実施形態では、画像検出部にTDI−CCDセンサを用いたが、EB−TDIを用いることも可能である。
【0096】
以上、第1〜第6の実施形態について説明したが、上述した第1〜第6の実施形態は種々の変更が可能である。
【0097】
上述した実施形態では、測定対象から得られる電子画像の例として、2次電子画像及びミラー電子画像の例について説明したが、他の電子画像を用いるようにしてもよい。
【0098】
また、上述した実施形態の欠陥検査装置を用いた検査方法は、ダイトゥダイ(die to die)検査に適用してもよいし、ダイトゥデータベース(die to database)検査に適用してもよい。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。