特許第6306017号(P6306017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63060172−メチル−4−フェニルブタン−2−オールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306017
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】2−メチル−4−フェニルブタン−2−オールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/36 20060101AFI20180326BHJP
   C07C 33/20 20060101ALI20180326BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180326BHJP
【FI】
   C07C29/36
   C07C33/20
   !C07B61/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-530406(P2015-530406)
(86)(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公表番号】特表2015-527383(P2015-527383A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】EP2013068432
(87)【国際公開番号】WO2014037483
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】12183476.6
(32)【優先日】2012年9月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(72)【発明者】
【氏名】リューデナウアー,シュテファン
【審査官】 天野 斉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/117360(WO,A1)
【文献】 特開昭48−072128(JP,A)
【文献】 Alam,DEVELOPMENT OF A ROBUST PROCEDURE FOR THE COPPER-CATALYZED RING-OPENING OF EPOXIDES WITH GRIGNARD REAGENTS,Organic Process Research and Development,2012年,16,435-441
【文献】 NORMAN G. GAYLORD AND ERNEST I. BECKER,THE REACTION BETWEEN GRIGNARD REAGENTS AND THE OXIRANE RING,CHEM. REV.,1951年,49(3),413-533
【文献】 第5版 実験化学講座18 有機化合物の合成VI,丸善株式会社,2007年,pp.59-61
【文献】 第4版 実験化学講座24 有機合成VI,丸善株式会社,1994年,pp.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールを製造する方法であって、少なくとも1つのCu(I)化合物の存在下において、ベンジルマグネシウムハライドをイソブチレンオキシドと反応させる方法。
【請求項2】
ベンジルマグネシウムハライドが、ベンジルマグネシウムブロミド又はベンジルマグネシウムクロリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イソブチレンオキシド1molあたり、0.5〜5molのベンジルマグネシウムハライドを用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Cu(I)化合物が、ヨウ化銅(I)である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
イソブチレンオキシドの1molあたり、0.05〜0.3molのCu(I)化合物が用いられる、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ベンジルマグネシウムハライドが、ベンジルハライドのマグネシウムとの反応により得られる、請求項1乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ベンジルハライドの1molあたり、1〜10molのマグネシウムが用いられる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ベンジルハライドのマグネシウムとの反応及び形成されたベンジルマグネシウムハライドのイソブチレンオキシドとの反応が、同じ希釈剤中で行われる、請求項又はに記載の方法。
【請求項9】
希釈剤が、エーテルである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
エーテルが、テトラヒドロフラン又は2-メチルテトラヒドロフランである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルフェニルエチルカルビノール又は「ミューゲカルビノール(Carbinol Muguet)」とも称される2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、ヒヤシンス及びユリを連想させる、多少青々としたハーバルな花の香りを有する香料である(特許文献1(WO 2004/076393 A1))。2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、製品の香り及び/又は風味を向上させるために、又は製品の固有の香り及び/又は風味をマスクするために使用される。また、2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、コラノールとも称され、スズランの芳香を有する4-シクロヘキシル-2-メチルブタン-2-オールのような他の香料の製造における前駆体である。
【0003】
2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールが中間体として形成される4-シクロヘキシル-2-メチルブタン-2-オールの製造方法は、Ebelらの特許文献2(WO 2011/117360)により記載されている。この場合、2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、スチレンのイソプロパノールとの反応により形成される。メチルマグネシウムクロリドをベンジルアセトンと反応させることによるジメチルフェニルエチルカルビノールを製造する方法は、Yoichiらの特許文献3(JP 2000-103754 A)により記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/076393号
【特許文献2】国際公開第2011/117360号
【特許文献3】特開2000−103754号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の対象事項は、容易に入手可能な出発材料からの2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールを製造する別の方法である。この方法において、ベンジルマグネシウムハライドをイソブチレンオキシドと反応させる。ベンジルマグネシウムハライドは、好ましくは、ベンジルマグネシウムブロミド又はベンジルマグネシウムクロリドであり、特にベンジルマグネシウムブロミドである。
【0006】
ベンジルマグネシウムハライド(I)及びイソブチレンオキシドからの2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールの製造は、以下の図式に示され、Xは、ハロゲンであり、特に塩素、臭素又はヨウ素であり、好ましくは臭素である。
【0007】
【化1】
【0008】
ベンジルマグネシウムハライド(I)は、マグネシウム及びベンジルハライド(II)から、公知の方法で製造することができる。
【0009】
ベンジルマグネシウムハライド(I)の製造は、以下の図式に示され、Xは、ハロゲンであり、特に塩素、臭素又はヨウ素であり、好ましくは臭素である。
【0010】
【化2】
【0011】
ベンジルハライド(II)に基づいて、マグネシウムを化学量論的過剰量で用いることが有利である。ベンジルハライドの1molあたり、1〜10molのマグネシウムを用いることが好ましく、好ましくは1.5〜5molの、より好ましくは2〜3molの、特には約2.5molのマグネシウムを用いる。
【0012】
ヨウ素は、マグネシウムを活性化するために添加することができる。
【0013】
反応は発熱的に進行する。反応混合物の温度は、好ましくは0℃及び70℃の間で、特に40℃及び60℃の間で維持される。これは、とりわけ、ベンジルハライド(II)の予め充填されたマグネシウムへの添加速度を適切に調整することによって達成することができる。
【0014】
ベンジルマグネシウムハライド(I)の製造は、適切には、水の非存在下において希釈剤中で行われる。希釈剤として、下記の不活性溶媒を用いることができる。
【0015】
ベンジルマグネシウムハライド(I)のイソブチレンオキシドとの反応は、これらの出発材料の様々な化学量論比で行うことができる。ベンジルマグネシウムハライド(I)は、イソブチレンオキシドに対して、化学量論的過剰量又は化学量論的不足量で、あるいは化学量論的に等しい量で、存在することができる。イソブチレンオキシドの1molあたり、0.5〜5molのベンジルマグネシウムハライドを用いることが好ましく、好ましくは1.5〜2.5molの、特には1〜2molのベンジルマグネシウムハライドを用いる。
【0016】
イソブチレンオキシドを、予め充填されたベンジルマグネシウムハライド(I)に添加することが好ましい。しかしながら、ベンジルマグネシウムハライド(I)を、予め充填されたイソブチレンオキシドに加えることもできる。
【0017】
反応は、バッチ式又は半バッチ式の方法で、あるいは連続モードで行うことができる。
【0018】
ベンジルマグネシウムハライド(I)のイソブチレンオキシドとの反応は、水の非存在下で希釈剤中で好都合に行われる。適した希釈剤は、反応条件下で不活性な溶媒であり、具体的には、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及び/又はジブチルエーテルのようなエーテル;例えばリグロイン、ヘプタン及び/又はオクタンのような脂肪族炭化水素;及び、例えばベンゼン、トルエン及び/又はキシレンのような芳香族炭化水素;並びにそれらの混合物である。エーテル又はエーテル混合物を用いることが好ましく、テトラヒドロフラン及び/又は2-メチルテトラヒドロフランを用いることが特に好ましい。好ましくは、希釈剤は実質的に無水である。
【0019】
反応は、好ましくは、エポキシド開環触媒の存在下で行われる。Cu(I)化合物は、好ましいエポキシド開環触媒である。適したCu(I)化合物は、CuCl、CuBr、CuI及び/又はCuCNであり、それらのうちCuIが好ましい。Cu(I)化合物は、イソブチレンオキシドの1molあたり、好ましくは、0.05〜0.3molの量、0.07〜0.15molの量で用いられ、特には約0.1molの量で用いられる。Cu(I)化合物は、好ましくは、予め充填されたベンジルマグネシウムハライドに加えられる。その後、イソブチレンオキシドを加えることができる。
【0020】
ベンジルマグネシウムハライド(I)のイソブチレンオキシドとの反応は、好ましくは、-20℃〜+10℃で行われ、特には-10℃〜0℃で行われる。この温度は、出発材料及び/又は反応容器を冷却することによって、及び出発材料を組み合わせる比率を適切に調整することによっても達成することができる。この目的のために、例えば、イソブチレンオキシドの予め充填されたベンジルマグネシウムハライドへの添加速度を調製することができ、例えば、0.5〜1.5時間かけてイソブチレンオキシドの連続添加を行うことができる。
【0021】
反応が終了した後、反応溶液の後処理は、例えば水を用いた又は酸水溶液若しくは塩基水溶液を用いた加水分解によって行われる。酸水溶液の後処理には、例えば塩酸又は塩化アンモニウムのような無機酸あるいは有機酸を用いることができる。塩基水溶液を用いた後処理には、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム又は水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。目的生成物(形成された2-メチル-4-フェニルブタン-2-オール)は、水相からの抽出により分離することができ、そして、有機相を乾燥させた後、蒸留又は溶融結晶化などの手法によりそこから単離することができる。
【0022】
本発明に係る方法の一つの利点は、ベンジルマグネシウムハライド(I)の製造及びそのイソブチレンオキシドとの反応を、1つの反応バッチ中及び同じ希釈剤中で中間の作業工程なしで行うことができる点である。したがって、本発明はまた、第一の段階として、記載した通りに、ベンジルハライド(II)をマグネシウムと反応させ、続いて、記載した通りに、発生したベンジルマグネシウムハライドをCu(I)化合物の存在下においてイソブチレンオキシドと反応させる方法にも関する。
【0023】
本発明に係る方法により得られる2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、香料又は香味料として、特に、化粧剤、織物用洗剤及び硬表面用の洗浄剤において用いることができる。
【0024】
そのような化粧剤の例としては、基本的には、典型的に香料を含むすべての化粧品組成物を含む。これらには、例えば、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、ローション及びクリームのようなアフターシェーブ製品、プレシェーブ製品、芳香付きティッシュ、脱毛クリーム及びローション、日焼けクリーム及びローション、シャンプー、コンディショナー、セットローション、ヘアージェル、ヘア着色剤、ヘアワックス、ヘアスプレー、泡固定組成物、ヘアムース、枝毛修復液、パーマネントウェーブ用の中和剤、毛髪染料及びブリーチ又は「ホットオイルトリートメント」のようなヘアケア製品、さらに、石鹸のような手の洗浄剤、洗浄用ジェル、シャワージェル、皮膚用のクリーム、オイル、ローションなどのボディケア製品が挙げられ、特に、手、顔、足のケア用製品、日焼け止め、デオドラント及び制汗剤、皮膚消毒薬、防虫剤、及び装飾化粧製品が挙げられる。適用分野に応じて、化粧品組成物は、水溶液又はアルコール溶液、オイル、(エアロゾル)スプレー、(エアロゾル)フォーム、ムース、ジェル、ジェルスプレー、クリーム、ローション、パウダー、タブ又はワックスとして製剤化することができる。
【0025】
本発明に係る方法により得られる2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールをそれぞれ含むことができる洗濯洗剤及び洗浄剤としては、例えば、家庭用洗剤、中性洗剤、トイレクリーナー、床用クリーナー、カーペット用クリーナー、窓ガラス用クリーナー、つや出し剤、家具ケア製品、液体及び固体の食器洗剤、液体及び固体の自動食洗機用洗剤のような表面の洗浄用及び/又は消毒用の薬剤が挙げられ、さらに、固体、半固体又は液体の織物洗剤、洗濯後処理組成物、柔軟剤、アイロン用付加剤、織物用消臭脱臭剤、布地プレコンディショニング剤、洗濯石鹸、洗濯タブレットなどのような織物を洗浄する又は処理するための薬剤が挙げられる。
【0026】
また、本発明に係る方法により得られる2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールは、空気清浄機、ランプ油、キャンドル、室内空気清浄剤、トイレブロックなどのような他の香料含有製品において、香りの成分として用いることができる。
【実施例】
【0027】
本発明を、以下の実施例の手段によりさらに説明する。
【0028】
実施例1:ベンジルマグネシウムブロミドの製造
外側の加熱マントルを備えるA 6 l反応器(HWS Labortechnik Mainz社製)をアルゴンで不活性条件にした。1500mlのテトラヒドロフラン中の88.71gのマグネシウムの懸濁液を、フラスコ内に投入し、0.50gのヨウ素を撹拌しながら添加した。これにより、褐色がかった〜黄色がかった色の懸濁液を得た。次いで、この懸濁液に、滴下ロートを用いて、165分かけて250.00gのベンジルブロミドを徐々に添加した。これにより、溶液が無色になった。フラスコ内容物を56℃まで初期加熱した後、反応が発熱的に進行した。ベンジルブロミドの添加速度は、フラスコ内容物の温度が46℃及び56℃の間に維持されるように調整した。ベンジルブロミドの添加及びフラスコ内容物の室温への冷却が完了した後、上澄みを第二の不活性化したフラスコ内に静かに移した。
【0029】
実施例2:2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールの製造
13.92gのヨウ化銅(I)を、実施例1に従って得られた上澄みに添加し、フラスコを-10℃に冷却した。次いで、52.70gのイソブチレンオキシドを、滴下ロートを用いて、1時間かけて徐々に添加し、温度を-10℃及び-6℃の間に維持した。軽い発熱が、この後のプロセス中に観察された。0℃でさらに2時間混合物を撹拌した後、サンプルをガスクロマトグラフィーによる分析のために採取した。このサンプルを、塩化アンモニウム溶液で処理した。反応混合物を400mlの飽和塩化アンモニウム溶液の添加により処理し、200mlのトルエンを添加した。有機相を分離し、それぞれ400mlの飽和塩化アンモニウム溶液で2回洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥させた後、生成物を減圧下での蒸留によって取得し、純度は97%超(>97%)であった。収率74%に相当する、総量88.9gの2-メチル-4-フェニルブタン-2-オールを得た。