特許第6306370号(P6306370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6306370芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6306370
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/10 20060101AFI20180326BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20180326BHJP
   C07C 1/04 20060101ALN20180326BHJP
   C07C 9/04 20060101ALN20180326BHJP
【FI】
   C07C5/10
   C07C13/18
   !C07C1/04
   !C07C9/04
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-34048(P2014-34048)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-157787(P2015-157787A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕教
(72)【発明者】
【氏名】白髪 昌斗
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】石山 辰雄
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−514169(JP,A)
【文献】 特開2005−146147(JP,A)
【文献】 特開2004−067667(JP,A)
【文献】 特表2009−531426(JP,A)
【文献】 特表2004−529068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/00
C07C 13/00
C07C 1/00
C07C 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応装置と、
前記水素化反応装置の生成物から前記水素化芳香族化合物を分離する分離装置と、
前記分離装置によって前記水素化芳香族化合物が分離された後の残留物の少なくとも一部を、循環ラインを介して前記水素化反応装置に循環する輸送装置と
を備え、
前記水素化反応装置に供給される水素は、モル比熱が窒素よりも大きい化合物からなる希釈用化合物によって希釈された希釈水素であり、
前記希釈用化合物は、前記残留物として前記水素化反応装置に循環されたものを含み、
前記循環ラインには、当該循環ラインの圧力調整を行うべく前記残留物の一部を外部に排出する排出ラインが接続されたことを特徴とする芳香族化合物の水素化システム。
【請求項2】
前記排出ラインに設けられた調節弁と、
前記水素化反応装置に前記希釈水素を供給する水素供給ラインと、
前記水素供給ラインに設けられた水素濃度検出器と
を更に備え、
前記調節弁の開閉は、前記水素濃度検出器の検出結果に基づき制御されることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項3】
前記希釈水素には、前記排出ラインから排出された前記残留物中の前記希釈用化合物が含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項4】
前記希釈水素における前記希釈用化合物の濃度は、10vol%以上かつ30vol%未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項5】
前記希釈用化合物は、メタンを含み、
水蒸気改質反応により前記メタンから水素および一酸化炭素を含む改質ガスを生成する改質装置と、
前記改質装置によって生成された前記一酸化炭素からメタネーション反応によりメタンを生成するメタネーション反応装置と
を更に備え、
前記改質装置によって生成された水素および前記メタネーション反応装置によって生成されたメタンが、前記希釈水素の少なくとも一部として前記水素化反応装置に供給されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項6】
水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応工程と、
前記水素化反応工程の生成物から前記水素化芳香族化合物を分離する分離工程と、
前記分離工程によって前記水素化芳香族化合物が分離された後の残留物の少なくとも一部を、循環ラインを介して前記水素化反応に循環利用するべく当該残留物を輸送する輸送工程と
前記循環ラインに接続された排出ラインから前記残留物の一部を外部に排出することにより、前記循環ラインの圧力調整を行う工程と
を備え、
前記水素化反応に用いられる水素は、希釈用化合物によって希釈された希釈水素であり、
前記希釈用化合物は、前記残留物として前記水素化反応工程に循環されたものを含むことを特徴とする芳香族化合物の水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法に関し、特に、芳香族化合物を水素化することにより水素化芳香族化合物の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法への適用に好適な芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルエンなどの芳香族化合物を水素化し、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法が開発されている。この手法によれば、水素は、生産地において水素化芳香族化合物に転換され、水素化芳香族化合物の形態で輸送される。そして、都市等の水素使用地に隣接したプラントや水素ステーション等において、水素化芳香族化合物の脱水素反応により水素と芳香族化合物とが生成される。脱水素反応によって生じた芳香族化合物は、再び水素生産地に輸送され、水素化反応に利用される。
【0003】
一方、上記芳香族化合物の水素化反応は発熱反応であるため、その反応熱により反応装置(反応場)の温度が過剰に上昇すると、触媒の劣化や副反応を招くという問題がある。そこで、水素化反応に不活性な窒素等の希釈用ガスによって、反応に用いられる水素を希釈することで、水素化反応における過剰な温度上昇を抑制する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−207641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来技術では、水素化反応における過剰な温度上昇を抑制できるものの、希釈用ガスにより水素化反応の反応物や生成物の量が実質的に増大するため、水素化反応装置およびそれに付随する周辺装置を大型化(大容量化)する必要が生じ、水素を希釈しない場合に比べて設備コストが嵩むという不都合がある。
【0006】
ところで、本願発明者らは、芳香族化合物の水素化システムにおいて、プロセスの効率化の観点から、水素化反応の主生成物(水素化芳香族化合物)以外の未反応物質(希釈用ガスおよび残留水素等)を水素化反応装置に循環させる構成を採用した。そのような構成では、水素化反応装置およびそれに付随する周辺装置の大型化を抑制するのみならず、未反応物質の量(特に、希釈用ガスの量)を減らすことにより、その循環に用いられる輸送装置(コンプレッサ等)の動力や消費電力を低減することが望ましい。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、水素化反応に用いられる水素を希釈する希釈用ガスの少なくとも一部を水素化反応装置に循環させる構成において、水素化反応における過剰な温度上昇を抑制しつつ、希釈用ガスの循環量を低減することを可能とした芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面では、芳香族化合物の水素化システムは、水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応装置(2)と、前記水素化反応装置の生成物から前記水素化芳香族化合物を分離する分離装置(3)と、前記分離装置によって前記水素化芳香族化合物が分離された後の残留物の少なくとも一部を前記水素化反応装置に循環する輸送装置(4)とを備え、前記水素化反応装置に供給される水素は、モル比熱が窒素よりも大きい化合物からなる希釈用化合物によって希釈された希釈水素であり(L2)、前記希釈用化合物は、前記残留物として前記水素化反応装置に循環されたものを含むことを特徴とする。
【0009】
この第1の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、水素化反応に用いられる水素を希釈する希釈用ガスの少なくとも一部を水素化反応装置に循環させる構成において、水素の濃度を希釈用化合物による希釈によって調整することにより、水素化反応における過剰な温度上昇を抑制しつつ、希釈用ガスの循環量を低減することが可能となる。その結果、水素化反応装置およびそれに付随する周辺装置の大型化を抑制することができ、また、その循環に用いられる輸送装置の動力や消費電力を低減することができる。
【0010】
本発明の第2の側面では、上記第1の側面に関し、前記希釈水素における前記希釈用化合物の濃度は、10vol%以上かつ30vol%未満であることを特徴とする。
【0011】
この第2の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、希釈用化合物の濃度範囲を適切に維持することにより、水素化反応における過剰な温度上昇の抑制と、希釈用ガスの循環量の低減とを効率的に実現することが可能となる。すなわち、前記希釈用化合物の濃度を上述の範囲とすることにより、水素化反応における急激な温度上昇を抑制するとともに、水素化反応装置およびこれに付随する周辺装置を小型化することが可能となり、水素化システムの省エネルギー・省スペース化を実現することができる。
【0012】
本発明の第3の側面では、上記第1または第2の側面に関し、前記残留物を前記水素化反応装置に向けて輸送する循環ライン(L6)を更に備え、前記循環ラインには、前記残留物の一部を外部に排出する排出ライン(L7)が接続されたことを特徴とする。
【0013】
この第3の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、残留物の一部を外部に排出可能な構成とすることにより、希釈水素における希釈用化合物の濃度および水素化システムの圧力を調整することが可能となる。ここで、水素化システムの圧力調整としては、例えば、水素化反応装置の圧力調整によって反応条件を制御することが可能となるという利点がある。
【0014】
本発明の第4の側面では、上記第1から第3の側面のいずれかに関し、前記希釈用化合物は、メタンを含み、水蒸気改質反応により前記メタンから水素および一酸化炭素を含む改質ガスを生成する改質装置(41)と、前記改質装置によって生成された前記一酸化炭素からメタネーション反応によりメタンを生成するメタネーション反応装置(43)とを更に備え、前記改質装置によって生成された水素および前記メタネーション反応装置によって生成されたメタンが、前記希釈水素の少なくとも一部として前記水素化反応装置に供給されることを特徴とする。
【0015】
この第4の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、資源として豊富でかつ汎用性を有する天然ガスの主成分であるメタンを用いて水素を効率的に取得することができ、しかも、取得した水素中に残留したメタンを希釈用ガスとして利用することができる。
【0016】
本発明の第5の側面では、芳香族化合物の水素化方法は、水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応工程と、前記水素化反応工程の生成物から前記水素化芳香族化合物を分離する分離工程と、前記分離工程によって前記水素化芳香族化合物が分離された後の残留物の少なくとも一部を前記水素化反応に循環利用するべく当該残留物を輸送する輸送工程とを備え、前記水素化反応に用いられる水素は、希釈用化合物によって希釈された希釈水素であり、前記希釈用化合物は、前記残留物として前記水素化反応装置に循環されたものを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、水素化反応に用いられる水素を希釈する希釈用ガスの少なくとも一部を水素化反応装置に循環させる構成において、水素化反応における過剰な温度上昇を抑制しつつ、希釈用ガスの循環量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る芳香族化合物の水素化システムの概略構成を示すブロック図
図2】希釈用ガスによる水素の希釈率と平衡温度または転化率との関係(計算結果)を示すグラフ
図3】反応ガス中の希釈用ガスの濃度と反応温度(ピーク値)の抑制効果との関係(実験結果)を示すグラフ
図4図1中の水素化反応装置に供給される水素(希釈水素)を生成する水素生成システムを示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本発明の実施形態に係る芳香族化合物の水素化システム1の概略構成を示すブロック図である。水素化システム1は、芳香族化合物(ここでは、トルエン)に水素を付加することにより貯蔵・輸送用の水素化された芳香族化合物である水素化芳香族化合物(ここでは、メチルシクロヘキサン)を生成する。
【0021】
水素化システム1は、水素化反応によりトルエンに水素を付加することにより、メチルシクロヘキサン(以下「MCH」という。)を生成する水素化反応装置2と、この水素化反応装置2の生成物からMCHを分離する分離装置3と、この分離装置3によってMCH(主生成物)が分離された後の残留物の少なくとも一部を水素化反応装置2に循環する輸送装置4とを主として備える。
【0022】
この水素化システム1では、芳香族化合物供給ラインL1を介して水素化反応の反応物であるトルエンが供給される。芳香族化合物供給ラインL1には、予熱器11が設けられており、後に詳述する水素化反応の生成物との熱交換によりトルエンが予熱される。一方、水素化システム1では、水素供給ラインL2を介して水素化反応の反応物である水素が供給される。ここで供給される水素は、メタンによって希釈された希釈水素である。つまり、水素化反応に用いられる水素には、予めメタンが混合され(すなわち、水素がメタンによって希釈され)、水素の濃度が調整されている。なお、水素およびメタンについては、それぞれ個別に水素化システム1に導入され、水素化システム1内において混合される構成としてもよい。
【0023】
トルエンおよび希釈水素は、合流部12で混合された後、原料供給ラインL3を介して水素化反応装置2に導入される。このとき、トルエンおよび希釈水素は、水素化反応装置2への導入前に、原料供給ラインL3に設けられた予熱器13によって所定の温度まで予熱される。予熱器11、13については、それぞれトルエンおよび希釈水素の必要な予熱を行うことが可能な限りにおいて任意の公知の構成を採用することができる。
【0024】
水素化反応装置2では、水素化反応によりトルエンおよび水素からMCHが生成される(水素化工程)。水素化反応装置2の生成物(MCHを主生成物とし、メタンおよび未反応の残留水素等を含む)は、生成物輸送ラインL4を介して分離装置3に送られる。生成物輸送ラインL4は、予熱器11に接続されており、生成物はトルエンとの熱交換により冷却される。また、生成物輸送ラインL4における予熱器11の下流側には、冷却器15が設けられており、この冷却器15によって生成物はMCHが液化する温度までさらに冷却される。冷却器15については、生成物の必要な冷却(ここでは、MCHの液化)を行うことが可能な限りにおいて任意の公知の構成を採用することができる。
【0025】
その後、水素化反応の生成物は、公知の構成を有する気液分離器からなる分離装置3において気液分離される(分離工程)。分離装置3では、MCH(ここでは、未反応トルエン等を含む)が液体として、残留物(メタン、未反応の残留水素、副生成物 等のガス)が気体として分離される。
【0026】
分離されたMCHは、MCH回収ラインL5を介して回収され、図示しない貯蔵タンクに貯蔵される。一方、分離された残留物(メタン、未反応の残留水素、副生成物等のガス)は、残留ガス循環ラインL6を介して水素供給ラインL2の合流部16に送られ、そこで水素に混合される(輸送工程)。これにより、希釈用ガスとしてのメタンが水素化反応装置2に循環される。この残留物の循環は、残留ガス循環ラインL6に設けられた輸送装置4によって行われる。輸送装置4は、公知の構成を有する昇圧用のコンプレッサからなるが、これに限らず同様の機能を有する他の公知の装置を用いてもよい。
【0027】
また、残留ガス循環ラインL6のガス排出部21には、ガス排出ラインL7が接続されている。水素化システム1では、ガス排出ラインL7に設けられた調節弁22の開閉を制御して残留物の一部を外部に排出することにより、水素化システム1内の圧力を調整することが容易となる。ここで、水素化システム1の圧力調整としては、例えば、循環ラインの圧力調整によって輸送装置の安定的な運転が可能となる。また、水素化反応装置の圧力調整によって反応条件を制御することが可能となる。また、分離装置の圧力調整によって気液分離を行う場合の分離条件を制御することが可能となる。
【0028】
また、水素供給ラインL2には水素濃度検出器25が設けられており、その検出結果に基づき調節弁22の開閉を制御することにより、希釈水素の濃度(すなわち、メタンの濃度)を目的の範囲に調整することが容易となる。例えば、水素化システム1に供給される希釈水素の水素濃度が略一定(すなわち、供給されるメタン量が一定)である場合、その供給されたメタン量と同一の量のメタンがガス排出ラインL7から排出されるように、調節弁22が制御される。なお、ガス排出ラインL7から排出されたメタンは、必要に応じて水素の希釈用ガスとして再利用することもでき、これにより、水素化システム1への新たなメタンの供給がほとんど不要となる。なお、残留物中に存在する水素化反応の副生成物は、調節弁22による残留物の排出により除去可能である。
【0029】
詳細は図示しないが、水素化反応装置2は、熱交換型の固定床多管式反応器からなり、水添触媒(固体触媒)が充填された複数の反応管がシェル内に収容された公知の構成を有している。後に詳述するように、水素化反応は発熱反応であるため、反応温度の上昇による転化率の低下を回避するために、反応熱を適切に除去する必要がある。固定床多管式反応器のシェルには冷却用ジャケットが設けられており、この冷却用ジャケットには熱媒体(オイル、水、蒸気等)が流通する。水素化反応の反応熱により加熱された熱媒体は、熱媒体循環ラインL8を介して冷却装置31に送られ、そこで冷却された後に熱媒体循環ラインL8を介して固定床多管式反応器に循環される。このような水素化反応装置2の冷却機構により、水素化反応の反応温度は適切に調整される。なお、L8から排出される熱媒体に蒸気を用いる場合には、加熱・加湿用蒸気、動力用蒸気として、工業的に利用することも可能である。
【0030】
なお、水素化反応装置2については、本発明による水素化反応を実現可能な限りにおいて、上記構成に限らず他の公知の構成を採用することができる。また、詳細な説明は省略したが、水素化システム1における上述のラインL1〜L7は、図示しない管路、弁及びポンプ等を備えた公知の構成を有している。
【0031】
水素化反応装置2では、以下の化学反応式(1)に基づく水素化反応により水素をトルエン(C)に化学的に付加する。この水素化反応は発熱反応(ΔH298=-205kJ/mol)である。これにより、トルエンは、MCH(C14)に転換される。
【化1】
【0032】
ここで、水素化反応の反応温度は、150℃〜250℃の範囲内にあり、より好ましくは160℃〜220℃の範囲内にある。上述の分離装置3においてMCHと分離された残留物中に存在する副生成物の量(すなわち、水素化反応における発生量)は、水素化反応の反応温度の上昇を抑制することによって抑制することが可能である。水素化反応の反応圧力は、0.1MPaG〜5MPaGの範囲内にあり、より好ましくは0.5MPaG〜3MPaGの範囲内にある。トルエンおよび水素の水素化反応装置2への供給量比(トルエン/水素(モル比))は、化学量論比では1/3となるが、1/2〜1/10とすることが好ましく、より好ましくは1/2.5〜1/5である。特に、1/3〜1/4とすることが好ましい。ここで、トルエンおよび水素の水素化反応装置2への供給量比の下限を最適化することにより、トルエンを十分に反応させることができる一方、供給量比の上限を最適化することにより、水素化システム1に供給される気体の量が過剰とならずに、輸送装置4の動力を低減することができる。なお、トルエンに対する水素の余剰分は、水素化反応の残留物に含有されることになり、トルエンの水素化反応を十分に行うとともに、余剰の水素を次回の水素化反応にリサイクルすることができる。
【0033】
水素化反応における希釈水素(残留物が混合される場合には残留物中の水素およびメタン等を含む)におけるメタンの濃度は、5vol%〜70vol%の範囲内にあり、より好ましくは10vol%以上かつ30vol%未満である。一方、希釈水素における水素の濃度は、メタンによる希釈によって30vol%〜95vol%の範囲内にあり、より好ましくは70vol%よりも大きく且つ90vol%以下である。
【0034】
水素化システム1では、特に、反応物として供給される希釈水素中のメタン濃度を30vol%未満とすることで、水素化反応における急激な温度上昇を抑制するのみならず、水素化反応装置2およびこれに付随する周辺装置を小型化することが可能となり、水素化システムの省エネルギー・省スペース化を実現することができる。一方、水素化システム1では、特に、反応物として供給される希釈水素中のメタン濃度を10vol%以上とすることにより、メタンによる希釈効果を確実に維持しながら、ある程度の循環量を確保して水素化システム1における圧力等の制御を安定的に行うことができる。
【0035】
水素化反応における反応ガスは、水素化システム1の起動直後では、循環される残留物が存在しないため、水素化システム1に新たに供給される希釈水素のみからなる。一方、定常運転時の水素化システム1では、水素供給ラインL2の合流部16において希釈水素に残留物が混合される。残留物はメタンを主成分とするため、希釈用のメタンを残留物(循環ガス)にて補うことができる。
【0036】
このように、水素化システム1では、水素化反応に用いられる水素を希釈する希釈用ガスの少なくとも一部を水素化反応装置2に循環させる構成において、水素の濃度をメタンによる希釈によって調整するため、冷却装置31による冷却にも拘わらず水素化反応における反応温度が過剰に上昇することを抑制しつつ、残留物の循環量を低減することができる。
【0037】
特に、水素の希釈に用いられるメタンは、従来の希釈用ガス(例えば、窒素)に比べて高いモル比熱を有するため、水素化反応装置2における水素化反応における過剰な温度上昇を効果的に抑制することができる。例えば、圧力0.1MPa、温度200℃の条件下において、窒素の定圧比熱Cpが約1.05kJ/(kg・K)、定圧モル比熱が約29.5J/(mol・K)であるのに対し、メタンの定圧比熱Cpは約2.73kJ/(kg・K)、定圧モル比熱は約44.7J/(mol・K)である。また、メタンは、従来の希釈用ガス(例えば、窒素)に比べて高い熱伝導率を有するため、水素化反応の系外への除熱が促進され、その結果、冷却用ジャケットを介した冷却装置31による冷却効果も高まるという利点もある。例えば、温度200℃の条件下において、窒素の熱伝導率が約0.038W/mKであるのに対し、メタンの熱伝導率は窒素よりも大きい値(約0.05W/mK以上)となる。
【0038】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、水素化反応に用いられる水素をメタンのみで希釈する構成としたが、実際上は、少なくとも本発明によるメタンの希釈効果を阻害しない程度の少量であれば、希釈用ガスとしてメタン以外の他の成分(例えば、メタン以外の低級炭化水素)が含まれていてもよい。また、水素化システム1に反応物として供給される水素およびメタンの製造方法や取得方法は特に限定されるものではなく、任意の水素源およびメタン源を採用することができる。メタン源としては、例えば、天然ガス、発酵メタン、メタンハイドレート、シェールガス、都市ガス等を用いることができる。
【0039】
さらに、本発明に用いることができる希釈用ガスとしては、メタンに限らず水素化反応の温度・温度条件下においてモル比熱が窒素よりも大きい(例えば、圧力0.1MPa、温度200℃の条件下において、30J/mol・K以上)の化合物(以下、「希釈用化合物」という。)を用いることができる。希釈用化合物としては、例えば、圧力0.1MPa、温度200℃の条件下において、モル比熱が約35.8J/mol・Kの水蒸気、約76J/mol・Kのエタン、約117J/mol・Kのプロパン、約43.8J/mol・Kの二酸化炭素などが挙げられる。なお、希釈用化合物(混合物を含む)の熱伝導率としては、水素化反応の温度・温度条件下において窒素の熱伝導率よりも高いことが好ましい。また、希釈用化合物として用いる炭化水素としては、炭素数7以下の飽和炭化水素が好ましい。この飽和炭化水素の構造としては、環状および非環状のいずれも用いることができるが、官能基を有しない低活性のものがより好ましい。使用する希釈用化合物は2種以上の混合気体でもよく、上述した気体を適宜混合し、適当なモル比熱及び/又は熱伝導率に調整することができる。
【0040】
水素化反応装置2での水素化に用いられる芳香族化合物は、特にトルエンに限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、キシレン等の単環式芳香族化合物や、ナフタレン、テトラリン、メチルナフタレン等の2環式芳香族化合物や、アントラセン等の3環式芳香族化合物を単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0041】
また、水素化反応装置2の主生成物である水素化芳香族化合物は、上記芳香族化合物を水素化したものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族化合物や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族化合物や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族化合物等の単独、或いは2種以上の混合物となる。有機ハイドライドとしては、貯蔵や輸送の便宜を考慮して、常温、常圧で安定な液体として取り扱うことができるものを選択するとよい。
【0042】
また、水添触媒は、アルミナやシリカを担体とし、活性金属として白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等が担持されたものであるが、これに限らず、芳香族化合物を水素化するために使用される公知の触媒を用いることができる。
【0043】
なお、水素化システム1は、水素の貯蔵・輸送システム(図示せず)の一部を構成するものであり、有機ハイドライドの貯蔵、及びその有機ハイドライドから水素を発生する方法については、有機ケミカルハイドライド法に基づき行われる。
【0044】
有機ケミカルハイドライド法の詳細については、例えば、岡田 佳巳 他, 有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発(Development of dehydrogenation catalyst for organic chemical hydride method), 触媒, 2004, 46(6), p510-512, ISSN 05598958.、岡田 佳巳 他, 有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発と水素エネルギー・チェーン構想(Dehydrogenation catalyst development for organic chemical hydride method and hydrogen energy chain vision), 触媒, 2009, 51(6), p496-498, ISSN 05598958.、岡田 佳巳 他, 水素エネルギーの大量長距離貯蔵輸送技術の確立を目指した有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発, 化学工学, 2010, 74(9), p468-470, ISSN 03759253.、岡田 佳巳 他, 水素貯蔵・輸送における有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発 (新春特集 GSCシンポジウム2005), ファインケミカル, 2006, 35(1), p5-13, ISSN 09136150.を参照することにより、明細書の記載内容を省略する。
【0045】
図2は希釈用ガスによる水素の希釈率と平衡温度または平衡転化率との関係(計算結果)を示すグラフである。ここでは、トルエンの水素化反応において、トルエンおよび水素の水素化反応装置への供給量比(トルエン/水素(モル比))を1/3.5、反応物の温度を150℃、反応圧力を1.1MPaAとした場合の断熱反応での理論計算の結果を示している。水素を希釈するための希釈用ガスとしてはメタンおよび窒素(比較対象)を用いた。グラフの横軸は、原料の水素を100vol%とした場合のメタンの希釈率(vol%)である。
【0046】
図2において、水素化反応における平衡温度は、希釈率の増大(すなわち、反応ガスにおける水素濃度の減少)にともない低下するが、メタンによる希釈の場合には、窒素による希釈の場合に比べて、平衡温度を低下させる効果がより顕著である。これにともない、水素化反応における平衡転化率は、メタンによる希釈の場合には、窒素による希釈の場合に比べて大きくなっている。
【0047】
図3は反応ガス中の希釈用ガスの濃度と反応温度(ピーク値)の抑制効果との関係(実験結果)を示すグラフである。この実験では、熱交換型の流通式管型反応器を用いてトルエンの水素化反応を実施した。また、トルエンおよび水素の水素化反応装置への供給量比(トルエン/水素(モル比))を1/3.5、反応物の温度を150℃、反応圧力を0.45MPaG、液空間速度LHSVを1.1/hとした。水素を希釈するための希釈用ガスとしてメタンおよび窒素(比較対象)を用いた。グラフの横軸は、反応ガス(希釈水素)中の希釈用ガスの濃度(vol%)である。
【0048】
図3において、水素化反応における反応温度ピークと管理上限温度(ここでは、190℃)との差は、希釈用ガスの濃度の増大(すなわち、反応ガスにおける水素濃度の減少)にともないより小さな値となる(すなわち、反応温度ピークが低下する)。特に、希釈用ガスの濃度が10vol%〜30vol%の範囲内において、メタンによる希釈の場合には、窒素による希釈の場合に比べて、反応温度ピークを低下させる効果がより顕著である。例えば、メタンによる希釈では、メタン濃度が約10vol%において反応温度ピークと管理上限温度との差が−12℃となるが、窒素による希釈で同様の効果を得るためには、窒素濃度を約28%まで増大させる必要がある。
【0049】
図4図1中の水素化反応装置に供給される水素を生成する水素生成システム40を示すブロック図である。水素生成システム40は、メタンの水蒸気改質反応により水素および一酸化炭素を含む改質ガスを生成する改質装置41と、改質ガスにおける一酸化炭素を炭酸ガスにシフトすること(シフト反応)により、炭酸ガスおよび水素を含むシフトガスを生成するシフト反応装置42と、改質装置41で生成された一酸化炭素(シフト反応における残留一酸化炭素)からメタネーション反応によりメタンを生成するメタネーション反応装置43と、メタネーション反応の生成ガス中の炭酸ガスを分離する炭酸ガス(CO)分離装置44と有している。水素生成システム40は、上述の水素化システム1の一部を構成することが可能である。
【0050】
改質装置41では、メタンを高温(例えば、500℃〜900℃)中の触媒(例えば、ニッケル系触媒)存在下で水蒸気と反応させることにより改質工程が実施される。水蒸気改質は、主として以下の化学反応式(2)、(3)に基づく。
【化2】
【0051】
更に、シフト反応装置42は、改質装置41で生成された改質ガス中の水素濃度を上げるため、改質ガス中の一酸化炭素を触媒存在下で所定の温度条件に基づき炭酸ガスにシフトする。シフト反応装置42の反応温度は、シフト反応の反応速度及び生成物の組成比を考慮して適宜設定することができる。ここでは、比較的高温(約350〜420℃)でのシフト反応および比較的低温(約200〜300℃)でのシフト反応の2段階に分けて一酸化炭素の濃度を低下させる。シフト反応は、主として以下の化学反応式(4)に基づく。
【化3】
【0052】
上記のような水蒸気改質プロセスとしては、ICI(Imperial Chemical Industries, Ltd.)法やトプソ(Haldor Topsoe)法などの周知の技術を用いることができる。また、改質装置41において、メタンを水素および一酸化炭素を主成分とするガスに転換する方法として部分酸化改質を用いてもよい。部分酸化反応は、主として以下の化学反応式(5)に基づく。
【化4】
【0053】
さらに、改質プロセスとしては、水蒸気改質と共に、主として以下の化学反応式(6)に基づくCO改質を用いることもできる。
【化5】
【0054】
メタネーション反応装置43は、シフト反応装置42によって生成されたシフトガス(水素、一酸化炭素、二酸化炭素)を原料とし、触媒の存在下においてメタネーション反応によってメタンを生成する。メタネーション反応は、主として以下の化学反応式(7)、(8)に基づく。
【化6】
【化7】
【0055】
化学反応式(7)、(8)では、左側から右側に進む方向において、発熱反応であると共に、モル数が減少するため、低温、高圧であるほど右側に進み易くなる。この反応は、平衡反応であり、生成物にはメタン、水素及び炭酸ガスが含まれる。メタネーション反応によって生成された水は、メタン、水素、及び炭酸ガスから分離され、メタネーション反応装置43の外部に排出される。
【0056】
メタネーション反応装置43で生成されたメタンおよび水素は、炭酸ガス分離装置44に供給される。炭酸ガス分離装置44は、水素およびメタンと炭酸ガスとを相互に分離する。ここで分離された水素およびメタンは、上述の水素化システム1における水素化反応において利用される。一方、分離された炭酸ガスは、改質装置41に送られ、そこでのCO改質反応において利用される。
【0057】
炭酸ガス分離装置44では、分離膜として炭酸ガスに対して高い選択的透過性を有するゼオライト膜が用いられる。ゼオライト膜は、アルミナやシリカなどの多孔質の基体に親水性のゼオライト膜を成膜したものである。親水性のゼオライト膜は、約100〜800℃の温度で加熱処理がなされている。なお、炭酸ガス分離装置44に用いられる分離膜は、ゼオライト膜に限らず酸化アルミニウム(アルミナ)膜や酸化ジルコニウム(ジルコニア)膜等の他の無機膜を用いることができる。
【0058】
なお、炭酸ガス分離装置44では、CO透過膜として、上記ゼオライト膜に限らず、他の無機系材料からなる無機膜(セラミック膜等)を用いることができる。無機系材料としては、セラミックが好適であり、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)や酸化ジルコニウム(ジルコニア)等が挙げられる。また、場合によっては、CO透過膜として、有機系材料からなる有機膜(高分子膜等)などを用いてもよい。有機系材料としては、例えば、酢酸セルロース、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0059】
また、炭酸ガス分離装置44による炭酸ガスの分離は、必ずしも膜分離法によらず、化学吸収法(例えば、アミンや炭酸カリ水溶液などのアルカリ性溶液との反応により炭酸ガスを吸収する)や物理吸着法(例えば、ゼオライトなどの吸着剤に炭酸ガスを接触吸着させる)などの他の周知の分離技術を用いてもよい。
【0060】
なお、水素生成システム40は、水素化システム1内に設けることができるが、場合によっては、水素生成システム40を遠隔地に設置し、周知の輸送手段(例えば、船舶、車両、及びパイプライン等)によって生成物(水素およびメタン)を水素化システム1に供給してもよい。また、水素生成システム40で原料として用いられるメタンは、上述のガス排出ラインL7から排出された残留物中のメタンを用いることができる。また、炭酸ガス分離装置44で分離された水素およびメタンを水素化システム1で利用する際に、ガス排出ラインL7から排出された残留物を混合して用いてもよい。
【0061】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。なお、上述の実施形態に示した本発明に係る芳香族化合物の水素化システムおよび水素化方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。また、上述の実施形態に示した複数の装置の機能を有する複合的な装置を用いることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 水素化システム
2 水素化反応装置
3 分離装置
4 輸送装置
22 調節弁
25 水素濃度検出器
31 冷却装置
40 水素生成システム
41 改質装置
42 シフト反応装置
43 メタネーション反応装置
44 炭酸ガス分離装置
L6 残留ガス循環ライン
L7 ガス排出ライン
図1
図2
図3
図4